さてと・・・元凶である織斑 一夏の素性が、織斑 ”馬”夏という事が解った所で、俺にはヤツが自分には何の利益もない事が改めて理解できた。
流石にあの鈍器のような分厚さの参考書をたったの一週間で覚えろと言う無茶ぶりには同情してやるが、『ざまぁみさらせ!』という方が内心だ。
「さて、授業の最後に一つ決めておかなければならない事がある。再来週に行われるクラス対抗戦についてだ」
授業の最後らへん、ロリ顔の山田先生に代わり、キリリとした黒髪ロングの女教師が偉そうに教壇に佇んだ。
野郎の姉であり、この世界で『世界最強』という看板を背負わされているキャラ『織斑 千冬』だ。
・・・因みに何故かは伏せるが、前の世界で俺は彼女の同人誌を所持していた。勿論、R-18の薄い本。
内容と描写、それに絵のタッチがとてもグレート。
「なんだ、質問か清瀬?」
「・・・いんえ、なんでもないです」
おっと、邪な十代の感情を察知するとは流石は最強キャラか。
「・・・まぁいい。そのクラス対抗戦の前にこのクラスの代表者を決めないといけない。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」
ほうほう、よーするにクラスの悪く言えば『雑用係』を決めるんですな。
・・・めんどくせー。こういうの俺、てんでダメだからな。
俺は前の世界と同じように目立たず、ひっそりと教室の隅っこで本に熱中する灰色の青春をおくりたい。
「自薦でも他薦でも構わない。誰かいるか?」
「はい、先生!」
・・・だから、俺の中でこう云うのにぴったしな人物を早々に出すのがいい。
「なんだ、清瀬」
「はい。俺はセシリア・オルコットさんをクラス代表に推薦します」
ここはオルコットは適任だろう。
イギリスの代表候補生で、頭脳明晰。まぁ性格に難があるが、自分を強く見せる為の虚勢を張ってんだろう。
犠せい・・・違った、『生贄』には申し分ない。
「当然ですわ」と立ち上がりそうな程、本人もまんざらではなさそうだし。
・・・・・と、思っていた時期も俺にはありました。
「えぇー、ここは織斑くんでしょー」
「空気読んでよ、二人目」
・・・・・え?
「千冬さま、私は織斑くんを推薦します!」
「私も織斑くんが良いと思います!」
「私も!」
「えッ! お、俺!?」
「この場に織斑は一人しかいないだろう」
オイオイオイオイオイ! おいマジか、マジなのか女子たち!
今さっき、野郎の低脳具合を見ただろうが!
・・・まぁ、俺的にはどっちでもいいか。生贄が金髪ドリルからダメな方のバナージに代わろうが、どっちでもいいや。
「だったら、俺は清瀬を推薦する!」
はぁ~ん、『清瀬』か。俺と同じ同姓の人いたんだな。
誰かは知らんが、俺の平穏の為に生贄となってくれや、清瀬さん。
「なにを呆けている、清瀬。お前の事だぞ」
「・・・・・ですよねー・・・」
ホントマジで、マジで織斑コノヤロウ。
マジでテメェの顔面に肘鉄を喰らわせたい、ぶっとばしたいぞコノヤロウ!!
―――――――
「納得がいきませんわ!!」
机を怒号と共に叩いたセシリア・オルコット。
その表情は怒りに満ち、軽く青筋が浮き出ている。
「そのような選出は認められませんわ!! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しです! 私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
話の流れ的に自分がクラスの皆から推薦されるのではないかと思っていた反面、皆が一夏を選んだ事に彼女は怒りを覚えたのだ。
「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! 私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で―――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」
セシリアの物言いに遂に一夏が反論する。火に油・・・いや、火薬を注ぐ物言いで。
「あ、ああ、あなたは―――ッ!!」
だから、セシリアは彼の文言に対して再び怒声を浴びせよんと口を開く。
けれども、その前に・・・・・
「おいゴラァッ、織斑・・・キサン、今なんつった?」
地を這うようなやけに低い声がした。
「え・・・き、清瀬?」
「なんつったって聞いてんだよ、コノヤロウ」
ギロリと脂ぎった眼が一夏を貫き通す。
彼の雰囲気の一転具合に教室にいる全員が静かになる。
「テメェは、なんで彼女の祖国を侮辱しやがったのかって聞いてんだよ」
「そ・・・それはアイツが日本を馬鹿にしたから!!」
「確かに、さっきの物言いは俺もカチンときた。だけど・・・だからといって彼女の祖国を侮辱していいとは言えないだろうがッ!」
「そ、それは・・・その・・・」
春樹の言葉に口籠もる一夏。
すかさず春樹はセシリアの方を向き、笑顔をうかべて言い放つ。
「いやぁ、すいませんねオルコットさん。いるんですよ、偶に。こんな後先考えない馬鹿が―――」
「ふ、ふん、そうですわね。全くこれだから極東の―――「あんたと同じような馬鹿が」―――なッ!!?」
「清瀬・・・ッ?」
薄ら笑みを浮かべて、今度はセシリアに罵詈をいう春樹。
先程とは違い、氷のように冷たい口調で諭すように。
「あなたも私の祖国を侮辱しますの?!!」
「いんや違う。俺はあんた自身を、セシリア・オルコットに対して馬鹿と言うたんじゃ」
