今作において、色んな意味で人気のキャラが久々の登場!
なので・・・誰得な微グロ注意です。
「・・・ッ・・・・・う、ぅ・・・!
こ、ここは・・・?」
先程までまるで悪夢を見ていたかの様に最悪の気分を抱えた彼が最初に認識したのは、見慣れない真っ白な天井と薄緑色のタイル壁。
そして、部屋一杯に奏でられる『ゴルトベルク変奏曲』。
「私は、確か・・・・・ッ、ひぃ!?」
思い出したくはない
男は酷く狼狽えた。
顔面蒼白の表情で歯をガチガチ鳴らしながら動揺した。
すると―――――
〈―――・・・おや、目が覚めたのか〉
「!?」
パニックを引き起こす男へ声を掛けて来た声が一つ。
其の声のする方へ目を向ければ、其処にはシルバーブロンドをキッチリ整えたエプロン姿の壮年の紳士がタオルで自身の手を拭っているではないか。
「だッ・・・だれ、誰だ!?
ここは・・・ここは一体何処なのだ!!」
〈まぁ、落ち着き給え・・・と、言っても無理な話だな。
私は、レクター・・・ハンニバル・レクター。
しがない医者をしている〉
「なに・・・!?」
自分をハンニバル・レクターと名乗る謎の人物の登場に男は冷静になる処か、余計に混乱の坩堝に深まってしまう。
何故なら男の持つ知識が確かならば、『ハンニバル・レクター』とはアメリカ出身の作家トマス・ハリスの小説に登場する
しかし・・・今はそんな事など
「ど、Dr,レクター!
今すぐに私をここから解放してくれ!!」
男は目の前の著名な精神科医にして冷酷で残忍な
『藁にも縋る』とは、正に此の事であろう。
・・・・・だが、男は
知らないとは云え、余りにも
〈・・・ん?
「ッ、ど・・・どうしてだと?!!
それは此方のセリフだ!
こんな状況を見て、どうしてそんな馬鹿な事が言えるのだ!!」
男の助けを求める声に対し、ハンニバルは眉をひそめて疑問符を頭の上に浮かばせる。
そんな彼の余りにも場違いで素っ頓狂とも云える態度に男は目を見開いて憤りを含んだ声を叫ぶ。
然らばどうだ。
ハンニバルは納得するかの様に頷いた後、彼は男に対して柔らかな表情でこう言い放ったのである。
「君は・・・何を
「・・・・・は?」
〈君は
其れも
何とも
何処となく嬉しそうな表情を浮かばせるハンニバルが発した一言一句が、男には理解不能だった。何を言っているのかが、ちっとも解らなかった。
そうこうしている内、ハンニバルは持っていたタオルを男の目の前に置くと付近のピカピカに磨かれたシンクで念入りに手を洗い出したではないか。
勿論、男は此のハンニバルは態度と行動に対して不満の声を荒らげようと・・・
どうして此処で「
其れは、男がそんな事よりも
「こ、これはッ・・・
自分の目の前に置かれたハンニバルが手を拭うのに使ったタオルは、
此の違和感に何かを察したのか、男の顔から更に血の気が引いた。
〈・・・さてと〉
そんな中、自分の手を石鹸で洗って綺麗にしたハンニバルは、最早青い顔と云うよりは
其れは褐色の陶器製の蓋付き壺で、ハンニバルが其の壺の蓋を取ると中から何とも言えぬ香しさが漂って来たではないか。
「な・・・なにを・・・!」
〈あぁ、此れは私が調合したスパイスだ。
様々な香辛料とハーブを吟味し、其れにヨーグルトを加えた―――――〉
「そんな事を聞いているんじゃあない!!
貴様はッ、この私に一体何をしようとしているかと聞いているのだ!!」
恐怖に染まりながらも怒気を含んだ声を荒らげる男。
そんな男に対し、ハンニバルはキョトンとした表情でさも当たり前の様にこう言葉を並べた。
「勿論、私が
「ひゅ・・・・・ッ!?」
当然の様に言い放ったハンニバルに男は目を四白眼にし、何とも間の抜けた声を上げる。
そうだ。トマス・ハリス著の作品においてハンニバル・レクターと云うキャラクターは、猟奇的殺人鬼にして、殺害した人間の臓器を食べる異常な行為から『人食いハンニバル』の異名を持っているのだ。
「ふ、ふッ・・・ふざけるな!
