四組転属から三日。
俺は相も変わらず、糞真面目に授業を受けているんじゃが・・・。
俺の自室に水色髪の生徒会長が住み着いとるけん、デュノアの時と同じように部屋へ帰れず仕舞いじゃ。
・・・部屋があるようでないとは、これ如何に?
じゃけどあの人、声はストライクじゃけどな。
『物語シリーズ』の『ひたらぎ』とか、『Fate/Extra』の『キャス狐』とか。俺ぁ、結構好きなんじゃけどのぉ・・・
・・・じぇけぇって、水色はないわ。うん、ない。
「のぉ、やっぱりその髪色って遺伝? 遺伝なら劣性遺伝? それとも優勢遺伝? もしかして、まさかの突然変異色?」
「・・・知らない」
宿無しの俺のそねーなくだらん問いかけに一切興味を示してくれない簪さんは、黙々とモニター画面へ集中力を注ぎょうた。
◆◆◆◆◆
ここはIS学園に併設されているIS格納庫兼整備室。
今まで、この場所をを毎日と言って良い程に利用している生徒は簪ぐらいしかいなかった。
・・・そう、”今までは”だ
「なぁ、ここおかしゅうねぇか?」
「・・・解ってる。だから、ここをこうして・・・」
「ほぉ~ん。そねーなやり方があるんじゃのぉ」
「やっぱり、簪さんは頭がええんじゃのぉ」と一緒に打鉄弐式のモニターを春樹が感嘆詞を彼女へかける。
それに対して簪は「別に・・・これぐらい普通・・・」とぶっきらぼうに答えるが、その素振りがどこか機嫌良く見えた。
彼がこの格納庫に転がり込んで三日が経過する。
楯無との同居生活を知った春樹はすぐさま学園長である轡木に抗議したのだが、学園の意向だのなんだのと説き伏せられてしまった。
しかし、ここで「はい、そうですか」と引き下がる春樹ではない。
彼はその日の内に作業を行っている簪がいる格納庫へ赴いた。そして、簪が組み上げている専用機『打鉄弐式』への製作助力を申請した。
あの信用ならない生徒会長の鼻っ柱をへし折る為にだ。
だが、『自分一人で組み上げる』事を固く決意していた簪にあえなく断られ、ならばせめて格納庫への滞在だけでもと春樹は懇願した。
簪も自分の意志を確立してくれた彼に多少の恩を感じる節があったのか。「・・・別に構わない」と、それだけは承諾。春樹が格納庫へ滞在する事を許可した。
・・・まぁ別に格納庫には幾つかの空きスペースがあり、其処を春樹は勝手に使えば良かったのだが、一応の礼節として彼女に許可取りしたのである。
「じゃけど・・・そこを弄ったら、今度はこっちの出力が落ちるで?」
「あッ・・・」
「フッ・・・まだまだじゃねぇ、簪さん?」
「・・・むぅッ」
しかし、滞在するからには、やはり何かしなければならないのではないかと考えた春樹は専用機製作の実質的な手伝いではなく、アドバイスやサポートをする事にした。
彼の左手の甲に描かれているガンダールヴで打鉄弐式の不調箇所や欠点を探るだけではなく、IS製作で不規則になっている彼女の生活習慣の改善をだ。
「ほいじゃあキリがええけん、ここいらで夕飯に行こうやぁ。布仏さんらぁが待っとるで」
「・・・もう少しだけ、させて」
「・・・それ五分前にも聞いたでよ」
「・・・あと、五分」
「おえんちゃに。早う飯に行くでよ」
PCモニター画面の前に座り込む簪の腕を掴んで持ち上げようとする春樹だったが、予想以上の力で彼女は離れようとしない。
・・・傍から見ると、それは駄々をこねる子供を無理矢理引き連れようとする大人の姿そのものであった。
「・・・二人とも、なにをしているのだ?」
そんな二人に声をかけたのは、手に何やら大きな風呂敷と小さな巾着袋を持ち合わせたラウラだった。
