・・・・・時はちぃとばっかし戻る。
背後に迫る敵の追撃を振り切り、やっとの思いでフランスへと入国した千冬が率いるイギリスを目指すフランスルート一行。
彼女達は其処でシャルロットの実家であるデュノア家から思わぬ好待遇の歓迎を受ける事となる。
多大なる緊張感に精神的にも肉体的にも苛まれていた一行へデュノア家は温かいシャワーやら美味しい食事やら寝床やらを提供し、束の間の休息に彼女達は浸る事が出来た。
「Miss.織斑。少しお話できませんでしょうか?」
そんな休息の中、三ツ星シェフ級の食事を終えた千冬に声をかけたのは、一行を手厚くもてなすデュノア家家長アルベール・デュノア。其の彼の隣には、妻のロゼンダ・デュノアが佇んで居る。
「お疲れの所大変恐縮ですが・・・ぜひ、かの有名なブリュンヒルデであられる貴女とお話を交わしたいと思いまして」
「それに学園でのあの娘・・・シャルロットの様子もお聞きしたいのです」
IS学園の大手スポンサーの一つであり、自分達に休息補給場を提供してくれたデュノア夫妻の言葉に首を横に振る訳にもいかず、尚且つ―――――
「もちろん・・・
何処かの
イギリスで発生した問題解決の為に仕事モードであった彼女だが、一時の憩いの時間に対し、身体がアルコールを求めたのである。
まるで自分の心の内を読んだ様な夫妻からの提案に千冬の心はグラついたのだが、なにぶん「はい、そうですか」と首を縦に振る訳にもいかなかった。
「どうかしたのか、
千冬へ背後から声をかけたのは、彼女と随分面影が似通った黒髪の少女。元テロリスト構成員であり、自称織斑家末妹を名乗るMこと織斑 マドカである。
イギリスでの問題解決の為に共に此処迄来たのだが、元テロリストの犯罪者と云う事もあって監視が欠かせないのだ。
更に言えば―――――
「おいお前! 気安く千冬姉を呼んでんじゃねぇよ!」
彼女の弟であり、世界初の男性IS適正者である織斑 一夏が何かにつけてマドカに突っかかるのである。
「ッチ・・・誰も貴様なんぞ呼んでいないぞ。私は姉さんと話しているんだ。とっとと引っ込んでろ愚物如きが」
「ッ、テメェ!!」
「やめんか、バカモノ!」
「ぐェッ!?」
今にも自身の専用機を部分展開して斬りかかろうとする一夏の頭へ空手チョップがお見舞いされ、其の衝撃によって彼は踏み付けられた蛙の様な悲鳴と共に跪いた。
どうもフランスに来てから一夏の様子がおかしい。妙に殺気立って落ち着きがなくイライラしている。
千冬はそんな彼に与えられた自室での待機を命じ、一夏は其れに対して何やらブツブツ言いながら従った。
「まったく・・・・・申し訳ない、うちの愚弟が恥ずかしいマネを」
「ハッハッハッ。いえ、あれぐらいの年の男の子というものはあんなものです。元気があってよろしいではないですか」
「姉さん、私なら大丈夫だ。心配しなくとも
「ッ、はい。私でございましょうか?」
突然マドカから発せられた流暢なフランス語に驚きつつも丁寧なお辞儀と共に受け応えたのは、デュノア夫妻の後ろに控えていた老執事ジェイムズ。
「そうだ、お前だ。ボードゲームぐらいこの家にあるだろう? 少し私の相手をしろ。姉さん、この男が私の監視を一時的にすれば良い。その間、姉さんは休むと良い」
「おい、行くぞ」とジェイムズを連れて行くマドカ。
此の彼女の気を使った行動に千冬な訝し気な表情を晒すが、傍から見れば姉を想う優しい妹の姿にデュノア夫妻は感心し、了承を得たものだと彼女を別室へ案内した。
「ささ、どうぞ先生。私、秘蔵のワインコレクションの中でも秀逸な一品です」
案内された部屋で待って居たのは、来賓の為に用意された如何にも高級な品々と家具。
其の一つであるこれまた如何にも高級なソファへ座る様に促された千冬にアルベールはワイングラスを手渡し、其れに古びたボトル口を傾ければ、トポトポとグラスが血の様に真っ赤な液体で満たされてゆく。
「すぅー・・・・・いい香りだ。ワインには素人だが、そんな私でも素晴らしいものだとわかります」
「そうでしょうそうでしょう。これはブルゴーニュのあるブドウ畑で―――――」
「あなた、うんちくは止めなさいと言っているでしょう。申し訳ありませんわ、先生」
「いえ。こんな高級ワインを頂ける機会はそうはないので、ありがたいと思っております。それでは・・・ごちそうになります」
ワイングラスを満たした芳醇な香りを放つ赤を口にしようとした其の瞬間、動画の一時停止の様に千冬の手が止まった。
此の彼女の行動にロゼンダは「どうかされましたか、先生?」と当然の疑問符を浮かべるが、アルベールの方は「・・・気付かれたか?」と目を細める。
「・・・・・デュノア社長・・・
千冬は今と同じ様な状況になった事があった。
其れは、ある夏の日・・・明確に言えば、『銀の福音事件』が発生する前夜。千冬は、密かに部屋へ集まった生徒達にジュースを飲ませた。
勿論、其れは親切心からもあったからだろうが、本心はジュースと云う
そして、現在・・・千冬の置かれた状況は其れに酷似していた。
もし、此の手に持ったワインを呷ってしまえば、千冬は此れからデュノア夫妻が持ち掛ける提案を
「・・・フム、流石はブリュンヒルデか。実に
「あなた・・・」
「観念しようロゼンダ。織斑先生・・・この様な卑怯な手を使い申し訳ない。だがッ、私達とて手段は選ぶつもりはない!」
愛する妻に手を握られつつアルベールはキッと覚悟を決めた様な目を千冬へ向けた。
此の夫婦は一体何を、どんな無理難題を千冬に突き付けようと云うのか?
