IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※一万字越え。
※ちょっと冗長気味。



第192話

 

 

 

―――――突然、失礼する。

私の名は『ハンニバル・レクター』。

周囲から我らが刃と呼ばれる清瀬 春樹の心の宮殿(マインド・パレス)に住まう住人の”一人”だ。

 

私は、常々IS専用機体所有者には大まかに分けて二種類の人間がいると思っている。

一つは、専用機を”勝ち取った者”だ。

代表的な者を選ぶとするのならば、そうだな・・・・・あの英国の淑女見習い、セシリア・オルコット女史が該当するだろう。

以前、春樹が彼女と模擬戦を行う際に事前資料を閲覧していた時、私もそれを少し拝見させてもらった事がある。

 

イギリスは名門貴族オルコット家の出自で、IS適正はAランク。しかも頭脳明晰で、端正な顔立ちに抜群のプロポーション。

『天は二物を与えず』と云う言葉があるが、彼女はこれに該当しないだろう。

最近になって壊滅的な料理下手と云う事が解ったが、逆にギャップとしての魅力度が上がる。

だが、そんなセシリア嬢も順風満帆な人生を送って来た訳ではない。彼女にも抱えている重い過去の一つもある。

今から数年前、彼女の御両親は不幸にも列車事故に巻き込まれて亡くなっている。

それを契機に残されたオルコット家の財産を狙う不届き者がセシリア嬢へ群がって来たが、聡明で賢い彼女は負けじと勉強を重ねてイギリスの代表候補生となり、周囲の無礼な豚達から両親の遺産を守って来た。

初対面の時、春樹に対して高圧的な態度を取っていたのは、こういう経緯がある為なのだろう。

虚勢を張る事で他人を牽制し、自身を強く持っていた。そうして彼女は専用機を、『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』を勝ち取った。

だからこそセシリア嬢には窮地に陥った際、自分を支える強固なバックボーンがある。

その御蔭で、『サイレント・ゼフィルス』との戦闘においてビームの偏向射撃を習得し得た。

決して単なる咬ませ犬ではない。決してだ。

 

これは春樹にも云える事だ。

神の左手(ガンダールヴ)なんてチート(ズルい)能力を有しているが、何度も何度も彼は自分の骨を折られ、肉を千切られ、心を潰されて来た。

そんな傷を受けても尚、立ち上がって来たからこそ、春樹は専用機を勝ち取る事が出来たんだろう。

 

・・・一方で、彼等彼女等とは違う専用機体所有者がいる。

それは所謂、専用機を”与えられた者”だ。

無条件に特別な機体を与えられるという事は、それだけ周囲が期待を寄せているという事なのだろう。

だが、云ってはなんだが・・・無条件になんの実績も実力もない者に強力な機体を与えると云うのはとても危険な行為だ。

それもまだ精神的に未熟な未成年に与えるのは、赤ん坊にピストルを持たせる事に等しい。

因みにだが・・・銃と云う代物は、銃弾を発射する際に反動がかかる。それは殺傷力の高い強力な薬莢を使う度に大きくなるものだ。

そんなものをなんの経験も実力も実績もない者が使えばどうなるか・・・?

 

運があれば、一時しのぎは出来るだろう。

才能が有れば、並の相手なら勝てる事が出来るだろう。

しかし・・・いつまでもそれが続くとは限らない。

 

≪―――――うッ・・・うわぁあああああああ!!?≫

 

深い冬の海の色をした甲冑を纏った”勝ち取るべき者”が、赤い鎧を纏った”与えられただけ者”の顔面へ向かって鞘尻を何度も何度も打ち付ける。

だが、ISにはパイロットを守る絶対防御がある為、その打撃が直接操縦者に届く事はない。

 

・・・私にはそれが残念でならない。

本来なら、両手に握られ、力の限り打ち付けられた鞘尻によって頭蓋骨が砕かれ、歯が折られ、血が辺りに飛び散る筈だ。

あぁ・・・残念だ、残念だ。

 

≪や・・・やめ・・・・・ッ、やめて・・・やめてくれ・・・・・!!≫

 

おや?

戦意を消失したのか?

あれは防御態勢だ。目頭に涙をためた怯える表情が見てとれる。

どうする?

