IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第235話

 

 

 

―――三学期初日の放課後。

本来剣道部の部活動拠点となっている筈の武道場を()()()()()()あって()()したIS学園生徒会直下の下部組織でありながら今や教師IS部隊の実力をしのぐとも噂されるIS学園独立防衛学生部隊『ワルキューレ部隊』は年初めの訓練を始めていた。

 

「気をつけぇッ!

()()()()()に対し、全体敬礼!!」

『『『はッ!!』』』

 

整然と並んだワルキューレ部隊メンバー達は、精悍な顔つきで自分達の前に佇む()へ向けて一斉敬礼を行う。

・・・ところが敬礼を向けられた筈の男、清瀬 春樹は何とも言えぬ()()()()()な表情を浮かべている。

 

元々このワルキューレ部隊はIS学園に襲来する()()()()を危惧して創立された部隊なのであるが、創立者である春樹としては組織主力メンバーたる専用機所有者達を()()する()()()()()()と考えていた。

早い話、()()()()()で部隊を創ったのだ。

しかし、今やワルキューレ部隊は下手な軍隊よりも軍隊らしい組織となっていたのである。

そんな先程まで和気あいあいとした年頃ハイティーンの少女達を一瞬にして()()の顔立ちにした()()は、春樹の隣で口を真一文字に結ぶ。

その原因とやらは、流れる様な美しい銀髪を有しつつも厳つい黒々としたアイパッチを身に着けていた。

 

「・・・清瀬総隊長閣下。

皆に何かお言葉を」

 

「ラウラちゃん・・・じゃのーて、ボーデヴィッヒ()()

 

このワルキューレ部隊実技教官ラウラ・ボーデヴィッヒこそワルキューレ部隊を『清瀬 春樹と愉快な仲間達』から何処へ出しても恥ずかしくない一端の『軍隊』に構成した張本人である。

彼女は『訓練機を優先的に貸し出してもらえる』事と『スキルアップ』を名目に隊員を募集し、()()()()勧誘された生徒を学年関係なくビシバシ独軍式新兵訓練方法で鍛えた。

勿論と言えばそうだが、バックれと言う名の脱落者もいたのだが、度重なる()()()()の対処の為に部隊総隊長でありながら()()へ赴いては生傷を負う春樹の姿に心打たれ、隊員達は真摯に訓練を励むようになった。

そのおかげでIS無人機体の大軍の襲来撃退や学園に潜伏していたテロリストの確保と言う大手柄を打ち立てる事が出来たのだ。

 

「・・・・・何でぇ??」

 

いつの間にやらそこらの国軍よりも強い部隊の長に()()()()()()()春樹としては、今の状況は首を傾げる状態なのであるが、いつまでもポカーンしている訳にもいかない。

彼は隊員達の敬礼に敬礼で返すとここまで担いで来た荷物を前に置いた。

 

「あっと・・・皆さん、明けましておめでとうって事で、とりあえず休めの態勢に。

これからオーストラリア土産配るけぇね」

 

季節外れのサンタクロースの様に春樹はワルキューレ部隊の面々へチョコレートにクッキーやポテトチップスと定番のオーストラリア土産を渡していけば、そこへ機転を利かした様にこれまたオーストラリアの紅茶を淹れた生徒会書記にして”紅茶達人”の異名を持つ布仏 虚が現れ出でたではないか。

三学期初日から厳しい訓練が待ち受けていると踏んでいた部隊員達はこの待遇を手放しで喜ぶと早速包装紙を開けて笑い合う。

 

「―――・・・破破ッ!」

 

”お茶会”と言うには簡素で安易であるが、部隊員達の()()()()()笑い声を聞きながらあぐらをかいてリラックスモードの春樹は自分様に買ったカンガルージャーキーを齧りつつ懐から取り出した愛用スキットルを呷る。

こちらの中身はオーストラリアウィスキーでなくスコッチウィスキーだが。

 

「・・・・・呑気なものだな。

こんな事で拠点防衛ができるとでも?」

 

口端をほころばせる彼の隣へ突如として苦言を呈しながら現れたのは、腕組み姿がかの有名なブリュンヒルデを思わせる一人の女生徒。

 

「・・・()()()を呼んだ覚えはないんじゃけどな。

一応、オメェの専用機は没収されとる筈じゃろう?

