IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第42話

 

 

 

紫陽花の色が映えた季節から、蝉の声が徐々に降りしきり、夏を感じられるような風が肌を撫でる様になった頃。

 

「ふぁ、あ~ぁ・・・ッ。眠ぃのぉ・・・」

 

春樹はリニアモーターの列車に揺られながら、眠気眼をこすっていた。

 

「・・・昨日も、遅くまで作業やってたの?」

 

そんな今にも眠りそうな彼の隣には、オレンジブロンドを後ろでヘアゴムで纏めたシャルロットが顔を覗かせる。

 

今から数日前の事。

相変わらず格納庫へ不法滞在している春樹のもとへシャルロットが訪問して来た。

そして、そこで彼女は彼と今度の休日に出かける約束を取り付けたのである。

・・・その時、春樹は酒を飲んでいたとかいないとか。

 

「阿? あぁ、中々と簪さんが寝かしてくれんかったけんな。・・・ホントにあの子は、よー頑張る子じゃ。飯を持ってきてくれるラウラちゃんも有難いしな」

 

「ふ、ふーん。そうなんだ・・・」

 

「むぅ」と春樹の何気ない言葉にシャルロットは不機嫌そうに頬を膨らませる。

親し気にファーストネームや下の名前で簪とラウラを呼んでいるのに、自分はまだ名字でしか呼ばれた事がないからだ。

 

「そーいやぁ、デュノア。ラウラちゃん達とは、今日行く所で待ち合わせなんか?」

 

「え!? え・・・えーと、そ・・・そうだね! ラウラ達は織斑先生にちょっと用があるって言ってたみたいだし」

 

自分から聞いておいて、「・・・ふーん」と春樹は興味なさそうに声を漏らす。

それに対してシャルロットは、「あ、危なかった・・・ッ」と心の中で安堵した。

・・・どうして、彼女は安堵したのか。

何を隠そう、このお出かけにラウラ達など”誘っていない”からである。

 

何故にシャルロットが、このような抜け駆けとも言える行動を起こしたのか。

それは彼女は自らの本当の正体を生徒達の現した日から、話題を聞きつけたミーハーな生徒達に連日取り囲まれ、中々に春樹と接触する機会がなかったからに他ならない。

 

自分がそうした面白半分で群がる連中に対処している間。

新たなにルームメイトとなったラウラは彼にお弁当を作り、簪とは昼夜問わず共に機体を製作している事にシャルロットは慌てた。

学年別トーナメントでペアを組んでいたラウラは兎も角、面識のない四組の生徒である簪が春樹と親睦を深めている事に焦りを感じたのだ。

 

そんな思惑が錯綜する中、リニアは目的地であるショッピングモール『レゾナンス』の前にある駅で停車した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うわーお・・・凄い人じゃのォ」

 

レゾナンスへの入り口付近で、春樹はそんな感嘆詞を並べる。

休日という事もあってか。店外には人が溢れかえっていたからだ。

 

「人”酔い”しそうなぐらいにウジャウジャおるなぁ・・・」

 

「あれ? 春樹って、人が沢山いる所って苦手だったりする?」

 

「いんや、別にそんじゃねぇけど・・・こねーな場所は久々じゃ」

 

そんな感慨に浸りながら、二人は店内へと入って行く。

店内には店外以上の人が居り、活気に溢れた声が騒がしく感じられた。

 

「それで、気分転換に買い物じゃあち言うとったけど・・・なに買うんなん?」

 

「えッ? 春樹って、臨海学校に水着持っていかないの?」

 

シャルロットの言うように、学園の学校行事ごとである臨海学校が近々行われる。

だが、そんな生徒達が浮足立つようなイベントにも関わらず、春樹は「あぁ、そんなんあったのぉ」と他人事のように呟いた。

 

「まぁ、別に俺はそこまで海に入って泳ぎたい言う訳じゃないしな。ラウラちゃん達が来たら、二人して水着を見てくりゃあええがん。俺はそこら辺の本屋で買いもんでも―――「そ、それは駄目だよ!」―――・・・デュノア?」

 

「折角の学校行事なんだから、楽しまないと! だから、春樹も一緒に水着を買おうよッ!」

 

はやし立てるかのようなシャルロットの言葉に「お、おう」とついぞ頷いてしまう春樹。

そんな彼の気が変わらぬ内にとばかり、シャルロットは彼の手を引いて水着売り場へと向う。そして、水着売り場へ到着すると眉をひそめる彼の腕を強引に引っ張り、そのまま女性用の水着コーナーへと引きずり込んでしまったのだった。

 

「・・・なんで、こーなるのッ?」

 

自分がとても場違いな場所にいる事は明白に理解できている事に加え、周りにいる店員や他の女性客達から異様な目で見られている為、冷汗をかきながら試着室の前で苛々と足を踏み鳴らす春樹。

何も悪い事をしていないのに、悪い事でもやっているかのような感じがして気が落ち着かないのだろう。

 