もう止めるか?

四十院女史の方も「ハッ!?」とした表情になって手が止まったぞ?

 

「・・・どねーしょーかなぁ? 向こうから喧嘩を売って来たんじゃ。止める止めないの権利は此方にあると俺ぁ思うんじゃけど・・・・・どねー思う?」

 

確認するが、事前の取り決めでは試合の勝敗は機体のダメージレベルDランク以上になるか、どちらかが負けを認めた場合によるものだったな。

見る限り、相手は戦意消失している様子だが?

 

「・・・参った、なんて篠ノ之は言うたんか?」

 

・・・ほう?

 

「アレは何度も何度も俺に喧嘩を売って来た。俺ぁ其れを流れる雲みてぇに避けて来た。じゃけども・・・そろそろウザったくなったわな」

 

だからここで徹底的に打ち負かすと?

だが、四十院女史は躊躇っているぞ。

 

「・・・・・さて、其れはどうじゃろうか? 簡易的ではあれども、極限状態に置かれた人間は何をしでかすか解らんで?」

 

 

 

 

 

―――――◆◆◆◆◆―――――

 

 

 

「ハァッ・・・ハァ・・・ハァッ・・・!!」

 

両目をカッと見開いて、四十院 神楽は肩で息をする。

鞘を握った左右の籠手の内部は、酷くじっとりとした汗が滲んで仕方ない。

 

「くぅッ・・・うぅ・・・・・!」

 

そんな彼女の目下先に組み敷かれていたのは、悔しそうにも怯えている様にも見受けられる表情を晒す目に涙を溜めた此の模擬戦の対戦相手である篠ノ之 箒。

彼女は姉にしてISの発明者である篠ノ之 束が手ずから造り上げた第四世代機・紅椿を有していた。

だが、試合運びは周囲の予想を大きく裏切り、旧型第二世代機である筈のラファール・リヴァイヴを纏った四十院が善戦。遂には箒を窮地へと追い遣ったのである。

 

「こ、この! どけッ、どかんか四十院!!」

「ッ、きゃ!?」

 

ワルキューレ部隊の訓練必修資料である『ドリフターズ』より習得した組手甲冑術で箒を拘束し、手にした鞘で滅多打ちにした四十院だったが、彼女の涙目に動揺を誘われてブースター噴射からの蹴りをいれられてしまう。

御蔭で折角詰めた筈の距離を離されてしまった。

 

「ゆ・・・油断した! まさか・・・まさか四十院、貴様がこんな実力を隠していたとはな! ここからは私も本気で行くぞ!!」

 

脚で抑えられていた腕を振るい、刃を四十院へ向けながら見得を切る箒。

しかし、其れで先程べそをかいていた事実が覆る訳ではない。其れ処か逆に其の行為が彼女の滑稽さを際立たせる。

 

「フゥ・・・フゥッ・・・フゥ・・・」

 

一方、箒をあと一歩まで追い詰めた四十院は、蹴られた箇所を片手で抑えつつ息を整えていた。

もう片方の手には刀身が納められていない鞘が握られている。

此の鞘で一時は善戦したものの、距離を離された現状では何の役にも立たぬ無用の長物。中身はと言えば、背後は彼方にあるアリーナ壁面に突き刺さっている。

窮地に立たせた相手に対し、一転して窮地に立たせられてしまった。

 

「ふぅーッ・・・・・フ、フフ・・・フフフッ・・・」

 

けれども、四十院の顔に焦りは感じられない。其れ処か、何とも嬉しそうに口端を歪めていたのだ。

先程は箒の怯えた表情に動揺し、躊躇してしまったが、今の四十院に其れは無くなっていた。

無論、彼女の此の表情を不気味に感じた箒は「な・・・なにがおかしい?!」と声を張る。

 

「い、いえ。少し驚いているんです。随分と、その・・・たいした事ないんですね」

「ッ、なんだと貴様?!!」

 

四十院・・・いや、神楽が所属するワルキューレ部隊において重点的訓練とされていたのは、生身での格闘戦であった。しかも指導教官役であるラウラの独軍仕込み近接格闘術と春樹の実践的戦闘術だ。