「織斑先生、貴女達がイギリスで何を行おうと構わない・・・けれど私達の娘、シャルロットを危険な目に合わせる訳にはいかん! だから頼みます・・・シャルロットはここで、この国で待機する様に指示しては頂けないか!!」
「何・・・?」
想像していたモノとは違うアルベールからの頼み事に千冬は眉をひそめた。
デュノア夫妻が求めたのは、自分達の娘であるシャルロットの戦線離脱。
イギリスでの問題解決の為に戦力ダウンは避けたい所なのではあるが・・・・・
「先生・・・あの子、シャルロットの専用機は第二世代型ですわ。ほとんどが第三世代機以上で構成されているチームにおいて、あの子の離脱はそんな問題にはならないんじゃないんですの?」
ロゼンダの云う通り、IS学園遠征軍内においてシャルロットだけが旧世代型を扱っており、戦力構成的なデータで見ると言っちゃあ悪いが、哀しいかな居ても居なくとも
しかし―――――
「・・・私は作戦内において、あらゆる不測の事態を想定しております。第三世代機は確かに強力な最新型機体でしょう。ですが、未だ信頼性が薄い諸刃の刃。もし、その第三世代機に問題が発生した場合、デュノア・・・お嬢さんの駆るラファール・リヴァイヴ・カスタムが要となるのです。それにお嬢さんは優秀です。心配いりません」
千冬の云う事も尤も。
更に言えば、シャルロット・デュノアと云うパイロットは、其の旧世代型機体で最新型機体と渡り合って来た。エースパイロットとしては申し分ない腕をしているのである。
かのブリュンヒルデからの思わぬ高い評価の返答に対し、アルベールの内心は複雑であった。
・・・・・ところがどっこい。
「いや織斑先生、そんな話をしているのではありません」
「・・・はい?」
複雑な表情を晒すアルベールの隣で、ロゼンダは訝し気な表情と共に
「そもそも・・・そんな危険な任務とやらにどうしてうちのシャルロットが構成メンバーとして組み込まれているのですか? 聞いた話によれば、軍が動く様な大事ではないですか! あの子はまだ十代の子供なのですよ!!」
「ッ・・・!」
彼女からの当然の如き疑問符に千冬は思わず口籠ってしまった。
イギリスでの
「・・・・・夫人、一体何処でそんな事を聞かれたのですか? それはまったくの誤解です」
「誤解? いいえ、そんな事はありませんわ! これは信用のある
面と向かって真っ向から千冬を糾弾するロゼンダ。
其の毅然とした彼女の態度に圧倒され、尚且つ何処か
・・・其の一瞬をロゼンダは見逃さない。
「あなた、それでも人様の子を預かる立場なのですか?! なにがッ、なにが『ブリュンヒルデ』か! あなたは教員失格です!! そんな人間に私達の愛する子を預ける訳にはいきません!!」
今にも掴み掛りそうな勢いで怒りを露わにするロゼンダ。
其の激情は、血が繋がってはいなくとも愛する娘であるシャルロットを想うが故であろうか。
そんな少々ヒステリックになっているロゼンダを夫であるアルベールは「落ち着いてくれ」と静かに諫めると厳かな表情を千冬へ向けた。
「織斑先生・・・ロゼンダの言った通り、私達は信用度の高い情報を持っております。保護者に通達もせず、大切な子供達を危険な任務に関わらせた証拠を私達は持っているのです。出る処に出せば・・・・・みなまで言わなくとも聡明な織斑先生にはお解りでしょう?」
言葉の刃を首筋に突き付けられた千冬だったが、脅しとも受け取れるデュノア夫妻の文言が彼女にはどうも引っ掛かったのである。
昂った感情のままに脅し文句を並べたデュノア夫妻の話の内容は、とても
なれば、二人に確かな情報を
「・・・・・・・・わかりました。いいでしょう」
しかし、現状そんな事は千冬にはどうでも良かった。
彼女の最優先目的は、問題解決の為にイギリスへ入国する事である。
此処で無理に意地を通す事でデュノア夫妻のへそを曲げてしまえば、余計な問題を増やす処か渡英の妨げとなってしまう可能性が十分高い。
ならば此処は夫婦の要求通り、彼等の愛娘シャルロットの身をフランスに置いて行ってしまった方が何かと都合が良いのだ。
戦力の減少は後々補う様に考えれば良い。
そんな深く考えた神妙な面持ちの後、千冬から発せられた肯定の言葉にアルベールとロゼンダは互いに顔を見合わせて明るい顔となった。
「織斑先生、あなたが話の分かる人で大変助かった」
「えぇ、本当に。これで祝杯が挙げられますわ」
夫妻は乾杯しようと誘う様に赤で満たされたワイングラスを掲げ上げる。
其れに対し、千冬は腑に落ちない怪訝な表情で溜息を一つ吐いた後、彼等の掲げるグラスへ自分のグラスを近づけ―――――
―――――「おいッ、ちょっと待てよ!!」
―――◆◆◆―――
織斑 一夏がシャルロット・デュノアについて知っている事と云えば、彼女の半生とデュノア社社長である父・アルベールからの命令によってIS学園へ
少々時季外れの転入生。
其れも世界的大企業デュノア社の
