IS/Drinker   作:rainバレルーk

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デップー&ウルヴィ―観ましたよ。
予想の五倍センシティブなネタがあって、予想の五倍面白かったですね。
・・・MCUの復活するかなぁ?

あと、今回はオリジナル設定と漫画『民法改正』の設定を組み込んでおります。
悪しからず。



拾弐升:酒華繚乱・酒、大いに呑むべし
第232話


 

 

 

―――――・・・新年を迎えた夏真っ盛りのオーストラリアで開催されたU18国際規定IS大会ヴァルキリー・アプレンティスは、波乱に波瀾が呼ぶ展開となった。

そんな数多の二つ名を有する猛者達が集う激動の大会を征したのは、インフィニット・ストラトス発祥の地と名高い極東・日本から到来した男(・)性(・)I(・)S(・)適(・)正(・)者(・)。

 

当初は、この男(・)で(・)あ(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)ISを纏って檜舞台に立った『彼』を皆は嘲笑った。

それもその筈。何故なら彼は血筋が名家である訳でもなく、身内に著名人が居る訳でもなく、家族がIS関連企業に勤めている訳でもない、本当にポ(・)ッ(・)と(・)出(・)の一(・)般(・)人(・)であったからだ。

比べて、世界初の男性IS適正者として発見当初から有名な織斑 一夏は、あの世界最強のISパイロット、織斑 千冬の弟(・)と云う箔(・)を持っている。

一夏と比べるまでもなく彼は無名であり、二人目の男性IS適正者として発見されて以降、ほとんどの人間が興味を示さなかった人物であった。

 

そんな男がIS国際大会に出場すると聞い時、多くの人間が彼へ否(・)定(・)的(・)で悲(・)観(・)的(・)な思いを寄せただろう。

マンネリ解消の良い話題作りや他の大会出場者達の格好の踏(・)み(・)台(・)として、大衆は彼を嘲笑うか、同情を込めてあしらった。

 

・・・・・ところがどっこい。

蓋を開けてみればどうだろうか。

 

皆の予想を大きく反し、優勝候補筆頭と評されていた前大会優勝者を一蹴するジャイアント・キリングなど序の口で、あれよあれよと云う間に決勝戦まで駒を勧めれば、勢いそのままに優勝を掻っ攫ってしまったのだ。

 

「エイプリルフールには早すぎるし、男がIS大会で優勝って、あまりにも荒唐無稽すぎるww」・・・と、彼の大会優勝がニュース速報で伝えられた時、ネット上は荒れに荒れた。

しかし、彼の話題はこれだけにとどまらなかったのだ。

 

「日本のコメは、世界一!!」

「お控えなすって!!」

 

世界中が注目する事にならざるを得なくなった大会出場者の健闘を讃える晩餐会で、彼は盛大に奇(・)行(・)と奇(・)言(・)を惜しげもなく曝したのである。

 

「『黙れば勇者、喋れば異常者、戦う姿は鬼神の如き』・・・って、あんたはIS界のゴールドシップか!!」

 

彼を孤高にして高潔なる次世代最強エースパイロットのイメージで売り出そうとしていた所属企業広報担当は、大層この奇行に大変ご立腹であったのだが、思わぬ所で日本農業が誇る米とロックバンド『打首獄門同好会』の曲の宣伝が行われた御蔭か。中継放送後、日本米の消費購入量と輸出量とチャンネルフォロワー数が格段に上がった。

 

そして、突如として彗星の如く現れた新(・)世(・)代(・)ス(・)タ(・)ー(・)を皆は熱狂と共に胸襟を開いて彼を迎えたのである。

今まで冷ややかな態度であったのにも関わらず、何とも早い掌返しだ。

更に言えば、彼の行った偉業はとても具(・)体(・)的(・)であった事が、大衆の好感を惹く理由にもなっていた。

 

実を言えば、ヴァルキリー・アプレンティス大会が行われる昨年の暮れに英国である大(・)事(・)件(・)が起きていた。

その大事件と言うのが、英国首都ロンドンが暴走した実力行使型軍事衛星によって危うく焦土と化してしまう所だったというものである。

それを阻止したのが、世界最強のISパイロット織斑 千冬を指揮官に世界初の男性IS適正者たる織斑 一夏が率(・)い(・)る(・)一個小隊であり、ついで事件の首謀者であるIS発明者の篠ノ之 束被(・)疑(・)者(・)を逮捕したという大手柄を成したという。

