「―――――・・・今にして思えば短慮な考えじゃった。
相手を出し抜く事ばっかり考えて、相手がどれくらい
黒田 官兵衛も城攻めで籠城する敵を完全に囲むんじゃのーて、一か所逃げ道を設ける策を講じとったしな。
本当に
もう少し考えを張り巡らし、もう少し相手の事を考えとったら・・・
・・・・・あと、本人のあずかり知らぬ所で物事を勧めんで欲しい」
「―――――・・・それでは始めるぞ!
これより、第一回チキチキ
「Youpi―――ッ!!」
放課後のIS学園生徒会室に響いたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒの宣誓とそれを讃えるシャルロット・デュノアの声。
そんな元気ハツラツな彼女らへ怪訝な目をやるのは、この部屋の主人たるIS学園生徒会長、更識 楯無である。
「あの・・・ラウラちゃん?
私、生徒会の仕事中なんだけど?」
「別に構わぬだろう?
本当は家庭科調理室でやろうと思ったのだが、
「仲間外れって・・・それはありがとうね。
だけど、私達って何の
「ん?
この面子を見てピンと来ないとは・・・その机に積まれた書類仕事のせいで勘が鈍ったか?」
「むっ・・・言ってくれるじゃないの・・・!」
「やれやれ」と溜息を吐いて呆れる態度が何処かの
「ラウラさん、少し言い方を考えてあげませんと。
ねぇ、マドカさん?」
「そうだぞ、遺伝子強化素体。
いくら日頃サボった
「ちょ、マドカちゃん・・・!?
フォローになってないわよ!!」
「それもそうだな。
すまなかった楯無会長。
私とした事が言い過ぎだった」
「謝らないでよ!
だいたいあなた達、日頃は仲悪そうにしてるくせして、どうしてこういう時は手を組むのよ!!」
楯無のツッコミにラウラはペロリ舌を出して笑えば、これを真似して織斑 マドカも舌を出して笑ったではないか。
二人とも端正で愛らしい顔立ちをしている為、その茶目っ気たっぷりな表情に「フフッ♪」と周囲を和ませてしまった事で楯無は怒るのも馬鹿馬鹿しくなってしまい、溜息を吐いて再び書類仕事に戻ったのだが・・・次の話題でその仕事を放り出してしまう。
「それで、ラウラさん?
その清瀬党会議・・・は、いったい何を議題にするのですか?」
「そんなものは決まっているだろう。
セシリア、春樹にお前をどうやって春樹の
「・・・・・・・・・・・・・・・へっッ?」
「ッ、ゲッほゴホ!!?」
『『『え!!?』』』
自信満々で胸を張って言い放ったラウラの文言に先程までニコニコ紅茶を楽しんでいたセシリア・オルコットは目が点となってしまい、書類仕事の一服をしようと紅茶を口に含んだ楯無は誤飲してしまって大いに咳き込む。
さぁこれで生徒会書記係の布仏 虚と新任臨時講師となったチェルシー・ブランケットが淹れた紅茶の飲み比べどころではなくなった。
「えッ、ちょ・・・ら、ラウラちゃん!?
あなた、いきなりなに言ってくれちゃってんの!!?」
「別にいきなりではないぞ。
ちょっと前にセシリアに春樹の子供を産みたいかどうか聞いた時、産みたいと言っていたからな。
なら春樹の第三夫人にしようと
「ちなみに春樹の
セシリア、ボクとラウラと一緒に春樹の赤ちゃんいっぱい産んだげようね!!」
家族ぐるみで春樹を
「ッ・・・セシリアお嬢様!
「ちぇ、チェルシー!?」
「ブランケット先生、なにを言って?!」
まさかの発表に大いに動揺してしまい、ティーカップの中身を溢すまいとカタカタ揺らしてテーブルへ置いた赤面するセシリアの手を涙ながらに握ったのはチェルシーであった。
「春樹さまのご寵愛を受けるラウラさまとシャルロットさまから直々に第三夫人に迎えられる事を許されるとは大変光栄な事ではありませんか!」
「ちょっとチェルシー!
皆様の前でなんて事を言うのですか!!」
若干興奮気味のチェルシーにセシリアは戸惑いのあまり思わず声を張り上げてしまうが、イギリスの危機だけでなくオルコット家の危機までもを救った大恩ある春樹にどうやって恩返しをすれば良いかと思案していたチェルシーにとっては
しかもセシリアも春樹に
「・・・だが、問題はある。
相手があの春樹だという最大の問題だ!」
「確かに!
