IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第197話

 

 

 

雪がチラつく師走の頃。

ニュースでは、積雪の影響によって都心の交通網に遅延が発生する事を伝えている。

そんな十二月初めの()()()()になったデートから()()経過した或る日の事・・・・・

 

IS学園内に併設されている医療施設がある棟内の廊下。

其処を酷く眉間に皺を寄せた怖い表情でカツカツカツカツと踵を鳴らし行く者が一人。

 

「・・・・・」

 

其のブラックスーツに身を包んだ人物は目的の場所へ辿り着くや否や、勢い良く引き扉を開けて入室し、ギロッと目の前へ三角にした瞳を向けた。

すると其処には、心電図と人工呼吸機器、其れに幾つもの点滴に繋がれた白髪の少年が静かに眠っているではないか。

 

「・・・なにか、御用でしょうか?」

 

そして、其の少年・・・二人目の男性IS適正者、清瀬 春樹の側には、パイプ椅子へ腰を据えて彼の手を握っている銀髪の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが振り返る事無く酷く虚ろな目を想い人へ向けている。

 

「御用も何も・・・・・ボーデヴィッヒ、どうして電話にでない? それに授業への無断欠席も続いている。担任として心配して当然だ」

 

「心配? あぁ・・・そう言えば、鳴っていましたね。うるさかったので、電源を落としていました」

 

そう言って彼女が取り出した携帯端末の画面には蜘蛛の巣の様なヒビが入っており、電源を入れ直すと其処には春樹とラウラのツーショット写真が、満面の笑みで映る二人の姿が映る。

 

「それで・・・なんの御用ですか、織斑()()?」

 

振り返ったラウラの右眼のなんと澱んだ事、濁った事。まるで錆びるに錆びた鉄パイプの如き赤錆色の虚ろな光を失った瞳。

表情もどこかやつれており、憔悴しているのが目に見えて理解できた。

そんな廃人の様なラウラへ突然の来訪者たるブリュンヒルデこと織斑 千冬は、怪訝な表情と共に息を飲む。

 

「ボーデヴィッヒ・・・いや、ラウラ。少し話せるか? 清瀬の看病で疲れているだろう。気分転換にコーヒーでもどうだ?」

 

「結構です。それに・・・私は別に疲れていません。それよりもなんの御用ですか? 前置きは不要です」

 

千冬には稀とも云える気遣いの言葉をピシャリ一蹴したラウラは、再び眠る春樹へ視線を落とす。

以前の彼女なら千冬の一挙手一投足を取りこぼさぬ様に傾聴観察していたのだろうが、今や目もくれない状態である。

こんな人が変わってしまったラウラに対し、千冬は出鼻を挫かれた様な渋く表情をしかめるが、話を進める為に自分の用を彼女は話す事にした。

 

「先日未明、イギリスにて問題が発生。その問題解決にIS委員会より、IS学園専用機体所有者達へ向けて招集がかかった」

「そうですか・・・・・で?」

 

「イギリスへ行くぞ、ラウラ」

「お断りします」

 

またしてもピシャリと千冬の話を一蹴するラウラ。

其の取り付く島もない塩対応に室内へ何とも言えぬ微妙な空気が漂う。

 

「・・・どうしてだ? お前は、清瀬の仇討ちをしたくないのか? シャルロット達は、意気揚々と参加の意思を示した。清瀬は・・・ラウラ、お前の恋人だろう?」

 

「だからこそです。傷付いて眠る愛する者をおいて行きたくありません。それに・・・あまりにもタイミングが()()()()

 

「何?」

 

「春樹が襲撃されて意識不明の今、イギリスで問題? あまりにも都合がいい。どうせ、その問題とやらの発生源は()()でしょう」

 

ラウラの云う連中とは、現在進行形でIS学園サイドと敵対し、何度も交戦している国際的過激派組織ファントム・タスクの事だ。

 

