IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第47話

 

 

 

「ぶぅ~ッ・・・」

 

温泉から早々に帰って来た春樹はテレビを眺めながらブウを垂れる。

折角、ドラマや漫画のワンシーンみたいに温泉へ浸かりながら一杯やれるものだと楽しみにしていたのだが・・・先に温泉へ入っていた邪魔者の御蔭で、春樹の計画は御破算となってしまった。

 

「畜生ぉ~・・・あんのスカタン野郎のせいで全然酔えんがな!」

 

部屋へ帰ってから、ほぼ八つ当たりの感覚で冷蔵庫の中で冷えていた酒類の蓋を次々と開けた春樹。

されど、どんなに飲み干そうが一向に酔いが回る事はなかったのである。

 

「あぁ、なんかまだ飲み足りんのぉ。・・・しっかし、もう冷蔵庫ん中は空っぽじゃしなぁ。はぁッ・・・面倒じゃが、買いに行くしかねぇか」

 

仲居さんが敷いてくれたであろう布団周りへ転がる空き缶・空き瓶を粗方片付けると、春樹は外の夜街へ出掛ける支度をする。

温泉ありしところに温泉街アリ。外にはそれこそ、此処では飲めなかった酒が売っているかもしれない。

・・・まぁ、無断外出な事に変わりはないが。

 

「るらるらるー♪・・・・・って、阿?」

 

そんな思惑を持ちながら春樹が部屋の外へ足を向けると、扉の外には奇妙な光景が広がっていた。

 

「・・・君ら、一体何をしょーるんな?」

 

『『『ッ!!?』』』

 

其処には、千冬と一夏が泊っているであろう部屋の前へたむろする少数の人だかりがあった。しかも、その人だかり全員が春樹の知っている面子であったのである。

 

「篠ノ之さんや凰さんは兎も角・・・セシリアさんやデュノアに簪さん。それに・・・ラウラちゃんまで二人に用があるんか?」

 

「ち、違うぞ! 私とシャルロットと簪は春樹に用があって来たのだッ。別に教官や一夏に用があった訳では―――」

 

「ほうッ、”一夏”か。俺の知らん間にラウラちゃんは織斑の野郎を下の名前で呼ぶようになったんか。ほーかほーか、いつの間にか随分と親しうなったんじゃのぉッ?」

 

「阿破破破ッ」と、心底乾いた笑い声を響かせる春樹にラウラは半ば涙目になりながら「違うのだ!」と声を張った。

 

別段、彼はラウラ達の言っている事が本当の事だという事は知っている。

VTS事件後。シャルロットは兎も角、ラウラは一夏達よりも春樹と過ごす時間が多かったし、簪に至っては自分の専用機開発が頓挫した原因が一夏にある為、彼に対してあまり良い印象は抱いていなかった。

それでも春樹は尚も乾いた笑い声を出す。何故ならば、先程の皮肉った文言へ対するラウラの反応が思った以上に”愛い”かったからだ。

あらぬ疑いをかけられて慌てる彼女の姿に、ゾクゾクとした快感が春樹の身体を奔ったのだった。

・・・この男、少し酔っている。

 

「ちょっと其処、五月蠅いぞ」

 

「静かにしててよ、聞こえないじゃないッ」

 

「阿?」

 

そんな焦るラウラを楽しんでいた春樹に箒と鈴の注意がかかる。されど彼に注意した二人はと言うと、扉へ片耳を当てて中の様子を伺っていた。

珍妙な事をしている二人の行動へ疑問符を浮かべていると、セシリアが二人と同じように聞き耳を立てるように促す。

「なんのこっちゃ?」と訳が解らない春樹は、とりあえず二人と同じように扉へ耳を傾けた。

 

「ッ、おいおい・・・!?」

 

するとどうだろう。

聞き耳を立てた扉の奥から聞こえて来たのは、甘い甘い女の喘ぎ声とその近くにいるであろう切羽詰まった男の声。

 

「・・・なにをやりょーるんな、あの姉弟は?」

 

呆れた溜息を漏らす春樹の隣で、箒と鈴は顔を真っ赤にしながら鼻息を荒くしていた。

 

