IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※赤字はドイツ語



第201話

 

 

 

国際IS委員会の要請を受領し、イギリスへと向けて飛び立ったIS学園精鋭専用機所有者一行。

しかし、彼等の乗る航空機がロシア領空内においてロシア宇宙軍の襲撃を受けてしまう。

軍との交戦を避けたい学園勢は、ロシアIS国家代表の更識 楯無を殿軍としてロシア軍の応対を任せると、部隊を二つに別けて早々に離脱したのだった。

 

ロシアを起点にドイツからイギリスへ入国する部隊とフランスからイギリスへ入国する部隊に分かれたIS学園勢。

彼等は、背後から迫る追剥共から逃げる様に寝る間を惜しんでEU圏内まで一気に飛ぶと其処から鉄道に乗り込んで、息を潜めて目的地へ向かって行く。

だが、幾らIS学園の精鋭と言っても、外部協力者なしの旅は少しキツい。・・・と云う訳で、二つの部隊は持っている()()を使う事にした。

 

「ど、どうぞ・・・どうぞ、よろひくお願いしまっひゅ!」

 

ドイツルートでイギリスへの入国を目的とする小隊を率いる山田教諭は、酷く緊張していた。

御蔭で、噛み噛みの舌っ足らずに拍車がかかる。

 

「そんなに緊張されなくとも結構です。ブリュンヒルデ・・・織斑 千冬()()から、あなた達を無事にイギリスへ運ぶ様に頼まれていますので」

 

見るからにド緊張な山田教諭へ優しい言葉を掛けるのは、ドイツルート中継基地として使用するドイツ軍基地責任者、ミッターマイヤー准将。

髭を蓄えた威厳のある赤毛の軍人紳士だ。

 

「しかし、随分と災難な目に遭われましたな。露軍の戦闘機に襲撃を受けるとは・・・お疲れでしょう。少しの間ですが、あなた達がゆっくり休める様に務めさせて頂きます」

 

「あ、ありがとうございます! 独軍からのご厚意、甘えさせていただきます!」

 

「なんのなんの。織斑教官・・・いえ、今は先生でしたな。彼女には、うちの将官達が随分と世話になったのです。これくらいの事はお任せください。・・・・・ところで、山田先生?」

 

「は、はい! なんでしょうか?!」

 

「つかぬ事をお聞きしますが・・・一体何の目的でイギリスへ向かうので? それは部隊構成の中に我が国の国家代表候補生、ボーデヴィッヒ少佐が含まれていない事も関係しているのですか?」

 

表情は柔らかいが、一瞬にして目の奥を歴戦の軍人へと変貌させるミッターマイヤー准将。

彼は、IS委員会からの一方的で不明確な要請を無下にする訳にもいかなかった事と一年の短期間とは言え、軍の教官を務めた千冬からのお願いもあって受ける事にしたのだが、職業柄か其れとも単なる好奇心からか、山田教諭へ疑問符を投げ掛けた。

 

「ッ・・・そ、それは・・・・・申し訳ありませんが、規則なので。外部の方へ情報共有できない事になっているのです」

 

「そこを何とかできませんかね? 一応、私はボーデヴィッヒ少佐の保護者を担っている。それでもダメですかねぇ?」

 

ニッコリと人懐っこい笑顔を浮かべる准将だったが、其処はIS学園に勤める教員である。

「えと、えと・・・!」と口籠りながらも詳細を一切言わず。

 

「ご・・・ごめんなさいッ、言えないんですぅ! 失礼しまーす!!」

 

・・・と、さっさと退室してしまう。

其の速度たるや正に電光石火。

 

「(ふむ。見事な息も吐かせぬ退却速度。流石は、元国家代表候補生で現IS学園の教員と云った所か)」

 

山田教諭の逃げ足の速さに感心しながらミッターマイヤーは自席の電話受話器を手に取った。

 

あぁ、私だ。彼女等の()()には、彼女等に任せる。そうだ、『黒兎部隊』にだ。くれぐれも彼女等から目を離すな

 

通話を終えた後、ミッターマイヤーは「ハァ・・・ッ」と溜息を漏らす。

 

