IS/Drinker   作:rainバレルーk

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―――――鉄の女、マーガレット・サッチャーが率いる保守党が1978年にイギリス経済の源泉を製造業から金融・不動産業の高度専門技能にシフトチェンジ。
そのせいで製造業市場が外国資本に奪われてしまい、製造業に従事する労働者階級へ貧困が広まる。
そして、1997年にトニー・ブレアが高度専門職に就く中流階級を重視し、『結果平等』よりも『機会平等』を強調。
更に労働組合の権限を廃止もしくは縮小した事で、労働者階級の貧困はもっと広がる。
弱った製造業はEU市場で圧倒的なドイツ製品に完敗した事で、イギリス経済の金融業依存は更に加速。

労働者階級へ広がった貧困の影響によって高度教育を受けられない労働者階級の受け皿は減り続けて、社会は上流・中流階級と下流階級の所得格差や社会・文化的断絶が大きくなってしまう。
特に”チャヴ”と呼ばれるスポーツウェアを着た反権威的な若者達の生活は深刻で、2011年には彼等による暴動が起こった。
でも、社会はそんな彼等に・・・私(・)達(・)に手を差し伸べるどころか、「こんなやつらがいるから、この国はだめになった」と貧困者の自己責任を責め立てる始末。

・・・・・貧しさっていうものは病気と同じよ。
身も心もボロボロにしてしまう恐ろしい不治の病。
そんな難病にかかっている人に「努力が足りないから」とか、「向上心がない」とか、心にもない事を言って来るやつらが平気でいる。
そんな時に現れたのが、ISだった。
ISこそ、こんなどうしようもない状況をどうにかしてくれるものだった。
幸いにも私には高いISへの適正があった。

だから私は必死になった。
あんな生活に戻るなんて真っ平!
何にも知らない連中から、何にもわからない、理解しようともしない連中から責め立てられない様に・・・成りやがってやる!!

・・・・・そう・・・そう思ってたのに・・・!
先に国家代表候補生になった私じゃなくて、なんであんな女に専用機が与えられるのよ!?
私はッ、私は誰よりも必死に努力した!
人には言えない様な事も・・・媚びりたくもない相手にも媚びて来た!
なのに・・・ッ、なのになんで私じゃないのよ!!

あの女が上流階級の出身だから?!
私が労働者階級の人間だから?!!

何が『機会の平等』よ!
結局は、持ってる人間が掻っ攫っていくんじゃない!!

ふざけるなッ!
ふざけんじゃあないわよ!!

―――「お前さんは、労もなさずに専用機をもらった彼女に対して憤っとるん?
其れとも・・・今の地位から転がり落ちて、あの屈辱の日々に戻る事に恐怖しとるん?」

何もかもッ、全てによ!!
いや・・・いやよッ、私!
もうあんな屈辱の日々に戻りたくない!!

―――「・・・貧しさは心身を蝕む病。
知らぬがナントカ。
富める者を知らなければ、自分が貧しき事を理解する事もない・・・か。
金は大事じゃなぁ。
金さえあれば、こんな目に遭う事もなかったか?
難儀じゃ、難儀じゃ」

どうすれば・・・私、どうすればいいの?
この任務に失敗したら私・・・今度こそ代表候補生から降ろされるわ!
そうなったら!

―――「まぁ・・・其処はお前さんの働きによるな。
じゃけど・・・すぐ近くに手っ取り早くお前さんの今後の生活を安泰にする方法があるんじゃけどなぁ。
・・・聞きたい?」

ッ、ど・・・どういう事?
一体それはどういう方法なの?!!