こ、この私をりょ・・・りょ、料理するだと!?
イカレているのか、貴様ァ!!」
「しかし・・・彼からは、こう聞いている。
『
其れに・・・君
『命
男は・・・いや、円卓の貴族メンバーは其処でハッと思い出す。
自分達が今まで騙して傀儡として利用して来た少女へ涙を流して助命の嘆願した時に放った言葉を思い出す。
「ど・・・どど、Dr,レクター!
と、取引・・・取引をしようじゃないか!」
〈ほう・・・取引?〉
「そうだ、取引だ!
貴様に・・・いや、
絶体絶命の窮地を脱しようと貴族はハンニバルへ取引を持ち掛けると彼は興味深そうに首を傾げる。
「何が・・・何が欲しい?
多額の金か?
見目麗しい美女か?
それとも揺るがぬ地位か?
私が出来る事ならば何でも用意しよう、差し出そう!
さぁッ、何が欲しいのだ?!!
そうだッ、私からファントム・タスクの幹部に推薦しよう!!」
首を傾げたハンニバルに僅かばかりの期待を持った貴族は必死になって舌を回す。
セシリアにすがったあの時の様に。
・・・・・けれども、ハンニバルは彼の予想の斜め上を行く返答を投じた。
〈・・・よろしい。
なら、其れ
「・・・・・・・・は?
それ・・・
貴族は自分の耳を疑ったが、ハンニバルは念を押す様に朗らかな表情で「あぁ、其れもだ」と頷くと
其れは
大きく、分厚く、重く、そして・・・精巧過ぎた。
〈君は・・・交渉が出来る立場と本気で思っているのか?
まったく、此処に来る前に
「ま、待て!!
な、なんだ・・・なんだ、そのハンマーは・・・!?」
〈ん?
あぁ、此れは特注の肉叩きでね。
やはり、骨まで
御自慢の調理器具の説明を終えたハンニバルは、「さてと!」の声と共に
「うッ、うわぁあああああ!!?
ば、バカな真似は止せ!!
私はファントム・タスクはヨーロッパ支局の幹部の一人なんだぞ!
おいッ、聞いているのか!?
この私に手を出すと云う事は、あの巨大なるファントム・タスクへの宣戦布告を意味する―――――むゴぉッ!!?」
歯を剥き出しにして喚き散らす貴族の口へハンニバルは側に有った血の染みついたタオルを捻じ込む。
〈口を閉じろ、風味が逃げてしまう。
心配せずとも命の保証は約束するさ。
だが、其の代わり・・・肉も骨も臓器も、許す限り存分に使わせてもらう。
そうだなぁ・・・あの彼女はソテーにしたし、あの彼はソーセージにした。
ならば、貴様はオーブンで良く焼きのタンドリー風味のにしよう。
そうなると・・・やはり、焼いた時の肉の柔らかさに注意しなければな〉
「ムぐぅ―――――ッ!!?」
〈・・・例えばの話。
胡椒を最高のミニョネットに仕上げたげれば、大切なのは・・・強く、荒く、躊躇わず砕ききる事だ〉
そうして、ハンニバルは声にもならぬ相手へ目掛けて振り上げた調理器具を一気に振り下ろすのであった。
◆
┃
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◇
◆◆◆◆◆
日付が変わる夜中に
「こ、これは・・・一体、どういう事なんですの・・・!?」
セシリア・オルコットは驚愕した。
もう最早何度目かの驚愕かは解らないが、取り敢えずは彼女にとっては疲労を忘れる程に唖然となるぐらいの驚きだった。
其れ程までに彼女を驚かせたものとは一体何なのか?
其れは―――――
「おぉ!
