―――簡単な仕事だと聞いていた。
あの
当然だが、周りから聞こえて来る日本語や音に懐かしさが込み上げて、
だが、そんなセンチメンタルに浸る間もなく俺はあの男が引き連れていた
・・・こいつらの目的はいったい何なのか、俺には解らない。
自国の病院でも受けた事がない専門的な精密検査に用意された宿泊先はテレビのバラエティ番組でも紹介された一流ホテル。
ほとんど死に体の俺にはこれ以上にないって程の贅沢な一時だった。
そんな短いながらも金持ちの優雅な時間を味わった後、俺はあの胡散臭い男にある場所へ赴くように指示された。
・・・その時、俺は
だって指定された場所は、
何故ならあそこには・・・あの学校には―――――
―――・・・あの男の仲間からIS学園への招待パスを受け取った俺は指示通り学園に入った。
超高額治療と引き換えに与えられた俺の
それも
出場選手の試合を妨害するだとか、試合を観戦しに来た何処かのお偉いさんの
学生が作ったポップコーンとレモネードを手に大人しく試合を見るだけ。
いったいどんな
そんな不安と得体の知れない恐怖が俺にのしかかった時、俺はハッとなる。
「ッり、鈴音・・・!!」
試合会場へ通じる出場口から出て来たのは・・・今生の別れをした筈の
ゴクリッ・・・酷く嫌に馬鹿に静かになったアリーナ会場へ誰かの唾を飲み込む音が木魂した様に思えた。
そんな静寂を作り出したのは、親善試合という名の
「グゥる”る”る”る”る”ッ・・・!!」
一人は上下の
荘厳な金眼四ツ目の面貌のせいで素顔を見る事は叶わぬが、誰も彼もがどう見ても不機嫌である事は明確。
まるで
しかもバリバリと勝色の鱗に覆われた全身に赤黒い電が奔っている。
そんな
・・・然れども乱入者と云うとヴァルキリー・アプレンティス大会準々決勝において試合に割り込んで来たロランツィーネ・ローランディフィルネィの様な
「はぁ・・・はァ・・・ハぁ・・・!!」
今回の横槍を入れた人物は特注専用ISを駆る国家代表候補生でもなければ、国際過激派テロリストでもなければ、正体不明の無人IS機体でもない。
その乱入者は青色吐息で突っつけば今にも血を吹いて倒れるのではないかという
そんなゾンビ顔の中年男が、あろう事かIS学園一・・・いや、下手をすれば世界一残忍冷酷狂暴な人の皮をかぶった
この状況にようやっと頭へ理解が追いついた者達はゾッと血の気が顔から引く感覚を味わう事となる。
「っ・・・緊急事態発生!!」
実況席と化した管制室に座していた
相手は敵と判断した者の耳鼻生皮を躊躇いも容赦もなく剥ぐ様な男だ。
判断を迷えばスプラッターな状況が発生する可能性は大いにある。
今は乱入者の素性などはどうでもいい。それどころか、この乱入者を
・・・ところがどっこい―――――
緊迫によって静寂に飲み込まれた現場へ響き渡る
その声を耳にした者は、機械を通していたとしても心臓を鷲掴みにされた様な恐怖を味わう。
・・・勿論、こんな芸当が出来る者は一人しかいない。
「・・・・・何者ぞ?」
大蟒蛇・・・春樹は首を傾げて疑問符を投げかける。
何ともない何気ない試合に横槍を入れて来た相手に対する当然の
しかし、そのハテナを問いかけられた方は堪ったものではない。
タラーリタラリ脂汗に冷や汗が額と背中を伝って生きた心地がしなかったが、挫けず負けじと中年男は声を張る。
「お・・・俺は・・・俺は、劉 楽音。
鈴音・・・凰 鈴音の父親だ!!」
中年男、劉 楽音は病魔に蝕まれて弱り果てた体に鞭を打ち
その背後から彼を『爸爸》』と呼ぶか細い声が声が聞こえて来るが、振り返る事など出来ない。
目をそらせば、確実に
「りゅう がくいん・・・?
凰 鈴音の父親?
ツーか、だいたい名字が違うじゃあないか?
