≪皆さん、ディスプレイ越しに申し訳ありません。私は日本政府直下機関『内閣IS統合対策本部』副本部長の長谷川 博文です。どうぞよろしくお願いします≫
第一次福音討伐作戦の失敗から一時間後。作戦会議室となっていた宴会場の大座敷へ再び集まった専用機持ち達。
しかし、先程までとは状況は違う。
作戦会議室である宴会場には、作業服やスーツに身を包んだ日本政府関係者達がなんとも忙しなく動いていたからだ。
加えて、この福音討伐作戦から真っ先に身を引いた筈であろう二人目のIS男性適正者である春樹が、政府高官を名乗る男が映っているモニター画面の右側に立つ秘書官の高良と対になるように左側へ、さも当たり前のように佇んでいた。
まるで腹心の部下の一人のようである。
「あ、あのMr.長谷川・・・これは一体どういう事なんですの?」
それに対し、未だこの状況下が飲み込められない専用機持ち達の疑問符を晴らそうとセシリアが恐る恐る問いを投げ掛ける。
≪君はイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットだね。清瀬君から、君のお噂はかねがね。とても優秀な操縦士だそうだね≫
「は、はぁ・・・ありがとうございます」
「こほんッ・・・長谷川副本部長、よろしいですか?」
彼女へニコやかな笑みを向ける長谷川に高良が咳ばらいをし、本題を話すよう急かす。
そんな彼に長谷川が短く「すまない」と言葉を連ねると、モニター画面へある映像が投影される。
≪これは現在、日本の衛星カメラで確認した『シルバリオ・ゴスペル』、『銀の福音』の映像です。映像に映っている通り、何故か福音は周囲を警戒するように旋回行動をとっている。これを君達に撃破して貰いたい≫
『『『ッ!?』』』
長谷川の言葉に全員が驚愕に表情を染める。
そして、「なぜ?」とばかりに真っ先に口を開いたのはラウラだった。
「お言葉を返すようですが、長谷川殿。私達は今作戦をIS学園上層部からの通達と織斑教官・・・織斑先生から伺っておりますが・・・何故に貴方達、日本政府が?」
「今更、出しゃばって来るな」と言いたげなラウラの物言いに長谷川は神妙な面持ちで事の内容を説明しようと唾を飲み込む。
「そん事は俺が話してもええですか、長谷川さん?」
「春樹?」
だが、そんな彼に待ったをかける人物が一人。今まで沈黙していた春樹だ。
そんな彼に長谷川は「あぁ、構わない」と了承を口にする。
「ラウラちゃんの言いたい事はよー解る。今更なんじゃって気分じゃろうよ。・・・じゃけどそーいう訳にもイカンようになった。過程と工程をキング・クリムゾンの能力で吹っ飛ばして言うと、IS学園上層部から送られて来た言う福音の討伐は・・・”ダミー”じゃった」
「な、なんですってッ!?」
「”偽物”・・・だったていう事・・・ッ?」
「だが、何故そんな事を日本政府がッ?」
春樹の発言に顔を見合わせて驚く皆を余所に、彼は尚も話を続ける。
「そりゃあ、俺が長谷川さんへ情報をリークしたけんじゃ。まぁ・・・俺としちゃあ、織斑の野郎と篠ノ之さんの福音討伐が成功しとったら黙っとるつもりじゃったがな」
ポロリと出た春樹の本音に長谷川は渋い顔をし、高良は苦笑いを浮かべる。
「どうして、春樹が情報のリークなんて・・・ッ」
「「どうして」じゃと? デュノアよ、冷静に考えてみんさいや。福音が居るんは日本の領海と領空内じゃ。許可取無しの領海領空侵犯である以上と俺が善良な日本国民である以上は、ちゃんとした所にちゃんとした報告をせんとな」
「しかし、春樹さん。それでは貴方が情報漏洩の罪で査問委員会からの罰則を受けてしまいますわ!」
「確かにそうじゃのぉ。こねーな事になったとは言え、軍事機密情報の漏洩はおえまぁのぉ・・・・・まぁ、これが”表沙汰に出れば”の話じゃがな」
クツクツと悪巧みでもするかのような春樹の表情に只ならぬ異様さを感じ取ったセシリアが身を一歩引く隣で、ラウラが「・・・なるほど、そうか!」と納得の言葉を紡いだ。