多くの修羅場を潜って来た現役軍人と一般人を名乗る狂戦士に比較すると対戦相手である箒は、神楽には少々の物足りなさを感じたのである。

 

「私の虚を突いて、少しの間自分が有利になったぐらいで調子に乗りおって!」

 

「はぁ・・・・・御託はいいので、早くかかって来ませんか?」

 

「貴様・・・ッ! もう許さんぞ!!」

 

顔を真っ赤にした箒は、二刀流の構えと共に神楽へ向かってブースターを噴かす。其の速度は流石の第四世代機か。肉眼ではとても認識する事が出来ぬ程の速さである。

しかも相手の武器は、中身なしの鞘。傍から見れば、とても勝負にならない。

 

「喰らえぇえええええ―――――ッ!!」

 

ブゥオオオ―――オオン!とブースターの唸り声と共に箒は、振るえば斬撃を飛ばす事が出来る空裂を雄叫びと共に振り上げた。

更に其の後ろには、切先からレーザービームを放つことが出来る雨月が控えている。

 

さて、此処で神楽はどのような判断をするのだろうか?

背後へ飛ぶ様に回避しても空裂から発射される斬撃に捉えられる。かと云って、左右のどちらかに避けようものなら後ろ備えの雨月が襲い掛かって来る。

しかも一撃でも喰らえば、第二世代機のラファール・リヴァイヴなんぞ一瞬にして再起不能に陥ってしまう。

正に絶体絶命。

・・・・・だが!

 

「・・・フフッ♪」

 

神楽は笑ったのだ。

何とも嬉しそうに、楽しそうに口端を吊り上げて笑みを溢したのである。

 

「―――――せぇえええええええい!!」

 

そんな何とも不敵な笑みと共に神楽はラファールのブースターを噴かす。勢い良く瞬時加速を噴かす。

自棄にも見える此の行動に箒は思わず眉をひそめた。何故ならば、先程も自棄に見える様な刀の投擲によって組み敷かれたのだ。

 

「(なにを考えているか知らないが・・・これで終わりだ!!)」

 

其れでも箒はブースターの勢いを弱める事はなかった。

何せ相手が構えているのは、到底武器とは呼べぬ鞘なのである。どうせ出来る事などたかが知れている。

そう。相手が鞘()()所持していない場合はだ。

 

「・・・・・いつから私が、葵()()しか持っていないと錯覚していました?」

 

そう言いつつ神楽は手元の鞘を高速切替の要領で別の得物へと置き換えた。

其れは刀よりも射程の長い―――――

 

「出番ですよ、『逆叉』!!」

「ッ!?」

 

神楽が顕現させたる其の得物。其れは穂先が一尺もあろうかと云う大身槍。更に言えば、其の穂先たる刃は血に濡れた様に真っ赤に震えている。

名を『逆叉』。IS統合対策部が春樹の要望によって作成した中距離格闘武装だ。

 

「ちぇりぃおおおおおおおおおお!!」

ギィャアアアンン!

「なぁッ!!?」

 

艶やかな赤の刃が振り下ろされた空裂の刀身を横に弾く。

けれども、後ろにはレーザービームの雨月が控えている。

なればどうするか?

 

「てぇええええええええい!!」

ドッゴォ!!

「ゲッはぁア!!?」

 

神楽は槍を素早く反転させ、雨月からレーザービームが発射されるよりも早く其の石突で腹部へ直撃させた。

更に更に!!

 

「とぉおおりゃぁあああああ!!」

「うッ、うわぁあああああああああ!!?」

 

すぐさま箒の腕を掴んだ神楽は、其のまま背負い投げの要領で彼女を投げ飛ばす。

瞬時加速の速度に乗ったままで投げ飛ばした御蔭で、ドッッガァアアアアア―――アアン!!