どういうこった?」
「そ、それは・・・!」
「まぁいいさ・・・・・退けよ」
トドメを刺す為に春樹は拳骨を固くして稲妻を纏わせると先程よりも
息が詰まる。まるで氷水の中に落とされた様だ。
楽音とてこれまで生きて来た中で危ない目や修羅場に遭遇した事もあったが、こんな事は経験した事がない。
おかげで意識が朦朧として来る。
「ッ・・・い・・・いやだ・・・!
そんな事・・・聞く訳には、いかん・・・!!」
「・・・何?」
「お前を・・・娘に近づけさせる訳にはいかない!」
それでも頑として楽音は退かなかった。
ガクガク震える足を踏みしめて、ガチガチ鳴る奥歯を嚙み締めて、彼は立ち塞がる。
ゾンビの顔色でありながら活きた眼を差し向けて、愛娘を護らんと立ち向かう。
そんな
「―――――
「・・・阿ッ?」
張り詰めた空気を切り裂く馬鹿によく響く声。
しかし、先程とは違ってそれは
またしても現場へ響き渡った声に春樹が仮面の下で訝し気に眉を顰める一方、楽音の方は声を発したであろう人物の顔を一目見て目を見開く。
「っ・・・ふぁ、『花音』!?」
「ふぁいん?
今度は誰よ?」
驚きの声も疑問符も他所に花音と呼ばれた女は、楽音の背に守られた仰向けの鈴音へ駆け寄る。
よくよく見れば、その女は鈴の面影があるではないか。
「鈴!
鈴音!!
しっかりしなさい!!」
「え・・・えっ・・・?
ま・・・媽媽・・・!?」
うすぼんやりと目を開けた鈴は、自分を抱き寄せようとする女を見て父親と同じ様に驚きの声を上げた。
「・・・話の展開から察するに易いが・・・・・お姉さんは、どちらさんで?」
「黙りなさい、この怪物!
私は、凰 花音!
この娘の
一時の母とは思えぬ美丈夫の登場に一同はあっと驚き騒然となるが、啖呵を喫られた春樹は一瞬ばかり
どうやら彼女も
だが、今はそれどころではない。
「花音、どうしてお前がここに・・・!?」
「あなたこそどうしてここにいるのよ!!
私達に行先も伝えないで、離婚届だけ置いて・・・!
私がどれだけ探したと思ってるの?!」
「そ、それは・・・・・俺はお前と鈴音の為を思って!」
「何が私と鈴音の為よ!
あなたっていつもそうよね!!」
「ちょ・・・ちょっとパパ、ママ・・・!」
突如として試合に乗り込んで来た乱入者達が始めた喧嘩・・・元夫婦喧嘩に対し、現場に変な空気が醸し出される。
対して鈴は衆人環視の前で行われる両親の喧嘩に気恥ずかしさいっぱいで顔を赤くするが、戦闘ダメージのせいで体が言う事を利かない為、今は甘んじて懐かしい二人の喧嘩を眺めるばかり。
・・・けれどもここで当事者の一人が口をへの字に牙を鳴らす。
「・・・・・ちぃっとばっかしいいか、御両人さんよ?」
春樹は歯軋りを奏でながら
そんな二人の表情の強張りを確認した春樹は溜息を吐いて拳を固くする。
「悪いが、自分はお二人の娘さんに用がある。
だから・・・退けやぁッ!」
尋常ならざる殺気を放つ春樹。
同時にバリバリバリバリッと黒雷をそこら中に放てば、ジグザグの矢印がアリーナの地面や壁を穿ち貫く。
その無差別攻撃に観客席からは悲鳴が巻き起こるが、知れた事ではない。
春樹の目的は鈴を
「それとも何かい?
親子ともども八つ裂きにされたいか!!」
濃厚な殺気が土石流が如く三人を飲み込む。
・・・それでも―――――
「「―――ことわる!!」」
足が面白いように震える。
カスタネットと化した歯が音痴の音色を奏でる。
それでも二人は立ち向かう事をやめなかった。
二人は逃げ出しても良かった。
意識を手放して担架で運ばれても誰も笑う人間はいなかった。
それでも二人は背を見せる事はなかった。
「ぱぱ・・・まま・・・っ!」
彼の背後には、彼女の腕の中には、二人の
道を違えた二人だが、守るべきものは共通していた。
この
・・・然して春樹とて挙げた拳をこのまま引っ込める訳にもいかぬ。
「・・・清瀬流対決術模倣の型、竜式―――――『戦竜の拳骨』!」
「「「―――――ッ!!」」」
黒雷を一点集中で込めた拳を躊躇いなく三人へ振り下ろす。
誰もがそこから起きる惨劇に目を背ける者もいた。耳を覆う者もいた。口を塞ぐ者もいた。
それでも目の前の事象に真摯に当たる者がいた。
「(あ・・・・・ダメだ、これは)」
三人の中で一番先頭に居た楽音は迫り来る滅撃の拳に何を思ったのか。
彼は今までの事が鮮明に頭を駆け巡る。
これが走馬燈というものかと腑に落ちたのかもしれぬ。
それでも・・・!