どねやって入り込んだよ?」

 

「ことわざで言う所の『昔取った杵柄』と言うやつだ。

この程度の侵入行動などISを持っていなくとも容易い」

 

「昔取った杵柄って・・・流石は過激派組織戦闘員様じゃ。

おっとろしい。

寝首を搔かれん様に気をつけんと」

 

()だ、元。

今はしがないIS学園一年一組所属の女学生だ。

だから・・・そう警戒するな。

後ろの遺伝子強化素体アドヴァンスドもだ。

私に交戦の意思はない」

 

大仰に両手を挙げる国際的過激派組織ファントム・タスク()構成員、織斑 マドカの背後にはラウラ・ボーデヴィッヒが警戒態勢で自分の専用機武装を部分展開しており、マドカが話しかけている春樹の手の中にもいつも間にやら撃鉄へ親指をかけたリボルバーが握られていた。

 

「警戒に越した事はなかろうて。

オメェは少なくとも三回は俺ん事を殺そうとしやがったんじゃけんな。

そうじゃろうがな『サイレント・ゼフィルス』さんよ」

 

「・・・何度も言っているだろう。

私の今の名はマドカ・・・織斑 マドカだと」

 

「じゃあ織斑()って呼ぼうか?

そう簡単に名前なんぞ呼んでやるかよ!」

 

捻くれた子供が「あっかんべー!」と舌を出す様な仕草をする春樹に対し、マドカは一つ溜息を吐く。

 

「・・・・・清瀬 春樹、お前から信頼を勝ち取るのは苦労しそうだ」

 

「破ッ・・・そねーな事などせんでもええでよ。

それに折角、()()が外れたんじゃ。

俺の事など放っといて、青春を謳歌すりゃあええが。

政府に新しい戸籍やらなんやらかんやら用意してもろうとるんじゃけんよ」

 

「・・・・・・・・私は・・・」

 

「阿?」

 

「私は・・・清瀬 春樹、お前の傍らに居たい。

私は、もうお前の()なのだ!」

 

「え・・・?

な、何じゃと??」

 

「ッ、貴様・・・!」

「ちょ、ちょっと!?」

「ま、マドカさん!!」

 

何とも言えぬ彼女の発言に春樹とラウラならびに聞き耳を立てていたシャルロット

達は目を丸くする。

特に春樹への恋慕を自覚したセシリアに至っては、告白紛いの言葉を並べたマドカへ驚嘆の声を上げた。

 

「(・・・マドカ、がんば)」

 

そんな三人の様子を遠目から観察しつつマドカの情操教育係となっていた簪は紅茶とチョコレートに舌鼓を打っていた。

・・・調度その時だ。

 

「たのもーッ!!」

『『『!!』』』

 

スパーンッと開け放たれた武道場の扉。

勿論、現場に居た皆の視線は()()()()()()()へ向けられる。

 

「ここが噂に聞くワルキューレ部隊の訓練場所という訳だね。

なるほど・・・実に奥ゆかしい!

これが()()()()というものかな?」

 

何とも優雅にうんうん頷きながらズカズカ入って来た人物に隊員達は短く黄色い悲鳴を上げるのだが、苦虫を嚙み潰した様な表情と共に「ゲっ・・・!?」と不快を露わにする男が一人。

 

「あっ・・・!

あの時は、仮面を付けていたけれど僕にはわかるよ!

やっぱりここにいたんだね・・・僕の好敵手ライバル、清瀬 春樹!!」

 

部外者・・・ロランツィーネ・ローランディフィルネィは、口元をほころばせながら砕けんばかりに奥歯を噛んで渋い顔を手で覆う春樹に手を振る。

 

「お呼びじゃねぇーんじゃ、Part2!

