IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第21話

 

 

 

早めの夕食をラウラと共に食べ終えた春樹は自室へと帰っていた。

 

「ふぅーッ・・・ふぅーッ・・・ふぅー・・・ッ!!」

 

・・・だが、どうにも顔色が優れない。というよりも酷い顔だ。

いつも以上に彫り刻まれた眉間の皺と苦悶に満ちる歪んだ唇。加えて、ポケットに突っ込んだ右手はバイブレーションのように痙攣を起こしていた。

 

「酒・・・酒、酒酒・・・お酒飲みたい・・・お酒飲みたいよぉ・・・!」

 

「ワタシ、サケノミタイ」とブツブツと詠唱呪文でも唱えているかのように願望を吐露する春樹。

正にその姿は危険人物であり、他の生徒は彼を見た途端に逃げた。

 

「う・・・ヴぇ・・・ザけッ・・・のミタいィイ・・・ッッ」

 

ついに人語を話せなくなる一歩手前まで症状が進行してしまうが、それでも何とか自室の鍵を開けて中に入る事に成功した。

 

「あ・・・A”ッ・・・あぁ”・・・」

 

春樹自身、禁断症状を抑える為にはもう寝るしか手は残されていないのだが、なにぶんと昨日から風呂に入っていない。

少しだが、放課後やった模擬戦での汗と今朝のゲロの臭いが身体から出ている。

 

「・・・気持ち悪い・・・風呂はいろ・・・入ってネヨ」

 

そうと決まれば、話は早いとばかりにシャワー室へヨタヨタ歩きで進む春樹。

途中に着ていた制服を脱ぎ捨てていくが、「あとでええか」とついに頭まで緩くなってしまう始末。

・・・だからこそ、気づかなかった。シャワー室の脱衣所に”電気が灯っている”事を。

 

「・・・あ?」

 

「え・・・ッ?」

 

ガラリと脱衣所の扉を開けると、あら不思議。そこには夕食を食べに行っている筈の男装麗人シャルロットの姿があった。

しかも、湯上りの生まれたままの姿である。

 

これがラブコメのラッキースケベシーンならば、この後「きゃあああぁぁッ!!?」と甲高いヒロインの悲鳴が部屋に響くのがテンプレートだろう。

 

「きゃ、きゃあ―――」

 

「うギャァアアアアアッ!!?」

 

だが・・・代わりに響いたのは、なんとも野太い断末魔のような男の声と、叩きつけられる扉の閉まる音だった。

 

「オメェ、なにしょーるんじゃボケェッ! 着替える時は鍵締めぇって言うたろうが、このおわんごがぁあ!!」

 

・・・と、そう捨て台詞を吐いた春樹は脱いだ服を片付けた後にベッドへダイブ。ガタガタと震えながら掛け布団を被った。

 

「・・・えッ・・・えーと・・・?」

 

一人脱衣所に取り残されたシャルロットは疑問符を浮かべた後、「普通、逆なのでは?」と呟くのだった。

 

そんな彼女が部屋着のジャージに着替え、部屋に入ると壁際のベッドに籠城する春樹の姿があった。

掛け布団へ包まっている為に表情は見えないが、「ふぅーッ、ふぅーッ」と吐息か鼻息が荒い事は確認できた。

 

「あの・・・清瀬? だいじょ―――「触るんじゃねぇ」―――ごッ、ごめん・・・」

 

丸まった布団の塊から聞こえるドスの効いた声にビビるシャルロット。

彼女はどうしたものかと考えながら、向かいの窓際のベッドへ腰を据えた。

 

「き、清瀬・・・ご飯は食べたの?」

 

「・・・食べた」

 

「・・・お、お風呂は?」

 

「入ろうと思ったら、お前がおった」

 

「・・・ごめん」

 

続かない会話にオロオロするシャルロット。

どうしたもんかと頭を捻る彼女に見兼ねたか、アル中野郎が口を開いた。

 

「はぁ・・・デュノアさんは夕飯食ったんか?」

 

「! ううん。一夏達との模擬戦をやった後に汗で気持ち悪かったから、シャワーをしてから食べようと思ってたんだ」

 

「ほ~ん・・・なら、行けや」

 

「え?」

 

「シャワー浴びたんなら、ボサッとしとらんで早う夕飯食いに行きゃあええがな。ど-せ、あの織斑の連中と食うんじゃろうがのぉ」

 

「ぼ・・・ボクは清瀬と一緒に食べたかったんだけどなぁ」

 

「ッ!」

 

ボソリと呟いた彼女の一言に「あのなぁッ!!」と春樹は飛び起きた。

突然の彼の行動にシャルロットは身を引くが、やっとまともな反応をしてくれた彼に対して失礼かと思い、踏みとどまった。

 

「フゥーッ・・・フゥッー・・・!」

 

「ひぇ・・・ッ!」

 

ただ、真っ赤に充血した目と剥き出しの歯にほんのちょっぴり後悔はした。

 

「昼間、俺言うたよなデュノアさん? 心配せんでも、他の皆に言いふらしたりせんけんって! じゃけん、俺にはあんまし関わらんでって!!」

 

