「・・・・・う・・・うぅん・・・・・うん・・・ッ、痛ぁ!?」
更識 楯無は、鈍い痛みと共に目を覚ます。
ぼんやりと重い痛みが、ガンガンガンガン頭を襲い、形容しがたい不快感が鳩尾から食道へと伝わった事で、彼女の表情は一気に真っ青になる。
「うッ、うう・・・!!」
「ッ、楯無さん!!」
飛び起きた青い顔の楯無は差し出されたゴミ箱へ「うげぇええ・・・!!」と吐瀉物をぶちまけた。
胃の中が空っぽだったのか。黄色い胃液だけが、箱底へと溜まる。
「ぅげぇッ・・・! はぁ・・・はぁッ・・・・・はぁ・・・! き、きぼちわるぃいよぉ~・・・!」
「だ・・・大丈夫ですか、楯無さん?」
「う・・・うん、ありがとう箒ちゃん・・・・・・・・ッ、箒ちゃん!!?」
自分の背中を擦ってくれている人物の顔を二度見で確認した楯無は、其の表情をギョッと硬直させた。
何故なら其処に居たのは、ロシア領空内で別れた筈の後輩、篠ノ之 箒であったからだ。
「ほ、箒ちゃんがどうしてここに? っていうか、ここど・・・・・うぇええ!!」
「楯無さん、とりあえず全部吐いて。その後で、水をたくさん飲んでください」
「あ、ありが・・・・・おぇえええええ!!」
ぜろぜろ息と吐瀉物を吐きながら自分の胃の中を空っぽにした楯無は、箒から受け取ったペットボトルに入った経口補水液を飲む。
だが、すぐに嘔吐感が治まる訳もなく、飲んでは吐いてを三回と繰り返した後で漸く一定の安定感を取り戻す事になった。
「・・・大丈夫ですか?」
「う、うん。まだ、ちょっと気持ち悪いけどね。それで・・・ここは?」
「ドイツにある軍事基地です。どうやらラウラの
「あぁ・・・そう言えば、春樹くんがラウラちゃんとそんな話してたような・・・・・って、頭痛ーい・・・!? さっきから一体なんなの、この頭痛・・・?!!」
「ヤツの話だと二日酔いだそうです。かなりの酒を飲んだそうですね、楯無さん?」
「お、お酒・・・? って、あぁ!! ラウラちゃんに銀色の水筒を渡されて、それを飲んだら変な味だったけど何だか気持ちが良くなって楽しくなって・・・・・あれ、お酒だったのね。と云う事は、これは・・・二日酔いと云うやつね! うッ・・・・・やっぱ、きもちわるい・・・!」
初めて経験する二日酔いを何処か嬉しそうに堪能する楯無に対し、箒は「まったく・・・」と頭を抱えて溜息を漏らす。
すると、思い出した様に楯無は
「あ・・・そう言えば、春樹くんは?」
楯無の疑問符に対し、箒は眉間に皺を寄せて渋い顔を晒して再び大きな溜息を漏らした。
其の彼女の表情に楯無は「しまった!」とバツの悪い顔をする。
篠ノ之 箒と清瀬 春樹は、犬猿の仲・・・と言っても箒が一方的に春樹の事を嫌っている。
理由を述べるのならば、其れは織斑 一夏が関係するのだが・・・説明するとあんまりにも長くなってしまうので割愛しておこう。
とりあえず、箒は春樹の事を良く思っていない。其の事だけを覚えておいてもらえると良い。
「清瀬・・・あの男は今、
「・・・どういう事?」
◆◆◆
ドイツ軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』が所属する此の軍事基地には、勿論と云えるだろうが、ISによる模擬戦闘を行う為の
普段ならシュヴァルツェ・ハーゼに所属する部隊員の面々ぐらいしか居ない筈のアリーナだが・・・今回は違う。
『『『ワァアアアアアア!!』』』
アリーナの観客席は非番や休憩中のドイツ軍兵士の面々で一杯になっており、彼等はビール瓶を片手に歓声を上げる。
そんな熱気立つドイツ軍兵士達が見据える視線の先には、ある二人の人物が佇んで居た。
一人は、左眼を眼帯で覆ったドイツ軍のコートを其の身に羽織る女性士官。
名をクラリッサ・ハルフォーフ。
もう一人は、右眼を眼帯で覆った左頬傷のある勝色の肋骨服を身に纏った少年。
名を清瀬 春樹。
彼等はアリーナの中央にて、ピリピリとした空気を醸し出している。
◆◆◆