そんな彼女の秘密を
血の繋がった自分の子供を道具の様に無理矢理扱う父親に対して激怒したのである。
「シャル、大丈夫だ! 俺が・・・俺が必ず守ってやる!!」
何故なら彼もまた物心ついた時には親はおらず、肉親と云えば姉の千冬しかいなかった為、シャルロットにシンパシーを感じた一夏は彼女を守ると決心したのだった。
・・・・・しかし。
―――――「シャル・・・お前、もう正体を隠さなくていいのかよッ?」
「うん。あの
あの事件・・・・・VTS事件から幾日と経たぬ内に庇護対象だった筈のシャルロットは、自分を道具の様に扱った『あの人』呼ばわりしていた父親と和解したと云うではないか。
堅く彼女を守る決心した一夏にとっては複雑な心境だったが、シャルロットがもう苦しい思いをしないでいいなら其れでもいいと彼は自分の思いを呑み込んだ。
・・・ところがどっこい。
「そ、そうか・・・良かったな!」
「うんッ。・・・・・これも”春樹の
何処か照れた様な柔らかな笑みを浮かべるシャルロットに対し、「・・・・・・・・は?」と一夏は不快になった。
実はシャルロットの男装事件の裏で、一夏は
男の名は、清瀬 春樹。一夏と同じ世界でも稀有な男性IS適正者だ。
そんな男と何故に彼が対立したのかと云えば、やはり其れはシャルロットへの処遇による所が大きい。
一夏がシャルロットを擁護するべきだと主張する一方で、春樹は「関わり合いたくない」と発言したのだ。
IS学園転入初日からルームメイトとなり、先にシャルロットの秘密と事情を知っていながらも彼女を助けようともしない春樹へ対し、一夏は失望の念と共に声を荒らげて彼に手を挙げた。
だが、感情的な彼に対し、春樹は揶揄する様な口調とあの癪に障る奇天烈な笑い声で一夏の考えの甘さを指摘したのだ。
其の鋭い指摘に対し、一夏は歯噛みしながらも「やってみないと分からないだろうッ?」と食い下がり、誰の手も借りずにシャルロット防衛を決心したのである。
・・・話を元に戻そう。
そんなシャルロットを守ろうとする事に消極的だった春樹が、結果として彼女を救った事に一夏としてはメンツを潰された様で不快だったろう。
しかし、事情を聞こうにも其の後のゴタゴタによって有耶無耶になってしまった為、シャルロットの話は其れ以上の進展はなくなった
だが、此の以下の出来事が一夏に無意識ながらも春樹への劣等感を生み出してしまった事に変わりはない。
其の後、事ある毎に一夏が春樹に突っかかる様になった事は周知の事実。
けれども・・・此処で忘れてはならないのは、一夏の春樹に対する劣等感だけではない。
此の事件において首謀者とも云える立場であったシャルロットの実父アルベール・デュノアに対する一夏の嫌悪だ。
其のアルベールに対する嫌悪は、春樹との関係が悪くなる事と比例して歪なものとなっていってしまったのである。
其れ故に今回の騒動でフランスを訪れた際、自分達を熱烈に歓迎したアルベールを見た時、一夏の内心に眠っていた歪な嫌悪が目覚めてしまった。
更に言えば、フランスへ入国した際、一行の中には元テロリストで千冬の自称妹を名乗る織斑 マドカが居た為、彼女の存在が癪に触って堪らない一夏の精神状態は最低であったのである。
そんな思春期特有の不安定さと発酵が進んだアルベールへの嫌悪が、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わさってしまった。
さて・・・・・そんな状態の一夏が、デュノア夫妻の一計を聞けばどんな行動を起こすであろうか。
「おいッ、ちょっと待てよ!!」
「ッ、一夏・・・!?」
トントンとノックもなく犯罪組織のアジトに突入する特殊部隊の様にバーンと扉を張った押して現れたるは、顔を真っ赤にした憤怒の形相を露わにした織斑 一夏其の人。
彼は自室での待機を千冬から命ぜられたのだが、デュノア夫妻が彼女を連れて行った事を不審に思い、後を着けていたのだ。
普段ならば、此の一夏の下手な尾行に気付く千冬なのだろうが、彼女の注意が旅の疲労と目の前に差し出された一杯の酒に逸れてしまった事が此の結果である。
「千冬姉ッ、何で
「ッ、一夏、口を謹め!」
「・・・こんなヤツらとは、酷い言い草だな」
激昂した表情で突然現れて自分達に人差し指を突き刺す一夏に眉をひそめつつ、アルベールは彼を落ち着かせようと「君も何か飲むかね?」と空のグラスを向けた。
だが、そんなアルベールの気遣いを一夏は振り払う。
「うるせぇッ! 千冬姉、俺は反対だ! こんな連中にシャルロットは渡せねぇ! なにが『愛する子』だ?! シャルを無理矢理IS学園に送り込んだヤツの台詞とは思えねぇよ!!」
「ッ、そ・・・それは・・・!」
一夏の言葉にロゼンダは奥歯をギリッと噛み締める。
ロゼンダは過去にシャルを其の存在が許せずに「泥棒猫!」の罵倒共に平手打ちした過去があった。
覆られぬ過去に彼女は歯噛みする。
ガンッ!