ボクの時もお父さんとおかあさん、それにラウラの部隊と一緒に
すごく
ラウラとシャルロットの言う通り、春樹という男は一筋縄ではいかない性根のひん曲がった
内堀外堀を埋めてもそれでも抗った偏屈男であった。
いくら男心をくすぐる垂涎の美貌とグラマラス容姿で誘惑しようとも春樹がそう簡単に篭絡される事はなかろう。
「と、なると・・・手段を選んでる場合ではないな。
最近は春樹の真価にようやく気付いて恥ずかしげもなく手を出そうとする輩が多くなったから春樹の
特にあの
何かにつけて春樹にすり寄ってからに・・・!」
「それにルクーゼンブルク公国のお姫様も春樹の事を好きになっちゃたみたいだしさ!
・・・お付きのナイトさんは逆に春樹を
「それではここはセシリアお嬢様の為にも不肖チェルシー、一肌でも二肌でも脱ぎましょう!」
「うむ!
流石はオルコット家のメイドたるブランケット先生だ!
もうここは一気に
「ちょっとお二方にチェルシー!
わ、私は別に・・・その・・・!」
「なんだセシリア?
いやなのか?」
「そ、そんな事はありませんわ!!
私としてはその・・・春樹さんの事をお慕いしています!
で、ですが・・・春樹さんのお気持ちを他所にそんな事を進めるというのは・・・!」
頬を朱鷺色に染め上げてごにょごにょモジモジするセシリアだったのだが、満更でもないその様子にラウラ達はニマニマと頬を緩ませた。
すると・・・
「―――ちょっと待ちなさい!!」
待ったをかける者が一人。
目をやるとそこには生徒会長席を蹴っ飛ばしてこちらを睨む水色髪が机を拳で叩いているではないか。
「どうした楯無会長?」
「どうしたもこうしたもないわよ!
IS学園の生徒会長である私の前でよくもそんな堂々と不純異性交遊・・・それも第一夫人だの第二夫人だのハーレムみたいに・・・
「あれ会長?
もしかして羨ましいの?」
「えぇ、うらやま・・・って、違うわよ!!
私は常識をね―――――
「ならば私は
―――って、はぁ!!?」
ラウラ達の話題に顔を真っ赤にして異を唱える楯無だったが、そんな彼女の話の腰を折る発言が飛び交う。
そして、その発言を言い放ったのは、どちらかと言えばチェルシーの淹れた紅茶が気に入ったマドカであった。
「ま、マドカちゃん・・・あなたまで何言ってるのよ!?」
「アドヴァンスド、私も清瀬 春樹の事を
「いや、お前は論外だ。
お前は春樹の事を何回も殺そうとしているし、そもそも春樹から未だ疑われているだろうに」
「ッチ・・・それを言うな。
だが、私も清瀬 春樹との子供が欲しい事を明かすにはいい機会だと思ってな!」
「こだわるのは勝手だが、こだわり過ぎて春樹に迷惑をかけるな。
それに春樹の第四夫人の当ては立っているぞ。
なぁ・・・―――――
―――――・・・鈴?」
「・・・・・ふぇッ??」
周囲の状況に今まで我関せずで紅茶の飲み比べを茶請けの菓子と共に楽しんでいた凰 鈴音は突然自分の名前が話題に上がった事で呆気に取られてしまう。
しかし、この突拍子もないラウラの発言に驚いたのは何も彼女だけではない。
「えッ・・・えぇっ!!?」
「なんて事でしょう!?」
「り、鈴さんも春樹さんの事を!!?」
「ちょ、ちょっとちょっとどういう事なの鈴ちゃん!!?」
ついぞ第三夫人候補と紹介されたセシリアは勿論、紅茶とお菓子に舌鼓を打ってのほほんとしていた布仏 本音さえも目を見開いて驚く。
特に驚いたのは、セシリアは兎も角として自分を他所に春樹の
その様子は既に羨望を抑えぬ有様であり、四白眼と共に先程まで呑気に飲茶を楽しんでいた鈴の両肩を鷲掴みにする。
「鈴ちゃん・・・鈴ちゃん、あなた!
あなたは織斑くんに恋してたんじゃないの?!
それが昨日の今日で・・・どうしてよ!!?」
「いっ、痛!
痛いわよ、会長!!