最初、世間はこの事件を話題にし、英国王室が事件解決に尽力した小隊メンバーへ勲章を授与した事も大きく報じた。

・・・だがこの事件、軍事機密や国家機密が複雑に関わっている為、英国政府は詳細な途中経過を報道する事はなく、事件解決と首謀者逮捕ばかりをピックアップしていたのだ。

そのせいか。この事件の内容に疑問を持つ者も多く、織斑 一夏の名を上げる為の売(・)名(・)工(・)作(・)等と言う的外れな陰謀論まで出る始末だ。

 

調度そんな時、女性優位の世間象徴として称えられているインフィニット・ストラトスの大会で男(・)の(・)身(・)で(・)あ(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)優勝した彼の話題で、世間は持ちきりとなった。

今すぐという訳にもいくまいが・・・英国の一件も徐々に人々の記憶の中へ埋もれるであろう。

 

さて、話を戻して・・・

漸く表(・)の(・)世(・)界(・)で名を上げる事となった今やすみれ色の戦竜ヴァイオレット・ファフニールの異名で呼ばれる様になった彼・・・二人目の男性IS適正者、清瀬 春樹はと言うと―――――

 

 

 

 

 

―――◆◆◆―――

 

 

 

「むぐむグ・・・マぐまぐ・・・・・美味いッ!」

 

雪見障子からは中庭の雪景色が拝見する事ができ、イグサの良い香りが漂う品格ある和室で、今や時の人となったヴァイオレット・ファフニールこと清瀬 春樹は、丼へ山盛りによそわれた銀シャリ白米を大口開けてグイグイ飲み込むが如く食べている。

勿論、ご飯のおかずもちゃんとあるのだが、そのおかずと言うのが普通なものではなかった。

彼の前へ置かれた膳に並んでいたのは様々な蟹料理。

しかも蟹の種類も様々で、ズワイガニやらタラバガニやら毛ガニやら。

そんな蟹達が、カニ汁やらカニしゃぶやら焼きガニやらカニ刺やら茹でガニにされて春樹に無惨にも外殻をバキバキ破壊されて食べられている。

更に彼は、その蟹と白米を食すと共に柄杓を使って側にある日本酒やら焼酎やらウイスキーやらが入った酒樽の中身を飲む。

傍から見れば、まるで山賊海賊の頭領そのもの。

 

「ほうッ・・・随分とまぁ気持ちよく食べるものだ。

見ていて清々しさを感じるな!」

 

しかし、そんな部屋の品格に見合わぬ飲み食いを披露する春樹の様子を肴に素人目から見ても高そうな着物を着込んだ青(・)白(・)い(・)髪と髭を蓄えた男が、御猪口で酒を飲んでいた。

春樹に言わせれば、現代パロの戦国無双に登場する北条 氏康の様であり、傍から見ても明らかにカ(・)タ(・)ギ(・)の人間ではない。

 

「いや、美味いもんを用意してくれたんは嬉しいんじゃけども・・・多くありませんかね、更(・)識(・)当(・)主(・)?」

 

「天山、で良いと言った筈だ。

それに今の更識家当主である楯無の名は、刀奈・・・娘が継いでいる。

今の私は、気楽な隠(・)居(・)の身の上だから畏まらないでくれたまえ。

加えて言うならカニ料理を希望したのは君だぞ、春樹殿。

私が君くらいの頃は、それよりも多くは食していたぞ。

・・・酒は、そんなに飲んでいなかったがな」

 

何(・)処(・)か(・)で(・)見(・)た(・)したり顔を春樹へ向けているのは、更識家前(・)当(・)主(・)にしてIS学園生徒会長の更識 楯無の父、更識 天山だ。

そして、そんな男がいるという事は、ここは都内にある更識家所有の邸宅という事になる。

 

