IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※旧191話と旧192話を統合しますた。



拾壱升:蒼穹のエクスカリバー・聖剣携え、日の酒を呷れ
第191話


 

 

 

警視庁襲撃事件から幾何かの日時が過ぎた頃。

司法当局は煙のように消えた容疑者を発見するには未だ至らなかったが、何も其ればかりに気を取られる訳にはいかない。警察は罪なき善良な市民の日常を守らなければならないのだ。

一方、メディアの方も事件に対する高い関心を示しつつ其の他のニュースを報道し、其れも月日を経るごとに下火になって行った。

 

其れでも尚、事件に対する世間の関心は高く、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。

やれ「事件直後に日本海近郊で目撃された所属国不明の潜水艦に乗船して脱出した」だの。やれ「横須賀の米軍基地を経由して出国した」だの。やれ「まだ都内に潜伏しており、潜伏先は親IS派閥政党の事務所」等と云った根も葉もない噂が囁かれていた。

だが結局、噂は噂である。其れでもファントム・タスク残党狩りが続いている事は明白である。

 

 

 

 

―――◆◆◆―――

 

 

 

早いもので、師走の十二月が差し迫る頃。秋の紅葉も見頃を終え、すっかり冬らしい寒さが一気に日本列島を包んでいた。

 

ところで、十二月で年末年始前のイベントと言えばクリスマスだ。

世間を見渡せば、クリスマス商戦の為の準備に皆が追われ、街頭にはクリスマスツリーの用意が行われている。

勿論、御祭事に目がないIS学園生徒達も色めき出し、生徒会主導で学園内でのクリスマスパーティーが企画される程だ。まるで事件の鬱屈した空気を払拭する様に。

 

さて・・・そんな色んな意味で賑わいを見せる中で、先の事件の功労者たるアルコール依存症激情型鬱病の大蟒蛇はと云うと―――――

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

「あぁ・・・畜生め。なして君はそねーに可愛えんじゃ、ラウラちゃん?」

は・・・はるきぃッ・・・はるきぃいいッ・・・・・ひィぁあ”あ”♥♥

 

薄明かりの部屋を包み込むのは、誤魔化せぬ程に強い酒精の薫りとむせ返りそうになる何とも独特な生臭さ。

其の発生源を辿れば、ベッドの中で情欲に吞まれて獣と成り果てた一組の年若い男女が血眼となってお互いを貪っていた。

 

「ラウラちゃん・・・ラウラちゃん・・・ッ!!」

 

少年は金色に輝く血走った両瞳で少女を愛おしそうに見つめつつ、矮躯ながらも引き締まった彼女の身体へ何度も何度も自分の身体を撃ち付ける。

 

春樹ッ、もっと・・・もっとぉ♥♥ おぉおおおおおッ♥♥♥

 

一方、少女は少年に撃ち付けられる度に甘い甘い艶やかな喘ぎを呟きながら彼の背中や腰へしなやかな手足を巻き付ける。

 

そんな肉が擦れ、水音が鳴り、くぐもった声の応酬が何時間も絶え間なく続く。

途中、其の合間合い間に少年と少女は絶頂へ達した短い叫びを上げるが、其の度に二人は深い深い口付けを交わして尚も躰を絡ませた。

其の御蔭が、女の下腹部はポッコリと歪に膨れ上がり、男が吐き出した欲望が太腿を伝う。

 

はるきッ・・・はるき♥♥ しゅき、だいしゅきィい♥♥♥

「俺も、俺もじゃッ・・・! 俺も大好きじゃで、ラウラちゃん・・・!!」

 

愛を確かめる様に語る言葉と共に気分が高ぶってしまったのか、少年はガブリッと少女の肌へ歯を突き立てる。

すると今や長く伸びてしまった八重歯が彼女の白い柔肌へと喰い込んでタラーリと真っ赤な血が滴り、しわくちゃと成り果てた白いシーツに滲みを付けた。

 

うッ・・・うれひぃ♥ もっとッ、もっと噛んで♥♥ もっと私に傷をつけてくれ♥♥

「ッ、じゃったら容赦せんけんな! 覚悟せぇよ!! オラッ、出すぞ!!」

ひっ・・・ぎぃいああ”あ”あ”あ”あああ”あ”ッ♥♥ いッ、いグっう♥♥♥ いくぅううううう♥♥♥

 

少年は前から後ろからと次々態勢を変化させながら尚一層強く突き上げつつ、少女の至る所へ跡を付ける。

其の行為は、まるでマーキングの様だ。「お前は俺のモノだ!」と云わんばかりに彼は少女の胎の中へ自分の遺伝子を注ぎ込む。

 

はひっ・・・あひぃ♥♥ お、おにゃか・・・お腹がはれ、はれつしてしまいそうだ・・・♥♥

「阿? じゃったらちょっと趣向を変えてみる?」

「へ・・・え? ッ、ちょ・・・ちょっと待て春樹! そこは違うあ――――――オほぉッお”お”お”お♥♥♥

「あぁッ、もう・・・! こっちのラウラちゃんもキツキツで最高・・・!」

 

白目を剥いてよがる少女に気を良くしたのか。少年は更に更に強い力を以て彼女へ齧り付く。

しかし、どんなに体力が有り余っていようとも終わりは必ずやって来るものだ。

 

「はぁー・・・ハァー・・・はぁー・・・ッ、おえッ!・・・やべぇ、世界がモノクロに見えて来たでよ」

 

ぐッひぅ♥・・・わ、私も・・・ちょっとツラ・・・ひぎッ♥♥

 