と凄まじい轟音と共に箒の身体は地面へとめり込んでしまった。

 

「ぐッ、ぅう・・・し、四十院・・・き・・・貴様ぁ・・・!!」

 

大きなクレーターの中央には、機体の一部が埋まった状態の紅椿を纏った箒が恨めしそうな目で神楽を見ている。

そんな彼女に向けて神楽は逆叉を投擲する為のフォームをとった。

・・・・・しかし。

 

≪そこまで! 篠ノ之 箒、戦闘不能! 四十院 神楽の勝ち!!≫

 

「え・・・ッ!?」

「な・・・なんだ、と・・・・・?!!」

 

発熱の激闘中に響き渡るアナウンス。

其の声に大身槍を振り被っていた神楽の手が止まり、砂利だらけの赤い機体を纏う箒が飛び起きる。

アナウンスの声からして、喋っているのはラウラだ。

 

「ま、待て! まだ・・・まだ私は負けていない!!」

 

≪いいや、箒。もう終わりだ。機体のダメージレベルがDになった。最初の取り決め通り今回の一戦、四十院が勝者だ≫

 

淡々と語るラウラの文言に箒は歯をギリギリギリギリと鳴らし、今度は血走った目で「ふざけるな!!」と叫ぶ。

 

「まだだ、まだ終わってない! 構えろッ、四十院!! 本当の戦いはこれからだ!!」

 

槍を手に此方を見下ろす神楽へ箒は刀の切先を向けるが、肝心の彼女はと云うと、箒と目線を合わせる様に地面へ降下して一言申す。「・・・もう、やめましょう」と。

 

「これは模擬戦闘試合で、決められたルールがあります。そのルールに則って試合を行ったのならば、それに従うべきです」

 

「違う! 模擬戦闘と言っても、これは戦いだ! 私はまだ戦える! 私はまだ負けていない!!」

 

「・・・・・小さな子供ですか、あなたは」

 

「ッ、なんだと!?」

 

「篠ノ之さん、あなたは試合を行う前にルールを承知した筈。そして、その結果がどうであれ、あなたはそれを受け入れるしかないんですよ。負けず嫌いが性分なのは、長所だと私は思います。ですが・・・・・篠ノ之さん。今のあなたは()()()()

 

「!!」

 

鋭い真剣な眼差しと共に神楽は諭す様に箒へハッキリ物申すと武装解除し、出口へ足を向ける。

そんな彼女の言葉に箒は表情を酷く歪ませた後、顔を俯かせてワナワナと肩を震わせたと思えば―――――

 

「うるさい・・・うるさい、うるさいうるさい、うるさぁ―――――いッ!!」

≪ッ、箒!!?≫

 

ブースターを出力全開で噴射させ、真っ直ぐ一直線で一気に神楽へと迫って行ったではないか。

 

「ウワァアアアアア―――――ッ!!」

「・・・・・」

 

土埃が付いた憤怒の形相と共に上段の構えで空裂を振り被る箒。しかし、襲い掛かられているであろう神楽は何故か取り乱す事はなく、静かに振り返るのみ。

突然の箒の凶行に動揺してしまったのだろうか?

いや、違う。

 

「・・・何しょーるんなら?」

「―――――!!?」

 

何の前触れもなく不意に現れた気配に対し、放たれた鏃の様に真っ直ぐ突貫していた赤い機体へ急ブレーキがかかる。

そして、カッと開いた眼で気配の方を見れば、其処には随分と面倒臭そうに歯を鳴らす男がボケッと佇んで居るではないか。

 

「さっきラウラちゃんが試合終了の合図を出したろうがな。終わりじゃ終わり。武装解除せーやー。四十院さんは、もう戻ってエエでよ」

 

「はい、それでは・・・総隊長、失礼します」

 

「ま、待て! まだ試合は・・・・・清瀬ッ、貴様!!」

 

事の発端である春樹の登場に箒は神楽と彼を交互に見合わせた後、春樹の方へ青筋を浮かべた顔を向けた。

 

「貴様ァッ、邪魔をするな!!」

 

「邪魔じゃなかろうがな。オメェが阿呆な事を続けようとするから止めに来てやったんじゃろうがな」

 

「アホとはなんだアホとは! このバカモノが!!」

 

「はいはい、そうじゃね。俺はどーせ馬鹿ですよ。じゃけん早う帰りましょうね篠ノ之さん」

 

「清瀬ッ、貴様ァア!!」

 

痴呆老人をあやす様な春樹の煽り口調に益々機嫌が悪くなった箒は、遂にプッツンするにあたり思わず握り締めていた刀を振り上げた。

其の瞬間―――――

 