なしてテメェがここに居るんじゃ、オランダ人!!」

 

自分に対して手を振る相手に対して歯を剥き出すと共に立ち上がった春樹。

されど少しばかり殺気を含んだ怒声をものともせず、ロランツィーネはきょろきょろあたりを見まわしながら遠慮なしにズカズカ歩みを進めたではないか。

 

「なに、簡単な事さ。

クラスメイトのレディ達と親交を深めていたら・・・とても気になる事を耳にしてね。

なんでも・・・貴重な男のIS適正者という立場を()()して、クラブ活動の一つを自分の後宮ハーレムにして()()()()()()レディ達をとっかえひっかえしているとね!!」

 

予想だにしていなかった()()()()()()に目くじらを立てる春樹へロランツィーネはズビシッと指を差す。

勿論、彼女のこの行為が癪に触らぬ春樹ではない。

 

「尾ひれ背ひれに胸びれまで付いてやがる!?

誰ならそねーな事を云うたボケは!!?

ツーか、親交を深めるとか云うて・・・転入初日に()()()してんじゃねーよ!」

 

「ナンパとは心外だな・・・まぁ、いいさ。

もちろん僕もそんな事が真実だとは思っていないよ。

だからそうムキにならないで」

 

「ッチ、こいつ・・・!

まぁええ・・・じゃあ何しにきやがった?」

 

春樹が投げ掛けた疑問符に「待ってました!」と言わんばかりにロランツィーネは口端を吊り上げてクツクツ両肩を震わせた。

 

「そんなの決まっているじゃないか!

清瀬 春樹、君との再戦だよ!!」

「いやじゃ!

やりとうねぇ!!」

 

拒絶レスポンスの速さに「判断が早い!!」とワルキューレ部隊隊員達は心の中で感心し、流石のロランツィーネも彼のこの返答に動揺する。

 

「ッ・・・どうしてだい?

確かに僕は君に対して失礼な態度をとってしまっていた。

だけど・・・僕はあのヴァルキリー・アプレンティス決勝戦の一戦で心を入れ替えたんだ!

だから今度は真っ当な気持ちで春樹、君とあの時以上の熱い戦いをしたいんだよ!!」

 

「は、はい??」

 

「こいつ、こんなキャラだったけ?」と春樹は眉間にしわ寄せて口をへの字にひん曲げた。

彼がこんな調子だから周囲の者達も困惑してしまうのだが、ある一人の人物が二人の間に割って入る。

 

「―――――おい、貴様」

 

天の川の様に美しい銀髪を揺らして厳めしい表情をロランツィーネに向けたのは、組織№2のラウラだ。

 

「あぁ、ドイツの()()と噂に名高いラウラ・ボーデヴィッヒだね。

君の様に愛らしくも美しいレディにお目にかかれてとても光栄だ」

 

「ご託は結構。

ここは関係者以外立ち入り禁止だ。

即刻、出て行ってもらおうか!」

 

手の甲へキスしようとするロランツィーネの手を振り払ってピシャリの一言をのたまうラウラ。

然れどもロランツィーネは「うーん」と首を傾げた後、何か閃いた表情で眉間にしわを寄せる彼女の顔を覗き込んだ。

 

「なら僕もこの()()()()()・・・ワルキューレ部隊に入るよ!

それなら問題ないだろう?」

 

「・・・それは、ちと無理な話だと思うぞ?」

 

「どうしてさ!?」

 

「ワルキューレ部隊の入隊には、入隊試験合格並びに総隊長の許可・・・つまりは春樹の許しがいる。

ちなみに聞くが春樹よ、こいつが試験に合格したとして入隊を認めるか?」

 

「認めん!!」

 

「フフッ・・・だ、そうだ。

残念だったな」

 

腕を組みつつふんぞり返って拒む言葉を放った春樹に対し、ロランツィーネは「そんな!?」「どうしてさ!!?」と当然の如く抗議する。

すると春樹は目を三角に釣り上げて牙を見せた。

 

「テメェ、オランダ人!

ヴァルキリー・アプレンティスで俺の事を「ピエロ」だの、「馬の骨」だの、へちまだの言うておいて、詫びの一つもなしにいけしゃあしゃあと何を言よーるんじゃ!!」

 

「ッ・・・そ、それは・・・悪かったよ。

でも、もう()()()()じゃないか!

