放課後。
織斑の野郎の乱入でデュノアさんとの模擬戦をする前に興ざめから、早々にアリーナから逃げた俺は・・・
「答えてください、教官ッ! 何故こんなところで教師など!!」
「・・・何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
・・・なんか修羅場シーンに出会ってしもうた。
別段、これは偶然じゃない。
あの時、不覚にも織斑の野郎を助けるような事をやっちまったから、「邪魔をして悪かったな」とボーデヴィッヒさんへ謝る為に彼女を追ったんじゃが・・・俺は密偵のように隠れとる始末じゃ。
「このような極東の地で何の役目があるというのですか! お願いです教官ッ、我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も活かされません」
ほ~ん、織斑先生ってドイツで指導かなんかしょーたんじゃのぉ。ボーデヴィッヒさんが先生に随分と懐きょーるんわ、その為か。
・・・じゃけど、話半分でも”訳アリ”色が濃いのぉ。
「大体・・・この学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません」
「ほう、何故だ?」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている! そのような程度の低い者たちに教官が時間が割かれるなど―――――」
「・・・そこまでにしておけよ、小娘」
きゃー、織斑先生が怒ったー。
効果音を付けるなら『ドドド』よりも『ゴゴゴ』じゃろうな。何とも凄味があるのぉ。
じゃけんど、ボーデヴィッヒさんの言よーる事も満更でもなかろう。
絶対防御がある言うても、ISは所詮は兵器じゃ。人を惨殺するための人殺しの道具でしかなかろう。
ここに通っている輩は、殆どその認識がないじゃろうな。
それに・・・・・
「少し見ない間に偉くなったな。十五如きの小娘がもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は・・・」
あんたは、なんでそねーに頭ごなしにしか怒れんのじゃ?
見てみぃ、ボーデヴィッヒさんがションボリしてしもうとるで。あねーな怒り方したら、萎縮してしまうでよ。
先生に怒られて、下唇を噛みながらトボトボとその場を後にするボーデヴィッヒさん。
・・・謝るついでに、なんか甘いモノでも奢っちゃろう。
◆◆◆◆◆
「・・・いつまで盗み聞きをしているつもりだ?」
ギロリと先程の凄味を保ったまま千冬は鋭い視線を壁際に突き刺す。その視線に突き刺されたのか、困った様に隠れていた春樹が顔を覗かせた。
「いや・・・別に盗み聞きをするつもりなんて、これっぽっちもありませんでしたよ。ただ、俺はボーデヴィッヒさんに用があるだけでしたから」
「なに、お前がボーデヴィッヒにか?」
春樹の言葉が意外だったのか、眉をひそめる千冬。
そんな彼女の表情に春樹はもっと眉をひそめた。
「別に構いやしませんでしょう。彼女はもう先生のモノじゃあないんでしょう?」
「・・・どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。彼女はもう貴女の所有物じゃないって意味です」
ゴウッと千冬の殺気が春樹を包み込む。
しかし、春樹はあっけらかんと尚も言葉を続けていく。
「さっきの話を聞いていて思ったのは、『別れた恋人が未練がましく自分に付きまとって来てウザったらしい』って感じでしたよ。いや・・・ここは『別れた』じゃなくて『捨てた』と言う方が正しいか」
「なんだとッ」