「アラスカ条約でISの軍事利用は禁止されている。もし、春樹が査問委員会にかけられるような事態になれば・・・」
「流石はラウラちゃん、頭がさえて来たね。そうじゃ・・・この問題が表に出れば、芋ずる式にISを軍事利用した事が明るみになるじゃろうし、尚且つそれが暴走した事が解ったら大変な国際問題に発展するじゃろうなぁ~。阿破破破破破ッ!」
ケラケラと春樹は笑い声を会議室へ響かせる。
その笑顔は彼女達には見慣れたモノであっただろうが、周囲にいた職員達は彼の表情に何とも言えない不気味さを感じ取った
「それで、事情を知った日本政府が米国の弱みを掴もうと今作戦をIS学園から引き継いだ・・・という訳か?」
「あぁ、極論はそうじゃな。”表の理由”は領空侵犯している機体の排除。”裏の理由”は機体の撃破による残骸回収か、鹵獲による機体情報の収集・・・じゃろうかな、長谷川さん?」
≪其処までだ。それ以上は喋らないでくれ、清瀬君≫
苦言を呈する長谷川に「はーい」と間の延びた返事を返す春樹。
そして、大方の説明を一方的に聞かされた皆へこう疑問を投げかける。「さて・・・どうする?」と。
「・・・・・関係ないわ」
「鈴さん?」
「政府の思惑だか、なんだか知らないけど・・・私は止められたって福音をぶっ飛ばしに行くわよッ! 別に構わないわよね?!」
鈴は高らかに吠える。
元々、罰則を喰らうつもりで秘密裏に出撃しようと思っていたのだ。それに今更国の思惑が絡もうが、もう知ったこっちゃない。それなりの覚悟が彼女には出来ていたからだ。
「おうッ、勿論じゃ。ぶっ飛ばす為にちゃんと長谷川さんらぁがバックアップもしてくれるしなぁ。・・・で、皆はどうする?」
「はぁ・・・しょうがありませんわね」
「後で先生たちに怒られないなら、これで心置きなく戦えるね!」
吠えた鈴の言葉が皆の闘志に火を着け、やってやろうと雰囲気が辺りに伝染していく。
そうして皆は、出撃の準備段階として機体の最終設定を行う為に職員達に導かれ、作戦会議室を後にして行った。
「・・・春樹、少しいいか?」
「阿?」
しかし、皆が出て行った後、同じく機体の最終準備に向かおうとする春樹へラウラが声をかける。
・・・なんとも怪訝な表情で。
「お前が日本政府に情報をリークした理由は解った。それでなんだが・・・・・」
「織斑先生の事か?」
「・・・あぁ」
彼女の心配事は、福音討伐作戦の指揮権を降ろされた千冬の進退だった。
IS学園上層部からの通達とは言え。学生を軍用ISに特攻させた上に貴重な男性適正者を負傷させての作戦失敗。
重い処罰が降されるだろうとラウラは気が気でなかった。
「・・・優しいなぁ、ラウラちゃんは。大丈夫じゃ、俺と同じでこれが表沙汰にならん限りはな。まぁ、ちぃっとした罰があるかもじゃけど・・・今は目の前の事柄を解決せにゃあな」
「・・・あぁ、そうだなッ」
春樹の言葉にスイッチを切り替えたラウラは、セシリアたちの後を追うように部屋を後にする。
そんな彼女の背を最初は朗らかな表情で見ていた春樹だった。
≪・・・君も、あのような表情をするのだな≫
未だ通信が切られていないモニターから聞こえて来た長谷川の声に「おや、これはお恥ずかしい所を見られましたな」と春樹は照れくさそうに頬を掻く。
そんな照れ顔の彼に長谷川は「・・・すまない」と申し訳なさそうな表情を見せる。
「・・・構いませんよ。自衛隊を動かしゃあ、遅かれ早かれマス”ゴミ”共が何処からか嗅ぎつけて来る。それに相手は第三世代機なんじゃし、こっちでやった方が一石二鳥ですだよ」
≪だが・・・ISを使えるとは言え、結果的に私は君達を戦場へ赴かせる事に―――≫
「やめて下さい。ここで水ば差されたら、今更ブルッちまいますよ」
≪・・・ッ・・・≫
ギリッと歯噛みする長谷川に春樹は「心配するな」とばかりに口角を上にする。
そして、こう続けた。
「それに、俺ぁ負け戦には手を出さぬ主義なんですよ。勝てる気がしなくたって、勝ちまさぁッ!」