「やはり、織斑先生と一夏さんは・・・・・ご姉弟でそう言う”仲”ッ!!」

「そうなのかなッ? やっぱり二人って、そういう関係なのかな!!?」

「一体いつからなのだッ?・・・まさか、ドイツから帰ってしまわれたあの時からか?!!」

「・・・ッ・・・!!」

 

呆れ顔の彼を余所に女性陣連中は鼻息荒くわちゃわちゃ騒ぐ。勿論、気づかれないように小声でだ。

やはり”この手の話”は、お年頃の彼女達だからこそ興味が惹かれるのだろうと春樹は思った。

 

「(まぁ、どうせ『織斑の野郎が織斑先生をマッサージしてました』って言うオチじゃろうけどな。これがホントに部屋ん中でR-18同人誌展開じゃったら、ドン引きじゃ。実の弟まで”喰う”んじゃ。余程、男日照りがあるんじゃろう)」

 

などと考えていると、突如としてバンッ!とたむろしていた部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 

「・・・なにをしているか、小娘共・・・ッ」

 

『『『ひぃッ・・・!?』』』

 

其処から顔を覗かせる恐ろしい形相の千冬に春樹を除いた全員が硬直してしまう。

その恐ろしい形相の彼女の後ろから、「皆、なにやってるんだ?」と疑問符を浮かべた一夏が出て来た。

 

「さてな。皆、オメェと織斑先生が部屋ん中で”ナカヨク”しょーるんかぁ思うて、ドキドキしとったんじゃろう」

 

「は?」

 

「ば、馬鹿! 清瀬、貴様ッ!!」

 

「ほう・・・そうなのか、お前達?」

 

ニヒルな笑みを溢す春樹に箒が突っ掛かるが、すぐに千冬に黙らされる。そして、全員が借りて来た猫のように大人しくなった。

 

「仲良くって・・・そりゃあ、俺と千冬姉はマッサージする仲だからな。仲がいいさ」

 

「ま、マッサージッ?!」

 

「そ、そうよね! ま・・・まぁ、私は解ってたけどッ」

 

「なッ!? ズルいぞ鈴ッ!!」

 

「騒ぐな貴様ら、旅館の迷惑になるだろう。一夏、お前はもう一度風呂に行ってこい」

 

「え? でも、俺はさっき―――「女の時間と言うヤツだ、つべこべ言うな」―――わ、わかったよ」

 

圧倒的威圧に押され、渋々部屋から出て行く一夏。

このやはり予想通りな展開に春樹は「やれやれ、人騒がせなこった」と呆れ顔で立ち去ろうとするのだったが・・・

 

「おい、どこへ行く気だ清瀬ッ?」

 

「阿ぁ?」

 

何故か千冬に呼び止められてしまう。

 

「別に、どこだってよろしいでしょう?」

 

「そういう訳にもいかん。無断外出は禁止だと、栞にも書いてあった筈だが?」

 

「そうでしたっけ? なら、こうも書いてあったのでは? 『生徒への職権乱用は禁止』だと」

 

「今は授業外だ。家族団らんの時間をお前にとやかく言われる筋合いはない」

 

「なら、今は授業外の俺だけの時間です。貴女にとやかく言われる筋合いはない」

 

「「・・・あ”ぁッ?」」

 

バチバチと視線の火花を散らす春樹と千冬だったが、「まぁまぁ、二人ともそれくらいにして」とばかりに周りにいた全員が止めに入る。

その隙に春樹はさっさと逃げ出す。「皆、喰われんようにな」と余計な一言を残して。

 

「・・・教官、先程の春樹の言葉はどういう意味ですか?」

 

「あ~・・・・・」

 

無垢なラウラの質問に千冬は「後で覚えていろよ、清瀬ッ」と心の中で呟くのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「さてと・・・おいおい、いつものバカ騒ぎはどうしたんだ?」

 

部屋の前での騒ぎの後、千冬は女学生連中を部屋に招き入れたのだが、彼女たちはどうしたらいいのか戸惑ったように黙りこくっていた。

 

「い、いえ・・・織斑先生とこうして話すのは初めてですし」

 

「・・・私は・・・違うクラス・・・」

 

「そう言えば、更識は四組だったな。どうだ、清瀬のヤツは迷惑をかけていないか?」

 

「はい・・・・・皆、彼を怖がってますけど・・・」

 