「「!?」」
此のロゼンダの苦悶の表情に対し、持っていたグラスをテーブルに叩き付ける様に置いて応えたのは、目を細い三角にしたアルベール。
其の表情にはある
「・・・いくら若いと言っても目に余るな。事情を何も知らない人間が、口を挟む様な事ではない」
「事情なら知ってるさ! お前らがシャルを邪魔者扱いして、会社の利益の為
「・・・・・・・・知っている・・・」
「ッ、なんだって?」
「知っているッ・・・知っていると言ったんだ!」
思わぬアルベールの返答に一夏はギョッと目を点にする。
「織斑くん・・・君は私達の娘、シャルロットを随分と大事に思ってくれているのだね? それは、親としてとても喜ばしい事だ」
「親? どの口が言ってんだよ! 今までシャルロットを放置しておいて、何言ってやがる?!」
「・・・・・君は、シャルロットから何も聞いていないのかね?」
「なにをだよ!?」
口をへの字に曲げ、過去の一件を蒸し返してデュノア夫妻を一方的に悪役に仕立てる一夏をアルベールは呆れる様に溜息を吐いた後、彼はデュノア家のあまり口外できぬ御家事情を話す事にした。
「君がシャルロットからどんな事を聞いたかは分からない。だが、確かに私は自分の娘を其の意志に関係なく、事情を話す事もなく学園へ送り込んだ。今思えば、無茶な事をした。悪かったと思っている」
「悪かったと思っている? そんな言葉一つでどうにかなるものかよ! どんな理由があれ、自分の子供を―――――
「シャルロットの命を守る為であってもか?」
―――――・・・え?」
『命を守る為』と聞き及び、一夏の身体がすくむ。
其の隙を突く様にアルベールは、自分の行ってしまった黒歴史を話始める。
「恥ずかしい話なのだが・・・少し前まで我がデュノア社は経営不振に陥っていた。第三世代型ISの開発が難航していたからだ」
「その第三世代機をつくる為にアンタはシャルに男の格好をさせて送り込んだんだろ! どこがシャルの命を守る為なんだよッ! 嘘つくんじゃねぇ!!」
「・・・どうして私がシャルロットに男装させたと思う?」
「は? そんなの・・・警戒させる事なく俺に近付けさせる為に決まってるだろ?!」
「そうだ。私はシャルロットに性別を偽らせ、君に近付いてISの機体情報を掠め盗る様に指示した・・・・・
「・・・・・なに?」
一夏はアルベールの言っている事がちっとも理解できない様な疑問符を浮かべる。
・・・鈍感な人間に察しろという方が土台無理な話だが。
シャルロットをIS学園に送る前、確かにアルベールは彼女に上記の様な指示を出すには出した。
しかし、シャルロットはそんな指示を完遂する為に必要な企業スパイとしての技術や訓練を受けてはいなかったのである。
訓練も受けず、細かな事情を聞かされぬままたった一人で異国の地に送られた少女の心情はとても心苦しかったろう。
そんな人間が、果たして世界初の男性IS適正者専用機の情報を盗む事に専念できようか?
「織斑先生・・・シャルロットは、あなたの目に見えて実に
答えは『否』だ。
周囲から気付かれぬ様にシャルロットは取り繕ったのだろうが、解る人間からすればスパイだと丸解り状態。
其れも高等な超一流スパイではなく、素人に毛も生えない
此れに気付かないのは・・・『鈍感:A+』のマイナススキルを持つ人間ぐらいだろう。
無論、天下に名高きブリュンヒルデたる千冬が気付かぬ訳がない。
其れ故に最初はシャルロットのルームメイト予定は一夏であったのだが、彼が面倒事に会わぬ様に職権乱用気味な介入によって、まだ当時は箸にも棒にも掛からぬ存在だった春樹が宛がわれたのだ。
・・・・・まさか、此れが色んな意味でのターニングポイントになるとも知らず。
「ッ・・・デュノア社長、あなたは最初から・・・・・!」
「ど、どういう事だよ千冬姉・・・? 千冬姉は、シャルの事に最初から気付いてたのかよッ?」
語り掛けるアルベールにどんどん顔が険しくなる千冬。其の彼女の表情に流石の一夏も何かを察したのか、四白眼の目を千冬へ向けた。
端正な顔立ちがそんな表情をするもんだから尚余計にギャップがある。
しかし、そんな二人を余所にアルベールの口の動きは止まらない。
「だが・・・シャルロットに何の事情も話さず、突き放す様に学園へ送ったのには理由があったんだ。のっぴきならない理由がね」
「あなた・・・」
「・・・シャルロットの存在は会社にとってとても不都合だった。それも転覆寸前の大規模なグループにとっては、トドメの一撃に成りかねない
「消す・・・? 消すって・・・・・」
「・・・
重々しく「・・・・・そうだ」の一言がアルベールの口から紡がれる。
第三世代機開発に問題を抱えていたデュノア・グループにとって、シャルロットの存在は正に脳みそ奥深くに蔓延った
なれば、其の悪性腫瘍を
アルベールは、其のデュノア・グループ内でシャルロットの暗殺を計画する不遜な輩達から守る為、彼女を安全なIS学園に預け、あえて冷たい態度をとっていたのである。
まぁ、早い話がつまりは『ツンデレ・パパ』だったのだ。
「そ、そんな・・・・・だ、だったら今のシャルは!」
「いや、それに関してはもう大丈夫。転覆間近まで傾いていた経営はV字の勢いで回復できたし、グループ内にいた不穏分子も排除する事が出来た。これも・・・これも全て、『彼』の御蔭だ・・・! 本当に彼に出会えた事こそが、私達にとっては幸運に他ならなかった!」
「えぇ、本当に・・・本当にそう!
