IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第56話

 

 

 

「阿”阿”あ”ぁあああああッッ!」

 

≪LAAAAAAAAAAAAッ!!≫

 

上空一万千五百m地点。

対流圏を超えた成層圏の中、二つの機影が熾烈な生存競争を繰り広げていた。

言わずもがな、銀の福音と春樹だ。

 

当初、福音に背を見せて必死に逃げ惑っていた春樹だったが、臨海面を超える辺りで反撃へ打って出た。だが、反撃に出てみたものの、おいそれとはいかぬのが事の定理。

琥珀の専用武装は未だ開発途上であり、実際に使用できる追加武装はリボルバーカノンと鉈型MVSのみ。

 

「糞ッ、糞糞! 駄目じゃ、全く歯が立たん!!」

 

大口径のリボルバーカノンを何発も何十発も撃ち込むが、二次形態移行した福音には掠り傷一つも付かない。

それどころか、鬱陶しい蠅でも掃うかのように福音はその攻撃を自らのエネルギー翼で振り払い、銃弾を蒸発させる。

 

こうなれば彼の左手に握られた鉈で切りかかるくらいしかダメージを与える事が出来ないのだが、春樹はその衝撃ダメージが搭乗者に伝わる事を危惧した。

・・・と言うよりも、第一福音から絶え間なく発射され続けるエネルギー光弾を避けながら近接戦闘を仕掛けるのは土台無理な話である。

左腕部に搭載されたブレイズルミナスでエネルギー光弾を一発や二発なら防ぐ事が出来ようが、割に合わない。

 

「畜生めッ、このポンコツや―――≪LA”ッ!≫―――いぃッ!!?」

 

悪態を吐きながら、尚もヤケクソ染みた発砲を行おうと身体を反転した時だった。

業を煮やした福音が瞬時加速でイッキに詰め寄り、春樹の鳩尾目掛けてドガッ!と強烈な蹴りを放ったのである。

これに対し、「グべぇえええッ!!?」と踏んづけられた蛙のような断末魔とメキメキと生々しい音を上げて春樹は吹っ飛んだ。

 

搭乗者を守る筈であろうISの絶対防御が壊れているのではないかと思う程の激痛が腹部から全身へかけ奔るが、彼はスラスターを逆噴射させて体勢を立て直す。

そして、血反吐を抑えながらカタカタ振える手でリボルバーカノンの照準を定める。

 

ズギャンッ!

「ぎぃいッ!?」

 

しかし、その定めたリボルバーカノンが福音から発射されたエネルギー光弾によって破壊された。

 

「あ”ぁッ、痛ぇえッ・・・!!」

 

≪・・・LA・・・♪≫

 

その反動衝撃波は銃を持っていた右手の手装甲を破壊し、筋肉をズタズタに引き裂いた。

その痛みに悶える春樹を見て、福音はなんとも嬉しそうな機械音を響かせつつ、全ての砲口の照準を彼に合わせた。

 

「ハァッ、ハァ・・・ちょっとタンマ」

 

≪・・・・・LA?≫

 

そんなフィニッシュを決めようとする福音に春樹は左掌を見せる。

この覇気のない彼の行動に福音は首を傾げた。

 

「なぁ、これが”さいご”になるかもしれんけん・・・話でもせんか、”篠ノ之 束”博士? どうせ、その無愛想なバイザーを通して俺を見とられるじゃろうけんな」

 

「よっと」と春樹は頭部の兜を収納し、素顔で福音へ話しかける。

すると、いつも無機質なアルファベットの羅列しか発しなかった福音から≪・・・あははははは!≫と中傷染みた弾むような笑い声が聞こえて来た。

 

「破破破ッ・・・やっぱりな、この野郎」と遂に抑えていた血反吐を吐き、琥珀の装甲板を濡らす春樹に福音・・・いや、束は見下す様な笑い声をあげた後で「お前、結構やるじゃん。一体いつから気付いてた?」と問いかける。

 