「(しかし、山田教諭のあの様子・・・あれだと「言えない」と言うより、「知らない」と云った方が正しいかもしれんな。まったく・・・IS委員会め。今度は、一体どんな面倒事を抱えこんだんだ?)だが・・・あのお嬢さん達には悪いが、うちの()()()()()()があの中に入って居ないのはせめてもの幸いだ

 

ボヤキの様な呟きの後、「よし!」と彼は手を叩くと、自分の鍵付き開き戸の中から硝子瓶を取り出した。

硝子瓶の中は赤琥珀色の液体で満たされており、其れをミッターマイヤーは飾り硝子のグラスへとぷとぷ注ぐではないか。

 

こうも寒くては仕事にならん。ちょっとだけ・・・ちょっとだけだぞ、クラウス・ミッターマイヤー

 

さぁ、此れからグラスの中を空っぽにしようとした瞬間・・・デスクの上の固定電話が唸りを上げた。

折角の休憩時間を邪魔されてミッターマイヤーは「も~ッ」と口をすぼめるが、仕方ないので受話器を手に取る。

 

准将、日本大使館よりお客様方がお見えになっております

 

ん? 日本大使館からだと? 今日は、そういった予定はなかった筈だが?

 

なんでも緊急の要件だそうで・・・急ぎで准将に取り次いで欲しいとの事です

 

「(緊急の要件? このタイミングでか?・・・・・・・・なにか()()()()()がするな)」

 

不穏な事を感じつつも、ミッターマイヤーは日本大使館からの使者を通す事にした。

 

 

 

そして・・・彼の()()()()()は、的中してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「みなさん、調子はどうですかぁ?」

 

ド緊張の会合を終えた山田は、疲労を振り払う様に自分の頬を叩いた後、生徒達が待機している部屋へと無理に笑顔を作って入室する。

 

「あ・・・」

「山田先生・・・・・」

 

室内には、随分と疲労感を漂わせる箒・セシリア・鈴・サラが気怠そうにソファや椅子に腰を据えていた。

 

「もう大丈夫です。ドイツ軍の方々が、身の安全を保障してくれるよう約束してくれました。イギリスに行くまでの間、休ませていただきましょう!」

 

カラ元気で場を和ませようとする山田だったが、どうにも暗い雰囲気を振り払う事は出来ない。

此のどんより暗い雰囲気な訳は、自分達を此処まで逃がす為にたった一人で殿軍になってくれた楯無の安否であった。

 

彼女とは後で合流する予定なのだが、ロシア領空内で別れたのを最後に音沙汰が一向にない。

何かあったのだろうかと思わずにはいられなかった。

 

「会長・・・大丈夫でしょうか?」

 

「一応あんなふざけた感じだけど、IS学園の生徒会長でロシア国家代表よ。大丈夫よ、大丈夫・・・・・たぶん」

 

沈んだ雰囲気が続く中、皆を元気付けようと脳内で言葉を探す山田だったが、どうにもこうにも舌が廻らない。

・・・こんな時、()()()ならどうするだろうか?

 

「うだうだしてもしょうがない! 今は目の前の事に集中する事が先決だ!」

 

「皆ッ、顔を上げろ!!」と声を張り上げたのは、篠ノ之 箒であった。

彼女は声を発すると共に立ち上がり、皆の前で大きく手を振り上げる。すると「そうね」と賛同する声がした。

 

「殿を買って出たのは、更識本人よ。なら、それは本人の責任。私達が気負う事はないわ」

 

「そ、それは・・・あまりにも薄情ではありませんか、ミス・ウェルキン?」

 

「オルコット卿、私達の目的は何? 更識は、私達が目的を果たす為に()()になったの。だったら、彼女の為にも私達は前に進むべきなんじゃないのかしら?」

 

サラの尤もらしい意見に口籠るセシリア。

・・・だが、彼女に不信感を募らせている者が呟く様に言葉を並べる。

 

「・・・・・随分、口が上手い事言ってくれるじゃない」

 

「鈴さん・・・?」

 

凰 鈴音は、眉間にしわを寄せてジットリとサラを睨む。

背丈は彼女の方が低い為、サラを上目遣いで見る形となった。

 