「なんですってッ!!?」
「チャラン♪ ここで問題です!!」
再び激昂しそうになるセシリアを余所に、低い声から一転、ちゃらけた様な陽気な声を出す春樹。
場の空気が一気に彼へと注目する。
「『インフィニット・ストラトス』、通称ISの発明者とは一体誰? 代表候補生であるオルコットさんには簡単な問題でしょうが」
「そ、そんなのは誰でも知っている事ですわ! 『篠ノ之』・・・あッ・・・・・」
答えを発現しようとし、突如固まるセシリア。
気づいたからだ。自分が何を口走ってしまったのかを・・・。
「正解は『篠ノ之 束』博士でした~。・・・ん? おや、あれれ~? 不思議だな~、まるで、文化としても後進的な極東に浮かぶ島国で生まれたかのような人の名前だなぁ~?」
「う・・・うぅ・・・ッ!!」
「続いての問題です。そのISの国際大会において、世界チャンピオンとなった人物がこの教室にいます。それは一体誰でしょうか。ヒントは、今教壇の前に座っている黒髪ロングの―――――」
「やめんか」
「うげッ!!?」
スパァアッンと伝家の宝刀・出席簿が春樹の頭に炸裂。渾身の一撃を喰らった彼は、踏まれた蛙のような声を上げた。
「痛い! なにするんスか、先生!!」
「物言いがクドい。要点をかいつまんで話せ」
「・・・ッチ・・・よーするに俺が言いたいのは、あんたがどういう立場の人間か、よく考えてから言うようにしろってことだよ。お分かり? ところで織斑先生―――――」
春樹はどこかのカリブの海賊のようなジェスチャーをし、今度は千冬の方を向く。クラス代表に選出された事を辞退する為にだ。
断ろうとしても無駄だろうが、やるだけやってみようという精神で。
「・・・とう、ですわ・・・!!」
「・・・あ?」
「え?」
「決闘ですわ!!」
セシリア・オルコットは再び怒声を上げる。
ただ、先程と違った点は、彼女の眼が若干潤んでいる事だろう。
「このような辱めは、生まれて初めてです! 決闘ですわ!!」
「え、ちょッ、待っ―――――」
「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい!」
「織斑、ホントにオメェは黙ってろ!!」
戸惑う春樹を尻目に一夏はやる気満々で二つ返事をする。
「何はともあれ・・・何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこの私、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!!」
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや・・・俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと・・・」
『『『アハハハハハッ!!』』』
「はぁ~・・・まったく・・・・・ッ!!」
一夏の言葉にクラスからドッと笑い声が響く。
発言者の一夏は皆の笑い声にポカンとし、春樹は頭を抱えた。
「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君は確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
『ISがあれば女は強い』等という戯言を本気で思っている世間の声を代弁するかのように何人かが一夏に声をかける。
「・・・じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、私がハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて・・・日本の男子はジョークセンスがあるのね」
「(あ~、だめだこりゃ。流れが一気にオルコットに傾いた)」
更に頭を抱える春樹。
一夏の発言のせいで、一気に形勢は不利になってしまった。
「ねー、織斑君。今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」
「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデは無くていい」
「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ」
「だから俺は貰うぞ、ハンデ」
「清瀬!?」
春樹の言葉に何故か一夏が驚嘆する。
春樹としては、ISの知識も実技も素人以下の自分がベテランとも言える代表候補性に挑むなど、G級のティガレックスに初期装備で挑むようなものだ。
「あら、あなた意外と臆病者なんですわね。まぁ、私が相手なのですから当然でしょう」
「なんとでも言ってくれや。ま、さっきまでべそをかいていた子に言われてもドーって事ないがな」
「あ、あなたッ!!」
「そこまでだ!!」
ヒステリーを再発しそうになるセシリアを遮ったのは、千冬の鶴の一声。
騒がしかった教室も氷を割った様にピシりと静まり返る。
「クラス代表をかけての試合を来週開催する。これは決定事項だ、以上!」
「先生ェ・・・俺、やりたくねぇんですが・・・」
「お前に拒否権があると?」
「ですよねー・・・知ってました」
『フザけんな、この糞教師ッ!!』・・・と、言える訳もない春樹は結局、この決闘に巻き込まれる事となった。
・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。