「さらに言えば、IS委員会という組織もきな臭い。警視庁が襲撃された要因は、IS委員会に潜り込んだ連中のスパイのせいだと春樹が言っていました。そんな()がいる組織からの招集? 私はごめんこうむります」

 

「ラウラ・・・何か勘違いしている様なら、間違っているぞ。これは私からの()()()ではない。正式な委員会から()()だ。一緒に行くぞ!」

 

「いやです」

 

「ラウラ・・・! お前は自分の立場がどういうものなのか解っているのか?!」

 

千冬は聞き分けのない子供の様に駄々をこねるラウラの肩を掴もうと手を伸ばすのだが、「・・・・・やめてください」と彼女は千冬の手を払い除けたのである。

 

「私はドイツの国家軍人。人を顎で使う委員会の()では決してない! イギリスだろうが、何処だろうが、どうだっていい! 私には関係ない事だ!! やるんだったら勝手にやっていろ、()()()()共がッ!!」

 

「ッ、ラウラ・・・!?」

 

職業軍人であるラウラは、IS委員会からの命令に其れ程の強制力がない事を知っていた。

今までの経験上、彼女は現在イギリスで起こっている()()とやらは()()()()だろうと踏んでいた。其れも夏の臨海学校で起こった『銀の福音事件』以上の大規模なものだろうと踏んでいた。

そして、直々に千冬がこうして自分を直接呼びに来たと云う事は、大方其の作戦にあの()()()()()()()野郎が編入されているだろうと容易に予想する事も出来たのである。

 

「ラウラ・・・お前は、いつからそんなにも()()なった? 前のお前であったなら軍人としての職務を全うした筈だ」

 

「弱い・・・? えぇ・・・そうです。私は・・・・・私は、弱い!!」

 

「ッ、ラウラ・・・?」

 

「私が、私が・・・私がもっと、もっと強ければ・・・私がもっと強ければ、春樹をこんな・・・こんな目に・・・!」

 

ラウラはギリリッと砕ける程に歯噛みをし、グッと掌から血が出る程に拳を握り緊めた。

「『弱さ』は『悪』」だと、ラウラは痛感している。自分がもっと強ければ、襲撃者など難なく打倒し、春樹にこんな傷を負わせなかった筈だと云う自責の念に囚われていたのである。

 

「・・・・・もう。今日は帰って下さい、織斑先生・・・」

 

「ラウラッ、私は・・・そんなつもりでは―――――」

「帰って下さいッ・・・帰れ!!」

 

ギョロリ涙で濡れた赤錆色の瞳に、今までに見た事もない表情のラウラに気圧されたか。千冬はギュッと口を結び、バツが悪そうな表情を背けながら部屋を出た。

 

「ふぅー・・・ふぅーッ・・・ふぅーッ・・・・・うッ、うぅ・・・うわぁ・・・ぁあ”あ”・・・!!」

 

両肩で息をした後、ラウラは押し殺す様に口を抑えて涙をポロポロと其の眼から流す。しかし、彼女はすぐに眼元を乱雑に袖で拭うと静かに眠る春樹の手をとる。

 

「ぐすッ・・・す、すん・・・・・はるきッ・・・すまないな、春樹・・・! 少しうるさかったな、許してくれ。さて、今日は何を話してやろうかな?」

 

そうして真っ赤に充血した瞳と共に朗らかな微笑を浮かべたラウラは、愛する者の手を頬擦りしつつ寝物語を語る様に囁くのであった。

 

「・・・・・ボーデヴィッヒ教官・・・春樹さん・・・」

 

そんなおいたわしいラウラを扉の隙間から覗き見ながら四十院は、もらい泣きをする様に眼元をハンカチで拭うのであった。

 

 

 

・・・因みに話は変わるのだが、千冬は今回のデート襲撃事件を転機にラウラを春樹から引き離そうと画策していた。

織斑 千冬から見て、清瀬 春樹と云う男は酷く危険な人物に成り果ててしまっていた。

そんな男に愛弟子とも云えるラウラは()()している様に見受けられたのである。

だが、上記のご覧の通り千冬はあっさりキッパリ()()()()しまった。

春樹が起きて居れば、ゲラゲラゲラゲラ腹を抱えて笑っていた事だろう。

 

けれども・・・今更になってどういうつもりなのだろうか?