「・・・何でこうなったのかしら?」
観客席に座る凰 鈴音は、ズズーッとストローでカップの中の炭酸飲料を飲みながらついついボヤく。
「これも春樹さんが、安い挑発に乗ったからですわ」
「出店みたいなのが出てるし・・・いい暇潰しに利用されたようね」
「・・・とか言いながら、楽しむ気満々じゃないの!」
フランクフルトやらケバブを手にウキウキ気分のセシリアとサラへ鈴の鋭いツッコミが入れられる。
現在、観客席には小遣い稼ぎの為の売り子達が、春樹とクラリッサの対決見たさにアリーナを訪れた兵士達への販売を行っていた。
兵舎と云う娯楽の少ない場所に訪れた絶好の機会を逃すまいと皆躍起になっていたのである。
そんな本来ならば、此の現状を止めるべき筈の責任者達はと云うと・・・・・
「プッハー・・・このビール、美味しぃですぅ!」
「おおー! 山田先生、イケる口ですなー? さぁ、我が国自慢のヴルストもどうぞ!」
「ありがとうございますぅ」
「・・・准将、あまり飲ませ過ぎない様にして下さい。(あぁ、もう・・・大丈夫だろうか?)」
ミッターマイヤーに勧められるがままビールをグビグビ飲み干すのは、若干赤ら顔の山田教諭。
其の隣では、珍しく呆れた表情で内心はドキドキのラウラがミッターマイヤーへ注意を促している。
「・・・・・カオスね。箒が呆れて行っちゃうのも無理ないわ」
「別に・・・鈴さんも無理せず此処に居なくてもいいんですわよ?」
「ダメよ。私、もう春樹に
そう云う鈴の手には、春樹とクラリッサの対決で発生した賭け半券が握られているではないか。
IS専用機所有者と云えども皆、十代半ばの未成年者達。
短期間と云えども過度のストレス環境に置かれた彼女達のストレス発散には、皮肉にも十全な状況であった。
そんな混沌とした状況下で、大注目の二人が羽織物を脱ぎ捨てるのであった。
◆◆◆
「さぁッ・・・始めましょうか、清瀬 春樹殿!」
コートを脱ぎ捨てたクラリッサは、自身の専用機体である第三世代型IS『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を身に纏う。
ラウラの専用機、シュヴァルツェア・レーゲンと姉妹機であるが、其のフォルムは、全体的に重厚な装甲で構成されたレーゲンに対して、『枝』を連想させる細い機体となっている。
そんな細身の機体を纏った彼女は、肋骨服姿の春樹へ右手に装備されている大型カノンであるナハト・ナハトを展開した。
さして一方の春樹はと云うと一時は何処か落ち着かない様子でソワソワとしていたのだが、何かを決心したのか。クワッと鳶色の左眼を琥珀色に変貌させるや否や、呵々大笑とばかりに声を張り上げる。
あのいつもの調子の
「阿破破・・・・・阿ッ破ッ破ッ破ッ・・・阿―――ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
『『『!?』』』
「ッ・・・な、なにがおかしいのですか?」
突如としてケラケラと奇天烈な声で笑いだした春樹に対し、クラリッサだけでなく観客席に居た全員の目が怪訝となって彼へ注がれる。
しかし、春樹を知る者達は心の中でこう思ったであろう。
「あーぁ、はじまったか」と。
「いやッ、失礼。誠に失礼。じゃけど、まぁ・・・いやぁ、実に愉快愉快! まさか、恋人の実家へ挨拶に来れば、決闘の申し込みを受けるとは思いもせんかった。あぁ、実に愉快! 人生、何が起こるか解りませんなぁ!!」
快活で弾む様な声と共に春樹は、自身の専用機体である『琥珀』を身に纏う。
其の特徴的な金眼四ツ目の面貌と日本独自とも云える黒漆色の長烏帽子形兜に鱗の様な装甲が特徴的な当世具足は、日本文化に興味津々な者達の目には爛々と映り、更に背中へ展開された赤紫色の二対の六枚羽は容易に周囲の感嘆詞を誘った。
そんな余りにも目立つISを纏った春樹は、白銀のリボルバーカノンと真紅の鍵鉈を握って雄叫びを上げる様に言い放つ。
「ヤァヤァヤァッ!