ヴァルキリー・アプレンティス大会からフランスへ行ってケ(・)ジ(・)メ(・)を(・)着(・)け(・)て(・)来(・)た(・)春樹はシャルロットと別れて、そそくさと日本へ帰国したのだが、帰ってみればとんでもない事になっていた。

 

「お控えなすって!」

「知らざぁ言って聞かせやしょう!!」

「「「日本のコメは、世界一!!」」」

 

「・・・・・はッ???」

 

右を見ても左を見ても多くの大衆が、大会期間中に春樹が言っていた世(・)迷(・)言(・)を口遊んでいたのだ。

特に男子生徒が晩餐会で披露した彼の仁義を切る格好を真似していた。

更にテレビをつけてもネットニュースを見ても新聞雑誌を開いてもあの金眼四ツ目の仮面を被った奇(・)人(・)の活躍を報じていたのである。

 

「えぇ・・・・・世も末なのではァ??」

 

これには当の本人たる春樹も引いてしまうのだが、更に更に彼が所属するIS統合対策部には、春樹のテレビ番組やCM出演オファーが多量に舞い込んでいたのだ。

 

「・・・どーしてよ?

えッ、もしかして・・・凱旋帰国パレードの話ってマジだったん?

冗談か思うて、フランスに行ったんじゃけど・・・」

 

まさか、金眼四ツ目の仮面を被った自分がこんなにも人気者になっているとは思ってもみなかった春樹は動揺を隠せずにいた。

・・・因みに大会中に彼が叫んだ戯(・)言(・)の多くが、流行語大賞候補にノミネートされるのは先の話。

 

そんな素顔が秘匿されてバレてはいないからと言っても動悸を激しくして見るからにキョドる彼へ日本政府の長谷川を通して更識家からの招待状が届く。

この招待に春樹は、ラウラやシャルロットの二人が本国へ戻っている為、先に学園へ帰っても仕方がないと考えて、ノコノコ更識家を訪れたのだ。

 

きっと自分の大会優勝を身内だけで盛大に祝ってくれるだろうと思っての事であったのだが・・・ところがどっこい。

その更識家で待っていたのは、楯無でもなければ、簪でもなく、ましてやIS統合対策部の面々でもなく、どういう訳だが知らないが更識家前当主たる天山が一人待ち構えていたのである。

てっきり更識姉妹が出迎えてくれるものだと思っていた春樹は、流石に度肝を抜かれてしまい、そのままどういう訳か姉妹の父親である天山とサ(・)シ(・)飲(・)み(・)する事になってしまった。

 

「阿破ン破ン・・・美味いですわぁ!」

 

「はっはっはっ!

春樹殿、君は本当によく食い、よく飲む男だ!」

 

白米の入ったおひつを空っぽにし、三杯分の蟹を平らげた春樹は、これまた無惨にも蟹味噌をすすられて空っぽになったカニ頭を酒器にして日本酒を注いで火鉢で熱燗にしてしまう。

 

「乙な飲み方を知っているな。

何処で習ったんだ?」

 

「このすば・・・じゃったけなぁ?

初めてやるぶんにゃあ上手くいきましたわぁ!

阿破破破破破ッ!!」

 

アルコールが回った二人は、カニ頭の酒器を手に共通の話題である楯無と簪の学園での生活を肴に酒を酌み交わす。

笑い合う二人を見るに酒がある事で、二人は精神的に距離を詰める事が出来たのだろうか。

 

「さてとッ・・・ほいじゃあ天山さん」

 

「何かな、春樹殿?」

 

「そろそろ宴もたけなわですし・・・本(・)題(・)に移りましょうや」

 

春樹はカチカチ上下の牙を鳴らしてカニ頭の酒を飲み干す。

そのギョロリと見開いた三角目からは金色の焔が零れ出しており、それが彼の臨戦態勢状態である事は明白であった。

瞬間、鋭い殺気が床下天井襖奥からゾワッと漏れ出したではないか。

 

「・・・やめんか、お前たち」

 

天山もまたカニ頭を飲み干すと共に「退いていろ」と言わんばかりに手を振った。

どうも殺気が出て来た場所に更(・)識(・)家(・)の(・)手(・)の(・)者(・)が潜んでいたのであろうか。彼が合図をすると鋭い気配が掻き消える。

 

