IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第53話

 

 

 

「お疲れ様です。壬生さん、首尾はどねーですか?」

 

第二次福音討伐作戦の作戦開始時刻の数刻前。

春樹は自らの専用機である『琥珀』の本格的調整が行われている一室へ顔を覗かせた。

 

中ではブラックスーツに淡い青の作業服を着た技術者や開発者達が、部屋の中央に佇む日本の戦国時代の鎧とも中世ヨーロッパ時代の甲冑にも似た全身装甲のISの周りでてんやわんやとアクセク動いている。

 

「おおッ、”我らが刃”。今の所、順調にやってるよ」

 

そんな顔を覗かせた彼にワイシャツの袖をこれでもかと捲り上げた壬生が掌を見せる。

春樹は彼の口から出た自分の固有名称に若干の違和感を感じつつも、慌ただしい部屋の中へと入って行った。

 

「製作してから君に届けた途端にこの様だ、なにぶんと手が足りん有様よ。それでも皆、一生懸命にやってくれてる」

 

「・・・すいません、こんな事態になっちまって」

 

「おいおい、何で清瀬少年が謝るんだよ。・・・・・謝りたいのは此方の方だ」

 

「えッ?」

 

「おっと、悪い。今さっきのは無しだ」と語尾をはぐらかし、壬生は自らの鞄から分厚い紙封筒を取り出す。

中には『取扱説明書』と乱雑にボールペンで書かれた書類が入っていた。

 

「えッ・・・何ですか、コレ?」

 

「書いてあるだろう。NH-00型人型装着装甲騎『琥珀』の取説だよ」

 

「長いな日本語名。いや、それは解りますけど・・・なんで書類に? 普通は端末データに入れとくもんでは?」

 

「そうしたかったんだけどな。なにぶんと今頃はネット社会だ。プロトタイプ情報をどこからハッキングされて盗られちゃ敵わんからな。デジタルにはアナログって事で、全ての初期データは昔懐かしの青写真ってやつだ。それでも、この後に端末データへ変換しないといけないがな」

 

「阿破破破ッ、なるほど。”古き良きもの”ってやつですね。エエもんは廃れない」

 

「解ってるね。流石は”我らが刃”だ」

 

「あの・・・さっきから、そん名前なんですか?」と少々困惑気味で問う春樹に壬生は「まぁ、気にするな!」と朗らかな笑みを浮かべる。

 

「さて・・・清瀬少年、それで俺達に何を聞きに来た?」

 

「はい。取りあえずは琥珀ちゃんに装備されている武装、並びに今作戦へ参加する全員に配布される高機動パックについての確認です」

 

その言葉を待ってましたとばかりに「良し来たッ」と手を叩く壬生。

其れを合図に部屋中央へ佇む機体の横へ折り畳み式長机が置かれ、その上にそれぞれの部門に分かれた職員が書類を並べた。

 

「君にこの機体を送り届けた初日にも説明したが、この人型装着装甲騎『琥珀』は清瀬少年のご希望通りのもんだ。ナイトメアフレームの基本兵装であるランドスピナー並びにファクトスフィアを装備。バリアシステムには、開発に困難を極めたブレイズルミナスを採用している」

 

「あの壬生さん、なんでスラッシュハーケンが腰に付いてるんですか?」

 

「高橋、なんでだッ?」

 

春樹の質問に呼ばれた高橋なる眼鏡をかけた青年が立ちあがる。

彼の話によると、腕などの戦闘時に良く動かす部位にスラッシュハーケンを装備するよりも、腰などの固定できる部分へ装着した方が正確性や戦闘時の邪魔にならないとの説明が返された。

 

「それに『立体起動装置』みたく使えるなら、腰部分の装備が順当かと」

 

「成程、それは納得です。次に追加武装ですが、俺が希望した通りに?」

 

「あぁ、其処が中々と困難を極めた。『ヴァリス』の再現に挑んだんだが・・・目下製作中。大方再現できたと言えば、プロトタイプの試験用『MVS』ぐらいだ。・・・剣じゃなくて、”鉈”だけど」

 

「充分です。じゃけども・・・中・近距離兵装として装備されたハンドガンがなんで”回転式”タイプなんですか? 俺は拳銃と言ったら、リボルバー派じゃけども。今は有事の際じゃけんオートマチック、自動式の方が装弾数が多い。こう言うちゃあ悪いが・・・”男のロマン”でクタばりたかぁないですけんね」

 

「悪いな、清瀬少年。なにぶんと”銃弾を軸に銃を作った”からな」

 

「阿ッ? そりゃあ一体どういう・・・」

 

「澤ッ、例のモノを」

 

「はい!」

 

怪訝な表情を見せる春樹に壬生は自分の部下を呼ぶと、呼ばれた部下が長机の上へ確りと施錠されたジュラルミンケースをドカリと置く。

そして、鍵を開けてみれば、中には銀色に輝くIS専用コンバットリボルバーが存在感を放っていた。

 

