第三アリーナでの乱闘を出まかせで何とか阻止し、結局いつもと同じようなハード訓練を受けた春樹のHPはMP共々風前の灯。
そんな灰になりかけの彼を救うように正午を告げる鐘の音が鳴り響いた。
その音を聞いた春樹は即座に昼休憩をラウラに進言。ラウラは少し眉をひそめたが、ため息混じりに彼の言葉を飲んだ。
そして、時計の針が十二を少し過ぎる頃。春樹はラウラを連れて食堂に来ていた。
「ささ、どうぞ此方に少佐殿」
「・・・うむ」
春樹はラウラを席までエスコートすると自分と彼女の分の昼食を配膳し、真向かいに座った。
「・・・おい、清瀬二等兵」
「なんですか、少佐殿?」
「これは何だ?」
ラウラが目を向けたのは、春樹と自分の配膳にある白い食べ物。
それは丸っこい形をしており、ほのかに甘い香りがした。
「あぁ、大福っていう日本のお菓子ですよ。やっぱり、疲れた時には甘い物がええですけんね」
「・・・そうか」
ぶっきらぼうにそう答えるラウラ。
だが、食事の最後にその大福を食べてみるとアラ不思議。驚きと共に自然な笑みが零れたのだ。
「(可愛え・・・ッ。特に表情に出さないように、口角をピクピク我慢している所がまた一段と良え!)い、いかがですか少佐殿?」
「う、うむッ。わ・・・悪くはないな」
「あの・・・良かったら、俺の大福も食べます? こっちはクリームと苺が丸々一つ入ってますで」
「い・・・いいのか?」
「はい。少佐殿には、第三アリーナで庇ってもらたんで、どうぞ」
「な、なら・・・遠慮なく貰うぞ」
少し戸惑いながらも春樹が差し出した大福を手に取ってほうばるラウラ。
その彼女の表情に「可愛いッ、圧倒的癒し!」とばかりに心のイイネボタンを連打する春樹。
二人の周りにいた生徒達も怪訝な目から一転、温かく見守るような視線を送っていた。
「あ。お茶要ります、少佐殿?」
「むぐむぐ。うむ、貰おうか」
正直、春樹はもう逃げ出したかった。
寝る時裸族系軍属美少女との生活は、十代の肉体的にも精神的にキツイ。かと言ってストレス解消の酒も制限されている。
だが、それでもラウラの強制的ドイツ軍式基礎訓練から逃げ出さなかったのは、時折見せる彼女のホンワカした表情を特等席で見る為だ。
「ん? 清瀬二等兵、どうして貴様は目頭を押さえているのだ?」
「うぅ、グす・・・なんでもありません、少佐殿」
涙で視界がぼやけるのを隠しながら、春樹はほうじ茶を一気に呷る。
・・・結構熱くて、舌を火傷したが。
「あの・・・清瀬、ここいいかな?」
「・・・あ”?」
そんな表情を一気に酷く歪ませる人物が彼に語り掛けて来た。
「むッ。お前は、シャルル・デュノア」
「こんにちは、ボーデヴィッヒさん。ここ良いかな?」
そう言うとシャルル・デュノアは春樹の隣に座った。
すると先程まで情けない顔をしていた春樹は眉間に皺を寄せたまま席から立ち上がる。
「・・・待って」
「・・・」
「待ってよ、清瀬!」
そのまま立ち去ろうとする春樹の腕を掴むシャルロット。
しかし、春樹はその掴まれた腕を乱暴に振りほどいたのだった。
「すいません、少佐殿。少し気分を害しました。短い時間ですが、単独行動を取らせていただいても?」
「・・・許可してやろう」
「感謝します」
「ッ・・・清瀬!」
再び立ち去ろうとする春樹の腕を掴もうとするシャルロット。
「触るんじゃねぇよ」
「・・・清瀬・・・ッ」
しかし、春樹は鋭い眼光で拒否を示し、シャルロットを後ろに退かせた。
悲しい顔を浮かべるシャルロット
「清瀬、お前ぇ・・・ッ!!」
「はあぁッ、ッチ・・・やっぱりか」
声のする方を見るとそこにいたのは、怖い顔をした一夏の姿だった。
彼の登場に春樹は溜息と共にギリリッと歯を噛み締めた。
「お前、またシャルに何かしたのか?!」
「はぁ・・・違うっちゃに。デュノアさんが腕を掴んできたけん、振り払ったんじゃ。一々、難癖かけて来んなや。鬱陶しいのぉッ」