私にも何が何だかわかんないわよ!!」
「お止め下さい、楯無会長!」
「お気をお沈め下さい、
「大丈夫ですか、鈴さん!」
対暗部の家の出であっても不意の妬み嫉みに心を一時支配されてしまった楯無をチェルシーや虚が引き離せば、まさかの取っ組み合いに巻き込まれた鈴を落ち着かせまいとセシリアが寄り添う。
然してそんな事が目の前であったにも関わらず、ラウラやシャルロットは涼し気な顔で紅茶と茶請け菓子の美味なるを「美味い、美味い」「おいしい、おいしい」と評していた。
その横では、マドカが「
「ちょっとラウラ!
あんた、突然なに言ってんのよ!!
私が春樹の第四夫人って・・・はぁあッ!!?」
「言葉の通りだ、鈴。
私はお前が春樹の子を産むに相応しいと思ったのだ。
これはシャルロットも了承済だ」
「うんうん。
ボクもラウラから聞いた時はびっくりしちゃったけど・・・鈴ならいいと思って!」
「それはそれは!
あっけらかんと話す二人に鈴はあんぐり口を開けて呆け、虚はおろかいつも呑気な本音でさえも怪訝な顔となる。
これは彼女らが常人が要する
既にかの
「ふ、相応しいって・・・いったい何言ってんのよ、ラウラ!
だいたい、だいたい私は・・・!!」
「皆まで言うな鈴。
無論、お前があの
しかしだ。
あの
『男の傷は、男でしか癒せぬ』と私の部隊の部下も言っていたぞ?」
「だ、だからって・・・ラウラ、あんた!」
「それにだ。
実はな鈴・・・ここだけの話、春樹はお前の事を
もちろんLikeではないぞ、Loveの方だぞ?」
「はっ・・・はぁあッ!!?」
「ちょっと何よそれぇえ!!」
またしても放たれた爆弾発言に頬が真っ赤になる鈴と「いったいつからなの!?」と鼻息荒い歪な表情になる楯無。
とてもIS学園生徒達から羨望の眼差しを向けられる生徒会長とは思えぬ。
「私には隠しているつもりだったのだろうが・・・春樹は前々から鈴、お前の事を気にかけていたからな。
というかだいたい・・・鈴を見る春樹の目は時折、私やシャルロットを見る目と
気付かなかったのか?
あのギトギトと
「ラウラ、気づいてないと思うよ。
ボクだってラウラからその話を聞くまでは知らなかったんだから」
「私は気づいていたぞ。
清瀬 春樹は、そこの女に思いを寄せているとな。
鈍いやつめ」
「なるほど・・・大方、春樹さんは鈴さんが一夏さんへ思いを寄せているのを承知していたから話さなかったんでしょう」
「まったく、いじらしいヤツめ!」とラウラをはじめとする者達はケラケラ声を弾ませるのだが、未だに鈴は情報処理が追い付いていないのか、「あうあう」耳まで真っ赤にしてフリーズしたまま。
一方、楯無は体を震わせたと思えば一気に吠え立てた。
「あーのーッ、
織斑くんの事をクズ呼ばわりするくせして、自分の十分なクズじゃないのよ!!
チンチクリンで
「ッ、誰がチンチクリンのぺったんこよ!!」
「ちょっと鈴さん、落ち着いて下さいまし!!」
憤りの余り心にもない事を口走る楯無に鈴も正気を取り戻したのか、こちらも怒りの表情で食って掛かる。
そんな様子をラウラ達は愉快そうに見守った。
「まぁ、楯無会長もそう憤るな。
春樹が変態でスケベな事は認めるが、ヤツは別にロリコンでもペドフィリアないぞ?
セシリアやチェルシー先生の様にグラマラスな女も好きだ。
でなければ、セシリアを第三夫人に勧める訳がなかろう?
それで・・・どうだ鈴?」
「え、ど・・・どうって?」
「もちろん春樹の事だ。
傷心中とは言え、鈴も春樹の事は憎からず思っていない筈だろう?」
ラウラの疑問符に再び頬を朱鷺色に染める鈴。
思い返してみれば、春樹が彼女の事を学友以上戦友以上の異性として見ていた節は多々あった。
当の鈴も春樹からの好意に薄々気付いていたのだろうが、その時既に彼にはラウラ達が居た為、気のせいであろうと
「あたしは・・・そんな事、急に言われても・・・その・・・ッ!」
「鈴、別に答えを今ここで出そうとしなくてもいいぞ。
お前は傷心の身でもあるし・・・相応の
「覚悟・・・って、何よそれ?」
「あれだ、ほら。
私から言うのもなんだが、春樹は・・・
『『『っぶ!!?』』』
頬紅をつけてほくそ笑んだラウラに皆は
「春樹はな・・・ベッドの中でも
なぁ、シャルロット!」
「ちょ、ちょっとやめてよラウラ!
