空が朱に白む頃。
【第二次銀の福音討伐作戦】は銀の福音の沈黙並びに同機体搭乗者の確保により、作戦完了となる。
しかし、今作戦の立案者兼現場指揮官であった春樹は、熾烈な福音との戦闘により重症を負う事となり、作戦結果は素直に喜べぬものとなった。
「えッ、それは一体どういう事・・・ですか?」
その作戦終了から数時間後。
土壇場で今作戦に途中参戦した一夏の姿は、急遽併設された作戦司令部である大宴会場にあった。
≪そのままの通りですよ、織斑 一夏君。君の所有している専用機、白式を我々日本政府へ”譲渡”して頂きたい≫
彼の前に置いてあるモニター画面で、淡々とそう話す長谷川に一夏は怪訝な表情を見せる。
「どうしてですかッ? なんで白式をアンタ達に渡さなくちゃならないんだよ!」
「簡単な話です。織斑君、君は第一次討伐作戦において明確な命令違反をしている。そのペナルティーと思えば、優しいものです」
「命令違反?」
長谷川の言葉に納得がいかない一夏へモニター画面の右側へ立っていた高良が諭す様な口調で口を開いた。
「はい。君は織斑 千冬学年主任の下、篠ノ之 箒さんと共に銀の福音討伐へ出撃した。そして、太平洋上で福音との戦闘を行った。しかし・・・その戦闘中、君は近辺で宝石珊瑚の密漁を行っていた漁船を福音の攻撃から庇った。そうですね?」
「あぁッ。でも、それがなんだって―――「それが命令違反です」―――ッえ?」
「君は任務遂行中、私情による身勝手な行動を行った。『福音の討伐』という重大な命令を放棄し、自由行動を行った事が命令違反へ該当します」
「な・・・なんだよ、ソレ。だったら、助けなくても良かったって言うのかよッ! 密漁をやっていた犯罪者だからって、福音の攻撃に巻き込まれてもよかったって言うのかよ!!」
「はい、そうです」
「ッ!!」
声を荒らげる一夏へ高良は冷淡に即答した。
その彼の目はいつもの朗らかなものではなく、何処か光のない冷たい眼をしていた。
≪・・・高良≫
「・・・すいません、先程の文言は撤回させて頂きます。・・・・・ですが、織斑君。君の身勝手な行動により、君を含めた生徒の生命を危険に晒した事には変わり有りません。現に、そのせいで清瀬君は多大な重傷を負いました。『専用機の没収』と言われても文句は言えない愚行です」
「ッ・・・そ、それは・・・ッ・・・」
≪それに織斑君、此れは君の姉君である織斑 千冬学年主任の為でもあります≫
「え・・・!?」
容赦のない高良からの言葉に口籠もる一夏へ、今度は長谷川が言葉を紡いだ。
≪織斑教諭は外部から不正アクセスで送信された偽情報を掴まされたとは言え・・・独断で、それも実戦経験のない生徒を暴走した軍用ISの対処に向かわせたのは大きな問題です≫
「で、でもそれは、俺と箒を信頼してくれたからでッ・・・その千冬姉からの信頼を俺が・・・ッ!!」
必死になって弁明する一夏に長谷川は真剣な表情から一転し、朗らかな笑顔を浮かべる。
明らかに、その表情から重苦しい圧力が感じられたが。
≪此方としても、新しく日本代表候補生となった清瀬君の重傷の責任を織斑教諭へ求めたい。・・・ですが、織斑君。君に誠意があると言うのならば・・・・・解りますよね?≫
「それに譲渡と言っても、一時的なものです。解析が終わり次第、所有者である織斑君へ返却されますので、ご安心を」
「ッ・・・は、はい。解り、ました・・・」
言い淀む一夏を丸め込んだ長谷川は「よろしい」の一言と共に彼を部屋から退かせると、眉間の皺を指で物理的に広げる高良へ視線を向けた。
≪高良・・・清瀬君の容態はどんな具合だ?≫
「はい、この近くにある救急医療センターへ搬送したのですが・・・どうにも言えない状況です。担当医の話だと、十トントラックに三回跳ねられた以上のダメージが全身へ広がっているとの事です。生きているのが、不思議なくらいだと・・・ッ」
≪そうか、私達に出来る事は祈る事だけかッ。・・・・・ッ、高良?≫
「はい、何でしょう先生?」
≪それは何だ?≫
悔しそうに表情を歪める二人。
だがその時、長谷川は高良のズボンの右ポケットの膨らみに気づいて指摘した。
「あぁ、これは」と高良がポケットから取り出したのは、何とも古い掌大サイズのウルトラマンを模ったフィギュアであった。
「出撃前、清瀬君が僕に”お土産”だと言って渡してくれたものです。まさか、このウルトラマンが彼の形見になるかもしれないなんて・・・ッ!」
≪”お土産”?≫
再び悲しそうな表情をする高良を余所に、長谷川は眉をひそめる。
今回の銀の福音の暴走をリークした事を含め、春樹は長谷川へ多くの有益な情報を頼んでもいないのに横流しして来た。
そんな男が意味もなく自分の直属の部下である高良へお土産を、ましてや古びたウルトラマンフィギュアを渡すだろうか?
≪・・・高良。そのフィギュア、上半身と下半身が分離できるものだな? ちょっと、二つに割ってみてくれないか≫
「えッ? しかし―――「いいからッ」―――は、はい・・・」
長谷川に急かされ、渋々フィギュアを二つに分離する高良。
すると―――――
「せ、先生ッ・・・これは・・・ッ!!」
≪高良・・・清瀬君の重傷でナーバスになっているだろうけれども、急いで壬生開発室長を呼んできてくれ。なるべく静急にだ≫
「はッ、はい!」
≪まったく、彼は・・・サプライズが好きだな・・・ッ!≫
―――フィギュアの上半身裏面へUSBメモリが安っぽいテープで貼り付けられていたのである。しかも、そのUSBには『だいよんせだいせっけいず』と平仮名で書かれていた。
長谷川と高良の脳内には此方に向かい、したり顔を「阿破破破ッ!」と晒す春樹の姿が上映されたという。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