―――「まぁ、落ち着きんさい。
そうじゃなぁ、此れはあくまでも参考なんじゃがな?
其りゃあなぁ―――――」



第208話

 

彼女は、セシリア・オルコットは憶えている。

今は昔、袖を引っ張りながら母親の背後から恥ずかしそうに顔を覗かせるセシリアと対面するのは、何処か緊張した面持ちの茶髪の少女。

彼女こそ、セシリアの父親が彼女の専属メイドとしてオルコット家に迎え入れたチェルシー・ブランケット其の人である。

セシリアは此の年齢以上に落ち着いた雰囲気を身に纏っているチェルシーに良く懐いた。主従関係にありながらも、まるで姉の様にだ。

 

そんなお姉さんの様な人であり、憧れで目標でもある人物が自分達を裏切った事が、セシリアにはとても受け入れられる事ではなかった。

 

―――「もしかしたら・・・特(・)別(・)な(・)人(・)に会えるかもね☆」・・・と、不思議の国のアリスの様な冗談みたいな恰好をした天災(・)科学者はそうセシリアへ耳打ちして来た。

だから彼女は当初は困惑していた一夏との英国観光に赴く事にしたのである。

 

・・・そして、其の瞬間は突如として来た。

一夏とのちょっとした口論になった其の時、ハイヤーの車窓から見えたのは覚えのある顔。

黒のマントコートを纏ってはいてもセシリアが其の顔を間違える筈がなかった。

 

「チェルシー・・・!」

 

急ブレーキをかけたハイヤーから飛び出る様に雑踏の中へと脚を向けたセシリアはチェルシーを追って駆け抜ける。だが、相手方も彼女の存在に気付いているのか、二人の距離は一定を保ったまま。

其の内、セシリアは人気のない古ぼけた廃ビルへと駆け上がって行き―――――

 

「ッ、チェルシー!!」

 

息を切らして駆け上った屋上でセシリアは自らに背中を向ける彼女の名を叫ぶ。しかし、チェルシーが振り向く事はない。

其の素気ない態度が癪に障ったセシリアは再び彼女の名を叫ぶと共に距離を詰めんと一歩を踏み出した・・・其の時!

 

ズギャン!

「きゃあ!?」

 

セシリアの足元を抉ったのは桃色の強い閃光。

其の光が放たれた先を目で追えば、其処には空中にふわりと浮いた物体が一つ佇んで居るではないか。

其の物体を見た途端、セシリアは表情を強張らせながら身構えた。

 

「・・・・・御嬢様、やはり来ていましたか。

来(・)て(・)し(・)ま(・)い(・)ま(・)し(・)た(・)か(・)」

 

ひらりマントコートを翻して振り返ったチェルシーは、張り付けた無表情をセシリアへと向ける。

そして、同時に先程と同系統の物体を幾つも背後へ展開させたではないか。

 

「『ダイヴ・トゥ・ブルー』・・・ッ!」

 

信じたくない事実に対し、セシリアは目を見開き奥歯を噛み締める。

第三世代型BT兵器搭載IS、ダイヴ・トゥ・ブルー。

いつかの日にマドカが同型のIS、サイレント・ゼフィルス強奪後に極秘裏に開発されたBT兵器搭載ISの3号機。

 

英国政府高官から其れがチェルシーによって強奪された事を聞かされたセシリアは何かの間違いだと思った。

何故なら、そんなモノを彼女が強奪する理由がなかったからだ。

だからきっとテロリストがチェルシーに罪を着せる為に彼女に変装して機体を奪い去ったのだと思っていた・・・・・思(・)い(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

「本当に・・・本当にチェルシーなんですの?

本当にあなたはチェルシーなんですの?」

 

「・・・・・」

 

「ッ、答えなさい!」

 

セシリアは自らの愛機ブルー・ティアーズを纏うとライフルビットを展開し、其の銃口を姉妹機を纏うチェルシーへ差し向ける。

すると彼女は窘める様に一つの溜息を漏らす。

 

「・・・御嬢様、淑女たる者がそう大きな声をあげないでください。

はしたないですよ?」

「ッ・・・チェルシー・・・」

 

セシリアは確信した。

たったの一言、たったの一つの振る舞いでしかなかったが、彼女が自分の知るチェルシー・ブランケットだと確信するには十二分過ぎるものであった。

 

「どうして・・・どうしてですのチェルシー?