そういう事はあんまり人に言っちゃダメなんだよ!!」
「そうか?
だが、
私は遺伝子強化されているから体力に自信はあったのだが、それでも時々春樹には
シャルロットに至っては足腰立たなくなるまで
「ラウラ止めてって言ってるでしょ!
はい、お口チャック!!」
―――もがッ!?」
いらん事を言うラウラの口を茶請け菓子の一つであるフルーツケーキで塞ぎ込んだシャルロットは、息を取り直す。
「春樹の夜の事はともかく!
まずは春樹に
それが大前提だよ!!」
「という事は・・・清瀬 春樹に好意を伝えてそれが通ればいいのか?」
「ですが、あのひねくれ者の春樹さんの事ですから・・・何かにつけて断られたらどうするのですか?」
春樹のひん曲がった性根を知る者達はそう弱気な発言をポロポロ溢したのだが、そんな者達に対してシャルロットは鼻息荒く胸を張って宣った。
「いいみんな?!
あのひねくれ春樹に振り向いてほしかったら諦めない事だよ!
ボクだって何度も何度も正面切って春樹に挑んだんだからね!!
大丈夫ッ、内堀外堀埋めるのにもボク達協力するから!!
だから一緒に頑張ろうよ!!」
「そうですともセシリアお嬢様!
不肖ながらこのチェルシーも協力いたします!!」
「そ、そうですわね!
私は負けませんわよ、春樹さん!!」
「私だって負けないんだから!!
年上のお姉さんの魅力で春樹くんをメロメロにしちゃうんだからねー!!」
「おー、頑張れお嬢様~!」
とんでもなく
そして、この混沌とした状況を憂いた虚は呆れ果てて溜息を漏らす。
そんな彼女を所要で席を外している更識 簪や四十院 神楽に代わってマドカが労わる様に肩叩くのだった。
―――――・・・だが、この和気あいあいとした雰囲気が瞬時に一転する事態が巻き起こってしまう。
「ッ、もがもが!!」
「ん?
どうしたのラウラ?
食べながら喋るのは行儀悪いよ?」
「ごっくんッ・・・!
違う!!
「・・・・・へ??」
突如として轟き響いた爆発音は地響きを伴って部屋全体を・・・いや、IS学園建物全体を大いに揺らしたのである。
この地震の如き揺れが、招かれざる
・・・さて、またしても起こったこの面倒事。
今までなら発生源はIS学園外部からやって来た、襲来して来た敵対組織が原因なのであるが、今回はそうではない。
そして、今回の一件は『
―――◆◆◆―――
「はぁっ、まったく・・・!」
その日、倉持技術研究所第二研究所所長である篝火 ヒカルノは苛立ちと悲壮感に打ちひしがれていた。
世間がヴァレンタインデーで賑わう中、本来なら彼女は防衛省向けの新型量産機開発計画コンペティションに参加すべき立場であったのだが、ヒカルノが今現在いるのはIS学園地下に併設された整備室であったのである。
何故、こんな蛍光灯の人工的な光が頭上へ灯る薄ら寒い彼女がいるのか、それは単衣にヒカルノの目の前へ無言で鎮座する真紅のISが関係していたからだ。
実は本日を以って真紅のISなる第四世代型IS『紅椿』は、パイロット・・・いや、
・・・ちなみに箒がやらかしたしくじりと云うのは、長年彼女が片思いを寄せていた幼馴染にして世界初の男性IS適正者である織斑 一夏を
世界各国が未だIS第三世代実験機の状態で二の足を踏んでいる中、棚から牡丹餅で手に入れた機体をこんな
これは紅椿の解析処理を任された倉持技研、もとい新世代ISを解析する事で新型量産機開発計画を主導していたヒカルノにとっても不本意であった。
彼女としては機体の解析処理とそのデータを元に機体開発を行う時間が欲しかった筈だ。
然して
「どうすれば・・・どうすればサラが一早く紅椿の所有者になれますか?」
・・・そんな上記の内容を言い放ったもう一人の
そして、上記の内容で出て来た『サラ』とは、紅椿の新パイロットとして搭乗する事となったイギリス国家代表候補生のサラ・ウェルキンの事であり、箒から一夏を奪った
こんな事を紅椿の新パイロットの