「(せめて、せめて・・・お前と鈴だけでも・・・!)」
楽音は前に体を傾かせる。
一歩身体を前へ進ませる。
迫り来る拳の威力を少しでも殺す為に身を挺す。
「―――――御美事なり!」
パァンッ!・・・と、空気が破裂した音が木魂する。
しかし、一撃必殺の拳が直撃する事はなく、とてつもない風圧ばかりが楽音の身体を突き抜けるだけに留まった。
「・・・・・阿破破破破破ッ!!」
「へ・・・?」
ポカーンと呆ける楽音の鼓膜を揺さぶる
勿論、大口開けて笑っているのは目の前の金眼四ツ目の怪人である。
春樹のそのけたたましい笑い声を耳にした楽音は自分に今回の仕事を紹介して来た
だが、下手に
「聞こえっか、
≪えッ・・・あ・・・は、はい!!≫
急に本名を呼ばれた楯無はしどろもどろになりながら通信チャンネルへ耳を傾けた。
すると春樹は先程とは比べ物にならぬ程に毒気の抜けたあっけらかんとした口調で語り掛ける。
「俺・・・・・マジで
≪え・・・ちょ、ちょっと春樹くん!!?≫
楯無からの返答を聞く前に春樹は通信を遮断すると武装解除し、出口へ足を向けた。
そして、思い出した様に鈴へ指を指示す。
「凰 鈴音!」
「っ、は・・・はい!?」
「
次までに精進しろよ!!
阿―――ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!!」
そう言って春樹は怪盗二十面相の様な捨て台詞を吐くと共に飛行ユニットを展開してさっさとアリーナから退場するのであった。
「・・・・・ホント・・・何なのよ、あいつ―――――
「「鈴!!」」
―――うわッ、パパにママ!?」
自由気侭な勝色の蟒蛇に鈴は何処かホッとする間もなく、彼女を抱きしめる楽音と花音。
僅かに震える腕で二人は精いっぱいの力で自分達の愛娘を包み込む。
「よか、よかった!
お前が・・・お前達が無事で本当によかった!!」
「パパ・・・」
以前よりと比べられない程に細くなった父・楽音の腕を掴みながら久方ぶりの家族勢揃いにとりあえず「まぁ、いいか」と一息吐くのであった。
◆◆◆◆◆
―――――・・・オチと言うか、今回の後日談。
俺ん上役の長谷川さんは困惑と安堵が入り混じった何とも言えん顔をしとったし、鈴さんの上役の目がキツいお姉さんは俺をバケモンでも見る様な畏れと侮蔑の目で俺を見やがった。
まぁ、別に俺はそねーな事は気にしとらん。
とりあえず・・・
鈴さんは中国でも指折りの実力者なんじゃが、それをほぼ一方的にボコボコにしちまったけんな。
指導役の面目丸つぶれじゃろう。
じゃけん長谷川さんを通して目がキツイ鈴さんの上司に試合結果は
俺は鈴さんをボコボコにしておいて後はトドメを刺すばかりじゃったのに
しかもその邪魔者が偶然にも
そういうこって、試合映像を外部に漏らさないとの条件付きで親善試合は両者の健闘をたたえ合って引き分けという決着がついた事をお互いの政府上層部へ報告する事になったとさ。
・・・もし今回の事がキッカケで鈴さんが代表候補生から降ろされる事があれば、色々とこっちにも考えがあるしな。
そう言えば・・・決闘までの間に俺が
しかもどうも鈴さんのお父さんもお母さんもお互い未練タラタラだったみたいで、今回の一件で
そこで俺は気を利かして、これから鈴さんのお父さんの方は芹沢博士が俺の身体から発見した医療用ナノマシンの応用治療の実験台なる事が決まっとるけん、二人が一緒に居られるように取り計らった。
一応、浅沼さんから聞いた話じゃと俺が鈴さんをボコボコにした天満外道が如き暴君男とはバレてないらしい。
日本まで自分達を誘った胡散臭い男に会ってお礼が言いたいと言って来たそうな。
・・・バレたら面倒臭そうじゃけん、当分の間は会わん方がえかろうて。
あぁ、そうそう。
俺と鈴さんの決闘を勝手に賭け対象にしやがった生徒会・・・もとい楯無は、賭けが無効になった事で賭けた連中の払い戻しに追われて、一時的にじゃが生徒会室に缶詰状態になったとの事じゃ。
ざまぁないわな。
俺に黙って儲けようとした罰じゃ。
破ッ破ッ破ッ!
