IS/Drinker   作:rainバレルーk

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―――十九世紀の終わり頃。
ヨーロッパの国境にある都市にて、”ある男”が生まれた。
男は芸術家を志したが、()()()()()才能がないばかりに挫折。
其の後、ヨーロッパはおろか世界中を巻き込んだ()()()()()()()()()()()()()()()が起こった際、祖国の為にと参加。
伝令兵として勇敢に戦ったが、毒ガスにより目をやられて搬送された野戦病院で敗戦を迎えてしまう。
其れでも男は敗戦後も軍に残ってしばらく軍務を続けていたのだが、各地で共産主義を標榜する地方政権の一つに興味を持ち入党。

其処で男は今まで自分でも知り得なかった自身の”才能”を知った。
”演説”と言う名の才能を。

其の後、男は政治家としての才能を発揮し、瞬く間に党の顔となって党の実権を掌握してしまう。

今の今まで何者にもなれなかった男が、ひょんな事から自らの才能を開花させ、遂には国家体制の頂点たる”総統”の地位へと君臨したのである。
正に英雄譚と呼んでも過言ではない立身出世だ。

・・・・・だが、”力”を手にした者は大なり小なりと()()のが世の常。

酔う為の安酒に()()()()男は、()()()を掲げた軍団を率いて世界へ喧嘩を吹っ掛けたのだ。

男は狂気と熱気に浮かされた軍団で自らに逆らう者全てを屠り、殺し、奪い、焼き尽くす。
起こってはならない()()()()()()()()()()()()()()()()()()を引き起こした此の男に世界の皆は「最早此れ迄か!」と恐怖で慄いた。

しかし・・・そうは問屋が卸さない。

戦線の拡大と短期決戦の目論見が予想に反して外れてしまい、遂には敵国に東西挟み討ちされる形で戦況逆転を許し、更に戦況は悪化してしまった。

敵軍が首都に迫る中、進退窮まった男は「最早此れ迄か!」と自らの命運を自らの手によって終わらせたのだった・・・・・



―――――と、此処迄が欧州における()()の一部を簡単に説明したものである。
けれども、此れは()で語られる微々たる一部だ。
実は其の大乱の最中、()ではこんな事が起こっていた・・・・・

全世界を支配せんとする恐怖の軍団。
破壊と虐殺と略奪を繰り返す此の悪魔の軍団を討伐せんと()()()()()()()()()()は互いに資金や科学技術、人員等を出し合って此れを殲滅せんと誓い合った。
其の御蔭か、危うい場面がありながらも三国は此の軍団に打ち勝つ事が出来たのである。

・・・しかし、()()()()()だったのだ。

なんと!
三国が手塩にかけた()()()()を持ってしまったのだ。
しかも数多の戦いによって、組織は軍団の思考や思想に毒されていた。

皮肉にも軍団の遺伝子を引き継いだ組織は、住みにくくなった熊の国を出奔し、鷲の国と獅子の国を裏側から支配し、覇権を握ったのだった。

其れから八十年余り・・・
組織は未だ其の頂を陣取っている。
まるで此の世に未練を残した()()の様に・・・






第216話

 

 

 

「ッ、あ・・・あなたは・・・!?」

 

自身の両肩を包む様に掛けられたジャケットを強く握り締めながらセシリア・オルコットは目を丸くする。

 

其れも其の筈。

緊張が奔った事で表情を強張らせた彼女の視線の先には、後の世に『エクスカリバー事件』と通称呼称されるであろう実力行使型軍事衛星エクスカリバーの暴走を引き起こすだけでなく、英国ロンドンへ大量破壊兵器による攻撃と自身を巨大弾頭に模した特攻攻撃を行った黒幕・・・インフィニット・ストラトスを発明した()()科学者、篠ノ之 束が居たのだから。

 

「やっほー♪

世紀の大()()さまが、満を持しての登場だぜぇい☆」

 

まるで聖夜へ現れた天使の様に白衣を翻して降臨した束は、ダブルギャルピースと共に自分の目の前に居る()()へ笑顔を振り撒く。

けれども、彼女が無邪気な笑顔を向ける先には―――――

 

「・・・・・ッケ!」

 

白髪金眼の男・・・清瀬 春樹が、今にも唾を吐きそうな口をへの字に曲げた忌々しそうな表情で、降り積もる雪の様に白いリボルバーの撃鉄をガチリッと引き起こした。

 

「は・・・春樹さん、これは一体!?

どうしてここに篠ノ之博士がッ・・・!

それに先程の発言・・・まるで博士がここへ来るのを()()()()()()かのような!」

 

「応ともよ。

わかっとった・・・わかっとったさ!

此のキチガイ・・・篠ノ之 束は、俺に用があるんじゃけぇな!」

 

目を鋭利な二等辺三角形にして肯定の言葉を並べた春樹にセシリアは、「何ですって!?」と、もう何度目か数える事もやめた驚嘆の声を上げる。

一方で、彼の発した言葉に束はにんまり口端を吊り上げて自分の両手を合せ握った。

 

「やっぱり♪

はーくんは、束さんを待ってくれてたんだね☆

束さんの好感度爆上がりだよぉ♥」

 

照れ臭そうに身体をクネクネと捩りながら紅色に染まる火照った自分の頬を両手で包む束。

其の彼女の反応に春樹は思わずリボルバーカノンのトリガーを引きそうになるが、()()()は使えないとばかりに歯を喰いしばって堪える。

 

「なぜッ・・・どうして篠ノ之博士が、春樹さんに用があるんですの?」

 

「ンなもん知るか!」

 

「ちょっと春樹さん!

フザケないでくださいまし!!」

 

「ふざけとらんわ!

じゃけど・・・どーも()()()は俺に御執心の様じゃ。

じゃなきゃ、俺を引っ張り出す為に無力化したエクスカリバーをロンドンへ墜とそうなんて必要のない事せんわな。

そうじゃろう?

其れとも・・・俺の勘違いか?」

 

「勘違いであって欲しい!」と願う様に言葉を並べた春樹の発言にセシリアは「そんなッ、まさか!」と言いたげな表情を束へ向けた。

すると彼女は更にうっとり顔を蕩けさせる。

 

「むふふふ♥

はーくんったら・・・束さんの口から言わせる気なのぉ?

もうッ、意地悪さんなんだからぁ♥」

 

「ッ・・・あなたと言う人は!!」

 

語るに及ばずを体現したかの様な束の反応にセシリアは奥歯をグッと噛み締め、湧き上がる激情に身を任せて自分の専用機体ブルー・ティアーズを展開。

其の咲き誇る花弁の如き銃口を差し向けた。

 

「自分が・・・自分がなにをしたのかわかっているんですのッ?

