「・・・・・なんじゃこれは?」
ルクーゼンブルク公国第七王女、アイリス・トワイラト・ルクーゼンブルクは見目愛らしい両の目をパチクリさせて疑問符を浮かべる。
第三アリーナにて行われている二人の生徒によるISを使った本格的模擬戦闘試合。
アイリスはその試合の出場者の一人、ヴァイオレット・ファフニールの二つ名を有する二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹を目当てに訪れていた。
アイリスは春樹とのファーストコンタクトをした時、自分の
アイリスは自分が王族出身者であるにも関わらず物怖じしないどころか、ありありと不遜な態度と言動を放つ春樹に対して憤りを覚えた。
しかし、彼女の人生において今まで出会った事のなかった男であった為か、その憤りは興味へと移行したのである。
・・・早い話、春樹は『おもしれー男』認定されてしまったのだ。
それからもアイリスは何とか彼を自分の臣下にしようと勧誘活動を行ったのであるが、春樹は『次世代型量産IS計画』に参加していた為、公私にわたって忙しさを募らせていた。
しかも春樹は自分の主治医からNTと称される第六感を駆使して彼女と面と向かって相対する事を徹底的に避けたのである。
そんなクラスメイトなのに会いたいのに会えない男が、中国代表候補生の同じクラスメイトと
こんな面白いイベントを逃すアイリスではない。
早速、その模擬戦闘試合と言う名の決闘を観覧しに来たのだが―――――
「―――いったい・・・いったい、なにがどうなっておる?」
試合開始を伝えるブザー音後、両者は激しい火花を散らせたのであるが・・・それが、あまりにも
これは春樹の有する専用機、琥珀が通常状態速度で平均的トップスピード以上の速度を出す事が可能であり、尚且つ対戦相手の凰 鈴音も自らの専用機に高速機動パッケージを追加使用していた為だ。
加えてアイリスとて専用機、それも第四世代を有するISパイロットではあるものの、幾分と戦闘に対する
・・・兎にも角にも彼女には両者の戦闘は、紫色と赤黒い光の塊が何度も衝突している様にしか見えなかったのである。
これは彼女と同じ様に試合を観覧していた一般生徒達も同様で、ある程度の戦闘経験を積んでいない者達にしか二人のハイレベルな戦闘を認識するに至らなかった。
おかげで、認識できる者と認識できない者とである程度の熱量の差が生じたのだが、そこは認識できないと恥ずかしいと云う無言の同調圧力によって
「むぅ・・・のぉ、ジブリル。
今はいったいどちらが―――――」
フィールドで繰り広げられる
ここで「した」と云う過去形になってしまったのは、語り掛けたジブリルの表情を見て言い淀んだ為だ。
「なんて・・・なんて、男・・・!」
アイリスから見て彼女は
このジブリルなる人物、ただの護衛騎士ではない。
彼女はルクーゼンブルク公国近衛騎士団
特に今や世界最強の
そんな彼女から見て、映像媒体ではない生で見るISを駆る春樹は、どう目に映ったであろうか。
「・・・・・ジブリル!」
「ッ、は・・・はい!?
何でしょうか、
「ずいぶん・・・ずいぶんとあの男に魅入られておったな?」
「そ、そんな事は!
ゴホンッ・・・私はただ、学生の身分でありながらあの様な無茶な操縦が出来ると感心したまでの事・・・決して、あの無礼者に魅入られたなどとは!」
「ほう・・・そうなのか?