・・・そんなこんなで、今回の一件はこれにて終了。
試合の後、あの
まぁ、そんな今回の騒動ごとに区切りがついた俺達は今―――――
◆◆◆◆◆
「うひゃあ、高ぇや・・・!
ホントにこかぁ日本か?」
親善試合を終えてから最初の休日。
オルコット家のメイド長にして昨今IS学園臨時講師に就任したチェルシー・ブランケットから招かれ、白塗りリムジンに乗って高級タワーマンションが建ち並ぶ場所まで来た面々。
「さぁ、皆さま。
こちらになりますわ」
リムジンから降りるや否や天高くそびえるマンションを見上げる賓客達が天高くそびえるマンションに唸っているとここまで一緒に来たチェルシーの主人にしてオルコット家の女当主セシリア・オルコットが彼等を案内する。
今回、チェルシーにお呼ばれされたのは、昨年末にイギリスで起きた所謂エクスカリバー事件において武功を上げた面々とその
「「・・・・・」」
セシリアの案内されるがまま目的地まで歩んで行く賓客達の間に何とも言えぬ微妙な空気が漂う。
特にエレベーター移動の時など息苦しささえ覚える程度。
その変な空気の理由を挙げるとするならば、彼ら彼女らの中に直近で決闘を行って有耶無耶な結果を残した春樹と鈴がいたからだ。
決闘をやった日から初めて会う二人に会話はない。
特に険悪という訳でもなければ、好感という訳でもない何とも言えぬ感じに同じく賓客であるシャルロット・デュノアは空気を換える為のキッカケを作ろうとする。
「そ、そういえばセシリア?
ここって立派な建物だからスゴく高かったんじゃないのかな?」
「そ・・・そうですわね!
私達、オルコット家の日本拠点になりますから大変吟味したのです。
そうしたら十億もかからない安いお買い物で済みましたわ!
本当に日本って良いものがリーズナブルな価格で助かりました!」
「プッ・・・!
ちょっとセシリアさん・・・厭味ったらしいよ?」
「そうか。
これがマウントというものなのだな」
「ふふっ♪
マドカちゃん、そんな真顔で言う事じゃないわよ?」
こちらも微妙な空気を変えようと金持ちのマウントにも受け取られる発言をしつつ「おーっほっほっほ!」と高飛車に笑う変なテンションになってしまったセシリアに更識 簪がクスリと笑えば、真顔でこれに織斑 マドカが感心した様に頷いた。
その反応がシュールだったのか、更識 楯無からコロコロとした笑い声が起こる。
だが、それでも春樹と鈴は互いに顔を背けたままでクスリともしない。
更に春樹に至っては真っ黒な丸サングラスをしている為、余計に印象が悪い。
これに溜息を吐いたラウラ・ボーデヴィッヒは肘鉄で彼を小突く。
「ハァッ・・・!
春樹、いい加減にしろ。
折角、ブランケット教諭がお誘いしてくれた食事会なんだ。
いつまで不愛想な顔を晒すつもりだ?
鈴の方も!
いったいいつまで拗ねているつもりか!」
「ら、ラウラちゃん・・・」
「私は別に拗ねてなんか・・・!」
「うるさい!