もし、あのままエクスカリバーが墜落していたら・・・一体どれほどの犠牲が出たかもしれないと思っているのですか!!?」

 

セシリアは改めて激怒する。

巨体を誇るエクスカリバーが火を噴いてロンドンへ向けて墜ちてゆくと云う今でも鮮明に思い出す事の出来る身も凍る恐怖が、()()()()()()()の気を引く為()()に行われた事に彼女は激昂した。

最早セシリアの目に篠ノ之 束と云う人物は、いつの日か尊敬した偉大な発明家ではなく、余りにも子供じみた()()な理由で大量虐殺を行おうとした狂人にしか見えなかったのだ。

・・・だが―――――

 

「はぁ~~~?

なーんで、この束さんがそんな事を思わなくちゃなんないわけぇ?」

「なッ・・・なにを言って・・・・・!!?」

 

そんな怒れる英国淑女に対して()()()はキョトンと首を傾げた後、溜息を吐いた。相手を心底に馬鹿にする様な大きな大きな溜息を吐いたのである。

 

「この束さんにとったら、あんな年中曇った霧まみれの街に住んでる連中がどうなろうと別にどーだっていいのさ☆

・・・いや、ちょっと待って!

はーくんを引っ張り出せたんだから、ちょっとは役に立ったね☆」

 

「あッ、あなたと云う人は・・・ッ!!」

 

セシリアは奥歯を噛み締めて後悔した。

彼女はISと云う既存の兵器をガラクタへと追い遣り、()()()()()()()()()と云う其の特性から世界中の女性の地位を大幅に高めた篠ノ之 束と云う人間を尊敬していた。

ところがどっこい。そんな偉大な人物が人の命を()()()”塵芥”と認識している狂人であったのだから、セシリアの失望は大きなものであったろう。

・・・しかし、怒りのあまり今にも銃火器の引き金を引いてしまいそうになる彼女へ掌を見せる者が一人。

 

「―――・・・まぁ、待ちねぇや」

「ッ、春樹さん・・・!」

 

春樹はセシリアと同じ様に撃鉄を起こした愛銃を向けつつも冷静な態度で彼女に目配せをした後、不機嫌そうに歯を鳴らして束へ金色の()()()を向けた。

 

「篠ノ之 束・・・オメェにゃあ色々と吐き捨ててやりてぇ文言が幾つもある。

じゃけども・・・一つ聞きてぇ。

さっきオメェは、俺を引っ張り出す為にあのデカブツを倫敦へ墜とそうとしたって言ったよな?

どうして・・・なして俺に其処まで拘るか、関わるか?

オメェの関心は、あの出来の悪い()と人を無意識に見下している()()・・・そんでもって、其の糞垂れ鈍感愚図の()だけじゃった筈じゃろうがな!」

 

春樹の言い並べた三人の人物は、言わずもがな。

一人は、束の血の繋がった実妹たる篠ノ之 箒。

一人は、束の親友にして世界最強のIS使いブリュンヒルデの名を冠する織斑 千冬。

そして・・・其の千冬の弟にして世界初の男性IS適正者として発見された()()()()織斑 一夏であった。

 

「自意識過剰かもしれんが、俺はオメェに興味を持ってもらう程の人間じゃねぇ。

まぁ、世にも珍しい野郎のIS適正者じゃけん。

解剖してみたいってのは、よう解るが・・・其れ以外は、田舎から出て来た只のガキじゃ。

何がそねーに気に障る?」

 

渋い表情で言い放った春樹の文言に対し、隣で聞いていたセシリアは「・・・この人は一体何を言っているのでしょうか?」と仲間ながらに戸惑う。

 

其れも其の筈。

確かに彼は世にも珍しい世界で()()()の男性IS適正者である事は理解できるが、春樹の()()()は其れ()()ではない。

昨年まで地方の一中学生生徒だった少年が、IS学園へ入学して以降、僅かばかりの期間の内に成し遂げた功績の全てが、余りにも多大なもの過ぎるばかりであったからだ。

しかも最初は『偶然』『時の運』『まぐれ』『奇跡』『ビギナーズラック』の言葉が並べられていたのだが、いつの間にやら其れが『実力』の言葉だけで片付くようになり、修羅場を掻い潜る度に尋常ならざる能力を得ては高めた。

最早、清瀬 春樹を『無能なおまけ』と揶揄するのは、余程の目利きのない輩ばかりである。

けれども、当の本人たる春樹は無意識下に未だ自分を肯定できていない為、周囲とのギャップがあった。

 

・・・・・・・・だが、其れも()()()()()()()()()()()したのだが。

 

「ぷっふー♪

はーくんてっば、謙虚にも程があるってもんだぜぃ☆

でも・・・大丈Vだよ、はーくん!

はーくんがとーってもすごい事は、この束さんが保証してあげる!!

だから、自分にもっと自信を持ってもいいだよぉ☆」

 

「喧しい!

俺を解った様な口を叩くんじゃねぇ!

其れにキャピキャピ喋るなッ、煩わしい!!」

 

「えー、でもぉ・・・はーくんは、束さんと()()なんだよぉ?」

 

「・・・阿”ッ??」と、思わぬ束の発言に春樹の眉間に更にシワが寄る。

 

「同じ・・・?

どっかの差別主義が言いそうな、「自分は選ばれた存在」だとでも云うんか?」

 

「んー・・・束さん的には、そんなの全っ然興味なんだけど・・・・・()()()()どもが言いそうな頭の悪ーい感じだとそうなのかもね☆」

 

春樹は頭痛の為か、片手でこめかみを抑える仕草をする。

其れは寒さ対策と緊張緩和の為に飲んでいたウィスキーのラッパ飲みのせいでもあったし、目の前の無駄に明るく話の通じないキチガイ兎のせいでもあった。

 

「はーくんは束さんと()()

誰にも理解されないし、誰にも理解できない・・・そういう類い稀な特別な存在なの☆

だからね、はーくん・・・束さんと一緒に行こう?

束さん達を理解できない分からず屋な世界なんて捨ててサ☆」

 

一切の邪気のない満面の笑みと共に春樹へ手を差し伸べる束。

そんな()()とも云える彼女の発言に対し、セシリアは「何を馬鹿な事を・・・!」と更に不快な表情へしかめる。

・・・ところが。

 

「・・・・・そうかもな」

 

「ッ、春樹さん!?」

 

現在進行形で世紀の大天災に勧誘されている春樹はゆっくり瞬きをしながら引き起こしていた撃鉄を解除しつつリボルバーカノンの銃口を下ろし、空気がピリつく程の殺気を治めたではないか。

まさかの彼の態度変化にセシリアは目を剥いて叫ぶが、当の本人はすっかり戦意喪失状態で何かを呟き始めた。

 

「俺ぁ退屈でもええけぇ、平穏に人生を生きようと・・・生きたいと思っとった。

其れこそ吉良吉影の様な「激しい喜びはいらない。其の代わり、深い絶望もない。植物の様に生きる」事が俺の望む事じゃった。

じゃけど・・・ままならんなぁ!

ISなんぞに適性があるばっかりに俺の人生は、平穏とは程遠いもんになっちまったでよ。

俺の人生は滅茶苦茶じゃ!!

