ドイツルートの脱線話は、此れにて終了。
次回はお待ちかねのおフランスルート。
・・・今まで筆が乗ってたから今後が心配ですだ。
「・・・ッ、う・・・・・ウゥん・・・?」
「「「「お姉様!!」」」」
クラリッサ・ハルフォーフの意識は朧気なれども回復する。
薄っすら目を開けた彼女の視界へ一番に飛び込んで来たのは、自分を心配そうな表情で覗く可愛い四人の部下であるネーナ・ファルケ・マチルダ・イヨ。
そして・・・・・
「起きたな、クラリッサ」
「ッ、しょ・・・少佐殿!?」
自分を見下ろす灼眼の瞳を持つ銀髪の美少女上司、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。
驚きつつもクラリッサは、状況から鑑みて自分が彼女に膝枕されている事を察知すると、急いで身体を起き上がらせようとする。
「ッ、痛!!?」
しかし、起きようとした瞬間、上半身へ斜め一閃の激痛が奔ったのだ。
「無理をするな。そのままで身体を私に預けていろ」
「す、すみません。な、なら・・・お言葉に甘えて」
大人しくラウラの言葉に従い、クラリッサは彼女の太腿に自分の頭を預ける。
自分の
「・・・・・負けたのですね、私は」
自分がこんな状況に置かれている理由を察したクラリッサは、溜息にも似た息を吐きながら眼元を片腕で隠す。
珍しい彼女の態度に部下達は、どう声を掛けていいのか解らず、戸惑ってしまう。
だが、そんな部下達を余所にラウラは薄く笑みを浮かべて述べた。
「そうだな、負けてしまったな」
「ちょ、ボーデヴィッヒ少佐・・・!」
ハッキリ言ってしまうラウラに部下達は慌てるが、「皆迄云うな」と云わんばかりに彼女は掌を見せる。
「お前でももまだまだという訳だ。まったく、世界は広いな」
「・・・・・はい・・・」
「・・・悔しいか?」
「ッ、はい・・・!」
「そうか。なら・・・お前は、まだまだ強くなれるという訳だな」
ラウラは、すすり泣くクラリッサの頭を優しくそっと撫でてやる。母親が子供を慰める様に。
其のまるで慈悲深い聖母の様なラウラの表情に部下達は驚きつつも思わず魅入ってしまう。
「スンッ・・・ぐス・・・・・すみません、少佐殿。御見苦しい姿を・・・!」
「フッ・・・気にするな。お前は大切な私の部下なのだからな」
「ッ、しょ・・・少佐殿~~~!!」
「「「「お姉様ァア―――!!」」」」
感動の余りか、感極まってラウラを抱き締めてしまうクラリッサと部下達。
対格差がある為、「こらッ、お前達!?」とラウラは戸惑ってしまうが、「やれやれ」と溜息混じりに全員を抱き締める様に手を回す。
穏やかな笑顔でポンポンと背中を叩いて。
「ぴすッ、ぴす・・・・・そ、そう言えば・・・清瀬殿は、どうされたのですか?」
何気ないクラリッサの発言に「えーっと・・・」とどうも煮え切らない沈黙の態度をとる皆々。
しかし、そんな沈黙を破ったのもラウラであった。
「春樹なら、まったく・・・ほら、あそこだ」
「え?」
どうにも困った顔でラウラが指さす先には、やんややんやと大勢の人だかりが円を囲む様にして歓声を上げている。
其の円の中心には、白髪と赤髪の二人の上半身傷だらけの男が大きなジョッキを片手にテーブルを挟んで向かい合っていた。
・・・青痣だらけの腫れた顔で。