ラウラが春樹へ依存させる様なキッカケを作ったのは、千冬だ。

其れが今になって()が廻りきった彼女を引き剥がそうとしている。頭の点骨までどっぷり浸り、骨の芯まで浸み込んだラウラを引っ張り出そうとしている。

・・・・・最早すでに時遅しだと云うのに。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

シャルロット・デュノアの表情は非常に芳しくない。

何故なら今から()()()に彼女の想い人である少年、清瀬 春樹が謎の襲撃者によって瀕死状態へ陥ってしまったからである。

無論、彼女を含む春樹を慕って想いを寄せる戦乙女達は怒髪冠を衝くとばかりに怒り心頭。だが、当の襲撃者は何処かへ雲隠れして行方知れず。

けれども、調度そんな時だった。事件から其の二日後、ブリュンヒルデにしてIS学園一年一組担任教諭である織斑 千冬からの招集が呼びかかったのは。

 

招集内容は、イギリスにて大規模な()()が発生。

其の問題解決の為、秘密保持契約の下でIS委員会によって集められたIS学園所属専用機体所有者(いつものメンバー)達。

しかし、其のメンバーの中に居る筈の顔が二人いない。

一人は、上記にもある様に先の事件で瀕死の重傷を負った清瀬 春樹。そして、二人目は彼の両想いの恋人であるラウラ・ボーデヴィッヒである。

 

今まで部隊のリーダー格を担っていた春樹と中心火力とも云える戦力を誇るラウラが欠けている為、其の不足分を補うのに追加メンバーが二人ほど部隊へ編入された。

 

一人目は、イギリス出身のIS学園二年生、サラ・ウェルキン。

彼女は専用機を所有していないが、同じイギリス国家代表候補生であるセシリアに負けず劣らずの実力を十二分に有している。

今作戦においては、委員会より提供される機体を纏って後方支援に徹するとの事。

そして、二人目なのだが―――――

 

「どうして・・・・・どうして、あの人が・・・ッ」

 

作戦実行地へ向かう飛行機の中、シャルロットは自身の怒りと戸惑いが入り混じった目を三角にし、自分の斜め前へ鎮座する人物を睨み通す。

そんな彼女の目線の先に居るのは、()()()()にとても酷似した容姿を有している黒髪の乙女。

其の黒髪の乙女は、シャルロット・・・いや、他のメンバーから睨まれているにも関わらず、興味なさそうに機内の窓から外を眺めている。

だが、自分の真向いに目を閉じて座る千冬をチラチラと見てソワソワしていた。

 

「・・・お姉ちゃん。どうして・・・あの()が、ここにいるの?」

「そうよ。説明しなさいよ、会長!」

 

四人掛けの席の中。シャルロットへ呼応する様に簪は静かに、鈴はあからさまに怒りの表情を露わにし、現状実質的部隊リーダーである楯無へ説明を求めた。

すると楯無は、渋い表情を晒して奥歯を鳴らす。

 

彼女等が明らかな敵意を向ける追加メンバー。其の人物の名は、『織斑 マドカ』。

今まで幾度となくIS学園勢と交戦して来た国際過激派組織、ファントム・タスクの元メンバーだったコードネーム『M』とは彼女の事だ。

京都で決行されたファントム・タスク討伐作戦において捕縛され、今までIS学園地下階層へ幽閉されていた筈なのだが・・・・・

 