彼女は春樹が四組に転属した後も、彼の事が気になってここを良く訪ねていた。
その事から、簪や彼女のルームメイトである本音とも交流するようになったのである。
「おーラウラちゃん、調度ええ所に。ちょっと、この駄々子を食堂まで持っていくの手伝ってくれんかッ? 予想外に力が強いでよ、この娘ッ」
「もうちょっと・・・あとちょっとだけだから・・・ッ!」
「そう言うて・・・君は今日の昼飯も、昨日の昼飯と夕飯を食べ損なったじゃろうがな! いつもカプ麺となんとかメイトだけじゃ、おえんって言うとるじゃろうがな!!」
ムカついた春樹が更に力を籠めるが、意地でも製作の続きがやりたい簪は依然として動かない。それどころか、カタカタと作業の続きをやり始めた。
「うむ。まるで童話の『北風と太陽』だな。春樹が北風で、簪が旅人だ」
「上手い事言うとらんで、早う手伝ってよ! って、コラッ。続きをすな!」
「フフフッ、ならば私は太陽となってやろう。手を離してやれ、春樹」
「阿?」
何か考えでもあるのかと渋々、簪から手を離す春樹。ラウラはそんな二人の前へ持って来た風呂敷包みを広げた。
「おッ、こりゃあ」
「おー・・・ッ」
紺の風呂敷に包まれていたのは、これまた立派な黒漆の三段重箱。
蓋を開けてみれば、中には美味しそうなおむすびに彩鮮やかな総菜が詰め込まれていたのである。
「ラウラちゃん、どーしたんなんこりゃあ?」
「うむ。簪を食堂まで連れて行くのは難儀だろう? それを本音に相談したら、彼女の方からお弁当だと、これを受け取ったのだ」
自分が作って来たわけでもないのに、何故か「エッヘン」と胸を張るラウラへ「そーなんか」と微笑ましい笑みを浮かべる春樹。
・・・その可愛さに彼女の頭を撫でようとする自分の右手を必死に抑えながら。
「・・・ボーデヴィッヒさん、本音は?」
「あぁ、本音は飲み物を買ってから来ると言っていたな」
「・・・そう」
「そ・・・それでだな、春樹?」
「阿ッ?」
何故か顔を薄紅色へ染め、春樹に声をかけるラウラ。
彼女はそのまま彼へ持っていた黒い巾着袋を恥ずかしそうに差し出した。
「ん? なんなん、これ?」
「え、えっとだな・・・その・・・お、お弁当だッ!」
「・・・阿”!?」
その時、春樹の身体へ雷でも落とされたかのような衝撃が走った。
「実は・・・祖国にいる部下へ”気になる人間”がいると言ったら、「まずは胃袋から攻めましょう」と言われてな」
「お、おう・・・ッ」
照れくさそうに、この弁当の経緯を説明するラウラ。
「あれ? ボーデヴィッヒさん・・・無意識に告白してる?」と簪は思ったが、彼女の性格上そこまでの出歯亀ではないので、とりあえず沈黙する。
隣で静かに慌てふためく春樹の表情を見ている方が面白いからだ。
「でも・・・まさか、こんな立派な弁当を出されるとはな。これでは私の作って来たものなど―――「そ・・・そねーな事言うなや、ラウラちゃん!!」―――・・・春樹?」
「勿論、頂くでよッ。いやー、楽しみじゃのォ!!」
「そ、そうかッ?」
早速、ラウラからの手作り弁当を受け取る春樹。
何か気恥ずかしさもあってか、早口のドギマギした様子で弁当箱を開けると・・・
「・・・阿ん?」
・・・弁当箱の中には、細かく潰された練り物のような物体が敷き積まれていたのだった。
「あのー・・・ラウラちゃん、これ何?」
「あぁッ。我が祖国、ドイツ名産のジャガイモを使ったポテトサラダだ」
「うわーお・・・見た感じ、ジャガイモだけのマッシュポテトサラダじゃねー?」