「「んグ・・・ングッ・・・・・プッハぁ―――! もう一杯!!」」
二人はジョッキに注がれた琥珀色の泡立つ液体を一気に飲み干すや否や、お代わりを催促する様にジョッキを近くの兵士へ渡す。
されば、兵士達は急いで蛇口の付いた大樽の栓を開いてジョッキの中を琥珀色で満たした。
ジョッキの中で泡立つ琥珀色の液体。
其れは中世以来、バイエルン地方を中心に南ドイツで飲み継がれてきた伝統のビール。名を『ヴァイツェン』と云う。
フルーティな香りで、口当たりもマイルド。だが、アルコール度数は約5.4%とドイツビールの中ではやや高め。
思わずグイグイ飲んでしまうと、しっかり酔っ払ってしまう逸品である。
そんなヴァイツェンビールを二人は競い合う様にガブガブと飲み干していく。
◆
クラリッサとの模擬戦闘で勝利した清瀬 春樹であったが、突如としてアリーナへ乱入したミッターマイヤーとのステゴロ試合が発生。
上着を脱いで勝負を挑んで来たミッターマイヤーに対し、春樹は快く此れを快諾。ISを待機状態にして拳を握ったのだ。
二人は全力を以て手合わせをした。
「ラウラちゃんを御嫁に下さい!」と、「貴様なんぞにおチビちゃんをやれるか!」と口々に発しながら二人は殴り合う。羞恥心で顔を真っ赤にするラウラを余所に。
此の拳闘では、一回りも二回りもミッターマイヤーの方が体格が大きい為、上から下に振るわれる鉄拳に晒される春樹。だが、彼も負けじとミッターマイヤーを拳骨で殴り飛ばした。
意外にも結構良い勝負する二人に対し、クラリッサ戦の賭けで負けた分を取り戻そうとする連中も賭けで勝った連中も大盛り上がり。
結果さえ言ってしまえば・・・そんな少年と老兵の殴り合いは、紙一重の差で少年に軍配が上がった。
決め技は、『清瀬流対決術模倣の型鑢式『鏡花水月』』。
そうして殴り合いにK.O.勝利した春樹だったのだが、其れでもミッターマイヤーは引き下がる気は更々なかった様で、意識を通り戻した途端に今度は飲み勝負を挑んで来たのである。
ラウラからの報告で、春樹が二十歳未満でありながら酒を嗜む事を知っていたとは言え、此れは如何なモノかと思う。
だが、ドイツでは十四歳から保護者が同席のもと許可していれば、ビールやワイン等が飲む事が出来るのである。
此の時、春樹の保護者的立ち位置にいるのは、IS学園から派遣された山田教諭となるのだが・・・・・
「う~・・・もう、飲めませぇ~~ンッ」
「山田先生ッ、起きて下さいまし! あぁ、もう!!」
「セシリア、もう放っておきましょ。こっちもこっちで手に負えないし・・・」
「ぷふぅーッ、二日酔いが治ったわー! ビールって、すごーい!」
真っ赤なへべれけ顔の山田は、ビール瓶を抱えて寝言を呟く。
彼女が此の有様なので、自然と保護者は基地の総責任者であるミッターマイヤーへと移行。更に大好物の酒、其れも本場のドイツビールが飲めると聞いて断る春樹ではない。
其の結果として、飲み比べ対決が問題なく成立してしまったのだ。
「ゴクッ・・・ゴク・・・ゴク・・・ッ、プッヒャァア! 阿破破破ッ、美ん味ぁああい!!」
もう数えるのも忘れた幾十杯目のビールをまるで、サウナから出た後の一杯目の様に美味そうに飲む春樹。
其の姿は正に―――――
「(なんだッ・・・なんだ、この小僧は・・・?! ワクにも程がるだろうッ!