「ハァ―――――ッ・・・・・私もあまり詳細を聞いていないのだけれど、委員会の要請だそうよ。今回の作戦には、彼女の・・・Mの協力がいるとの事よ」

 

「だからって・・・だからって、よりにもよって何で・・・!!」

 

「気持ちはわかるわ。私だって納得できてない・・・でも、今は飲み込む事しか出来ないのよ。納得できないけれどね・・・!」

 

「でも・・・危険な事に変わりない。どうするの? もしかしたら、途中で裏切るかも・・・」

 

「簪ちゃんの心配は、ごもっともよ。でも、大丈夫。その為に彼女には()()を付けてるから」

 

「首輪・・・?」

 

楯無の言葉に皆は横目でマドカを確認すると、彼女の首元には真っ黒なチョーカーの様な物が装着されていたのである。

 

「下手な真似を擦れば・・・遠隔操作でビリビリって来る代物。ほら、文化祭の時に織斑くんが被ってた王冠と同じ原理よ」

 

「ぬるいよ・・・お姉ちゃん。せめて、『エヴァQ』みたいに頭が吹っ飛ぶぐらいにしとかないと」

「そ、それはやり過ぎなんじゃないかな・・・?」

「ううん、それでも足りないくらいよ!」

 

少々過激ともとれる簪の発言に鈴は大きく頷き、シャルロットは苦笑いを浮かべた。

其のどこかの蟒蛇的過激思想に楯無は渋い表情で頭を抱えて溜息を大きく吐き連ねる。

 

「私としても・・・簪ちゃんを危険な場所に連れて行くのは気が引けるわ。それに・・・今回の作戦は、あくまでもIS委員会からの要請。強制的な拘束力はないわ。だから、今からでも何かに理由を付けて()()()事も出来るのよ?」

 

「それこそ、冗談。彼らが・・・春樹とラウラさんがいない分、私達が頑張らないと」

 

「そうね。私もあんな状態の一夏をほっぽり出す事なんてできないわ」

 

「(鈴さんの場合は、もう()()との関係を断った方が、あなたの為だと思う)」

 

鈴の言葉に簪はグッと息を飲む。

そして、()()呼ばわりした問題児へ目を向ける。

 

「飛行機に乗るなんて久しぶりだ。やっぱりISで飛ぶのとは気分が違うな」

 

「そう? 鉄の塊を纏うのも乗るのもそんなに変わらないと思うけれどね」

 

其処には、少しやつれ顔から回復した世界初の男性IS適正者、織斑 一夏が、真向いの座席にいるサラ・ウェルキンと随分親し気な会話を楽しんでいるではないか。

とても此れから戦事に行くとは思えぬ其の何とも腑抜けた表情と呑気な話が、実に簪の癪に障る事触る事。

そんな彼女と同じ様に一夏の態度が気に入らない人物は此処にも一人いた。

 

「一夏め・・・ッ! デレデレと鼻の下をのばしおって・・・!!」

 

其れは別の座席にいる箒であった。

彼女は親指の爪をかじりながら恨めしそうな表情で一夏を凝視する。

 

「たるんでいる! やはり、私が一夏のとなりに!」

 

「ちょっとダメですよ、篠ノ之さん! くじ引きで決めたんですから大人しくしててください!!」

 

一夏とサラの間へしゃしゃり出ようとする箒を対面座席の真向かいに座っていた山田教諭が抑え込んだ。

そんな騒がしさとは裏腹に箒の隣へ座るセシリアは、どこか考え込むような表情で窓の外の雲を眺めていた。

 

「・・・・・どうしてですの、チェルシー・・・?」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『初デート襲撃事件』と後に呼ばれる敵方構成員による襲撃により、春樹が瀕死状態に陥った翌日の事。

セシリア・オルコットは、嘆き悲しむ皆から身を隠す様にある場所へと呼び出されていた。

其の場所とは―――――

 

「我々・・・()()()()としては、今回の事態について大いに危惧している」

 