「ひゅ・・・・・ッ・・・!!?」

 

何故か、彼女は後ろへと飛んで春樹と距離をとったのである。

此の箒の行動に管制塔から二人の様子をハラハラしながら見ていた面子は思わず頭に『?』を浮かべた。

だが、何よりも其の状況に困惑していたのは、回避行動ともとれる背後ジャンプを行った箒である。

 

「き・・・清瀬、貴様・・・・・私に何をした?!!」

 

首の頸動脈あたりを抑えながら箒は少し青い鳩が豆鉄砲を食った様な表情を晒す。

 

「阿? 何がぁ?」

 

けれども春樹の方は、相変わらず口をへの字に曲げた小憎たらしい表情でカチカチ歯を鳴らしている。

・・・ただ、彼に対して変化している事が一つあった。其れは先程まではなかった筈の一振りの太刀が、腰に佩かれていたのだ。

 

「とぼけるな! 今、貴様は私を・・・!!」

 

箒はゾッと鳥肌を立てていた。

自分が春樹へ向けて刃を振るわんとした時、ズザッシュッッ!・・・と、自分の首が”()()”される感覚に襲われたからだ。

しかし実際、首は斬られていない。では、何故そんな感覚に陥ってしまったのだろうか。目の前に居るのは、ISを纏ってもいない爬虫類顔の憎たらしい男の筈なのに。

 

「ッ、認めん・・・認めてなるものか!」

 

キッと表情をしかめて再び春樹に斬りかかろうと箒は刀を構える。

 

「・・・・・阿”?

「ぅ・・・ッ・・・・・」

 

だが、一歩を踏み込む事が彼女には出来なかった。

ISを纏う処か、構えもとっていない面倒臭そうに此方を見るだけの男に箒は斬りかかる事が出来なかった。

 

本来、神楽との試合は、春樹との決闘をかけての一騎打ちだった。

箒はすぐに終わらせる筈だった。四十院と云う格下等に負けるイメージが湧かなかったからだ。

けれども蓋を開けて見れば、機体の性能差を覆す程に実力が違っていたのである。相手を侮っていたとは云え、相手に自分の虚を突かれたとは云え、其れを抜きにしても箒の実力は神楽に劣っていたのである。

そんな彼女が現在進行形で刃を向けているのは、其の神楽の師とも云える春樹だ。

さて・・・彼と箒の実力差はどれ程のものだろうか?

 

「・・・何なら? 来んのか?」

「な・・・舐めるなよ! 今すぐにでも!!」

 

煽り文句に応える様に身体を傾けた瞬間、再びズザッシュッッ!と切断音が鼓膜を震わせると同時に今度は振り上げた腕が叩き斬られる感覚が脳へ駆け奔る。

 

「―――――ぐゥぁアア!?・・・って、あ・・・・・あれ?」

 

箒は思わず振り上げた腕を抑え込む。

ところが、抑え込んだ腕は刀を握り締めた状態で()()()。切り落とされてなどいなかったのである。

 

「どしたん? 腕でも()()()()()()()みたいな顔してよぉ?」

 

「ッ・・・な、なにを・・・・・なにをした?! 一度ならず二度までも・・・私になにをしたぁ?!!」

 

随分と青ざめた表情で叫ぶ箒を尻目に春樹は面倒臭そうに曲げていたへの字口を三日月に歪ませて一言のたまわった。

 

知りたい?

「!!」

 

両眼から金色の焔が溢れて零れた状態で浮かべた春樹の笑みに対し、箒はゾッとした。まるで背中へ氷を入れられた様にゾッとしてしまったのである。

 

「き、貴様は・・・貴様は、いったいなんなんだ?!! この”バケモノ”め!!」

 

自分から喧嘩を売ったにも関わらず、箒は恐怖に飲み込まれてしまっていた。清瀬 春樹と云ふ大蟒蛇から放たれる尋常ならざる殺気に対し、無意識下の防衛本能によって身体が脅えてしまっていたのである。

そして、箒は今になって目の前で佇む男がどれ程の傑物になってしまった、成り果ててしまった事を肌身で理解したのだった。

 

