IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第40話

 

 

 

「あ~・・・なんか、再始動初日からえろう疲れたのぉ」

 

一年四組への転属初日から、『冷汗の困惑』と『甘酸っぱい驚嘆』と『いつも通りの忌々しさ』と言った怒涛の出来事を味わった春樹は「やれやれ」溜息でも吐きながら帰路を歩む。

 

「まぁ、ええ。織斑の野郎と相部屋にならんようじゃし。それに・・・阿破破破ッ!」

 

されど喜ばしい事にシャルロットとの相部屋から、一人部屋へと移動した事を轡木から聞かされているので、心なしか彼の歩みは弾んでいる。

 

これでやっと誰からも邪魔されずに酒が楽しめるからだ。しかも味醂や料理酒、ましてや消毒用エタノール等と言った”紛い物”ではない本物の『酒』をだ。

 

「阿ッ破ッ破ッ破ッ! さぁ・・・待っててくりんさいよ、我が愛しのウィスキーちゃん達!」

 

春樹の歩みはやがてリズムをとったスキップへと変わり、疲労感のにじみ出る表情は嬉々とした明るい笑顔を溢し始めた。

 

「るーらるらるー♪ るーらるらるー♪・・・・・ッ阿”?」

 

しかし、そんなルンルン気分で部屋の鍵を開けようと鍵穴へ鍵を刺し込もうとした矢先。目元のサングラスを外した春樹の手が不機嫌そうな声を漏らしながら止まる。

 

何故、彼は手を止めたのか。

それは、触れようとしたドアノブの先に・・・このドアの向こう側へ”何者”かがいるといった気配が感じられたのである。

 

普通なら、こんな事は玄人筋のその道の人間でなければ気づかない。

だが、今やヴォーダン・オージェの完全適正者になってしまった春樹だからこそ気がついた。感じ取ってしまった。

 

「(・・・誰じゃ? 俺とウィスキーちゃんとの出会いを邪魔する無粋な糞タレ野郎は?)」

 

清々しい気分が、一気にムカムカしていくのが手に取るように理解できた。

大方、自分の存在価値を改めて見直した各国政府からの手先だろうと見当をつける春樹。

 

「(今更なぁ、掌返しでハニートラップを送り込んで来られてものぉ・・・)」

 

「とりあえず、一言二言文句でも言って追い出そう」と春樹はドアノブに手をかける。

すると案の定、今朝方ガッチリと締めた筈のドアはガチャリッと簡単に捻る事が出来た。

そして、ゆっくりとドアを開けると其処には・・・

 

「お帰りなさい♪ ご飯にする? お風呂にする? それとも・・・わ・た・し?」

 

あられもない姿でエプロンを纏った水色髪の人物が春樹を出迎えたのである。

 

『帰宅すると、プロポーション抜群の美少女が裸エプロンでお出迎え』なんて、世の男性陣からすれば憧れるシチュエーションではなかろうか。

そして、”もし”彼女の前にいる男性が一夏だった場合。彼なら間違いなく赤面し、アタフタ慌てふためくだろう。

・・・だが。

 

「・・・なにやりょーるんな、生徒会長閣下・・・」

 

春樹はまるでドブ川の底のように淀んだ眼で目の前の人物、IS学園生徒会長『更識 楯無』を見た。

そして、自分制服の上着を脱ぐと彼女に纏わせ一言・・・

 

「帰れ」

 

・・・と、開けっ放しにしたドアの向こうを親指で差した。

 

「ちょ・・・ちょっと、清瀬君。あまりにも冷静すぎやしないかしら? お姉さん、悲しくなっちゃう。あと、誰か来るかもしれないから、ドアを閉めてくれない?」

 

まさか、こんなにも冷ややかな反応をされるとは思ってもみなかった楯無は、戸惑いつつも春樹に声をかける。

 

「・・・聞こえんかったんか? 俺ぁ、帰れち言うたんじゃ」

 

「え・・・えーと・・・」

 

しかし、春樹は完全に聞く耳持たずで、目を見開く。

何故か淀んだ琥珀色の眼が怪しく光り、恐ろし気な雰囲気が醸し出される。

 

「ッ・・・べ・・・弁明をさせてください」

 

「・・・・・ッチ。早う、服着ぃや。・・・ッチ」

 

その凄味の圧力に堪え兼ねた楯無は、ついにギブアップ宣言を告げる。これに春樹は無遠慮な舌打ちを二回も鳴らし、部屋の外へ出て行った。

そして数分後、ノックによる合図で漸く彼は自室へ入る事が出来たのだった。

 

「・・・で。なんの用なんじゃ、キサン?」

 

