IS/Drinker   作:rainバレルーk

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酔い覚まし:幕内・酒に別腸あり
第61話


 

 

 

ジャンプ作品の中でも名作と名高い『ジョジョの奇妙な冒険』。

その『第五部:黄金の風』にもう一人の主人公のような立ち回りで登場する『ブローノ・ブチャラティ』は、劇中でこーいう台詞を残しとる。

 

「吐き気を催す『邪悪』とはッ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ・・・!!」

(一部抜粋)

 

・・・とな。

正に今回、太平洋上で起こった福音ちゃんの暴走事件・・・・・長谷川さんらぁが、第一次と第二次討伐作戦を合わせての総称で『銀の福音事件』って呼んどる事件は之に当て嵌まるじゃろう。

 

あの女郎・・・もとい、キチガイ兎・・・もとい、『篠ノ之 束』は福音ちゃんを通して俺にケラケラ笑いながら、今回の事件の黒幕は自分だと”自白”しやがった。

・・・しやがったんじゃけど・・・その自白を録音したレーコーダーは福音ちゃんとの戦いで木端微塵。実に、実に惜しい。

 

まぁ、事が起こった時から怪しかったんじゃ。

あの女郎は自分の妹である篠ノ之に第四世代なんてとんでもねぇ代物をプレゼントした時点から『自作自演』が始めた。

・・・よーするに自分の作った機体で”遊びたかった”って言うんが本音じゃろう。

 

じゃけど・・・俺のこの言葉をあの女郎が聞いたら、きっと否定するじゃろうなぁ。

『自分の妹の為』じゃとか、『織斑の野郎の事を思って』とか。きっと耳障りの言い言葉を並べるじゃろう。・・・仮初ではない『本心』の言葉でのぉ。

じゃけん・・・そーいう輩には、『ジョジョ第六部:ストーンオーシャン』に登場する『ウェザー・リポート』のこのセリフがエエじゃろう。

 

「おまえは・・・自分が『悪』だと気づいていない・・・もっともドス黒い『悪』だ・・・」

 

・・・さて。

そねーなとんでもねぇ女から直々に『お気に入り』の言葉を頂いた俺の身体は―――――

・・・吃驚する程に健康其の物。

 

いやー・・・当直の看護師さんが連れて来られた医者の顔ったら、とんでもねぇ事。

まるでホラー映画のワンシーンみたいに表情を真っ青に変えて、よたよた後退りしよった。

 

「奇跡だッ・・・正に奇跡としか言いようがない・・・!!」

 

・・・そう言うとる医者の前で、俺は必死に笑いを堪えとった。

何でか言われたら、あまりにもその顔が面白すぎて。

 

まぁでも、そりゃーそうじゃろうな。

病院へ運ばれた時は、現状生きているのが不思議なくらいの状態じゃったそうじゃし。

例え、一命を取り留めても全治一年以上かかる重傷。

それが、たったの十二時間ぽっちで完治。しかも、投薬やら手術なしの自然回復なんじゃから、そりゃあ吃驚仰天じゃろう。阿破破ノ破!

・・・って、笑いを堪えとったら俺の全快を聞きつけた壬生さんに後頭部を小突かれた。

・・・地味に痛い。

 

そんなこんなで・・・翌日には俺、退院。

「今後の医学の為、是非とも君の細胞組織をサンプリングさせてくれ!!」みたいな事を其処の病院長が言い始めた時は、色んな意味で焦った。ホントに焦った。

因みに医療費は長谷川さんが出してくれた。保険証持ってなかったけん、実にありがたい。

そんな優しい長谷川さんから、俺がぶっ倒れた後に事件がどうなったか聞かされた。

 

まず・・・俺が躍起になって助けようとした福音ちゃんの搭乗者さんの命に別状はなく、直に意識を取り戻すそうじゃ。

そん事に「えかった、エかった。覚悟を持って挑んだかいがあるって言うもんじゃ」と俺が笑うと、「相変わらず、軽いねぇ清瀬君は・・・」と高良さんから苦笑された。

・・・解せぬ。

 