其れなのに・・・其れなのにッ!

どうして皆、俺を助けてくれんのじゃ?!

おまけじゃ、どうのこーの好き勝手な事ばっか言いやがって!!

俺ぁ・・・俺は・・・ッ!!」

 

ウィスキーの酔いが回ったのか。春樹は肩を震わせて俯きながら鬱々しく言葉を並べ立てる。

確かに彼の云う通り、男にも関わらずIS適性があるばっかりに春樹の人生は平穏とは逸脱したものとなってしまった。

其れこそ彼が今まで見て来た映画や漫画の中の登場人物が遭遇して来た災難で、春樹の心身はズタボロだ。

 

「そうだよねぇ、辛かったよね?

だけど、もう大丈夫☆

束さんが、そんな無能共に代わってはーくんを助けてあげるから!!」

 

そんな悲劇のヒーローの様に項垂れる春樹へ束は救世主の如く「ほら!」と自分の手を取る様に促す。

 

「いけませんッ、春樹さん!!」

 

「・・・セシリアさん?」

 

此の状況にセシリアは叫ぶ。

だいたい今まで春樹が経験して来た苦悩の多くは目の前の束が引き起こして来た災難ばかりで、其れを棚に上げて彼に手を差し伸べるなど言語道断な所業。

彼女は万に一つの不安からか、束が差し伸べた手を取らせない様に春樹を後ろへ引っ張らんと手を伸ばした。

 

「―――・・・うるさいよ、()()?」

 

「えッ?

―――――ぅぐッ!!?

 

だが、セシリアが彼の腕を掴む寸前、束は懐から取り出した魔法少女が持つ様な()()()()を振るう。

さすれば突如として、ピンポイントでセシリアの周囲だけへ強力な重力場が発生し、ズゥウウウウウ―――ッン!!と彼女の体を地面へ押し付けたではないか。

 

「お前の()()は、もう終わり・・・ううん、()()()()()()()の。

だから、もう引っ込んでくれない?

折角の名シーンなんだから・・・そこで這いつくばっててよ☆」

 

ぅ、ううッ・・・は、はるき・・・さん・・・!!

 

聖剣作戦時は親しげにセシリアの名を呼んでいたのは幻だったかの様に束は彼女を養豚場の豚を見る目で見下す。

 

「さぁ、はーくん!

束さんと一緒にこんな陳腐な世界から抜け出そうよ☆」

 

「・・・・・あぁ・・・」

 

再び思いを寄せる相手へ純真無垢な恋する乙女の様な笑顔を向けた束に対し、春樹はゆっくり顔を上げて彼女を見た。薄い笑みを浮かべてだ。

其の彼の浮かべた笑みに束は心が通じ合ったのかと嬉しくなって更に口端を吊り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――・・・けれども、束は理解できていない。

目の前の清瀬 春樹と云う男が、薄っぺらい理解力で手懐けられる訳がないのだから。

 

「・・・・・・・・そう言えばテメェ、福音事件の時に俺の左足を圧し折りやがったよな?」

「―――・・・へ?」

 

ダァ―――ッン!!

 

しんしんと雪降る聖夜に響き渡った一発の銃声。

其の発砲音の発生場所は、腰の位置で構えた所謂ヒップシューティングと云う格好で握られたリボルバーカノン。

無論、引き金を絞ったのは、先程まで鬱々しい言葉を並べ立てていた二人目の男性IS適正やたる清瀬 春樹。

なれば、細い白煙が未だ立ち昇るリボルバーの発射口から射出された弾丸は何処へ飛んで行ったのか?

・・・そんなものは決まっている。

 

ブシュゥウッ!

「ッ、ぎゃぁああああ!!?

 

0コンマ三秒の白銀の銃口から飛び出した絶対防御への貫通性能を持った対ISの徹甲弾は、すっかり油断していた束の左足の肉を抉り取った。

慣れない脱力の()()に手間取った為か。精度に少しの不備があり、左足の骨を砕き穿つには至らなかったが、全知全能気取りの自称天災科学者を地に伏せるには十二分である。

 

「オメェ、福音事件の時にようも俺の足を圧し折りやがって!

()()()()は返してやったが、此れで済むと思うなよ!!

徹底的に這いつくばらせてやらぁ!!」

 

「は、春樹さん・・・ッ!!」

 

グラミー賞ものの演技にすっかり騙されたセシリアは両眉を上げて安堵の表情となるが、一方の銃弾によって左足の一部を食い千切られた束は、見た事も()()()()()()()歯を剥き出しにした憤怒の表情で叫ぶ。

今まで()()()()に不覚など取られた事がなかった為、彼女の癪に障る事触る事。

 

こッ・・・このクソガキがぁああッ!!

うゲやァ!!?

 

激昂の絶叫と共に束が重力場を発生させる魔法少女のステッキ『王座の謁見』を振るえば、セシリアよりも酷くキツい重力が春樹の身体を圧し潰した。

メキメキと生々しい骨が軋む音が雪化粧の庭園へ響く。

 

うッ・・・ぅう・・・ッいたい、痛いよぉ!!

どうしてッ・・・どうしてこんな事するのさ、はーくん!!?

痛いッ、痛いよぉお!!

 

肉が食い千切られた事で血が吹き出す足を抑えながら転げ回る束は涙を流して絶叫するのだが、彼女には春樹に報復されるだけの理由が余りにも多すぎる。

ゴーレム事件では彼に危害を加え、福音事件では彼の足を圧し折ったうえでなぶり殺しにし、ワールドパージ事件では学園システムをハックして機能不全に追い遣り、其の気に乗じて現れた不法侵入者にズタボロにされたり、束にけし掛けられたハッカーによって酷い目に合わされたりした。

 

「こんな事?

こんな事じゃと、此の糞垂れが!!?

オメェにゃあ俺にブチ回される理由が、有り過ぎるんじゃボケェ!!

其れが何?

「一緒に行こう」?

「抜け出そう」?

阿呆な事抜かしてんじゃねぇよ、此のおわんごがッ!!」

 

束からの重力攻撃に堪えつつ春樹は漸う起き上がってリボルバーカノンを彼女へ突き付ける。

だが、凄まじい重力の為、狙いが定まらずに撃った弾丸は虫の様に転げ回って苦しむ束の身体を掠めるだけに留まるばかり。

其れ故に決定打に欠け、束の反撃を許してしまう。

 

「ッ、こんのぉッ!」

ぐギェええッ!!?

 

先程よりも何倍も強い重力が春樹に圧し掛かり、其の力によって再び地面へ叩き付けられてしまい、憐れな断末魔を上げた。

 

「生意気なのもはーくんの良い所なんだけど・・・今回は度が過ぎだよぉ?

