学年別トーナメントが始まって、数日。
各選手がしのぎを削り合いながらも、ついに残り四組と言った具合まで進んだ。
猪突猛進の猪武者の相棒を絶妙にフォローしながら勝ち残った、一夏・シャルロットペア。
極めて高い機体スペックを息の合ったテクニックと共に上手く乗りこなして来たセシリア・鈴ペア。
訓練機でありながらも、巧みな攻撃と突撃で勝利を積み重ねた箒・本音ペア。
そして・・・。
「さてと・・・それじゃあ行きますかね、少佐殿」
「うむ!」
専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載された『停止結界』というチート兵器で敵を倒し、獣のような動きと凶暴性で敵を文字通り再起不能にして来たラウラ・春樹ペア。
彼等は遂に逢い見え、決着を着けるのだ。
◆◆◆
≪さぁ、遂に学年別トーナメントも最終日となりました!≫
≪これから行われる準決勝の前に、こちらで選手を紹介したいと思います!!≫
実況のアナウンスと共に観客が大いに盛り上がる。
決勝戦でもないのに、どうしてこのような展開になっているのか。
それはこの準決勝第一試合が『織斑 一夏:シャルル・デュノア VS ラウラ・ボーデヴィッヒ:清瀬 春樹』だからである。
食堂での一件を新聞部所属の薫子が虚実交えて書いたオモシロ記事が学園全体で話題となり、色んな意味での実質の決勝戦となったのである。
≪では、まずこの人!≫
≪世界初の男性IS操縦者にして、あの世界最強のブリュンヒルデである織斑 千冬先生から受け継いだ剣でたたっ斬る! 皆の王子様、織斑一夏!!≫
『『『ワァアアアアアッ!!』』』
実況が言い終えると出撃ピットから白式を纏った一夏が観客席の声援と共に飛び出す。
≪続きまして、世界で三人目の男性IS操縦者!≫
≪甘いマスクと守ってあげたくなる雰囲気に女生徒達のみならず、教員までもがメロメロ! フランスが生んだ貴公子、シャルル・デュノア!!≫
『『『キャァアアアッ!!』』』
先刻と同じように今度は黄色い声援と共に出撃ピットから飛び出すシャルロット。
≪次はこの王子様系の二人と対戦する選手・・・その一人!≫
≪冷たい態度から、ほんのちょっぴり見せる可愛らしい姿に皆はギャップ萌え! 魅惑のドイツの戦乙女、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!》
『『『ワァアアアアアッ!!』』』
出撃ピットからおもむろに顔出すラウラに意外にも熱気の歓声が贈られる。
何故かと言うとここ最近、春樹がラウラにこぞって美味しいものを与えていたことがキッカケで、愛らしい彼女を愛でるファンクラブができていたのだ。
≪そして・・・行きましょうか!≫
≪はい!・・・不気味で奇妙な笑い声をあげて、ヤツが遂に降臨する!!≫
≪対戦者たちの心に大きなトラウマを植え付けた暴虐と残虐のケダモノ・・・いや狂戦士、清瀬 春樹!!≫
『『『・・・・・』』』
実況が言い終えると出撃ピットから、黒く塗装しなおされたラファール・リヴァイヴを纏った春樹が飛び出す。
しかし、他の三人とは違い、観客席からの声援はない。
逆に異様なモノでも見るかのような畏怖の視線が彼に降り注がれる。
「おんやぁー・・・こいつは吃驚。だいぶ俺も有名人だねぇ・・・妙な目で見られとらぁ」
春樹自身、自覚はあった。
この場に来るまで、多くの対戦者を冬眠しないヒグマのような凶暴さで再起不能にして来たからだ。
一夏やシャルロット、ラウラが羨望の対象ならば、春樹はもう恐怖の対象だ。
「決着をつけるぞ、清瀬!」
「おー怖い怖い。俺、オメェになんか気に障る事でもしたかのぉ?」
「とぼけるなよ! いつも肝心な時に逃げやがってッ!」
「ちょっかいを出して来たのは、デュノアさんの方なんじゃけどなぁ。・・・難癖付けるんも大概しんさいよ」
「清瀬ぇッ!!」
「”さん”を付けぇや、この鈍感野郎がッ!」
≪おーっと、織斑選手に清瀬選手! 試合開始前から臨戦態勢だぁ!!≫
≪一人の貴公子を巡る、王子と獣の戦い・・・滾りますね≫
鋭い眼光を向ける一夏と歯を剥き出しにして「ガルルルル」と威嚇する春樹。
二人から放たれる殺気が、会場に緊張感をもたらす。
「おい、清瀬二等兵。そろそろ・・・」
「えぇッ・・・わかっとりますよ少佐殿。・・・ッケ」
「あの野郎・・・!」
ラウラに呼ばれ、背を向けながら一夏に中指を立てる春樹。
観客席の誰もが、今まで以上の戦闘になるだろうと確信の固唾を飲み込んだ。
≪そ、それでは準決勝第一試合まで五秒前!≫
≪三・・・二・・・一・・・ッ!≫
ビィイ―――ッ!!
ゼロのカウントと共に試合開始を告げるブザーが会場内に鳴り響き―――
「ウオォオオオオオッ!!」
「う”るぉオオアアアッ!!」
―――同時に白と黒のISが中央へ雄叫びを上げながら飛び出して行った。
≪おおっと! 織斑選手と清瀬選手、ブザーと共に一斉に飛び出した! このままではアリーナ中央での激突は免れませんッ、いきなりの大衝突だぁ!!≫
『『『オオオオオッ!!』』』
開始早々にして場を盛り上げる展開に実況と観客の興奮も一気に加速する。
しかしッ。
「・・・阿破破破ッ」
「!」
正面衝突の寸前、春樹は不敵な笑みを溢しながら左手を前に突き出す。
その手の中には安全装置の外れたグレネードが握られていた。
「なッ!!?」
驚いた一夏は爆発に巻き込まれまいと急ブレーキをかける。
それが春樹の狙いだとは知らずに。
ビキャァアアッン!!