二つ目に、俺が行動停止にした福音ちゃんは壬生さんらぁが解析しとるそうじゃ。

アラスカ条約違反で作られた軍用の機体じゃけん、機体内部はアメ公どもの機密でいっぱいじゃろうなぁ・・・。

そん事で壬生さんが涎でも誑しそうな顔でウへウへよーたけん、「壬生さん、気持ち悪ぃ」って言うたら・・・「清瀬少年だって、銀の福音を”手籠め”にした癖に」と言い返された。

・・・解せぬ。俺は純情な少女を無理矢理組み敷いた下衆野郎と違うでよ。

 

三つ目に、なんとも可笑しな事に福音ちゃんの所属している米軍基地のお偉いさんが、俺と琥珀ちゃんの身柄引き渡しを要求して来たそうじゃ。

「・・・なに言っとるんじゃ、オメェ?」とひしゃげる俺の顔が面白かったんか、長谷川さんが「ぷッ!」って、吹いた。

 

まぁ彼方さんとしては、軍用に作った筈の機体を撃破した琥珀ちゃんと搭乗者の俺に興味が湧いたんじゃろう。・・・・・じゃけどなぁ・・・

 

「はッ? アンタら、なに言うとるんなん? 国連やらにチクって、国際問題にしたろか? あぁんッ?」・・・的な事を長谷川さんが言うてくれたけん、彼方さんは黙ったそうじゃ。

・・・カッコええ。出来る大人は違うでよ。

 

四つ目に、今作戦に参加した人らぁは俺とラウラちゃん以外は無傷じゃそうな。

俺としては、あのキチガイ兎の掌の上でトリプルアクセルを決める位に踊りまくっていた織斑の野郎にはクタばって欲しかったんじゃが・・・そーなると、野郎に乗っかっとる面倒事を全被りしてしまうけん、とりあえずは織斑の野郎が元気になって良かった。・・・ホントに不本意じゃけども。

 

そんな元気になった野郎に・・・今回の手柄も、功績も、責任も、全部を”押し付けて”やった。

壬生さんは俺が福音ちゃんをノした事を大々的に発表するべきじゃと言うとったが、内閣に巣くっとる親IS派閥の、中でも織斑先生やキチガイ兎を崇めとる連中を刺激しとうないと長谷川さんが反対。

別に俺も其処まで手柄が欲しかった訳と違うから、「別にエエですよ、構いません」って言うたら、「良いのかい、清瀬少年!?」と壬生さんに両肩を掴まれてガクガクされた。

そん代わり、俺は長谷川さんに「じゃけん、此れだけ下さい」と五本指を見せたら、「勿論。今回の働きに見合った報酬を送るよ」と約束してくれた。

太っ腹な長谷川さん。流石は議員の先生さまじゃあ。

 

と、言う訳で。

非公式の公式記録と言うちょっと解らん記録では、福音ちゃんは織斑の野郎が倒した事になった。

野郎の機体も二次移行した事じゃけん、妥当じゃろうな。

 

・・・と、まぁ。

サクサク上手い具合に事が進みょうたんじゃけど、この後が大変じゃった。

 

「は・・・春樹さんッ・・・!!?」

「き、きき・・・清瀬、アンタ・・・無事だったの?!!」

「あ~。きよせん、おはよ~」

 

上からセシリアさんに凰さんで、最後は布仏さんじゃ。

事件の事は秘匿されとったけん、「かんちゃんから酷い怪我をしたって聞いてたけど、全然大丈夫そうだねぇ~」と軽い布仏さんに対し、作戦参加者のセシリアさん達はギョッとした顔で俺を見よった。