どうしてあなたがこんな事を・・・!!」

 

当然の疑問符。

其の当然の疑問符に対し、従者は下唇をほんの少しだけ噛むと自分の主人に向けて返答代わりの桃色の閃光を射出した。

 

「ッ、チェルシー!!」

「・・・いきますよ、セシリア御嬢様!」

 

よーいドンの合図と共に大空へ舞い上がった両者は、展開したライフルビットから閃光を瞬かせての銃撃の応酬を開始。

尚、同じBT兵器を搭載している為、威力に然程の差はない。よってパイロットの力量が問われる事となる。

なれば、国家代表候補生に上り詰める程の実力を持つセシリアが優勢・・・な筈だった。

 

「そ、そんな!?」

 

スラスターから放出される膨大なエネルギーを利用した高速移動と巧みな銃撃によって追い詰められているのはセシリアの方だったのである。

まるで此方の手の内を知っているかの如く的確な射撃と瞬時加速までをも行うチェルシーに彼女は動揺が隠せない。

此の女、ただのメイドではない。

 

「ッ・・・そうはいきません!!」

 

しかしてセシリアも押されているばかりではない。

国家代表候補生として、そしてオルコット家の女主人として負ける訳にはいかないのだ。

 

「いきますわよ!!」

「!?」

 

あ(・)る(・)蟒(・)蛇(・)におススメされた機動戦士シリーズ劇中内戦闘を応用した複数あるライフルビットを利用したオールレンジ攻撃とビームの軌道を曲げる偏向射撃によって形成逆転を謀るセシリア。

けれども、此のビット攻撃なるものは操縦者の本人がビットの制御に集中しなければならないので他の武器と連携できず、本体が無防備になるという弱点も持ち合わせている。

無論、此の隙を見落とすチェルシーではない。

・・・其れがセシリアの狙いとも知らずに!

 

「おんどりゃぁああ―――!!」

「ッ、御嬢様!!?」

 

無防備になったセシリアへ手持ちの得物を向けたチェルシーだったのだが、そんな彼女に向かってセシリアは命一杯のエネルギーをスラスターから噴射させた瞬時加速によって一気に距離を詰めて来た。

其の手には、ブルー・ティアーズ唯一の近接格闘武器インターセプターが握られている。

 

「喰らえですわ!!」

「くッ・・・!」

 

タックルの衝撃と共に逆手に持ったインターセプターを振り上げるセシリア。

突拍子もない行動と今まで見た事もない鬼気迫った彼女の表情に気を奪われたチェルシーは思わず目を瞑ってしまう。

 

「・・・・・・・・え?」

 

だが、いつまで経っても斬撃の衝撃が襲ってくる事はなかった。

当然の疑問符と共にチェルシーが目を開ければ、其処に居たのは―――――

 

「・・・できません。

できませんわ。

チェルシーに・・・私のチェルシーにこんな事、できませんわ・・・!!」

 

両頬へ幾つもの雫を伝わらせている空の様に真っ青な瞳を潤ませる自分の主人、セシリア・オルコットだった。

彼女は突き立てる筈だった刃を力なくダラリと下ろすと其のままインターセプターを消失させると両手でチェルシーをそっと抱き寄せる。

 

「どうして・・・どうしてですの、チェルシー?

どうしてあなたが・・・!」

「・・・御嬢様・・・私は・・・ッ」

 

チェルシーは戸惑いながらもセシリアの背中へ自分の腕を回そうとした。

―――――しかし。

 

パシィン!

「へッ・・・?」

 

彼女はグッと握り拳をつくった後、平手でセシリアの頬を叩く。

まさかビンタされる等と思っていなかったセシリアは叩かれた自分の頬を抑え、真ん丸な目でチェルシーを見つめた。

 

「私とて・・・私とて・・・!」

 

「ち、チェルシー?」

 

「私とてッ、こんな事!

こんな事はしたくありません!!