彼とて若い頃から人一倍の大酒飲みと自他共に言わしめて来た蟒蛇。自分よりもずっと若い娘婿を酔い潰すまでには、まだまだ負けない自信と実績があった。
更に言えば、飲み比べ対決前に中国の代表候補生が―――――
「大丈夫かしら? 春樹、
―――――と呟いていたので、此の勝負は勝てると踏んでいたのだが・・・・・
「(どこが、
目の前の少年はガブガブガブガブ、グビグビグビグビ、別段酔った様子もなくジョッキを呷って呷りまくる。
此れには、ミッターマイヤーまではないにしろ酒飲みを謳う兵士達もドン引きだ。
「かッハァ―――! 美味ぇ、美味ぇ! でぇりゃー美味ぇでよ!! ドイツに来て良かったー!!・・・・・って、ありゃ? どねーしたんですか閣下? ジョッキん中が減ってないですよ?」
「ッ・・・そ、そう慌てるな。私も喉が渇いて仕方がないなぁ!」
・・・ミッターマイヤーには限界が差し迫っていた
グルグル胃が廻り出し、嘔吐の嗚咽が先程から何度も何度も襲って来る。
実は春樹のジョッキの中に入っているビールは、ノンアルコールではないかと疑う程に彼の飲む量は尋常ではない。
其れでも尚、彼には余裕の色が透けて見える処か、ビールを飲む度に春樹の身体が明らかに治癒されている様子が確認出来たのである。
一杯飲めば、青あざが引き。二杯飲めば、腫れが治まる。まるで回復薬でも飲むかの様に傷が治っていく。
「・・・・・ヴぇッ」
ミッターマイヤーの顔がどんどん青くなって鳩尾から込み上げて来るが、彼は無理矢理でも其れをビールで流し込む。
こんな大酒飲みの化け物に勝てる訳がない。けれども、兵士達の手前もある為に此のまま勝たせるのも癪なミッターマイヤーは、春樹にある提案を持ち掛けた。
「こ、小僧・・・いや、清瀬殿? ただこうして飲むだけでは退屈だと思わないか? どうだ? ここは一つ、歌でも謡ってみてはくれないか?」
「阿? 歌じゃって?」
「そ、そうだ・・・歌だ。私も妻の家族に挨拶へ行った時、義父や義母たちの前で歌った。勿論、娘が私の前に自分の旦那を連れて来た時も彼等に歌わせたものだ。謂わば、ミッターマイヤー家の伝統だな! うむ!!」
春樹は思った。「往生際が悪いじーさんじゃなぁ」と。
春樹は気付いていた。ミッターマイヤーが限界ギリギリである事を。もう一杯でも飲めば、思いっ切り盛大に
最早、勝利は確定していた。もう一杯飲ませてミッターマイヤーを潰す事は余りにも容易であった。
・・・しかし。
「・・・仕方あるめぇのぉ、一つ歌おうか。じゃけん閣下・・・後で、俺の
「なに?」
ミッターマイヤーの返答を待たず、春樹はジョッキの中を空にすると突如としてテーブルの上へと立ち上がったのだ。
其の場に居た全員の目がテーブルの上に立つ彼へ注がれる。何をするのだろうかと興味が注がれる。何を謡うだろうかと注目する。
すると彼はジョッキを扇の様に回しながら口を開いた。
「♬
今は昔の吉備の冠者よ
真金吹く吹く、吉備の国で
今は昔の吉備の冠者よ
ぼっけ、ぎょうさん、宝を産んだ
当初、酔っ払いが日本語で謡う聞いた事もない歌に兵士達はポカーンと呆けてしまう。
だが、春樹は構わずに声を張り上げる。
「♬
燃やせ、叩け、熱いうちに!
飲めや、踊れや、夜更けまで!
ぼっけもんじゃ・・・ぼっけもんじゃ
ぼっけもんじゃ・・・・・
うらじゃ!!!
『『『!!?』』』
独特な振り付けとステップと共に張り上げた声に一同はギョッとした。耳まで裂ける鬼の様な笑顔のギョッとした。
しかし、不思議と不快感はなく。其れ処か、思わず踊ってしまうかの様に心が疼いた。
何を言っているのかは分からなかったが、彼の歌に心動かされる事は明白。
「♬
ハレバレ大空、吉備の国
歌え、踊れ、鬼祭り
ハレバレ大空、吉備の国
うらじゃ、うらじゃ、うらじゃ!
うらじゃ、うらじゃ・・・・・
じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、うらじゃ!
