俺が彼女、ボーデヴィッヒさんと『織斑をズタズタにしてやろう』をコンセプトとした同盟関係を締結した数時間後。
・・・俺は酷く後悔することになった。
『第一の後悔』は、朝がすこぶる早い事。
まるで田舎のじーちゃんばーちゃんと同じくらいに彼女は早起き。ついでに俺はたたき起こされる。
『第二の後悔』は、ボーデヴィッヒさんの過酷な朝練に付き合わされる事。
朝早うから叩き起こされて、そこから軍隊仕込みの朝練を半ば強制的に付き合わされる。
そして、『第三の後悔』。正直、これが一番キツイかもしれん。
なんとこの人、夜は全裸で寝るような人じゃったようじゃ。
同盟締結後、彼女は至極当たり前のように服を其処らに脱ぎ捨ててベッドに寝よった。
いくら寮内の温度管理が行き届いている言うても、男の前で全裸で寝る言うんは頂けん。
別に俺が幼女体型に劣情を抱くような変態豚野郎な男だからと言う訳と違う。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの絞りカスの忍野 忍はアリよりアリの俺でも、流石にボーデヴィッヒさんは範囲外。
”単純に恥ずかしい”。それがたった一つのシンプルな答えじゃ。
それで、俺が何回も注意してもボーデヴィッヒさんは聞く耳を持とうとせん。
逆に注意をしている俺が、無断で酒を飲んでいる事をチクるような含みのある言い方をしやがる。
しかも、酒を飲む量も制限されてる始末じゃ。
『綺麗な顔をしているが、俺はこの娘に弱みを握られている』。
・・・どっかで見たな、このフレーズ。
「なにをしている? さっさと行くぞ、清瀬”二等兵”」
「はぁッ・・・・・朝飯ぐらい、ゆっくり食いた―――「なにか言ったか?」―――なんでもありません、”少佐殿”」
そして、今日も今日とて俺はボーデヴィッヒさんのシゴキに付き合わされる。溜息ばかりで、ゆっくりできんでよ。
・・・因みに同盟とは名ばかりで、ほぼ上官と部下との関係になっとるで。
―――――――
同盟締結後から数日たった土曜日。
ラウラのドイツ式新兵訓練マニュアルを強制的に一通り受け終えた春樹は、彼女と共にISスーツを身に纏っていた。
場所は、ISの実践練習場となっている第三アリーナ。
場内には近々行われる学年別トーナメントの為にと、彼等の他にもチラホラと見知った顔も確認できた。
「今日は漸く使い物になった貴様とIS装備した上での訓練に移る。準備はいいな?」
「・・・サー・イエッサー」
ラウラの言葉に半ば白目を向きながら返答する春樹。
この同盟を締結してからの数日間、彼が付き合わされた訓練は『基礎体力訓練』『射撃訓練』『近接戦闘訓練』の主に三種類。
射撃訓練は元々自主練をしていた為に苦ではない。
だが・・・基礎体力では、延々と続くようなランニングと筋トレ。近接戦闘では、ラウラとのナイフ格闘に軍隊式組手をやらされた。
この間まで一般人だった春樹には結構こたえている。
「・・・ん?」
そんな訓練を終え、さてこれからISの模擬戦闘を始めようかとした・・・その時。
ラウラの赤い瞳にある人物達がうつる。
「お、ありゃセシリアさんと凰さんじゃ」
春樹が彼女の目線を追えば、その先にいたのは専用機に身を包んだセシリアと鈴の姿があった。
「・・・清瀬二等兵、ここで待機していろ。野暮用を思い出した」
「え? あぁ・・・はい」
二人の姿を確認したラウラは春樹にそう言うと、自らの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』を身に纏い、近づいて行った。
この時、春樹は「専用機持ちがいたから、挨拶でもするのかな」ぐらいにしか思っていなかった。
・・・ジャキリッとラウラが彼女達にレールガンの砲口を向けるまでは。
「ちょッ、っちょっと待てや!!?」
春樹はラウラに慌てて近づき、構えたレールガンの砲口を下に向ける。
対するラウラは、彼の行動に「どういうつもりだ?」と不機嫌そうに眉をひそめた。
「どういうつもりも、こーいうつもりもないですだよッ! 何をしょーるんですか、少佐殿?!」
「イギリスと中国の専用機の情報収集だ。端末上のデータだけでは戦闘には足りないのでな」
「いやいやいや・・・情報収集で奇襲を仕掛けようとせんでください。もっとこう・・・他にあるでしょう。模擬戦闘の相手を頼むとか、色々」
「何故、敵である相手に態々頼み込むような事をせねばならんのだ? それに、こうした方が敵の素がわかる」
「そ・・・そうでしょうけどねぇ・・・ッ!」
「あら、春樹さんじゃありませんこと?」
あまりに淀みないラウラの言葉に口籠もっていると。二人の存在に気付いたのか、セシリアが春樹に声をかけて来た。
「そこのドイツ人は兎も角・・・清瀬がISの練習なんて珍しいじゃない」
鈴も声をかけるが、彼女はラウラに対してあまり良いとは言えない目線を送る。
その鈴の視線に気づいたラウラがなんだとばかりに口を開こうとしたが、すかさず春樹が二人の間に入った。
「あぁ、ちょっとね。今度の学年別トーナメントで、少佐殿・・・ボーデヴィッヒさんとペアを組むことになったんでのぉ。その練習じゃ」
「そうなんですの。なら、もしかしたら私と鈴さんのペアと当たる事になりますね」
「あ? セシリアさん、凰さんとペアを組むんか? それまたどうして?・・・もしかして、”例の噂”で?」