「あら? ラウラちゃん・・・もしかして余韻でイッちゃった? まぁ、こねーになるまで出してしもうたけんなぁ」

 

「あッ、バカモノ! 急にお腹をつっつ・・・くひぃい”い♥♥♥

 

ドロリと溢れ出る愛しい人の遺伝子情報と共に少女は白目を剥いて躰を痙攣させた。

 

「あ・・・悪ぃ。大丈夫?」

 

あ”ッ・・・ひぅ・・・♥♥♥ だ、だい・・・だいひょうぶ、だぁ!」

 

「・・・・・大丈夫じゃなさそうじゃけど?」

 

「にゃ、にゃめるなよ・・・! これしきの事で、へこたれる・・・私では、にゃい!」

 

「口が廻っとらんのんじゃけど?」

 

「可愛えなぁ」と春樹はラウラを抱き寄せる。

此れがお気に召したのか、其れとも恥ずかしかったのか、ラウラは春樹の胸板へグリグリと美しい自前の銀髪を押し付けた。

そんな可愛くて愛おしい恋人に春樹は何度も何度も唇を落とす。

 

「・・・なぁ、ラウラちゃん? 今度の休み、どっか行かんか? 横浜で、文豪ストレイドッグスの聖地巡りとかさ」

 

「ん? みんなでか?」

 

「いんや、二人っきりで」

 

「ッ・・・そ、それは・・・・・私をデートに誘っているという事か?」

 

春樹の言葉に対し、ラウラは爛々とした目で彼を覗き込む。

 

「じゃー、じゃー。よー考えたら、何か今まで恋人らしい事とかやっとらんかったろ? 京都で其れらしい事やろう思うたら散々に邪魔されたしな」

 

「そうだな・・・・・春樹?」

 

「ん?」

 

「私は、とっても嬉しいぞ。ありがとう、春樹」

 

「ラウラちゃん・・・!」

 

満面の笑みを浮かべる彼女に春樹はグッと来てしまい、思わずギュッと抱き締める力が強くなってしまう。

 

「こ、こら! 苦しいぞ、春樹!!」

 

「御免、御免。あんまりにもラウラちゃんが可愛えけん、ついな」

 

「まったく。・・・あッ、そういえば!」

 

「どしたんなん?」

 

「春樹・・・お前、期末テストは大丈夫なのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・畜生ッ」

 

 

 

―――――◆◆◆―――――

 

 

 

「ヤベェよ、ヤベェよ、すっかり忘れとった・・・!」

 

色々と欲望に忠実な我らが刃殿。放課後からIS学園生徒会室で教科書やら参考書やら何やらかんやら広げてノートにカリカリ勉強中。

そんな彼に生徒会役員である布仏 虚は、味の濃い紅茶を差し淹れる。勿論、耳打ちで「ウィスキーを入れてはいけませんよ?」と念を押して。

 

「プククッ、春樹くん・・・君って、ちょっとおまぬけさんね♪」

 

目の下にクマを付けて勉学に励む春樹を茶請けに愉快そうな笑みを溢すは、生徒会室の長たる生徒会長の更識 楯無。其の彼女に向けて春樹は「うるせぇやい!」とバツが悪そうに眉間に皺を寄せた。

 

「・・・お姉ちゃん、あんまりからかうと・・・あとがこわいよ?」

 

「「倍返しだー!」ってやつだ~」

 

愉快そうに嘲笑う楯無を妹の簪と虚の妹である本音が注意するが、当の本人はどこ吹く風。広げた扇子で口元を隠し、大きく何度も両肩を震わせる。

 

そんないつもの放課後の面々だが、先の事件で情緒不安定となって自室へ引きこもっている世界初の男性IS適正者たる織斑 一夏の代わりにある人物が、春樹の真向かいのソファへぎこちなく鎮座していた。

 

「あ、あの・・・大変そうでしたら、また日を改めても私は大丈夫ですよ」

 

鴉の濡れ羽色の美しい黒髪ロングを有している御淑やかな和風美少女。

彼女は、剣道部所属にしてIS学園独立自警組織ワルキューレ部隊は一番隊隊長の四十院 神楽である。

 

「いんや、大丈夫。もうすぐ区切りがつくけんな。御免けど、もうちょっと待ちょーて」

 

「は、はい」

 

「ごめんなさいね、四十院さん。春樹くんがちょっとウッカリさんで。まさか、自分から呼んでおいて待たせるなんて・・・フフ♪」

 

「ッチ・・・喧しいなぁ!」

 

苦々しい表情でブウを垂れる春樹と悪戯っ子の様に微笑む楯無。そんな二人の遣り取りに四十院は思わず興味深そうな表情になる。何故なら、一年生の間では楯無はミステリアスで大人びた印象で通っているのだ。

そんな彼女が春樹の前でケラケラと年相応な笑顔でいる事に四十院は何処か微笑ましそうに出された紅茶へ口を付けた。

其れから十数分後。漸く春樹はノートから手を放す事に成功する。

 

「やっと終わった・・・御免な四十院さん、待たしてしもうて」

 

「別に構いません。総隊長からの呼び出しとあらばいつでも」

 

「呼んどいて悪いが、カタいでよ。上司と部下じゃのーて、主君と臣下的な感じがするでよ」

 

「やだ・・・春樹くんってば、不埒だわ」

 

「・・・・・此のバ会長は、放って置いて本題を話すでよ。四十院さんよ、提案なんじゃけど、うちの・・・IS統合対策部の専属パイロット生にならん?」

 

「・・・へ?」

 

突拍子もない春樹からの提案に四十院はギョッとし、周りからは「おー!」と感心の声が上がった。

 