「私、あんたの事がイマイチ信用ならないのよ。その口車に一夏が乗せられたせいで、私達はこんな所まで来たんだから!」

「おい、鈴!」

 

無遠慮な物言いの鈴に箒はムッと眉をひそませる。

しかし―――――

 

「凰さん、あなた・・・・・本当に可愛いわね」

「ッ、はぁ?」

 

サラは鈴の態度に対して口端を吊り上げ、彼女を賞賛するかの様な言葉を並べたのだ。

まさかの言葉に驚いて身体が固まる鈴だけではなく、妖しく色っぽく微笑むサラへ皆の視線が釘付けとなってしまう。

 

「大丈夫、大丈夫よ。別に私は、彼を・・・一夏を狙ってる訳じゃないから、心配しないで。あなたもよ、篠ノ之さん」

 

「べ、別に私は一夏の事など・・・!」

 

「今更ね。私が一夏が喋っている時のあなた、親の仇でも見る様な目だったじゃない」

 

「フフン♪」と得意げなサラの表情に対し、鈴と箒は「むぅ・・・ッ」とバツが悪そうに眉間をひそめた。

 

「別に私の事を無理に信用しようなんてしなくてもいいわ。私達、今までそんな接点なんてなかったんだから」

 

「で・・・ですが、ミス・ウェルキン。それでは、作戦遂行に対する士気に影響が出てしまいますわ!」

 

「確かにそうかもしれないわね・・・」

 

「・・・・・でもッ」と前置いたサラは、セシリアの耳元まで近づいて一言ボソりと呟く。

 

()()()するような人間をどうやって信用しろって言うの?」

「ッ・・・!?」

 

ギョッとするセシリアを尻目にサラは大きく伸びをし、「山田先生、そろそろシャワーを浴びたいんですけど?」と山田へと問う。

 

「そ、そうですね! 皆さん、シャワーでサッパリした後で食事にしましょうか!」

 

「いいですわね。私、もうお腹ペコペコ。みんなもそう思わない?」

 

彼女の疑問符に皆はただ黙って頷くしかなく、サラ・ウェルキンと云う人物像に謎が深まるばかりであった。

 

調度其の時、部屋の扉をトントンとノックする音が聞こえて来る。

そして、「失礼します!」の声と共にあの()()()()()()()厳つい()()を着けた人物が部屋へと入って来た。

 

「私は、ドイツ国防軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』で副隊長を務めさせております、『クラリッサ・ハルフォーフ』大尉と申します。今回、我が部隊がIS学園専用機所有者方の護衛として配属されました。短期間ですが、よろしくお願いいたします」

 

軍服姿で敬礼を表するクラリッサ。

其の荘厳ながらも美しい振る舞いに対し、皆が緊張の面持ちで「は、はい! よろしくお願いします!」と返答する中、サラだけは砕けた態度でこう言う。

 

「それでは、大尉殿? シャワー室に案内してくれませんこと?」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

其の日、独軍IS部隊所属のクラリッサ・ハルフォーフ大尉は浮足立っていた。

実は此処数日、彼女の尊敬して敬愛して()()()()()上官であるラウラ・ボーデヴィッヒからの連絡が滞っていたのである。

彼女との最後の通信内容は、恋人とのデートをどの様に過ごせば良いのだろうかと云う恋愛相談であった。

 

其のラウラ・ボーデヴィッヒの恋人と云うのは、世界で二番目に発見された男性IS適正者、清瀬 春樹である。

彼はVTS事件で窮地に陥ったラウラを救出し、更に何処から仕入れたのかドイツの国家機密を楯にドイツ政府と交渉して彼女の身の安全を確保した大恩人だ。

そんな人物との恋愛をクラリッサや彼女が所属する部隊、シュヴァルツェ・ハーゼが応援しない訳がない。

そういう訳で、一般的な学生や年頃の少女の感覚に疎いラウラへ皆は良かれと思って色々吹き込むのだが・・・・・クラリッサを始めとした他の部隊員達は、サブカルチャーによる偏った日本文化を有していた為、時折り誤った情報をインプットしたラウラに春樹が困惑してしまった事が多々あったと云う。

 

