”時”は少し巻き戻る。
「そこを・・・退けェエエッ!!」
春樹の目くらましによる戦術で、背後からラウラの重い一撃を負ってしまった一夏。
しかし、流石はあのブリュンヒルデの弟か。
すぐに体勢を整え、襲われているシャルロットを助け出さんと駆けた。
「ふんッ・・・退かせて見せろ、この”ダメバナ”がぁ!!」
されどそんな彼の前に立ちはだかるわ、銀髪の戦乙女ラウラ・ボーデヴィッヒ。
当初の約束通り、彼女は春樹がシャルロットを抑えている間に存分に一夏を叩きのめさんと凄まじい斬撃を繰り出す。
・・・因みに。
『ダメバナ』は春樹がいつも言うモノだから、うつった。
「デヤァアアアッ!!」
「ハァアアアアッ!!」
ガキンッガギン!と火花散る鍔迫り合いが幾重にも合わさる。
まさに息を飲むような接戦。
だが、その平行線を打ち崩さんと先に動いたのはラウラだ。
「なッ!!?」
『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』、通称名『AIC』。ラウラ自身、『停止結界』と呼称するチート兵器である。
対象を任意に”停止”させることが出来る之を一対一で対する一夏に使用したのである。
これにより、一夏の専用機である『白式』は動作停止を余儀なくされてしまった。
「ウォオオオオオッ!!」
ズシャシャアッン!
「ぐぅああアアッ!!」
其処から始まったのは、一部の隙を見せぬ斬撃の嵐。
「この時をどれ程待っていたか!」とばかりに左から右へ、上から下へ。ワイヤーブレードの黒き刃が白い装甲に何度も何度も傷つけた。
「これで・・・終わりだぁああッ!!」
そして、最後のトドメとばかりに動けない一夏の頭上にプラズマ手刀を突き立てんと振り上げる。
このままこの攻撃が通れば、確実に一夏を仕留める事が出来た。
・・・そう”出来た”だ。
何故ここで過去形を使うのか。・・・それは―――
「―――ッ、ウオォオオオオオッ!!」
「なにッッ!?」
―――プラズマ手刀を振り下ろす瞬間、AICを維持するためのラウラの集中力が一瞬だけ途切れた。
ほんの一瞬。一秒にも満たないその瞬間を、一夏は見逃さなかった。
「あぁああぁッ!!?」
蒼白い炎を纏った雪片弐型がラウラの脇腹に当たる。
『零落白夜』。対象のエネルギーをすべてを消滅させる白式の単一仕様能力にして、一撃必殺の奥の手だ。
自身のシールドエネルギーを消費して稼動する為、使用時に自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもあるが、この状況を打開するには十分であった。
「オオオオオッ!!」
ズバシャァアアッン!!
ラウラの脇腹に当たった刃を振り切る一夏。
余りにも反射的で、直感的なために力の加減などは一切できていない。
一夏はそのまま最大出力でラウラを斬りはらった。
「シャル!!」
斬撃の勢いのまま、倒れるラウラと交差するように飛び出す一夏。
そんな自分には目もくれない彼を横目にラウラの視界は暗くなっていく。
「(・・・何故だ)」
ラウラはひたすら悔しがった。
「(何故、私があのような男にッ・・・!!)」
その悔しさはいつの間にか怒りに代わり、そして困惑と絶望へと変貌する。
「失望したぞ」
「問題ばかり起こして結果はこれか」
「二度と私の前に現れるな」
ありもしない幻聴が千冬の言葉でラウラの鼓膜を震わせる。
「(・・・・・だ・・・やだ・・・いやだッ、嫌だ!!)」
彼女の中に溜まっていた負の感情がドンドン溢れ、ビキビキと音を発てて心にヒビを付ける。
「(寄越せッ・・・寄越せ! 私に力を寄越せ!! 絶対的な力を寄越せッ!!)」
ブチリッ
≪『Valkyrie Trace System』―――起動≫
そして、その感情に答える様に無機質な機械音声とどす黒い何かが彼女の全身を覆うのだった。
◆◆◆
「う、うわぁあああアアアAAッ!!?」
『『『ッ!!?』』』
≪こ、これはどういった展開かぁッ?! 織斑選手の単一能力『零落白夜』を受けたボーデヴィッヒ選手の全身が何やら黒いもので侵食されていくぅ!!≫
身を裂かんばかりの突然の絶叫に会場全体に動揺が走る。
最初は、試合を盛り上げるための演出などと思っていた者も少なからずいたが、その耳を貫く叫びと苦し身悶えるラウラの姿に只事ではないと悟った。
「まさか・・・あれは『ヴァルキリー・トレース・システム』・・・ッ!?」
「お・・・織斑先生、それって・・・ッ!!」
管制室にいる千冬はラウラを侵食する黒いものの正体に気付き、彼女の言葉に山田教諭は顔を青くした。
『ヴァルキリー・トレース・システム』。通称『VTS』。
過去の『モンド・グロッソ』覇者の動きをトレースするシステムで、操縦者にかなりの負担と悪影響を及ぼす事からIS条約により全面禁止されている危険物である。
「山田先生ッ、避難勧告を! 早く!!」
「はッ、はい!!」