春樹の言った”例の噂”と言うのは、『学年別トーナメントで優勝した者は、織斑 一夏と恋仲になれる』と言ったものだった。
しかし、本当は箒が一夏に対して一大決心で言った『優勝したら、付き合ってくれ!』という言葉がソースだ。
それを誰かが面白可笑しく捻じ曲げた内容が上記だ。
「はい。どうやら、鈴さんは私となら優勝を狙えると」
「ちょっと、セシリア! 余計な事言わないでよッ!」
セシリアの言葉に顔を朱鷺色に染める鈴。
対するセシリアは「ごめんあそばせ」と悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「・・・なるほど、随分と自信があるようじゃのぉ」
「ええ、勿論。それに・・・春樹さん、あなたとはちゃんとした決着を私は望んでいますので」
いつになく真剣な表情で春樹に語り掛けるセシリア。彼女としては、彼との本当の意味でのクラス代表戦での決着を望んでいたのだ。
春樹は「あぁ、そうじゃのぉ」と少し困ったような苦笑いを浮かべたが。
「くだらん。あのような出来損ない風情にこだわるとは・・・大した事はないな」
「・・・なんですってッ?」
会話の内容に対して、そう酷く言葉を吐き捨てるラウラ。
勿論、この言葉に鈴は酷く眉をひそめて反応した。
「言葉の通りだ。あのような種馬風情のどこが良いのだが」
「ぶッ!? た・・・種馬て・・・!」
「何、やるってわけ? 前の時は許してやったけど・・・わざわざ私にボコられたいって訳? とんだマゾっぷりねアンタ」
「たね、種馬て・・・ククク・・・!」
「当然の事を言ったまでだ。種馬風情の出来損ないに一体何が出来ると言うのだ。所詮は汚点でしかない」
「阿破、阿破破・・・た、たねうま・・・阿破破破ッ・・・!!」
「今なんて言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたんだけど? っていうか・・・アンタはなに笑ってんのよ、清瀬!!」
ツッコミを入れた先には口を抑えて身悶える春樹がおり、今にも立ちくらんで転びそうになっていた。
「だ、だって・・・阿破破・・・たね、種馬て。破破破ッ・・・すげー的を射た、阿破破破・・・ッ!!」
「喋るか、笑うかどっちかにしなさいよ!!」
「ほんじゃあ、笑う。阿破破破破破ッ、阿ーッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
余程ラウラの言った事がツボに入ったのか。ついに抑えられなくなった春樹は大口を開けて豪快に笑い声を轟かせる。
何時か廊下で一夏を笑ったように無遠慮にゲラゲラと笑い転げた。
これにセシリアは「ヤレヤレ」と言わんばかりに片手で顔を覆い、ラウラは何故だか「フンスッ」と胸を張った。
「こ・・・このッ!!」
「ちょッ、鈴さん!!?」
最初は呆気に取られて唖然としていた鈴だったが、段々と怒りと謎の気恥ずかしさが沸々と湧き出し、春樹に向かって『甲龍』の両肩が開いた。
その肩に搭載されているのは、第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲『龍咆』。
ズオオンッ!と肩から不可視の弾丸が飛び出る。
勿論、威力は最小限に抑えているだろうが、喰らえば一溜まりはない事は確かだ。
しかし・・・。
「ッ!?」
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」
笑い転げる彼の前にラウラが立ち塞がり、彼に届くはずだった不可視の弾丸を完全に打ち消してしまった。
これには衝撃砲を撃った鈴本人と近くにいたセシリアも吃驚した。
「済んだか? ならば、今度は此方の番だ!」
「ッ!!」
「ちょいとお待ちくださいな、少佐殿!」
衝撃砲を打ち消し、鈴へレールガンを向けるラウラを再び静止する春樹。
未だ腹を抱えているが、眼は真剣そのものだった。
「なんだ二等兵ッ、邪魔立てするか?」
「まさか。ですが、少佐殿・・・」
「?」
ラウラの耳に自分の口を近づけ、春樹はなにやらコソコソと囁き始める。
「(今の騒ぎを聞きつけて、何処かの愚図がどうやら教員に連絡を取っている様です。このパターンだと、織斑先生がやってくるので・・・さっさとお暇しましょう。少佐殿も織斑先生に怒られたくはないでしょう?」
「ッ! ッチ、興ざめだ。行くぞ、清瀬二等兵」
春樹の囁きで舌打ちと共に武装を収納し、二人に背を向けるラウラ。
「悪かったのぉ凰さん、君の想い人を酷く笑ってしもうてよ」
「べ・・・別にいいのよ。・・・って、別に一夏が想い人とかじゃないしッ!!」
「・・・鈴さん、誰も一夏さんの話はしていませんわ」
「なッ・・・!!?」
セシリアの言葉に増々に顔を真っ赤にする鈴。
「いらんツンデレ乙」と春樹はケラケラ軽快に笑い声を響かせる。
「阿破破ノ破! じゃが・・・ええ機会じゃ。この際、鈴さんには言うとこう」
「な、なによ?」
戸惑う鈴を覗くように春樹は顔を近づけると満面の笑みでこう言い放った。
「俺、もしかしなくても織斑の野郎が大嫌いなんじゃ」
「え・・・・・」
「じゃあの。精々、他のヒロインに負けんように気ぃつけんさいよ」
「阿破破破ッ!!」と二人に背を向けながら手を振る春樹。
残された鈴は唖然とし、セシリアは再び頭を抱えるのだった。
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