わらわは、お前のお眼鏡に叶ったと思ったのだがな?」
ニヤニヤと笑みをこぼすアイリスにジブリルは目を三角にして「違います!」と叫ぶ。
・・・しかし、これは春樹を語るには序の口である事を二人はまだ知らない。
「な・・・なに?」
鈴は自分の身体へゾワッと悪寒が奔るのを実感した。
春樹との戦闘で心も体も熱くなっているにも関わらず、背中へアイスプレートを当て付けられたかの様な不快さに彼女は戸惑う。
何故にそんな嫌な気分を味わったのか。
それは先程ドロップキックと高電圧による電撃を喰らわせて墜落させた筈の小憎たらしい男を見たからだ。
「コォォオオオ・・・ッ」
地面へ思いっきり地面へ叩き付けられた筈の紫に彩られた鎧武者は、何事もなかった様に飛び起きるとカチカチ歯を鳴らしながら自分に付いた土埃を掃うと一つ深呼吸をした。
宙に浮かぶ鈴には聞こえるか聞こえないかの呟きを放った瞬間、身体へ纏われていた重装甲板が弾け飛ぶ。
さすれば、紺よりも更に濃い黒色に見える程の暗い藍色・・・
「阿ぁッ・・・気分がええ。
久々じゃけん調整した筈なんじゃけどなぁ・・・ええ気分じゃわぁ。
透明って、こんな感じかなぁ?」
最早、そこに居たのは鎧武者ではなく、
そんな変貌を遂げた鎧武者・・・春樹は時計回りに一回転させると自分の斜め上で自分を見下ろす鈴へ目をやる。
金色の焔が零れる四つの瞳が彼女へ注がれる。
「阿”ぁ”あ”あ”ア”ア”ア”―――ッ!!」
『『『―――――ッ!!?』』』
瞬間、春樹の
観客席に居た生徒達の鼓膜をつんざく程の大音量。
無論、彼の近くに居た鈴にとっては堪ったものではない為、思わず両の耳を塞いでしまった。
・・・その刹那が隙となってしまう。
「ヴぇろぅあ”ァア”ア”ッ!!」
「ッ!?」
地面の上で自分を見上げていた筈の春樹が、ほんの瞬きの間に自分の目の前へ現れた。
しかもその振り上げた彼の腕には、胸のクリスタルと同じ様に光り輝くレーザーブレードが展開されているではないか。
ザビィインッ!
「きゃぁああっ!!?」
振り下ろされたレーザーブレードの斬れ味たるや抜群で、鈴が反射的防御で前に出した連結された双天牙月を真っ二つにしてしまう程だ。
それでも彼女は瞬時に反撃せんとバックステップする様にスラスターを逆噴射するのだが・・・そうは問屋が卸さない。
「えッ、ちょっと・・・!?」
ギュッ・・・と、鈴の細いウエストに先が三又になっている尾っぽがぐるりと巻き付く。
然らば、身動きが止まってしまった彼女に向かって春樹は自分の両腕を
「ッ、ちょっと待―――――」
「―――『晴天極夜』!!」
ビャァアア―――――ッ!!
「―――きゃぁあああああッ!!?」
琥珀の必殺単一能力が腕から発射された赤い稲妻が鈴へと直撃。
試合の為に調整して大幅に威力を落としているとは言えどもその衝撃力は絶大だ。
小柄な彼女の身体など、ラケットに弾かれたテニスボールの如くアリーナ壁へ向かって吹き飛ばされてしまう。
「こっっっ・・・のぉ!」
だが、
身体へ圧し掛かる重みに歯を食い縛りながらも態勢を立て直して衝突をギリギリ回避する事に成功。
「うばっしゃぁあああああッ!!」
「ッ、いいぃ!?」
ザギィイン!
けれども春樹はそれを読んでいたのか、瞬時加速と共にレーザーブレードで斬りかかって来る。
この斬撃を持ち前の反射神経で再び回避するのだが、鈴の代わりに斬られたアリーナ壁は大きく抉られてしまった。
その損壊を横目に彼女は大きく両肩を震わせて春樹との距離をとる。
「ハァッ・・・ハァ・・・ハァ・・・ッ!
は、春樹っ・・・この・・・・・アンタ、私を殺す気・・・!?」
今の春樹からの攻撃は明らかに
全てのISにはパイロットの死亡を防ぐ絶対防御が備わっているとは言え、攻撃が通ってもパイロットの生命に別状ない時にはこの能力は使用されない場合がある為、筋肉断裂や骨折などは十分にあり得る。
そして、出力が抑えられているとは言っても必殺の一撃に変わりない単一能力『晴天極夜』を真面に受けてしまった鈴が先程のレーザーブレード斬撃を喰らえば、確実に骨の二本か三本は
そんな冷たい汗をかく彼女に春樹はニカッと
「阿破破破!