意外と早かったな!」
騒動後、疲労困憊のセシリアが向かった先は実家であるオルコット家邸宅。
流石は英国貴族の大豪邸と云っても過言ではない御屋敷の胃袋を預かっているであろう厨房を仕切っていたのは、イギリスに入国してから雲隠れをしていた銀髪ロリの白き黒兎ことラウラ・ボーデヴィッヒであったのである。
「ただいま帰ったでよ、ラウラちゃん。
どねーな感じぃ?」
「こっちで言う所のシチュー的なヴュルツフライシュとリクエストのジャガイモましまし肉じゃがが、もう少しで出来る」
「少佐殿!
ローストビーフもあと少しで焼き上がります!」
「ダンプフヌーデルも完成間近です!」
更には、ラウラの部下達であるクラリッサを始めとした黒兎部隊の面々までもが、あくせくと調理に従事していた。
「よし!
クラリッサはシュトレンの切り分けを!
ネーナはフラムクーヘンを頼む!」
「「サー・イエッサー!」」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!
なんで・・・どうしてラウラさんと黒兎部隊の皆さんが、ここにいるんですの!?」
聞き慣れぬドイツ料理名が飛び交う中、受け入れるのは時間のかかる目の前の状況に対し、セシリアは当然の疑問符を紡ぐ。
そんな疑問符に対して、ラウラは目をパチクリした後、セシリアと共にオルコット家邸宅に帰って来た蟒蛇・・・春樹に視線を移した。
「なんだ、春樹。
言ってなかったのか?」
「うん。
サプラァーイズ!・・・って、やつよ!」
「ほう。
なら大成功なのではないか?」
「全くもって其の通りじゃと思う」
「・・・大成功です」
「イェーイ!」とハイタッチする春樹とラウラの横で静かにサムズアップするチェルシー。
其の三人の遣り取りにセシリアは増々疑問符を頭に浮かべ、しかも疎外感からか「みなさん・・・どうしてそんな息ピッタリなんですの?」と若干涙目である。
「・・・・・なんでセシリアは泣きそうになっているのだ?」
「・・・知っとる通り、ちょっと午前中に色々あり過ぎてな。
精神的にキてる所があるんよ」
「そうか・・・大変だったな、セシリア。
ほら、エッグポンチだ。
身体が温まるぞ!」
「あッ・・・ありがとうございます」
「春樹には、ホットウイスキーだ」
「さっすがはラウラちゃん、解ってらっしゃる!
ありがとうねぇ!」
酒を受け取って御機嫌な春樹がラウラの頭を撫でれば、「えへへッ♥」と彼女はうっとり目を細めた。
此の二人の遣り取りが原因かは不明だが、セシリアが飲んだ乳製品と卵とブランデーがちょっぴり入ったエッグポンチの甘い事甘い事。
けれども、温かくて甘い飲み物の御蔭でセシリアの心情は少々落ち着く事が出来た。
そんな取り敢えずは落ち着きを取り戻した彼女を春樹とチェルシーは邸宅の団欒室へと案内する。
パンッ! パパン!の破裂音と共に紙吹雪が入室したセシリアへ吹き荒れた。
其の音のせいか、其れとも目の前の飾り付けられた部屋の装飾品のせいなのかは不明だが、セシリアは目が点となって硬直してしまう。
此の彼女の反応に部屋で待ち構えて居た一部の聖剣奪壊作戦参加組と
「よーし!
人の誕生日に託けて、飲むぞー!」
「おい待て、この飲んだくれ・・・!」
何だか微妙な空気を物ともせず、テーブル上のIPAビールに手を伸ばした春樹の頭を叩いたのは口をへの字に曲げたIS統合部メンバーの芹沢 早太。
其の彼の後にオドオドした表情のセシリアが春樹の肩を掴んだ。
・・・物凄い涙目で。
「は・・・は、はは、はるきさん・・・これは、いったい・・・いったいどういうことなんですの・・・・・?」
もうセシリアは一杯一杯の限界が来ていた。
今日は本当に色々と有り過ぎて、彼女の心のキャパシティーを越えてしまった為に情緒が訳解らない状態へ陥ってしまったのである。
「お、おうッ・・・い、いやね?