遠からん者には音を聞けッ、近くば寄りて目にも見よ!!
我こそは、極東は日ノ本より参った大蟒蛇・・・名を清瀬 春樹と申す!!」
『『『ッ!!』』』
まるで鎌倉武士の如く名乗りを上げる春樹に会場はギョッとし、シンと静まり返る。
だが、彼は其処にこう付け加えた。
「此度は、我が一同の身を案じて受け入れて下さり感謝至極!
されど、此度一戦に手を抜く事は能わず!
更に言えばッ、此度の一戦の勝利によって、其方に御座す銀髪の黒兎・・・
ラウラ・ボーデヴィッヒ殿を是非とも是が非でも我が
誰ぞ、異存はあるか?!!」
・・・・・春樹の此の行動は、彼の
今まで、春樹は敵に対してある一定の恨みつらみを持ち合わせていた。其れ故に彼は煽り文句で敵を乱心させ、自らを鼓舞する様に声を上げていたのだ。
しかし、今回の相手に其の様なマイナス感情はない。其れ処か、恋人の大切な
春樹としては、初めて戦う種類の相手。
其の為なのかどうなのかは知らんが、彼は相手の癪に障るであろう文言を並べ立てたのである。
・・・けれども、春樹が今放った一言一句は全て勢いの余り口から出た出任せの戯言ではない。
彼は日頃より思っていたのである。「いつかは、
『ケジメ』とは何か・・・と、説明するのは少々野暮天だろう。
そして、清瀬 春樹と云う吞兵衛は、顔に見合わず意外とロマンチストである。
そんな男が想い想われ、慕い慕われる人生で初めての恋人との将来をどうしたいか・・・想像するに難くない。
「・・・・・・・・ハァ~~~・・・ほんと、あのバカは・・・!!」
「フフフッ・・・あの様子だと春樹さん、完全にテンパっていますわね」
「ヒュー、強烈ね。まさか学園のバーサーカーが、こんなにも情熱的だったなんてね」
動揺しているとは云っても春樹の本心の叫びに対し、鈴は呆れて顔を覆い、セシリアは微笑み、サラは口笛を吹く。
三者三様の態度をとる彼女達だったが、其の次に三人の目が向かう先は同じであった。
「は・・・は、はは・・・・・は、はる・・・はりゅ、はるきぃい・・・!!?」
視線の先に居た人物。
其れは、白い肌を熱湯で茹でられた蛸の様に真っ赤に染め上げ、うりゅうりゅと瞳を潤ませたあどけなさの残る銀髪の美少女将校・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ其の人である。
彼女は恋人からのプロポーズとも受取れる突然の宣誓に対し、理解が追い付いていないのか、真っ赤な顔で百面相をしてしまう。
「ッ、な・・・な、なん・・・だと・・・・・!?」
春樹の衝撃的発言と其の発言によって茹蛸状態の異常状態に陥ったラウラの愛らしさに対し、ミッターマイヤーはあんぐり顎を外して目を点にし、日本語が理解で出来る黒兎部隊は「かッ・・・可愛い!!」と目を丸くする。
だが、日本語が理解できていない兵士達は、「なんだ? どういう事だ?」と疑問符を浮かべるばかり・・・だったのだが、此処である意外な人物が此の静寂を打ち破る事となる。
―――――「きよせくぅううンッ!!」
「「「や・・・山田先生!?」」」
ビール瓶を片手に観覧席一番前に躍り出たのは、酒臭い息を吐く別な理由で真っ赤な顔の山田教諭。
彼女はビール瓶の中身をグビグビ全て呷った後、フラフラ千鳥足のステップを踏みながら春樹を指さして叫んだ。
