IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第22話

 

 

 

春樹とシャルロットの秘密を共有する奇妙な関係から二日経ったある日。

其れは唐突に起こった。

 

「清瀬!」

 

その日の放課後、人気のない廊下での事である。

図書室から自室へと意気揚々に帰っていた春樹の前にどこからともなく一夏がとても深刻な面持ちで現れた。

 

「・・・ッチ」

 

春樹は一夏へ嫌悪感を抱いている事を隠さずに苦虫でも噛み潰したかのような形相と唾でも吐き捨てるような舌打ちをし、その場を後にしようとする。

だが、「あッ、おい待てよ!」と一夏が彼の肩を掴んで引き留めた。

 

この時、彼の手には前々から楽しみにしていた新刊が握られており、その本は軽く辞書とも間違えるくらいの厚さがあった。

 

自分の肩にのった嫌悪感の塊を叩き潰そうと手を振り上げた瞬間。一夏は彼の眼を真っすぐに見て、口を開いた。

「お前はシャルロット・・・いや、シャルルのこと知ってたのか?」・・・と。

 

「・・・・・あ”ッ?」

 

春樹は一夏の言った言葉に酷く困惑し、振り上げた本を静かに降ろした。

 

「・・・やっぱり。その様子だと知っていたのか、清瀬!!」

 

「・・・おいおいおい・・・」

 

春樹の反応に肩を握る力が強くなる一夏。

対する春樹は、ため息混じりに片手で顔を覆った。

 

「どうなんだよ、清瀬ッ?!」

 

「・・・ああッ、知っとる。デュノアさんが本当は女で、男のふりしてるって事じゃろう? じゃけぇ、なんなんな?」

 

肩に置かれた一夏の手を振り払い、「それがどうした」と呆れた口調で答える春樹。

その態度が気に入らないのか、一夏は春樹に詰め寄る。

 

「知ってて、なんで?!!」

 

「悪いが、俺はデュノアさんが転校してきた時から気づいとった。オメェみてぇにシャワー中のデュノアさんと鉢合わせしたみたいに気づいたんとは違うでのぉ」

 

「なぜそれを!?」と口では言わないが、目で語る一夏。

「・・・やっぱりか。このラッキースケベ糞鈍感屑系主人公」と心中で再び溜息を吐き出す春樹。

 

「俺は知っとったけん、関わり合いとう無かったんじゃ。それにオメェに彼女の正体を教える義理もなかったけんのぉ。じゃけど・・・ちっとも悪いとは思っとらん。気に入らんのじゃったら、好きに出る所へ突きだしゃあ良え。スパイ活動をしょーた犯罪者を捕まえたオメェの手柄じゃ」

 

「手柄って・・・お前、シャルルの境遇を分かって言ってるのかよ!!」

 

「・・・はぁ? 大方、『親からの命令で仕方なく』とか言う理由じゃろうが」

 

「清瀬・・・お前、なんでそんな事が平然と言えるんだよ?! 自分は関係無いみたいな顔しやがって・・・シャルルが困ってんだぞ!? 助けてやりたいって思わないのかよッ!!」

 

「思わん」

 

「ッ・・・お前!!」

 

ついに一夏は勢いそのままにガシリッと春樹の胸倉を掴んだ。

しかし、対する春樹は「ヤレヤレ」と言わんばかりに首を横に振った。

 

「まぁ、落ち着けや織斑。そして、よー思い出してみんさいや」

 

「何をだよッ!」

 

「唾が飛ぶんじゃ、ボケ。・・・はぁッ~・・・じゃあ聞くが、織斑くん? その自分の境遇を話したデュノアさんは、君に「助けて」って言葉を投げ掛けたかい?」

 

「え・・・ッ」

 

春樹はどうしてシャルロットがこんなスパイ行為をしているのかと言う理由を聞いてはいない。いや、『聞かなかった』という言葉が正しいだろう。

 

もし彼が彼女の境遇を否が応でも聞いていたら、目の前の一夏と同じまでは言わないが、憤慨していた事だろう。

 

「オメェはデュノアさんが『可哀相』な子じゃけん、同情しとるだけじゃ」

 

敢えて聞かなかったのは、シャルロットを『可哀相な子』にしたくなかった為だ。使い勝手の良い『道具』などという存在にしたくなかった為だ。

 

「それとも何かのォ・・・オメェ、デュノアさんに何か”イヤラシイ事”でもさせてもろうたんか?」

 

「ッ!」

 

「男が喜びそうなええ身体つきをしとるけんのぉ・・・サラシで隠しとるが、あの大きな胸でも触らして―――」

 