今日って、12月24日ってセシリアさんの誕生日じゃがん?
其んでもって、聖剣作戦も無事に成功したしぃー・・・其の祝勝会も兼ねてぇ、準備したって訳なんじゃけど・・・・・あれ?
おえんかった?」
「・・・・・馬鹿なんですか、あなた?」
「は・・・ハハハ・・・・・ッ」
「・・・やれやれ」
IS統合部メンバーで部屋の飾り付け担当組だった金城の此の場に居た呆れ顔を晒す全員が抱いた思いを集約した疑問符とシャルロットの乾いた苦笑いと簪の溜息が木魂した。
そんな得も言われぬ気まずい状況に対し、春樹は「おんやー?」と何とか此の場を笑って誤魔化そうとするのだが、一方のセシリアは俯いて肩を震わし―――――
「ぅ・・・ッ・・・・・うわぁあああああ―――ン!!」
『『『ッ!!?』』』
今まで抑え込んで来た感情を放出するかの様に有り余んばかりの声で泣き喚き出した。
まさかの彼女の反応に皆は大いにギョッとし、「何泣かせんのよ!」と鈴は春樹の尻をローキックで蹴りつけた。
「たらヴぁ!?」
「あッ、ち・・・ちがう、違うんですの鈴さん!」
「え?」
「わ、わた・・・私、私とても嬉しくて!
で、でも・・・なぜか、涙がッ・・・・・ぅウッ・・・!!」
「ッ、セシリア・・・!!」
床へキスをかます春樹を余所に感涙を流すセシリアへ鈴やシャルロット達が、ぎゅうっと彼女にハグをした。
「・・・破ッ破ー!
計画通りじゃでよ!」
「うそこけ、このバカ」
「春樹・・・ちょっとカッコ悪い」
「・・・うるへーやいッ」
まるでコントの一幕の様な滑稽な場面の後、「さて、茶番はここまでです」とチェルシーの一拍手が響くや否や、何処からともなくズラーリッと様々な煌びやかなドレスが掛けられたキャスター付きハンガーラックが幾つも登場したではないか。
「オルコット家の女主人たる御方が、着飾る事なく御自身の誕生日会に出る訳にはいきません。
しっかりとおめかしをしなくては!」
「いや、別にいいんじゃない?
・・・てゆーか、あんた誰よ?」
「申し遅れました。
私、オルコット家の専属メイドをしております・・・チェルシー・ブランケットと申します。
どうぞよしなに」
『『『・・・・・は!!?』』』
チェルシーなる人物は殺されたものだと聞かされていた思っていた一部のIS学園勢はギョッと目を四白眼にした後、「ッ・・・春樹ー!」と実力行使で彼へ迫ったのであった。
「さぁッ、お前達!
御馳走を持って来た―――――・・・って、一体どうした!?」
完成した豪勢な御馳走を持って来たラウラには、とんでもなく渾沌とした状況に見えた事だろう。
しかし、こうしてセシリア・オルコット誕生日会兼聖剣奪壊作戦祝勝会の宴会が粛々と始まったのであった。
◆◆◆
セシリアの誕生日会に招かれたのは、英国入国と共に裏で暗躍していた春樹のバックアップチームに回っていたIS統合部でも特に彼のお気に入りメンバーである芹沢(弟)や浅沼金城コンビに他複数名。
聖剣奪壊作戦参加メンバーからは、半ば強制的にバックアップへ配属されたデュノア夫妻や実践部隊へ配属されていた更識姉妹、鈴、シャルロット、そして―――――
「―――・・・随分と騒がしいな」
浅沼が持って来たカラオケマシンによって立食カラオケパーティーと云う喧騒の中、元テロリスト兼地上狙撃部隊でスポット役を担っていた織斑 マドカは慣れない状況に静かなれども若干の戸惑いを感じていた。
「ノッてるかい、アリーナァアッ!!」
『『『YEeeeeeeeeeeッ!!』』』
「・・・うるさい」
聞いた事もないアニソンや特撮主題歌が屋敷中に響き渡り、特に意外だったのが、シャルロットの実父にしてデュノア社社長のアルベール・デュノアが熱唱した『UFOロボ・グレンダイザー』の主題歌で大盛り上がりを博したのである。
「・・・楽しくない?」
「更識 簪・・・」
そんな慣れない状況に戸惑うマドカへ声を掛けたのは、傍から見ると変わりはないが、解る者からすればテンションが高い簪だった。
「・・・私は、こういう場は苦手だ。
どうすれば良いのか、わからん。
食べ物も・・・」
「美味しくないの?」
「いや、違う。
美味い・・・美味いんだが・・・何て言えばいいんだ?」
幼い頃よりテロ組織に所属し、同世代との関わりもなく、食すものと云えば、ビタミン剤やレーション。
そんな普通とは違い環境から離れた彼女には、今の状況は余りにも新鮮過ぎたのだ。
「これは甘いが、単純に甘いというわけではないし。
これは美味いが、単純に美味いというわけではない。
・・・よくわからん」
「・・・・・幼児なみにボキャ貧だね」
「ぼきゃひん・・・?