()()()()()()()()()()、僕と君の新たな関係を―――――」

「過ぎた事、じゃと?

過去は水に流して、じゃと??

・・・阿”ァ”???

 

「―――ヤバッ!」と春樹を知る者達は顔を青くした。

大した詫びも入れずに自分の都合ばかりをのたまうロランツィーネの言動は、()()()()()彼を怒らせるには充分であったからだ。

・・・もし、彼女がヴァルキリー・アプレンティス大会で春樹に対する失礼無礼な言動を()()()()に誠心誠意謝罪した後、ワルキューレ部隊入隊うんぬんかんぬんの流れだったら春樹も渋々ではあるが相応の対応をしていただろう。

だが、ほんのちょっぴり悪びれる態度はあるものの大会の時とあまり変わらぬ横柄なロランツィーネを()()()()()()()()()春樹が受け入れる筈もない。

しかも彼は三学期初日から・・・正確には三学期開始前から()()()()()()を察知していた為、すこぶる機嫌が悪かった。

そこに来てのロランツィーネだ。

 

「春樹さん・・・ッ!」

「ッ、総員警戒!!」

 

彼の両腕へバチバチ奔る()()()()を一目見たセシリア達は思わず()()()の為に持っていた鎮圧用氷結弾頭を装填し、発砲態勢に入る。

こんな所で癇癪を起されて、単一能力たる『晴天極夜』を発動されては堪ったものではない。

これは、いつかの日に()()()()()()()()()()を受けて暴走状態となってしまった春樹を知るワルキューレ部隊隊員達も同じで、現状武装を持たぬ彼女ら退却態勢をとる。

 

「むっ・・・?」

「ど、どうかしたのかいレディ達?」

 

現場の異様な雰囲気は春樹の激昂を知らぬマドカやロランツィーネでさえも察する事が出来た。

それもその筈、仲間であろう者達が彼へ恐怖心を持って銃口を向けているのだから。

 

「落ち着け、春樹!」

ガルルルル・・・!

 

春樹の手をとっさに取ったラウラは、邪知暴虐火の怪物をなだめんとする聖女に見えた事だろう。

・・・然れども面倒事と言うものは、()()もので。

 

―――――

「ヴァイオレット・ファフニール・・・

清瀬 春樹はあるか!!?」

『『『ッ!!』』』

 

「またか!!?」と再び響き渡った声に皆は渋い顔をする。

そして、またしても皆は武道場入口に視線をやって目を丸くした。

 

声を張り上げたのは、胸元が大きくあいた特徴的な騎士服を身に纏った長髪の女騎士。

勿論、異性はおろか同性でも惹かれる美貌にも目を引いたが、皆が彼女よりも気をやったのが、その背後へ控えていた一人の少女。

 

「―――――ゲげッ・・・!!?」

 

幼い顔立ちながらも生まれながらに持つ少女の気品高い風格に()()()()()のか、獣の様に唸っていた春樹の顔へ正気が戻る。

そんな吃驚仰天する彼の顔を見た()()()()()()()()の少女は、女騎士を追い抜かして一目散に距離を詰めた。

 

「ッ、()殿()()!」

 

「構うなジブリル。

おぬしが、あのヴァルキリー・アプレンティスでオリーブの冠を頂いたと有名なヴァイオレット・ファフニール・・・清瀬 春樹か?」

 

「えッ?

あーっと・・・」

 

小さな赤い王冠の様なアクセサリーを黄金色の御髪へ付けた少女はジロジロと春樹を嘗め回すように見た後で声をかけるのだが、渋い顔を取り繕うのに忙しいのか、彼は思わず口籠ってしまう。

すると春樹のそんな態度が癪に障ったのか、少女の隣に佇んでいた女騎士の眉間へしわが寄った。

 

「無礼者めッ、早く姫殿下の御言葉に答えんか!」

 

「ッ、え?

あ、あぁッ・・・はい!