そんな悪い子にはお仕置きが必要だよねぇ~?」

 

脚の負傷から来る激痛を抑え込んだ束は、ステッキを構えたまま春樹へと接近していく。

異常重力の苦しみに喘ぐ彼に最早抵抗する力はない。

此のまま放って置けば、春樹は彼女に一方的にやられてしまう事は必死。

 

「さ、させませんわ!!」

 

そうはさせまいと未だに這いつくばった状態のセシリアがブルー・ティアーズのビットを差し向けるのだが、此れを束はステッキを振るう事で無力化してしまう。

 

「邪魔すんじゃねぇ―よ!

役立たずは、そこで黙って土でも食ってろよ!!」

「くッ、うぅ・・・!!」

 

セシリアは自らの無力さに下唇を噛んで悔し涙する。

しかし、そんな彼女に対して春樹は口端を吊り上げてニヤリとほくそ笑んだ。

 

「破ッ・・・役立たず?

解っちゃいねぇな、天災様よ。

セシリア・オルコットと云う人間が、オメェよりもどんだけ()()()なのかをよぉ!!」

 

「は・・・春樹さん!?」

 

突然の称賛の声にセシリアは顔を真っ赤にするが、束は負け犬の遠吠えだと「なにを言っちゃってるのかなぁ?」と嘲笑する。

 

・・・だが、よくよく考えてみれば、不可解な点が此処にはあった。

束を誘い込むとは言え、此の男が何の()もなく一人庭園の中央で酒を飲みつつスタンバっていたのか?

―――――答えは・・・否だ。

 

「―――・・・さて、お待たせしました。

今じゃッ、()()殿()!!

 

「―――――LOS!

LOS!!

LOS!!!」

 

「・・・は?」

 

蟒蛇の声に合わせて雪の降り積もった垣根や石垣を掻き分けババァ―――ン!と現れたのは、漆黒の防寒装備を身に着けた()達。

其の狼達を従える熟練兵の号令により、人狼達は手負いの天災兎へ一気に襲い掛かる。

 

「な、なんなんだよ・・・なんなんだよぉ!!」

 

突然湧き出して来た狼達に兎は動揺し、持っていたステッキを振り回すが、其のステッキへ向けて一発の銃弾が放たれた。

 

ダァーーーン!

「ッ、冷た!!?」

 

発砲された弾丸はステッキに着弾するや否やパッキパキに凍り付いてしまい、其の機能を奪う。

 

「・・・破破破!」

「ッ、ド低能の分際でェエ!!」

 

まんまと相手を出し抜いた事にほくそ笑む蟒蛇へ血相変えて飛び掛かろうとする天災兎だったのだが―――――

 

「―――黙って見ていれば・・・私の”男”に何をしているかぁあ!!」

 

バチィイン!!

ウギぃい!!?

 

後方彼方の庭園を囲っている窓ガラスを割って飛んで来たベルトの様な捕縛縄が、回転運動を描きながら兎の振り上げた腕と青白い首へ巻き付いて拘束する。

そして、罠にかかった獲物を捕らえる様に黒頭巾を被った兵士達が刺叉状の捕縛道具で一斉に取り押さえた。

 

「大丈夫かッ、春樹!」

 

大捕り物を余所に焦燥感たっぷりの表情で地面に伏す蟒蛇へ駆け寄って彼を抱き寄せたのは、兎は兎でも()()()()()()()()方の()()()()ことラウラ・ボーデヴィッヒである。

 

「お・・・応、ラウラちゃん。

大丈夫じゃけど・・・何本か肋骨にひびが入ってる感じがすらぁな。

おー、痛ぇ!」

 

「え・・・えッ?

ら、ラウラさん!?

ちょ、ちょっと・・・春樹さん、これは一体どういう事なんですの?!」

 

あばらを抑えて痛がる春樹に今の状況が理解できないセシリアは目をパチクリさせて疑問符を投げ掛ければ、「私が代わりに説明してやろう!」とラウラが胸を張った。

 

「セシリアと春樹が()()()()()と話し合う前からミッターマイヤー准将率いる特殊部隊が、この庭で待機していたのだ!

・・・それで、セシリア?

悪いが、些か・・・いや、だいぶ折角綺麗な庭を掘り返したりしてしまった。

すまない!」

 

「えッ、あ・・・いえいえ。

・・・って、え!?

私達がここへ来る前から・・・って!?

あの人達、朝から土の中に潜っていたんですの?!」

 

「あぁ、閣下達にゃあ寒い思いをさせてしもうた」

 

「本当だ!

もし此処にターゲットが来なければ貴様の頭蓋に一発ぶち込んでやってるところだぞ、小僧!」

 

被っていた黒頭巾を脱いで見事な赤毛を見せたのは、今回の作戦実行部隊を率いたドイツ軍准将のクラウス・ミッターマイヤー。

そんな彼に春樹は呑み口を服で拭ったウィスキー瓶を投げ渡せば、クラウスは美味そうに其れを飲み干す。

 

「ッ・・・ど、どうして・・・どうして、はーくんは束さんがここに来るって思ってたの?!」

 

そんな和気あいあいとした春樹達を余所に雁字搦めで逃げ場のない取り押さえ方をしている束は、一体全体どういう事かと説明を求めるかの様に春樹へ問いかけた。

此れには、セシリアも同じく説明を求める様に視線を向ける。

 

「阿?

訳を話せば長くなるが・・・サラ・ウェルキンっていたろ。

アイツの頭ん中を()()()時に閃いたって訳。

どーせ、オメェさんの事よ。

聖剣作戦が終わった途端、緊張が解けた俺達に接触してくるだろうと思ってな。

じゃけど・・・まさか、こねーに手荒になるとは思わんかったが。

って、阿ーッ・・・マジであばら痛い。

此れ、折れてね?

折れとるじゃろ?

折れとるな、確実にッ・・・痛いでよ」

 

「だ、だけど・・・だけど束さんがここに来るなんて保障なかったはずだよ!

それなのに・・・なんで?」

 

不思議そうに首を傾げる束に対し、春樹はしてやったりの笑顔と共に歯を鳴らしてこう述べた。

「オメェを・・・篠ノ之 束と云う人間を()()()からじゃ」・・・と。

 

「ッ、束さんを信じた・・・?」

 

「応よ。

オメェは、ゲロ以下の臭いのするド腐れ野郎じゃが・・・きっと俺に会いに来ると思うとった。

じゃけぇ、来る事が解っとるなら・・・捕まえてやろうと思ってな。

オメェにゃあ色々と()()があるしな」

 

けれども、「ざまぁみろ!」と言わんばかりに口端を吊り上げる春樹に対し、其れを聞いた束は悔しそうに表情をしかめる処か。目を見開いた後にニッカリと三日月に口を歪めたのである。

 

「ふ・・・ふふふ♪

やっぱり・・・やっぱり、はーくんと束さん繋がり合ってるんだね!

だから束さんの事を待っててくれてたんだ!!

はーくんと束さんは、相思相あ―――――

「黙れ」バチィバチィイッ!

―――ギぃいい!!?