口答えするな!」
「「・・・はい」」
口ごもる二人に対し、腕組みするラウラ。
ここが部屋の中だったら二人を正座して説教をしていただろう。
それでも春樹と鈴は罰が悪いのか、互いに互いをチラチラ見るばかり。
まるで
そうこうしている内、一行は食事会場となっている一室へと到着した。
「ようこそ、いらっしゃいました皆様方。
セシリアお嬢様、私めの代わりご案内をして下さり恐縮でございます」
「別に構いません。
チェルシーは皆さんへのおもてなしを用意されていたのですから。
ささ、皆さん。
ご遠慮なさらず、ご自身のご自宅の様にお寛ぎ下さいまし」
『『『おぉっ・・・!!』』』
一行が通されたのは、思っていた以上に広い空間へ見るからに高級なインテリアが配置された清潔感のあるラグジュアリーな空間。
海外ドラマのワンシーンの中へ入り込んだ様。
そんな一室に招かれて少しばかりの気おくれがあった春樹だったが、長大な食卓へ用意されたこれまた見るからに豪華な
・・・正確に言えば、その御馳走のすぐ隣へ並べられた
「・・・春樹」
「っ、おっと!
いけん、いけん。
俺とした事が・・・」
少々呆れたラウラの口調に春樹は思わず出た多量の垂涎を飲み込む。
そんな仕草に彼の好物を知っている者達は可愛らしいものでも見たかの様に「ふふっ♪」と笑みをこぼす。
「コホンッ・・・
御着席いただく前にあなた様へご紹介したい者がいるのですが、よろしいでしょうか?」
「阿ぃ?」
疑問符を浮かべる春樹だったが、そういえば今回の件で招待された際、自分に紹介したい者がいると聞かされていたなと思い出す。
するとチェルシーは別室から一行に挨拶する様に
「さぁ、皆様へご挨拶なさい」
「は・・・はい、
一行の前へ現れ出でたのは、チェルシーをもっと幼くした様な赤茶と白の斑色の髪色をした一人の少女。
綺麗なドレス生地に身を包み、頬を朱鷺色に染めた緊張した面持ちは愛らしい事この上ない。
「え・・・えと・・・み、みなさま・・・!
は、はじめまして!
わ・・・わた、わたくしは・・・・・えと・・・!!」
緊張と恥ずかしさに「うぅ・・・っ!」と唸り出した斑髪の少女だったが、そんな彼女の気持ちを汲み取ってか、丸サングラスをとった春樹は突如として彼女の前へ片膝をつくと胸に手をやって深々と頭を下げたではないか。
「お初にお目にかかります。
『エクシア・ブランケット』嬢とお見受け致します。
私は、日本でIS国家代表候補生をしております清瀬 春樹と申す者・・・お会いしとうございました」
まるで姫に傅く騎士の様な春樹に皆は目を丸くしたが、特に驚いたのは傅かれた方の少女、エクスカリバー事件で渦中の真っただ中にいたエクシア・ブランケットだった。
「っ・・・は、はい!
わたくしもヴァイオレット・ファフニールと名高い春樹さまにお会いしとうございました!!」
緊張と恥ずかしさが混じった表情から一転し、晴れやかな表情になったエクシアは満面の笑みでスカートの裾を摘まんでお辞儀をする。
そして、顔を上げて互いの顔を見やると二人はニッコリ笑みを浮かべた。
「・・・破破破!」
「あはは!」
ほころぶエクシアの表情に姉であるチェルシーは少しばかり涙ぐめば、それを察した同じく涙ぐんだセシリアが彼女の肩を叩く。
幼い体ながらも宇宙へ浮かぶ軍事衛星に生体ユニットとして押し込められ、
しかし―――――
「あ、あのファフニールさま・・・?」
「うん?
何じゃろうかなエクシアさん?
それに俺ん事は春樹で構わんでよ」
「そ、それなら春樹さま!
春樹さまの事を・・・春樹さまの事を
エクシアの言葉に春樹は勿論の事、一同はアッと驚嘆する。
だが、もじもじ顔を赤らめる可愛らしい少女の
「え、エクシア!
何を突然ッ・・・無礼ではありませんか!」
「いえ、大丈夫ですぜブランケット先生」
「そ、それなら!」
「応、別にそう呼んでくれても構わん。
あぁ、それじゃったら・・・俺も君ん事をエクシアって呼び捨てでも構わんか?」
「はい、もちろんですわ!