薄暗い会議室とも見て取れる室内の中。中央に鎮座するセシリアを囲む様にコの字に配置された机へ陣取る顔の見えぬ大人達。

そんな彼等の背後にあるモニターには、監視カメラだと思われる映像へとある人物が映し出されていた。

・・・黒いフードで正体を隠した()()の人物がだ。

 

「現場状況や被害者証言ならびに監視カメラ映像から、三日前の未明に軍上層部が極秘裏に開発を進めていたBT兵器搭載IS三号機、通称名『ダイヴ・トゥ・ブルー』を強奪した実行犯は『チェルシー・ブランケット』と特定した」

 

「ッ、そんな・・・!? これはッ、なにかの間違いですわ!!」

 

場所は都内にあるイギリス大使館。

其の特別会議室において、緊急来日したであろう英国政府関係者からの証言に対し、セシリアは動揺の声を荒らげた。

 

「オルコット卿・・・申し訳ないが、これは残念な事実だ」

「IS強奪以外にも多数の技術関係者が負傷した。更に言えば、設備被害も甚大」

「これは忌々しき事態である。英国貴族に仕える従者、それもエリザベスⅠ世からの恩顧譜代の名家の従者が、国家に反旗を翻したテロリストになるとは・・・誠に遺憾だ! どう責任をとられるおつもりか!!」

 

だが、動揺する彼女へ大人達の無遠慮な責任追及の言葉が四方八方から浴びせられる。

セシリアはグッと下唇を噛み締めて何とか取り繕うと考えを巡らせるが、あまりに衝撃的な内容に頭が回らない。

 

『チェルシー・ブランケット』

彼女はセシリアの年上の幼馴染にして、イギリスでも名のあるオルコット家の優秀な専属メイドである。

十八歳のティーンエイジャーだが、年齢以上に落ち着いた雰囲気を身に纏っており、セシリアにとっては姉の様な存在であり、憧れや目標とも云える存在であった。

そんな彼女が、イギリス政府が開発していたISを強奪した等とは到底信じられる筈もない。

・・・・・だが、セシリアは、IS強奪事件の犯人がチェルシーだと聞いて妙な()()を抱いてしまう。

何故ならば、初デート襲撃事件発生当時、春樹を襲った実行犯の逃亡をほう助した犯人の顔を彼女は肉眼で確認していたからである。

 

出来の悪い嘘だと思いたかった。不謹慎な悪戯だと思いたかった。

けれども・・・セシリアは()()してしまう。()()してしまう。

今まで共に力を合わせて大敵を打ち負かして来た大切な戦友へ毒の滴る刃を突き刺した下手人を逃亡させた者が、血は繋がってはなくとも()()だと思っていた人間だと云う事を受け入れる事しか出来なかったのだ。

 

「従者の失態は、主人に問題があると判断される。当主の座について日が浅いならば、尚の事」

 

「・・・・・私にどうしろと云うのです?」

 

「決まっている! オルコット卿、貴君の手で国家反逆者を捕らえるのだ! この際、生死は問わん!!」

「この事態は()()の耳へも届く。家名に泥を塗った()()()()を主人の手で裁くしか、オルコット家存続の道はないのです!」

「他国に身柄を掠め盗られる前に必ず我々の手で()()しなければ!!」

 

力を入れて論を講ずる政府職員達の其の身勝手とも云える言い分に対し、セシリアは下唇を食んだまま奥歯を軋ませる事しか出来なかった。

「どうして?」と思った。「何故?」と思った。「何か悩みがあるのならば相談して欲しかった」と思った。けれども・・・いくら連絡をかけようとも音信不通。

ただ、重苦しい嫌な気持ちだけが、セシリアの心を覆うばかり。

 

・・・もし此処へ勘の良い()()が居れば、動揺する彼女の心境に()()に気付き、どうにかしようと・・・・・いや、どう自分にとって()()()()()様にするか策謀を張り巡らせただろう。