 

メンヘラ構文をのたまう束へラウラは相手を無力化させる為のテーザー銃を撃ち込む。

捕縛対象が此のイカレた兎である為、常人ならば意識を失う処か、感電死しても何ら不思議ではない出力だ。

其の御蔭からか。彼女の美しい紫髪はチリチリパーマとなり、焦げ臭い白い煙を口から吐いて白目を剥く。

 

こうして、這いつくばった()()の眩さに目が眩み、其の傲りから自らを狙う()()に気付かなかった()()()は、怒れる銀髪の()()に組み伏せられたのであった。

此の状況に終始?マークを頭の上へ浮かべていたのは、誇り高き()()だけである。

 

「まぁ・・・取り敢えずはじゃ。

十二月二十四日、午後八時二十二分。

住居不法侵入と傷害の現行犯で、オメェを逮捕するでよ。

国際指名手配犯、篠ノ之 束!」

 

「貴様には黙秘権がある。

証言によっては・・・いや、もう聞いてはいないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◇◇◇◇―――――

 

 

 

―――・・・世界の至る所で賑わっていたクリスマスの喧騒が終わり、日本では「も~、いーくつ寝るとー、お正月ぅ~~~♪」の歌を幼い子供達が歌っているであろう此の頃。

 

早春に各国を震撼させた『男性IS適正者、発見!』の一報よりも同等とも云えるニュースが、世界を席巻する事となる。

 

速報!!!

国際指名手配犯・篠ノ之 束、逮捕!!!!!

 

十年前に起こった二十一世紀最大の大事件とも称される『白騎士事件』のみならず、数多くの大規模テロ事件に関与していると断定されているインフィニット・ストラトスの発明者、篠ノ之 束(24)が、潜伏先であった英国ロンドンで確保されたとの報道が全世界へ発信されたのだ。

 

罪状は、主に英国政府が保有する実力行使型軍事衛星エクスカリバーを暴走させ、ロンドンへの大規模破壊行為を行おうとした国家転覆罪。

次いで、外患誘致罪並びにテロ準備罪にエトセトラえとせとらetc……と。

普段のニュースでは決して聞く事もない罪状が、緊急特別報道番組へ出演しているキャスターの口から出るわ出るわ。

 

さて・・・此の師走の終わりに飛び込んで来た大大大ニュースを打ち立てた功労者と云うのが、北海沖で()()()()()()にも両国の友好関係確認の為に行われていた独軍と英軍の同時軍事演習へ参加していた少数精鋭の特殊部隊各員。

其の全貌は機密とされているのだが、()()として部隊編成されていたIS学園の生徒が、()()()()()()()()()ではあるが()()されたのだ。

 

一人は、暴走した軍事衛星エクスカリバーを鎮圧せんと宇宙空間に出撃した部隊へ配属された中国代表候補生の凰 鈴音。

 

一人は、同じく宇宙へと出撃した最近になって専用機と共に倉持技研から怒涛の急成長を現在進行形で遂げている(株)IS統合対策部へ移籍した若きA級技術者にしてIS日本代表候補生の更識 簪。

 

一人は、上記二名と同じ宇宙空間へ出撃した今回の一件で逮捕された篠ノ之 束容疑者の実妹にして現在一機しか確認されていない第四世代型ISを有する日本代表候補生の篠ノ之 箒。

 

一人は、地上からの超精密狙撃によってエクスカリバーを機能停止へ追い込む事に成功し、死中に活を見出した年若い学生ながら英国名門貴族オルコット家の当主を務めるイギリス国家代表候補生のセシリア・オルコット。

 

一人は、此の客員部隊を指揮して事件を終息に()()()世界最強のIS使いとして名を馳せるブリュンヒルデこと織斑 千冬。

 

そして・・・宇宙へ出撃した実戦部隊のリーダーの大役を()()、見事に暴走したエクスカリバーを()()()した世界初の男性IS適正者である織斑 一夏。

 

以下の此の六名が暴走したエクスカリバーを討伐せんとし、そして見事に戦働きをした()()()()()()だと英国政府が公式報告したのだ。

 

―――――・・・しかし、知る人が知るが御存知の様に此の報告には()()の”誤り”がある。

けれども、あの英国政府が直々に発表した公的報道に多くの民衆や自分達にとって()()()()()方を信ずる者達は此れを手放しで歓迎したのである。

 

此の出来事は、英国はおろかヨーロッパ全体の危機を救った”英雄”として彼女等と彼には此れから多くの称賛と感謝の言葉が掛けられ、此の英雄譚は末永く語り継がれる事になろう。

・・・ところが、そんな英雄譚誕生の裏で、酷く頭を抱える者達が居た。

 

 

 

「―――――一体・・・一体これはどうなっている!!?」

 

二度目の()()()()()()()()()()()()()()()が終わってから八十年余り。

未だ世界を裏から支配してやろうと画策する()()達の組織が本部を置いている()()()()()では、上記の様な悲痛な悲鳴が上げられた。

 

疑問符と共に頭を抱えるのは、先の英国で起きた聖剣事件によって緊急集会を開く破目になった国際的過激派テロ組織と名高い亡国機業、ファントム・タスクの主席メンバー達。

 

どうして彼等がこんなにも動揺しているのかと云えば、先の一件において、二つの()()政府を騙眩かし、七十億$以上もの費用をかけて建造した実力行使型軍事衛星エクスカリバーが跡形もなく()()してしまったからだ。

通称『聖剣計画』と呼ばれる計画によって、()()()()()()()()を牽制し、遂に世界制覇を画策していた野望が打ち砕かれてしまったのだから其の落胆たるや想像だに出来ないであろう。

 

しかも・・・当面のエクスカリバーの()()()として用立てていた五十億$相当の資金が()()()()になってしまったのである。

更に言えば、其の莫大な資金を管理していた筈のヨーロッパ支部とは音信不通であり、其の御蔭で隠蔽する筈だった聖剣事件が世間様へ明るみになってしまったのだ。

 

「我々の資金は一体何処に行ったんだ!?」

「いや、それよりも今回の一件に情報統制を一刻も早く敷くべきだ!!」

「もう遅い!

英国王室は、今回の一件に関わった者達へ大々的に勲章を授与するという噂もあるとの事だ!」

 

エクスカリバーの蒸発と維持資金の紛失によってファントムタスク本部にはパニックが蔓延し、一時は機能不全状態へと追い込まれる始末。

 

・・・だが、彼等は知っている。

今回の事件によって自分達を大混乱へ陥れた人物の名を知っている。

 

『『『おのれッ・・・おのれ!

