・・・・・俺が最後に覚えている事は主に二つだ。
一つ目は、太平洋の水平線彼方から様子を伺うようにひょっこりと顔を覗かせたお陽さん。
二つ目は、薄れゆく意識の中・・・視界へ映った俺の名前を呼びながら涙を流す”あの娘”の顔じゃ
「・・・ッ・・・こかぁ・・・?」
気がつけば、俺はある場所に居った。
其処は一階から二階までが吹きぬけになっとって、壁には一寸の隙間もないくらいに整理整頓された小難しい本が本棚に収められとる。
そねーな部屋の中心で、俺ぁ椅子に座っとる。
・・・真っ白な拘束着で全身を包まれて。
「目が覚めたかね、ハルキ? いや・・・この”部屋”で目が覚めたと聞くのは、少々可笑しな話か」
そんな調度『C.C.』が初登場時に着とった拘束着と同タイプのもんを着させられとる俺の前に、この部屋の主であろうある人物が居った。
『彼』は何とも上品で上質なスーツを身に纏とって、第一印象なら誰もがとても知的な印象を持つであろうハンサムな外見じゃ。
「はぁ~ッ・・・一番来とうなかった場所に、俺ぁ来た訳か。”また”」
「そう、”また”だ。前回、君が来たのはソイソースの一Lボトルを過剰摂取した時だから・・・調度、”一年ぶり”になるわけだ。元気だったかい?」
「「元気だったか?」じゃと? よー言うわな・・・」
捻くれた口を利く俺に、彼はニコリと口角を上げる。
「それよりも、今回はまた手酷くやられたようだな。だが・・・前回と違う点は、『肉体的』にという事だけれども」
「・・・ッ・・・」
「そう怖い顔をするな、ハルキ。前にも話したと思うが、”此処”は外とは時間の流れが違う。近いと言えば・・・君とラウラが共に居た空間に近いな」
ッ!? なんで其れを知って・・・!
・・・いや、其れはそうか。”俺が彼の事を知っている”ように、”彼も俺の事を知っている”。当たり前じゃったわ。
「気安く彼女の名前を呼んでんじゃねぇ。んで、俺が此処に居る言うこたぁ・・・俺はクタバリかけとるんか?」
「ん~・・・そうだな。骨折箇所は、左足の複雑骨折・右と左合わせて計七本の肋骨が骨折・胸骨にひび割れ・右手の凍傷に右手骨の全てが粉砕骨折・左上腕骨と前腕骨が複雑骨折・右側頭骨が陥没・左下顎にひび割れ。折れた肋骨が右肺に突き刺さっての出血。胃の破裂。全身打撲etcエトセトラ・・・と、医師ならば匙を投げたくなるような悲惨な状態だ。そんな状態で、よくあんなオブジェを機能停止に追い込めたものだな」
彼は呆れながら、何処からか取り出した俺のカルテを見ながら溜息を吐く。
「ハルキ・・・何故、殺さなかった?」
「ッチ・・・またその話かよ!」
「おや、君は一年も前の事など覚えていないと思っていたが・・・フフフッ」
当たり前じゃ、覚えとるわ。
一年前、俺はあと少しで彼のサイドへ”堕ちる”所じゃったんじゃけんな。
「しかし、何故だ? 君の左手の甲には魔法の紋章がある。それが有れば、あんな趣味の悪い造物など君一人で簡単に破壊できた筈だ」
「ハァ~・・・俺はさぁ、”博士”。貴方と違うんじゃ、あんたのような”化物”とはのぉ」
「可笑しな話をするな・・・私は君から生まれた”産物”だ。私と君は表裏一体」
「そうかぁ~。なら、俺の事をパパって呼んでみぃやッ。俺から生まれた産物なら、お前は本物の博士じゃない。ただの偽物ッ、”幻覚”じゃッ!!」
「・・・・・」
俺の発言に彼は一寸息を吐く様に肩を上下させると、椅子から立ち上がる。
そして、コツコツ靴音をたてながら俺の背後へ回り込んだ。
「確かに。君の言う通り、私は『ハンニバル・レクター』ではない。言うなれば、ハンニバル(偽)だ。だが・・・」
彼・・・レクターは俺の両肩をグッと掴みながら、キスでもするくらいに近づいて俺の耳へ囁く。「いつか”本物”になる日が来る」と。
や、野郎~・・・幻想とは言え、外見が映画版の『A・ホプキンス』じゃのーて、ドラマ版の『M・ミケルセン』の方じゃけん顔がエエッ! 其れに声もエエッ!!