「そうじゃのぉ・・・ケホッ。怪しいって思うたんは、織斑先生が福音暴走の報告を俺らぁに持って来た辺りじゃろうか。・・・でも、途中で違うと思うたんじゃけどな・・・コッホゴホ・・・あぁ、血が喉に絡まらぁ」

 

≪んん? どうして違うと思ったのかな?≫

 

「ハァ・・・ハァ・・・そうじゃなぁ、織斑の野郎が撃墜されたけんかなぁ。・・・ッぺ」

 

そう言って春樹は口と喉に溜まった血を吐き切り、薄ら笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「じゃけど、織斑の撃墜はアンタにとっても予想外の出来事じゃったんじゃろうな」

 

≪そーなんだよー! まさか、いっくんがたまたま近くにいたあんなヤツらを庇うだなんて思わなかったんだよー!≫

 

「阿破破破破破ッ! ホントにそうじゃ、どうしようもなく救えない阿呆―――――」

 

・・・と春樹の口が紡ごうとした瞬間。

福音から放たれたエネルギー光弾によって、彼の左足が曲がってはならぬ方向にひん曲がった。

 

「阿”ぁ”~~~~~ッ!!?」

 

≪黙れよ≫

 

激痛に悶える春樹に束は先程までの弾む声色から一転、酷くドスの効いた低い声を出す。

 

≪お前みたいな道端の石ころが、いっくんを馬鹿にするんじゃないよ。それにお前、束さんが箒ちゃんへ渡した紅椿を勝手に取り上げただろ≫

 

そのまま束は春樹に向かってエネルギー光弾の雨を降らせる。

彼は其れを展開したブレイズルミナスで防ぐが、弾き洩らした光弾が直撃し、多大なるダメージが春樹へ襲い掛かった。

 

≪無駄な抵抗しちゃって・・・でも、大丈夫。お前の死体はこの束さんがちゃんと有効活用してやるよ。お前がなんでISに乗れるのか、束さんの今後の為に貢献できるんだから喜べよ―――――って、ん?≫

 

そう言って、更に光弾の弾幕を厚くする束。

だが、その時。不意に彼女は自らの後方をチラリと覗く。

高性能レーダーを見てみれば、此方に近づいて来る複数の機影が確認できた。

 

「ハァ、ハァ・・・ッ、予想外ってやつじゃろう? 「なんで退却した筈のラウラちゃんらぁがこっちに向かって来とるんじゃ」って顔じゃで、キサン。さっきの物言いと言い、やっぱり俺らぁの事を盗聴やら盗撮しとったんじゃのぉ」

 

そう言って、春樹は血を滴らせながら「ざまぁみろ」とばかりに口角を吊り上げる。

彼が長谷川に進言したγ作戦内の自分以外の退却指示は、彼女たちの命令無視で完了する内容だったのだ。

作戦を盗聴し、自分が優位に立っていると思っている束の鼻を明かす為の。

 

≪ふ~ん、でも・・・だから何? 箒ちゃん達が此処に来られるまで、まだ時間はある。その間にお前をぶっ殺して、連れ去るなんて造作もない事なんだよ≫

 

「確かに。じゃけど・・・解っとらんのぉ、魔”砲”少女もどきッ! キサンがちぃとばっかの隙を見せたんが運の尽きなんじゃでッ!!」

 

春樹はそう見得を切りながら、未だ血の滴る右手を束に差し向けて叫ぶ。

 

「ッ、―――――”跪け”ッ!!!