「・・・・・春樹殿、すまないな。

うちの者が過敏になってしまったようだ」

 

「いえいえ、こちらこそ。

俺も生意気な事をしてしまいました。

申し訳ありません」

 

飄々と言葉を交わす二人だが、先程の柔和な雰囲気はもう戻ってこないだろう。

・・・と、言うよりも最初から二人は腹の探り合いをしていたのだ。

 

「しかし・・・春樹殿、それなりの修羅場を経験しているようで。

これでもうちの者は、プロでね。

そんな者達を反応させるとは・・・流石だ」

 

「更識家の前当主のお眼鏡に適ったのは、恐悦至極。

じゃけども俺がここに呼ばれた理由は、大会優勝を讃える為に俺に酒や飯を食わせる事ではないのは明白。

・・・俺に一体何の御用で?」

 

春樹は目を細めてカニ頭へ酒を注げば、天山は腕を組んで溜息を一つ漏らす。

天山としては、未成年でありながら酒を好む春樹を前回会合した時に出した三倍の量のアルコールでベロベロに酔わせてからと考えていたのであろうが、どうも春樹は彼が考えるよりも酒豪だった様だ。

いや、前回よりも予想以上に春樹は酒に強くなっていた。

それもその筈。彼は昨年よりも一段超えて二(・)段(・)以(・)上(・)も進(・)化(・)していたからだ。

 

「・・・わかった。

君を試そうとして悪かったよ、春樹殿」

 

「そりゃどうも。

それで・・・俺に聞きたい事があるのでは?」

 

「そうだな・・・だが、その前に春樹殿よ。

私の質(・)問(・)に・・・二つ答えてはもらえないか?」

 

「質問・・・ですって?」

 

訝し気に隠す気もなく春樹は肩眉を上げた。

彼が目の前で相手しているのは、隠(・)居(・)の(・)身(・)の(・)上(・)と称してはいるものの日本政府御用達の対(・)暗(・)部(・)用(・)暗(・)部(・)組(・)織(・)の元頭目・・・いや、当主の座を子供に明け渡したと明言はしているが、実質的権力は未だ手の内であろう大(・)御(・)所(・)的な人物だ。

 

「(ッ、畜生め!

俺とした事が、しくじっちまってまんまと虎(・)穴(・)に飛び込んじまった。

今すぐにでも逃げたい!!)」

 

春樹が危惧していたのは、エクスカリバー事件・・・後の一(・)悶(・)着(・)が露見する事である。

最早すでに幻影ファントム達には首(・)輪(・)とリ(・)ー(・)ド(・)が付けられており、その手綱を握っているのは蟒(・)蛇(・)であったからだ。

『狡兎死して走狗煮らる』と考える彼には、それがバレる事は非常にマズい。

酔いが一気に覚めると共に酷く嫌な冷たい汗が春樹の背をなぞるが、口の中を噛んで平静を装う。

 

「・・・春樹殿」

 

「・・・・・はい」

 

「貴君は・・・何(・)の(・)為(・)に戦(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)?」

 

「・・・・・・・・はい??」

 

天山から何処かで聞いた事のある手(・)垢(・)の(・)付(・)き(・)過(・)ぎ(・)た(・)疑問文に彼は口をへの字にする。

待ち構えていた問いかけよりも180度正反対なこの疑問符に対し、虚を突かれた春樹は戸惑いつつも言葉を紡ぎ出す。

 

「・・・俺は最初、妬み嫉みと憤怒で孤(・)独(・)を(・)紛(・)ら(・)わ(・)せ(・)る(・)為に戦ってました」

 

「ほう。

そのマイナス的な感情は勿論・・・?」

 

「はい、お察しの通り。

あの鈍感ド屑糞垂れッ・・・失礼、世界初の男性IS適正者として有名な織斑 何某の不(・)出(・)来(・)な(・)弟(・)に対してです」

 

酷く嫌な事を思い出した為か、砕ける程に奥歯を噛み締めつつ春樹は呪詛でも吐く様に言葉を並べる。

 