・・・因みに。

春樹の現在の姿恰好は、かなりラフだ。

そんな恰好で厳つい黒のサングラスなんてかけているものだから、不良漫画とかに出て来そうな雑魚チンピラの様である。

 

「は、春樹!」

 

「阿ッ?」

 

そんな彼の前の試着室がシャルロットの声と共にシャーと音を発てて開く。

 

「ど・・・どうかな?」

 

「お・・・おう・・・ッ」

 

彼の目の前には、オレンジ色のビキニを身に纏ったシャルロットが恥ずかしそうに頬を朱鷺色に染めて佇む。

元々彼女のスタイルは、出てる所はボンッと出て、引っ込んでる所はキュッと引き締まっているモデル体型。

周りにいた店員は「おーッ!」感嘆詞を上げ、女性客は「良いな~」と羨んだ。

 

「良いですね~! とってもお似合いですよ、お客様ッ! どうですか”彼氏”さん?」

 

「そ、そんな彼氏とかって・・・」

 

褒める店員の言葉にシャルロットは「彼とは、”まだ”そういう関係ではない」と言おうとしたのだが、言い淀んでしまった。

それは何故か?

 

「え、えぇ。そ・・・そうですね・・・かわええって・・・その・・・ッ」

 

シャルロットの水着姿に春樹は口元を抑えながら、耳を真っ赤に動揺していたからである。

この反応をあまり予想していなかったシャルロットも「え、えへへッ」と照れた。

その隣で、「それではお客様方、ごゆっくりどうぞ。・・・ッチ」と先程まで彼女を褒めていた女性店員が舌打ちをした事に二人は気づかない。

 

「もう、それでええんじゃないんか? 早う、服着てくれや」

 

「あ、あれ~? 春樹、もしかして照れてる? 照れてる~?」

 

「う、うぜぇ・・・ッ!」とハッキリ言ってやりたいが、やはりなにぶんと春樹も年頃の男の子であったようだ。

その反応が面白いのか、悪乗りしたシャルロットが更に呷って来る。

 

「デュノア・・・オメェ、ええ加減に―――「春樹!」―――のわぁッ!!?」

 

そんな彼女に怒声を上げようとした、その時。突如、シャルロットが試着室の中へと春樹を引きずり込んだのである。

この訳の解らない状況に普段なら文句でも叫ぶ春樹であるが、なにぶんとシャルロットの豊満な胸がドアップで迫った事へとりあえず悶絶した。

 

「あ・・・あれは・・・ッ」

 

一方、自分の胸へ春樹を抱え込んだシャルロットは試着室のカーテンの隙間から外の様子を伺う。

 

「織斑先生、こっちの黒い方がいいんじゃないですか?」

 

「そうか?」

 

「(織斑先生に山田先生ッ! 二人がどうして此処にッ?!!)」

 

なんと外には、学園にいる筈の千冬達が水着を選んでいたのである。

今日は一日中、行事の用意で学園にいるだろうと予想していたシャルロットにこれは想定外であった。

だが、想定外はこれに留まらない。

 

「あれッ、千冬姉じゃないか」

 

「あら? 皆さん、奇遇ですわね」

 

「ん?」

「ッ!?」

 

店内の奥から、箒と鈴に両脇に挟まれた一夏とセシリアに連れられたラウラまで登場したのである。

 

「ほう、我が弟ながら両手に華とは良い身分だな。だが、今日は一人いないな? デュノアはどうした?」

 

「あぁ、シャルか? なんか、用事があるって言ってたんだよ」

 

実は、一夏は箒と鈴に臨海学校買い出しに誘われた時にシャルロットも誘っていた。

しかし、春樹の事で頭がいっぱいだった彼女は其れを断ったのである。

ライバルが一人減って、ホッとした箒と鈴。けれども、一夏は何故だか残念な気持ちになっていた。

 

「そう言えば、春樹さんも朝いなかったですわね」

 

「もしかして・・・二人して出かけたりしててね」

 

「な、なに?!!」

「えッ・・・」

 

何気ない鈴の予想に『ガビーン!』と背景を曇らせるラウラ。

あと、何故だか一夏にもなんとも言えない不快さが心にポツリと浮かぶ。

 

「じょ・・・冗談よ、冗談。だから、そんなにガックリしないでよ」

 

「べ、別に私は・・・・・しかし、春樹が他の女といると想像したら・・・そうだな、何故か胸がチクチクする」

 

『『『ッ!』』』

「ん? ラウラ、どこか具合が悪いのか?」

 

ラウラの言葉に女性陣は何かを察する。

解っていないのは、一夏とシャルロットに耳を塞がれている春樹ぐらいだ。

 

「清瀬と言えば・・・ラウラ、最近お前は四組の更識の専用機製作に清瀬と共に携わっていると聞いたのだが」

 