許さんぞッ、()()()()()()!!』』』

 

長年、闇の世界の最大勢力として力を振るって来た彼等を現在進行形で苦しめるのは、世界初の男性IS適正者として発見された織斑 一夏の()に発見された世界で()()()の男性IS適正者、清瀬 春樹。

当初、彼は何の力も家柄も血筋もない()()()()()と思われていたのだが、どう考えても有り得ない速度で急成長を遂げるや否や、順調だと思われていたファントム・タスクによる日本制覇を瓦解させる事はおろか、其処から本格的なファントム・タスク撃滅運動を展開させた超危険人物なのだ。

 

勿論、ファントム・タスクは春樹を息の根を止めようと事ある毎に亡き者にしようと画策したのだが、其の度に彼は此れを撃退しては力を増していく。

此れでは埒が明かないと思ったファントム・タスクは、春樹を徹底的に調べ上げて弱みを握ろうとした。

・・・のだが―――

 

「・・・ヤツに対して解った事はないのか?」

「い、いえ・・・已然として、日本の中国地方にある岡山県T市の出身で、昨年まで公立の中等学校に通って―――――」

 

ダン!と、机を叩き付ける音が、清瀬 春樹に対して解っている事を述べている主席メンバーの発言を止める。

 

「馬鹿な事を言うな!!

我々に何度も苦汁を舐めさせてきた男が、ついこの間まで田舎のジュニア・ハイスクールに通っていたただの子供だと?!

もう少し真面な情報を持って来られなのか!!?」

 

ある一人の主席メンバーが放った叱責の怒号に「そうだッ、そうだ!」と同調の声が室内へ響く。

けれども、此れは()()である。

されどもどういう訳かファントム・タスクは此れを頑として拒んだ。

 

まぁ確かに長い間世界を牛耳っていた組織が、ある日突然出現した一人の男によって蹂躙されているのだ。

そんな自分達を窮地に陥れようとしている男が、昨年までただの田舎出身の小僧だと云うのは少々割に合わない。

 

()()()、此の男は日本政府によって秘密裏に育成された超凄腕工作員なのだと。

()()()、此の男は自分達と敵対している組織が造り上げた生体兵器なのだと。

 

・・・・・しかし、彼等の推測推論は大きな的外れ。

もし彼等が東西冷戦当時の冷静な思考力を保って居れば、こうはならなかっただろう。

 

世界で最も有名な名探偵はこう言っている。

「全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても其れが真実となる」と。

しかし、今のファントム・タスクに真実を見極める為の審美眼は無くなってしまっていた。

其れは長いこと大きな力を持っていた為の()()であったろうし、()()でもあったろう。

 

目の前の真実を受け入れられず、ある筈のない実態を追い求める。

そんな組織に未来はあるのか?

 

「―――――・・・失礼いたします」

 

喧々諤々で責任の所在を探すファントム・タスク主席メンバーが集う部屋へ入室したのは、砂金の様に流れる見事なブロンド髪を持った絶世の美女と言っても過言ではない人物だ。

 

「モノクローム・アバターが隊長、スコール・ミューゼル。

主席連盟員の召還に応じ、推参致しました。」

 

主席メンバー達へ跪いての敬礼をしたのは、今まで多くのテロ事件に関与し、今回の聖剣事件では敵である筈のIS学園専用機所有者達と共に事件解決に尽力したファントム・タスク実行部隊を率いるスコール・ミューゼル其の人。

そんな彼女に向けて、一人の主席メンバーが自分の飲んでいた酒の入ったグラスを投げつけた。

 

「スコール・ミューゼルッ・・・この()()め!

貴様は一体何をやっていた!!?」

「ッ・・・申し訳ありません」

 

投げ付けられたグラスがパリ―ンッとスコールの頭部へ直撃し、彼女の綺麗な御髪を飲みかけの酒で濡らすと共に砕け散る。

其のせいで皮膚を切ったのか、赤い雫がスコールの顔を伝う。

 

「貴様の仕事はエクスカリバーの再起不能()()に留めて置く事だった筈!

それなのに・・・完全破壊を許すとは何事か!!」

「それだけではない!

折角こちら側で身柄を保っていた()()()()()をみすみす連中に引き渡すとは・・・言語道断だ!!」

「最早使い物にもならない貴様の部下、オータムの()()()()の猶予をやったというのに・・・どう責任をとるつもりだ?!!」

 

方々から飛び交う侮蔑を含んだ怒号叱責に対し、スコールはグッと下唇を噛み締めるが、クワッと目を見開いて立ち上がったではないか。

 

「お待ちください!

私達の不始末のせいで多大な損失を被ったのは、事実・・・ですが、成果も携えております!」

 

「なに?

成果だと?」

 

「はい。

彼・・・()()()()()、清瀬 春樹の正体についての確かな情報です」

『『『ッ、何だと!?』』』

 

スコールの発言に先程までの喧騒が幻だったかの様に一気に静まり返る。

 

エクスカリバーの暴走が発覚した際、春樹が必ず聖剣奪壊作戦の邪魔になるだろうと考えたファントム・タスク主席メンバーはスコールを介して束の子飼いであったクロエ・クロニクルに彼の暗殺をけし掛けた。

其れによって一時は春樹を瀕死状態まで追い込んだのだが、其処から彼はよもやよもやの復活に急成長の大強化を果たした。

其れが解ったのは、ロシア上空でIS学園勢を襲撃した元IS国家代表ログナー・カリニーチェが、()()()の様なISを纏った正体不明機が監視衛星で発見された事が切欠だ。

すぐに主席メンバーはヨーロッパ支局を取り纏める幹部達、通称『円卓の貴族』に警告を送った。

けれども実は此の時、円卓の貴族達は本部の主席メンバー達を出し抜こうと情報共有を行わずに独自行動をとったのである。

 

どうやらファントム・タスクも内に派閥争いがあって一枚岩ではなかった様だ。

もし、エクスカリバーが破壊されずに再起不能のまま円卓の貴族達の独自行動が成功していれば、彼等は本部から独立していた事だろう。

まぁ、其れも()()の話なのだが・・・・・。

 

「此の情報を元にあの忌々しい()()・・・『ファフニール』の喉笛を切り裂く事が出来ます」

『『『おぉッ!!』』』

 

そんなこんなで、今まで苦汁を嘗めさせられて来たスコールが持って来たという情報とやらに主席メンバー達は口端を吊り上げる。

されど・・・日本にはこんな言葉がある―――――

 

「それで、スコール・ミューゼル?