「それッ!」と春樹は一同にコールを求める。
すると、兵士達はたどたどしくも彼の声に乗せられて声を揃えて叫んだ。
『『『
』』』
全兵士達を巻き込んでの大合唱の中、春樹は群衆をかき分けて自分の想い人の元へと駆けて行く。
「どうじゃ、踊らんか?」
「・・・・・ハァ、まったくお前というヤツは」
呆れた溜息を吐きつつも何処か嬉しそうな笑みを溢したラウラは、クラリッサ達に「行って来るぞ!」と言って差し出された手を握った。
そして、再び壇上の上へ立つと手を繋いだままに軽やかなステップを踏むのであった。
◆◆◆
「あぁ・・・頭が割れそうだ。それに気持ち悪い」
ミッターマイヤーは酷く青い顔で、自分の頭へ氷嚢を当てた。
「自業自得です。あんなにも飲まれたら二日酔いになるのも仕方ありません」
「阿破破ッ。まぁ、そう言うちゃるなラウラちゃん。閣下も引くに引けん状態じゃったんじゃ。其れに・・・あの後、奥さんにぼっこう叱られたそうじゃし」
「う、うるさい・・・! 一体誰のせいでこんな事にッ・・・・・と言うか、何で私よりも飲んだ人間が平気な顔を・・・ッ、うぇっぷ!?」
「おっとッ。ラウラちゃんラウラちゃん、エチケット袋エチケット袋!」
「ハァ・・・まったく、もう!」
IS模擬戦闘からの拳闘からの大宴会から翌日。
約束通り春樹の
「でも、良かったんかラウラちゃんや?」
「ん、何がだ?」
「ほれ、セシリアさんらぁとドイツ観光行かんでさ。鈴さんが昨日の賭けで大勝ちしたけぇ、奢って貰えたのに。まぁ・・・山田先生と楯無が、二日酔いで行けれんのは自業自得じゃけど」
「いいのだ。私は・・・私は春樹、お前と一緒に居たいのだ。お前の側に居たいのだ。其れに・・・私も
「ッ、ラウラちゃぁん・・・!」
「・・・・・おいッ。私は見えて居ないのか? よくも私の前で、おチビちゃんとイチャイチャ出来るな!・・・・・まぁ、いい。到着したぞ」
三人を乗せた車が停まったのは、郊外にある如何にも古そうな公営住宅地。
其の内の一軒を一行は訪れる。
「ありゃ・・・公営住宅じゃあ聞いとったけど、中は如何にもヨーロッパって感じの内装じゃね」
「キョロキョロするな。田舎者か、貴様? ほら、あそこに居るのがお目当ての人物だ」
ミッターマイヤーが指差し示した先へ居たのは、赤々と燃える暖炉の前のロッキングチェアに座る一人の老人。
其の年齢は見た所、ミッターマイヤーよりも大分年をとっており、憔悴した様子が感じ取られた。
「ッ・・・春樹・・・」
老人の姿を確認したラウラは、何故か不安そうな表情で春樹の手を握る。
そんな怯えた様子の彼女の手を春樹はギュッと握り返し、口端を上げてカチカチ歯を鳴らす。
「俺もド緊張じゃ。じゃけぇ・・・ちゃっちゃとやっちまおう」
「・・・あぁ」
意を決した二人は、呼吸を整えるとノックと共に部屋の中へ入室。そして、春樹はロッキングチェアの前へ立つと丁寧にお辞儀をした。
「失礼します。初めまして、『アダム・シュタイナー』博士。私は、清瀬 春樹と申します」
自己紹介をした春樹に対し、シュタイナーと呼ばれたヨボヨボの老人は目線を一瞬だけ彼に逸らした後、暖炉の炎へすぐに目を戻す。
春樹の話す日本が理解できていないのか? いや・・・そうではないらしい。
「久々に聞く
「・・・お久しぶりです。シュタイナー博士」
ラウラを被検体と呼ぶ此の老人の名は、『アダム・シュタイナー』。
ラウラ・ボーデヴィッヒと云う遺伝子強化素体を生み出した超人生体兵器計画、通称『ワルプルギス計画』の元総責任者であった御仁である。
そんな人間の家をどうして春樹は訪れたのか。其れは勿論―――――
「それで・・・突然、一体何の用だ? VTS事件で、私をこんな退屈な所に軟禁しておいて・・・ついに私を殺しに来たのか?」
「まさか! 今日は・・・シュタイナー博士、あなたが此の世に生み出してくれたラウラ・ボーデヴィッヒさんを
「・・・・・・・・なに?」
シュタイナーは暖炉の炎から春樹に視線を移す。まるで信じられないものでも見るかの様な目を向ける。