「俺は・・・凡(・)夫(・)であります。

家柄は勿論、権威も持ってはおりません。

これと言って特技もないですし、どちらかと言えば・・・酒に溺れてる時点で、俺はロクデナシでありましょうや。

そんな退屈な俺でも・・・俺なりに人生を楽しんでおりました。

それなのにあのボケカスの・・・失礼、彼のせいで俺の人生は確実に歪(・)み(・)ま(・)し(・)た(・)」

 

男でありながら自分にIS適正がある事が判明した途端、春樹の生活はガラリと変わってしまった。

最愛の家族と強制的に離れ離れにされ、周囲からの心無い蔑みを浴びせられ、一歩間違えば生死に関わる様な面(・)倒(・)事(・)を振っ蹴られる。

その度に春樹は「ふざけるな!!」と涙を流し、歯を食い縛り、血が滲む程に拳を握った。

 

「本当じゃったら漫画やアニメの主人公みてぇに「皆を守る為に!」とか、「世界を守る為!」とか言いたいですけど・・・歪(・)ん(・)だ(・)俺に世界どころか人間も救う様な大言なんぞ吐けれません。

・・・・・じゃけれども強いて言うならば、今は・・・」

 

「今は?」

 

「俺ァ・・・俺が好きな人達が、俺の事を慕っている連中が、気分を害して嫌な気持ちになるんが嫌じゃ。

そいじゃけん俺ァ・・・親しい人を、愛する人を大事にしたいと思っております」

 

それでも肉を斬られる度、骨を砕かれる度、心を潰す度に春樹が大なり小なり得(・)て(・)来(・)た(・)ものがある。

それを失(・)わ(・)な(・)い(・)為(・)に彼は何度膝を付いて、幾度となく打倒されても立ち上がって来た。

 

「じゃけん今の俺は大切なもん・・・自分のテ(・)リ(・)ト(・)リ(・)ー(・)を守る為に戦ってます。

そんでもって、その為に俺は今を生きとります」

 

酒を呷って述べる春樹の文言に天山は「ふむう」と腕を組んで一つ唸れば、肩眉を上げて疑問符を呟く。

 

「・・・しかしだな春樹殿。

今の文言だと貴君は、これから出会うであろう人々をも抱え込むつもりになるぞ?

それも際限なくだ。

それが・・・出来るとでも?」

 

人生未だ序盤の若造が何を言っているだろうかと言いたげな少々辛辣ともとれる天山からのこの疑問符に対し、彼は渋さと苦さを合わせた様な表情を浮かべてのたまわった。

 

「さぁ・・・どうでしょうね?

まぁ、やってみるしかないでしょうよ」

「ほう・・・?」

 

想定するよりも斜め上をゆく呆気らかんとした答えに天山は眉をひそめるが、対する春樹は両眉を上げて樽から酒を掬って飲む。

その何とも太々しいともとれる彼の態度に再び襖奥やらから殺気が漏れ出るのだが、当の本人は美酒を味わう事に夢中である。

 

「・・・肝が据わっているな。

それとも強がっているだけか?」

 

「さて、どうでありましょうか。

厚顔無恥なだけかもしれませんぜ?」

 

「そうか・・・ふむ。

では、二つ目の質問だ」

 

「はい・・・何でしょう?」

 

「春樹殿、貴君は・・・私の娘(・)達(・)の事をどう思っているのかね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・阿ィ???」

 

春樹は目を点にした。

この「目を点にした」と言う事は、彼は琥珀色の瞳を四白眼にし、持っていた柄杓をポロリ畳の上へ落してしまったのだ。

それ程までに天山からの疑問符は先程よりも素っ頓狂なものであった。

勿論、これに春樹は「どういう意味で?」と聞き返したかったのだが、この彼の疑問符を天山は自身の掌を見せる事で飲み込ませる。

 

「おい・・・例(・)の(・)モ(・)ノ(・)を」

 

天山が春樹に見せた自分の掌を上へ向ければ、瞬きの内にその手中へ一つの冊子が収まった。

あからさまに表紙へマル秘マークと機密のハンコがある明らかに機密書類な冊子を春樹へと手渡せば、彼は恐る恐るそれを手に取って中身を拝見する。

 