「で、ですが・・・IS統合対策部には、総隊長と更識(簪)さんがもう居るではないですか」

 

「正確に言うと次世代量産型ISのテストパイロットになって欲しいのよ。俺と簪さんは設計開発に携わるけぇ、第三者の目線でのテストパイロットが欲しいって訳じゃ。そん中で四十院さんが適任じゃー思うてな。とっても優秀じゃし」

 

「どうじゃろうか?」と云う春樹からの疑問符に四十院は若干照れ臭そうな表情をしつつ肯定の返事をする。

 

「ッ、はい! 不肖ながらこの四十院 神楽、テストパイロットの務めを果たさせていただきます!」

 

「じゃけぇカタいってば! 其れに総隊長呼びじゃのーてエエよ」

 

「阿破破破!/あははは♪」と奇天烈な笑い声と弾む様な笑い声が生徒会室へ響いたのであった。

 

「そう言えば、総隊長・・・いえ、”春樹”さん」

 

「阿? 何ならね?」

 

「クマが酷いようですが、それは機体設計開発のせいでですか?」

 

「い、いや・・・・・こりゃあテスト勉強でじゃ」

 

「そうなんですか、勤勉なんですね。流石はワルキューレ部隊の総隊長です!」

「ぐッ!?」「ぷっふ!!」

 

あっけらかんとした四十院の感想に春樹は苦虫を嚙み潰した様な表情を晒し、楯無は思わず吹き出してしまう。

 

「そうよ、春樹くんってとーっても勤勉なの! だから、今度の期末テストは大丈夫だもんね!」

 

「楯無、テンメェ・・・!!」

 

「あら・・・・・私、何かマズい事を?」

 

何を隠そう我らが刃たる清瀬 春樹は、戦場で数多の武功を挙げれども学生の本分である勉学の方はサッパリ。

先に行われた中間テストでは赤点こそとりはしなかったものの、赤点になるかならんかのギリギリだった為に山田教諭から注意を受けていたのだ。

此れでは不味い。今回の期末テストで赤点を一つでもとろうものなら、休日が補修でつぶれてしまう。

 

一応、面倒事や厄介事に多く巻き込まれている春樹だからこそ、テストの免除を学園長に相談する手もあった。

そして、春樹は其れを実行したのだが、学園長たる轡木は其の代わりにある事を彼に提案したのである。

 

「清瀬君、テストの免除をする条件として・・・現在地下室へ幽閉しているファントム・タスク構成員、コードネーム『M』・・・もとい、『織斑 マドカ』の尋問をしてもらいたいのです」

 

無論、あの”血族”との関わる事など春樹はノーセンキューなので、キッパリと「・・・此の話はなかった事に」と丁重に断ってしまったのである。

 

「春樹くん、テスト頑張らないと・・・補修になっちゃうわよ~?」

 

「うぅわッ、ウゼェ。じゃけど、ホントの事じゃしなぁ・・・」

 

「大丈夫よ、春樹くん。頑張ったらお姉さんが、クリスマス会でとっても良いご褒美あげるから♥」

 

「いや、別にエエでよ」

 

「もうッ、照れちゃって可愛いんだから」

 

「いや、別に照れてねぇ。赤点回避したらラウラちゃんとデート行くけぇよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・えッ?」

 

春樹の発言が寝耳に水だったのか。楯無は鳩が豆鉄砲を食った様にポカーンとし、彼女の表情に簪や本音は「あッ・・・」と声を漏らし、虚は「はぁ~~~ッ・・・」と溜息をし、四十院は「やりましたね!」と表情をほころばせた。

 

「あ、えと・・・春樹くん、それはみんなでって事?」

 

「いんや、二人っきりに決まっとろーがな。ちゃんと外泊届も出しとくけぇな。頑張らんとなぁ」

 

「よし!」と張り切る春樹に対し、先程まで楽しそうな表情をしていた筈の楯無の顔は一気に暗くなってしまい、ついにはワナワナと身体を震わせて来たではないか。

 

「ッ、ちょ、ちょっと春樹くん! 不順異性交遊よ!!」

 

「失礼な。”純愛”異性交遊じゃ」

 

「だ、だからって!!」

 

『問答無用』と描かれた扇子を拡げると共に立ち上がった楯無。

・・・しかし。

 

清瀬ぇえええええ―――ッ!!

 

其れと同時に生徒会室の扉が怒号と共に開け放たれる。

すると其処には、怒髪冠を衝く侍娘が木刀を掲げて仁王立ちしていたのであった。

 

「うわお・・・面倒事じゃがん」

 

 

 

――――――――――◆◆◆◆◆―――――

 

 

 

「ちッ・・・ち、違ぅ・・・・・! お、俺じゃ・・・俺じゃ、ない・・・!!」

 

鋼鉄の如く固く閉じられたカーテンから木漏れ日が滲む薄暗い部屋の中。其の室内の隅に冬山の遭難者の如くガタガタガタガタと身体を震わせてうずくまっているのは、世界初の男性IS適正者である『織斑 一夏』だ。

 

普段の彼ならば、姉譲りの端正な顔立ちから明るい表情を絶やさぬだろう。・・・しかし、今現在の一夏はどうだろうか?