自分が清瀬 春樹ですが・・・?」

 

先程の状況とはまた違った異常事態に春樹は戸惑いながらも問いかけに肯定の意を示すとやんごとなき少女は何とも言えぬ表情をする。

まるで「お前が、あの?」とでも言っているかの様な微妙な顔だ。

 

・・・因みにだが、春樹の顔は世間一般で言う所のイケメンとは遠い。

どちらかと言えば、初診の病院で医者からヤクザの親分と間違えられた逸話を持つ父親の血を継いだ強面で、更に()()()()()爬虫類顔である。

 

「・・・なんだ、貴様?」

「ラウラちゃん、止せ・・・!」

 

そんな()()()でもするかの様に目を細めるやんごとなき少女が癪に障ったラウラは眼を鋭くさせて二人の間へ割り込もうとしたが、これを春樹が目をやって静止させた。

そして、一刻の様なピリついた刹那の後、言葉が紡がれる。

 

「ふん・・・まぁ、よいわ。

おい、清瀬 春樹」

 

「は、はい?」

 

「おぬしをわらわの()()として引き立ててやろうぞ。

どうじゃ、光栄であろう?」

 

「・・・・・あ”っ?

 

「へ?」とあんぐり口を開ける春樹を他所に憤怒の声を重ねたのは、彼の傍らにいたラウラだ。

何の音沙汰もなく突如として現れて自分の恋人へ対して一体どういった料簡であろうか。

ラウラはあからさまに不満を露わにし、マドカに至っては殺気を滲ませた。

 

「ッ、無礼者共め!!」

 

そんな二人の態度に対して女騎士、ルクーゼンブルク公国近衛騎士団長ジブリル・エミュレールは鋭い目で凄むと共に腰へ携えたレイピアへ手をかけて声高々に言い放つ。

 

「この方を誰と心得るか!

ルクーゼンブルク公国の第七王女、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク殿下であらせられるぞ!!

平民風情が敵意を向けるとは何事かッ!!」

 

鞘へ納められているとは言え、前のめりの態勢で剣の柄を握って凄めば、相手は怯むであろうとジブリルは思っていた。

 

・・・しかし、ここはルクーゼンブルク本国ではない。

確かに東欧の小国ではあるが、他国の王族と聞いてたじろぐ者もいた。

だが、彼女が目の前にしていたのは学園一の精鋭を率いる()()()の自他共に認める()()であったのだ。

 

「―――――やかましい!!」

「ッ、な・・・なに!?」

 

「アポイントもなしで突然やって来て、総隊長閣下・・・春樹を家来にしてやるとふざけた事を抜かす方が無礼であろうが!!

このおわんごがッ!!」

 

ジブリルよりも一回り以上も矮躯なラウラが、彼女以上の声量を張り上げて糾弾の声を発した。

そして、「構え!!」の声と共に手を挙げれば、日頃の訓練の賜物か。状況を見守っていたワルキューレ部隊隊員はラウラの号令に釣られてジブリルへ敵意を向けてしまう。

 

「―――――止めいや、者共!!

『『『ッ!!』』』

 

然して正に一触即発の現場へ響き渡った()()()()()

言わずもがな声を発したのは、琥珀色の焔を瞳から溢しつつギョロリと招かれざる客に敵意を向けるワルキューレ部隊隊員をギョロリと見やる部隊長の春樹であった。

 

「ッ・・・だが、春樹!」

 

「ラウラちゃん、こかァ俺の顔を立てておくれよ?

頼まぁな」

 

口をとがらせて異を唱えるラウラを柔らかな笑みでなだめた春樹は、深々とジブリルへ首を垂らす。

 

「これは、うちの手の者が失礼な事をしました。

後でよく言って聞かせますので、どうか御容赦いただけると幸いです」

 

「なっ、何を言うか!

貴様らはいったい誰に対して歯向かったのか解っているのか!!」

 

「歯向かったですか・・・ですが、そう()()()()んはそちらでしょうに。

俺ァ・・・じゃのーて、私共は()()()()()()()()()()()()だけの事」

 

いけしゃあしゃあと涼しい顔でのたまう春樹にジブリルは眉間へ更にしわを寄せて顔を赤くした。

けれども春樹の言葉が止める事はない。

 

「第一、俺私が第七王女殿下の家来になる事は叶わぬ事です」

 

「ん?