「さすがッ、きよせくんですぅう! よッ、にくいですよ! この、いろおとこさぁあん!!」
「な、なんだ? なに言ってんだ、あのねーちゃん?」
「見ろよ、あの笑顔。随分とご機嫌じゃねーか?」
「何だか、わかんねーけど・・・楽しくなってきやがった!!」
『『『ワァアアアアアア!!』』』
『『『オウ! オウ!! オウッ!!』』』
・・・どう見ても酔っ払いのヤジなのだが、日本語の解らないドイツ軍兵士達には、此の上機嫌で叫ぶ彼女の姿に何かを察したのか。堰を切った様な大歓声が巻き起こり、周囲からはチャントが地響きの様に巻き起こる。
「・・・・・・・・うわお・・・??」
此れには事の発端先である春樹も呆気に取られ、「ヤッベ・・・俺、やらかしてしもうたか?」と、あの金眼四ツ目の仮面の下で口端を引き攣らせた。
しかも、ふと目を前へ向ければ、ラウラとは似て非なるISを纏うクラリッサが小刻みに両肩を震わせているではないか。
「(あ、ありゃ・・・? 怒らせ、怒らしてしもうた??)」
厳つい顔面で、余りにも内心ドギマギの春樹。
だけれども吐いた唾は呑めぬのが理。
彼は奥歯をグッと噛み締めてリボルバーカノンと鍵鉈を構えた。
すると―――――
「・・・プククッ・・・クフフフ・・・!」
「・・・阿い?」
「ハハハッ・・・ワーハハハハハハハ!」
疑問符浮かべる春樹に対し、クラリッサは手を叩いて笑い出したのである。
まさかの彼女の態度に春樹は戸惑って呆けてしまうが、彼を余所にクラリッサの笑いは止まらない。
「ハハハ! 流石ッ、流石は隊長が・・・ボーデヴィッヒ少佐が見初めた御人! お見事としか言いようがありません!」
「えッ、阿・・・あぁ、どうも?」
「其の気概は良し! ですが、気概だけで我が黒兎部隊の隊長をお嫁に出す訳にはいきません! 力を・・・力を示せ!! ラウラ・ボーデヴィッヒが欲しいのならば、我らに己が力を誇示して見せろ!!」
クラリッサ・ハルフォーフ大尉は、キッと目を三角にして得物を構える。
其のなんと爽やかな彼女の態度に春樹は目を一瞬見開いた後、ニッカリ口端を吊り上げた。
「阿破破! キャプテン・ハルフォーフ・・・貴女、エエ人じゃ! でぇれーエエ人じゃ!!」
脳筋なれど、久方ぶりの気持ちの良い人物に春樹は嬉しくなって快活に奇天烈な笑い声を張り上げる。
そして、試合開始の合図であろうブザーが鳴った瞬間、彼は真紅の刃を振り構えると一気にクラリッサの方へ踵を鳴らした。
◆◆◆
「うっわ・・・何よコレ?」
更識 楯無は、ヒクヒクと口端を痙攣させる。
二日酔いのせいで余計に表情が悪いのが見てとれた。
「ハァ・・・だから言ったでしょう。くだらないって」
眉間に皺を寄せてそう溜息を漏らすのは、楯無へ肩を貸していた箒。
そんな二人の目の前に広がっていた光景・・・其れは―――――
「いけぇええ! やっちまえぇえ!!」
「そこだッ、やれぇええ!!」
「負けるなッ、頑張れー!!」
『『『HOW! HOW!! HOWッ!!』』』
コロッセオ型アリーナの観客席にすし詰め状態で詰まった男も女も一切合切の全員が、拳を振り上げると共に野太い声で大興奮の大絶叫を轟かせる熱気ムンムンの状況。賭け事の対象になっている為、尚余計にだ。