勿論、納品日が早まった事により、どれだけ寝食を削って徹夜作業を行っても出品機体を完成状態にもっていく事は不可能となってしまった。
そんな不完全状態の機体をコンペに出品するにあたり、倉持技研上層部は決定権を持つ主要コンペ審査員を抱き込む事にしたのである。
・・・しかし、この
そして、そんな事とは露にも思っていないヒカルノはコンペ審査
そんなこんなもありまして、ヒカルノは新機体コンペティションを部下に引き継がせ、サラへの紅椿譲渡の為にIS学園へ赴いたのだが―――――
「い、いち・・・いちかぁ・・・・・いちかぁああ・・・!!」
生体同期が施されている紅椿の操縦権を新しいパイロットへ移行する際、旧パイロットの
かと言って機体の初期化設定の為には機体起動が必要であったし、その機体起動には箒の生体情報が必至であった。
それ故にIS学園地下へ幽閉された箒を連れてくる必要があったのだが・・・ヒカルノに同行した倉持技研スタッフが「うっわ・・・!」と表情を歪める程に彼女は様子は酷いものであったのだ。
以前は後頭部へ纏め上げられた毛並み美しいポニーテールは痛みきしんだボサボサの頭となり、血走った眼の余りにも虚ろで、だらしなく開いた口からはポタリ涎が垂れる。
まるで狂犬病に罹患した様で、暴れない様に纏わされた拘束着が余計に皆の眉間へしわを寄せた。
「・・・もう始めますか?」
以前の和装美少女さを完全に失い、見るも無残なみすぼらしい廃人と化した箒に慄くヒカルノ達に声をかけたのは、世界最強のISパイロットであるブリュンヒルデとして名高い織斑 千冬である。
彼女もまた憔悴した様子で、疲労感が見て取れる有様。
「はい、もうそろそろ。
ですが・・・あの篠ノ之代表候補生は大丈夫なのでしょうか?
パイロットのバイタルに問題があると・・・」
「大丈夫です。
紅椿の起動には問題ない筈です」
「そう、ですか・・・あのちなみにですが、篠ノ之代表候補生はこれからどうなるのでしょう?」
「・・・・・あなた方にはもう関係のない事です。
お答えする事は控えさせていただきます」
興味本位から投げかけた疑問符をバッサリ切った千冬。
その言葉尻には僅かばかりの殺気が含まれていた為、それ以上踏み込んだ問いかけをする事は出来なかった。
この視線鋭い見るからに不機嫌な千冬の代わりに説明すると、報復行為によって専用機および代表候補生資格を剝奪された箒は、主に殺人未遂ならび建物破壊や他罪状によって本来なら少年院へ送られるのだが、精神に異常をきたしている事も鑑みて精神病院へ移送される事が決まった。
箒が起こした事件の被害者であるサラへ謝罪をすればこんな事にはならなかったのだが、彼女が謝罪拒否を固辞した為、こんな有様となってしまったのである。
無論、意固地になった箒を千冬は説得したのだが、彼女はこれも拒否してしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまったのだ。
以前ならIS発明者たる篠ノ之 束博士の
そして、そんな日英円滑条約の・・・日英関係の妨げとなる人物を後生大事にする日本政府ではない。
「・・・わかりました。
それでは始めさしていただきます。
さぁ、それではみんなやりますか!」
紅椿を中央に配置し、その周りへワラワラと倉持技研技術スタッフが集まる。
そして、その様子を見守るのは日本政府関係者やイギリス政府関係者・・・それに―――――
「―――・・・ねぇ、まだな訳?」
機体とスタッフ達を見下ろす位置で状況を見ていたのは、紅椿の新たなパイロットとなるイギリス代表候補生のサラ・ウェルキン。
彼女は苛立ちっているのか、腕組した片方の親指爪を嚙み千切っていた。
「もうすぐだと思うけど・・・何をそんなに焦ってんだよ、サラ?」
そんな苛立ちを募らせるサラの肩を愛おしそうに抱いて心配の声をかけるのは、彼女の恋人となった織斑 一夏。
紅椿の譲渡日が前倒しになった要因を作った人物だ。
「別に焦ってはなんかないわ。
もうすぐ紅椿が私のものになると思うと楽しみなだけよ!