「ッ・・・バケモンね。なら・・・其のバケモンの一太刀喰らってみんか?」

 

箒の一言が癪に障ったのか。春樹は持っていた三尺太刀を引き抜き、構えをとった。まるでビリヤードのキューを構える様に。

 

「清瀬流戦闘術るろうの型、壱式―――――」

「(う、動けん!!)」

 

鋭い目線と共に燃ゆる様な切先で対象を見据える春樹。

其の彼から注がれる視線に箒の身体は硬直してしまい、身動きがとれなくなってしまう。まるで蛙が蛇に睨まれた時の様にである。

―――――しかし。

 

「―――――清瀬ぇええッ!!」

 

「え?」

「・・・阿?」

 

聞こえて来た叫びと弾む様な靴音に何かを察したのか、春樹はすぐさま刀を鳥居構えへと構え直す。

さすれば、ガギィイイインッ!!と火花が散った。

 

「ッ、おい・・・おいおい、おいおいおいおいおいおいおい、おい! 背後から一刀一撃とは随分と穏やかじゃねぇですなぁ・・・・・えぇ、”織斑センセ”?」

 

振り返りざまにニヒルな笑みを浮かべる春樹の眼前へ佇むのは、IS用近接格闘ブレードである”葵”を生身のスーツ姿で構える世界最強のIS使い”ブリュンヒルデ”と称される織斑 千冬。

其の二等辺三角形にした目からは、ビリビリと電撃が奔っているかのようだ。

 

「ち、千冬さん・・・!」

 

「篠ノ之・・・アリーナから上がれ、今すぐにだ・・・!」

「は、はい!!」

 

千冬の静かな怒声にギョッとした箒は、さっさとアリーナ出入口へ向けてブースターを吹かした。其の速度たるや瞬時加速も目じゃない程だ。

 

「おや? センセ、もう”御妹殿”とのお話は済んだんで?」

 

「清瀬・・・貴様、これはどういうつもりだ?」

 

「ありゃ、質問を質問で返された。誤解しちゃおえませんで、センセ。喧嘩を売られたんわ俺ん方。あっちが加害者、こっちは被害者。其れでも俺は、相手を立ててやった。じゃけども相手は其れを無下にしやがった。・・・・・俺にも堪忍袋云うもんがある」

 

「だからと言って、真剣を構えるやつがあるか?」

 

「おっと、センセ。もう老眼鏡がいる御年なんで? いくら俺が真剣を構えているって言っても・・・篠ノ之さんはISを纏っていましたで? 其れなんにアレは本気でISも纏ってもいねぇ俺を斬ろうとしやがった。正当防衛になるんじゃないんでせうか?」

 

「・・・・・篠ノ之には、私からキツく言っておく。だから・・・ここは退け、清瀬」

 

「・・・さっきも言うたが、センセ? 向こうが売って来た喧嘩を俺は買ったんじゃ。ただで納める訳がなかろうて」

 

春樹はそう言いつつ八双の構えをとる。

両者ともに譲る気はない。

 

「そう言えば・・・センセ。さっきは、ようもISを纏ってもいねぇ生身の生徒に、其れも背後から本気で斬り付けてくれましたね。教員として・・・・・いんや、人としてどーなんです?」

 

「ある意味で私は貴様を信用している。あのままバッサリと斬られる貴様ではないだろう?」

 

「ありゃー。まさか、センセからそんな信用して頂けるなんて光栄の至りじゃわぁ。俺ぁ嬉しくッテ・・・加減が出来そうにないわー」

 

「ほざけ・・・ッ」

 

生身の状態で、抜身の通常よりも何倍も重いIS用の刀剣で本気の手合わせを行おうとしている。

とても正気の沙汰ではない。

 

「「・・・・・」」

 

両者とも無言で御互いに自身の殺気をバーナーの様に噴出させ、其れを躊躇いなくぶつけ合う。

其の余波によってゴゴゴゴゴッ・・・と其の場の空気が重く歪んでいってしまう。

 

キシャァアアアアアー!

ハァアアアアアアアア!