その確かな情報とは何だ?」

「ヤツは、ファフニールは一体どこの誰なのだ!?」

 

「まぁまぁ、皆様落ち着いて下さい。

それでは・・・・・()()()の口から説明してもらいましょう」

『『『・・・・・・・・はッ??』』』

 

呆気にとられる主席メンバー達を余所にスコールが王を迎え入れる臣下の様に再び跪いて深々と頭を垂れれば、其の彼女の影が()()()()()、人の姿形となって正体を現した。

 

「―――――・・・やぁどうも御集りの皆さん方。

「噂をすれば何とやら」・・・ってな!」

 

人の姿を借りた白髪金眼の蟒蛇が、『捕らぬ狸の皮算用』を体現していた()に抓まれた様な顔をする連中に()()()をニッカリと向けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――◆◆◆

 

 

 

聖剣奪壊作戦実行前。

刻々と作戦開始時間が迫る中、一人待機室でスコール・ミューゼルは神妙な面持ちで足を組んで腰を据えていた。

 

「・・・・・オータム」

 

大きな溜息と共に彼女が呟いたのは、愛おしい恋人の名前。

されど此処に相思相愛の人物はいない。

 

オータム。

此れがファーストネームなのか、苗字なのかは定かではないが、スコール・ミューゼルが心を寄り添わせる愛する恋人に変わりはない。

だが、彼女はある大酒飲みの()()との戦いで、精神退行を発症させる程に追い詰められてしまい、戦場へ立てなくなってしまったのだ。

 

仲間と云えども足手纏いとなってしまった人間は見捨てなければならないのが、世知辛くも此の世界の()()

しかし、スコールはオータムを見捨てる事なく、彼女を守りながら奔走したのだが、此れをファントム・タスクの主席達は許さなかった。

 

任務で英国へ入国した直後、オータムは主席達が使わせた執行部隊によって誘拐されたのである。

本来ならば其処でオータムは()()()()されてしまう手筈だったのだが、スコールが此れに猛反対した為に少しばかりの猶予が与えられた。

 

其れ故に此の任務を失敗する訳にはいかない。

されど、斥候として先に暴走したエクスカリバーへ送った姪にして部下のダリル・ケイシー改めレイン・ミューゼルと其の恋人にしてギリシャの代表候補生からファントム・タスクに鞍替えしたフォルテ・サファイアからの連絡が途絶してしまう事態に陥った。

 

しかも此れから暴走したエクスカリバーへ直接接触しようと云うのは、色々と問題のある()()()()()

敵として相手取れば、強力な能力を持つ機体を有しては居るものの此れ程マヌケで楽な()()はいないのだが、味方となると話が変わるぐらい()()な相手だ。

 

されど、そんな厄介な男が居る陣営にスコールは何度も苦汁を飲まされているのは何故か?

其れは今まで彼等の陣営には、尋常ならざる力を持った()()()()()が居たからである。

だが、今回の一件に彼はいない。敵としては()()な事この上ないが、味方となれば()()()筈の彼がいないのだ。

 

「・・・私がやらないとね」

 

スコールは()()した。

百戦錬磨の猛者であろうとも今回の一件は、生きて帰れるかどうか解らないと彼女は息を呑む。

 

「でも・・・・・オータム、あなただけは私が守るわ」

 

呼吸を整えてゆっくりと立ち上がったスコールは出撃する為に扉へと向かい、其のドアノブを捻った―――――

 

「―――・・・どうも」

「え・・・?」

 

開け放った扉の先に居たのは、薄く笑みを浮かべた表情で軽い会釈をする一人の男。

まだ顔にあどけなさが残りながらも彼は白髪であり、右目を覆う様な黒々とした厳つい眼帯をしていた。

此の突然現れた少年と青年の間に居る様な男に対し、スコールは思わず彼と同じ様に「え・・・えぇ、どうも」と会釈を返す。

すると彼女の行動に男は「ありゃ?」と首を傾げた後、「・・・あぁ!」と納得する科の様に頷いた。

 

()()で会うのは()()()じゃったな。

改めて・・・初めましてスコール・”ミザリー”・ミューゼル。

()()()()()!」

 

「え?

ッ、あなた・・・!!?」

 

自分の名前にミザリー、()()のセカンドネームを付けて呼ぶ男の()()()()()()を聞き、スコールは自身の目を四白眼にした後で自らの専用機ゴールデン・ドーンを展開しようとした。

ところが―――――

 

「ーーーゥぐッ・・・!!?

 

其れよりも早くスコールの身体は、男の背中から飛び出した蛸の触手の様なアームによって後方の壁へと押し付けられてしまう。

 

「卑怯・・・じゃと言われるじゃろうが、悪いね。

こうでもせんとアンタを取り押さえられんけんな」

 

「く・・・ッ!

随分と、手荒な事をするじゃないの・・・Mr.清瀬 春樹?」

 

悪びれる様子もなく謝罪の言葉を述べる男・・・二人目の男、清瀬 春樹にスコールは表情を苦痛に歪める。

 

「あなた、雲隠れしたって聞いていたのだけれど・・・やっぱり私を捕まえる為に潜んでいたという訳?

「敵を欺くなら、まず味方から」・・・まんまとやられたわ」

 

そう言ってスコールは少しばかり口端を上げた。

敵の奇襲を受けたとは云え、()()()()()にやられるのならば仕方がないと彼女は受け入れたのである。

されど観念して目を閉じるスコールに対し、春樹は「うーん」と首を傾げた後、彼女をゆっくり近くの椅子へと降ろしたのだ。

此の彼の行為にスコールは訝し気に眉をひそめて問い掛ける。「・・・どうして?」と。

然らば、春樹は歯を鳴らして歯を見せた。

 

「コイツは、()()()()でな。

実はアンタ・・・いえ、ミューゼル()()

貴女に頼みがありましてね」

 

「・・・頼み?」

 

「えぇ。

其の・・・どうか俺を貴女が所属する組織、ファントム・タスクの本部に案内してもらえません?」

 

春樹の頼みに彼女はギョッと表情を強張らせる。

勿論、スコールは彼に対して疑問符を投げ掛けた。「どうしてッ?」と。

まさか、自分を組織に売り込む為に仲介役になれとでも云うのか?

いや、此の男の事だ。きっと予想だにしない事をするのだと彼女は思わず()()()()

 

「どうして・・・ねぇ?

うーん・・・うん。

俺の母ちゃん・・・もとい母親曰く、戦争ってのはいつも無辜の民な力を持った人間の利益の犠牲になっちまう。

じゃったら、上のもん同士で勝負がつくまで殴り合えばいい・・・ってね」

 

「そ、それはまた随分と・・・・・って、まさかあなた!?」

 

春樹のやろうとしている事を察したスコールは再び彼の顔を四白眼でのぞき込めば、春樹は其れにいつもの奇天烈な笑顔で答えた。

此の反応に彼女は思わず口端を緩ませるが、其れは余りにも大それた行為である為にスコールは口元を抑えて唾を飲む。

 

「・・・・・出来るとでも思ってるの?

本気でそう思っているのなら・・・あなたは、正気じゃない!」

 

「正気じゃない?

()()を俺に聞く訳?」

 

「だ、だとしても・・・私がそう易々と協力すると思っているの?

私とあなたは敵同士なのよ!」

 

「あぁ、そうじゃ。

敵同士じゃから・・・敵じゃから信用できるんじゃ」

 

手を差し伸べる様に語り掛ける春樹にスコールは三度「どうして・・・?」と疑問符を投げ掛ければ、彼は先程よりもグイッと口端を吊り上げた。

今度は其の目に二つ金色の瞳を宿して。

 

「・・・京都の一件の後、あなたはあのヴァルキュリアに命じて警視庁を襲わせた。

じゃけど、本命はそっちじゃのーて俺が京都のモノレールでとっ捕まえたあのげすやろ・・・・・こほんッ。

もとい貴女の恋人、オータムを取り戻す事が本命じゃった。

・・・・・じゃけんじゃよ」

 

「・・・答えになっていないわ」

 

「まぁ、何が言いてぇのかって言うと・・・貴女にゃあ守るもんがあるって訳さ」

 

そう言って、春樹は自分の携帯端末を操作すると其の画面をスコールへ見せると彼女は画面を見た途端に三度目を四白眼に見開いた。

 

≪あッ、あー!