・・・話を戻そう。

そんなラウラの恋路を全力で応援している部隊各員だったのだが、初デートの感想がいつまで経っても来ない事に四苦八苦で悶えていた。

春樹との交際宣言以降、ラウラから定時連絡で送られてくる恋人との甘々な日常報告が、今や忙しく厳しい軍隊生活を過ごす部隊員のオアシスとなっていたのである。

そんな時に微笑ましく、時に刺激的で、時に口から砂糖を吐く糖度の定時報告が滞った事は、死活問題とも云える重大事件。

しかし、此方から報告をせびるのは、あまりにもナンセンス。

其れ故に部隊員達は、溜息を漏らす日々を送っていたのであるが・・・・・

 

「ッ、何ですと!? 清瀬殿が重体!!?」

 

シャワー室への道すがら鈴やセシリア達からIS学園一行にラウラや春樹が含まれていない理由を聞いたクラリッサは、ギョッと表情を歪めてしまう。

 

「ちょっとッ、大尉さん!!」

「声が大きいですわ!」

 

「も、申し訳ありません。しかし、どうして・・・? 少佐殿より、清瀬殿はタフガイだとお聞きしていたのですが?」

 

「詳しくは言えませんけど・・・凶器に毒が塗られてたらしいです。それで、流石の春樹も・・・」

 

「一応、命は取り留めましたが・・・危険な状態に変わりはありませんの」

 

「・・・なるほど、それで少佐殿は日本に残ったのですね」

 

「・・・意外だ」とクラリッサは口に出さずとも驚く。

彼女の知るラウラ・ボーデヴィッヒと云う人物は、あらゆる兵器の操縦方法や戦略などを体得した自分を戦う為の道具だと自負している戦闘マシンの様な冷徹な人物であった。

最近は、恋愛を知った事で性格や表情が軟化したとは言っても、傷付いた恋人の為に傍に残る様な御淑やかな性格ではなかった筈だったのである。

 

「(・・・・・変わられたのですね、少佐殿。お優しくなられたのですね、少佐殿。ですが・・・このような形で、あなたの変貌を知りたくはなかった!)」

 

ギュッとクラリッサは拳を静かに握り緊めた。

推している上官の性格変化の良い兆候を皮肉にも彼女の悲しみで知る事になるとは思ってもみなかった為、彼女はグッと奥歯を噛み締める。

 

「オルコット卿に凰さん? あまり()()()に話すような事柄じゃないんじゃないかしら?」

 

「・・・ミス・ウェルキン、それは違いますわ。」

 

「何ですって?」

 

「大尉は部外者ではありません。彼女は、ラウラさんの()()()の方です。知る権利はありますわ」

 

二人目男性IS適正者の情報流出を耳打ちで咎めるサラへ、セシリアはピシャリと反論した。

 

セシリアは、日頃よりラウラから自分の所属する部隊の話を聞いていた。

遺伝子強化素体のデザインベビーである彼女にとって、部隊各員は血が繋がってはいないが、家族と云える存在であったのである。

其れ故にセシリアは、ラウラを心配するクラリッサに事情を話したのだ。

・・・勿論、全てではないが。

 

「ウェルキン先輩、セシリア達の事は放って置きましょう」

 

「でも・・・」

 

()()()がどうなろうと知った事ではないが、私も少しラウラや大尉の気持ちは解ってやれるつもりだ。少しは容赦して欲しい」

 

「・・・・・そう。なら、仕方ないわね」

 

そうこうしている内、大尉の案内によって一行はシャワールームへと到着するのだが・・・

 

「あの、大尉さん?」

「シッ・・・静かに」

 

何故か、シャワー室の入り口で一行へ待機を命じたクラリッサは、右手へ部分展開によって自身の専用機大型武装を顕現させる。

『ナハト・ナハト』。ラウラの専用機シュヴァルツェア・レーゲンの右肩に装備されている大型レールカノンの発展型であった。

だが、何故に彼女は此の様な物騒な代物を顕現させたのだろうか。

 

「(此方は女性兵士の宿舎。其れに、この時間帯にシャワー室を利用は禁止されている。侵入者か・・・!)」

 

職業柄の勘によってシャワー室に人の気配を察知したクラリッサは、ゆっくりと侵入者に気取られぬ様に距離を詰めて行き、一気に扉を蹴っ飛ばして其の銃口を突き立てた。

 

動くな!!