「おぉーッ・・・通常サイズよりはデカいが、やっぱりカッコええ!」

 

「お気に召して何よりだ。だが、本体のリボルバーよりも澤達が懸命に作ったのは此方の”銃弾”だ」

 

そう言うと壬生は、銃本体が収納されている上部の窪みから弾頭を取り出す。

その銃弾は薬莢部が白色、弾頭部分が青色になっていた。

 

「『十一式氷結特殊炸裂榴弾』。長ったらしいから、略して『氷結弾』だ」

 

「”氷結”? つーことは、相手をカチコチに出来るんですか?」

 

「そうだ。この特殊銃弾と通常銃弾を装填するにあたって、オートマチックよりも併用性の高いリボルバーにした」

 

「なるほど・・・因みに澤さん、このリボルバーの元ネタは『イングラム』ですか?」

 

「はい、『パトレイバー』からのオマージュです。タイプは『次元 大介』が使っているM19モデルです」

 

春樹は返された答えへ満足するかのように「いいセンスだ」と称賛を送る。

しかし、その隣で壬生が酷く困ったような表情を見せ始めた。

 

「だけどな、清瀬少年・・・この氷結弾、”一発”しかないんだ」

 

「え・・・えぇ~~~ッ??」

 

壬生の話によれば、この特殊弾頭は開発費と製作時間の関係で一発だけしか完成しなかったという。

なので、この銃弾が対IS戦闘においてどのような威力を有するのかの実証実験も行われていない。

 

「理論上の威力だと着弾と同時にIS本体を凍結、停止させる事ができます」

 

「・・・時間としては、どれくらい?」

 

「え~と・・・計算上は、五分です」

 

「五分か・・・ぶっつけ本番で通用するかのぉ。此れだけはやってみなきゃあ解らんなぁ」

 

そう言って、「ヤレヤレ」と言わんばかりに苦笑する春樹。

 

「・・・ッ・・・!」

 

だが、その表情に何故か壬生は若干の”狂気”が感じられた。

これから赴くであろう戦場に対する興奮を抑えられぬ感情が感じ取れたのである。

 

「最後に壬生さん・・・武装以外の事で確認したい事があるんですけど、エエですか?」

 

その後、琥珀の基本兵装と追加武装等の確認を終えた春樹は、作戦開始時刻までかかるであろう機体調整が行われている部屋から出て行く間際に上記の質問を壬生に投げ掛けた。

 

「どうした、清瀬少年?」

 

「あの機体・・・銀の福音には”人が乗っとる”じゃろうか?」

 

「・・・・・」

 

春樹には、無人のISとの戦闘経験があった。

今回の暴走事件も中に人が搭乗していない無人機ならば、存分に戦えるだろう。

しかし・・・。

 

「・・・無人IS開発は世界各国が行っている。ましてや、無人兵器の先進国であるアメリカが作った所で不思議じゃない。・・・だが、有人である可能性はゼロじゃない」

 

「・・・そうですか。それと、変な事を聞くようですが・・・今回の一件、外部からのハッキングが原因での暴走の可能性はありますか?」

 

「ハッキング?」

 

壬生は春樹の発言に顔をしかめ、顎に手をやる。そして、絞り出すようにして答えを口にした。

 

「そうだな、確かにISへのハッキングは理論上は可能だ。コアネットワークから侵入して、偽装データを入力する事は出来るだろう。だけど、”理論上”はという言葉が付くとおり、ISコアはそれこそアメリカ国防省のファイヤーウォールも真っ青な完全なブラックボックス。そんな事は不可能だ。・・・・・だが、可能だとすれば・・・」

 

「・・・可能だとしたら?」

 

「それこそ、”IS其の物を一から造り上げた人間”でないとな」と苦笑いを浮かべる壬生の言葉に「そうですか」と春樹は愛想笑いを浮かべて部屋を出て行く。

最初こそ、朗らかな表情を保っていた春樹だったが・・・その内にギリリッと歯が擦れる音を躊躇いもなく口から漏らした。

 

「・・・おのれ・・・おのれ、オノレ己おのれオノレ己ぇえ・・・”やっぱりか”、畜生ッ!!」

 

酷く怒気に塗れた呪符のような文言を垂れながら、春樹はヨタヨタとある場所へと向かって歩いて行く。

・・・琥珀色の淀んだ目を雫で濡らしながら。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

作戦開始時刻が差し迫る頃。

セシリア以外の皆が、自らの専用機へ日本政府の用意した高機動パッケージ『冬雷』を量子変換し、出撃準備を整えていた。

しかし、開始時刻の三十分前にも関わらず、今作戦の中心人物であろう春樹の姿が見えないままであった。

やはり年端も行かぬ少年には荷が重すぎたかと、作戦指揮に関わった職員達が思案する中。

皆が出撃前の緊張で身を強張らせる中でも軍属らしく少し余裕のあったラウラが彼を探しに行くと言って抜け出した。

 