どうしてだ、清瀬 春樹?

わらわが直々に家来にしてやろうと言うのに・・・光栄ではないと申すか?」

 

「いえ、殿上人たる王女殿下が世俗的な平民たる私へ直々に声をかけて頂けるなど光栄の極みであります。

しかして・・・自由国籍ならばまだしも私は日本国籍を有する日本国民であります」

 

春樹の言う通りで、国連が定めた個人に対して何処の国家へ所属する自由意志を尊重した自由国籍を有していれば、()()()は何処の国家へ所属しても構わない。

 

しかし、春樹はこの自由国籍を有していない。

国連は当初、才能を有しない()()()やら()()()()とみなしていた為に自由国籍を彼に与えなかったからだ。

それ故に春樹はそのまま日本国所属となり、後々に国連はこの判断を後悔する事となった。

 

「なので・・・もし、私が喜んで王女殿下の臣下になりたいと願っても日本政府がそれを許す事はないでしょう。

申し訳ありません」

 

最もな意見にルクーゼンブルク第七王女、アイリスは「むぅ!」と拗ねた様な表情となる。

元が容姿端麗なれども幼い顔立ちからか、それが余計に際立つ。

 

「・・・・・ちょっと待っておくれよ」

 

「阿?」

 

ここでもう一つ拗ねた声がした。

声のする方へ眼をやれば、そこにはふくれっ面のショートカット銀髪が一人。

 

「どうして僕にはあんなにも辛く当たって、ルクーゼンブルク姫殿下に対してはこんなにも丁寧なのさ!」

 

「簡単な話よ。

オメェは顔合わせの前から俺を散々こき下ろして喧嘩売って来たろうがな。

じゃけん、俺はオメェが気に入らん。

関わり合いとうもない!」

 

「ッ、そ・・・そんなストレートに言わなくても良いじゃないか!!

僕だって、反省してるんだよ!!」

 

正直な話、どこぞの国の王家と下手な事で揉めたくない。

だから下手下手に、丁寧丁寧に対応して事を収めようと考えていた。

それに比べてロランツィーネは一国家の代表候補生という()()だ。

対応が違っても仕方がないと言ってもしょうがない。

 

「反省反省というけれども・・・なら最初っから態度で示せや。

ええか?

ひねくれ者は、根に持つんじゃ。

破破阿ッ!」

 

「あっかんべー!」と舌を出す春樹にロランツィーネは涙目でギリリ歯噛みをする。

その時の表情に普段の王子様キャラとは違ったギャップを覚えたのか。ワルキューレ部隊隊員達から「かわいい!」との声が上がった。

・・・ところがどっこい。

 

「―――ん?

ならば簡単な事ではないか!

清瀬 春樹よ、我がルクーゼンブルクの民となればよい!!」

「・・・・・はッ??」

 

意地悪く笑う春樹の顔を呆けさせたのは、何か閃いたかの様なアイリス。

彼女は強く鼻息を吹くと人差し指をジブリルへ差し向けて言い放つ。

 

「我が騎士、ジブリルよ。

この男、清瀬 春樹をお前の婿()としてエミュレール家へ迎え入れるのじゃ!」

 

『『『は・・・ッ!??』』』

「ッ、ひ・・・姫殿下!!?」

 

突如としてアイリスの言い放った素っ頓狂な文言にワルキューレ部隊隊員達のみならず当該人のジブリルまでギョッとしてしまう。

 

「我がルクーゼンブルク王家の近衛騎士団団長を代々にわたって務めているエミュレール家の婿養子として迎え入れれば、結果として清瀬 春樹はわらわの臣下となるであろう?