「言ってたよ、聞いてたよ、知ってるよ! で・・・でも、ボクは・・・清瀬と一緒にご飯食べたかったし、それに最後のは聞いてな―――「はぁああッ!!?」―――ご、ごめんなさいぃい!!」

 

頭をガリガリ掻き毟る春樹だが、なんとか落ち着こうと壁に頭を打ち付け、冷静さを取り戻す。

・・・打ち方が悪かったのか、額の皮膚が擦れて血が出ているが。

 

「あ~、ちょっと待って・・・ちょっと落ち着かせてー。え~と・・・なんで?」

 

「えっと、一夏達とのご飯も楽しいんだけど。やっぱり、なんか・・・その、違和感(?)があってさ」

 

「(その違和感ちゃんの本名は『罪悪感』って言うんじゃで、デュノアさん)・・・って、それがなんで、俺と飯な訳~?」

 

「えと。清瀬と一緒にいると、その・・・安心するというか、リラックスするというか」

 

「・・・おっふ」

 

シャルロットの言葉に顔を抑える春樹。

『秘密の共有』をしているとはいえ、「この娘、頭おかしいんじゃねぇの?」とか「やはりマゾヒストか」と言った言葉が頭に浮かぶ。

だが、やはり「この声、好き」という言葉が沸き上がった。

 

春樹の愛読書は『物語シリーズ』であり、その中でも推しのキャラクターの中の人がシャルロットの声と一緒なのだ。

しかも、彼女の容姿と相まって、『とても可愛い』『凄く可愛い』『もう尊い、食べちゃいたい』と言った感情が溢れ出して止まらない。加えて、先程の彼女の湯上り姿がフラッシュバックしてしまう。

 

「WRYYY!!」ガツンッ

 

「えッ、ちょッ春樹!?」

 

壁に頭を打ち付け、なんとか冷静を取り戻す春樹。

そんな自分の突拍子もない行動にビクつく姿もまた一段と可愛いと思ってしまう。

 

「・・・大丈夫・・・大丈夫じゃけん。それ以上、俺の劣情をかき乱さんでくれ・・・頼むから」

 

「へ?」

 

疑問符を浮かべる姿さえも可愛くなってしまって、春樹はついに左手までもが震えて来た始末。

ついに春樹は溜息を吐いた。

 

「ハァ・・・わかった、飯食いに行こう」

 

「えッ、いいの? でも、食べたばかりじゃあ」

 

「良えっちゃに。気疲れして、また腹減ったしのぉ。じゃけぇ、俺は先に部屋から出るわ」

 

「なんで?」

 

不思議そうな顔をするシャルロットに春樹は渋い顔をしながら、自分の胸を親指で差す。

最初は解らなかったが、彼女が自身の胸を触ると隠していた膨らみがあった。

きつく締めていたサラシが何かの拍子に緩んでしまったのだろう。

 

「ッ!・・・き、清瀬のエッチ!」

 

「襲うぞ、この野郎」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

最近、一日一日が俺のメンタルを本気で抉りに来とる件について。

 

「ごめんね、清瀬。一緒に食堂行けなくて・・・」

 

主な原因はこの男装の麗人(笑)のせいじゃ。

CV花〇さんでこの天然アザトサに加えて、あのプロポーション・・・二次創作だったら、間違いなく18禁同人誌の餌食になりよーるキャラじゃろう。

 

「良えっちゃに。こうして飯とサラシ替わりの包帯も持ってこれたんじゃし」

 

結局、俺とデュノアさんは食堂には行かんかった。

なしてじゃと言うと、彼女のサラシが途中で切れてしもうたんじゃ。

それじゃと流石に胸の膨らみでバレる気がしたけん、俺が代わりのサラシと夕飯を部屋まで持って来たという訳。

・・・危うく織斑の連中と鉢合わせになるところじゃったが、なんとか回避できた。

 

「(それに・・・自炊で使う言う名目で”味醂”が手に入ったけん、万歳モノじゃ)」

 

「・・・清瀬、なんで笑ってるの?」

 

「ん? いんや、なんでもないでよ」

 

おっと、いかんいかん。嬉しさのあまりに笑みが零れてたでよ。

 

まぁ、とりあえずはアルコール問題は解決じゃろう。

味はイマイチじゃが、貴重なアルコールじゃ。これがのうなったら、料理酒と繰り返して食堂のおばちゃんからせびりゃあ良え。

 

それに・・・”消毒用エタノール”は最後の手段で残しとこう。あれの”せい”でアル中になってしもうたけんのぉ。

最後の最後の最終手段じゃ。言うなれば、『最後のアルコール』じゃろうか。

阿ッ破破破ッ!

 

「・・・ん?」

 

頂戴した味醂を長い事持たせる為に小分けにして、お茶やらジュースで薄めよーるんじゃけど・・・デュノアさんがさっきからなんかチラチラと俺を見よーる。

気になるんじゃろうか? やっぱり、俺どっか行った方がええのんかのぉ?