 

其の内、両者の背後からユラユラと湯気が放出され、其れが徐々に形を成して来たではないか。

 

「「・・・・・」」

 

八双構えと下段の構えのまま、まるで数時間も膠着しているかの様な状態が続く。

だが、其れも終わりが来る事は明白。

実力が拮抗している者同士が手合わせをする際、勝負開始と共に決着がついてしまう場合がある。其れ故に初手が肝心。

重心をゆっくりと相手の方へ傾け、其の眼と同じ切先鋭い刃を―――――

 

―――――「両者そこまで!!」

ザクッ

「「!!」」

 

刃を傾けた瞬間。春樹と千冬の間へ黒曜石の様に真っ黒なナイフが突き刺さり、両者の間に銀色と水色の戦乙女が割って入った。

 

「春樹くん。そろそろお開きの時間よ」

 

「武器を納めて下さい、織斑きょう・・・・・先生・・・」

 

「・・・ボーデヴィッヒ」

 

「・・・ッチ、しゃーない。是非もなしじゃ」

 

春樹はカチカチ歯を鳴らしながら真っ赤な刀身を鞘へ納めると千冬へ強張った表情を向けるラウラの肩を抱き寄せた。

 

「何じゃーかんじゃーあったが、勝った勝った。今日は俺ん奢りで、皆でデザートを喰おうや。ラウラちゃん、何がエーえ?」

 

先程の殺気立った雰囲気とは打って変わり、何とも優しい朗らかな微笑を浮かべる春樹に対し、千冬は一層に眉をひそめて握った刃を隠そうとしない。

しかし―――――

 

「・・・そうだな。私は、おしるこが食べたいぞ。付け合わせに私の漬けたたくあんでもどうだ?」

 

「ッ・・・ラウラ・・・!」

 

両者の間へ割って入ったラウラは、自分の肩を抱き寄せた春樹の手を握りながら屈託のない笑みを浮かべたのである。

自分へ向けられた強張った顔色とは全くと言っていい程違う朱鷺色に火照った其の彼女の表情に千冬は奥歯をギリッと噛み締めた

 

「渋い、渋いでよ。流石はラウラちゃん。俺は其れに梅昆布茶でも貰おうかな~? どうです? 御一緒に織斑センセも?」

 

ぬけぬけと・・・・・遠慮する。色々と私は忙しいのでな」

 

「破ッ・・・そりゃ失敬しました。それじゃあ俺らぁは此れで・・・」

 

薄っすら浮かべた笑顔が千冬の視界から逸れた瞬間、春樹の表情は一気に暗く・・・いや、()()()になる。

そして、其の顔色を楯無へ向けた。

 

「楯無・・・オメェが()()を呼んだな?」

 

「どーせこうなると思ったからよ。あのままだと・・・春樹くん、君、箒ちゃんをIS()()斬っていたでしょう?」

 

呆れた様に溜息を漏らす楯無。

どうせ「余計な真似しやがって」と春樹から苦言を言われるかと思っていたのだが―――――

 

「・・・・・ありがとうよ」

 

「へ・・・?」

 

「あのまんまじゃったら本当に篠ノ之の事を・・・・・助かったでよ。やっぱり、”()()”は機転が利くでよ」

 

・・・不覚にもドキッと楯無はしてしまう。

常日頃から皮肉染みた言葉で会話を交わしている想い人からの思いがけない誉め言葉+”真名”呼びに我ながらなんてチョロい人間なんだろうと思う事はあれど、自然と頬が緩んでしまった。

 

「べ・・・別に当然の事をしたまでよ! で、でも・・・もっと褒めてもいいのよ?」

 

「破破ッ・・・調子に乗んな」

 

「上げてから落とさないでくれないかしら?!」

 

「うるさいぞ、更識 楯無」

 

「ラウラちゃんまで! いいもん! 簪ちゃんに慰めてもらうもん!!」

 

同世代で年頃の少年少女らしく賑やかな雰囲気を醸し出しながらアリーナの外へと出て行く春樹達。

そんな彼等の背中を見送りながら千冬は呟いた。

 

「何故・・・どうしてだ・・・・・ラウラ?」

 

疑問符に応える者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

大酒飲みの蟒蛇くん……ハーレム沼に引きずり込まれる?

  • 踏み止まる。
  • 渋い顔で入る。
  • 酒を飲まされた上で後ろから刺される。
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