うむ・・・なんと我ながら良い考えだ!!」

 

アイリスの考えとしては、日本国籍を理由に臣下になる事を断るのであれば、自分母国であるルクーゼンブルク国籍へ移るように差し向ければ良い。

その手っ取り早い手段として思いついたのが、自分の護衛兼付き人となっているルクーゼンブル近衛騎士団団長のジブリルの婿()として春樹を迎え入れようという魂胆だ。

 

一方で、この()()の突拍子もない考えにジブリルは狼狽えた。

アイリスの()()でないにしろ御家の主君筋である彼女の言葉をおいそれと否定する訳にもいかぬ。

それにジブリルは近衛騎士団団長であると同時にルクーゼンブル公国貴族のエミュレール家の子女だ。

相手が年上であろうが年下であろうが、御家の為、御国の為ならば()()()()もいとわぬ場合もあるだろう。

彼女はぐぐっと目と口へしわを寄せた後、目を見開いて―――――

 

「―――――何をボケた事を抜かしとるんじゃ、この阿呆がッ・・・!!

 

ルクーゼンブル公国第七王女アイリス直々の()()にハッキリ『否』を叩きつけたのは、先程とは打って変わって()()()()を露わにする春樹であった。

この彼の表情に周囲の皆は「あ~あ・・・」と口を手で覆う。

 

「なっ・・・な、なんじゃと!!?

このルクーゼンブル公国王女のわらわをあ、あほう・・・アホじゃと?!

きっ・・・貴様、無礼であろう!!」

 

「阿呆な事を阿呆と云うて何が悪いんじゃボケ!」

 

春樹としても思わず口から出てしまった()()であったのだろう。

だが、覆水盆に返らずとも言う。

なれば、もうこのまま一気に抑え込んでいた思いの丈をぶちまけようと彼はある種の()()()()()となったのだ。

 

「初対面の時のセシリアさんを思い出してちぃとばっかし微笑ましかったが・・・そりゃおえまーがな!!

えぇか、ルクーゼンブルの()()()()()よ!

お前さんがそこな騎士さんに今命じた事は、人の心持ちを無視する越権行為じゃ!!」

 

春樹が憤ったのは、アイリスが自分を臣下にしようとする為にジブリルを使った事である。

中世やら近代初頭ならば権威向上の為、家同士の仲を深める為に()()()()()事を目的とした政略結婚は歴史上古今東西どこでもあった。

然れども今は現代である。基本的人権が叫ばれる世の中である。

 

「史書やらに刻まれる昔なら兎も角も・・・人の想いを無視して当人でもねぇ者が、勝手に人の結婚相手を決めてんじゃねぇでよ!!」

 

結婚とは、夫婦になるとは、同性異性に関わらず、お互いがお互いを想い合って愛し合って成しえる形だと春樹自身は考えていた。

勿論、彼は確かにお互いの利益の為に結婚という手段を用いた場合もある事もあるだろう理解していたが、「じゃけども!」と言えるくらいに春樹はロマンチストであったのだ。

この持論に対し、背後では「確かに」「も、もっとも過ぎる」「珍しく()()()()()()()」と同意の声がちらほらと。

 

「俺は決めたで、今決めた!

誰が何を言おうが、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク・・・俺がオメェに首を垂れる事はない!!

おどれに()()()()()()()()!!」

 

「ッ、き・・・きき、貴様ぁ・・・ッ!!」

 

「無礼すぎて言葉もない」とはこの事。

金の焔を両目から溢しながらまくし立てる春樹に対し、アイリスは顔を引きつらせて泡を喰う。

 

「お前さんもお前さんじゃ、ジブリル・エミュレール!!」

「わ、私!?」

 

「臣下であろうとも()()()ばかりじゃおえんのじゃ!

『ねい言は忠に似たり』とは言うが、諫言もはっきり物申すんが忠臣の務めじゃろうて!!」

 

歯を剥き出しにして吠える春樹にジブリルは「は、はい!」と何度も何度も小刻みに頷くのだが、その隣では目に涙をためて肩をプルプルさせる者が一人。

 

「き・・・きよ、きよせ はるき!

わらわをルクーゼンブル王家の王女と知りながら・・・こ、この不敬者めが!!

わ、わらわらが直々に・・・成敗してやる!!」

 

「お?

おぅ??

何じゃ、何じゃ?

やろうってか?

やらいでか??

自分の名前で喧嘩も出来ん分際でよー???」

 

「ちょっと春樹さん!