しかし・・・今は此処に其の頼れるべき存在は居ない。

抱え込まなくても良い秘密を胸にセシリアは孤独に苛まれるばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

鉛色した厚い雲の下へ広がる広大な凍土。

其処では、今まさにごうごう冷たい北風と共に雪が斜めに吹きすさんでいる。

そんなホワイトアウトするかしないかの北の大地にポツンとあるのは、今や放棄された赤錆目立つ旧ソ連軍事施設基地。

 

「―――――”目標”が作戦行動域に入りました。」

「すべてオールグリーン。いつでも行けます」

 

けれども、今日は珍しく施設設備が稼働していると共に軍用防寒着を着込んだ人間の活動が確認できる。

彼等は、今やローテクとも揶揄されるであろうオンボロレーダー探知機を頼りにある作戦を実行段階へ移行しようとしていた。

 

「―――――諸君、私はこの時を待って居た!」

 

整然とする屈強な軍人達の前に佇み声を張り上げる人物が一人。

其の人物の一言一挙手一投足を聞き逃さぬ様に彼等は胸を張る。

 

「今日、今より、我々は長い間奪われていたあの”()()”をあの傲慢なる不届きな連中共からこの手に取り戻す! 我らに勝利を!!」

Ураaaaaッ!!

 

雄叫びを背に彼女は出撃位置へと軍靴を鳴らして進んでゆく。

だが、振り返って雄叫びから顔を背けた瞬間。其の表情は凛々しさから打って変わって、酷く歪んだ笑みを浮かべたのだ。

ニチャァアリと吊り上がった口端からは、少しばかり涎が垂れる。実に品のない締まりのない悪く言えば下卑た恍惚の微笑を浮かべている。

 

くふふッ・・・くひひひ・・・・・ハァッ、はぁッ、ハぁッ・・・やっと、やっと会える♥ 待って居て下さい・・・()()()()ぁああ♥♥

 

・・・・・()()()の乱入まで、カウントスタート。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆











『清瀬 春樹についてのカルテ』
該当者は十二月未明に起きた敵勢力の襲撃により、意識不明の重体へと陥る。
其れでも彼が有するであろう異常治癒能力ならびにラウラ・ボーデヴィッヒ女史の唾液に含まれる生体医療ナノマシンにより、ナイフ刺傷並びに凶器へ付着していた毒物へのショック症状を緩和。一時的安定を保持する事に成功する。
だが、未だ意識回復には至らず、植物状態である。

しかし、気になる点が大まかに二つ取り上げられる。

第一に輸血用パックの()()()が通常の三倍であり、輸血を行わなければ、失血症状が見られた。
幸いにも内出血や傷が開いた事による出血は見られていないが、輸血された血液が一体何処へ行ったのかは現状不明である。

第二にサーモグラフィー映像によれば、常時肩から発生した温度が一気に両掌へと広がり、其の掌から胸へ、胸から腹へ、腹から大腿部へ、大腿部から爪先へと波を打った様に達している。
専門分野からの意見によれば、ベッドで寝たきり状態にも関わらず、当人は()()()()()との事。
其れもサーモグラフィーから確認できる熱量から見るにオリンピック選手と同等か其れ以上の運動量を行っている。
其れが原因なのか不明瞭であるが、徐々にだが、彼の筋肉量は増加の一途を辿る。

現状、現代医療では未だ解明できぬとんでもない事が、彼の人体内で起こっているのが確かな事だけが判明した。

・・・・・因みにだが、警視庁襲撃事件後に彼から提供された細胞サンプルに投薬実験を行った際、()()()()を投与したサンプルに爆発的な細胞分裂が発生。
此の事から清瀬 春樹の覚醒には『命の水』が必要だと仮定。
以上を以て、私は『八塩折之酒』を彼に与える事を此処に推奨する。

担当医:芹沢 大助

極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート

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