ですがッ・・・!!」

「きゃぁあ!?」

 

チェルシーは奥歯が砕ける程に嚙み締めると渾身の力で突き飛ばすとライフルの銃口を彼女へ突き付ける。

 

「甘っちょろい!

そんな事でオルコット家の当主が務まるとお思いか?!

敵ならば・・・敵ならば、親や子であろうと刃向かうのならば叩き潰しなさい!!

ましてや・・・ましてや使用人に対して情などかけるな!!」

「チェルシー・・・ッ」

 

そして、叫びと共にビームライフルの引き金を絞れば、銃口から勢いよく飛び出した桃色の熱線は呆然と佇むセシリアへ一直線に向かって行く。

 

―――――「セシリア!!」

 

しかし、直撃の瞬間に彼女を風の様に掻っ攫う白い機体が一つ。

白のISを身に纏った若武者はセシリアを抱えたままチェルシーへ向かって自らの得物で指し示す。

 

「いったい何やってんだよ!!」

 

「い・・・一夏さん・・・?」

 

颯爽と現れた若武者の正体は、ハイヤーに置いてけぼりを喰らっていた一夏であった。

何か思う事があったのだろう。セシリアのブルー・ティアーズの反応を追いかけて来たのである。

 

「よくもセシリアを・・・!

許さねぇ!!」

 

「白いISの男・・・ならば、あなたがかの有名な織斑 一夏さんですか。

許さなければどうすると云うのです?」

 

「倒(・)す(・)に決まってんだろうが!!」

 

「倒す、ですか・・・フッ」

 

「ッ、何がおかしいんだよ?!」

 

「いえ・・・覚悟がなっていませんねと思いましてね。

覚悟がある人間ならば・・・倒すなんて言葉は使いません。

敵ならば・・・敵を前にしたのならばッ、殺(・)し(・)て(・)や(・)る(・)とぐらい言ってみなさい!!」

 

チェルシーの放った言葉に一夏はグッと息を呑んだ。

目の前にいる此の女は強いと直感させるには十分すぎる覇気を彼女は放っていたからである。

 

「やめて・・・やめてくださいッ。

やめてくださいまし、一夏さん!」

「セシリアッ?」

 

一夏に抱き寄せられていたセシリアはすがる様に彼の胸倉を引っ張っると頼み込んだ。

「戦わないで」と、「争わないで」と。

 

「なんでだよ!?

あいつはセシリア、お前を!!」

 

「彼女は我がオルコット家のメイド・・・いえ、家(・)族(・)なのです!!」

 

「か、家族!?

おいッ、いったい何を言ってんだよ!

じゃあ何でセシリアの家族が―――――

「・・・家族ではありませんよ」

―――――え?」

 

「え・・・ッ?」

 

セシリアは自分の鼓膜が先程の戦闘で破けたのかと勘繰った。破(・)け(・)て(・)い(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)と願(・)っ(・)た(・)。

其れか幻聴であって欲しかった。幻聴ならば、まだ自分の弱い心が引き起こした幻惑だと納得できた。

けれども―――――

 

「私の家族はたった一人・・・

お前達によって空(・)の(・)上(・)へ(・)囚(・)わ(・)れ(・)た(・)私のたった一人の妹(・)、『エクシア』だけです!」

 

「おいッ、それはどういう意味だよ?!」

 

「何も・・・何も知らないのですね。

此の空の上・・・宙域にある衛星エクスカリバーが、英国と米国が極秘に開発していた生体融合型ISだと言う事も!