 

「うわおッ!?」

 

口を開けた大型カノンの先に居たのは、真っ白なパンツを履いた上半身裸の白髪男。

彼はクラリッサの突然の登場に締めようとしたベルトを落っことし、藍色のボトムズをずり下げてしまうマヌケな恰好になってしまう。

 

「え、えと・・・あの、俺は―――――」

黙れ! 手を頭に置いて、ゆっくりとこっちを向け!!

 

クラリッサの怒号に「解ったけぇッ、撃たんといて!」と観念の言葉を発し、彼女の云うう通りゆっくり正面を向いた。

 

「此れでエエですかい?」

 

すると其処に居たのは、鍛え抜かれた鋼の様な肉体へ銃傷・裂傷・刺傷・火傷の跡が至る所に這い回る右眼を黒い眼帯で覆い、左頬に傷を負った爬虫類顔のアジア人。

彼は引き攣った作り笑いをクラリッサへ向ける。

 

ッ・・・そのアイパッチ・・・・・貴様ッ、何者だ?!!

 

ところが、敵意なしの男の笑顔とは裏腹にクラリッサは更に眉間へしわを寄せたのだ。

実は、男のしている眼帯は、シュバルツェ・ハーゼの部隊各員が付けている特別な物であったのである。

其れを見知らぬ男が使用している・・・・・彼女はギリリ奥歯を軋ませた。

 

「ま・・・待って待って、待ってくりんさい! 俺ぁ、ラウラちゃんがシャワー使ってもエエって言われたけぇ・・・・・って、ありゃ? あの、アンタ・・・もしかして、クラリッサ・ハルフォーフ大尉ですかい?」

 

ッ、どうして私の名を・・・!?

 

自分の名を男に看破され、静かに動揺するクラリッサ。

話は変わるが・・・ラウラの定時報告は、全て文章によるものである。写真などの画像情報は、情報流出防止の観点から報告に添付はされていない。

よって、彼女が男顔にピンッと来ないのも必然だった。

 

「あの・・・どうかされたんですの、ハルフォーフ大尉?」

 

「オルコット候補生ッ、下がっていて下さい! 侵入者が―――――

「って、()()さん!!?」

―――――え?!」

 

「な、なんですって!?」

「清瀬だと!!?」

 

クラリッサの事を心配して様子を見に来たセシリアの驚嘆の声を切欠にゾロゾロとシャワー室へ入って来た一行。

そんな一行に向けて眼帯傷面の男・・・・・二人目の男性IS適正者、清瀬 春樹は、バツが悪そうな表情で手を振った。

 

「よ、よう。やっぱり皆、こっちに居たのね」

 

「居たのね・・・じゃないわよッ、このバカ!!」

「無事だったんですのね春樹さん! で、でもあなた日本に居た筈では・・・?」

「ゴクりッ・・・す、すっごい身体・・・じゃなくて、清瀬くん無事で良かったですぅ~!」

「ッチ・・・やはり、この男は・・・!」

「やれやれ・・・」

 

鈴は怒り、セシリアは疑問符を投げ掛け、山田は号泣し、彼女等の背後では箒が溜息を漏らし、サラは怪訝な表情を晒す。

此のカオスな状況に対してクラリッサは困惑してしまうが、其処へ更なるカオスが放り込まれる。

 

「おぉ。やはり、みんな此の基地に居たのか!」

 

「ッ、少佐殿!!?」

「「「「ラウラ(さん)!!」」」」

 

一行の背後に現れたのは、一回り大きいドイツ軍のコートを羽織ったシュバルツェ・ハーゼの部隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

「しょ、少佐殿! オルコット候補生の話では、日本に居る筈だったのでは?!」

 

「あぁ、ほんの少し前まではな。ああして春樹が復活したので、皆を追いかけて来た次第だ」

 

「それなら、どうして連絡をくれなかったのですか!」

「そうよ、ラウラ! あのバカが生き返ったなら、私達に連絡寄越してもいいじゃないの!」

 