バカにしてるのか?」
「・・・ごめん。
でも、良い傾向だと思う」
「良い傾向だと?」
「うん。
簪の言葉にマドカは「ほう・・・普通になる、か」と感慨深そうに頷いた後、マイクを手にアニソンを熱唱している浅沼の元へと駆け寄り、手を差し伸ばす。
まさか、今は仲間になっているとは言え、元テロリストの彼女から接近してくるとは思ってもみなかった浅沼はビクビクといつもの子狸状態になってしまう。
「おい」
「ひぃッ!?」
「そう脅えるな。
そのだな・・・私にもアニソンとやらを教えろ。
私も・・・私も歌ってみたい」
「ッ、なんと!!?」
再びのまさかまさかの提案にギョッとしたのは浅沼だけではない。
見た目で言えば、容姿端麗なマドカの容姿に金の匂いを感じた金城はカメラを回しだしたのであった。
・・・一方其の頃―――――
◆◆◆
「―――・・・どこに行ったのでしょう?」
夜の帳が降りた頃。
煌びやかなサファイアブルーのドレスを身に纏い、古城とも見紛う邸宅の通路を歩むのは、今宵の主役たるオルコット家の女主人、セシリア・オルコット。
彼女はシャンデリアが明々と光り、歌と音楽が響き渡る広間から抜け出すと其の場に居なかった
其の人物は、セシリア・オルコットならびにオルコット家・・・恣意ては英国の
しかし、そんな
「あッ・・・!」
漸くセシリアが目的の人物を見つけた時、彼は素晴らしく正確な剪定が施された中庭の中央部で、琥珀色が入ったガラス瓶を片手に月を眺めていた。
「・・・・・綺麗ですわ」
雪がチラチラと舞う夜空に浮かぶ月を見上げる男の横顔を見た時、セシリアは息を呑んだ。
何故ならば、月を見る彼の
「・・・・・・・・どねーかしたんか?」
「!」
そんな金色眼がギョロリと顔を動かさずにセシリアの方を向く。
其の向けられた視線に彼女の胸奥がドキんッ!と高鳴った。
思わぬ自身の感情に戸惑ったのか。「え、えと・・・ッ」とモジモジ戸惑うセシリアに対し、彼は白い息を吐きながら近づくと自分のジャケットを彼女へ羽織らせる。
「おいおいおいおいおい・・・誕生日パーチーの主役が、こねーな所で何をしょるんならな?
其れも・・・そねーに寒そうな恰好でよぉ?
雪が降りょうるんじゃぞ?」
「それはこちらのセリフですわ。
ジャケットを見た所、肩部分に雪が付くほど立っていらしたんでしょう?