「阿破破破ッ!」と春樹はそう笑って、会議室から出て行く。
彼を傍で見ていた、秘書官の高良はその笑い声が自らを鼓舞するような無理をしている笑いに聞こえた。
◆◆◆
第二次福音討伐作戦の進行が決まった数分後、皆がIS統合対策部からのバックアップを受けて出撃準備を整えている頃。
「・・・・・一夏・・・」
第一次作戦で意識不明の重傷を受けた一夏が眠る部屋の外で、一人パイプ椅子に座った箒は黄昏る。
その顔は酷くやつれており、眼は泥のように淀んでいた。
「失礼しますよッと」
「!」
そんなドンヨリ雰囲気の部屋の中へ何ともあっけらかんとした声で春樹が声をかける。だが、彼の登場に最初こそは驚いたものの、すぐに視線を下へと落とす箒。
そんな彼女に春樹は大きくため息を吐いた。
「黄昏てる悪いが・・・第二次作戦の日取りが決まったで」
「・・・知るか、もう私には関係ない事だ・・・もう私は、ISには・・・乗らない・・・ッ」
「ふ~ん、あっそ」
「・・・・・」
ぶっきらぼうに、されど静かに答えた箒に興味が無さそうに返答する春樹。
その後に訪れたのは短くも長ったらしい沈黙の瞬間だった。
「・・・まったく、グーすか呑気に寝やがって。ホントにむかっ腹が立つ野郎じゃ」
沈黙を再び破ったのは、心電図の音に繋がれた一夏を見ながら悪態を吐く春樹だった。
「禄に世の中も知らねぇくせに、「皆を守る」だのなんだの大義だけは一丁前の糞野郎」
「・・・・・ッ」
「自分で好き勝手やって置いて、俺らぁに糞メンドクセェ厄介ごとを残しやがってよぉ~・・・ホントに箸にも棒にも掛からんのぉッ」
「・・・めろ・・・ッ」
「んで、最後は宝石珊瑚の密漁者を庇ってくたばるか。コイツは笑いもんじゃ。阿破破破破破ッ!」
「やめろッ!!」
酷く下卑た笑い声を発てる春樹に箒はたまらず掴みかかる。
しかし、そんな彼女に対して春樹は「どうした、なに怒ってんの?」とばかりにニヒルな笑みを浮かべた。
「どうしたんじゃ? ホントの事を言うただけじゃろうがな。コイツの勝手な偽善の御蔭で、俺ぁは張りとうもない命張らにゃあおえんのんじゃぞ」
「貴様に何が・・・貴様に何が解るッ?!!」
「解る訳ねぇじゃろうが。あの薄ら馬鹿の事も、誰からも構ってもらえずに泣いとる悲劇のヒロインぶったオメェの事ものぉ」
「ッ!!」
カッとなった箒は思わず右手を春樹の頬目掛けて振り払う。
「おいおい、天才様の妹君は随分と単細胞なこった」
「ッ!?」
だが、その手を春樹は容易に掴む。
そして、琥珀色のギラついた眼で彼女の目を貫くように見据えた。
「じゃあ、一体誰のせいじゃあ言うんじゃッ? この馬鹿野郎のせいでなきゃあ、一体誰のせいじゃあ言うんじゃッ?! ホントはオメェ、気づいとるんじゃろうが。自分が専用機をねだった途端にこねーな事件が起こったんじゃ。気づかん方がオカシイと違うか、阿”ぁッ?」
「そ、それは・・・ッきゃ!」
春樹はそんな言い淀む箒を後ろへ押し返す。
押し返された事でバランスを崩した彼女はパイプ椅子に躓き、尻餅をついて転倒してしまう。
「そう言やぁ・・・「もうISには乗らん」なんて世迷い言を言っとったのぉ。なら、もう”コレ”はいらんなぁッ!」
「なッ!?」
箒は春樹の手に掴まれていた”金と銀の鈴が一対になってついている赤い組紐”に驚いた。
何故ならば、その組紐は箒が束から受け取った第四世代型IS『紅椿』の待機状態であったからだ。
「返せッ、それは私の・・・・・私の・・・ッ」
縋りつくように近づく箒。
だが、そんな彼女を足で振り払うと春樹はこう言い放った。
「玩具を取られて悲しいなら、そのまんま無様に泣いてろッ。戦う力が欲しいなら、立って歩いてみせぇや!!」
そう言って春樹は身体を反転させ、ズカズカと歩いていく。
後に残されたのは、一夏が眠る病室となった部屋の前ですすり泣いて跪く箒の姿だけであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