「いや、実はな・・・・・詳細を省くと我々は()()()しているのだ、クラリッサよ」

 

「・・・へ?」と目を点にした後、春樹を良く知る人物達はジト目を彼の方へと向ければ、下手人は誤魔化そうと苦笑いをした。

 

「阿破破・・・いやぁ、追い付けるか思うてカッ飛ばしたんじゃけど、後々考えてみりゃあパスポートも何も持ってこなかったのに気づいてな。取り合えず、長谷川さんのコネを使ってドイツの日本大使館に寄った後でお邪魔したって訳。連絡できんかったんは、其の手続きで天手古舞じゃったけん」

 

そんな誤魔化し笑いの春樹に対して三者三様の溜息を漏らした後、彼女等はロシア領空で殿を務めた楯無を思い出してハッとする。

 

「ッ、春樹! あんたさっき「かっ飛ばして来た」って言ったわよね?! 会長ッ、楯無さんを見なかった?!!」

 

「そうだ! 私達はロシアで会長と別れたんだぞ!」

 

「阿、楯無? あぁ、大丈夫大丈夫。アイツなら途中で拾うたけん。じゃけど・・・」

 

「だけど・・・何ですの? まさか・・・ケガをされたんですの?!」

 

「じゃー。ちょっとキチガイのソビエトIS女郎と遣り合った時にアバラと顎骨にヒビ入れられたみてぇでな。あと、キツめの二日酔いになってる」

 

「そうですか、それはお気の毒に・・・・・って、二日酔い?」

 

「応。痛み止めと身体を温めるのにスコッチと現地で買うた本場のウォッカを飲んでな。ただ飲み方が解ってのーてな。ガバガバ飲んで、酷い二日酔いって訳じゃ」

 

「ロシア代表が酒に弱いとは意外だ。私も会長に釣られて飲んだが、ちっとも酔わなかったぞ」

 

「ほうかぁ? ちぃとばっかし酔っとったでよ、ラウラちゃん。御蔭で可愛さが、三割増しじゃったわぁ」

 

「お二人とも! 二十歳未満の人がお酒を飲んじゃダメなんですよ!!」

 

「「山田先生、ごめんなさーい」」

 

「ハモるんじゃないわよ、このおバカ達! ハァッ・・・それで、会長は?」

 

「大使館では専門的な治療が出来んかったけん、ラウラちゃんの手配で衛生兵の人らぁに任せた。今はモルヒネ打って眠りょーる。後でお見舞いに行ったらエエ。其れでさぁ・・・そろそろエエ?」

 

「そろそろ・・・って、何がですの?」

 

「いや、ズボン履かせてや! つーか、服を着たいんじゃけど! いつまで俺にストリップさせる気じゃよ?!」

 

春樹の此の一言によって、一行は春樹がパンツ一丁のマヌケ状態である事に漸く気付き、「キャー!」と室外へ退散するのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

おい、聞いたか?

何を? IS学園のお嬢さん達が基地に入った事か?

違う違う。黒兎部隊の()()()()()()が帰って来てるらしんだよ

お前、失礼だぞ。ボーデヴィッヒ少佐殿をそういう風に呼ぶのは。黒兎部隊の彼女達に殴られとけ。それに別にいいだろ、少佐殿が帰って来ても。この基地は、彼女の実家みたいなもんだ

そうじゃないんだよ、そうじゃ!

じゃあ何だ? 少佐殿が、彼氏でも連れて来たのか?

なんだよ、知ってるのかよ

・・・・・何だと? おい、どういう事だ?

どういうって・・・お前の言った通りだよ。あのおチビちゃんが、彼氏を連れて来たんだよ。ほら、噂の『フィエター』で通ってる二人目の男さ。御蔭で、赤ひげ閣下がヤキモキしてる。それこそ、愛娘が男を連れて来た父親みたいにさ

ハァ・・・・・おい

なんだよ?