「うむッ。口に合うと良いのだが・・・」
弁当箱の中身を見て、簪はつい吹き出しそうになったが我慢した。
一方、彼女が甲斐甲斐しく作って来た弁当の中身に唖然としながらも、変な顔をせんと春樹は「い、いただきます」と細かくマッシュされたポテトサラダを口に運ぶ。
「ど、どうだ?」
「ッ・・・ありゃ意外じゃ。コレ美味ぇのぉ」
「ほ、本当か?!」
「意外って・・・清瀬くん、失礼」
「いやはや、簪さん。ちょっと食うてみんさいや。ホントに美味いけん」
見てくれは歪であるが、意外にも味は申し分のない美味さに勧められた簪も驚いた顔をした。
「皆、お待たせ~ッ・・・って、きよせん何食べてるの~?」
「おー、布仏さん。飲みもん、お疲れさん。ちょっと、君もこのマッシュポテト食うてみんさいよ」
「ん~?」
こうして、普段は静かな格納庫にやんややんやと明るい声が弾む。
いつもは薄暗い中で作業に没頭している為、こんな明るさは久しぶりだなと騒がしくも心地の良いこの状況に簪は「・・・ふふっ」と無意識に笑みを溢すのだった。
「・・・お、おのれ・・・ッ!!」
そんな微笑ましい仲良しムードを格納庫ゲートの影から覗く人影が一つ。自身のISの待機状態アクセサリーがついた扇子をミシミシ言わせながら、歯を食いしばっていた。
◆◆◆
「そんじゃあ、俺ぁ風呂行ってくるけんな。俺が風呂から上がってきたら、部屋に戻りんさいよ」
「・・・ん」
「生返事すなよ・・・まぁ、ええわ」
夕食後、またしても作業に没頭し始めた簪を放置して浴場に向かう春樹。
浴場と言っても、楯無がいる出て行った自室のシャワー室でもなければ、この前に解放されていた大浴場でもない。
少し遠いが、アリーナの選手控室にあるシャワー室へ向かっているのだ。
「るーらるらるー♪ るーらるらるー♪」
鼻歌混じりにアリーナへ向かう春樹。
途中、自分を狙う他国からの手先と化した生徒が待ち伏せている通路がいくつかあったが・・・ヴォーダン・オージェか、元々あった野生の勘か。無意識にその道を通らなかったのだが・・・・・
「るーらるらるー♪・・・阿?」
背後から自分を追う気配が何度もしたので、遂に春樹は後ろを振り返る。振り返ってしまう。
「うーむ、誰もおらん・・・訳ないわな、会長閣下?」
「あら? 良く気付いたわね、清瀬君?」
振り返った彼の首元へ扇子を押し当てながら笑みを溢す楯無が、どこからともなく現れ出でたのだった。
「いや、あれ程の殺気を出しといて気づかん訳にはいかんじゃろう。それに顔が見れんのんじゃけど・・・声の感じからして多分、笑顔じゃろうな。・・・絶対、目が笑ってない方の笑顔じゃけど」
「よく解るわね、清瀬君。もしかして、君は後頭部にも目があるのかしら~?」
「阿破破破ッ・・・んな訳、あるかい。あと、痛いわ」
声は結構明るめのものだが、首に押し当てられている扇子はギリギリと春樹の皮膚に突き刺さって行く。
「んで。俺になんのようなんじゃ、会長? あぁッ、夕飯の弁当ならごちそうさんでした」
「・・・気づいていたの?」
「まぁ、一応。布仏さんが態々作ったとも考えたんじゃけど、そー言う感じが彼女から感じ取られませんでしたし。弁当を食べていた簪さんの反応から察するに、身内の誰かが作ったと考察しましてね」
「・・・清瀬君って、先祖に名探偵でもいるのかしら?」
「は? そねーな阿呆な事を言うてないで、扇子を退かしてください。結構、痛いわ」
ギロリとサングラスに隠された琥珀色の眼を覗かせると、楯無は渋々扇子を引く。