おいおいおい、殺す・・・殺すじゃと?
ちょっと・・・・・そりゃあかなり
「・・・は?」
「鈴さん、君はさっき俺に本気出してみぃみたいな感じで言って来たがん。
じゃけぇ、俺は君の言うた通りにちょこっと本気を出して上げたんよ?
それなんに・・・俺の実力に
「俺ちゃん、とっても悲しい」と春樹はあからさまな溜息を吐きつつ肩を落とす。
その
「このッ・・・上等じゃないの!
その減らず口、今すぐ出せなくさせてあげる!!」
そして、青龍刀を二刀流で構えると共に春樹との距離を詰める為に身構えた鈴。
しかし、そんな彼女に向けて春樹は
「ッ、ひ・・・!?」
すると反射的に鈴はこれから自分の身に降りかかるであろう攻撃射線上からバックステップで回避行動をとる。
だが・・・
「・・・阿破ッ!
阿破破破ッ、阿―――ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
「・・・・・え?」
十字に組んだ腕から一撃必殺の光線が放たれる事はなく、その代わりに春樹の
琥珀の単一能力である晴天極夜は、かの有名な初代ウルトラマンの必殺技たるスペシウム光線の構えで発射されるものだ。
それも他の光線技と違って
その為に僅かな予備動作である腕を十字に組む行為を視認した鈴の回避行動は間違ってはいない。
間違ってはいないのだが・・・
「阿破破!
破比破比比ィーッ!
ちょっとちょっと鈴さんよぉッ!
ちょっとビビり過ぎじゃないの!!
阿―――ッ破破破破破!!」
晴天極夜の威力を知っている鈴の
指をさして、腹を抱えて大いに大いに無遠慮に大口を開けてここぞとばかりの大声で嘲笑う。
「こっ・・・この・・・!!」
勿論、この嘲笑に憤る鈴だったが、ここで直情的となって安易に春樹へ近づいてしまえば、再び
それも先程よりも出力を大幅に上げた正真正銘の必殺技で
近接武装を主としている鈴にはあまりにも分が悪い。
こんな事なら高機動パッケージよりも機能増幅パッケージを使えばよかったと今になって後悔する。
けれども一撃
付け入る隙は必ずある筈なのだ。
「・・・近づいてあげようか?」
「な・・・何ですって?」
「今の鈴さんってば、俺にどうやって近づいてやろうかなって顔してたからよぉ・・・近づいてやろうかって提案してんのよ?
どねーなよ?」
舐めている。
明らかに相手を舐め腐った態度と発言に増々青筋を浮かべる鈴だったが、ここは冷静になって春樹の
鈴は
それ故に春樹が自分以上の力を有している事を少しばかり解っている
「・・・そうね。
今すぐその顔面にグーパン喰らわせてあげるから・・・今すぐこっちに来なさいよ!」
「応とも!
そう来なくっちゃなぁ!」
苛立ちを募らせる鈴に春樹は快い二つ返事をするのであったが、その後の行動がどうも様子がおかしい。
彼は伸びの運動をしたかと思えば、まるでプールに飛び込む様な格好をしたのである。
そして、その恰好のまま空間の中へドプーンッと
「えッ、ちょっと!!?」
水の中へ飛び込んだ様に何もない空間へ
「あ、あれは空間潜行!?」
その人物とは、以前第三世代型ISダイヴ・トゥ・ブルーを有していたチェルシー・ブランケットである。
そして彼女の驚きは勿論の事で、春樹が使用した空間潜行能力『空間潜行』は元々ダイヴ・トゥ・ブルーの単一使用能力であったからだ。
「いったいどうして・・・どうやってあの能力を!!」
そんな目を見開いて動揺するチェルシーの横で、彼女の主人であるセシリアも「どういう事ですの!?」と目を見開く。
これは専用機を所有しているパイロットのみならず、ISの特性を知る者達にとって驚くべき光景であった。
単一仕様能力はISがパイロットと最高状態の相性になったときに自然発生する特殊固有能力なのであるが、その
そして、今や周知である春樹の駆るIS琥珀の単一能力は『晴天極夜』・・・にも関わらず、彼は現在進行形で他ISの単一能力を使っている。
何故にこんな事を可能としているのか。
皆の疑問は尽きないが、アリーナ上で戦火を交える鈴にはそれどころではない。
「春樹!