しかも其の熱気冷めやらぬ観客達に冷えたビールを売る商魂逞しい売り子達もチラホラ。
「ん? あら・・・あれは楯無会長ではありませんの?」
「え・・・あッ、ホントだ! それに箒も居るじゃない。おーい、二人とも!」
「こっちですわ、お二人とも!」
そんな大歓声の中、楯無と箒を呼び止めるのは、冷えた炭酸ドリンクとファストフードを手にしたどう見ても満喫中のセシリアや鈴。
其の隣には・・・
「う~・・・わたち、まだのめまぁすってばぁ! よってまへぇ~んよー!」
「完全に酔っ払いの戯言ね・・・ほら、先生? イイ子ですからビール瓶を放して下さい」
「いやぁ~~~ッ!!」
ビール瓶を抱いて愚図る山田教諭をサラが諫めているではないか。
「ご無事で何よりでしたわッ、会長! 二日酔いだと聞きましたけど・・・」
「う・・・うん、大丈夫よ。二日酔いに効くって、衛生兵の人にザワークラウトの汁を勧められたからちょっとはマシね。だけど・・・カオスとしか言いようがないわね。てか、何で山田先生は酔っぱらってんの?」
「あの赤ひげのおじさんがビールを勧めるから御蔭でベロベロよ」
「赤ひげのおじさんって・・・あの人?」
楯無が目線で指し示す先には、厳つい顔の赤ひげを蓄えた歴戦の将校が、真っ赤な顔でドイツ語で怒号の様な聞き取れぬ叫びを上げて観覧席の鉄柵を命一杯のひしゃげさせていた。
其の隣では、ジッと腕を組んで黙して座る姿を見せるラウラが居り、周囲にはそんな彼女へハラハラした表情を向ける女性兵士達がワラワラと集まっている。
「・・・どういう状況なのコレ?」
「あー・・・」
「えーと・・・そのですね」
セシリアと鈴は思わず口籠ってしまう。
一体どういう事柄が切欠で、こう云う状況が出来上がってしまったのかを二人は理解していたからだ。
「ハァ・・・・・帰りたい」
箒のボヤきは、周囲の歓声に掻き消されてしまう。
・・・さて、そんな大勢の観客を熱狂させるアリーナの中央で火花を散らせる『黒枝の魔女』と『黒鎧の大蟒蛇』はと云えば―――――
◆◆◆
「ウォオオオオオオオ―――ッ!」
クラリッサ・ハルフォーフは右腕に展開された大型カノン、ナハト・ナハトを連射する。
ラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンの右肩に装備されている大型レールカノンの発展型で、攻撃力及び操作性が向上されている為に一発一発の威力は抜群。
ましてや其れにクラリッサのIS戦闘技術が加わっているので、並のISならすぐに窮地へ陥れる事が出来よう。
・・・しかし、現在彼女が相手しているのは、
「ヴェろぉおあ”ア”ア”アアアッ!!」
此の世のモノとは思えぬ獣声を上げて突っ込んで来るのは、金色の焔を目端から零れ落とす四ツ目の面貌を被った長烏帽子形兜の鎧武者。
「ッく!!」
ドゴォオ―――ン!!
寸での所で回避行動をする事で直撃を免れたクラリッサだが、斬撃によって地面が抉れて小規模なクレーターが形成される。
彼女は思わずゾッとした。
其れは振るわれた一撃の威力にも驚いたが、勿論、其れだけではない。
凄まじい速度で発射されたレールカノンの弾を回避する速度に運動能力。更に―――――
―――――「阿破破ノ破!」
「なッ!?」
ズガン!