染み入る様に拳を握り緊め、ある人物への感謝を露わにするアルベールと彼の肩へ自分の手を添えて大きく頷きを入れるロゼンダ。
二人に此処迄の恩情を持たれる人物・・・・・そんな人物は一人しかいない。
「彼・・・Mr.清瀬 春樹には、生涯かけても返す事が出来ない恩をもらった。最早、此の恩に報いるには、彼を我がデュノア家の家門に・・・私の
「シャルロットもMr.清瀬・・・春樹くんの事を良く思っているわ。私としても彼をデュノア家に迎え入れる事には賛成よ」
「ちょ、ちょっと待てよ! なんで・・・なんでここで清瀬が出て来るんだよ!?」
春樹をべた褒めするデュノア夫妻を一夏は信じられない目で見る。
何故なら一夏にとって清瀬 春樹と云う男は、人を人と思わず、嘲り嘲笑う悪逆非道の不遜な冷血漢。
そんな人間を手放しで賞賛できる人間の感性が理解できなかった。
「アンタらは、アイツがどんな人間か知ってるのか?! 人を人とも思わない・・・
「ッ、あなた! 口が過ぎるんじゃないの!!」
一夏は少しだけ知っていた。春樹の其の狂暴な暴力性を。
そして、無意識に感じ取っていた。春樹の内にある異常な程の
無論、家族の恩人を化け物呼ばわりする一夏に対してムッと怒りを露わにするロゼンダ。
だが、そんな彼女をアルベールは制止すると何処か笑みを思わせる様な表情を一夏へ向けた。
「化け物か・・・フッ。確かに彼は『ジェヴォ―ダンの獣』の様に恐ろしい人物だ。目的の為なら手段を択ばない人間なのだろう」
「だったら―――――」
「だが、私達はそんな獣の様な存在に救われた。今まで目を背けて来た
アルベールは思い出す。
VTS事件直後、春樹の策略によって騙し討ちと恐喝の様に行われたシャルロットとの父娘会談。
気不味過ぎて腹を割って話す事のなかった、話す事が出来なかった愛する娘と和解出来るキッカケを作ってくれた事を彼は改めて感謝した。
「だからこそ・・・そんな私達の恩人を悪く言う事はやめてもらいたい! とても不愉快極まりないぞ!」
「で、でも・・・でもアイツはッ、清瀬は!!」
「だいたい・・・男装をしなくなったシャルロットが何よりもの証拠じゃないか? 最早、解決した問題を蒸し返さないでもらいたいね。それとも何か? 君はシャルロットに問題があった方が好都合なのかッ? 私達が自分の娘を虐げている事を望んでいるのか?! 其方の方がよっぽど酷いではないか!!」
「ッ・・・テメェ!!」
アルベールの反論が癪に障ったのか、一夏は彼との距離を一気に詰めると其の胸倉をガッシリ掴み上げたのである。
「あなた!?」
「(なッ、早い!?)やめろッ、一夏!!」
思いもよらぬ弟の突発的行動に千冬は一夏を止める事が適わず、ソファから立ち上がるだけにとどまった。
「止めてくれるな千冬姉! コイツはッ・・・この野郎はシャルを
「君は話を聞いていなかったのか?! その話は、もう
「ッ、ふざ・・・ふざけんじゃねぇよッ!!」
アルベールの発言が癪に障ったのか、其れとも
だが、彼の叱責が精神的に不安定な一夏の琴線に触れてしまった事は確か。
・・・なれば、次に彼がとる行動は、またしても突発的行動だった。
バキィ!