春樹・・・おにいさま!」
ニッコリ愛らしい笑みをこぼすエクシアの頭を春樹は優しく撫でてやる。
そのデレデレした彼の表情に楯無は眉をひそめてのたまった。
「うわっ・・・やっぱり春樹くんって、ロリコンね!
この変態!!」
「楯無・・・お前
これにドッと一同は笑い始めれば、遂に食事会が始まる。
長大な食卓テーブルに並べられたのは手間のかかったフィッシュアンドチップスやらローストビーフやらアボカドサラダなどの手料理達。
そんな大皿料理に混じって、場違いとも言えるおにぎりの盛り合わせが並んでいた。
しかも中には形も大きさもまばらなものもある。
「ブランケット先生、なしておにぎりが?」
「ラウラ様より、春樹様の好物を伺ておりましたので。
中身の方は塩鮭の他に三種類あります」
「わたくしもにぎりましたの!」
いつの間にか自分の膝上を陣取ったエクシアの眩い笑顔に対し、春樹はいつもの奇天烈な笑い声を上げながら彼女の赤茶と白のまだら模様の髪を撫でつつ用意されたウィスキーを呷った。
その様子はまるで子供と談笑する父親の様である。
しかし、そんな二人の仲睦まじい二人に
「・・・むぅっ」
「ん?
どうしたのだシャルロット?」
「べっつにー・・・何でもないよ!」
「もう、素直じゃないわねー。
シャルロットちゃんは、エクシアちゃんに嫉妬してるのよ!」
冬支度をするリスの様に膨らませたシャルロットの頬っぺたを突きながら楯無は悪戯っぽい笑みを浮かべている。
鈴との決闘を終えた後、シャルロットはラウラと共に禁欲から解き放たれた春樹に
それでも彼が他の
「でもぉ・・・エクシアちゃんはまだまだ子供よ?
ここは大人の余裕を持つべきだとお姉さんは思うなー、って!」
「すごい・・・春樹に相手にもされてないお姉ちゃんのセリフとは思えない」
「ぐフェっ!?
な・・・なんで、簪ちゃん?
どうしてそんなひどい事言うの??」
実妹からの言葉に心を抉られて涙目になる楯無を他所に自分の半分しか年を取っていない少女相手にやきもちを妬くシャルロットの頭をラウラは諭す様に撫でる。
「楯無会長の言う事も一理あるぞ、シャルロット。
いちいちこんな事で気に病む事はない」
「むぅ・・・ボクだってわかってるよ!
でも、春樹がラウラ以外の他の女の子と仲良くしてると・・・ムカッとしちゃうんだよぉ!」
「ならシャルロットもエクシアと仲良くなれば良いではないか。
それに・・・予行演習だと思えば良い」
ラウラの言う『予行演習』とは、いつかの近い将来に生まれて来るであろう
最早、
「あと、別に私はエクシアが私達と同じ様に
近々、セシリアも
「「・・・・・・・・・・は?」」
「ッ、ちょ・・・ちょっとラウラさん!!?」
まさかの発言にシャルロットと楯無の目が点となるや否や、その点はハイライトのない瞳となって動揺するセシリアへと向けられる。
「そうか!
セシリア、貴様も私達と同じ様に清瀬 春樹の
「マドカさん、ちょっとお黙りになって下さいまし!」
「ちょっとセシリア・・・?」
「どういう事か、お姉さん気になるなぁ・・・!」
「ひぃっ!?」
どうもセシリアが
「・・・・・」
「・・・どうしたの鈴さん?」
「ううん。
私もあんな
「そうだよ。
本当・・・滑稽だったよ?」
「ぷっ・・・ふふふ!
簪、あんた言ってくれるじゃない」
「でしょ?