最早涙も枯れ果てたであろう腫れ上がった眼元からは見えるのは、酷く荒んだ虚ろな目が垣間見え、時折りに口元はガチガチガチガチと歯の軋む音が鳴る。

 

先の京都で行われた国際過激派テロリスト、ファントム・タスク討伐作戦。

其の事件においてIS学園専用機所有者一行は、新型EOSを装備した警察官部隊と共に制圧戦に参加した。

だが、其の作戦中、専用機『白式』を駆る一夏がファントム・タスク構成員との戦闘中に暴走し、あろう事か味方陣営である専用機所有者並びにEOS隊員へ攻撃を行ったのである。

其のせいで白式の単一能力使用による重傷者を出し、一時は戦線崩壊寸前と云う危機的状況に陥ってしまう。

 

此れに警察側が憤慨しない訳がなかった。

事件後、警察による厳しい事情聴取が行われたのだが、其の際に行われた精神鑑定に暴走時の心身消失が認められてしまい、其れ以上の追及をされる事はなかったのだが・・・・・

 

「ッ・・・い、痛ぇ・・・!! う、腕が・・・右腕がぁあ・・・ッ!!」

 

今何よりも一夏の心を蝕んでいるのは、薄っすらと繋ぎ目の見える右腕から襲い掛かる”幻肢痛(ファントム・ペイン)”と勝手に脳内へリピート再生されるあの恐ろしい―――――

 

ガルルぁあア”ァあ”あ”ッ!!

「ひっ・・・ッ、ひぃあァアああ!!?」

 

―――――時折り思い出したかの様に瞼の裏へ映り込むのは、血濡れた様な刃を抜いて自分へ勢い良く迫り込んで来る金眼四ツ目の”化物”。そして、鼓膜を震わせる聞くに堪えぬ断末魔。

痛いッ、痛いぃい!!」と。

助けてくれぇええ!!」と。

熱いぃいいいいい!!」と。

 

「ち、ちち、違う・・・! 違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウ違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウ違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウちがうちがう違う違う違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウ違う違うちがうちがうちがうチガウ違うちがうチガウチガウちがうちがう違う!! 違うんだぁあああああッ!!」

 

一夏はガリガリガリガリ頭を抱えて掻き毟りながら狂った様に一心不乱に懸命に叫ぶ。「俺のせいじゃ・・・ッ、俺のせいじゃない!!」と。

祈る様に。

願う様に。

許しを請う様に。

 

・・・・・けれども、其の言い訳に幻聴が応える。

「お前のせいだ」と。

 

「ッ、うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「ッ、ちょっと!? 何やってんのよ、あんた?!!」

「一夏!? 一夏やめろ!!」

 

幻聴に堪えられなくなったのか、ガンガンガンガンと一夏は自分の頭を壁へ何度も何度も打ち付ける。

此の異常事態を感じ取り、部屋の外で様子を伺っていた幼馴染にして専用機所有者である『篠ノ之 箒』と『凰 鈴音』が部屋の扉を力技で突破し、二人がかりで彼を止め様とした。

 

「ッ、やめろ! はなせぇえええええッ!!」

「きゃぁあッ!?」

 

だが、そんな献身的な二人に対して一夏は浜にうち上げられた魚の様な澱んだ目を三角にキッとさせて乱暴に振り払う。

其の際に彼の手が鈴の頬を叩く形となってしまった。

 

「鈴?! 一夏ッ、貴様!」

「うわぁああああ・・・うわぁああああああ・・・・・ぁああッ・・・!!」

 

箒はグイッと一夏の胸倉を掴む。すると彼は声を上げて泣き出してしまう。まるで叱られて泣き散らす童の様に。

そんな余りにも不様を晒す一夏に箒はギリッと奥歯を軋ませた。

 

「一夏・・・ッ! 貴様、なにをいつまでも女々しく泣いている?! 泣くな! 男なら泣くんじゃない!!」

 

「箒、もうやめて・・・! 私は、私は大丈夫だから・・・ッ!」

 

一夏の胸倉を掴む箒の手を鈴は抑え込むと宥める様に彼女は一夏を抱き留める。「大丈夫、大丈夫だからね・・・!」と母親が癇癪を起す子供をなだめる様に。

其れでも彼は「ぎゃぁああん!」と幼子の様にへたり込んで喚いた。

 

「・・・どうして・・・・・どうして、なんで!? なんで、こんな事に・・・?!!」

 

目の前で跪く変わり果てた想い人の姿に箒は表情を酷く歪ませる。そして、一体何があってあの一夏がこんな有様になってしまったのだろうかと彼女は考えた。

 

頼れる大人である筈の千冬は此処にはいない。

何故なら一夏に此れ以上の警察の追及が及ばない様に彼等との司法取引を飲んで此処に居られないからだ。

其れは何故か?

 

「・・・・・・・・やはり・・・やはりッ、”アイツ”か!」

 

箒は一生懸命に一生懸命に一生懸命に一生懸命に考えた。其の考えた結果・・・彼女はもっとも”安易”な責任転嫁の矛先を思いついたのである。

さて、後はいつもの如く猪の様に目標に向かって走り抜けるだけだ。

 

 

 

―――――◆◆◆―――――

 

 

 

清瀬ぇえええええ―――ッ!!

 

バン!と生徒会室の扉を開け放って現れた箒に対し、春樹は惜しげもなく「げぇ・・・ッ、やっぱ来たな」と眉をひそめる。

そんな口をへの字にひん曲げる彼へ向けて箒は私用の木刀を振り上げて勢い良く差し迫った。

 

「―――――ちょっと待ちなさい!」

「なッ・・・!?」

 

しかし、鬼気とした表情の箒の前へ机を飛び越えて立ち塞がったのは、意外にも此の部屋の主たる楯無である。

 

「ッ、楯無さん・・・そこを退いて下さい!」

 

「ううん。ダメよ、箒ちゃん。生徒会を置くこの部屋で荒事は御断りなの。イイ子だから退がりなさい」

 

彼女は箒へ向けて閉じた扇子の先端を向けた。

しかし、どうして楯無は春樹と箒の間に若干焦った様子で割って入ったのか? やはり、目の前で想い人が傷付くのが見たくなかったからであろうか?