「ぐゥッ・・・!!」
「あなた!!」
振り突き出された一夏の拳はアルベールの頬へと直撃。
彼の頬を赤くするだけでなく、其の衝撃によって口を切ったのか、唇からタラり流れる血雫が自慢の顎髭を赤くする。
「き、貴様ァ・・・!」
殴られた事にアルベールの目の色が変わり、彼は思わず自身の拳骨を固く握った。
しかし、其の拳が振るわれる事はない。何故ならば―――――
―――――「ッ・・・おかあさん、どうしたの?!」
「しゃ、シャル・・・!?」
「シャルロットッ・・・!」
ロゼンダの悲鳴を聞いて部屋へ入って来たのは、話のネタに上がっていたシャルロット・デュノア其の人。
噂をすれば何とやらである。
「シャルロットさん、どうしたの・・・・・って!?」
其の噂のシャルロットの背後からひょっこり顔を覗かせたのは、彼女と同室になっていた更識 簪。
彼女は現場の状況を一見した瞬間、即座に思い浮かんだ事があった。
・・・「なんて馬鹿な事を・・・!」と。
「ちょ、ちょっと・・・一体なにをやっているのかな!?」
「シャル、これは違うんだ。俺は―――――
「邪魔だよ、一夏!!」
―――・・・えッ?」
「大丈夫ッ、
「アルベール、あなた痛くないの?!」
胸倉を掴む一夏を押しのけ、アルベールへと寄り添うシャルロットとロゼンダ。
此のまさかの展開に一夏は思わず怯み、アルベールは少々驚きつつも照れた様に「わ、私は大丈夫だよ」と言い淀む。
ところが、自分の父親を心配するシャルロットの両肩が震え出した。
「・・・・・・・・やまってよ、一夏・・・!」
「へ?」
「謝って! 何があったか知らないけど・・・
シャルロットは一夏の方へ振り向くと共に三角になった自分の視線を彼へ突き刺す。
此の彼女の思わぬ行動にギョッとする一夏だが、自らの正当性を表す為の
「ち、違う・・・違うんだ、シャル! 俺は―――――」
「なにも違わないよッ! 君は、お父さんを・・・ボクの
しかし、ピシャリと彼の云い訳を一蹴するシャルロット。
其の様子は、まるで傷付いた親犬を守ろうとする子犬の様だが、一夏にとって此れほど
其れでも負けじと一夏も内なる気持ちを吐露する。
「シャルッ、なんでそんなヤツを庇うんだよ?! そいつは仮にもお前を
「「ッ・・・!」」
一夏の容赦のない糾弾に顔をしかめるデュノア夫妻。
けれども・・・・・
「捨てた・・・? 違う・・・違うよ、一夏。お父さんは、ボクを守る為に学園に送ってくれたんだ! ボクの身の安全を確保する為にさ!」
最初は一夏が何を言っているのか解らなかったが、すぐに彼が昔の事を蒸し返しているのだと察して揚々と反論するシャルロット。
「そりゃボクだって、最初は酷い気分になったさ。この家に引き取られて、最初はおかあさんにビンタされたし、お父さんは口もきいてくれなかった!」
「「うぐ!?」」
シャルロットの勢いあまっての発言がグッサリ心の奥底に突き刺さるアルベールとロゼンダ。
そんな二人に「あッ・・・ごめん二人とも・・・」と謝罪した後、彼女は再び一夏に面と向かう。
「でも、でもね! 二人とも、本当にどうしようもないくらい不器用だっただけなんだよ! それにお父さんにもおかあさんにもどうしようもない事情があったんだ! ボクは、二人と話してわかったんだ。ボクの知らない所で、ボクの為に苦しんで、ボクを守ってくれた・・・二人はボクを愛してくれてたんだよ!」
「「ッ、シャルロット・・・!」」
「そんな二人を・・・ボクの家族を傷付けるなんて許さないだからね!!」
デュノア夫妻は泣く。
自分達の不器用さで彼女を傷付けた事に二人は酷く後悔していた。
そんな後悔を洗い流す様な言葉がシャルロットから吐き出されるのだから、感動する事この上なかっただろう。
・・・しかし、彼女の発言によって自分の正当性がポッキリ折れそうな人物が此処に一人。
「ち・・・ち、違う・・・・・それは違う!!」
「ッ・・・い、一夏?」
「そいつらは・・・そいつらは、お前をまた道具にしようと画策しているんだ! だから俺達からシャルロットを引き離そうとしたんだよ!!」
「ひ、引き離す・・・? どういう事かな? お父さん、おかあさん?」
「えと、その・・・」
「どう言ったらいいか・・・ねぇ?」
「お父さん、おかあさん?!!」
「「はい!」」
シャルロットの疑問符にデュノア夫妻は少々気不味い顔をしながら彼女に事の発端を話す。
信用のある
そして、其の事件がどんなに危険であるかと言う事と保護者に聞かされていなかった過去に解決した事件の数々。
勿論、今や立派な子煩悩の親バカと化したデュノア夫妻は此れに吃驚仰天し、専用機一行の指揮監督役である千冬に圧力をかけて娘を危険から守ろうとしたのである。
「そ・・・そうだったんだ。二人ともボクの為に・・・! でも、大丈夫だよ二人とも。今までだってボク達は、どんな問題だって解決して来たんだから!」
「し、しかしだなシャルロット!」
「それに・・・ボク、
心配する夫婦を説得する様に言い放つシャルロット。
だが、一方の二人は「敵討ち・・・って、何の話をしているんだ?」のはてな顔。
「さて、この話は終わり! さぁ、一夏・・・早くお父さん達に謝ってよ!!」
「な、なんでだよ!? シャル、騙されちゃダメだぜ! そいつらは、またお前を良い様に利用しようとしてるんだ! あの清瀬の様にお前を道具の様に―――――」
反論する一夏だったが、彼の言葉が最後まで紡がれる事はなかった。
何故ならば、一夏は春樹を罵倒する様な発言をしようとしたからだ。
両親を貶され、父親を殴られてヒートアップのギアが掛かったシャルロットが
―――――「ッぷギャレ!!?」
自分に一体何が起こったのか、一夏は訳が解らなかった。