お待ちになってくださいまし!!」

「落ち着き下され、姫殿下!!」

「どうして僕を挟んで戦いが始まろうとするのさ!?」

 

またしても一触即発の状況に現場は陥ってしまう。

そんな周りが止めたとしてもアイリスにしても春樹にしても次にはお互いのISを展開しての戦闘になろうとした・・・その時、()()の新参者あり。

 

ズダァッン!

『『『ッ!!?』』』

 

あわや一触即発の騒然となった武道場に響き渡る一発の()()

その雷管破裂音がした方へ眼をやれば、そこにはシックな装いを身に纏った新任の非常勤講師、チェルシー・ブランケットがトップブレイク方式のリボルバー拳銃を天井高く掲げているではないか。

・・・ついぞその隣には、一応はワルキューレ部隊顧問の榊原教諭が目を白黒させている。

 

「ちょ、ちょっとブランケット先生!!」

「・・・申し訳ございません、榊原先生。

こうでもしなければ収まりつかないと思いまして」

 

「チェ、チェルシー!!」

 

太もも辺りにあるホルスターへリボルバーを収めつつ榊原教諭に深々と頭を下げるチェルシー。

その彼女達の後ろにひょっこりと扉から「えへへ」と顔を覗かせるワルキューレ部隊隊員が一人、のほほんさんこと布仏 本音が見えた。

 

「ほっ・・・間に合いました」

 

ロランツィーネが来た時点で、何かを察した彼女の姉の虚が教員達を呼びに行くように本音を遣わせたのだ。

 

「気を取り直して・・・両者ともそこまでです!

これ以上の揉め事を起こそうというのならば、対象者には反省文を求めます!!

・・・ですよね、榊原先生?」

 

「え?

え・・・えぇ、そうです!

これ以上の問題を起こそうものなら反省文だけでは足りないと思いなさい!!」

 

このチェルシーと榊原教諭の文言に対し、春樹は観念したように両掌を挙げながら溜息を一つ吐いた。

 

「しぃー、は~・・・わっかりました。

俺としてもこれ以上の面倒事は御免こうむります。

一歩間違えて国家間の問題になるとマズい」

 

「ふん!

なんだファフニールの二つ名を持つ男が、たかが教員に臆して逃げるつもりか?

この卑怯者めが!!」

 

ニヤリしたり顔のアイリスに「・・・やっぱりボコそうかな?」と奥歯を鳴らす春樹だったが、この騒動にIS学園教員を巻き込んでは母国に話が行くと踏んだジブリルはそっと自分の主人に耳打ちする。

 

「殿下、これ以上すれば母国に学園から報告が上がるかと」

 

「何を言うのじゃ、ジブリル!

わらわに対して多大なる不敬をしたこやつを見逃せというか!!」

 

「殿下・・・姫殿下は、()()()()に認められて第四世代機を所有する貴い御方。

聞くところによれば、この男は第三世代機を有する()()であります故、いつでも姫殿下の御力で()()は可能かと・・・それにここは殿下の寛容さを示す良い機会かと思います」

 

ジブリルの言葉にアイリスは不機嫌を露わにしつつ頷くとキロリ三角にした目を春樹へ向けた。

 

「清瀬 春樹よ、今日のところは引いてやろう。

じゃが・・・貴様は近いうちにわらわに泣きすがって臣下になる事を望む事になるのじゃ!!」

 

そうしてプイっと踵を返して武道場を出ていくアイリス一行だったのだが、最後に彼女の後を追うジブリルは春樹に対して首を垂れたのだった。

 

「・・・・・春樹、またしても面倒事を背負ってしまったな。

後々、絶対に面倒だぞあれは」

「・・・・・ちくせうめ」

 

ラウラの諫言に春樹は両手で自分の顔を覆ってしゃがみ込むと今になって自分の行動を悔いる。

そんな落ち込む彼の頭をラウラは撫でるのであった。

 

「・・・・・・・・ちょっと待って

僕、ほとんど空気じゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?

  • はーい!!(^^)/
  • えー!?(・_・;)
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