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ッ、見えた・・・!」

 

長谷川副本部長の退却指示を無視した専用機持ち一行は遂に春樹と福音に追い付いた。

だが・・・

 

「なに、アレ・・・!?」

 

「ッ、春樹!!」

 

ハイパーセンサーで春樹を確認した時、一行の表情から血の気が引いた。

何故なら彼女たちの目に映ったのは、全身から血を滴らせ、白い装甲を真っ赤に染めた春樹の姿だったからだ。

 

其の姿を目の当たりにしたシャルロットが、彼を助けようと飛び出す。

しかし、そんな彼女を「ちょっと待て!」と箒が止めた。

 

「なんで止めるのさ、箒! 早くしないと春樹がッ!!」

 

「待て、何かがおかしい!!」

 

「えッ?」

 

冷静になってよく見れば、警戒する箒の言う通りだった。

ズタボロのボロ雑巾状態になっている春樹の前で、掠り傷一つも付いていない福音が錆び付いたブリキの玩具の様な動きをしていたからだ。

 

「まさかッ・・・アレは―――≪そうだ、AICだ!!≫―――ッ!?」

 

何かに気づいたラウラが言葉を紡ぐよりも早く、切った筈の通信インカムから男の大声が聞こえて来た。

「だ、誰ッ?」と問う鈴に≪俺だ、作戦司令部の壬生おじさんだッ!!≫と壬生が返答を返す。

 

「一体どうやってッ? 通信は切った筈なのに・・・」

 

≪それはだな、君達の機体に量子変換した高機動パッケージから強制的に通信を復旧して―――――って、違う! そんな事は良いから早く清瀬少年を助けに行け!! 早くしないとマズいんだよッ!!≫

 

「どういう事よ?!」と叫ぶ鈴の隣で、事情を察したラウラが亥の一番に飛び出す。

 

≪良いか。今、少年がやっているのはボーデヴィッヒ候補生の機体にも搭載されているAICを俺達がコピーで作った代物だ。だが、やっぱりまだ未完成の為に相手の動きを完全に停止させる事が出来る反面、使用者の身体と脳に多大な負担をかける本当に本当の最後の切札なんだ!! だから、あんな状態で使ったら―――≫

 

『『『ッ!!』』』

 

壬生が全部を話す前に皆が一斉に福音へ殺到する。

 

「加勢するぞ、春樹!」

 

「お、おぅ・・・ラウラちゃん・・・やっと来たか・・・ッ!」

 

一方、AIC云々の特性を知っているラウラは瞬時加速で一気に距離を詰めると、福音の背後で春樹と同じように右手を差し向けた。

 

≪LAAA・・・!?≫

 

「もう逃がしはせんぞ、福音! 皆、囲めッ! このまま一気に捕縛しろ!!」

 

「さぁ、観念なさい!!」

 

ラウラと春樹がAICで福音を抑えている間、セシリアたちはラウラから渡されたワイヤーブレードを繋ぎ合わせた捕縛縄でグルグル巻きにする。

・・・しかし。

 

「ぅ・・・うぇえ阿”ッ!」

 

「春樹ッ!?」

 

≪LA”A”A”A”A”A”!!≫

 

身体の限界値が迫っていた春樹が、自機のAICの負担に堪え兼ねて吐血する。

これにより春樹の集中力と共にAICの効力が弱まり、福音は好機とばかりにエネルギー光弾を乱射。自らの身体に纏わり付いたワイヤーを焼き千切った。

 

≪A”A”A”A”A”A”A”A”ッ!!≫

 

「・・・ちきッ・・・しょう、めッ・・・」

 

「春樹ィイイイイ!!!」

 

そして、ダメ押しの一撃とばかりに止めを刺さんと福音が全ての砲口を春樹へ差し向ける。

シャルロットの悲鳴にも似た絶叫が響き渡った・・・その時だった。

 

ズドォオオオ―――オオンッ!!

≪LAAAAAAAAAッッ!!?≫

 

『『『ッ!!?』』』

 

斜め後方から一筋の光の粒子が降り注ぎ、発射体勢に入っていた福音を吹き飛ばした。

 

「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

「ッ、”一夏”ぁッ!!」

 

粒子砲と声がする方を見れば、其処には第一次福音討伐作戦で意識不明の重傷を負った筈の一夏が第二形態移行へ変貌した白式を纏って居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やら、せはせん・・・やらせはせんでッ・・・キサンのシナリオ通りにはなぁ・・・!!」

 

その純白の機体を目にしながら、春樹は意識を手放すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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