「用心する事だ。私は必ず、君を滅ぼす」
・・・関係ない話じゃけど・・・ドラマ版の『レクター博士』と『夏目友人帳』の『ニャンコ先生』の中の人が同じって、俺は未だに信じられない。声優って、めちゃんこスゲェ~ッ。
「・・・春樹から、離れなさいッ」
「おや?」
「・・・え?」
傍から見りゃあ、BでLみたいな展開が繰り広げられそうな時に聞き覚えのない声が部屋に響いた。
声のする方を見れば、俺の真ん前で彼へ睨みを利かせる白髪で赤いワンピースを着た”幼女”が一人。
・・・・・えッ、誰ぇ??
つーかこの子の声、どっかで聞いた事があるような・・・?
「これは之は、驚いた。『外』からの来客とは珍しい」
「え、ちょっと待って・・・こんなキャラ、俺ぁ知らんのんじゃけど」
「えッ・・・!」
俺の知っている範疇で、こねーな幼女キャラ居ったけなぁ?
・・・ってか、なんかマズい事言うた? あの子、なんか泣きそうなんじゃけど。
つーか、”外”ってなんじゃ?!
「ひどい・・・あんなに私をメチャクチャにしておいてッ」
「え、えッ、えぇッ!!? ちょっと待って、待ってくだせぇよ!! 身に覚えがないんじゃけどッ!」
「そ、そうだった。”この姿”で会うのは初めてだったもんね」
はッ? この姿? この姿って何?
俺とあの子はどっかで会っとるんか?
・・・・・・・・何処で? まったく見当がつかんのんじゃけど?!!
「ふむ。フフフッ・・・これは面白い。あの仮説は真実だったわけだ」
「自分一人で勝手に納得するんじゃねぇよ、ハンニバル! 俺にも説明を―――――」
―――って、アレ? なんか頭が痛くなって来よったで?!!
「ほぉ、時間切れか。ハルキ、”元の世界”に帰る時間だ」
「えぇッ!? ちょっと待ってよ、私まだ彼と全然話をして―――――」
「では・・・またのお越しを、ハルキ」
・・・・・すぅ~~~ッッ・・・
「二度と来るか、こんな場所―――――ッ!!!」
◆◆◆◆◆
「―――――――ッ・・・ぁ、あ”ッ・・・あぁ?」
第二次銀の福音討伐作戦終了後。
目を覚ました春樹が一番に目にしたものは、見知らぬ白い天井だった。
「ありゃれ・・・かかはぁ・・・ッ? って、はべりにく!」
何だか喋りにくい事に違和感が感じられた春樹は包帯ぐるぐる巻きにも関わらず、左手を何とか起き上がらせ、口と鼻へ付いていた人工呼吸器を自力で外す。
そして、ゴキリッと顎の骨を鳴らした。
「ゲッホ、ゲッフォッ! あぁッ、苦しかった!・・・って、ありゃあ? 俺・・・生きてる? 俺ッ、生きてる!?」
春樹は自分が生きている事に衝撃を受けながら、ムクリと身体を起き上がらせる。
するとどうだろうか。銀の福音との戦闘で負った筈の負傷箇所が、不思議と痛感が無かったのだ。
痛感が無いと言っても、神経が通ってないいないと言う訳ではない。
ちゃんと神経も感覚もあり、負傷した手足がちゃんと動いたのである。
「えぇッ・・・なんでェ~~~~~ッ??」
両手と頭に巻かれた包帯を取りながら、困惑の感想を述べる春樹。
彼自身、前々から「俺って、傷とかが治りやすい性質なんじゃろうか」と自覚していたが、福音との戦闘中から「こりゃあ、もうダメじゃ」と思っていた負傷が何事もなかったかのように”完治”していたのである。
流石に此れには春樹も引いた。ドン引きした。
例え、治ったとしても一生寝たきりか車椅子生活だと思っていたのだから。
「あッ、ちゃんと右目も見えらぁ。・・・・・えぇ~~~ッ・・・!」
窓から見える月に再び困惑の感想を垂れる春樹。
琥珀のAICとガンダールヴの使用時に両目が焼ける様な感覚を味わったのにも関わらず。彼の目は健在だった。
「なにコレぇ~・・・俺って、まだ夢でも見とるんか~?」
そのまま春樹はブチブチと両腕の脈へ突き刺さっていた点滴針やら心電図やらの線を引き抜く。
途中、心電図が五月蠅く鳴ったので、コンセントから引き抜いた。
「んッ、ん~・・・あぁ~ッ・・・しっかし、よ~寝たわぁ」
