※キャラ崩壊かも
「はぁ・・・ハァ・・・ッ・・・ハァ・・・はァ・・・ハぁ・・・・・」
目の下へ深く暗く刻まれたクマに痩せこけた頬。
肌艶はとても健康的とは遠くかけ離れた土気色。
吸って吐いてを繰り返す呼吸は短く、唾を飲むのもやっと。
そんなまるで余命幾ばくもない重病人の様に肩で息をするのは、世界で初めて其の確認がなされた男性IS適性者である織斑 一夏。
入学当初の整った容姿と快活な性格は、最早見る影もない。
「ハァ・・・ハァ・・・・・ッ、ぐ!? ひ、ヒぃい・・・!!」
時折り思い出したかの様に酷く怯えた様子で表情を歪め、身を振るわせて頭を抱える様に両耳を塞ぐ。
そして、「痒い・・・かゆい、カユイぃ・・・!」と薄っすら
皮膚が破れて血が出ようとも、必要以上に掻き毟った事で左手指の爪が剥がれようともだ。
「ッ、一夏?! アンタ、また・・・!! やめなさい!!」
血が滲みながらも腕を掻き毟る彼を止めるのは、一夏のセカンド幼馴染にして中国代表候補生の凰 鈴音。
彼女は、洗浄された衣服が入った洗濯カゴを放り投げると一夏の所業を止める為に駆け寄る。
「やめなさいよ! やめてッ、一夏! まだ治ってないのに・・・そんなに掻いたら!!」
「うぎゃァアぁああ―――――!!」
掻き毟る行為を止めようとした鈴の腕へ一夏はガブッ!と、自らの歯を喰い込ませた。
無論、此の彼の原始的で幼稚な攻撃に鈴は「痛ッ・・・!!」と表情をしかめるが、其れでも彼女が一夏の事を突き放す事はなく、逆に彼の頭を残った片方の手で優しく撫でたのである。
「だ・・・大丈夫、大丈夫よ。ここには、誰もアンタを傷付けるヤツなんていないんだからね?」
「ふぅーッ、フゥー!・・・・・ッ、あ・・・り、鈴・・・・・お、俺・・・また・・・? 鈴、お前ッ、ケガを!!」
おぞましいフラッシュバックから正気を取り戻した一夏に対し、鈴は「大丈夫、私は大丈夫だから」と諭す様に呟きながら彼を抱き締めた。
自分よりも一回りも大きくも痩せて骨ばった一夏の身体を彼女はまるで母親の様に優しく包み込んだ。
◆
京都で秘密裏ながらも大規模に行われた夷敵退治。
其処で暴走状態となり、右腕を斬り落とされる重傷を負った一夏。
幸いにも切断面が綺麗だった御蔭で、切断された腕の合致縫合は成功し、他負傷箇所も今や治癒された。
だが、いくら身体的外傷が回復しようとも、其れ以上に精神へは深い傷が刻まれていたのである。
其の精神的外傷によって一夏は疲弊していき、情緒不安定によって体調面でも不良が見られるようになった。
京都の一件から彼はIS学園を体調不良を理由に休学し、寮の自室へ閉じ込もってしまう。
そんな精神異常を来した一夏の身の回りの世話を買って出たのが、鈴と彼のもう一人の幼馴染である篠ノ之 箒であった。
けれども箒は、一夏の精神異常の原因を作った相手へ仇討ち名目で喧嘩を売ってしまった為、ISを勝手に私闘で使用した罰で自室への禁錮謹慎が言い渡されてしまったのである。
ところで、彼の肉親である姉にして世界最強のIS使いブリュンヒルデを冠する織斑 千冬
は何をしているのかと言えば、現在進行形で警察からの必用な聴取に呼ばれており、今は其れに更に京都の一件で捕縛した国際的過激派テロ集団ファントム・タスク構成員のMこと織斑 マドカへの尋問が加わった為、一夏との時間をとれずにいた。
其れもあって、只でさえ難がある一夏の看病を鈴だけで行っている状態だ。
「一夏? 何か食べたいものはない? 酢豚・・・は、今は無理ね。中華がゆ作ったんだけど食べられる?」
「・・・ない。何も・・・いらない」
「ダメよ、なにかお腹に入れないと倒れちゃうじゃない! そうだ! 売店で杏仁豆腐売ってあったのよ! アンタ好きだったでしょ? それだけでも―――――
「いらねぇって、言ってんだろ!」
―――――ッ・・・一夏・・・・・」
癇癪を起して布団へ再び包まってしまう一夏。
普段なら彼に対して強気な鈴だが、今回ばかりは無力を悟った様に「・・・そう。なにかあったら呼びなさいよ」と呟いて其の場を跡にする。