お前、早くそれを言え。何処にいるんだ。見に行くぞ

そう来なくっちゃ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「美味いな、此の薄っぺらいトンカツみたいなの」

 

疲労が堪った凍えた身体を熱い熱いシャワーで温めほぐしたIS学園一行は、食堂で食事をとっている。

調度其の時間は他の兵士達の夕食時であった為か。彼等の周囲には、シュバルツェ・レーゲン部隊以外の他兵科所属兵士も居た。

其の為か、IS学園一行へは兵士達の多くの視線が注がれる。

 

「春樹、これはシュニッツェルと云うのだ。ジャガイモと一緒に食べると美味いぞ」

 

「おおッ、確かにー。美味しいわぁ」

 

「清瀬殿、こちらのズッペもご賞味ください!」

 

「おッ、ありがとうございますだ」

 

「・・・・・随分な御身分ですわね」

 

「阿?」

 

何故だか不機嫌そうなセシリアに問われたのは、右にラウラを左にクラリッサを、そして、周囲に興味津々な目をした黒兎部隊の面々を侍らせた春樹であった。

 

「鼻の下、伸びてますわよ?」

 

「そうよ。人に散々心配かけさせといて・・・春樹のくせに生意気よ! こっちは見世物みたいにチラチラ見られてるってのに!」

 

「いや、折角のご厚意じゃ。受けん訳にはいかんじゃろ。ツーか、鼻の下は伸びとらんしー。其れに見世物の気分は、俺が入学時に学園でいつも味わった事じゃしな」

 

「そうです、オルコット候補生。私は先程、清瀬殿に勘違いとは云えども銃口を向けてしまいました。ですので、これくらいのお詫びはさせて頂きたいのです」

 

「そして、部下の尻拭いは上官である私がするのが務めだ。と云うか・・・私は春樹を甘やかしたいのだ」

 

デレ発言に『『『おー!』』』と部隊員達から感嘆詞が漏れ、「ッケ!」と鈴とセシリアは眉間にしわ寄せ、「ハァ・・・下らん」と箒は溜息を漏らす。

 

「ツー訳で、俺はラウラちゃんに甘えます。今日からイギリス出発までデロデロに甘えさせて頂きます」

 

「―――――流石は、『フィエター・ベルゼアカー』と云う訳か。随分と肝が据わっているね」

 

「阿え?」

 

すっかり気を抜いている春樹が振り返れば、其処にはニッコリ笑みを浮かべた()()が彼を見下ろしているではないか。

 

「ッ、全隊敬礼!」

「おわっと!?」

 

赤ひげを蓄えた赤鬼の登場に一気に現場へ緊張感が奔り、其処に居た全員が直立不動で起立し、彼へ敬礼する。

其れに釣られたか、其れとも赤鬼の持つ他とは違うオーラに当てられたか、春樹も思わず立ち上がってしまう。

 

「ラウラちゃ・・・コホンッ、ボーデヴィッヒ少佐。此方の御仁は?」

 

「こちらは、この基地の責任者であるクラウス・ミッターマイヤー准将殿だ」

 

「ご紹介をありがとう、おチビちゃ・・・・・コホン、ボーデヴィッヒ少佐。私はクラウス・ミッターマイヤーだ。どうぞよろしく、清瀬 春樹殿」

 

差し出されたミッターマイヤーの手を春樹は息を整えた後で掴む。

 

「・・・はい。私は、清瀬 春樹と申します。此の度は、手土産も持たず押し入る様な形で訪問してしまい、申し訳ありません。本当ならば、もうちょっとちゃんとした形で御挨拶に伺いたかったですが、御容赦下さい。そして、うちの生徒会長の治療をして下さり、ありがとうございます」

 

「むッ・・・」

 

眉端をピクリ動かしたミッターマイヤーに春樹は「俺、何か間違えちゃった?」と内心焦ってしまう。

だが、実際はそうではない。

 

「むむむッ・・・!?(この男・・・数々の手骨を握りつぶして来た私が、こんなにも精一杯握り緊めているのに顔色一つ変えないとは!)」

 

ミッターマイヤーは春樹の手を握り潰さんとしていたのである。

彼は、一応のラウラ・ボーデヴィッヒの保護者だ。其のラウラが、恋人彼氏を連れて来たのだから気が気ではなかった。

実はミッターマイヤーには娘が二人おり、彼女等が年頃の時に連れて来たボーイフレンド共の手を彼は握りつぶして来た大人げない過去がある。

しかし現在、ミッターマイヤーの()()に対し、春樹はケロッとしていた。

 