何をしていらしたんですの、春樹さん?」
セシリアの疑問符に彼・・・清瀬 春樹は手に持っていたガラス瓶を振りつつ口を開けば、其処から何処となく酒精が香った。
「・・・雪見酒じゃ、雪見酒!」
「雪見、酒?」
「じゃーじゃー。
折角、英国貴族の邸宅に来とる訳じゃし・・・綺麗に整えられた庭を見ながらスコッチウイスキーを一献・・・乙じゃわぁ」
「・・・・・はぁ~~~~~ッ・・・」
「阿破破ノ破!」と奇天烈な
勿論、此のセシリアの行為に春樹は疑問符を浮かべた後、彼は徐に其の掌の上へ自分の手を重ねた。
「・・・わん?」
「お手ではなくてよ!
そうではなく、私にその酒瓶を渡して下さい」
「えぇッ!?
折角のクリスマス・イヴなんじゃけん、没収は勘弁してや!」
「・・・・・違いますわ」
「阿ん?
じゃあ何で?」
「・・・・・気分だからですわ」
「・・・何じゃって?」
「ッ・・・わ、私も・・・・・私も飲みたい気分なのですわ!」
勇気を出して振り絞ったかの様な言葉を放ったと同時にセシリアは春樹の手からスコッチウイスキーの入った酒瓶を奪い取ったではないか。
英国淑女、ましてや英国貴族令嬢にとってあるまじき行為に春樹は「え・・・!?」と目を点にして呆気にとられるが、そんな彼を余所にセシリアは春樹から取り上げた酒を勢い良く呷ったのである。
「―――ッ!!?」
バニラや蜂蜜を思わせる甘く華やかな香りと何処までも豊かで滑らかな味わい・・・を
だが、今の今までオルコット家の若き当主として優等生の
アルコール度数が優に四十度を超える
其のあまりの衝撃にセシリアは思わず口を抑えてへたり込んだ。
「あぁッ、もう!
初めてなのにそねーな飲み方するなや!
ウィスキーは、苦い薬を舌先で舐める様にして飲むもんなんじゃ!」
セシリアの蒸留酒で焼けた口を冷やす為、春樹は付近にあった雪を固めた雪玉を勧めた。
当然ながら彼女は此れを断るのだが、何やらクツクツとセシリアは両肩を震わせて来たではないか。
此の反応に対し、彼女の背中を擦っていた春樹は急性アルコール中毒を疑ってギョッと顔を強張らせて「おいッ、大丈夫か!?」と声を張り上げる。
「だ、だい・・・だいじょうぶ、大丈夫ですわ。
す・・・少し、驚いただけですの。
で、でも・・・・・フフッ♪」
金色瞳をカッと四白眼にして焦る春樹を余所にセシリアはおでこの上半分が赤みを帯びた、所謂
「何じゃ、酔ってるだけか」と糠に釘の様な表情を晒したが、どうも彼の思っている事とは違う様で。
「お酒って・・・お酒って、こんな味がしたのですね。
お父様やお母様は、二人でこんなものを飲んでいたのね」
セシリアは思い出す。
幼い頃のほのかな思い出を。
こっそり夜更かしをしたあの日。
ドアの隙間から覗いた先には、暖炉の前で琥珀色が入ったグラスを傾ける柔らかな表情を浮かべる父と母の姿を。
「私も・・・私も一緒に飲みたかったですわ。
お父様やお母様と一緒に・・・・・私もお酒を嗜みたかったですわ」
「・・・・・セシリアさん」
赤みがかった目の縁から零れたのは、顔へ落ちて来た雪が融けたものか。
其れとも―――――
「・・・・・申し訳ありません、春樹さん。
本当なら・・・本当なら私が手を汚さなければ・・・・・仇討ちの本懐を遂げなければならなかったのに。
私に度胸がないばかりに・・・ッ、あなたの手を借りて・・・・・あなたの手を汚して・・・!」
笑ったかと思えば、今度はセンチメンタルな暗い表情を晒したセシリアだったが、そんな彼女に対して「・・・・・破!」と春樹は鼻を鳴らす。
「俺の好きな台詞にこー云うんがある。
『銃は私が構えよう。
照準も私が定めよう。
弾丸も弾倉も入れ、遊底を引き、安全装置も私が外そう。
だが・・・殺すのは、お前の”殺意”だ』」
「え・・・?」
「つまり何が言いたいのかってーと・・・セシリアさん、あの時の俺は君にとっての銃じゃった言う訳じゃ。
そして、其の”銃”で君は仇討ちを果たした。
流石はオルコット家の御当主よ!!」
「じゃから謝る必要はない!」と「胸を張れ!!」と、春樹は口端を吊り上げて大いに声を発した。
一方、まさかの称賛の声にセシリアは目を丸くして呆気にとられてしまうが、そんな彼女に向けて春樹はこう続ける。
「じゃけども・・・此れで少しは、自分の事に構えるんじゃね?