「き、キサンって・・・一応、私は清瀬君よりも―――「阿”ッ?」―――・・・なんでもないです」

 

反論しようとする楯無を説き伏せ、ゴゴゴッとでも表現できそうなプレッシャーをかける春樹。

至福の時間を邪魔された時の彼の不機嫌さと言ったら、修羅の如きである。

 

「それで・・・なんの御用で? 短く纏めてください」

 

「えーと・・・端的に言うとね、あなたの護衛の為に私もここに住むのよ」

 

「・・・は?」

 

「なにを言うとるんじゃ、お前は?」と言いたげな表情に顔を歪める春樹。

だが、これも完全適応したヴォーダン・オージェの能力か。彼は頭を抑えながら唸った。

 

「あー、なるほど。・・・よーするに俺がこねーな目になっちまったけん、各国から新たに送られてくるハニトラ共から俺を守る為・・・いう事ですか?」

 

「物分かりが早くて、お姉さん嬉しいわ」

 

「へぇー、そりゃどうも。・・・つーか、学園長先生から何にも聞いていないんですけど」

 

「・・・事前に聞いたら、あなた逃げるでしょう?」

 

「勿論」

 

当たり前のようにシニカルに返答する春樹。

どう反応したものか、苦笑いを浮かべる楯無。

・・・彼が思っていた以上に偏屈で変わり者だと彼女は確信するのだった。

 

「と言うか、何故に俺なんですか? 俺よりも守るべき野郎がいるじゃないですか。あの馬鹿とか、あの馬”夏”とか」

 

「酷い言いようね。・・・確かに君よりも、織斑君の方が危機管理能力は低い。でも、彼は『あの織斑 千冬の弟』という後ろ盾がある」

 

「俺はこねーな目になる前から、後ろ盾なしで頑張ってきましたけど?」

 

「・・・・・そんな後ろ盾も何もない清瀬君を守ってあげようと―――「流すな」―――・・・ッうぅ」

 

春樹としては『本当の事』が知りたかった。

・・・と言うか。今更、守るだの護衛だのと言われても知ったこっちゃない。逆に露骨な掌返しで、むかっ腹が立つのだろう。

 

「俺が困っとった時に動かなかった輩が、護衛って・・・もっと別の思惑があるんじゃあないですか?」

 

「・・・考えすぎじゃないかしら?」

 

「変な間があったんじゃけど・・・」

 

日本政府が自分に対してどんな思惑があるのか。別段、興味関心がそれ程あるわけではない春樹は「まぁ、ええか」と考えるのをやめた。

 

「解りました。それじゃあ、出て行ってください」

 

「え!? ちょっと清瀬君、ちゃんと私の話を聞いてたッ?」

 

「聞いてましたよ。要するに他国のハニトラを寄せ付けないようにする日本政府公認の国産ハニトラでしょう?」

 

「・・・なんか棘のある言い方ね。私って、清瀬君に何かした?」

 

「デュノアの件で『何もしなかった』というのが問題ですね。それは其方も解っとると思うとりますがね。まぁ、要するに・・・あんまりにも虫が良すぎるんでさぁ。つーか俺に惚れられたかったら、その水色髪をヴァイオレットカラーにするか。ピンク色にして、狐耳を付けて下さい。俺の押しキャラはキャス狐なので」

 

「ヴァ、ヴァイオレット? それに・・・狐耳って??」

 

春樹の言う『何もしなかった』というのは、シャルロットの男装の件であろう。

事前に彼女の正体を把握していた生徒会は、事前の対策はしていても一夏に害がなかったので放置していた節があった。

それを春樹はほんのちょっぴり根に持っていたのだった。

 

「そうと解れば・・・さぁさぁ、出て行った出て行った」

 

「残念ね。こんな事したくなかったけれど・・・こうなったら!」

 

部屋主からの立ち退き要請に反するか、楯無は『実力行使』と書かれた扇子を広げる。

そんな彼女に対し、春樹は・・・

 

「・・・ッチ。わかりました、俺が出て行きます」

 

「えッ、ちょっと清瀬君!?」

 

「それでは、さようなら!」

 

そう言って春樹はすたこらサッサッと部屋から出て行く。勿論、その背を楯無は追うのだが、彼は煙のように姿を消してしまった。

鍛え抜かれた逃げ足の速さがこんな所で役に立つとは、春樹本人が一番吃驚している事だったろう。

・・・因みに。

ちゃっかり、スコッチウィスキーは懐の中に入れて逃げた模様。

 

「な・・・なんなの、あの男・・・ッ」

 

楯無は姿を消した彼に呆然としながら、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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