IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第48話

 

 

 

自由時間である一日目が終了し、本来の目的であるIS各種装備の試験運用とデータ収集が行われるであろう臨海学校二日目の朝。

今日は四方を崖に囲まれた専用ビーチで、朝から夜まで一日がかりの授業と言っても差し支えない一日だ。

特に装備品の多い専用機持ちにとっては中々に骨の折れるものだろう。

 

「ようやく集まったか・・・おい、ボーデヴィッヒ。眠気覚ましにISコアのネットワークについての説明をしてみろ」

 

「は、はい!」

 

・・・そんなハードな一日の始まりに寝坊で遅刻してきたのは、意外にもラウラであった。

大方、昨夜の興奮冷めやらぬ夜更かしのせいでよく眠れなかったせいであろう。

その遅刻の罰として、彼女は整列した一年生の皆の前へ出る。

 

「ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャネルやプライベート・チャネルによる操縦者会話等、通信に使われています。それ以外にもシェアリングをコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。これらは製作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として、無制限展開を許可したため現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとのことです」

 

長々としたコアネットワークの説明に一部の生徒達は頭が痛くなりそうであったが、基本例文を説明し終わったラウラへ千冬は「よろしい、良く出来たな」と声をかける。

・・・勿論、「ただし、授業には集中しろ」と呈されて。

 

「さて、各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

「あの・・・織斑先生。春樹・・・清瀬くんの姿が見当たらないのですが?」

 

千冬の言葉に皆が「はいッ!」と軍隊返礼をした後、シャルロットが恐る恐る彼女に指摘をした。

ここに居る筈のもう一人のIS男性適正者、春樹が居なかった為である。

 

何故に彼がこの場にいないのか。

それは昨日と同じ、内閣IS対策本部の開発チームが造り上げた専用機のフォーマットセッティングをしているからだ。

 

「あぁ、清瀬は諸事情で遅れる事になった。すぐに合流するだろう」という千冬からの説明を聞き、シャルロットは「そ、そうですか」と引き下がる。

 

けれど、彼女は気になっていた。臨海学校初日も彼は昼間にどこかへ抜け出していた。

昨晩の女子会でハッキリとラウラの告白を聞いていたシャルロットは若干の焦りを感じていたのだ。

 

「あぁ、それと篠ノ之。ちょっとこっちへ来い」

 

「・・・? はい」

 

その一方で、千冬は訓練用の打鉄装備一式を運んでいた箒へ声をかけた。

何故に声をかけられたのか解らない箒は、少しばかりの不安を抱きながら千冬の方へ足を向けた・・・その時。

 

「ちぃいいいいちゃぁあああああんッ!!」

 

そんな大声と共に人影が砂塵を巻き上げながら物凄い速さで此方へ近づいて来るではないか。

この謎の人物の登場に周りにいる生徒達の目も釘付けとなる。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん!! さぁハグハグしよう、愛を確かめ――「ふんッ」―――ぎゃふんッ!?」

 

ダイビング宜しく自分に飛びかかって来る謎の人物の顔面を千冬は片手で掴んで動きを止める。

ガッチリと指が表皮に喰い込んでいる為、それは見事なアイアンクローであった。

 

「はぁ・・・まったく。五月蠅いぞ『束』

 

「ぐぬぬぬ・・・相変わらず、容赦ないアイアンクローだね!」

 

まるで絵本『不思議の国のアリス』の主人公そっくりな服装に身を包み、頭にはやたらにメカメカしいウサギの耳を装着したその人物は弾んだ声で千冬のアイアンクローからするりと抜け出すと、今度は箒の方へ「やぁッ!」と元気良く近づいた。

しかし、対する箒は呆れたように素っ気なく「・・・どうも」と初対面のように会釈する。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね箒ちゃん。特におっぱいが―――――」

 

なんともナチュラルにセクハラ発言をブッ混んで来たこの人物に箒は、何処からともなく取り出した木刀でバキリッ!と容赦なく殴ったのである。

 

「・・・殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ・・・! ひどい! 箒ちゃん、ひどい!」

 

だが、殴られた当人はまるで平気な顔をして「えーん、えーん」と泣きまねをしてみせる。明らかに骨が折れた音がしたのにも関わらずだ。

 

「おい、束。自己紹介くらいしろ。流石にうちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー」

 

『『『・・・えッ!!?』』』 

 

千冬に促され、渋々素っ気ない自己紹介をするこの人物の名前を聞いて、生徒達の目は完全に点となってしまった。

何故ならばこの人物こそ、人類史上最高の発明と称されるインフィニット・ストラトスの開発者『篠ノ之 束』博士だったからである。

 

「ハァ・・・お前はもう少しまともにできんのか。そら一年、手が止まっているぞ。コイツのことは無視してテストを続けろ」

 

「こいつとはひどいなぁ、ちーちゃん。ラブリー束さんと呼んでもいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

「ぎゃぼむッ!」

 