・・・・・否である。

 

「だから春樹くん・・・ソレをしまってくれるとお姉さんうれしいなぁー、ってね?」

 

「・・・ッチ」

 

箒の前へ立つ楯無の背後には、すでに撃鉄を引き起こした回転拳銃を構えた春樹が舌打ちを鳴らす。

春樹は正当防衛にかこつけて彼女を撃つ気満々であった。例え、相手がクラスメイトの女子であろうと此の男は一切の容赦はおろか躊躇もなかった。

敵は再起不能にする事が絶対であったのだ。

 

「私は、そのバカに用があるんです! その男のせいで一夏は・・・みんなが迷惑を被っているんです!! 私がそのバカを成敗しなくては!!」

 

「・・・は?」

 

其れでも食い下がる箒だったが、彼女の発言が癪に障ったのか。眉間へしわを寄せて不機嫌な声色を発した者がいた。

 

「・・・ちょっと篠ノ之さん、それ・・・どういう意味? 春樹が、迷惑・・・? ちょっと何言ってるのか、わからないんだけど?」

 

「なんだ簪? またお前は、あの男の肩を持つのか? いつもいつもご苦労な事だ!」

 

「そういう篠ノ之さんは、また・・・あの鈍感屑の唐変木のお世話? そう言えば・・・今は廃人同然何だっけ?・・・・・どっちが迷惑かけてんだか」

 

「ッ、何だと貴様! 一夏は、そこのボンクラのせいで―――――」

「自業自得・・・って言葉知ってる? あれのせいで・・・一体どれほどの人達が迷惑をしたと思ってるの?」

 

「簪ッ、貴様ぁアア!!」

 

煽り耐性の低い箒は簪の言葉に激昂し、今度は彼女に向けて木刀を振るおうと差し向ける。

けれども、其のヒステリックで暴力的な性格を此の状況下で晒すのは頂けなかった。

 

「―――――箒ちゃん・・・何をしているのかしら?」

「ッ!?」

 

箒の頸動脈へ突き付けられる扇子の先端と随分と低い冷淡な声色。

其れでも笑顔を保ってはいるものの、早い話が「何やってんだテメェ? ぶっ殺すぞ!」と言っている様なものである事は明白であったのだ。

そんな明確な殺意に冷や汗を出す箒へ助け舟を出すのもまた意外な人物であった。

 

「おい、落ち着きんさい。相変わらず簪さんが絡むと見境ねぇのな」

 

「ッ、春樹くん・・・」

「清瀬・・・!!」

 

春樹が溜息交じりに殺気を放つ楯無の頭へ軽くチョップした事で、其れ以上の状況悪化を招く事はなかった。

だが、箒の怒りは収まる事はない。其れ処か、助けられた事が逆に癪に障った様で、益々彼女は春樹への視線を強める。

 

「も~、面倒じゃなぁ・・・! オメェ、どーしたいんなら?」

 

「私と闘え! 決闘だ!! そして、貴様を一夏の前で土下座させてやるッ!!」

 

「フンッ!」と胸を張る箒に対し、簪は心の内で「・・・自分が勝つ前提で言うんだ」と呟いた。

一方、指を指されて宣戦布告の決闘を申し込まれた春樹は「え~~~??」と渋い表情を隠すことなく晒したのである。

 

「面倒じゃなぁ。本当にオメェは面倒な女じゃなぁ、おい! 俺、戦うのいやなんじゃけど?」

 

「フンッ、なんだ? 怖気づいたか?」

 

渋い表情の春樹に対し、箒は鼻で笑いつつ冷ややかな視線を彼へ送る。しかし、周囲は其の彼女の態度があまりにも滑稽に映った。

そんな滑稽な態度をとる箒に春樹は呆れながらも困ってしまう。下手に追い返してしまえば後々に禍根を残す事は確実。面倒な事この上ない。

 

「・・・・・阿ッ」

「・・・え?」

 

調度其の時、春樹はふと蚊帳の外となっていた四十院へ目が留まる。そして、あの奇天烈な「阿破破ノ破!」と謂う笑い声を漏らす。・・・ろくでもない考えを巡らせた表情で。

 

「―――――よし、エエじゃろう。篠ノ之さんよ、戦ってやろうじゃねぇか!」

 

渋い顔から一転してしたり顔の春樹に皆は「・・・え?」と眉をひそめてしまう。かく言う箒も「な、なにッ?」と表情を崩す。

けれども其処は賢い蟒蛇である。ニコニコな笑顔を浮かべつつ春樹は大人しく座っている四十院の両肩へ手を置いた。

 

「―――――此の四十院 神楽に勝てたらな!!」

 

「・・・へ?」

「え・・・・・・えッ?」

「えぇええええええ!?」

 

彼の行動に周囲は勿論、当の本人である四十院も大きく動揺する。

 

「ちょ、ちょっと総隊長!?」

「春樹・・・いくら面倒臭いからって、それはちょっと」

「まるなげだぁ~」

 

突然の春樹の提案に周囲の反応もまちまちである。

其れも其の筈。IS統合対策部のテストパイロットに先行されたとは言いつつも、四十院は箒と違って専用機を所有していない。つまり其れは、四十院は訓練機で挑むという事だ。

 

「フッ・・・考えたな清瀬。先に四十院を戦わせて私のスタミナを奪ったうえで戦おうなどとはな・・・浅はかな策略家崩れの貴様らしい考えだ!」

 