「それは・・・国際IS委員会内部で水面下に検討されているものを危惧して、日本政府の諸勢力の一つが内閣に現在進行形で提示しようと画策している法(・)改(・)正(・)案(・)だ。

もしこれが国会で通れば・・・・・って、今は聞いていないな?」

 

「まぁ、それもそうか」と溜息を吐く天山の反応は当然であった。

渡された冊子の中身へ目を通した瞬間、口を大きくへの字にして先程よりも更に目を見開いたのだ。

更識 楯無の様な反応をすれば、「驚愕!!」と書かれた待機状態の扇子を開いていた事であろう。

 

・・・種を明かせば、冊子の中に抱えれていた法改正案とは、『民法732条』の条文変更である。

この民法732条なるものは、簡単に言えば、重(・)婚(・)の禁止を定めた規定であり、本条に反してなされた婚姻は取り消されると明記されている。

しかし、改正法案に明記されていたのは以下である。

 

『改正民法732条』

男は五人の女まで結婚する事が可能。

ただし男が複数人の女と結婚する場合、国家が認めた褒賞を受けた場合のみとする。

(省略)

 

・・・早い話、国から認められた男は一夫多妻ハーレムを構築する事が可能という訳だ。

 

「男(・)で(・)あ(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)I(・)S(・)を(・)扱(・)う(・)事(・)の(・)出(・)来(・)る(・)存在・・・男(・)性(・)I(・)S(・)適(・)正(・)者(・)。

その第一号である織斑 一夏が確認された際、国際IS委員会は何を考えたと思う?」

 

IS、インフィニット・ストラトスは改めて言うまでもなく世界最強の兵器である。

戦車以上の火力、戦闘機以上の機動性、歩兵の運用性を有して尚且つ理論上は至近距離での核爆発からにも搭乗者を生命を守る絶対防御機能を持っている余りにも強力な兵器だ。

だが、その余りある強さと引き換えにISが背負った欠(・)点(・)が、IS動力部たるISコアが限られた絶対数である事と女(・)性(・)に(・)し(・)か(・)扱(・)え(・)な(・)い(・)と云う点だ。

だが、ISの登場から十年目にして突如として出現した男性IS適正者の存在は、ISによって女(・)尊(・)男(・)卑(・)が当たり前になってしまった時代をひっくり返してしまう事態であった。

 

・・・けれども、それを良しとしない者達がいた。

ISによって高い社会的立場を手に入れた者達である。

彼等もしくは彼女達にとってISを男女関係なく扱える事は実に不都合であり、そんな者達の魔の手から守るという形で、世界初の男性IS適正者の織斑 一夏は自由国籍となってIS学園へ入学した・・・と、言うのが上(・)辺(・)の理由だ。

 

その下にある真(・)の(・)理(・)由(・)は、日本政府のよる男性IS適正者の独占を防ぐ為である。

国際IS委員会は国連の末端組織という事に面目上なっているが、今やその影響力は国連を追いつき追い越せと言わんばかりの勢いだ。

国連こと国際連合の発(・)足(・)経(・)緯(・)を知っている者からすれば、そんな時に現れた国連非(・)常(・)任(・)理(・)事(・)国(・)出身の男性IS適正者で、しかも世界最強のIS操縦者の名高いブリュンヒルデの容姿端麗な実弟というのは都合が悪い。

だからこそ国際IS委員会は、一夏・・・男性IS適正者の遺(・)伝(・)子(・)を世界の共通遺産とする為に日本政府内部に居た親IS派閥の者達を使って彼を自由国籍にしたのだ。

 

「国際IS委員会の連中は、近い将来・・・織斑 一夏が十八を迎える頃、男性操縦者が重婚できる様な国際法を通すつもりだった。

・・・ところがどっこい。

春樹殿、君が現れた」

 

世界最初の男性IS適正者の存在は確認された際、各国は『二人目の男』を探したのだが、奇しくもその二人目が発見されたのが、またしても日本であった。

しかし、その二人目と言うのが、血筋もなければ別段容姿もあまり良くなく運動能力も低い地方田舎出身の凡夫、清瀬 春樹であったのである。

 