私だって、言う時は言うんだよ?」
「ふふふ♪」と目の前で起こるやり取りにケラケラ弾む声を転がせる簪と鈴。
そんな何とも和やかな様で混沌とした状況が続いてゆき、外には星明りがチラチラ光る様になって来た頃―――
「ふぅ―――っ・・・」
バルコニーへ出て来た春樹は、赤ら顔を揉み解しながらロッキングチェアへ腰掛けていた。
どうも自分だけエクシアと交流する訳にはいかないと感じ、酔い覚ましの休憩と言ってここへ来たようだ。
室内では皆から頭を撫でられて可愛い等と囃し立てられるエクシアがキャッキャッと声を弾ませている。
「・・・寒くはありませんか?」
ロッキングチェアを揺らす彼へ声をかけるのは、毛布を手にしたチェルシー。
その彼女の声に反応した春樹は金色の瞳を差し向けた。
夜空の下である為か、金色の焔が眼窩からあふれている様に見える。
「大丈夫ですぜ、ブランケット先生。
逆に涼しゅうて気持ちがええくらいですわ」
「それは酔っているからでは?。
調子に乗っていると風邪を引いてしまいますよ」
「へぇーいっす」
こんな生返事で答える春樹に対し、チェルシーは頬を緩ませると彼の傍へ自分の身を寄せた。
この彼女の行為に春樹は何も言わなかったが、チェルシーが自分に何を言わんとするかはある程度察していた。
「春樹様・・・今回は我が主、セシリア様とエクシアの為に―――――」
「止しておくれ」
深々と礼を述べんとするチェルシーを春樹は止める。
勿論、彼の言葉にチェルシーは「どうして?」と異を唱えようとしたが、これもその前に春樹は理由を述べた。
「今回、俺の成した事に恩を
俺は、俺の
それに・・・俺は下手すりゃ、ブランケット先生。
貴女に恨まれても文句に言えれん様な場合もあったんですぜ?」
春樹の言う事にも一理ある。
エクスカリバー事件の終盤において暴走した軍事衛星エクスカリバーがもし一時的な再起不能状態に陥っていなければ、彼はエクシアの救出を待たずしてエクスカリバーを
そうなれば、春樹はチェルシーから多大に恨まれても文句は言えない身分となっていた筈だ。
「あの糞鈍感屑・・・もとい糞ったれの織斑が一時的とは言え、エクスカリバーを再起不能にして、その中身に居たエクシア嬢を助けていなけりゃ・・・!
結局は、結果論ですよ。
じゃけんそんな恩に着んで下さい」
春樹はエクシアと初めて会合した際にキザな態度をとったのだが、それはある意味で精神的苦痛を誤魔化す処置でもあったのである。
彼はエクシアを見た時、内心ゾッと恐怖した。
エクスカリバー事件の際、織斑 一夏が率いる討伐部隊がエクスカリバー撃破を失敗したと判断した場合、春樹は状況の有無にかかわらず対象を
その際、彼はエクスカリバー内部に生体ユニットとしてエクシアが囚われている事を
そして、もし
「じゃけん・・・礼を言うなら、礼を尽くすなら俺じゃのーて、織斑の野郎じゃろう思います。
癪ですがね。
ホントに癪ですがね。
マジでホントに癪ですがね!!」
「・・・・・確かにそれはそうかもしれません」
「でしょう?
ほいじゃ―――――
「ですが!!」
―――阿ぃ?」
「私は・・・私は彼を・・・織斑 一夏氏をそう易々と
「へッ?
え・・・どういう事?」
チェルシーは知っていた。
エクスカリバー事件解決に動いていた際、一夏がセシリアに対して無理無体を働いたと云う事を。
その無理無体と言うのは、簡単に説明すると英国貴族の矜持を示そうとしたセシリアに異を唱えた一夏。
しかし、それをセシリアに拒否されてしまった事で彼は激怒して彼女の首を締め挙げたと言うではないか。
幸いにもその場に居合わせた簪のおかげで大事には至らなかったが、自分の預かり知らぬ所で自分の主が傷つけられた事にチェルシーは憤慨したのである。
それ故に今回の食事会に一夏を招待していなかったのだ。
「・・・・・何じゃと?」
「ッ、は・・・春樹様?」
然して一夏がセシリアに対して無理無体をしていた事を初めて聞いた春樹は、激情に駆られた。
それこそ彼の金色の瞳が
「・・・ちょっと用事思い出したけん、失礼しても?」
「な、なりません!
なりません春樹様!!」
ロッキングチェアから立ち上がった牙剝き出しで金眼四ツ目の春樹の手へ顕現したのは朱鞘に納められた三尺太刀。
どう考えても良からぬ展開になるだろうと察したチェルシーは毛布を投げて興奮状態の彼を抑えんと抱き締めたではないか。
「離せ!
放さんか!!」
「なりません!
誰かッ、春樹様がご乱心!