「う・・・うぅ・・・・・ッ・・・」
水道を捻り回し、歯型と共に血が滲む部分を洗い流す鈴。
ジャバジャバ蛇口から勢いよく出る水の音が、彼女のむせびを掻き消してくれる。
「なんで・・・どうして・・・・・どうしてよ・・・!」
グッと目を瞑り、何故一夏があのような状態になってしまったのかを考えながら鈴は涙する。
しかし、彼女は箒の様に一夏へ心の傷を付けた人物・・・二人目の男性IS適性者、清瀬 春樹を怨む事が出来なかった。
何故なら、其れは箒と違って鈴は春樹の
其れに京都の一件で、暴走状態の一夏を止める事が出来たのは、あの時、春樹しかいなかった。
もしあの時、敵味方入り乱れての乱戦の最中で、暴走した一夏を止める事が出来なければ、勢い付いた敵軍の進撃によって戦線は大きく崩壊し、民間人の被害者が多く出てしまったかもしれない。
其れ故に鈴は春樹を憎む事が出来なかった。だが、安易に容易に彼を憎む事が出来ない事が、余計に鈴を苦しませる事になったのだ。
ピンポーン♪
「ッ・・・グス。は、はーい」
調度其の時、来客を知らせる甲高い音が聞こえて来た。
鈴は眼元をこすりつつ、涙を拭って扉の前へ向かう。未だ目が赤いが、玉ねぎでも切っていたと云う理由でも話しておこう。
「誰? 申し訳ないけど一夏なら話せないわよ」
「あら? えぇ、構わないわ。丁度、あなたにも話を通しておきたかったのよ・・・凰 鈴音」
扉の外から聞こえて来た聞き慣れぬ声に鈴はギョッとし、思わず腕を展開武装で纏ってしまう。
「・・・大丈夫、こちらに敵意はないわ。ただ、話がしたいだけよ。重要なね。それもあなた達にしか話せない案件よ。だから・・・そんな物騒な物、しまってくれないかしら?」
「・・・・・」
疑りながらも鈴はゆっくりと扉を開ければ、其処には敵意はないと言わんばかりに微笑んだ表情をしているヨーロッパ人が立って居るではないか。
そんな自分の目の前へ佇む其の人物に鈴は見覚えがあった。
「アンタ、確か・・・前にセシリアと一緒に操縦訓練してた・・・・・」
「憶えてくれてたの。でも、こうして顔を合わせて話すのは初めてね。初めまして凰 鈴音。私は、『サラ・ウェルキン』。一応これでも、オルコット卿やあなたと同じ代表候補生よ。・・・・・専用機は持ち合わせていないのだけれどね」
『サラ・ウェルキン』
セシリアの先輩筋にあたり、彼女と同じイギリス代表候補生であるが専用機は所持していない。
だが、前に聞いたセシリアの話によると優秀な人物で、他の生徒へ操縦技術を指南する程の実力者との事。
自分以外の代表候補生など眼中にないと豪語する鈴だが、サラは一応IS学園二年生である為に無下に追い返す訳にもいかない。其れに
だが、其れでも今の所信用も其れ程ないので、とりあえず一夏は別室に寝かせたまま鈴だけサラの話を聞く事にした。
「へぇー・・・いい茶葉ね。専用機所有者ともなると、それなりのお給金をもらえるのね」
「それで、話って・・・なんですか?」
「そう言えば、彼女は? あの篠ノ之 束博士の妹。発明者の身内ってだけで、第四世代機を受け取った彼女は?」
「箒は・・・今は、自分の部屋に」
「知ってる。あの
答えを知っているにも関わらず疑問符を投げ掛けて来ておいて、どこかトゲのある物の言い方に鈴は思わずムッとしてしまう。
同じ想い人を持つ恋敵ではあるものの、箒は彼女にとって親友とも云える存在であったからだ。
「でも、そうなると・・・ここには、あなたと
「ッぶ!? な・・・なな、なに言ってるのよ?! わ、私は別に・・・!!」
「あら、意外ね。そうよね。
「・・・フフ♪」と出されたお茶をすすりながら微笑むサラに対し、鈴はもう隠すことなく不機嫌そうに眉間へしわを寄せた。
「・・・一体何の用なの? 重要な話って言ってたけど・・・まさか、こんなくだらない話な訳? だったら―――――」
「待って待って! そんな睨まないで。ちょっとした世間話じゃない。あなたとは、チームを