「どこにいる、春樹ッ?」

 

彼女は取りあえず旅館のロビーに温泉の出入り口と彼がたむろしていそうな場所を探した。

しかし、其処に春樹の姿はなく。彼の携帯電話へかけてみても繋がらない。

 

「・・・ん?」

 

もしかしたら、入れ違いで出撃場へ行っているのではないかと身体を反転させたその時。

なんとも鼻孔をくすぐる独特の甘い匂いが微かに香って来た。

 

「ここに居たか、春樹!」

 

香りに導かれ、ラウラが行った先は何とも詫び錆のきいた風流な中庭。

その中央で、何所から拝借して来たのかも知れない一升瓶を片手にお尋ね者が猫背で鎮座していた。

 

「・・・阿? って、ラウラちゃん」

 

「もう出撃までの時間が迫っているというのに、お前は何をして―――――ッ、この臭いは!?」

 

近づいてみれば、彼から臭って来たのは何とも風流もへったくれもない酷いアルコール臭だった。

 

「あぁ・・・もうそねーな時間か。そーいやぁ、携帯切ってたんじゃったわ」

 

「よっこらしょッ」と爺臭い声と共に起き上がるが、酔っているのか。ヨタヨタと身体を傾け、持っていた一升瓶を地面へ転がしてしまう。

 

「あ~ぁ、勿体ね」

 

「春樹ッ、貴様はこの緊急時に一体何を考えているのだ?! このような状況で酒などとは―――・・・ッ!」

 

情けない彼の姿に激昂し、声を張り上げるラウラ。

だが、すぐにその声は困惑のモノに変わった。何故ならば、彼女は見てしまったからだ。面白い程にガクガク震える彼の膝を。

 

「ッ、春樹・・・怖いのかッ?」

 

「・・・・・うん」

 

いつも恐れ知らずで、この世に怖い物など無いような男が酷い顔色をしながら身体を震わせてラウラの言葉に頷いた。

 

「あぁ、怖い。武者震いじゃ言いたいが・・・でぇーれぇーきょーてぇーよ、めちゃんこきょーてぇーよッ・・・!!」

 

「春樹・・・ッ」

 

彼は目頭に涙を溜めながら、酷く不格好に口角を吊り上げる。

 

「あぁ~・・・なんでこうなるかなぁ。俺ぁなんか悪い事でもやったんかなぁ~・・・なんで、なんでいっつも俺ばっか・・・ッ・・・!!」

 

「こっちは悪夢なら見飽きてるんだ。悪い夢なら覚めてくれッ!」・・・と、春樹は静かに静かに涙をボタリボタリと地面へ落とす。

 

「・・・悪ぃ。一応、”覚悟”は決めたんじゃけどなぁ・・・情けねぇ―――――」

「春樹ッ」

 

涙を拭い、瓶に残った酒を全て平らげた春樹は立ち上がらんと前に身体を出した、その時。ラウラは咄嗟によろめく彼を優しく抱きしめた。

その予想だにしなかった彼女の行動に春樹は表情を驚愕へ染める。

 

「ラ、ラウラちゃんッ!!? 一体なにを―――「五月蠅いッ、少し静かにしろ」―――ッ・・・!」

 

驚きで身が硬直した彼をそのままに、ラウラは頭を優しく撫でる。まるで、母親が子供をあやす様に。

その行為が心地良かったのか。彼の表情は徐々に柔らかくなり、無意識の内に彼女のか細い身体へ両手を回した。

 

「・・・落ち着いたか?」

 

「・・・・・うん。ありがとう、ラウラちゃん」

 

「そうか。なら・・・その、だな・・・ッ」

 

「え・・・・・あッ!? わ、悪い!!」

 

いつのまにか自分が彼女と密着していた事に、春樹は慌てて身を引き剥がす。だが、自分の身体を引きはがした時に調度、ラウラと春樹の眼が合致してしまった。

 

「阿ッ、ぁ・・・」

「ッ・・・!」

 

琥珀色の両眼と灼眼の隻眼が合うべくして合ってしまったかのように、二人は磁石で引き合わせれる様に近づいて行き―――――

 

「・・・ゴホンッ」

 

「「ッッ!!?」」

 

―――両者の唇と唇が合わさる直前、外部の第三者の咳払いが中庭へ響き渡った。

 

「取り込み中悪いが・・・少し良いか?」

 

「なッ、ななな・・・!!」

 

行為前に入って来た第三者にラウラは思わず我に返って赤面を晒す。

しかし、春樹の方は「待ってました!」とばかりに口角を三日月へ釣り上げた。

 

「・・・よぉ。随分と遅かったのぉ、”篠ノ之”」

 

涙を拭った春樹がいつものように「阿破破破ッ」と笑みを溢し品が振り向けば、其処に居たのは最後の”作戦参加者”の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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