本来ならば、国際IS委員会は二人目と言えども貴重な男性IS適正者を保護するべきであったのだが、何故だか彼等はこれをしなかった。

理由を挙げるとするならば、かの有名なブリュンヒルデの弟を一人確保していれば十分だと考えてもいたし、尚且つ国際IS委員会は血筋も家柄も権威もないIS適正レベルEの春樹を劣(・)等(・)だと認識していたのだ。

国際IS委員会は彼を勝手に劣等遺伝子扱いして優勢遺伝子のス(・)ペ(・)ア(・)としか考えていなかった為、結果的に当初の春樹は何の後ろ盾もない只のISを使えるだ(・)け(・)の男であった。

けれどもそんな春樹を哀れに思って同情したのか、日本政府所属の長谷川が彼を保護したのだ。

 

「(春樹殿の癪に障るだろうが、博文・・・長谷川は良(・)い(・)拾(・)い(・)物(・)をした。

二束三文で手に入れたものが、無名でありながらも切れ味抜群の名(・)刀(・)であったのだからな)」

 

それに比べて、国際IS委員会が直々に召し抱えた一夏は、拵(・)え(・)こそ豪華絢爛ではあるが、その実はにっちもさっちもいかぬ鈍(・)ら(・)刀(・)。

ほろ酔い気分の天山は「ざまぁみろ」と心内でほくそ笑む。

 

それもその筈。誰も彼もが期待していなかった男が、抜きん出た才能と強さを有していたからだ。

見向きもされない雑種の捨て犬が、成長したら実は狼でしたぐらいに衝撃的だったが、とんだ棚ボタである。

 

「・・・どうだろうか、春樹殿。

この改正法案は?」

 

そんな棚ボタでありながらも優秀な遺伝子を政治利用しない手はない。

民法732条改正を指示した諸勢力は、少子化対策に託けて、春樹の遺伝子を資(・)源(・)と捉えて国際社会で優位に立とうと考えたのだろう。

しかし、その春樹には寵愛を注ぐドイツ人の恋人がおり、その恋人との将来を考えているというではないか。

ここで下手に「その女は日本国籍を持たぬ外国人だから婚姻は認められぬ」と言ってしまえば、角が立つし、春樹からの印象も悪いが、これはイカンと考えた者達は、色々と画策した上で、古来より伝わる方法を思いついた。

それが婚(・)姻(・)関(・)係(・)による抱き込みである。

 

「春樹殿、風の噂で小耳に挟んだのだが・・・貴君の正(・)妻(・)たるボーデヴィッヒ女史は、春樹殿に自(・)分(・)以(・)外(・)に(・)も(・)子(・)供(・)を(・)設(・)け(・)て(・)ほ(・)し(・)い(・)と聞いたのだが、間違いないか?」

「ッ、ぃい”!?」

 

「何でそれを!?」とギョッとする春樹だが、すぐにラウラが楯無へ手を回している事を察して「おのれッ、俺の銀髪黒兎ちゃん!!」と渋い顔を晒す。

 

「して、春樹殿・・・我が娘達をどう思う?」

 

天山としては才能あって義理堅く、今まで幾度となく手柄を立てて、尚且つ自分の娘が惚(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)事をまぁ良しとした。

更識家へ新(・)し(・)い(・)血(・)を入れるとするならば、申し分ないと考えていたのである。

 

それにハーレムと言えば、男(・)の(・)夢(・)だ。

彼は、これを喜ばぬ男はいないと考えていたのであるが―――――

 

「・・・ぬぅう―――ンッ」

「・・・・・え?」

 

春樹は何とも言えぬ表情を浮かべた。

まるで渋柿を齧って、せんぶり茶を飲んだが如き苦悶の表情だ。

 

「あの・・・これマジっすか?

長谷川さん達もご存じで?」

 

「勿論だが・・・不満なのか?」

 

「えーと不満言うか・・・・・天山さんあの、俺にゃあラウラ・ボーデヴィッヒ言う好きな人が居りましてね。

俺はその子と将来夫婦になろう思うておりましてね」

 

「知っているとも。

貴君が、ボーデヴィッヒ女史にゾッコンな事も。

貴君が、凱旋帰国パレードを蹴って、あのデ(・)ュ(・)ノ(・)ア(・)社(・)の(・)社(・)長(・)令(・)嬢(・)とフランスへ行った事も。

楽しかったかい?