山田先生には「生きてて良かったです~ッ!!」なんて、出会った廊下の真ん中で大泣きされたし、其れに釣られてデュノアもなんか目を潤ませとった。

戦闘中に腹を小突いてしもうた簪さんには、「馬鹿ッ・・・心配したんだからね・・・!」と静かな声と共に張り手を喰らわされた。

じゃけぇ、「き、清瀬・・・お前、無事だったんだな」と顔をヒクつかせながら騒ぎを聞きつけて来た織斑の鳩尾にグーパンをめり込ませてやった。

ちょっとはスカッとしたけんど、「一夏に何をするかッ!」と篠ノ之に竹刀で叩かれそうになった。

 

・・・因みに。

俺をぶちまわそうとした篠ノ之は長谷川さんの計らいもあってか、日本代表候補生になったそうじゃ。

まぁ、第四世代いうとんでもねぇ専用機を持っとるけん、当然といやぁ当然じゃ。

・・・後々の外交カードの為にしっかりしてもらわにゃあな。

 

そんなこんなで学園へ帰投して早々に騒ぎを起こしょーたら、「一体何を騒いでいる?!!」と師の素人にも関わらず、生徒を軍用機体に特攻させたA級戦犯であろう織斑先生が恐ろしい形相で近づいて来た。

 

本当なら今回の事件の失態責任で、この学園には居られん筈なんじゃけども・・・壬生さんの所へ二次移行した白式の一時的な譲渡と、未だその筋に影響力が強いブリュンヒルデに貸しを作ってやった事でお咎めなし。・・・なんじゃけれども・・・

 

「ッ!!? 清瀬・・・もう大丈夫なのか?」

 

俺の顔見て早々に動揺したんとまるで化物でも見るかのような視線が、腹立つ。

あと、姉弟そろってリアクションが同じなんもムカつく。

・・・「一晩二晩三晩か、夜這い出来るように長谷川さんへ頼むべきじゃったかなぁ」と、下衆な冗句が思いつく位に虫の居所が悪うなった。

じゃけん・・・

 

「オラァッ!」

 

「ぐフェえッ!?」

 

オマケのリバーブローをバキッと織斑の野郎に叩き込んでやった。

そんで、野郎の踏んづけられた蛙のような断末魔に心地良く浸っとったら、ゴキッ!と織斑先生に出席簿で殴られた。

・・・解せぬ。

 

そんな事がなんやかんやありまして・・・現在、俺は―――――

 

「阿”・・・ぁあ~~~・・・ッ!」

 

―――・・・返却された期末テストの結果にK.O.寸前じゃった。

臨海学校が終わったら、すぐに恐怖のテスト週間があるという事をすっかり忘れとった。

・・・しかも・・・ッ!

 

「よりにもよって、織斑先生の担当が赤点て・・・・・阿”~ッッ!!」

 

絶対、コレ補習じゃがん。あと一点で赤点回避なんじゃけん、オマケの一点くれてもええがん。

事件解決に尽力したのに、この仕打ち・・・・・解せぬゥウッ!

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

太平洋上の夜空で激しく火花散らせた『銀の福音事件』。

その戦いから奇跡的とも言える生還を果たした『不死身の刃』(壬生が命名)こと、春樹は今現在、主に三つの事柄で悩んでいた。

 

一つ目は今し方返却されたテストの凄惨たる結果だ。

得意の文系はまぁまぁの結果だが、理系はレッドラインすれすれの状況。加えて、IS学園特有のIS基礎知識試験は全一年生内でぶっちぎりの最下位結果となった。

 

「阿”~、いやじゃぁ~! 夏休み削ってまで、学校に居りとうない~ッ! 補習やりとうないィイ~!!」

 

「・・・大丈夫、春樹?」

 

「阿”ァ”ア”ア”・・・ッ!!」と静かな断末魔を上げながら机へ突っ伏す春樹の背中を簪が心配そうに擦る。

 

「わからないところ・・・教えてあげるから、頑張ろ?」

 

「・・・うん。ありがとな、簪さん」

 