此れには勝負を持ち掛けた箒も困惑してしまうが、すぐに気を取り直して口を開いた。

しかし、煽り文句は春樹の方が上である。

 

「・・・・・阿破破破ッ!」

 

「ッ、なにがおかしい?」

 

「いやいや・・・オメェ、何を自分が勝つ前提で話してんの? まさか、自分の方が強いと思ってる訳? 大丈夫、大丈夫。じゃって、オメェさん・・・・・弱いもぉん」

 

「き、貴様ぁあ・・・ッ!!」

 

プチッ・・・と、箒は頭の中で何かが切れる感覚が手に取る様に理解できた。

其の内から湧き上がって来る怒りは、一周回って彼女を冷静にさせる。

 

「・・・・・・・・いいだろう、貴様に吠え面をかかせてやる!! 今すぐにアリーナで戦うぞ!!」

 

顔を真っ赤に血走った眼を三角にし、箒はISを部分展開した腕でアリーナの方を指さしたのであった。

 

 

 

 

 

―――――◆◆◆◆◆―――――

 

 

 

「春樹・・・これはどういう事だ?」

 

俺を見て呆れた顔をするのは、愛しい愛おしい俺の銀の黒兎ちゃんこと、ラウラちゃん。

溜息と共に首を振るから昨日の夜、もっと言えば明け方間近に俺が付けた噛み跡がちらりと見える。

うーん・・・実に悩ましい。成程、オッサン共が言うチラリズムとは実にこうもエロいのか。

 

・・・・・さて、現実逃避は此処までとしょう。

茶道部の用事から帰って来たラウラちゃんにカクカクシカジカ、丸々うまうまと俺は事情を説明する。

するとラウラちゃんはまた大きな溜息を吐く。

 

「どうして・・・どうして、私がちょっと目を離した隙にお前はこうも面倒事に巻き込まれるのだ?」

 

「其れは俺が聞きてんじゃけどぉ??」

 

「まったく・・・しかし、不思議だな。春樹、お前ならあの程度、軽くあしらえた筈だ。一体どういう風の吹きまわしだ?」

 

「阿破破破! 何、ちぃとばっかし試しとうなったんじゃ。俺らぁが育てた”兵”がどれぐらい使い物になるんのかがなぁ」

 

クルル曹長みてぇに俺がくつくつ笑えば、「うっわ~」「・・・篠ノ之さんが気の毒」「さすが春樹くん。外道だわ」との声が聞こえる。

 

「って、誰が外道じゃ?!」

 

「でも春樹・・・四十院さん、大丈夫なの?」

 

「そうだよ~。しののんは専用機で第四世代機なのに・・・かぐらんは、訓練機の第二世代機なんだよ~?」

 

「それに彼女の使う機体は、打鉄じゃなくてラファールよ。私の記憶が正しければ、四十院さんは剣道が得意じゃなかったかしら? 格闘戦に持ち込むなら打鉄の方がいいんじゃないの?」

 

おっ、ニセ峰不二子のくせに鋭いじゃねぇか楯無閣下殿。

確かに仰る通り、此れから篠ノ之に挑む四十院さんの使う機体は、第二世代型訓練機の射撃機構に特化したラファール・リヴァイヴじゃ。しかも打鉄に比べて装甲が薄い。装甲が薄いって事ぁ防御力が高くない云う事じゃ。

ただでさえレシプロ機とジェット機ぐらいの性能差があるのに不利じゃねぇかテメェ此の野郎!・・・って、普通なら俺も言う。誰だって言うじゃろうな。

 

「じゃけども、さてさて・・・どう転ぶかが問題じゃ」

 

 

 

―――――◆◆◆◆◆―――――

 

 

 

アリーナの中央へ対になる形で佇む二つの人蔭。

一人は真っ赤な装甲版が特徴的なISを身に纏った武士娘。名を篠ノ之 箒と言ふ。

彼女はギリギリ歯噛みをしつつアリーナ管制塔で此方を観ているであろう仇敵へ睨み眼を向けていた。

 

「あの・・・篠ノ之さん? どちらをご覧になっているので?」

「む・・・」

 

そんな不機嫌MAXの箒へ疑問符を投げ掛けるのは、生徒会室に呼ばれたばかりに彼女とISバトルをする羽目になってしまった剣道部所属兼IS学園独立防衛組織ワルキューレ部隊一番隊隊長の四十院 神楽である。

 

「・・・すまない四十院。お前に恨みはないが・・・あのバカをコテンパンにする為、早々に終わらせるぞ」

 

あまりに気分が高揚している為なのか、箒は無意識の内に煽り文句を言い放ってしまう。

其れに思わずムッと四十院はしてしまうが、冷静に考えてみれば箒が其の様な発言をしてしまうのも無理はない。

何故ならば、箒が纏っているISは専用機でしかもISを発明した篠ノ之 束が手ずから製作した第四世代機。其れに比べ、四十院が纏うのは訓練機にして第二世代機のラファール・リヴァイヴなのである。

いくら第二世代最後期の機体で、其のスペックは第3世代型初期に劣らない操縦しやすく汎用性が高いと言っても大きく開いた世代差は否めないのだ。

更に言えば、ラファール・リヴァイヴは何方かと言えば格闘よりも射撃機構を得意としており、同じ第二世代機である打鉄に比べて装甲が薄い。

そんな自身の戦闘スタイルに合わぬ旧型で新型に挑むなど無謀にも程があるのだが、四十院はアリーナへ入場する前に春樹から言われた事を思い出す。

 

《大丈夫、大丈夫。四十院さんよ、君は自分が思ってるより、ずっと強いんじゃで?》

 

一体何を証拠にそんな事を言うのか。

当初、四十院は彼の言葉がとても身勝手に聞こえた。相手は、中学の全国剣道大会で覇者であり、あの篠ノ之 束博士から最新型のISを与えられた猛者なのである。其の様な人間に果たして勝つ事が出来ようか?