「だってそうでしょうが。さっきの話し合いでも、あんな言い方はするもんじゃないですよ。でも元とは言え、流石はブリュンヒルデ様だ。人を見下して、利用価値がなくなったらポイか」
「何を馬鹿なことを。私は生まれてこの方、人を下に見るなど―――――」
「・・・ちょっとちょっと待ってくださいよ、織斑先生。もしかして、自覚してらっしゃらないんですか?」
「オイオイ」とばかりにワザとらしく頭を抱える春樹。
その姿が癇に障ったのか、千冬は彼との距離を詰めようと一歩を踏み出す。
「他人の意見なんぞ聞こうともしないし、ヘマをした人間に言葉で注意すりゃあ良えのに・・・貴女はわざわざ出席簿で殴って黙らせる。正に自分こそが正しいと言わんばかりに立振る舞っているじゃないですか。阿破破破・・・・・一体何様のつもりなんじゃ、アンタ」
「ッ!」
異質な笑い声の後、ギョロリと見開かれた春樹の眼が千冬に向けられた。
そして、彼もまた彼女との距離を詰める様に一歩を踏み出した。
「さっきの事もそうじゃ。昔の教え子の言葉に耳が痛いからと無理に言葉を切りにかかったのか、面倒になったなのかは知らんが・・・あねーな言い方はせんでも良かったんじゃあないですか?」
「ボーデヴィッヒには、あの方がいい。それに私とボーデヴィッヒの話は、お前には関係ない事だろう」
「確かにその通りじゃ。俺はアンタら二人の関係がなんなんだろうとどーでも良え。・・・じゃけど、気に入らん。説明を求めた彼女にただの圧力で追い返したアンタの態度が気に入らんのんじゃ」
「「・・・あ”ッ?」」
ついに手が届くところまで近づいた二人はメンチをきりあう。
剣呑な雰囲気が二人から周囲へと放たれていき、この場面に偶然にも通りかかった生徒は方向転換を余儀なくされる事になったのだった。
「・・・小僧、今回はお前の度胸に免じて見逃してやろう」
「それは有難い。年増の・・・いや、年長者の言う事には甘えましょうかねぇ」
「「・・・あ”ぁ”ッ?」」
・・・もう喧嘩した方が早いんじゃないか、と思えるくらいのやり取りをもう何回か交えた後、二人は別々の方向へと歩むのだった。
◆◆◆
「・・・(気に入らん。気に入らんッ、気に入らん! あーもうッ、気に入らんッ! むかっ腹が立つのぉ!!)」
千冬と別れた後、春樹は酷い形相で顔を歪め、心中絶叫しながら食堂に向かっていた。
「(あの先公はムカつくし、ボーデヴィッヒさんは見失うし、織斑の野郎がまたしつこー飯に誘うようになってきやがったし、散々じゃ!)ギリギリギリ・・・ッ!」
声には出していないが、その機嫌の悪い表情と歯軋りに擦れ違う無関係な生徒達は思わず彼を避けた。
ちなみに一夏からの『一緒に飯食おうぜ』攻撃はなんとか逃げる事に成功している。
「(つーか、なんでこんなに腹が立つんじゃ!? いつもじゃったら、あねーに人に突っ掛かったりせんのんじゃけどもッ・・・やはり酒かッ、酒がないからか?!! 酒飲みたい酒飲みたい、飲みたい飲みたい飲みたいィイッ!! イライライラアアアッ!!)」
ついにアルコールに対する禁断症状まで出始めた春樹。
船上へ釣り上げられた鰹のように震える右手をポケットにしまい、食券販売機の前に立つ。
そして、目当てのものを見つけると壊れるくらいにボタンを連打した。
こうなったら自室に籠っている方が良いのだが、生憎とシャルロットのいる部屋は居心地が悪い。加えて、射撃場はゲロを吐いた事による無期限の出入り禁止になってしまっていた。
「・・・あ?」
そんな彼が一瞬の内に冷静になった。
食堂の奥にあるテーブルに探していた銀色がちょこんと座っていたからだ。
「・・・ふむ・・・これも持っていくか」