「うわッッ!!?」
急ブレーキをかけた一夏の目の前は一瞬にして真っ白な光と甲高い音に包まれる。
春樹の手の中にあったのは、目くらましのスタングレネードだったのだ。
「あらよっとッ!」
「な、なにッ!?」
そのまま春樹は立ち止まった一夏の頭上を通り過ぎ―――
「・・・へッ?」
「おんどりゃあアアッ!!」
―――餓えた獣のように後方支援で控えていたシャルロット目掛けて突進する。
「うわぁあああああッ!!?」
ドグォオオオッン!!
勿論。この予期せぬ攻撃に対処が追い付かなかったシャルロットは、まともに春樹の頭突きを喰らい、そのまま諸共アリーナの壁に凄まじい衝突音を轟かせながら激突したのだった。
「シャルッ!!」
突然の目くらましに戸惑いながらも、攻撃を受けたシャルロットを救助しようと身体を反転させる一夏。
これが、またしても彼等の策にはまる。
「余所見とは・・・余裕だなッ!!」
「えッ?―――ガギャアアッン!―――ぐぁあああッ!!?」
春樹の後ろを追っていたラウラの重い斬撃が一夏の背後を襲い、そのまま地面に叩きつけるのだった。
≪こ・・・これはどうした事かぁ?! 織斑選手と清瀬選手がぶつかる寸前に一瞬ピカッとしたと思ったら、ボーデヴィッヒ選手が織斑選手に先制攻撃ィイ!!≫
≪一方の清瀬選手は、デュノア選手と共に土煙の中! 一体何がどうなっているぅう?!!≫
ザワザワと観客席にも混乱が広がる。
だが、これが春樹とラウラが編み出した作戦である。
この準決勝以前のこれまでの試合では、猪突猛進の一夏をカバーするようにシャルロットが後方支援の為に動いていた。
ラウラのバックアップしようと決めていた春樹は、存分に一夏と戦ってもらう為に邪魔なシャルロットをいの一番に潰そうと決めていたのだ。
「う”るゥウア”ア”あ”ッ!!」
「ぐぅう・・・ッ!!」
ドガッ、バキッ!といった酷く鈍い音がアリーナに木魂する。
春樹は壁にめり込んだシャルロットの上半身をこれでもかとライフルの肩当でフルパワーの滅多打ちにし、SEゲージを減らしていく。
「こ、このぉお!!」
「ッ!」
連続殴打の隙を突いて、手元のサブマシンガンをズガガガッ!と連射するシャルロット。
しかし、それは春樹が瞬時に土煙を晴らす様に彼女から離れた事で、弾丸達はあらぬ方向へと飛んで行ってしまうのだった。
「阿”ア”あ”ぁぁ・・・ッ!」
軽くイッてしまっている眼でシャルロットを眼前に捉える春樹。
正にその姿はISの色合いからも獣といった具合であり、観客席からは悲鳴を上げる者も少なからずいた。
実を言うと、彼はこの試合前にラウラに内緒で残った味醂をたいらげてしまっていたのだ。しかも、原液のまま。
だから、春樹は少し酔っている。ほろ酔い気分である為、脳内麻薬がドバドバ出ている。
「・・・ふふッ」
「・・・阿?」
≪おっとここでシャルル選手が何故かほくそ笑んだ! 野獣と化した清瀬選手に何か秘策でもあるのか~?!!≫
実況の言うように、シャルロットは何故かほくそ笑んだ。それはとても自分を狙っている獣を前にするような表情ではなかった。浮かれたような、喜びのニヤケ顔ともとれる表情だった。
これには気分が昂っている春樹も疑問符を浮かべずにはいられない。
「なんで笑っとるんじゃ、デュノアさん? まだ余裕ってか?」
「ふふふッ・・・違う、違うよ清瀬。ボクはね、嬉しいんだ」
「・・・・・は?」
シャルロットの言葉に目が点になる春樹。
「あの日からボクを避けるようになった君が・・・今、ボクを見てくれている。ボクを追って来てくれている。こんな形だけど・・・ボクはそれが嬉しいんだ!」
朗らかな弾む表情でそう話すシャルロット。
だが、その目は明らかに違った。明らかにハイライトが仕事を放棄していた。
この数日間で、シャルロットの春樹に対する思いは”異質化”していたのだった。
「なるほどのぉ・・・なら、とっとと倒れるか、降参しちゃあくれんか? そしたら、俺もかなり嬉しいんじゃけんどのぉ」
「ダメだよ、清瀬・・・ううん、”春樹”。嬉しい事は長続きして欲しいじゃないか!!」
「・・・下の名前で呼ぶことを、許可した覚えはないぞ”デュノア”!!」
ジャキリッとほぼ同時に銃火器を構える二人。
一方は『歓喜』の表情で。一方は『嫌悪』で引き金を絞る二人。
そして、そこからゲリラ豪雨のような銃撃戦が始まるかと誰もが思っていた・・・・・その時だった。
「う、うわぁあああアアアAAッ!!?」
『『『ッッ!!?』』』
ラウラの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』の全身に赤い電が奔り、黒いコールタールのようなものが彼女全体を悲鳴にも似た絶叫と共に包み込むのだった。
「・・・阿”ッ?」
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