奇怪な笑い声と共に土煙から現れる白銀の銃身。
無論、其の銃口から火を噴いて現れるのは、戦車の装甲版すら撃ち抜く大口径の徹甲弾。
其の発射された弾丸は見事にクラリッサのどてっ腹に命中し、ISのシールドエネルギーを減らすと共に「ぐぁあッ!!」と彼女に短い断末魔を上げさせる。
此れに気を良くした鎧武者は、更に攻撃を加えんとリボルバーカノンの撃鉄を起こした。
「ッ・・・舐めるなァア!!」
「ッ、うゲらべェえ!!?」
だが、やられているばかりのクラリッサではない。
カウンターパンチの要領で振るった拳がグシャッ!と鎧武者の顔面へめり込めば、其のまま後方へと吹っ飛ばす。
「ハァッ・・・ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
「大尉ッ、何をしている?! そんな機体性能頼みの学生にいつまで手間取っているんだ!!」
脇腹を抑えて肩で息をするクラリッサに対し、厳しい声が投げ掛けられる。
声の方を見れば、其処には赤ひげと同じ色の顔をしたミッターマイヤー准将が叫んでいた。
「(機体性能頼み・・・? 何をバカな事を! 確かに彼のISの機体性能は高い。けれど裏を返せば、それはISの性能を十全に扱えていなければ振り回されると云う事。あの男・・・清瀬 春樹にそんな素振りはない。それどころか・・・機体の性能を十二分に引き出している。なんて・・・なんて恐ろしい相手か!)」
クラリッサは、今まで鎧武者の男・・・清瀬 春樹の強さを疑っていた。
資料映像やラウラの報告からしか見聞きした事しかなかった為、多少なりとも個人の感想が
だが、実際に相対して彼女は確信した。「この男は強い!」と。
「う”るるるぁあ・・・!」
土煙から現れる黒い鎧を纏った春樹。
ユラユラ先が三つ又の尻尾を揺らし、歯を剥き出しに唸る其の姿は正に異形の怪物。
そんな春樹に対し、クラリッサは無意識に口端を吊り上げる。此の男ならば、本気を出して差し支えないと笑みを溢したのだ。
「清瀬殿・・・正直言って、ここまで骨のある者と闘うのは久方ぶりです。なので・・・・・少々、私も本気でやらせてもらいます!」
「阿?・・・・・ッ!!?」
そう言ってクラリッサは、機体へ装備された黒い枝の様な物に棘を展開する。そして、其の枝先から飛び出た棘を春樹へと差し向けたのだ。
最初は疑問符を浮かべた春樹だったが、無駄に勘の良い此のアル中蟒蛇は、回避行動を選考する。
だが、其の行動は一瞬遅かった。
「喰らえ!!」
バシュッ!と弾丸の様に射出された薔薇の様な棘は、ザクッザクッ!と春樹の纏う鎧を刳り貫いたのである。
「うぎィい阿・・・!?」
貫通力の高い攻撃に対し、春樹は咄嗟にガードを上げて二対の翼を楯にする。
しかし、棘はアクリル硝子の様な赤紫色の六枚羽を砕き、其の向こう側にある本体へ突き刺さった。
此れはクラリッサの纏うIS、シュヴァルツェア・ツヴァイクの戦闘能力の一つであるAICの攻撃である
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンと同様のものではあるが、彼女のものより攻撃特化に調整されており、対象に向けてツヴァイクと呼ばれる特殊な棘を射出し、AICの指向性力場を付与・展開する事で相手の装甲を刳り貫く事が可能なのだ。
そんな攻撃を余す事なく、隙を与える事なく撃ちまくる。まるで、ヤマアラシが自分の棘をミサイルの様に敵へ撃っているかの様に。
其のせいで春樹は針塗れの針鼠状態となり、思わず跪いてしまう。
御蔭で『『『ワァアアアアア!!』』』と決着が付いたかの様な歓声が上がる。
「フッ・・・勝った! 流石の
膝をついた春樹にミッターマイヤーは口端を上げた。
「弱い男に大切な部下を嫁にやれるか!」等と云った理由を並べて、此れでラウラを御嫁に出す事にケチが付けれると彼の内心は小躍りしていたであろう。
そんな大人げないミッターマイヤーに対し、黒兎部隊の面々は渋い表情を晒した後、心配そうにラウラへ視線を落とす。
「・・・ハァ」
「どうするおチビちゃん? 何か言ってやりなさい」
するとラウラは立ち上がると春樹が良く見える様に観客席の鉄柵へと歩み寄った。
彼女が溜息と共に立ち上がった為、ミッターマイヤーは彼女が春樹に失望したのではないかと思わず微笑む。
「・・・・・ハルフォーフ大尉、見事な強さだ。また一段と強くなったな!」
「え?」
だが、ラウラは春樹ではなく、部下のクラリッサに賞賛の言葉を贈ったのである。
此れには思わずクラリッサも驚き、「あッ、ありがとうございます!」と彼女に向かってお辞儀をした。
其のクラリッサの態度にラウラは大きく頷きを入れると今度は膝をつく春樹の方へ顔を向ける。
・・・何を言うのだろう? どんな言葉を掛けるのだろう?