ボーデヴィッヒ女史の公(・)認(・)と聞いたが?」

「ぅッ!!?」

 

バ(・)レ(・)て(・)い(・)る(・)。

春樹は先程胃袋へ納めたカニと酒を吐きそうになりつつもグッと堪えたが、精神的負担は計り知れない。

それでも何とか彼は持ち堪える為、酒樽を一気飲みして平静を保つ。

 

「御嬢さん・・・・・楯無さんは、この事をなんて?」

 

「うーん・・・私に対しては平静を装っていたが、まだまだだ。

解(・)り(・)易(・)く(・)は(・)し(・)ゃ(・)い(・)で(・)いた。

しかし、そうか・・・やはり貴君は刀奈の方が好みか!

まぁ出ている所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいるからな!

仕方がないか!!」

 

「まるで俺が楯無の体目当てみたいに言うんはやめて下さい!!」

 

からから笑ってセクハラ発言をかます天山に対し、目を三角にした春樹は口をへの字に歪ませた。

 

「それに・・・簪さんだって素敵な人です!」

 

「ほう!

春樹殿、貴君はど(・)っ(・)ち(・)も(・)イ(・)ケ(・)る(・)口か!

別に私は・・・姉(・)妹(・)丼(・)も良い―――――」

 

再び天山のセクハラ発言が飛び出すかと思えば、彼の体へ突如として衝撃が奔る。

バッサリと肩から脇腹にかけての袈裟斬りだ。

 

「―――ッ!!?」

「御屋形様!」

 

思わず後ろへ飛び下がる天山。

その彼に呼応し、これまた思わず襖を蹴破って現れた部下達は、「小僧ッ、貴様!!」と春樹へ刃を向けた。

 

「待たんか!!」

「「「!」」」

 

春樹の首元へ刃を突き立てんとする部下の黒子衆を止めたのは、先程袈裟斬りを受けた筈の天山であったのだ。

黒子衆が自分達の主人の体を見ると彼は血の一滴も流す処か、着物の一枚も斬られてはいなかった。

 

「見事・・・見事な殺気。

流石の私も斬られたと思った」

 

「・・・・・申し訳ありません。

聞くに堪えぬ文言が出た為に思わず」

 

「思わずだと・・・ッ!」

 

黒子衆の一人が憤った声色を発するのだが、「やめんか」と天山がその黒子衆の下腹へ手をやる。

すると、そこには銀色に輝くコンバットリボルバーが撃鉄を起こした状態で突き付けられているではないか。

 

「うーん・・・美(・)事(・)!!」

 

春樹の垣間見せた才覚に酒が入っている為か若干興奮気味な天山であったが、一方の春樹は完全に酔いが覚めた状態で目を細めている。

 

「ご馳走になりましたし・・・これ以上の粗相を起こす前に退散してもよろしいでしょうか?」

 

「そうか。

春樹殿、学園まで送ろう」

 

「いえ、結構。

道中の酔い覚ましは、一人で十分。

あと・・・親だからとは言え、子供をそう云う風になじるのは如何なものかと。

では・・・!」

 

琥珀色の金(・)眼(・)四(・)ツ(・)目(・)となった春樹は、歯をカチカチ鳴らして立ち上がるとズカズカ肩で風を切って歩む。

 

「御屋形様、このままで良いので・・・?」

 

「そう言うな、正影。

元はと言えば、私が仕掛けたのだからな。

しかし・・・」

 

天山は黒子衆筆頭である布仏 正影へ口端を緩ませて語り掛ける。

随分と何とまぁテレビの中のヒーローでも見る子供の様な溌剌とした目を輝かせながらだ。

 

「素晴らしい!

是が非でも彼の血を我が更識家に入れたいな!!

なぁ、正影よ!!」

 

「・・・御屋形様、当分の間は酒を控えて下さい。

あと、この事は奥方様にも伝えておきます故」

 

「えぇッ・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?

  • はーい!!(^^)/
  • えー!?(・_・;)
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