「あ、中はイエーガー・マイスターです。お好きだと聞いたので、急いで買いました」
『イエーガーマイスター』
56種類の生薬やフルーツに始まり、西洋ハーブもふんだんに配合されたドイツ版の養命酒である。
因みに・・・お湯割りすれば心地よい眠りを誘い、ショットで飲めば、生薬が気付けとなって元気になると謂う。
「違う、手土産の中身を聞いた訳ではない! なに、なんだと? Lb2型を
「はい、俺です。ラウラ・ボーデヴィッヒさんを是非、御嫁さんに下さい!」
「正気かッ、貴様!? ん? ちょっと待て・・・・・キヨセ・ハルキだと?! 貴様、あの二人目の男性IS適正者か?!!」
「そうですけど・・・何か?」
「そうか・・・貴様が、あのVTシステムを屠った男か。成程、貴様が・・・」
シュタイナーは目を四白眼にした後、まるで納得した様に溜息を一つ吐く。
実は此のシュタイナーと謂う人物は、ラウラの専用機にあの悪名高きヴァルキリー・トレースシステム、通称『VTシステム』を無断で乗せた張本人であり、事件後にラウラを秘密裏に処分しようとした一味の一人であった。
「どんな男だと思っていたが・・・成程、道理でイカレた男だな。祝福のない子供を妻に迎えようとするとは・・・正気ではない」
「そういうモノですかね? 惚れた女を嫁にする・・・男としては、此れ程の願いはありませんよ」
「フンッ・・・見てくれだけは美しいからな。貴様は、どうせ後悔する。きっと後悔するだろう」
辛辣なシュタイナーの言葉にラウラは下唇を噛み締めた。
すると、春樹はしたり顔の様な笑顔を浮かべる。
「良いじゃないですか、後悔しても」
「え?」
「・・・なんだと?」
「惚れた女に・・・惚れた女だからこそ、後悔しても良いじゃないですか。俺は、そう思いますね」
「馬鹿な事を・・・自分を特別な人間だとても思っているのか? そんなのは、詭弁に過ぎん!」
呆れた様にぶつくさボヤくシュタイナーだったが、春樹は笑顔を崩すことなく、彼は自分の右眼の眼帯を外して見せた。
「自分の
一つの目の中に
「ッ・・・・・な・・・なん、なんだそれは・・・なんだその目は!?」
「「!?」」
シュタイナーは目をカッと見開いて飛び起きる。そして、春樹の肩をグイッと掴んで彼の右眼を覗き込んだ。
此のシュタイナーの行動にラウラや後ろに居たミッターマイヤーが止めようとするが、春樹は二人に抑える様に掌を見せた。
「そんなッ・・・そんな馬鹿な!? あ・・・・・ありえんッ、こんな・・・こんな馬鹿な事があるか!!」
シュタイナーは狼狽える。自分の常識の範疇を越えた存在に動揺する。
しかし、シュタイナーは知っていた。春樹の右眼球にある二つの瞳の正体を知っていた。
其れは、彼が超人的兵士の為に開発した『オーディンの瞳』の異称を持つ『
だが、シュタイナーが驚いているのは、其処ではない。彼が驚いているのは、其のヴォ―ダン・オージェの高い適応力であった。
ヴォ―ダン・オージェと謂う代物は、其の適応能力の難しさから完全適応は不可能と謂われていた。
実際、遺伝子強化素体として生み出されたラウラでさえもヴォ―ダン・オージェには不適合であったのでる。
けれども今現在、シュタイナーの目の前に居るのは、そんなヴォ―ダン・オージェに完全適合した
「貴様、どこで・・・どこで、この目を手に入れた?!」
「おんや? 御存知ない? さっきからあんたが何度も言ってるVTS事件で、俺はラウラちゃん共々暴走したISに飲み込まれてしもうてね。其ん時にさ」
「ッ、ば・・・馬鹿な! そんなでたらめな理由があるか?!」
「残念じゃけど・・・あるんじゃなぁ、此れが!」
「阿破破ノ破!」と奇怪に笑う春樹に対し、シュタイナーはワナワナ手を震わせながらガックリ肩を落として其のまま力なく膝から崩れ落ちる。
「シュタイナー博士。俺の担当医は、俺の事を『新人類』と日頃から言っているんよ。俺にゃあ、ちぃとばっかし煩わしかったんじゃけど・・・ラウラちゃんを娶るんには、特別な人間でないとおえん言うなら・・・俺は特別な人間でエエわ」