「お前・・・!」
今にも掴みかかりそうな勢いで睨みを利かせる一夏に「ヤレヤレ」と言わんばかりの溜息を吐く春樹。
実を言うと、もうこのやり取りは今回を入れて三回目となる。
突然、部屋を出て行った春樹と話がしたいシャルロット。
自分には、もう関わりが無いからと拒否する春樹。
シャルロットの秘密を知りながら、なんの事も起こそうとしない春樹に憤る一夏。
三人の思惑が交差し合い、思わぬ形へと歪んでいっていたのだ。
「また、やってる。やっぱり・・・三角関係ッ?」
「一シャル? 春シャル? デュノア君を巡る戦いッ?? 薄い本が厚くなる!」
「どっちにしても美味しい・・・私、気になります!!」
これには外野もあらぬ妄想を膨らませるばかり。
「織斑 一夏・・・ッ!」
と、ここで第三者が立ち上がる。勿論の事、ラウラだ。
彼女は今にも自身のISを展開しそうな勢いで一夏を睨む。
今までこういう状況になった時はラウラがいなかった為、春樹は「あ、しもうた」と口をへの字に曲げる。
普段の彼ならば「やっちまえ!」と声援を送りたくなるが、生憎と時と場合と状況がマズい。
彼女がこんな密集地で問題を起こせば、理不尽な連帯責任が自分にも掛かって来るからだ。
「あ~もうッッ・・・失礼します、少佐殿!」
「む? なッ!!?」
「じゃあ、ご馳走様でしたーッ!」
呆れた口調で一呼吸置いた春樹は、ラウラを米俵スタイルで担ぎ上げるとジョセフ・ジョースターよろしく、さっさとその場から立ち去るのだった。
「あッ! あいつ・・・また逃げやがって・・・!」
「清瀬・・・」
◆◆◆◆◆
「逃ぃげるんだよぉお~!」とばかりに食堂から退散した俺と少佐殿は、あの駄目バナ野郎が知らないであろう木陰の場所に来ていた。
「ゼェ・・・はぁッ・・・食って直ぐに走るもんじゃあねぇのぉ・・・!」
「おい、清瀬二等兵。そろそろ降ろせ」
「あッ、はい」
そう言えば、少佐殿をおコメ様抱っこしとるんじゃった。
つーか、少佐殿軽すぎと違う? じーちゃんばーちゃん家で担いだ米俵の方が重いでよ。
・・・なんか俺、この人にもっと食わさにゃあおえん気がする。
「清瀬二等兵・・・貴様どうして私を担ぎ上げて退却した?」
あなや~・・・少佐殿は何だかご立腹だぞ、清瀬二等兵。
あー・・・逃げても逃げなくても面倒なのね・・・。
「はい。あそこで面倒事を起こすと今度の学年別トーナメントに支障をきたすと思い、退却した所存であります」
「・・・そうか。他に他意はないのだな?」
「はい」
・・・と、言うたが・・・実はある。
あの時、少佐殿は駄目な方のバナージを睨んだ。憎しみが籠った眼で睨みよった。
やっぱりまだ、少佐殿は織斑を怨んどる。無自覚じゃけど、心の根っこに怨念が渦巻いとるでよ。
そんな状態で暴れ回られたら、怪我人どころの話じゃ済まん。
じゃけぇ、逃げたんじゃ。
「・・・なんで、少佐殿は織斑先生に”こだわる”んですか?」
「・・・なに?」
あれ? マズったか?
なんか凄い目で睨みょうるんじゃけど?
「どうして、そんな事を聞く?」
「いや・・・ただ単純な好奇心ですよ。どうして少佐殿が其れ程までこだわるのかが、気になったんです」
ただ単純に恩返しで教えを受けただけで、少佐殿があそこまでの魅了されたとは考えにくい。
なんかもっと別な事情があるんだろうと思っとったんじゃけど・・・どーやら、えろう面倒臭いもんに口挟んじんまったようじゃ。
口は災いの元と言うが・・・ホントじゃのぉ。
「・・・『好奇心は猫を殺す』という言葉があるそうだな?」
「あなや~・・・そりゃあダメですね。俺、ニャンコ好きじゃし」
なるほど・・・もしかしなくても、少佐殿には地雷じゃったようじゃ。
赤いアルビノのウサギみたいな目で俺を睨んどるでよ。
「じゃったら、質問を変えます。・・・少佐殿は何のために強うなりたいんですか?」
「・・・?」
おおッ!