「・・・チーム? 何よ・・・チームって?」
「・・・ここだけの話よ、ここだけの話。ちょっと私の母国、イギリスで
「厄介事? どうして、私達がそんなものに選ばれるのよ?」
「無自覚? だとしても嫌味に聞こえるわよ? あなた達がこれまでにどんな事を成して来たか、知らないなんて言わせないわ」
サラの云う通り、IS学園一年生専用機体所有者達は、今まで何度も重大と言って差し支えない事件を解決に導いて来た。
暴走した軍用ISの鎮圧に謎に包まれていた国際テロリストの鎮圧拿捕。とてもISを扱うとは言っても学生と云う身分の者がする所業ではない。
「・・・なんで、アンタがそんな事知ってるのよ?」
「私、IS委員会関係者と懇意にしてる人がいてね。あなた達、向こうじゃなんて呼ばれてるか、知ってる? 『クランの花嫁達』ですって。クランの猛犬、狂戦士クー・フーリンが従える戦装束に身を包んだ戦乙女達・・・・・私には、ちょっとクサい二つ名だと思うけど」
「なにそれ、バカみたい。それに・・・残念だけど、お門違いよ」
「・・・なんですって?」
「私が・・・私達が、アンタの云うような御大層な事を成し遂げられたのは・・・ただの偶然よ、偶然」
「偶然? 偶然が何回も続くものですか! あなた達には確かな実力があるわ! だからこそ、軍の特殊部隊でも難しい作戦を成功させたんじゃない!!・・・・・それとも、なに? やっぱり、”
「ッ・・・」
サラの云う『彼』とは、やはりクランの花嫁達を率いるクー・フーリンの役回りを担う春樹の事だろう。
其の彼の名前が出た時、鈴はあからさまに表情を曇らせてしまうが、彼女は此れを利用する事にした。
「だ・・・だいたい、どうしてコッチにそんな話を持って来たの? そんな話、春樹の方へ持っていったらどうなのよ?!」
「え・・・・・ちょっと待って。まさか、聞いてないの?」
明らかな話のすり替えだったのだが、其れよりもサラは鈴の発言に怪訝な顔を晒す。
まさか、そんな顔をするなど思ってもみなかった彼女は、「な・・・なによ?」と疑問符を疑問符で返してしまう。
すると―――――
「あのベルセルクル・・・清瀬 春樹、今、死にかけてるのよ?」
◆◆◆
「チャージ!」
「完了!」
「下がって!!」
ドンッ!
担架の上へ寝かされた白髪の少年の胸に電気ショックが当てられた瞬間、魚の様に身体が跳ね上がる。
其の後、周囲にいる浅葱色の術服を身に纏った一人が、自分の組んだ掌を彼の胸へリズミカルに押し込んだ。
「し、心拍再開しました!」
「では、このまま対象個所を縫合する! 急げ!!」
真っ平だった心電図に波の動きが再び戻ったのを皮切りに医師達は、仕上げの作業へ移行するのだった。
◆
此処は横浜にある市立病院。
其処へ救急搬送された一人の患者。
患者の年齢は十五歳で、容態は腹部を鋭利なナイフで突き刺された事による出血性ショック。
だが、事はもっと複雑で、其の凶器であるナイフには毒物が塗られていた為、其の毒によって心臓が何度も心肺停止を引き起こしたのである。
刺突箇所の縫合に加えて、体内の毒物の解毒と二つの事を一度に行う事には難が生じた。
其れでも何度か心肺停止に陥り、一度は心肺停止となったが、何とか持ちこたえた少年は、緊急手術の御蔭で首の皮一枚で一命を取り留める事が出来たのである。
しかし、重体は重体。其のまま緊急入院が決まり、集中治療室への入室が決定されたのだった。
「まさか・・・あの彼が・・・・・ッ」
集中治療室から離れた別室で暗い表情を晒しているのは、代議士にしてIS統合対策部副本部長の長谷川 博文。其の隣にいる集中治療室へ入っている患者の担当医、芹沢 大助も随分と浮かない顔をしている。
「今までの経験上、彼の異常再生能力によってあれ程の負傷なら、ものの一時間と経たずに回復するでしょう。ですが・・・やはり、凶器に塗られていた毒物がそれを阻害しています」
「・・・回復の見込みは?」