突然視界が揺れ、いつの間にか自分は部屋の壁に叩き付けられていたのである。
「デュ、デュノア・・・!?」
「一夏・・・ボクのお父さんとおかあさんを貶すだけじゃなくて、春樹まで貶そうとするなんて・・・許さないよ?」
明らかにシャルロットの目からハイライトが無くなっていた。
色々と限界が来ていたのだろう。彼女は養豚場の豚を見る様な目で倒れる一夏を見下ろす。
「な、なんで・・・なんでだよ、シャル? お、俺は・・・俺はお前を守ろうと・・・・・守ろうとしたのに・・・!!」
「守る・・・? ボク、前から思ってたんだけど・・・・・一夏、君って本当に
溜息を吐くと共に部分展開された左腕部を収納するシャルロット。
「ご、ごうまん? 俺が、傲慢? 俺のどこが傲慢だって云うんだよ?!」
「自分にならどんな問題でも解決できるなんて思っている所だよ。ボクを守るって言ってたけど・・・本当にボクを守る気なんてあったのかな?」
「あ、あった! あったさ!! シャル、俺はお前を本気で守ろうとしたんだよ!! それなのに・・・それなのに清瀬のヤツが、それを横から
「・・・・・はぁ~~~・・・ッ」と室内に溜息が木魂する。
其の溜息は、何処から聞こえて来たのか。
「織斑くん・・・あなた、春樹に嫉妬してたんだね?」
溜息の発生源。
其れは扉の近くでウンザリとした表情を晒す簪であった。
「し、嫉妬? 何で俺が清瀬なんかに嫉妬しなきゃ・・・!」
「だって・・・春樹は、あなたに出来ない事をたくさん成し遂げて来たからだよ。だから・・・春樹を妬んで、嫉んでる。自分に出来ない事を羨んでる」
簪は過去に自分の姉である更識 楯無に羨望の感情を向けていた。
だが、其の感情は時が経つにつれて歪なマイナス感情となって二人に軋轢をつくっていた過去があった。
其れ故にちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ一夏の抱えていた感情が理解できた。
「ち・・・ち、違う・・・・・違うちがう違うちがうちがう!! 俺はッ、俺はあんなヤツなんかに・・・あんなヤツなんかに・・・・・う、うわぁああああああああああッ!!」
「えッ、一夏!?」
癪に障ったか、図星を突かれたか。一夏は頭を掻きむしながら発狂の声と共に部屋から走り去ってしまう。
「・・・追い掛けなくていいんですか、織斑先生?」
「あぁいう時は、無理に関わらん方が良い。それにその前にだ・・・!」
走り去った一夏を追い掛けるよりも優先して千冬にはやる事があったのだ。
其れは勿論・・・
「デュノア社長、うちの愚弟が本当に申し訳ございませんでした!」
綺麗な九十度の謝罪のお辞儀。
此の滅多に見せない彼女の行為に対し、デュノア夫妻だけでなく、シャルロット達もギョッとしてしまう。
「か、顔をお上げください織斑先生!」
「いえ。愚弟の、一夏の落ち度は私に責任があります。それに一夏の愚行を御停めする事が出来なかった・・・・・如何様な処分もお受けいたします。なので・・・此処はどうか、私の顔を立てて頂きたい」
天下に名高いブリュンヒルデに此処までされては何も言えぬ。
デュノア夫妻は「別に大丈夫です。シャルロットの本音も聞く事が出来たし」と怪我の功名を感じて軽く流したのだが・・・
「ボクは許さないです、許すつもりはありません」
「シャルロット・・・!」
「ボクは織斑先生の謝罪が欲しい訳じゃありませんから。一夏が・・・直接、お父さんに謝るまでは許すつもりはありません。そうだッ、今からでもお巡りさんを呼んで暴行罪で訴えようかなぁ~?」
大切な家族を傷付けられたシャルロットのハラワタは未だ熱かった様で、「フンッだ!」とソッポを向いたではないか。
そんなへそを曲げた状態の彼女が千冬に譲歩として、ある条件を提示した。
「だけど・・・・・ボクもイギリスへ連れてってくれるなら大事にするつもりはないかな?」
「「シャルロット!?」」
其れは英国問題解決軍の従軍である。
デュノア夫妻が必死に免除しようとした軍役に志願した訳・・・そんなの一つしかない。
「さっきも言ったけど。ボクは、春樹の敵が討ちたいんだ!」
決意の決まった眼で両親を見るシャルロット。
だが、一方のデュノア夫妻はやはり彼女の云っている事がピンと来てなかった。
「ま・・・待ってくれ、シャルロット。やはり私達には、お前の言っている事が理解できていない。どうして、彼の敵討ちなんて言葉が出て来るんだ?」
「それはね・・・二人とも驚かないで。春樹はね・・・十二月の初めにテロに巻き込まれて、それで・・・!」
事情を話そうとするシャルロットだが、思い出すだけで悔し涙で目が潤ってしまうのだが、やっぱり事情がデュノア夫妻にはサッパリ解らない。
―――――調度其の時、軽快な着メロがアルベールの携帯電話端末から聞こえて来た。
曲名は、ダニエル・ビダル版『オー・シャンゼリゼ』。
あまりにもベタ過ぎる選曲に簪がプッと吹き出すのを尻目にアルベールは電話を懐から取り出す。
「ッ、もしもし!」
取り出した電話画面を見てギョッとした表情を晒した後、アルベールは急いで其の電話を通話状態にした。
そして、幾度の会話を電話先の相手と交わした後、彼は通話をスピーカーモードにして皆の前へと自分の電話を突き出す。
此のアルベールの不自然な行動に対し、自然と皆の視線が電話へ中止される。
すると―――
≪阿ー、もしもし? 聞こよーるか?≫
「「なッ!!?」」
電話口から聞こえて来たのは、方言丸出しの日本語でしゃべる男の声。
其の声が聞こえて来た瞬間、シャルロットは大きく狼狽え、千冬も珍しく目を見開いて驚く様な表情を晒した。
けれども何故に二人が此の様なリアクションをとったのか?