春樹の紡いだ文章にその後の言葉は続かなかった。

何故ならば、バキッ!と酷く生々しい音が彼の左頬に響いたからだ。

 

「清瀬ェエッ・・・!!」

 

「おおッ痛ッ~・・・ッチ、唇切れたでよ」

 

殴られた頬と血が出る唇を触りながら、ゆっくりと逸れた上体をもどす春樹。そして、床に落ちた本を掃いながら拾った。

 

「まぁ・・・でも、オメェならデュノアさんを意志関係なく救えるかもなぁ」

 

「・・・なんでだよ?」

 

「だって、オメェの姉ちゃんブリュンヒルデじゃがん。例えデュノアさんの秘密が公になっても、アラ不思議! ノープログレム・・・じゃろう?」

 

確かに、春樹の言葉には一理あった。

元とは言え、世界中の誰もが『世界最強』と認め、ISの発明者とも懇意にしている姉の千冬にはある一定の発言力があった。

・・・だが。

 

「・・・千冬姉ぇに迷惑はかけられない。シャルルの事は、俺が何とかする」

 

「・・・・・あ”ッッ?」

 

一夏の言葉に春樹はついに絶句した。

 

「おい・・・おいおい・・・ちょっと待ってよ、お兄さん。だったら、どーやってデュノアさんを助けるって言うんじゃ? まさかじゃと思うが・・・『特記事項』で時間稼ぎしとる間に方法を見つけようってんじゃなかろうなぁッ?」

 

『特記事項』。ここで当てはまる内容は『特記事項・第二十一』。

概要としては、『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』とある。

つまりは、学園に在籍する三年間は外部からの影響を受けないという事だ。

 

「・・・悪いかよ」

 

「・・・・・阿破破・・・阿破破破ッ、阿ーッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」

 

自分の考えが見透かされた事が不満なのか、バツの悪い顔をする一夏に春樹は酷くワザとらしい哄笑が轟かせる。尊厳など踏みにじるかのように、何の遠慮もない笑い声を上げたのだ。

 

「なッ、なにが可笑しいんだよ!?」

 

「阿破破ッ、いやー着眼点は良えよ。流石は可哀そうなヒロインを助けようとするヒーロー様じゃ。じゃけど・・・破破破ッ、やっぱりマヌケじゃのぉ」

 

「だから・・・なにが可笑しいってんだよ?!!」

 

激昂する一夏に腹を抱えながら、春樹は言葉を紡いでいく。

 

「良えか、織斑くぅん? 最初の方の授業でも山田先生が言とったが、この学校は色んな企業や国家の支援で成り立っとる。デュノアさんの実家もその一つじゃ。そねーな会社が、使い物にならんようになったデュノアさんを呼び戻すように連絡したら、学園がそれを拒否なんか出来る訳なかろうがな」

 

「そ、それは・・・そんなのやってみないと分からないだろうッ?」

 

「阿破破破ッ、若いって良えのぉ! 素晴らしいチャレンジ精神じゃッ!・・・じゃ~け~ど~なぁ~・・・」

 

一夏の啖呵に素晴らしいと拍手する春樹。

だが、すぐにその顔は相手を酷く蔑むような表情に変貌した。

 

「酷い事になるぞ~、いやホントに。悪い事は言わんけん、お姉ちゃんに相談しんさい。ほら・・・モンドなんとかの時みたいに、「千冬お姉ちゃ~ん、助けて~! 可哀そうな子がいるから助けてよ~ッ!」ってさぁ? 泣きついたら、良かろうがな」

 

「清瀬ッ、お前ェエッ!!」

 

激昂し、再び春樹に殴りかかろうとする一夏。

 

ドガッ!

「うゲッ!!?」

 

しかし、一直線に飛びかかって来た彼の腹部目掛けて、春樹は膝蹴りを放った。

春樹の膝は一夏の鳩尾にクリティカルヒットし、そのまま一夏は呻き声を上げながら跪いた。

そんな彼に春樹はしゃがみ込んでゆっくりと肩を叩いて囁く。

 

「ええか、織斑 一夏? お前のボートは一人乗り。救えるものを救ってみせれば、共に沈むのがオチじゃ。オメェの『誰かを助けたい』って気持ちは素直に凄いって思うで。じゃがなぁ・・・幾分か、それには覚悟が足らん」

 

「う・・・うゥッ・・・か、覚悟なら・・・ッ!!」

 

「いや、ない。オメェの其れは『覚悟』じゃのうて、『無知』じゃ。そんな曖昧なもんで簡単に人が救えると思うなよ、糞ガキ」

 

そう言って春樹は立ち上がると、スタスタとその場を後にした。

後に残ったのは、うずくまって悔しそうな唸り声を上げる少年の姿があるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆
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