「それじゃあの」と春樹はラウラの肩を抱いて出て行こうとした―――――其の時であった。
「ま・・・待てッ、待ってくれ・・・!」
「阿い?」
酷く表情の悪い肩で大きく息をするシュタイナーが、春樹を呼び止めたのである。
別に春樹は此れを袖にしても良かったのだが、老いた一応の恋人の生みの親を無下にする訳にもいかず、彼はシュタイナーの肩を持ってロッキングチェアへ座らせた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァッ・・・・・私は、私はいつかこんな日が来るとは思っていた。神の領域を冒涜した私を罰する者が現れると!」
「無理するなシュタイナー博士。あんた、もう九十ちかいんだから。今、救急車を!」
「黙れッ! 私は、大丈夫だ! それよりも・・・ミッターマイヤーの
シュタイナーは、小僧呼ばわりのミッターマイヤーを使い、近くの机の引き出しの中から古びた錆びだらけのブリキのクッキー缶詰を取り出す。
そして、中から分厚い書類を手に取った。両翼を拡げた
「ッ、このマークは・・・!!」
「なッ!? 博士、あんた・・・こんな所に隠してやがったのか?!」
其の書類を見て、ラウラとミッターマイヤーは心底驚いた。
けれども、無駄に察しの良い春樹は此れを見て「・・・道理でな」と納得した表情を浮かべたのである。
「シュタイナー博士・・・其れが、
「フッ・・・察しが良い。そうだ・・・私の父や祖父が纏め、私が形にしようとした研究資料だ」
シュタイナーは薄い笑みを浮かべると春樹の持って来た手土産、イエーガー・マイスターを見て、ある男の半生を語る。
「・・・知っているか? その酒が発売されたのは、1935年・・・ある男が生まれた年なんだ」
「おおっ、奇妙な偶然じゃ」
「男が物心ついた時・・・街には、その
「・・・じゃけど、
「そうだ。男は父や祖父の夢を受け継いだ。受け継いで、夢を形にしようとした。だが、そう簡単に上手くはいかない。何十、何百もの失敗があった。それでも男は諦めなかった。出来るか出来ないかを求める余り、するかするべきでないかを考えもせずにだ」
「そうして生み出されたのが、彼女か?」
春樹はシュタイナーの話を聞き、其れがラウラが生まれた経緯なのだろうと思った。
・・・・・・・・だが。
「・・・・・・・・・・・・・・・違う」
「何ッ? 違うじゃと?」
思ってもみなかったシュタイナーの言葉に春樹は眉間に皺寄せる。
問題は、彼が思っている以上に複雑怪奇であったようだ。
「そこにいるLb2型は、私が携わっていた
「計画? 計画って何なら?」
春樹の疑問符に対し、シュタイナーは返答代わりに彼の胸倉を掴んで引き寄せ、金色の瞳を覗きながら言い放つ。
「話してやるッ、話してやる代わりに約束しろ! 私の・・・私の夢を引き継げッ!」
「えぇ?? 引き継げ言われても・・・何したらエエんじゃ?」
「決まっている。子供だ! 子供をつくれ!!」
「ッ、は・・・博士!?」
「あッ、そういう事ね。大丈夫じゃ。無理のない範囲内で頑張りょーりますけん!」
「春樹!!?」
春樹の発言にラウラは顔を真っ赤にし、ミッターマイヤーは「おい、どういう事だ小僧?」と彼の頭へアイアンクローを仕掛けた。
一方、春樹の返答に満足したシュタイナーは、彼にある男・・・自分が関わった計画を話始める。遺伝子操作により『最高の人間』を造り出すという計画を。
「冷戦時代の半ば・・・男は巨大なパトロン達の元で研究に打ち込んだ。其の計画の名前は―――――
―――――『プロジェクト・モザイカ』。日本語名は・・・・・『織斑計画』だ」
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート
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