 

「ねぇ・・・清瀬」

 

「あ?」

 

とか色々考えよーたら、デュノアさんの方から話しかけて来よった。

なんか渋い顔しとるけど・・・もしかして、俺が持って来た夕飯に嫌いなもんでも入とったか?

俺は君のご注文通りのものを持って来たんじゃけどなぁ。

 

「清瀬は・・・聞かないの?」

 

「聞くって、なにをじゃ?」

 

「・・・ボクが、なんで事をしているのかをさ」

 

「・・・は?」

 

男性適正者への”スパイ活動”じゃけん、なんかとんでもない理由があるんじゃろう。

確か、デュノアさんの実家は世界シェア第三位の大企業『デュノア社』じゃったな。

じゃったら『親に言われて仕方なく』とか、大方そねーな理由じゃろう。聞かんでも解るわ、それくらい。

まぁ、デュノアさんの親御さんは俺じゃのうて、織斑の野郎が目的じゃろう。アイツは織斑のくせに専用機持ちじゃし、イケメンじゃし、ブリュンヒルデの弟じゃし。

・・・ッケ。”僻みスイッチ”がONになったな、畜生。

 

「じゃあここは、こう言やーええんか? 『何故、こんな危ない橋を渡って来たんだ?』とか『どうしてこんな事を!?』とか」

 

「・・・うん」

 

俺の言うた事に増々顔を渋くするデュノアさん。

 

「別に。割とどーでもええ」

 

「・・・え・・・ッ!?」

 

いや、キョトンと吃驚しとるとこ悪いが・・・ホントに俺、そー言うんは興味が無い。

むしろ・・・。

 

「あの鈍感屑野郎の情報を適当におフランスでも君の実家にでも送って、野郎が不利になりゃあ良えって思っとる。うん、ホントにそうなって欲しい」

 

「え、えぇ・・・」

 

「なんじゃあ、その顔? 別に俺は野郎が嫌いなんじゃけん、仕方なかろうが」

 

「で、でも一夏の事が嫌いでも・・・普通は止めたりするんじゃあないかな?」

 

「はぁッ? もしかしてデュノアさん・・・君は俺に”良心の呵責”でも求めるんか?」

 

「そ・・・それは・・・ッ」

 

なんだかもどかしそうに口籠もるデュノアさん。

 

やっぱり、この子は『良え子』じゃ。

自分のやっとる事に罪悪感を感じて、それに押しつぶされそうじゃ。

ホント・・・・・気にいらんのぉ。

 

「・・・・・清瀬・・・ボクはね―――「やめろ」―――・・・えッ?」

 

・・・この展開は知っとるぞ。

映画とか、ドラマとかである”訳アリヒロイン”が主人公に自分の過去を話す展開じゃ。

 

迷惑ぅ~。

変なパンドラの箱を開けて、これ以上の面倒事に巻き込まれとうはない。・・・つーかヒロインだったのね、デュノアさん。

そうだよな、これだけの属性持ちでモブな訳ないよな。

 

「ええか、デュノアさん。今、君が話そうとした事はデュノアさん自身を”可哀そうな子”にしてしまう行為じゃ。ここに居る君を否定してしまう行為じゃ」

 

「・・・ッ・・・」

 

「じゃけぇ俺は聞こうとも思わんし、知ろうとも思わん」

 

今の俺の言葉じゃけど・・・『断裁分離のクライムエッジ』っていう作品で、ヒロイン『武者小路 祝』が敵だった『エミリー・レッドハンズ』に言うた台詞を引用してみた。

・・・まぁ、だいぶ状況は違うが。

 

「そんな無理に話そうとせんでええ。色々大変じゃろうが・・・俺の前ではちょっとは楽にしてくれや。それに・・・早う食わんと折角の温かご飯が冷めちまうでよ」

 

「清瀬・・・ッ! うん・・・わかったよ」

 

そう言うて、漸く夕飯へと意識を向かわせるデュノアさん。

腹が減っとったら、ナーバスな気持ちになるけん。腹が一杯になったら、沈んだ気持ちも楽になるじゃろう。

 

「あぁ、そうじゃ。なぁ、デュノアさん?」

 

「なにかな、清瀬?」

 

「良かったら、なんじゃが・・・飯食い終わったら、映画でも見るか? 俺が借りて来たヤツを全部は見とらんじゃろう?」

 

「う・・・うん! 見るよ、絶対見るッ!」

 

「いや・・・そねーに食い気味じゃのうても。映画は逃げりゃあせんでよ」

 

なんかこの後、若干鬼気迫ったデュノアさんと映画を見た。

あと、気疲れした身体にアルコールがめっちゃんこ身体に染み渡った。

 

・・・因みに見た映画は『となりの』と『借りぐらし』じゃ。

加えて・・・借りぐらしを見とったら、隣でデュノアさんが主題歌を口ずさみょうた。

素晴らしく良かった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

・・・じゃけど、この時の俺は知らんかった。

 

「なぁ、清瀬。お前、シャルルのこと知ってたのか?」

 

「・・・あ”ッ?」

 

この小さな交友映画会の二日後、新たな面倒事に巻き込まれる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆
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