一夏だって私が専用機を持つのは嬉しいでしょ?」
「もちろん嬉しいに決まってるだろ!
専用機を手に入れたら一緒に訓練しようぜ、サラ!」
サラの文言に対して二つ返事でニコニコする一夏だったが、廃人同然となってうわ言の様に自分の名を呟く幼馴染を見ても何も思ってもいなさそうだった。
それが流石のサラでも薄情なのではないかと疑念を覚えるが、今はそれどころではない。
やっと求めていた専用機が、それも最新第四世代ISが手に入る。
「うわぁあああああ!!
離せッ、放せぇえ!!」
そんなイチャつく二人を他所に下では箒が吠え喚いて暴れていた。
自分の体に触らせまいと唾が飛ぶ嚙みつく様な威嚇で倉持技研スタッフを追い払い、ビチビチ釣り上げられた魚の様に跳ね回る。
おかげで機体起動に手をこまねく始末だ。
「やめ、やめろぉお!!
わたしのそばに近寄るなぁああッ!!
「・・・箒ッ」
「千冬さん、どうしてたすけてくれないんですか!!?
離せッ、放せぇえ!!
いちか、一夏・・・いちかぁああ!!」
童の様に喚き散らす箒に千冬は思わず俯いて目を逸らすが、耳に入ってくる聞くに堪えぬ悲痛な叫びを拒絶する事は出来なかった。
けれどもこれでは時間がかかるばかり。
本来なら遅くとも十分程度で終わる筈の工程が、彼女が暴れる事によって二十分、三十分一時間・・・しまいには二時間と経ってしまう。
これでは堪らぬと、日が暮れてしまうと痺れを切らした者が上から降りて来たではないか。
「織斑先生!
いったいいつまでかかっているんですか?!
早く紅椿を起動させて、初期化設定を行ってください!!」
「ウェルキン・・・!」
弾み転がる箒を他所に文句を言いだしたサラに千冬は顔をしかめるが、彼女はそんな事など知った事ではない。
サラの頭にあるのは、早く紅椿が自分のものになる事だけ。
「おいサラ!
何やってんだよ!!」
「チンタラチンタラいつまでもやってるからでしょ!!
もう待たされるのにはうんざり!!」
遂にはサラは自分を追いかけて来た一夏に対しても目くじらを立たせて来た。
・・・これが良くなかった。
「ッ・・・い、いちか!
あぁ、イチカ!!
やっぱりお前は私をたすけに来てくれたんだな!!」
愛しい愛しい想い人の声を聞くや否や、箒は梟が如くグリンと頭を回して一夏の方へ血走った眼をやる。
「ッ、箒・・・!
すると、自分に向けられた
まるで汚物に塗れてこちらを見る野ブタの様な有様で、彼は背筋をゾッとさせて思わず後ずさってしまうのだが、それを知らず箒は技研スタッフ達を押しのけて一夏に近づこうと更に暴れる。
そして、遂に拘束されていたストレッチャーから転げ落ちれば、まるで芋虫の様に身をよじった。
「―――――いい加減にしろよ、この
「ギャッ!?」
『『『なっ!!?』』』
そんな嫌悪感を催すおぞましい無様を晒す箒をサラは躊躇いなく蹴っ飛ばす。
彼女のまさかの行動に驚いたのは千冬や一夏だけではない。
倉持技研スタッフや政府関係者も彼女の行動に眉間をひそめるか、口元へ手をやる。
「お、おいサラ!!
何もそこまで―――――
「うるさい!!」
―――えッ・・・!?」
「どいつもこいつもトロトロしやがって!!