ご乱心です!!」
「どうした・・・って、何をしている春樹!!?」
「ちょっと春樹さん!!
チェルシーといったい何をしていますの!!?」
「あッ、お姉さまズルい!
おにいさまとハグしてる!!
わたくしもしますわ!!」
このチェルシーの常軌を逸した叫びを察してか、部屋の中にいた皆がワラワラ集まるや否や一騒動巻き起こるのであった。
◆◆◆◆◆
「―――――・・・いちか・・・・・いちか、
いちか・・・いちか・・・!!」
冷たく暗い鉄格子の中、篠ノ之 箒は酷く
落ち窪んだ眼下に枝毛ばかりのボサボサ髪。
噛んだ全ての爪先は嚙み千切り過ぎて血が滲んで滴る。
そこに今やあの美しい芯の通った大和撫子の姿はない。
そこに居たのは、ヨレヨレのスウェットを着込んだ恨み辛みと妬み嫉みの怨念を吐く一人の
「わたし・・・わたし、わたしのいちか・・・!
どうして!?
どうして、わたしのいちか・・・!!」
吐けども吐けども吐き切らぬ怨嗟。
幼い頃より恋慕った男は今やここにはいない。
足を千切られた様なものだ。腕をもがれた様なものだ。目を抉られた様なものだ。
苦しく、辛く、悔しく、痛々しく、口惜しいものだ。
然れども今の彼女に出来る事など何もない。
今の彼女には力がなかったからだ。
由々しき事態である。
・・・しかし、由々しき事態にあるにも関わらず頼れる筈だった、助けてくれる筈だった存在が、自らを
もう誰も信じられない。
もう誰も助けてはくれない。
もう誰も―――――
〈あぁ、可哀そうに。
なんて可哀想な
「っ・・・だれ!?」
力なく俯く彼女の前に突如として現れ出でたのは、長く赤い髪を揺らす赤いドレスワンピースを身にまとった一人の少女。
鉄格子に阻まれ、部屋の外にも看守や監視カメラがある万全の監視体制の中で、一体何処から入り込んだかは不明だが、箒はその少女を一目見るやパッと少しばかり顔へ表情が明るくなる。
「あ・・・あび、あびげ!!」
〈落ち着いて、落ち着いて箒。
大丈夫だから・・・大丈夫よ、
「はぁっ・・・はぁ・・・ハァッ・・・!!
あ、あび・・・あびげ・・・
赤毛の少女アヴィゲイルに正常な呼吸を促されて幾ばくかの冷静さを取り戻した箒は、そのまま彼女にすがりついた。
このアヴィゲイルなる人物、ワールドパージ事件において箒の精神世界に現れた正体不明の人物であるのだが、時として彼女の心を支える存在として現れるのだ。
そして、今日もこの心を擦り減らし、削り減らした
〈可哀そうな私の箒。
どうしてみんな貴女をこんなにも簡単に踏みにじる事ができるのか、理解しがたいわ〉
「そうだ!
そうなのだ!!
私は何も・・・私は何も間違っていない!!
それなのに・・・それなのに!!」
〈えぇ、そうよ。
箒、貴女は何も間違ってはいないわ。
貴女は何も間違っていないわ〉
「そうだ。
私は何も・・・何も間違っていない。
私は、間違っていない。
徐々に徐々に落ち着きを取り戻す箒だったが、どうも様子がおかしい。
アヴィゲイルはそんな様子のおかしい彼女の耳音へ語り掛ける。
〈箒、貴女は幸せになるべき人よ。
その為には、
「あぁ・・・あぁっ!
その通りだぞ、アヴィゲイル!!
だが・・・だが、今の私には力が・・・」
〈・・・・・取り戻したい?
自分の力を取り戻したい?
「あぁっ!
もちろん、もちろんだ!!
復讐・・・復讐だッ!!
私から奪った者に!!
私の邪魔をした者に!!
〈いいわ。
なら教えてあげる。
私が貴女に教えてあげるわ。
貴女が、箒が幸せになる方法をね。
だって・・・貴女は私の可愛い人なのだから〉
慈愛深い救世者の様にニッコリと笑う赤毛のアヴィゲイルの言葉に箒は耳を傾ける。
そして、そのまま
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?
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はーい!!(^^)/
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えー!?(・_・;)