いったいどこに・・・!?」
一方の鈴は空間へ沈む様に姿を消してしまった春樹を探す。
目視でもハイパーセンサーでも使って辺りをくまなく探知する。
ところが彼の姿はおろか機体反応さえも捉える事はままならなかった。
「―――――デ~デン♪」
「!?」
突然周囲から口伝えの音楽が聞こえて来る。
口遊さまれる曲名はサメ映画の金字塔と名高い『ジョーズ』のメインテーマ。
「デ~デン♪
デ~デンデ~デン♪」
大海原でないが、空間を海中の如く潜む獰猛な捕食者を騙る春樹のこの嘲笑を混じらせた幼稚な行動は鈴の神経を逆なでるには十分。
「こんのっ・・・!
舐めんじゃないわよ!!」
ズドンッ!
高速機動パッケージを使っている主武装たる衝撃砲は出力の落ちた近距離用拡散弾となっているが、ハイパーセンサーでも捉えきれない標的を近づけまいと弾幕を張る分には効果的だ。
しかし、傍から見れば癇癪を起した幼女の様で微笑ましい。
「破破ッ!
愉快、愉快じゃ、愉快じゃのう!
考えはええんじゃが、ノーコンなんがおえんのぉ!」
「うるっっさい!!
いい加減、とっとと出てきなさいよ!!」
周囲から聞こえて来る嘲りに業を煮やす鈴。
その金切り声に応えたのか、ピコーンとハイパーセンサーから反応を捉えた音が発せられる。
「ッ、そこォ!!」
鈴はすかさず反応があった方向へ青龍刀を投擲。
さすればレーザービームの様に
「・・・はい、残念!」
「っ!!?」
ところがそこに春樹の姿はない。
彼はヌルリ鈴の背後に現れ出でると彼女の肩をガッシリ掴んで耳元で囁く。
これに鈴は顔歪めて春樹との距離を取ろうとしたのだが、またしても本当に五臓六腑が納まっているのかと疑いたくなる彼女の細いウエストへグルリ尾っぽが巻き付いた。
然れども先程とは違い、春樹は引き絞った腕を思いっきり振り抜く。
「清瀬流対決術悪一文字式・・・『二重の極み』!!」
ドッゴン!!
「うッゲぶ!?」
放たれた
「ゲッふ・・・ゲほ・・・ッ!!」
胸を押さえて咳込んでのた打ち回る鈴。
どうも打撃は装甲を越えて骨まで達している様で、すぐに立ち上がる事はままならない。
それでもやっと体を起こし、目線を上げた。
「―――――ありゃ、大丈夫かい?」
「ッ、は・・・春樹・・・!
この・・・!!」
けれども目線の先には、下卑た笑みを浮かべる金眼四ツ目が自分を見下ろしているではないか。
この時、鈴には主に二つの選択肢があった。
一つはバーニアを噴射させて春樹との距離を速やかにとる事。
もう一つは―――――
「―――阿ん?」
「喰らいなさい!!」
春樹の足甲へ大ぶりな鎖がジャラリと巻き付く。
その鎖は彼に痛手を負わせる事が出来た高電圧を発するボルテック・チェーン。
さすれば相手を痺れさせる電撃がバリバリバリバリッ!!と足元から春樹の身体を駆け巡る。
「どうよ!!」
相手を再起不能に追い詰める事には出来なくともかなりの深手を負わせる事は出来たであろうと鈴は思った。
しかし・・・それは相手が
「オォッ・・・びりッと来たでよ!」
「え・・・」
並みのISならば真面に喰らえば大ダメージどころか下手すれば再起不能になってしまう電撃を浴びて尚、春樹は平気な顔をして首と肩を回す。
まるで電撃の御蔭で首コリ肩こりがほぐされたとでも言いたげなスッキリした表情だ。
そんな風に
「ぎゃふッ!?」
路傍の石でも蹴られてあそこまで跳ね上がらない程に蹴り飛ばされた鈴はまたしても地面に打ち付けられてしまう。
この光景に観客席からは悲鳴が上がるが、誰がこれを止められようか。
「―――鈴お姉ちゃん!」
凄惨な状況に凰 乱音は立ち上がる。
だが、これを止める者がいた。
「何をしようと言うのですか?」
動揺から正気を戻したセシリア・オルコットは彼女の肩に手を置く。
その隣ではチェルシー・ブランケットもキロリ目を三角にして臨戦態勢をとる。
「まさか、鈴さんに助太刀しようなんて考えている訳ではありませんでしょうね?」
「で、でも!!」
「乱音さん・・・貴女もヴァルキリー・アプレンティスの時、横槍を入れられて憤慨した筈です。
なら・・・鈴さんも同じ筈ではないでしょうか?