 

《何を言うとるんじゃ。勿論じゃとも》

 

そんな疑問符を一喝するかの如き太鼓判をあの大蟒蛇は奇天烈な笑い声と共に押したのである。

何の根拠もない説得である。されどもあの奇天烈な笑い声を上げる大蟒蛇が何の根拠もない肯定文を述べるであろうか。答えは否だ。

 

「スゥー・・・はぁ~・・・・・ッ」

 

ネイビーカラーのラファール・リヴァイヴを身に纏い息を整えた四十院は近接格闘武器である日本刀型ブレード葵を顕現させ、一礼した後に其れを鞘から引き抜いて正眼の構えをとる。

一方、箒の方も専用機たる紅椿の主力武装である刀剣型武器を顕現させたのだが、思わず四十院は怪訝な表情をした。

 

「篠ノ之さん・・・確か、あなたは二刀流の筈では?」

 

本来、紅椿の主要武器は、『雨月』と『空裂』なる二振りの太刀である。だが、箒が四十院へ差し向けたのは、空裂の一振りのみだ。

何か策があって一振りのみの顕現をしたのであろうか?。

 

「ん? 何を言っている?」

 

「え・・・?」

 

「さっきも言ったように四十院、お前に恨みはないんだ。全力でやる訳にはいかないだろう?」

 

否、否である。

箒は、”手加減”のつもりで、”ハンディキャップ”のつもりで一振りの刀しか顕現させなかったのだ。しかも構えは上段の構えだ。

其れは第四世代専用機を駆る箒にとっては掌のつもりなのであろう。されども、四十院からしてみれば、自分を格下だと思っている侮辱の何物でもなかった。

 

「ッ・・・・・ないで、ください・・・」

 

「・・・なんだと?」

 

「舐めないでくださいッ、と言ったんです!!」

 

四十院 神楽と云う人物は御家が旧華族と謂う事もあり、闘争心と言うモノを抑え込む性格であった。

しかし、ワルキューレ部隊への入隊を機に其の御淑やかな性分に変化が訪れたのである。

部隊の総隊長が、鬼神の如き大蟒蛇。部隊の教官が、独軍所属の兎みたいに可愛い顔した鬼教官。部隊同期には、各国の個性豊かな専用機所有者。

そんな変人共の巣窟に居て変わらぬ訳がないのだ。

 

「ムカつきました! 腹がたちました! もう絶対に何が何でもやってやります!!」

 

「お、おい四十院?」

 

闘争心に火が着いた四十院は正眼の構えから一転し、八双の構えをとった。

其れと同時に試合開始を告げるけたたましいブザー音がビィイイ―――――ッ!と鳴り響く。

 

「セヤァアアアアアアアアアア―――――ッ!!」

「なッ!?」

 

鳴り響くブザー音と同時に四十院は猿叫の様に腹の底から大声を出しながら一気に前へと突出する。

此れに箒は驚いた。何故なら四十院はIS運用における加速機動技術の一つである瞬時加速で自分に迫って来たからだ。

此の瞬時加速。軌道が直線のみと単純なためタイミングを読まれると回避されやすい欠点を有しているが、強襲や急襲に此れ程に適したものも中々にないのである。

 

ガギーン!

「くぅッ!?」

 

思いもよらぬ瞬時加速で一気に距離を詰められると共に振り下ろされた近接ブレード”葵”を空裂で受け止める箒。しかし、其の予想を超える斬撃力によって彼女は得物共々弾かれて後退させられてしまう。

 

「逃がしません!!」

「ッ!!」

 

間隙を発生させまいと再び瞬時加速を行い、今度は其の刃の切先で喉元を突き刺さんと迫る。

此れを箒は何とか寸での所で回避する事に成功したが、四十院は更に袈裟斬り→斬り上げ→水平斬り→逆袈裟斬りのコンボ攻撃を展開していく。

 

「(な、なんだ?! どうしてこんなにも速い?! それにこの重みは一体・・・ッ!!)」

 

予想を大きく上回る素早さと重い打撃力に弾いた刀の合間を縫って斬撃が紅椿の赤い装甲版へ傷を付ける。

此の第二世代機の四十院が第四世代機の箒に善戦している事に対してアリーナ管制塔に居た見物人達は「え!?」と目を丸くしたが、唯一人、あの大酒飲みの蟒蛇だけは「阿破破ノ破!」と奇妙な微笑を浮かべたのだ。

 

同じ第二世代機と言っても打鉄とラファール・リヴァイヴでは機動力に大きな差がある。

打鉄は格闘を戦闘スタイルの主軸としている為に少々の攻撃でも動じない防御力を持っているのだが、其れは裏を返せば機動力を犠牲にして装甲を厚くしていると云う事だ。

一方、ラファール・リヴァイヴは何方かと言えば射撃を主軸とした戦闘スタイルで、其の為にスペックは機動力を優先としている。

蟒蛇こと春樹は此れに着目した。

 

四十院が駆るラファール・リヴァイヴは従来の機体よりも更に装甲を外して薄くしており、言ってしまえばスペックを第四世代機に負けぬくらいの機動力に極振りしている機体なのだ。其れ故に真面な攻撃を一発でも喰らってしまえば、戦闘不能になる。

・・・・・だが、逆に言えば一発も喰らわなければ良い訳だ。

 