その扇子で押さえられた首を春樹は手で撫でながら舌打ちすると「そんで、用件は?」と催促した。
「まぁ、いいわ。ところで、簪ちゃんの専用機・・・今はどれぐらい出来ているの?」
「そうじゃのぉ・・・七か八割ぐらいでしょうかね。後の二、三割の問題はブースターパックの出力安定と装甲板のコスト維持ぐらいじゃ。・・・つーか、こういうのって俺に聞くよりも直接、簪さんへ聞きゃあええじゃないですか」
「・・・こっちにも色々と事情が―――「あッ。そーいやー、喧嘩してんでしたっけ? なら、しゃーないですな」―――・・・清瀬君、一々そういう風に言わなくてもいいんじゃないかしら?」
「ムカつきました? 俺も会長が裸エプロン・・・いや、水着エプロンで出迎えてくれた時はムカッ腹が立ちました。あれで会長閣下への信頼度はスツーカの爆撃並みに急降下しましたからね」
「む、むぅッ・・・」
『清瀬 春樹』がどういう人間かという事を楯無は事前に轡木から聞いていた。
しかし、やはり本人の生の反応を見る為にあのような暴挙を行ったのだが・・・それが面白いくらいにこうして裏目に出てしまったが故、楯無は何も言えなくなってしまった。
「それに比べて簪さんは・・・こっちの話は素直に聞いてくれるし、優しいし。自分を卑下する所は気に喰わんが、それだけ謙虚じゃっていう裏返しになるし。アンタとは大違いじゃのぉ」
「なによ、それ・・・たった数日一緒にいただけで簪ちゃんを、あの子を解ったような言い方をしないでくれるかしらッ?」
先程よりも濃密な殺気が春樹に当てられる。
「やっぱり、カタギじゃなかったのぉ」と彼は確信しながら、”笑み”を溢した。
「おー、きょーてぇーきょーてぇー。確かに俺はまだ、閣下よりも彼女の事は知らん。じゃけどなぁ・・・これからもっと、彼女の事を知る機会が多いのは俺の方なんで、会長閣下殿?」
「このッ―――――!!」
ニヤリと酷く嫌な癇に障る下卑た笑みに、つい楯無は攻撃の体勢をとってしまう。
しかし、それよりも早くに春樹は防御と逃走の体勢を整えた。
「阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ! それが嫌なら、とっとと仲直りしんさいな。・・・簪さんの方も、それを願ってる筈ですよ」
「えッ・・・簪ちゃんが・・・?!」
春樹の発言に一瞬呆ける楯無。
この三日間、彼が簪の傍にいて気づいた事は、自分を卑下する際に「お姉ちゃんなら~~~」といった事を言っていたのである。
多分、無意識で言っている節が彼女から感じられたので、心の根底には姉を思う気持ちがあるのではないかと春樹は察知した。
「(よーするに、どっちもシスコンを拗らせているって訳か。あ~あ、ホント・・・大人になるにつれて、素直な気持ちってのは小さくなるんじゃのぉ・・・)」
「ヤレヤレ」と溜息を吐きそうになる春樹であったが、また良からぬ印象を与えるのではないかと思い、それを飲み込んだ。
「じゃあ精々、俺に上の兄弟ポジションを取られないようにさっさと仲直りしてください。・・・会長が仲直りした頃に簪さんが俺の事を「お兄ちゃん」って呼んでたら、どうしましょう? 悪かーねぇのー」
「なんちて。阿破破ノ破ッ!!」と春樹は再び癪に障る笑い声を響かせ、そのまますたこらさっさと逃走。
対する楯無は「ぐぬぬッ」と唸りながら、どうやって簪と仲直りしようかと知恵を絞ったのだった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