これは鈴さんと春樹さんの決闘です。
それを忘れてはなりませんわよ」
そうセシリアに諭された乱音は下唇を噛んでガックリ肩を落とす勢いで着席する。
何もできない無力感が彼女に纏わりつくが、それはこの場に居る誰も彼もであった。
「破ッ破ーッ!
どうした?
どうしたどうしたどうしたよ、凰 鈴音?
こんなもんか、こんなもんかよ??
がんばれ、ガンバレ、頑張れよぉ。
こんなもんじゃなかろうが?
もっと・・・もっと楽しもうやぁ!」
奇天烈な笑い声を上げながら春樹はゆっくり打ちのめされた鈴へと歩み寄る。
その両手には丸鋸の刃の様に高速回転する光輪が展開されていた。
見るものからすれば、それは処刑斧を構えた執行人の様にも見えた事だろう。
「はぁ・・・はぁっ・・・!
(・・・・・なんで・・・なんで、あたし・・・こんなことしてるんだっけ?)」
一方、軽い脳震盪に陥っているのか、うつ伏せ状態の朦朧とする意識の中で鈴はボーっと自問する。
絶対防御の御蔭で命に関わる外傷は受けてはいないが、全身の骨が軋むのが手に取る様にわかっていた。
一体どうしてこんな状況に自分は陥っているのかと彼女は自問する。
「(あたし・・・あたし、いちかがすき・・・
でも・・・すなおになれなくて・・・・・いちかにひどいことしちゃった)」
鈴は今まで片思いを抱いでいた織斑 一夏に対する自らの行いを冷静に客観視した。
確かに彼女が慕った男は
けれどもそんな相手に対して自分は正々堂々勝負を仕掛ける事なく、相手が察する事を待っていた。
そして、自分が気に入らなければ相手へ手を上げていたのである。
「(とうぜん・・・とうぜんよね。
よくよくおもったら・・・あたし、さいあくじゃないの・・・!)」
・・・けれど。
けれども―――――
「(だけど・・・だけど・・・ッ!)」
「・・・阿?」
鈴はヨロヨロふらつきながらも手元に残った青龍刀を杖にして立ち上がる。
満身創痍で肩で息をする土埃で汚れた機体を起こして前を向く。
「が・・・がんばれ・・・!」
「頑張って、凰さん!」
「そんなやつやっちゃえ!!」
鈴の見せるガッツに観客席からは彼女に対するエールが徐々に徐々に確実に大きく発せられる。
最早、そこに鈴を哀れむ声も見下す態度もありはしなかった。
「あたしの
「破ッ!