溜息混じりに今度は千冬の躊躇いのない拳骨が束の頭部を襲う。

その拳骨をニコニコしながら受け入れる彼女へ、箒が「あの・・・それで、頼んでおいたものは・・・?」と躊躇いがちに尋ねて来る。

その彼女の言葉を聞いた瞬間。束の眼が綺羅星のようにキラーンと光った。

 

「ふっふっふっ・・・それは既に準備済みなのだよ、箒ちゃん!」

 

「さぁ、大空をご覧あれ!!」と盛大に束が叫ぶと、ズドォオオーン!!という激しい衝撃と共に銀色の塊が砂浜に落下して来る。

そして、塊の外壁部がパカッと開くや否や、中身の鮮やかな”紅”がその身を太陽の下へ晒す。

 

「じゃじゃーん! これぞ、箒ちゃん専用機こと『紅椿』!! 全スペックが現行のISを凌駕する束さんお手製ISだよッ!!」

 

「これが・・・私のIS・・・ッ!」

 

箒は漸く自分専用のISを手に入れられる嬉しい気持ちを表情に出すまいと、口角の釣り上りをなんとか堪える。

されど、その後方でボソボソと呟きが紡がれた。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの? 身内ってだけで?」

「だよねぇ・・・なんか、ズルいよねぇ」

 

確かにその呟きは的を得た部分があった。

いくら箒が中学生時代に剣道の全国大会でも名を馳せていた存在だとしても、彼女は国家に所属する代表でなければ代表候補生ですらないのである。

いくらISの発明者の妹という事であっても、傍から見れば依怙贔屓な事に変わりはない。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

 

『『『・・・ッ・・・』』』

 

そんな陰口を呟く輩を束はピシャリと黙らせる。

この偉大な発明家に意見を具申できる人間は現場に誰もいない。

 

「さあ、箒ちゃん! 今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「・・・それでは、頼みます」

 

「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で―――「早く、始めましょう」―――んもぉ~、せっかちなんだから。まあ、そうだね。じゃあ、はじめようか。箒ちゃんのデータはある程度先行してあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて・・・ぴ・ぽ・ぱ♪」

 

箒に急かされ、束がリモコンのスイッチを押すと紅椿が操縦者を受け入れる状態姿勢へ変わる。

 

「やれる・・・本当にこの紅椿なら、絶対に・・・!!」

 

その数分後、テスト飛行の為に蒼空へ舞い上がった箒が感慨深そうに呟きながら降下する。

そんな彼女の両掌には、紅椿の専用武装である日本刀が二振り握られていた。

 

右手に握られている刀の名前は”雨月”。

箒の打突の動きに合わせてエネルギーの刃を発射して周囲に漂って積乱雲になりそこないだった雲をあっという間に蜂の巣に変えて霧散させてしまった。

そして、もう片方の手である左手へ握られている刀の名は”空裂”。

放った斬撃に合わせて発射された帯状の赤いレーザで、束がダミーとして発射した全てのミサイルを撃沈して見せた。

 

「ん~♪ 箒ちゃんが気に入ってくれたようで、束さんは何よりだよ。・・・あッ。そうそう、ちーちゃん?」

 

喜ぶ箒へ満足したように頷いていた束だったが、ここで何かを思い出したように隣にいた千冬の方へ顔を向ける。

 

「どうした、束?」

 

「箒ちゃんの事ですっかり忘れてたんだけど、”二号”君は何処にいるの?」

 

「二号君? 誰だ、それは・・・・・って、あぁッ」

 

”二号君”とは、やはり春樹の事であろう。

その彼の所在について尋ねて来た束に千冬が話をしようとした刹那であった。

 

「すいません、遅れました!」

 

「おッ、噂をすれば・・・遅かったな、清瀬」

 

小生意気な生徒のレッテルを貼られた人物の声が聞こえて来たので、振り返る千冬。

だが、そんな彼女を春樹はさも平然と通り過ぎ、ある人物達の前へ二ヤツいた顔のまま近寄った。

 

「ちょっとちょっと、聞いてくれぇや二人とも!!」

 

「ん・・・?」

 

「遅かったな、春樹。しかし、なにをそんなに興奮しているのだ?」

 

その人物達と言うのは、専用機持ちグループとして作業に移っていたラウラと簪であった。

その二人に春樹は興奮冷めやらぬ表情で言葉を連ねていく。

 

「いやさぁ、俺の琥珀ちゃん・・・あッ、琥珀ちゃんって言うんは俺に贈られた専用機の機体名でな。その琥珀ちゃんの完成度がでぇーれぇースゲぇんじゃッ! コンセプトのパワースーツ型KMFって言う通り、原作に忠実な作りをしとるんじゃ、これがさぁ!」

 

「原作に忠実・・・って、どれぐらい?」

 

「KMFの標準兵装であるランドスピナーやスラッシュハーケンは勿論の事、バリアシステムがまた凄いんじゃ」

 

「バリアと言うと、春樹が前に言っていた『輻射障壁』か?」

 