「はい、肯定であります織斑教官。とは言え、携わると言っても簪や春樹に食事を作って届けるぐらいしかやっておりませんが」

 

「食事を持って行ってるって・・・まさか、あの噂ってラウラの事なの?!」

 

鈴の言った『噂』とは、ここ最近ある生徒が食堂の厨房を借りてお弁当を作っているというものである。

なんでもその生徒は、ある人物に美味い食事を持っていきたいと食堂の職員達にレシピを教えてもらっているそうだ。

 

「あぁ、そうらしいな。因みに春樹は私の作った里芋の煮っころがしを面白いと言って食べてくれたぞ!」

 

「そ、そうなのか・・・」

「そう・・・」

 

思った以上に気になっている異性との距離を詰めているラウラへ疎外感を感じる箒と鈴。

試着室に隠れているシャルロットは更に焦燥感を募らせた。

 

「・・・おい、デュノア・・・もう、勘弁してくりんせぇ」

 

「え?」

 

漸く悶絶状態から意識が舞い戻った春樹が自分の耳を抑えるシャルロットの腕をタップした。

 

「目ぇ閉じとくけん、早う離せぇや」

 

「ちょッ、春樹! 今はマズ―――」

 

シャルロットの肩を突き放し、試着室の外へと出る春樹。

その出た先がマズかった。非常に不味かった。

 

「あッ、すいません」

 

「ん?」

 

試着室から後ろ向きに出た春樹の背中が試着室の前にいた黒いスーツの女性の背中へトンッとぶつかる。

さて・・・その人は一体誰でしょうか?

 

「・・・清瀬ッ?」

 

「ありゃあ、織斑先生?!」

 

目が合う二人。

流れのままに彼女の脇にいた全員とも目が合う。

 

「は、春樹さんッ? どうして女性用水着売り場の試着室から出てきますの・・・!?」

 

「ま、まさか清瀬、貴様・・・そう言う趣味が・・・!!」

 

「だ、大丈夫ですよ清瀬くん。世の中、そういう人もいると・・・先生、解っていますからッ!」

 

「マズい」と、このまま女性陣から変態の称号を受けるのは嫌だと焦った春樹は、自分が出て来た試着室へ親指を指す。

 

「違うっちゃに。急にデュノアが俺をこん中へ引いて来たんじゃ」

 

「デュノアって・・・まさかッ!?」

 

「・・・ど・・・どうもー・・・」

 

とうとう観念したのか、試着室から顔だけ出すシャルロット。

何故に顔だけ出すのか最初は解らなかったが、ラウラと山田教諭以外の勘のいい連中はチラリと見えた生足に彼女が水着であることを悟った。

 

「まさか、こんな所で教え子が乳繰り合っているとはな」

 

「シャ、シャル・・・お前、どうしてここに?」

 

「はぁ? なにをよーるんじゃ? おいデュノア。篠ノ之さん達は兎も角、先生や織斑の野郎まで来るとは聞いとらんぞ、俺ぁ」

 

『『『・・・ん?』』』

 

話が噛み合わない。

まさか、こんな事態になるとは思ってもみなかったシャルロットは「えーと、えーとッ・・・!」と知恵を絞るが良い案が思い浮かばない。

所詮は浅知恵であったかと、少しばかりの後悔をした。

 

「・・・待たせたな、シャルロット!」

 

「えッ・・・」

 

そんな彼女に助け船を出したのは、意外にもラウラだった。

ラウラは何処かの伝説の傭兵の決め台詞を高らかに言うと、今度は春樹の方を向いた。

 

「すまない春樹。待たせてしまったようだな」

 

「いや、別に待っとりゃあせんでよ。俺らの方こそ、先ぃ先ぃ行ってて悪かった。・・・じゃけど、なんでコイツと先生らぁが居るんじゃ?」

 

「それはだな・・・織斑教官たちとは偶然出会ったばかりなのだ。・・・そうだろう、セシリア?」

 

「えッ!? ッ・・・えぇ、そうですわね」

 

ラウラの言葉に何かを察したセシリアも同意した。

これに春樹も疑問符を浮かべながらでは有るが、「ほぉーん・・・そうなんか」と納得。

 

「いや、俺はそんなの聞いてな―――「一夏、アンタは黙ってなさい」―――っぐフッ!?」

 

・・・空気を読もうとしなかった一夏は鈴の肘鉄で強制沈黙。

これには「まったく、ヤレヤレ」と事情を察した千冬がため息を漏らした。

 

―――――と。

こんな風になんやかんやありながら、いつもの連中と合流を果たした春樹は買い物をするのだった。

 

「・・・シャルロット、抜け駆けは感心しないな?」

 

「ご・・・ごめんなさい、ラウラ。」

 

「うむ。ならば、私の水着を選んでくれ。どうにもこういうのは、私には解らない」

 

「うん、お安い御用だよ」と仲直りしたシャルロットに対し、ラウラは「・・・今度は私がやってみるかな?」と思ったとか、思わなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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