そして、そのコアに戸籍が抹消された私の妹が搭(・)載(・)されている事も!」

 

「だからッ、お前達は!!」とチェルシーは花弁の様なライフルビット達を再び展開させ、其の銃口達を二人へ差し向ける。さすればショッキングピンクが季節外れのゲリラ豪雨が如く降り注いだ。

 

「ッ、ちっくしょう!!」

 

容赦なく飛んで来るビーム攻撃に対し、一夏は自らのISである白式に搭載された多機能武装腕・雪羅のバリアシールドを展開する。

しかし、此のバリアシールドには白式の単一能力・零落白夜と同じエネルギーを使用している為に長時間防御に使う事は出来ない。

なれば其の機動力を以て回避行動すれば良い話なのだが―――――

 

「そんな、チェルシー・・・わ、私は・・・・・ッ」

 

チェルシーの発言が余程ショックだったのか、心ここにあらずと幼子の様に頭を抱えるセシリアを抱えての戦闘は彼には荷が重かった様で、徐々に確実にシールドエネルギーが減少している事が余計に焦燥感を煽る。

 

「ッ、この野郎―――!!」

 

だが、一夏は果敢に反転攻勢に打って出た。

ビーム攻撃雨あられの合間を縫い、雪羅を射撃用の荷電粒子砲へ変化させると共にチェルシーへ向けて焔を放つ。

彼女に向かってズギュゥウ―――ッン!と唸りを上げて射出されたエネルギー弾は周囲の攻撃を呑み込む。

・・・けれども。

 

「・・・・・・・・ハッ」

「え・・・?」

 

チェルシーにとって偏向射撃でもない唯の直線的な熱線の旋律を避けるのは容易かった様で、彼女はヒラリ身を躱すと共に先程の弾幕射撃とは一線を画す正確無比なカウンターショットを放った。

 

ズギャン!

「ッ、ぐぁッ!!?」

「きゃぁアア!!」

 

此の銃撃によって態勢を崩された一夏は抱えたセシリア共々落下し、廃ビル屋上に大きな白煙を巻き上げる。

 

「・・・他愛もない。

本当に本当に・・・他愛もない。

これが世に聞こえた男性IS適正者の実力ですか?

はっきりと言って・・・ガッカリですね」

 

「―――ッ!!

お前ぇえ―――――!!」

 

上から見下ろすチェルシーの煽り文句に対し、一夏は額に青筋を浮かべて歯を剥き出しにする。

そんな悪い癖を晒す彼を囲む様にチェルシーは周囲へライフルビットを八方に展開した。

 

「・・・終わりです。

あなた達にはここで再起不能になってもらいます!」

「!?」

 

銃口へ集束される光の粒子達。

此れではバリアと銃撃に使った為にシールドエネルギーは大幅に減少してしまった白式では、パイロット二人を完全に守るには余りにも足りない。

そんな焦る一夏に対して―――

 

「・・・チェルシー」

 

セシリアは何とも言えぬ表情で目を瞑っていた。

其れは諦めからなのか、其れとも覚悟を決めたからなのか・・・彼女はグッと目を瞑っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――≪・・・セックヴァベック≫

「・・・・・え?」

 

最早此れまでと思った其の時、聞き慣れぬ声が聞こえて来た。

初めて聞く聞(・)き(・)慣(・)れ(・)た(・)機械音声。

其の無機質な言葉が紡がれると共に現場の空気が一気に覆る。

 

「なッ・・・に・・・・・!?」

 

一夏とセシリアを再起不能のあと一歩まで追い詰めていた筈のチェルシーの身体が羽交い絞めされたかの様に硬直し、展開していたライフルビット達は生気が抜かれた様に地へと伏す。

チェルシー・ブランケットは自分の置かれた状況に理解が追い付いていなかった。まるで底なし沼に沈(・)ん(・)だ(・)かの様な感覚に混乱した。

そんな突如として巻き起こった理解不明の状況に動揺しながらも彼女は息継ぎをするが如く振り返れば―――――

 

≪カロロロロロッ・・・≫

 

―――其処に佇んで居たのは、竜を思わせる黒い黒い漆黒の鎧甲冑に身を包んだ一体の騎士。薔薇の様に真っ赤な一(・)つ(・)目(・)を輝かせる異形の黒(・)竜(・)。

そんな生物的で無機質な人型物体はゆっくりチェルシーとの距離を詰めて行く。

 

「ッ、う・・・うわぁああ!!」

 