「ちぇりぃおおおおおおおおおおッ!!」

「ぐッ、ぅう・・・!」

 

四十院は間隙を作る事がない様に攻撃を続ける事で、紅椿のシールドエネルギーを徐々に徐々にだが確実に削っていく。

しかして、箒の方も黙ってやられるわけではない。

 

「こ、このッ・・・調子に乗るなぁあ!!」

「ッ!!?」

 

出鼻を挫かれて防戦一方を強いられた箒だったが、遂に其れ食い止めんと彼女はもう一振りの太刀”雨月”を顕現させたのだ。

 

「テヤァアアアアアアッ!!」

 

四十院のコンボ攻撃を雨月で振り払った瞬間、残った片手へ握られた空裂で彼女を一刀両断にせんと振り上げた。

此の空裂なる太刀は、斬撃其の物をエネルギー刃として放出する事が出来る代物なのだ。そんな一撃を真面に喰らってしまえば戦闘不能になる事は必定である。

・・・さて、相手が攻撃を仕掛けようとした時、選択肢として『防御』か『回避』の二択を迫られるだろう。―――――しかし!

 

「ッ、とりゃぁあああああああ!!」

「なッ、なにぃいいいいいいいいい!!?」

 

逆に四十院はスラスターは吹かして突貫攻撃を実行したのだ。

しかも得物による攻撃ではない。刀を弾かれた事を反動に利用した所謂『ヤクザキック』である。

 

バキィイッ!

「ぶッフェ!!?」

 

四十院が放った渾身のヤクザキックは運悪く箒の顔面へ炸裂し、彼女を後方へとブッ飛ばす。

幸いにもアリーナ壁面へ激突する事はなかったが、此の攻撃によって二人の間に間隙が開いてしまった。

 

「ッ・・・し、四十ゥウ院ンンンッ! 貴様ァアア!!」

 

箒は激昂する。格下だと侮っていた訓練機を操る一般生徒風情に手痛い攻撃を受けたのだ。プライドの高い彼女には酷く心に負担がかかった事だろう。

「ゆ”る”さ”ん”!!」とばかりに箒は空裂のエネルギー刃の斬撃と雨月の切先から発射されるレーザー攻撃を遠慮なしに飛ばすが、ヒステリーを起こしている為に正確さはないに等しい。

だが、やたらめったら撃つもんだから近接武装しか装備していない四十院は彼女に近付く事が出来ない。・・・・・・・・”普通”は。

 

「春樹さんだったら・・・絶対にこうする!」

 

師にあの蟒蛇がいる四十院は、頭を素早く回転させると彼女は葵の柄を持ち換える。鋭い切先を敵に向けた投擲の構えに持ち換える。

 

「ゲイ・・・ボルグゥウウウウウ!!」

 

お師さんにおススメされたアニメの必殺技名を叫びながら四十院は箒に向かって思いっ切り刀を投擲した。

手から離れた葵はレーザービームの如く一直線に飛んで行く。

 

「フンッ!!」

 

勿論、そんな突拍子でもなければ奇襲でもない得物を投擲するだけと云う攻撃が当たる訳がない。

ヒステリックになりながらもやはり中学生剣道大会覇者にして第四世代IS専用機体所有者は伊達ではない。

 

「勝負を焦ったな! 四十院、貴様はやはり他愛もない!!」

 

箒はそう言いつつ見得を切って四十院の方を見る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

けれども・・・何故か彼女は呆けた声を漏らしたのである。

其れは何故か?

箒の考えでは、勝負を焦った四十院はやけになって得物を投げたと思った。そして、投擲した得物で注意を逸らされている内に距離をとるだろうと考えた。

まったく其の逆を四十院はやってのけたのだ。

 

「ちぇりぃおおおおおおおおおお!!」

 

意外! 其れは、飛び膝蹴り!!

 

ゴバキィイッ!

「ぐわぁああアアアアアッ!!?」

 

葵を投擲した瞬間、四十院はスラスターから放出したエネルギーを再び取り込み都合二回分のエネルギーで直線加速を行う瞬時加速を実行したのである。

箒は自分に向けて投げられた葵に気を取られていた為に反応が遅れてしまったのだ。

 

ドゴォオオオオオオッン!!

「がッ、ハァ・・・!!」

 

遂にアリーナ壁面へ赤い機体がひび割れを作った。

壁に打ち付けられた衝撃によって跳ね上がる箒の身体。其のまま地面へ倒れ伏すのかと思いきや―――――

 

ドンッ!

「き・・・貴様ッ・・・・・四十院・・・!」

 

うつ伏せになる寸前、四十院は箒に馬乗りになる形で覆い被さったのだ。

両足で箒の両手を抑えた四十院は見開いた眼で彼女を見下ろす。逆光になっている為に白目が不気味に見える。

だが、彼女が使っていた葵は箒に弾かれて明後日の方向に突き刺さっている。早く

攻撃を仕掛けなければ、世代差のスペックで戦況を覆されるかもしれない。

しかし、得物がない此れでは攻撃が出来ない・・・と、普通は思うだろう。

 

「これで・・・!」

 

四十院はグッと顔をしかめて取り出したのは、葵を納めていた”鞘”であった。

彼女はゴクリンコッと唾を呑み込みつつ其の鞘尻を高く上げて―――――

 

「し、四十院・・・や、やめ―――――」

 

ドッガン!!

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

大酒飲みの蟒蛇くん……ハーレム沼に引きずり込まれる?

  • 踏み止まる。
  • 渋い顔で入る。
  • 酒を飲まされた上で後ろから刺される。

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