「いや、流石に其れは開発に時間がかかるらしいんじゃけどな。琥珀ちゃんに搭載されとるんは『ブレイズルミナス』なんじゃけん、近いうちに出来るじゃろうなぁ!」

 

「それ・・・凄い・・・!」

 

やんややんやとサングラスに隠れた琥珀色の眼を輝かせながら、春樹は二人と会話を盛り上げる。

何故にこんなにも盛り上がれるのか。それは簪の専用機である打鉄弐式を組み立てている時、戦闘データの見本として春樹が持って来たコードギアスの戦闘シーンを皆で見た事に他ならない。

 

「おい。お喋りはそれくらいにしろ、清瀬」

 

「阿ッ? ありゃッ、織斑先生おったんか」

 

「・・・なんだと?」

 

「あッ・・・しもうた」

 

「しまった」という感想と共に振り下ろされる千冬の鉄鎚を瞬時に払いのける春樹。

その行為に彼女は「・・・ッチ」と遠慮のない舌打ちをかます。

 

「おい」

 

「阿?」

 

そんな春樹へ束は声をかける。・・・というよりも、呼びつけると言った方が正確か。

 

「いっくんの今後の為にも仕方ないから、ついでにお前のISデ―――「えッ、誰?」―――ッはぁ?」

 

「ぷッ!?」

 

つい口走ったさも当然な春樹の疑問符に束は怪訝な表情を見せる。その隣では思わず千冬が吹き出し、周りの生徒もそれにつられる。

 

「あぁッ、すいません。新しい先生ですよね、これは失礼しました。一年の清瀬 春樹です」

 

「は、春樹ッ、失礼だぞ! この方はあの篠ノ之 束博士なんだぞ!」

 

「えッ、この人が?」

 

ラウラに指摘され、驚嘆の表情を作る春樹。

その反応を見て、束は自分の正体に恐れおののく其処らの有象無象の人間と同じだろうと推測する。

・・・次に彼の口から出て来た言葉を聞くまでは。

 

「ふぅ~ん・・・あ、そうですか。それはそれは・・・・・えと、すごいですね」

 

「・・・はッ?」

 

「ぷッ! あっはっはっはっはっは!」

 

春樹の絞り出した様な苦しい感想と苦笑いに束はまたしても怪訝な顔をした。

これには隣で聞いていた千冬がついに笑い出してしまった。

 

別に春樹に他意はない。

他意はないが、同じく”興味もなかった”。

別に目の前の人物が自分をこんな場所に押し込めたISの発明者であろうと、そんな事は彼には”どうでも良かった”のである。

 

「ちょ、ちょっとちーちゃん! なに笑ってるのさ!」

 

「クククッ・・・いや、すまんすまん。清瀬はたまに笑わせてくれるな、コイツめ・・・クククッ」

 

「は、はぁ・・・ありがとうございます?」

 

褒められた?事に一応の礼を言う春樹に束は再び目を向ける。

今度は睨むように先程よりもキツイ目で。

 

「おい、お前! いいからお前のISデータを見せろよ!!」

 

「えッ、いやですけど」

 

再びさも当たり前に束の要求を拒否する春樹。

このやり取りに今度は千冬のみならず、騒ぎを見ていた一夏達や周りにいた生徒達の何人かがつり上がる口角を抑えた。

 

「お前、失礼なやつだな! この束さんが見せろって言ってるんだから、大人しく見せたらいいんだよッ!」

 

「えッ、なんでですか? IS学園の関係者でもない人に俺の琥珀ちゃんを見せるいうんはちょっと・・・」

 

「うるさいなッ! お前に拒否権なんてないんだよ!!」

 

「拒否権がないんなら、俺も貴女の言う事を聞く義務もないですよね?」

 

「こ、このッ・・・!!」

 

春樹の言っている事は当然の事である。

いくらISを発明した束であっても、彼女はIS学園の職員でも何でもない部外者。そんな人間へ自分の為に開発してくれたISを見せる義理があるだろうか。

・・・というか。彼女に琥珀を見せたくないのは、ただ単に”束の物言いが気に入らない”という理由が大半を無意識下に占めるが。

 

「クククッ・・・そこまでだ、束。もう止めろ・・・クククッ」

 

「で、でもちーちゃん! って、まだ笑ってるし!?」

 

年端もなく喚き散らすようになって来た束を抑える千冬。

その姿を見て、春樹は「・・・大変じゃなぁ、篠ノ之さん・・・」と箒へ温かい目を送った。

そんな目を送られた箒は反応に困ってしまったが。

 

「お・・・おお、おおお、織斑先生ッ! た、大変ですッ!!」

 

「ん?」

 

そんな時、席を外していた山田教諭が携帯電話を片手に明らかに尋常ではない程に慌てた様子で、叫びながら千冬へ向かって走って来たのである。

 

「・・・阿ッ・・・」

 

「どうしたの・・・春樹?」

 

「面倒事の予感しかせんのんじゃけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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