彼は普段なら食べないようなものをお盆に入れると目当ての人物が座っている真向かいへ移動した。
「ここ、よろしいかボーデヴィッヒさん?」
「貴様は・・・・・ふんッ」
「沈黙は肯定って事で・・・失礼しますよっと」
ラウラは灼眼の目で春樹を睨むが、すぐに食事へ目を落とした。
大して断られる事もなかったので、彼女の真向かいへ座わる春樹。
異質な転校生と不気味な問題児の組み合わせに周りにいた生徒達が、ヒソヒソとざわつき始めた。
「あ~、そうだ。これ良かったら、どうぞ」
春樹はそう言いながら、ラウラの前にあるものを差し出した。
「・・・なんだこれは?」
「え、アイスクリームじゃけど・・・勿論、知っとるよな?」
「当たり前だ。そうではなく、どういうつもりかと聞いているのだ」
ジロリと燃えるような灼眼が春樹を貫く。機嫌が悪いのか、いつもより目が鋭い。
「そう睨まんでくれや。アリーナで邪魔をして悪かったなっていうお詫びじゃ」
「それに・・・」と春樹は付け足して言おうとしたが、傷心に塩を振る行為だと思い、言いとどまった。
「・・・そうか。なら、受け取ってやろう」
「おう、食ってくれや。阿破破ッ」
彼女の上から目線の反応に朗らかに笑う春樹。
加えて、不思議と先程までのイライラが緩和され、手の震えも収まっていた。
「・・・清瀬 春樹、貴様に聞きたい事がある」
「ん、なんね?」
食事とデザート食べ終え、春樹が注いだお茶を出せれたその時。ラウラはぶっきらぼうに彼へ語り掛けた。
「貴様は、織斑 一夏をどう思っている?」
「嫌いだよ。・・・あぁッもしかして、君も勘違いしてるな」
「なに?」
「あのままボーデヴィッヒさんが野郎を撃っていたら、攻撃の余波で俺にもダメージが来るかと思うた。じゃけん、アイツを殴り飛ばしたんじゃ。助けようなんて思うた訳と違うで」
「・・・そうか」
「おお、そうじゃ」
短くそう答え、ズズッとお茶を飲む春樹。つられて、ラウラも湯飲みに口をつける。
「清瀬 春樹、貴様はなぜ織斑 一夏を嫌っている?」
「・・・それは興味本位? それとも共通の敵に対する探り合い?」
「どちらでもいいだろう、早く答えろ」
相変わらずの尋問口調に「ヤレヤレ」と溜息を吐きながら、春樹は考え込む。
理由をあげればキリがないので、言葉を選んでいるのだろう。
「第一に、あの野郎がISを動かしたせいで、俺の愛すべき退屈な平穏が奪われた事。第二に、強制的にこの学園に入学させられて、勝手な義務を押し付けられた事。そして第三に、シンプルにアイツの外見が嫌い。ついでに性格も嫌い。アイツのせいで『バナージ×オードリー』のカップリングの尊さに気づくのに一、二年遅れた。おのれオノレ己ッ・・・!」
「そ・・・そうか」
一夏に対する春樹の思い、特に後半への熱のこもった内容に若干引き気味になるラウラ。
「そーいう君はどーなんじゃ、なんで織斑が嫌いなんじゃ? それは・・・もしかせんでも織斑先生関連か?」
「あぁッ、そうだ! ヤツさえいなければ、教官は・・・教官は!!」
「おっと、まぁ落ち着けボーデヴィッヒさん。ゆっくり話してくれ。ちゃんと俺、聞いちゃるけん」
「・・・わかった。ならば、私と教官の出会いから話そう」
「・・・それ長い?」
彼女の変な扉を開けてしまった事に若干の後悔をしながら、話を聞く体勢をとる春樹。
ちなみに・・・何故だか、彼は人の話を聞くときはメモを取る癖があった。
「あれは春の訪れを感じられた時期だった。教官は一年間だけ我が部隊に来てくださったのだ」
「部隊? 教習所とか学校じゃなくて、部隊?」
「言っていなかったか? 私はドイツ軍IS部隊所属にしている。階級は少佐だ」
「『少佐』ッ!? マジで?!!」
「・・・なにか文句でもあるのか?」