スコールだぁー!!≫

 

「お、オータム・・・!!?」

 

スコールが見た画面へ映っていたのは、ファントム・タスクの執行部隊に連れ去られた愛しい恋人、オータムだったのだ。

 

「な、なんでッ・・・何でオータムが・・・!!?」

 

「うーん、いやね?

ちぃっとばっかし人の頭ん中を()()機会があってね。

其れで面白いもんを見つけて・・・俺と銀髪黒兎ちゃんで救出したって訳なのヨ。

其れで・・・ねぇ?」

 

春樹は驚いて固まるスコールの肩を叩きつつ、歯を鳴らして彼女の耳へと囁く。

 

「此のまま連中の()()として、云うがままに虐げられ続けるか?

其れとも・・・俺の()()となって、大切な人と共に自由を謳歌するか?

さぁ、どうする?」

 

甘い誘惑を語り掛ける悪魔の様な彼に対してスコールは生唾を飲んだ後、遂に小刻みに震えながらニッカリと笑顔を浮かべて一言呟いた。

 

「フッ・・・あなた、生まれる世界か時代を()()()()わね」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆―――――

 

 

 

「ッ、す・・・スコール、これは一体どういう事だ!!?」

「貴様ァアッ、組織を裏切ったか!?」

 

何処からともなく突如として現れた春樹に驚愕したファントム・タスク主席メンバー達は、紹介文を述べたスコールへ向けて声を荒らげた。

だが、彼女は口を真一文字に結んで答える事はない。

其の代わり、春樹が皆を自分へ注目させる様に拍手をした。

 

「おいおいおいおいおい・・・そうイガるんじゃねぇよ。

折角、スコールさんが俺を紹介してくれたってのによぉ?

其れに・・・彼女は裏切ってなんかねぇでよ。

()()()()んじゃ」

 

朗らかな表情で場を宥めようとする春樹だったが、そんな彼の声など聞こえていないかの様に「敵だ、敵だ!」と、「侵入者だ!!」と騒ぎ立てる。

そんな彼等の慌てふためき様に春樹は口をへの字に曲げたと共に再び手を叩けば―――――

 

う”ゥッ!!?

んーッ!?

 

ピーチクパーチクと繁殖期の鳥の様に騒いでいた主席メンバー達の口が強制的に塞がれてしまい、其の場は一気に静かになった。

指揮者が指揮棒を振った後のオーケストラの様に動きを合せた彼等を見て、スコールはゴクリと生唾を飲んだ。

 

「―――――・・・思いついた!

此れから此の技を『ワールドパージ・ファンタズマ』と名付けよう」

 

()()()()()()()()

英国は円卓の貴族達へ行った様に春樹は、チェルシー・ブランケットが纏っていたIS、ダイヴ・トゥ・ブルーからコピーした単一能力『イン・ザ・ブルー』でスコールの影の中に潜んでいた際、建物全体に相手へ幻覚を見せる為のナノマシンを大盤振る舞いでばら撒いていたのである。

つまり・・・彼等は、スコールを部屋に入れた時点で()()()()()()のだ。

 

「よし・・・静かになった所で、自己紹介させていただきます。

俺・・・いえ、私の名は清瀬・・・清瀬 春樹。

云わずと知れた二人目でございますれば」

 

春樹は丁寧に自己紹介してお辞儀をするのだが、主席メンバー達は其れ処ではない。

瞬間接着剤でくっ付けられた様に閉じられた口を開こうと椅子から転げ落ちながらも躍起になってのた打ち回るばかり。

此れでは埒が明かないと春樹は苦しみ転げ回る主席メンバー達の中から一人を選んで、其の口にかけられた術式を解いた。

 

「ッ、はー・・・!?

はぁッ・・・ハァ・・・はァッ・・・!!」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「き・・・きき、貴様ァ!!

私に一体何をした!?

我らは―――――

「あぁッ、やっぱ五月蠅ぇな!」

―――ひぃいいッ!!?

 

耳障りに喚く主席メンバーを春樹は、自身の専用ISから部分展開した先が鋭い三つ又ハンドアームで逆さづりにした後、一方的に自分の思いを述べた。

 

「テメェらみてぇな未練がましい()()が俺に会いたがってたから・・・態々来てやったんじゃで?

ちったぁもっと歓迎しろや!」

 

「ふ、ふざけるな!!

こんな事をしてタダで済むと思っているのか、貴様?!!」

 

「うん」

 

「うん!?」

 

レスポンスの速さに呆気にとられるファントム・タスク主席メンバーだが、確かにこんな事をしてタダで済むわけがない。

ヒュドラの首を斬り落としても再び斬り口から其処から毒牙を持った頭が生えて来る様に此処に居る連中を()()してもまた同様の輩が発生するだけだ。

なれば、どうするか?

 

「殺しても殺しても生えて来るんなら・・・()()()()()ば良いんじゃね?」

 

「か・・・かい、飼いならすだと?」

 

「応。

イギリスでやったみてぇにやれば・・・何とかなるじゃろ」

 

「い、イギリス・・・だと?

まさか、ヨーロッパ支局と連絡が繋がらないのは貴様のせいか!!?」

 

「じゃーじゃー。

今みてぇにテメェらの頭ン中にナノマシンを()()()()()さ。

アレじゃよ、あれ。

ジョジョの奇妙な冒険のラスボスで有名なディオの()()()みてぇな感じよ」

 

そう説明しつつ春樹は触手を主席メンバーの頭に触手を巻き付けた。

 

「テメェらは、此れから俺に従うんじゃ。

俺の為に働く事が、至上の喜びと思う様に頭ン中を()()()()()()()

じゃけぇ、安心して・・・・・俺に()()されろ

 

「・・・お・・・・・お、お前は・・・ッ!」

 

「阿ん?」

 

目の前の人の皮を被った狂気に主席メンバーは恐怖で色々な体液を身体から垂れ流しながら言葉を並べ立てた。

吊り上げられた悪人が許しを請う様に「お前は一体何者なのか」と。

すると彼は拳を振り上げて、こう言った。

 

「I am the righteous hand of God.

And I am the devil that you forgot」

 

其れはある歌の一節であり、翻訳するとこうだ。

 

「『俺は、神の裁きの手。

そして、お前達が忘れた悪魔だ』」

 

其の一節を謳った後、()を従えた()()は、()()()()()()へ近づく為の()()を踏み出したのであった。

 

 

 

―――――勿論、其の場へ聞くに堪えない悪党共の汚い断末魔が響き渡った事を此処に記入しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?

  • はーい!!(^^)/
  • えー!?(・_・;)
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