「・・・そうか。しかし、こうも静かだと調子が狂う。私が皆に飲み物を奢ってやろう。皆、なにがいい?」

 

皆がまごついている間に千冬は備え付けの冷蔵庫から人数分の飲料水を取り出す。

 

「ほれ。ラムネとウーロン茶とスポーツドリンク、それにオレンジとコーヒーに紅茶だ。それぞれ他のがいいやつは各人で交換しろ」

 

そうは言われ、渡された飲み物を全員が受け取る。

そして、遠慮がちな「い、いただきます」と言葉と共に全員が中身を飲む。

 

「・・・飲んだな?」

 

そのゴクリッと動いた喉を確認した千冬が不敵な笑みを浮かべたのである。

 

「は、はい?」

 

「そ、そりゃ、飲みましたけど・・・」

 

「まさか・・・織斑先生ッ、私達に一服盛ったんですの!?」

 

『『『えッ!?』』』

 

「失礼なことを言うな、オルコット。なに、ちょっとした口封じだ」

 

勘繰り過ぎたセシリアにツッコミを入れた千冬は、冷蔵庫の中から自分の飲み物を取り出す。

そして、銀色に光り輝く缶から注いだ黄金の液体をそれはそれは美味そうにゴクゴク飲み干した。

 

「うむッ、美味い。やはり、気を緩めている時に飲むビールは最高だな!」

 

いつもの凛とした姿はどこえやら。

世界が讃えるブリュンヒルデ『織斑 千冬』と、目の前にいるの人物とが一致せずに女子全員がポカーンとしている。

特にラウラは先程から何度も目を瞬かせ、目の前の光景が信じられないかのようだった。

 

「ん? 皆、おかしな顔をするな。私だって人間だ。酒くらいは飲むさ。それとも・・・私は作業オイルを飲む物体に見えるか?」

 

「い・・・いえ、そういうわけではないですけど・・・」

 

「でもその、今は仕事中じゃ・・・?」

 

「堅いことを言うな。それに・・・口止め料はもう払った筈だが?」

 

「あ・・・」

 

全員が手元の飲み物を見て、自分達がまんまと千冬にビールを飲ませる口実作りに利用された事へ気づいた。

 

「さて・・・前座はこのくらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか」

 

「肝心な話?」

 

「あぁ、そうだ。お前達・・・アイツらのどこがいいんだ?」

 

『『『ッ!!?』』』

 

一本目のビールを飲み干し、早々に二本目を開けた千冬の言葉に皆は動揺する。

彼女の言う『アイツら』とは、IS学園の黒二点である一夏と春樹の事以外に間違いないからだ。

 

「まずは、うちの愚弟からだ。アイツのどこがいいんだ?」

 

「わ、私は別に・・・以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので・・・」

「私は腐れ縁なだけだし・・・」

 

この場でもツンデレ属性持ちの二人はプイともごもご顔を逸らして肯定しない。

しかし、千冬がいざ「ならば、一夏にそう伝えておこう」と言うと、口をそろえて「言わなくていいです!!」と顔を真っ赤にして叫ぶ二人。

その反応が面白いのか、豪傑のように千冬は笑い声をあげる。

 

「ハッハッハッハッハ! まぁ、確かにアイツは子供の頃から超が付く程モテていたな。実際に家事も料理も中々だし、姉の贔屓抜きでも顔だって良い。付き合える女は得かもな。どうだ、欲しいか?」

 

「「く、くれるんですか!?」」

 

食い気味に前のめりになる箒と鈴に千冬は「さぁな」と言葉を濁してビールを呷る。

その動作に「なんだ、くれないのか・・・」と二人は若干残念がりながら、自分の飲み物へ口をつけた。

 

「さて、次は清瀬の方だ。見た処、お前達はヤツに気があるんだろう?・・・因みにだが、オルコットと更識は清瀬に気があるのか?」

 

「ッ!」

「えッ、私ですか?」

 

突然、名前を呼ばれたセシリアと簪ははギョッとする。しかし、セシリアの方は彼女なりに冷静沈着な心で言葉を紡いでいく。

 

「ん~・・・どうでしょう。奢り高ぶった悪い私の考えを正してくれた素晴らしい御人だと思いますが・・・そうですわね。もっと違った出会いをしていたならば、きっと好きになっていましたね」