もういいッ、
額に青筋浮かべた憤怒の表情となったサラは、蹴飛ばした箒のボサボサ髪をむんずと鷲掴みにすれば、そのまま紅椿の前へと引きずって行く。
この今まで見た事がない彼女の鬼気迫る表情と怒鳴り声に一夏はオロオロ狼狽えるが、千冬はこれがサラの本性かと顔をしかめる。
しかし、表情をしかめはするものの彼女がサラの乱暴を止める事はしなかった。
いつまでも上で事の成り行きを見守る政府関係者一同をもう待たせる訳にはいかなかった為であろうか。
それとも今まで自分の忠告や説得を異に返し、自分の言う事を聞かなかった箒に最早情などなくしてしまったからであろうか。
・・・誰にもブリュンヒルデの心は解らぬ。
「はぁっ・・・ハァッ・・・!」
一方、サラは期待に胸高鳴らしながら噛み締める様に一歩一歩踏み締めて紅椿との距離を時折生唾を飲みながら詰めていた。
傷みに傷んだ髪の感触と甲高い喚き声が不快感を煽るが、これも
「もうすぐ・・・もうすぐ、私の・・・・・私のものに!」
もうすぐあの艶めかしい赤い
あとは手元の
そうすれば紅椿は起動状態となる為、用済みとなった
こんな栄えある状況に彼女は平静を装うとしたが・・・
しかも装いきれずニタニタと笑みが我慢できない。
「はっ・・・はは・・・!
やっと私のものになるのね!
この時、この瞬間をどれだけ待ったかわからないわ!
ねぇ、あなたもそう思うでしょう・・・・・
脳内麻薬が溢れかえって興奮を抑えられないサラはだらしない顔をしてしまうが、ふとここで彼女は自分の手元へ目をやった。
長らく思い寄せていた男を奪われるだけでなく、愛機として共に戦場を駆っていた機体をこれから目の前で奪われる女を見たかったからだ。
絶望と無力感に陥れられる悲哀に満ち満ちた顔を見たかったからだ。
その顔を見てサラは勝ち誇りたかった。歪んだ喜びに浸りたかった。
「―――――あハっ♪」
「・・・・・ハ??」
サラは箒の顔を見て戸惑った。
涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃとなり、乱暴に頭髪を鷲掴みにされている筈の女がしていい顔ではなかったからだ。
まるで
・・・話は変わるが、ISの発明者である篠ノ之 束が実妹たる箒の為だけに直々に開発した第四世代ISたる紅椿は無段階移行なるシステムが組み込まれていた。
これは蓄積経験値により性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行われる他、高度な操縦支援システムを備えており、操縦者に依存しない機動性能を持つシステムである。
難しい話をかいつまんで説明すると・・・つまりは、パイロットの指示によってある程度は機体が
そして、このシステムを未だ機体解析処理を終えていない倉持技研が知る由もなかった。
「ッ、ウェルキン!
すぐに紅椿から離れろ!!」
「え・・・ッ?」
何かを察した千冬の声が投げかけられるが、その声の内容をサラが理解するよりも早く箒の声が叫ぶ。
「今だッ、
〈・・・その言葉を待っていたわ、箒〉
ザブシュッッ
「・・・へッ?」
一体自分の身に何が起こったのかとサラが振り返って下を見れば、そこには一振りの刀があった。
ずっぷしと自分の体を刺し貫く一振りの刃があった。
「ど、ど・・・どうして?
ど・・・どうしてよ、アヴィ―――――」
〈気安く名前を呼ばないでくれる?
この
疑問文が最後まで紡がれる前にパイロットのいない筈の紅椿がサラを足蹴にする。
さすれば、刀を引き抜かれたサラは下腹部と口から血を噴き出しつつ床へと蹴り飛ばされてしまう。
「ッ、さ・・・サラァアア!!?」
突然起こった紅椿の
恋人が目の前で刺し貫かれ、更に足蹴にされれば思わず声も上げてしまうのは当然だ。
しかし、その声を他所に紅椿は未だ血の付いた刀で箒の拘束を解けば、そのまま彼女へ纏われた。
「あぁ・・・あぁッ!
やっと、やっとやっと・・・やっと!
やっとお前を取り戻したぞ、紅椿!!
あとは・・・・・ふふっ」
自らの機体を取り返した箒は、ご機嫌気分で機体表面を愛しそうに撫でる。
・・・だが、これで満足する彼女ではない。
本当に
「さぁ、一夏・・・お前を
「箒ッ、お前ぇえええええええ!!」
刃の血で口紅をつけて微笑んだ箒に対し、一夏は怨嗟の声を轟かすや否や、自らの専用機たる白式を展開するのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
『ベートーヴェン捏造』
こんな・・・こんな「ぼくのかんがえた、りそうのベートーヴェン」みたいなほぼ同人誌を伝記として勝手に出版した人がいるってマジ!?
あと、個人的には出番少なかったけどエンケンさんとイノッチさんがいい味だしてました。
…ワンサマー氏と和解すべきだと思う人ー?
-
はーい!!(^^)/
-
えー!?(・_・;)