一応は御家の事が落着したしよ」
「・・・どういう意味ですの?」
「いや、自分の人生にやっと本気で向き合えるんじゃねぇかと思うてよ」
最初、セシリアには春樹の云った事が解らなかった。
だが、僅かばかりとは云え、目の前の彼と同じ様な事を言われた事をセシリアは思い出す。
「ッ・・・春樹さん、あなたも・・・・・あなたも、”家の事などどうでもいい”と言うのですか?」
聖剣作戦が実行される前、セシリアは同じく作戦参加メンバーである織斑 一夏からこう言われた事を思い出した。
『「い、家の為って・・・・・
聖剣作戦に参加するのはオルコット家の当主としての責務の為だと、英国貴族としての
しかし、勿論―――――
「阿ん?
ッ、おっと待っておくれ。
誤解を与えたのなら御免な」
「では、なぜッ?」
「俺が言いたかったのはな、セシリアさん?
オルコット家は君の
彼の弁解にセシリアは再び目を丸くする。
春樹は、彼女の御家の名誉の為に戦う事や国家の為に務める姿を純粋に尊敬していた。
其れは今の日本人が忘れかけている『愛国心』と云う古き良き文化なのではなかろうかと彼は思っていたのだ。
・・・だが、春樹は知っている。
御国の為と、御家の為と、其ればかりに拘るあまり
其れ故に彼は、セシリアに自身の人生に向き合うべきだと言いたかったのである。
「御家の事を想うのは悪くない。
じゃけど、自分の事も大切にしんちゃい・・・って、事を俺は伝えたかったの!
貴族としての矜持も大切じゃけど、君自身の人生も大切なんじゃなかろうか?」
親に叱られる前の子供の様におっかなびっくりの苦笑いをする春樹に対し、セシリアは何を思ったであろうか。
自分に金色の瞳を向ける同世代の男は、一体何を考えているのだろうかと
少女は恩人たる少年に対して強い
「・・・・・・・・春樹さん・・・私は・・・・・私は、あなたを―――――」
此の時、セシリア・オルコットは自分でも何を考えていたのか理解できなかった。
只、僅かに震える白魚の様な手で男の胸倉を掴み、朱鷺色に染めた頬と熱っぽく潤んだサファイアブルーの瞳を向けながら咄嗟に心内へ思い浮かんだ
―――・・・其の時だった。
「―――――・・・破ッ!
やっとこさ、
来てくれねぇんじゃねーかとヤキモキしちまったでよ!!」
「・・・・・えッ?」
どんな男であろうとも自分に恋をしているんじゃないかと勘違いしてしまう程の熱と艶に満ち満ちた表情のセシリアを押しのけて、春樹は随分と凶悪な笑顔と共にピカピカに磨かれたコンバット・リボルバーを展開した。
さて、其の愛銃の口が向けられた先に居たのは―――――
「―――――・・・やぁやぁお待たせ、
寝物語、『不思議の国のアリス』から飛び出して来たような珍妙な服装に身を包んだ
インフィニット・ストラトスの発明者にして、エクスカリバーの暴走を引き起こした黒幕たる篠ノ之 束その人が、まるで聖夜に舞い降りた天使の様に降り立って居たのだ。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
・・・はい、ご覧の通りの有様です。
ですので、もうちょっとだけお付き合いして頂けると幸いです。
・・・すんません。
…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?
-
はーい!!(^^)/
-
えー!?(・_・;)