取り敢えず、自分の身体に何が起こっているのか解らない事へ春樹は思考力を放棄し、ベットから立ち上がると大きく伸びをする。
バキバキと身体から骨が鳴る音が響き、心地良い爽快感が充満した。
「じゃけぇど、よー寝た言うても・・・どれぐらい寝たんじゃ?」
月を見ながら、春樹は自分が意識を失った経過時間を疑問符混じりに独り言で呟いた・・・その時。
「十二時間以上だよー」
「ほぉ~ん・・・・・・・・阿”ッ!!?」
自分一人しかいない筈であろう病室から、彼が今最も聞きたくなかった声が聞こえて来るではないか。
「やっほー!」
「ッ・・・!!」
その声のする方を見れば・・・其処に居たのは、ウサ耳を付けた紫色の長髪を月夜で艶やかに照らした全世界が噂する天”災”科学者『篠ノ之 束』だった。
「なんでッ・・・テメェが・・・!!」
春樹は驚嘆しながらも、自分の腕から引き抜いた点滴針をすぐさま手に持つ。
本当は銃やらナイフやらが良いのだが、無いよりはマシだ。
「そんなに警戒しないでよー。束さんは、君のお見舞いに来ただけだから」
「お見舞い~? 止めを刺しに来た言うんの間違いじゃないんかッ?」
フゥーッと猫のように背中を大きく立たせる春樹に、束はニコニコと表情を崩さない。
「んー、本当はそのつもりだったんだけどね・・・気が変わったんだー。だって、あんなにボロボロでズッタズッタだった君の身体がピンピンしてるんだもん! 束さん、興味津々だよー!!」
「阿”ぁッ?!」
「なに言ってんだ、コイツッ?」とばかりに表情を歪める春樹を束は「おもしろーい!」とケラケラ笑う。
その彼女の様子に春樹はゾゾッと背中へ鳥肌が立つのが実感できた。
「んふふ~・・・ねぇ、”はーくん”?」
「・・・阿ッ? なんじゃあ、その名前は? もしかしなくても、俺の事をよーるんか? じゃとしたら・・・勝手なアダ名付けるな、このおわんご兎!!」
「えー、別にいいじゃん。小さい事言ってると、はーくんの頭ハゲちゃうよ」
「誰が禿げるか、このおわんごがッ!!」
「むーッ・・・まぁ、いいや。ねぇ、はーくん? 世界って楽しい?」
「・・・は?」
突拍子もない質問に更に顔を歪める春樹。
だが、元来の真面目な性格が変な所で垣間見えてしまい、素直にこう答えた。
「そこそこ楽しいッ。酒は美味いし、飯も美味い。最近、俺が好きな作品が漫画化とかアニメ化とか実写化しとるし、まぁまぁ面白い。じゃけど・・・贅沢を言うんじゃったら、キサンみてぇなキチガイとか面倒事とは今後一切関わり合いとうないッ!!」
「ふーん、そうなんだぁー・・・でも最後のは頂けないかなぁ」
「阿?―――――ッ!!?」
疑問符を浮かべた春樹に向かって、束は常人には到底反射出来ない速さで迫る。
そして、その勢いのままに彼の唇へ自分の唇を―――――
「オラァッ!!」
「ッ!?」
―――合わせようとしたのだが、その顔面目掛けて春樹のカウンターパンチが突き刺さる。
バギィイイッ!!といった生々しい音が室内に木魂し、束はそのまま部屋の壁へと激突した。
「いきなり何するんじゃ、ボケェ!!」
「汚ぇなッ、もう!」と汚物でも触れたかのように掛け布団で拳を拭う春樹に対し、束は「・・・ふふッ、ふふふッ!」と口元から血を垂らしながら口角を吊り上げる。
「はーくん・・・束さん、君の事気に入ちゃった!」
「阿”ぁ”あ”ッ?」
酷く顔をひしゃげて驚く彼に、彼女は「じゃあまたねッ、はーくん!!」と言って部屋の窓から外へと飛び出す。
その数秒後、変な形と色をしたロケットが夜空に向かって飛んで行ったのだった。
「何事ですかッ!!?」
「あぁ、看護師さん。なんか俺の病室に不審者が―――「って、ギャァアアアアア―――ッ!!?」―――って、なんで俺の顔見て悲鳴を上げるの~ッ???」
騒ぎを聞きつけて駆けつけた夜間の看護師達に春樹は何故か化物でも見たような絶叫を上げられ、この後酷く拗ねるのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