「・・・いや、別に」
この時、春樹の頭にはサイボーグになる前の誇り高き五月蠅いドイツ人少佐とカリスマデブと名高き、白軍服の大隊指揮官殿が浮かんでいた。
「・・・続けるぞ。我が部隊はIS運用が主なのでな。教官は織斑 一夏が拐われた時、その捜索に我がドイツ軍が支援したのを恩義に感じ、一年間だけ教導してくれたのだ」
「ほ~ん、なんとも律儀な話じゃ。恩返しの為に遥々ドイツまでなぁ」
「あぁッ、そうだ。その時、教官は落ちこぼれだった私を救ってくださったのだ! だから、教官は私の恩人なのだッ!」
「・・・なら、ボーデヴィッヒさんは織斑先生の事が大好きなんじゃね」
「あぁッ、勿論。お慕いしている!!」
「ほ~ん(・・・かわええのぉ)」
「エッヘン」と何故かドヤ顔で胸を張り、嬉々と楽しそうに千冬との事を語るラウラに春樹はホッコリと癒しを感じていた。
・・・・・だが。
「・・・ん? それがなんで『織斑の野郎を認めない』って話になるんじゃ?」
「・・・・・」
この春樹の一言に嬉々と楽しそうだったラウラの表情は一転。主君の仇でも憎むような表情へ変貌した。
「ヤツさえ・・・ヤツさえいなければ、教官は前人未到のモンド・グロッソ二連覇という偉業を成し遂げていたに違いない。それをヤツが邪魔したのだ。織斑 一夏は教官の汚点でしかない! だから、私はヤツを認めないッ!」
「・・・阿破破ッ、阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
苦々しいラウラの言葉に春樹はなんと笑い声で返した。
突然、腹を抱えて笑い出した彼の姿にラウラは驚き、周囲の生徒はその不気味な笑い声に引いた。
「な、なにが可笑しいのだ?!!」
戸惑うラウラになんとか笑い声を抑えながら、春樹は言葉を紡いでいく。
「阿破破破ッ・・・いや、悪い悪い。そこまで”俺と一緒”じゃったとは・・・ビックリしちゃってのぉ」
「『俺と一緒』? どういう意味だッ?」
「よくよく考えてみんさいな、ボーデヴィッヒさん。どうして、織斑先生はドイツに来たんだ?」
「む? それはさっき言っただろう。織斑 一夏の捜索に我が軍が支援したと。その恩義に報いるために教官は―――「なら、野郎が誘拐されていなかったら?」―――・・・なに?」
「織斑の野郎が誘拐されず、織斑先生がモンドなんとかで二連覇をしていたら? 先生はドイツに行っていたじゃろうかのぉ?」
「それは・・・・・」
最初は春樹が言っている事に疑問符を浮かべていたが、その内に段々と塩をかけられた青菜のような色に表情を染めていった。
「俺は野郎に対するこの憎悪の理由を知っとる。これは織斑に対する『逆恨み』じゃ。俺は解っとる上で、アイツが嫌いなんじゃ。だが、ボーデヴィッヒさん・・・君はどうじゃろうか?」
「わ・・・私・・・私は・・・ッ!」
動揺し、オロオロするラウラ。
そんな彼女を薄ら笑みで見つめた春樹は立ち上がり、去り際にこう耳打ちした。
「それは『嫉妬』じゃ。慕っている大好きな織斑先生が、ボーデヴィッヒさん以上に大切にしている人間がいると言う事に対する憎悪じゃ。君は・・・織斑 一夏に嫉妬心を抱いとるんじゃ」
「ッ・・・くッ!!」
囁かれる春樹の声に何故か身震いしたラウラは反射的に手を上げる。
しかし、それを春樹は容易く避けると笑みを溢した。
「じゃあの、ボーデヴィッヒさん。一緒に食事が出来て嬉しかったで。阿破破破ッ」
「・・・・・」
背を向けながら手を振る春樹にラウラは、ただ黙って視線を突き刺す事しか出来なかった。
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