自分に近づいて来る此の異様で不気味な存在を「ヤバい!」と本能的危機感で察したチェルシーは逃れようと藻掻くに藻掻く。

しかし、彼女を嘲笑うかの様に黒竜は喉(・)を(・)鳴(・)ら(・)し(・)て(・)チェルシーへ広げた鍵爪を伸ばす。

 

「チェ・・・チェルシーッ!!」

「おいッ、セシリア!?」

 

けれども、今まさに窮地に陥っているチェルシーを助けようと黒竜へ向け、目のハイライトを取り戻したセシリアの援護射撃が炸裂。

此の突拍子もない彼女の行動は、黒竜の登場によって窮地脱出を考えていた一夏の度肝を抜いた。

 

「お、御嬢様・・・!」

 

「逃げなさい、チェルシー!

ここは私達に任せて早く!!

ほらッ、一夏さんも援護を!!」

「お・・・おう、わかった!!」

 

 

何が何だか解らないがセシリアと共に一夏もズビャビャビャッ!と桃色閃光雨あられを黒竜に降らせる。

御蔭で白煙の塊がまるでタンポポの綿毛の様に空へ咲く。

・・・・・ところがどっこい。

 

≪・・・ウラァッ!!≫

 

ドバァアッン!!

「「ッ、きゃぁああ―――!?/うわぁあああッ!!?」」

 

降り注ぐビーム攻撃を埃を掃うかの如く胡散霧消させると幾つも丸(・)い(・)光(・)輪(・)を御返しとばかりに投擲。

其の攻撃によって二人が怯んだのを確認した黒竜は、左(・)手(・)から真っ赤な骨身の様な刃を顕現させるとチェルシーを背後より―――――

 

ズブシュ・・・ッ!

「あグァッ・・・!!?」

 

「ッ、チェルシィイイ―――!!」

 

赤々の滴った紅蓮の牙が彼女の胸から飛び出すと共に血を吹き出すチェルシー。

そんな彼女に対し、黒竜は更にグリグリと刃を捻じ込んだ後―――――

 

ガブシャ・・・ッ!

「いやぁあああああああッ!!」

 

白目を剥いた彼女の頸動脈目掛けて黒竜はずっぷしと己が牙で齧り付いた。

嚙み場所からは噴水の様に致死量並の血が噴き出し、チェルシーの白い肌を赤く染める。

 

「ち・・・チェルシーッ!

チェルシィイイ!!

いやぁあああああああッ、やめてぇえ!!」

「セシリア!!」

 

目の前で家族と慕う人間を噛み殺される様を見せられたセシリアは半狂乱で泣き叫びながら近づこうとスラスターを噴かそうとするのだが、此の異様な状況に危機感を察した一夏は彼女が飛び出さない様に抑え込んだ。

 

「はな、離して!

離してくださいまし!!

チェルシィーがッ、私のチェルシーが!!」

 

悲痛に喚くセシリアを余所に更に更にチェルシーへ深く深く牙を突き刺した黒竜は、カメレオンの様に自分の体表を周囲の景色に同化させる。

其れは首筋に喰らい付いた獲物であるチェルシーの身体さえも透明にしていき、最後には跡形もなく黒竜とチェルシーの姿は掻き消えてしまう。

 

「ッ・・・お、じ・・・ょうさ・・・・・ま・・・」

「!!」

 

消失の直前。

チェルシーが泣きじゃくるセシリアに対して向けたのは、どういう訳か安(・)堵(・)の(・)笑(・)み(・)を浮かべた。

何故に彼女が笑みを浮かべたのか。

今となっては誰にもわからない。

 

「いやぁあああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

最近、筆が進まないんですよねぇ・・・
スランプでしょうか?と思う今日この頃・・・
書きたい場面はキッチリ決まってんですけどね。
・・・難しいですなぁ。
参考資料ばかりが積み重なるばかりじゃわぁ・・・

極東は田舎生まれの蟒蛇くんの進化ルート

  • ジークフリート
  • ファフニール
  • 俵 藤太
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