会場の注目が一気に二人へ向けられた。
「どうだ春樹。私の部下は強いだろう! 我が祖国の開発したISは強いだろう! 私はそんな部下達を誇りに思っている!」
「少佐殿・・・!」
賞賛の言葉に涙ぐむクラリッサと黒兎部隊の面々。
ラウラはそんな言葉を並べた後、口端を吊り上げて彼に語り掛ける。
「そんな自慢の部下達に・・・春樹、お前の力を魅せてみろ!」
「―――――応ともよ!!」
春樹は立ち上がる。
拳を地面に打ち付けて立ち上がる。
突き刺さった棘を払い除けて立ち上がる。
目から金色の焔を零し、口端を耳まで裂ける程に釣上げて立ち上がる。
そして、全身の鱗の様な装甲板を逆立させて大きく口を開けた。
「グルるガぁア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!」
『『『―――――ッ!!!??』』』
牙を剥き出しにして轟く咆哮は、ビリビリと観客席に居た全員の鼓膜を揺さ振る。
正に怪物の雄叫び。正に化け物の絶叫。
「フ・・・フン! 叫んだ所で強くなる訳もあるまい! 大尉ッ、楽にしてやるんだ! 終わらせてやれ!!」
否定的な言葉を並べるミッターマイヤーだが、彼の言葉がクラリッサの耳に届く事はない。
何故ならば、彼女は今其れ処ではなかったからだ。
「(な・・・なんだッ? なにが起こった? 雰囲気が・・・一気に変わった?)」
目の前に居る昨年まで一般人だった筈の少年が纏うオーラがガラリと変わる。異質にがらりと変化する。
「(まさか・・・今の今まで本気ではなかったと? 私の実力を推し量る為に力を抜いていたと?)」
「舐めた腐った真似を!」とクラリッサは憤る。額に青筋浮かべて奥歯を鳴らす。
けれども・・・其の表情は実に朗らかであった。うきうきワクワクと弾む様な笑顔を彼女はしていたのである。
「いいだろう・・・いいだろうッ! 貴様の本気を私に・・・私達に魅せてみろ!! 清瀬 春樹!!」
クラリッサは再び無数のツヴァイクを撃ちまくる。撃って撃って撃ちまくる。
―――――しかし!
「さぁッ・・・アゲてこうか!!」
「な・・・!?」
ズタボロの二対の翼がブワリッ!と巻き起こした風圧によって、クラリッサのツヴァイクは正しく枝の様に軽々吹き飛ばされてしまう。
「こんな事、言いたかないけど・・・きれいね。春樹のくせに」
「えぇ、そうですわね。春樹さんのくせに」
「魅せてくれるじゃないの。春樹くんのくせに」
「たぁまやー!」
呆気にとられる群衆を余所に杭枝を撥ね退けた春樹は、朱色の鞘に納められた一振りの刀を顕現させる。
そして、スラリと抜いた其の切先を天上へ向けて呟く様に言葉を並べた。
「清瀬流対決術模倣の型、機神式奥義―――『超攻性防御結界』!!」
春樹の放った言葉を合図に辺りへ散らばっていたアクリルガラスの様な六枚羽の破片が、宙へと浮き上がるや否や、切先鋭い刃へと変貌する。
「霊験あらたかなる刃よ・・・吾に背く諸悪を尽く殺戮せしめん。―――――往けッ!!」
そして、紅蓮の刃をクラリッサの方へ差し向ければ、刃達は一直線に一斉に競う様に彼女へと飛び込んで行った。
「ッ、舐めるなぁあ!!」
しかし、クラリッサとてタダでやられる訳がない。
彼女は自身の右腕のナハト・ナハトで迫り来るガラスの刃達を撃ち落とそうとするのだが、不思議な事に刃達は、まるで意志でもあるかの様にスルリスルリと弾幕の間を縫ってザクッ!とクラリッサの四肢を貫いた。
「ぐぅッあアア!!?」
悲痛なクラリッサの叫びが、静かなアリーナ全体に轟く。
けれども、此れで終わる事は決してない。
「久遠の虚無へと還れッ・・・てか?」
「ッ!」
春樹は、いつの間にかクラリッサの懐へと距離を詰めていた。其れも刀身を鞘に納めた態勢で。
クラリッサは知っている。其れは、アニメや漫画で幾度となく見た『抜刀術』の構えであった。
・・・然らば、其の状態で放たれるは必殺の一撃に他ならぬ。
「フッ・・・・・お見事。流石は少佐殿が見初めた御人!」
ズザッシュ!!