そうこなくっちゃ!!」
機体の装甲は至る所ベコベコで、少しでも突っつけば倒れてしまうのではないかと言うくらいに足元をふらつかせる鈴は手元に残った一振りの青龍刀を構える。
これに春樹は嬉々として
「あっ・・・あれって・・・!!」
乱音は再び目を見開いて切羽詰まった表情を晒す。
それもその筈か。春樹の手元に収められていたのは、ヴァルキリー・アプレンティスで自らを敗退に追い込んだ黒雷の
そんな得物がバチバチ不穏に嘶いて、敬愛する従姉へ切っ先刃が向けられている。
しかし、彼女の足が咄嗟に動く事はなかった。
「ガルルルルッ!」
・・・気圧されてしまっていた。
何とも形容しがたい
人間の・・・生物の防衛本能が拒否反応を示したのだ。
「ッ・・・怖い・・・あいつ、こわいよ」
「―――そうだ。
よく見ておけ」
「え・・・?」
「あれが、春樹・・・清瀬 春樹という男だ」
恐怖する乱音に語り掛けられる声。
それに反応した彼女が振り返れば、そこには目を爛々とさせて口端を吊り上げるラウラ・ボーデヴィッヒ。
その隣にはシャルロット・デュノアが恍惚の口元を何とか手で覆っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・っ!
さぁ・・・来なさい!!」
「ほいじゃあ・・・行くで?」
呼吸を忘れて皆が息を吞む中、春樹は黒雷の方天戟を構えれば、全身から怪物の唸り声の如き稲光が奔る。
そして―――――
「清瀬流対決術、龍式―――――『雷竜方天戟』!!」
『紫電一閃』なる言葉がある。
そんな言葉を体現するかの様に春樹は自らの姿を稲妻と変貌させた。
瞬時加速など
「・・・・・あぁ・・・悔しいわね」
迫り来る金眼四ツ目に鈴は呟く。
決闘をやる以前より、彼女は薄々だが春樹との実力差を
だが、理解する事と実感する事は似て非なるものだ。
対峙して、実際に手合わせして解るものもある。
「綺麗・・・本当に綺麗ね。
けど・・・・・だけど・・・だけどね!!」
『
『
彼女は諦めていなかった。
実力差を理解しているからどうした?
相手の方が自分より強いから何だと言うのだ!
この男においそれと勝利を譲る程、凰 鈴音と云う女は甘くはないのだ!!
「
ガキャァアン!
「―――ッぎぃい・・・!?」
青龍刀でもって突き出された方天戟を撥ね退けようとするも仕損じてしまい、衝撃波によって今日何度目かの
されども刃弾かれた青龍刀を彼女は放さない。
脳震盪が先程よりも酷くなって意識を失いそうになるが、それでも鈴の闘争心が冷える事はなかった。
「阿破ッ・・・阿破破破!
阿―――ッ破ッ破ッ破ッ破!!」
彼はそれが嬉しくて嬉しくて堪らない。
そんなハイテンションになってしまった春樹は方天戟を解除し、そのエネルギーを拳に纏わせる。
「清瀬流対決術、龍式『戦竜の拳骨』・・・!」
春樹は生肉を前にした飢えた肉食獣の様にヨダレを垂らして駆けた。
頭蓋骨を砕きたいと、顎を穿ちたいと、狂暴な本能を剝き出しにして満身創痍の少女へ襲い掛かる。
そして、これから起こる惨劇に目を覆う者も居た、悲痛な叫びを上げる者も居た。
けれども悲鳴の中から一際大きな声が観客席を飛び出してアリーナ場内へと駆け込めば、あろう事か
無論、皆の視線は決闘に割り込んだ
その男は、まるで墓の下から這い出たかの様な顔色の悪い酷く痩せていた。
がくがく生まれたての小鹿の様に足を震わせて立っていた。
されど、その目は決意に満ち満ちていた。
背後で意識を朦朧とさせる少女を何が何でも絶対に
「・・・・・阿”?」
勿論、突然の
それもそうだ。折角の
だが、それでもこの重病人の風貌をした男は決して引く事はなく、案山子の様な細い手足で怪物に立ち向かう。
・・・息を呑む音が聞こえた。
一秒かも二秒かも解らぬ僅かな静けさが周囲を包み込む。
その短い時間の中で、鈴は少しばかり意識を取り戻す。
そして、傷んでへたり込んだ自分の前へ立つ男を一目見て彼女はか細く呟いた。
「―――――・・・・・爸爸・・・?」
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?
-
はーい!!(^^)/
-
えー!?(・_・;)