・・・別に今や孫がいるまで年を喰ったミッターマイヤーの握力が落ちた訳では決してない。彼の握力はリンゴを握り潰す程まではあったのだから。

なれば何故に春樹は平気な顔をしているのか。其れは一重に―――――

 

「(・・・あぁ。ギュッとこっちも力を入れればエエんか?)ほれ」

「ッ、ぐぃ・・・!!?」

 

春樹の鉄パイプも握り潰す萬力による握撃がミッターマイヤーを襲う。

幸いにも当人によると軽く握ったと云う感覚だが、ミッターマイヤーの掌へ激痛を与えるには十分過ぎた。

しかし、ミッターマイヤーは一瞬表情を歪めるが此れを堪える事に成功する。そして、何食わぬ顔で春樹との握手を終えたのだ。

 

「う、うむ。あ・・・会えて光栄だよ、清瀬 春樹殿。どうぞ私の事は、クラウスとでも呼んでくれたまえ。クラウスおじちゃんでも良いぞぉ?」

 

「ありがたいお言葉です。ですが、周囲の皆さんの顔も立てなくてはなりません。ミッターマイヤー閣下とお呼びしても?」

 

「閣下か・・・少し堅苦しいが、悪くはない。今後の目標は、おチビちゃんと同じ様に呼んでもらう事だな」

 

「・・・おチビちゃんと云うのは・・・少佐殿の事で?」

 

「ん? あぁ、そうだ。私は親しみを込めて、『おチビちゃん』と呼んでいる」

 

「・・・私は、あまり良く思ってないがな」

 

少し渋い顔のラウラを見て、春樹の様子が少し変わる。

薄く笑みを浮かべているが、目の奥は笑っていない。

彼を知る者達は、春樹の機嫌が悪くなっている兆候だと察した。

 

「そうですか。ならば私は、彼女が良く思っている呼び方をさして頂きます。そして、お聞きになっていると思いますが・・・私は、"ラウラちゃん”と御付き合いさせて頂いております。其れも"真剣”にです」

「ッ、は・・・春樹・・・!」

 

春樹はラウラの手を取り、其の手をギュウっと握り緊める。

あまりの事にラウラは驚くが、何処か恥ずかしそうに両頬を朱鷺色へ染めて微笑んだ。華が開く様にふわりと。

其の彼女の表情に対し、現場に居た全員が目を丸くして『『『OH~!!?』』』と感嘆詞を述べる。

 

「・・・・・魅せてくれるじゃないか」

 

「はい。お気に召しましたか、閣下殿?」

 

しかし、面白くないのはミッターマイヤーの方だ。

其の時、彼は何か思いついたような意地の悪い表情となって、春樹へある事を提案する。

 

「いいだろう。しかし、このままでは面白くない! そこでだ、清瀬殿? 兵士達のリクリエーションも兼ねて、貴君の力を見せてもらいたい!」

 

「な!? ちょっと准将殿?!!」

 

大人げないミッターマイヤーにラウラは動揺し、周囲の兵士達は「またか・・・はじまったよ」と溜息を漏らすが、其の表情はウキウキわくわくしているのが目に見えて解った。

 

「・・・何をすれば、よろしいんで?」

 

「言った通りだ、貴君の力を見せて欲しい。クラリッサ・ハルフォーフ大尉!」

 

「ハッ!!」

 

「自身のISを用意しろ。これより、清瀬 春樹とクラリッサ・ハルフォーフの模擬戦闘試合を行う!!」

 

ミッターマイヤーの宣誓に「待ってました!」とばかりに『『『ワァアアアアアアッ!!』』』とどよめく兵士達。

かくして、黒兎部隊№2と二人目の男性IS適正者の決闘が執り行われる事となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・春樹、こういう時はなんて言えば良かっただろうか?」

 

「ラウラちゃん。こういう時ぁ、こう云うんじゃ。じゃあご一緒に・・・せーのッ」

 

「「何で、こーなるの??」」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート

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