下から上への斜めに放たれた紫電一閃。
其れを笑顔で受け止めたクラリッサは、シールドエネルギーの枯渇を知らせる警告音と共に地へと倒れ伏す。
「・・・其れは此方の台詞です。流石はラウラちゃんの部下殿、誠に御強いこって」
飛沫切りの仕草の後に刀を鞘へ納めた春樹は、自分を見下ろす位置に居る愛しい恋人へ手を差し伸べて名を呼ぶ。
「ラウラちゃん!」
自分の名を想い人に呼ばれたラウラはパァッと明るい笑顔となって「春樹!」と彼の名を呼びながら鉄柵を越え―――――
「認めんッ・・・認めんぞぉ!!」
『『『・・・はッ?』』』
「え・・・?」
「・・・阿え??」
―――――る前にアリーナへと降り立ったのは、鬼の形相でヒーロー着地をかました赤髪赤ひげの大男。
彼は将校服を脱ぎ、戦傷が垣間見えるタンクトップ姿でファイティングポーズを構えた。
「ちょ、ミッターマイヤー准将!?」
「何やってんのよ、あのおじさん?!」
驚く面々を余所にミッターマイヤーは叫ぶ。
「高々ISを纏った状態で勝ったぐらいで奢るなよ、小僧! そう簡単におチビちゃんを・・・ラウラ・ボーデヴィッヒを嫁なんぞにやれるかぁ!!」
『『『えぇ―――――!!?』』』
ドッとどよめく会場。
アッと驚く面々。
しかし、ミッターマイヤーは鼻息荒く春樹を挑発する。
「さぁ、かかって来い小僧! ISなんぞ捨ててかかって来い! それとも・・・ISがなければ何もできないヘタれなのか貴様は?!」
齢十五の軍属でもない少年を焚きつける歴戦の軍人。
大人げない。実に大人げない。
実際、ミッターマイヤーの此の姿にドン引く者も居るには居たが―――――
「あ~ぁ、やっぱりこうなったか・・・」
「だけど、ご機嫌な展開だ! おいッ、どっちに賭ける?」
「いいぞッ、やっちまえ!!」
『『『HOW! HOW!! HOWッ!!』』』
まさかまさかの展開に再び沸き立つギャラリーに鉄火場。
異様な熱気に「・・・ここにはバカしかいないのか?」と箒は溜息を漏らし、鈴は再び賭けの半券を買った。
そんな此の予想外の展開に一寸呆気に取られてしまう春樹だったのだが、すぐにでも口端を吊り上げる。
「破破ッ・・・結局、最後は
〈人間って・・・男って、馬鹿な生き物なのね〉
〈・・・此ればかりは、否定できないな〉
「じゃけど・・・じゃけん面白いんじゃろうな!」
春樹は纏った武装を解除して琥珀を待機状態にすると、戦傷がマジマジと見える上半身裸の状態で構えをとった。
「行くでッ、御老体! 骨が折れても知らんでよ!!」
「やってみろッ、小僧! ぶちのめしてくれるわ!!」
そうして余りにも対格差のある二人の対決は、兵士達が何処からか持って来たゴングを合図に拳を振り抜くのであった。
カァア―――――ンッ!!
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート
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ジークフリート
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ファフニール
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俵 藤太