可愛い顔がキョトンとして、首を斜めに傾げたで!!
良えッ、実に良え! 実にウィーネッ!!
「いや、話が脱線しとるで俺氏」
「なにを言ってるんだ貴様は?」
そうですね。なに言ってるんじゃろうか俺は?
疲れすぎて、思考力があらぬ方向に突き抜けとるでよ。
なんじゃよ・・・『何のために強うなりたいんですか?』って、ラノベにある臭い台詞かよ。
・・・あぁ、そーいやぁこの世界ってラノベじゃった。
忘れとったわぁ・・・・・萎えるわぁ~。
「貴様はコロコロと表情を変えているが・・・なにか変なモノでも食べたのか?」
ありゃま。あの厳しい少佐殿が少しだけじゃが、俺を心配してくれようる。
主にアンタの訓練のせいで疲労困憊じゃけどなッ!
「いえ、大丈夫です。それで、どうして少佐殿はそんなに強くなりたいんですか?」
「どうして・・・? 愚問だな。力とは、強くなるためにあるものだ。与えられた力ならば、猶更!」
「何の為に?」
「・・・なに?」
「何の為に強くなるんですか? 少佐殿は、充分強いじゃないですか。第三アリーナで俺が止めなけりゃ、凰さんを完膚なきまでにボコボコに出来たでしょう? それにその年で、『少佐』なんていう軍部でも出世コースまっしぐらな良え地位におる。・・・これ以上、貴女は何を求めるんですか?」
「私は・・・・・」
あら、黙っちまったでよ。
何か思う節でもあったんかな?
あと関係ないけど、少佐殿になんか既視感があるなと思っとったが・・・こりゃああのキャラじゃ。
『文豪ストレイドッグス』に出て来る『芥川 龍之介』じゃ。一人称が『僕』と書いて、『やつがれ』って言うキャラじゃ。
なら、織斑先生はあの”青鯖野郎”か。
異能名が『人間失格』じゃけん、当たらずも遠からずじゃのぉ。
「阿破破破破破ッ!!」
「ッ! な、なんだ貴様いきなり!」
「いえいえ。なんだか、意地悪な質問をしてしまったようなので。困った顔をしていましたよ」
「・・・」
「そう睨まんでください。私が悪うございました。でも・・・あまり想い詰めんでください。貴女は貴女、ラウラ・ボーデヴィッヒという人間なんですからね」
「? 本当に貴様は、さっきから何を訳の解らない事を言っているんだ?」
「阿ッ破ッ破ッ破ッ!!・・・えぇ、ホントに何言ってるんでしょうね・・・」
「お・・・おい、本当に大丈夫か清瀬二等兵?」
・・・なんか、さっきから感情の起伏が激しい。
お腹もなんかキリキリするし、頭もギリギリする。・・・・・酒飲みたい。
「ハイッ! ダイジョウブデスダヨ、少佐殿!! もう学年別トーナメントまでに日もありませんし、早速訓練に移りまショウタイム!! ”『パトリック・ジェーン』と『テレサ・リズボン』”みたいに、”『ハーヴィー・スペクター』と『マイク・ロス』”みたいに、ヤツらに俺達のコンビネーションを見せてやりましょうッ! 俺達がIS学園の『新双黒』です!!」
「・・・誰だそれは?」
ありゃ・・・例えが悪かったか?
じゃったら・・・なんじゃろう? 少佐殿はドイツの軍人さんじゃし・・・・・あれじゃな。
「俺達が、”『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』と『エルンスト・ガーデルマン』”みたいな黄金コンビです!!」
イェーいッ!!
ストレスで、テンションまでもがおかしゅうなってしもうたでよ!!
これも全部、織斑 一夏ってヤツのせいじゃッ!
「そうと決まれば、やってやるじゃッ!! あの駄目バナ野郎をズタズタにして、ワインで煮込んで喰ってやるぅううッ!!」
「・・・・・私は、訓練を間違えたか?」
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