「(ラウラ・・・お前は私を・・・私を望んだのか?)」
山田教諭に指示を出した千冬は、変貌していくラウラを見ながらギリリと歯を喰いしばった。
◆◆◆
「な・・・なにあれ・・・ッ?」
人ではない何か別なものに変わって行くラウラの姿に先程まで戦っていたシャルロットは呆然とする。
彼女はそのあまりに異様な姿に、これから起きるであろう惨劇を危惧した。
「・・・はぁ~・・・ッ」
一方、春樹はその姿に何故か溜息を漏らした。
まるで、美しいものにでも見惚れるかのような感嘆の息を吐いたのだ。
「・・・よし」
「え・・・ちょっと、春樹?」
そして、呼吸を整えると春樹はシャルロットの方を向き―――
「う”ろぉあ”あ”ア”ア”ア”!!」
「春樹ぃいいッ!!?」
―――何事もなかったかのように再びシャルロットに襲い掛かった。
「とっととクタバりんせぇや!!」
「うわッ!?」
ガギィッン!と放たれた確実にダメージを与える為のナイフによる刺突攻撃を展開した盾で防御するシャルロット。
同じラファール・リヴァイヴとは言え、彼女は春樹に押されていた。
「は、春樹ッ! 今がどういう状況下わかってるの?!!」
「わかっとるよ。あねーな隠し玉をペアの俺にも今まで秘密にしとった言うんは残念じゃ・・・」
「そう言う事じゃなくて―――「じぇけどなぁッ、あーなろうがこーなろうが織斑の野郎を潰す事に変わりはねぇんじゃ!!」―――はぁッ!?」
「さっさと再起不能になりぃや! 俺もアイツの顔の皮を剥ぎとうなったんじゃ!!」
ギリギリと更に力を強める春樹。
もう彼の思考はあるシンプルな事に支配されていた。『敵を潰す』というシンプルな答えに。
「清瀬ェエエッ!!」
「阿”ッ?」
その彼の後ろから、未だラウラの変化に気づいていない一夏が雪片を構えて突貫して来る。
「邪魔するんじゃねぇわ、このおわんごがぁあッ!!」
「え、ちょッ!?」
突貫して来る彼に気づいた春樹は、自らの攻撃を防御しているシャルロットの腕をガシリと掴むと、そのまま力一杯に向かって来る一夏に投げつけた。
「キャァアアアッ!!?」
「なぁああああッ!!?」
酷く鈍いガシャァアン!という音と共にアリーナ中央で衝突する一夏とシャルロット。
「だ・・・大丈夫、一夏ッ?」
「あ・・・アイツ、この・・・―――って、なんだあれ?!!」
ぶつかった衝撃に頭を抑えながらも立ち上がる二人。
心配するシャルロットを横目に一夏は漸くラウラの異変に気付いた。
「ガル”ル”ル”ル”ル”!!」
「・・・・・」
「い、一体何がどうなって・・・「細かい話は後だよ、一夏! 早く逃げないと!!」―――うわッ!?」
コールタールのような黒い液体に侵食されつつ未だ沈黙するラウラ。
歯を剥き出しにし、餓えた獣のように唸りを上げる酔っ払いの春樹。
こんな危険な状況から逃れようとシャルロットは一夏を担ぎ上げた・・・その時。
「う”るぉおア”ア”ア”ア”ア”ッ!!」
「「!!」」
完全に思考と眼がイッてしまっている春樹がライフルをバットのように構え、瞬時加速のままに襲い掛かって来た。
「(ダメッ、間に合わない!!)」
反応が遅れたシャルロットは思わず目を閉じる。
・・・しかし。
ズギャァアアッン!
「ぶゲラぁああッ!!?」
「・・・えッ?」
なんと、飛び出して来た筈の春樹が何故かアリーナ壁際まで吹き飛ばされたのである。
このよくわからない状況にただ疑問符を浮かべる事しか出来ないシャルロット。
「あ・・・あれは・・・!」
ただ一夏は違った。
彼の目の前には、襲い掛かって来た春樹を吹き飛ばした相手が立っていたからだ。
「千冬・・・姉?」
二人の前に立っていたのは、黒いISを身に纏った世界最強のブリュンヒルデ『織斑 千冬』・・・ではなく。
「・・・・・」
真っ黒に凝り固まった人型のISだった。
「この野郎・・・なにすんじゃ、ボケェ!!」
「春樹!」
変わり果てたラウラのフレンドリーファイアを物ともせず、瞬時に体勢を立て直した春樹はバギィイイッ!!とそのまま胴体部に怒りに任せた右ストレートを繰り出す。
「って、なんじゃあ!?」
しかし、その拳を黒いISは受けるどころか。まるでスライムのように飲み込んでしまったのである。
「なんじゃな、こりゃあ! ぬ、抜けねぇでよ!! って、のわ!!?」
「は、春樹!」
そして、黒いISは彼の右腕だけでなく、身体から伸ばした得体の知れない触手で春樹の全身を飲み込んで行った。
「こ、この・・・ッ! ぬあぁああッ・・・!!」
其れは正に捕食とも取れる異常な光景であり、ジタバタと暴れる春樹を遂には平らげてしまうのだった。
「う・・・ウソだろ・・・!」
「そんな・・・春樹・・・春樹ぃいい―――ッ!!」
叫ぶシャルロットに答える春樹はおらず。その代わりに黒いISが雪片によく似た剣を二人に向けるのだった。
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