其れは電話口の人物が、彼女等の知る限りではとても電話など掛けられる様な
そんな人物からの電話に対し、シャルロットは今にも泣いてしまいそうな表情でアルベールから電話を奪い取った。
「はッ・・・は・・・・・は、
電話先に居るであろう想い人の名を呼びながらポロポロ涙を流すシャルロット。
そう。電話相手は、話の中にも名前が挙がった二人目の男性IS適正者、清瀬 春樹だったのである。
「春樹ッ、春樹! も、もう・・・もう大丈夫なの?! もう元気になったの?!! ねぇッ、ねぇってば!!」
≪おいおいおいおいおい・・・解った解った、解ったから落ち着かんかシャルロットさんや?≫
「落ち着いてッ・・・落ち着いていられるわけないじゃないか! ぼ、ボクが・・・ボクが、どれだけ・・・どれだけ心配したと思って・・・・・う~~~~~ッ!」
想い人のいつも通りの声色に安心から泣きじゃくってしまうシャルロット。
其の一方で、近くに居た千冬は「・・・なるほど、そうか」と苦虫でも噛み潰したかの様な不快さで表情を歪めた。
「清瀬・・・貴様が、デュノア社長達が言っていた
≪あら? 流石は、ブリュンヒルデの織斑先生。第一声が其れとは・・・察しが良いにも程があるってもんじゃわぁ。阿ッ破ッ破ッ破!≫
お馴染みの奇天烈な笑い声に益々千冬の眉間にしわが刻まれ、「え・・・ど、どういうことなのかな?」とシャルロットは首を傾げているとアルベールがバツの悪い顔で語り出す。
「実はだなシャルロット。お前から連絡が来る前に彼・・・Mr.春樹から電話があってね。事の次第を聞いたのだよ」
「え!? ボクから連絡する前って・・・・・でも、春樹はその時!」
≪まぁ、説明は省くが色々あってな。君らぁが英国向けて飛び立った後、まるで夢の様な
「ど、ドイツ!? セシリア達が向かったルートじゃないか?! 何でそんな大事な事、連絡してきてくれないの?!! 酷いよ春樹!!」
≪いや、連絡はしたで・・・・・簪さん
春樹の発言に「はぁ!?」と驚きの声が上がった後、ジロリッ鋭い視線が簪に注がれた。
当の簪は思った。「・・・このバカ春樹ッ!」と。
≪あッ、簪さんは責めんでやってくれ。ロシアの空の上の方で殿軍やった楯無を保護した事を知らせてやりとぉてな。其ん時ついでに口止めしてもろうたんじゃ≫
「だからって・・・もうッ、もう!!」
≪・・・悪い。心配かけてしもうたな。ごめんな、シャルロット?≫
「あ、謝ったって・・・・・謝ったって、許してあげないもん!!」
泣いてばかりのシャルロットちゃん。春樹さん、困ってしまって阿破破ノ破。
そんな和気あいあいとしている中・・・
「・・・・・それで、清瀬・・・一体何のつもりだ?」
唯一人静かに般若の形相を崩さない千冬は、皆が戦慄する程の覇気を身体から放ちつつ疑問符を春樹にぶつける。
≪・・・何のつもりとは?≫
「とぼけるなッ・・・! 最初は、大方私達に秘密でラウラと共に今作戦に関わるつもりだったんだろう・・・・・だが、そうしなかった。何のつもりだッ?」
千冬の疑問符に対し、春樹は電話先で嘲笑うかの様に「・・・阿破破ノ破ッ!」と奇天烈な声を上げた。
≪事情が変わったのさ、織斑センセ? いんや・・・・・『千体目の
「ッ!?」
≪詳しい事ぁ会ってからでも遅くはあるまいて。そいじゃあ皆さん・・・英国でお会いしましょう≫
「えッ、ちょっと春樹!!?」
≪ほいじゃあの!≫と其のまま電話を切ってしまう春樹。
何が何だか解らず、納得しないし出来ないシャルロットは、とりあえず自分達に内緒で春樹とコンタクトをとっていた簪に食って掛かったのだった。
―――◆◆◆―――
「通話は終わったのか?」
何処か薄暗い場所で携帯電話の通話を切った春樹に疑問符を投げ掛けるのは、首を傾げた様子が実に愛らしい彼の恋人、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
春樹はそんな相思相愛の彼女の頭を優しく撫でる。
「あぁ、終わったで。作戦変更をちぃとばっかし伝えた。後は勝手に勘ぐってくれるじゃろう」
「ンっ・・・そうか。いい結果になるといいな」
「じゃなぁ」
ラウラは、自分の頭を撫でる春樹の手を取ると其れを自分の頬に沿わせ、気持ち良さそうに目を細めた。
「・・・・・ちょっと? 私はいつまであなた達のイチャつきを見ないといけないのかしら?」
しかし、此の空間は春樹とラウラの二人っきりと云う訳ではなかったのである。
声のする方を見れば、其処にはドイツで合流した英国上陸部隊の一人、サラ・ウェルキンが冷たいパイプ椅子に座っていた。
「話があると言って、こんな所に連れ込んで・・・どういうつもり?」
「どういうつもり・・・ね。思い当たる節ならあるじゃろう、サラ・ウェルキン先輩ヨ?」
春樹の問い掛けに対し、サラは目を一瞬見開いた後、口端を少し歪める。
「フッ・・・・・何を言うかと思えば・・・私が一体何を隠して―――――」
「あぁ、そういうのエエけん」
反論しようとするサラに春樹は自分の掌を見せた後、
―――――「『ワールドパージ』・・・起動」
「え・・・ッ!!?」
薄暗い空間に金の焔が二つ灯った。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート
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