 

「えッ・・・セシリア、アンタは清瀬の事、好きじゃなかったの?!」

 

「いえいえ。勿論、春樹さんの事は好きですわ。ですが、好きと言ってもラウラさんやシャルロットさん達のような”Love”ではないという事ですわ」

 

「ほう・・・」

 

穏やかにそう言い放つセシリアに千冬は感心する。

一方のラウラとシャルロットは、自分の心を見透かされたように頬を朱鷺色に染めた。

 

「私も・・・オルコットさんと同じかな?」

 

次に簪が遠慮がちに言葉を紡ぐ。

オドオドしながらも、しっかりと自分の意志を言葉に乗せて。

 

「そうなのか、簪?」

 

「うん。・・・春樹には、打鉄弐式の組み立てをサポートして貰った恩がある・・・でも、この気持ちは・・・なんだろう? 私に・・・もしもお兄ちゃんが居たら、こんな気持ちなのかな? でも・・・違う気もする」

 

「(う~ん。聞いている限り、更識さんの気持ちはまだ『恋』になっていない気持ちなのかもしれませんわね)」

 

簪の吐露した思いを分析するセシリアの前で、千冬が「ふむ、ならば・・・」とまだ言葉を発していない金と銀の人物へ目を向けた。

 

「デュノアにボーデヴィッヒ、お前達はどうなんだ? あんな小生意気なヤツのどこが気に入ったんだ?」

 

「ぼ、ボクは・・・春樹の人柄です。男装して、スパイとして紛れ込んだボクの正体を彼は何も聞かずに受け入れてくれた。それに・・・ボクがこうして皆と居られるのは、お父さんとの中を取り持ってくれた春樹の御蔭です」

 

「最近は全然、構ってくれなくなったけど・・・」と一瞬だけ眼からハイライトが消え失せたが、照れくさくなったのか、熱くなった頬を両手で覆って俯いてしまう。

 

「それで・・・ボーデヴィッヒ、お前は?」

 

「わ、私ですか?! わ・・・私は・・・その・・・」

 

自動的に最後の大トリを任されてしまったラウラは、白い肌をピンク色に染めながらモゴモゴもじもじしてしまう。

その様子は小動物の様であり、何故か周りにいた全員がホッコリしてしまった。

 

「ラウラさん、落ち着いて」

 

「う、うむ。わ、私は・・・私は春樹が好きです!!」

 

『『『ぶッ!』』』

 

「ちょっと、ラウラ!?」

 

焦ったラウラの発言に皆が思わず吹き出してしまう。

特に千冬は酒が回って来た為に大笑いで自分の膝をバンバン叩く。

 

「クククッ、アッハッハッハ! そうかそうか、アイツの事が好きかボーデヴィッヒ。ならば、どういう所が好きなんだ?」

 

「はいッ。アイツは・・・春樹は私を人間だと言ってくれました。ただのラウラ・ボーデヴィッヒだと肯定してくれました」

 

「・・・そうか。清瀬がそんな事を・・・」

 

その言葉を聞いて、千冬は納得した。

VTS事件直後に目覚めたラウラの清々しい表情の理由に納得した。

 

「しかし・・・そう巧くはいくかな?」

 

「どういう事ですか、教官?」

 

「クククッ。なに、アイツは私に対して礼儀がなっていない事する事が多いが・・・それは清瀬からの好意の裏返しだと思ってな?」

 

「そ、それは一体どういう?!!」

 

「なに、今日の夕食時にアイツが物欲しそうな目で私を見つめていたものでな」

 

「そ、それは本当ですか織斑先生?!!」

 

満更ではない千冬の言葉に全員が前のめりになる。

だが・・・

 

「(いえ、教官・・・あれは貴女ではなく、教官の飲んでいたビールに首ったけだったのですが・・・・・此処は空気を呼んでおこう)」

 

空気を読むことを多少覚えたラウラは沈黙し、少しながら優越感へ浸ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「えっくしょん!」

 

「おおッ、どうした兄ちゃん? 風邪か?」

 

「ずずッ、さてね。こんな色男だから、噂されとるんじゃろう」

 

「ははッ、違いねぇ!」

 

ある酒場の一角で、一杯ひっかけている琥珀色をした眼の男がクシャミをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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