「一命は取り留めていますが、予断を許さない状況なのは確かです。信じるしかありません・・・”我らが刃”を」
長谷川は苦虫を嚙み潰した様な表情と共に「そう、ですか・・・」と呟く。
ほんの数日前まで、恋人と初デートする事を嬉しそうにIS統合部関係者達へ語っていた事がまるで幻の様だ。
「被疑者は、どうですか?」
「残念ながら未だ発見には至っていません。ですが、見当はついています・・・・・”
長谷川は、やり場のない怒りを露わにする。其れを彼の秘書である高良が「落ち着いて下さい」と諫める。
だが、彼以上にやり場のない憤怒と悲哀を抱くものが此処には居た。
「・・・・・春樹・・・」
集中治療室の外で虚ろな目と共に項垂れているのは、中で治療を受けている患者・・・清瀬 春樹の恋人で、初デート相手のラウラ・ボーデヴィッヒ。
其の隣では、人目もはばからず涙をボロボロと流すシャルロット・デュノアと目を瞑って黙したままの更識 楯無がいた。
「うッ・・・うぅ・・・・・どうして・・・どうして春樹が・・・春樹ばっかり、どうして・・・!?」
「・・・シャルロットさん」
呼吸機器と心電図に繋がれた春樹を不憫に思って静かに泣くシャルロットをセシリアが抱き締める。
「ラウラ・・・」
簪は酷く澱んだ目を落とすラウラの手を握ると、彼女の手は酷く冷たく小刻みに震えているではないか。
「・・・・・せいだ・・・わ、私の・・・私が、もっと強ければ・・・こんな―――――」
「違うよ」
ギリリッ歯を喰いしばって自分を責めるラウラへ向かって簪はキッパリと言い放つ。
「春樹をあんな目にしたのも、春樹を苦しめたのも、全部・・・全部全部、あの
「そうだよ~、らうらう! それに・・・それにきよせんってば、いっつもどんな目に遭っても復活してきたじゃない! 今回も・・・今回も絶対にケロッと復活しちゃうよ~!!」
本音は、いつもの呑気な口調で精一杯ラウラを励まそうとするが、流石の彼女でも此の重苦しい空気を覆す事は出来なかった。
・・・・・外では雪がちらちらとチラついている。
◆◆◆
「―――――・・・・・それ、本当か?」
「ッ、一夏・・・!?」
場面は戻り、一夏の自室。
サラから春樹が重体である事を扉越しに聞いていた一夏が、ヌルーりと部屋の中へ入って来た。
「あら。やっと来たわね、真打さん。本当よ、本当。ベルセルクル・・・清瀬 春樹は、瀕死の重体で
「ッ、使い物にならないって・・・アンタ―――――」
サラの物言いがカチンと来た鈴は眉間へしわを寄せて立ち上がるのだが―――――
「・・・は・・・は、はは・・・・・ははは!」
「い、一夏?」
「ははは・・・はははははッ・・・あーっははははははは!! ざ・・・ざま、
彼女を余所に一夏はケラケラ、ケラケラととても愉快そうに笑い声を上げたのである。酷く歪んだ口端を吊り上げてだ。
そんな歪な笑顔に腹を抱える彼に鈴はギョッと目を開けるが、此れを好機と捉えたサラがニヤリと微笑む。
「さて・・・Mr.織斑。これは、
「ちょっと、アンタなに勝手に―――――
「あぁ、わかったぜ!」
―――――一夏!?」
「俺が守ってやる! 俺が・・・俺がみんなを守ってやる!! あんなヤツの代わりに俺がみんなを!!」
元来、『誰かを守る事』に執着していた一夏。
今や其れに『誰かに認められたい』『誰かに必要とされたい』と云った承認欲求が加わり、其処をサラはちょいとばっかり刺激したのである。
「待ちなさいよ! 一夏ッ、アンタは―――――」
「そうと決まれば、話は早いわ! 実は、篠ノ之 箒にももう話をつけてあるの! あなた達がいれば、清瀬 春樹なんて目じゃないわ!!」
諫めようとした鈴を押しのけて一夏の手を取るサラ。
其れに気を良くしたのかどうかは知らないが、一夏は「あぁッ、当たり前だぜ!」と大きく頷くのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート
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