福音との戦闘後よりも精神的にグロッキー状態な彼の頭を優しく撫でた簪は、少し用があるからと席を外す。

 

「清瀬 春樹はいるか?!」

 

『『『!』』』

 

そんな彼女と入れ替わるように、四組へ大声と共に入室して来た人物が一人。

 

「阿? おぉッ、ラウラちゃん」

 

皆がなんだなんだと視線を向ければ、其処には大きな重箱を小脇に抱えた銀髪美少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが「フンスッ」と立っていた。

彼女の登場に春樹は椅子から立ち上がると、「迎えに来てくれたんか?」と足を進ませた。

時刻は正午を回る頃。昼飯時である。

 

「あぁ、春樹が今日返却されたテスト結果で落ち込んでいると思ってな。迎えに来たのだ」

 

「おっふ・・・その通りじゃ、散々たる結果じゃったわ・・・阿破破破破破・・・・・」

 

予想を当てられ、再び落ち込む春樹に「す、すまん春樹!」と慌てるラウラ。

 

「そんなお前の為に今日のお弁当は、お前の好きなモノを揃えたぞ!」

 

「えッ、ホントに? 何を作って来てくれたん?」

 

「これだッ!」と持っていた三段重箱の上段を開けてみれば、中には一面の細かくマッシュされたジャガイモだけが敷き詰められていたのだった。

 

「わおッ、マッシュポテトじゃがん!」

 

「うむ。中段は塩おにぎり、下段は緑黄色野菜のバター炒めだ」

 

「おにぎりの中身は?」

 

「勿論、春樹の好きな鮭だぞ」

 

「「イェーイ!」」とハイタッチした二人は颯爽と教室から出て行く。

其の時、重箱を受け取った春樹の手にラウラは自分の手を絡ませた。別段、春樹は拒む素振りを見せなかったので、そのまま二人は手を繋いで行ってしまった。

 

「あれ・・・春樹は・・・?」

「春樹・・・清瀬くん、いませんか?」

 

『『『・・・あ~・・・』』』

 

「「・・・ん?」」

 

教室へ戻って来た簪と、ラウラに遅れて後から入室して来たシャルロット。

四組の生徒達は、そんな二人に優しさに溢れた視線を送るのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うん。美味い、美味い」

 

「フフフッ。そんなに急いで食べなくても、弁当は逃げないぞ」

 

教室がある学習棟から離れた位置にある春樹お気入りの場所で、二人は朗らかに昼食をとる。

夏真っ盛りが近づく中、この場所は外から入って来る海風の通る気持ちの良い場所だ。

 

「んく・・・んく・・・くっひゃぁ~、喰った食った! 度重ねる程に美味うなってくるなぁ、ラウラちゃんの料理はッ。ご馳走さんでした」

 

「喜んでもらえてなによりだ」

 

ラウラが作った弁当を全て平らげた春樹は、「阿破破破ッ」とケラケラ笑いながら満腹感に浸る。

いつもは耳障りな蝉の鳴き声が、今日は何だか心地が良い。

 

「春樹」

 

「阿?」

 

そんな彼にラウラは「来い」とただ一言声をかける。

見れば、彼女が両手を広げながら正座をして待ち構えているではないか。

 

「いや、悪いよ。弁当こさえてもらったんじゃけん」

 

「つべこべ言うな。私がしたいからするんだ。良いから来い」

 

「あ~・・・解ったよ」

 

「良い子だ」

 

なんとも清々しいラウラの言葉に春樹は渋々、自分の頭を彼女の膝の上へ横たわらせる。

見上げれば、ラウラの灼眼の瞳と黒い眼帯が彼の顔を覗き、柔らかな銀髪が顔を優しく撫でた。

 

「春樹・・・眼は、あれから大丈夫か?」

 

ラウラはそう言いながら、閉じた春樹の瞼をか細い指でなぞる。すると、閉じられた瞼から”鳶色”の瞳がパチリと見えた。

 

事件後の奇跡の全快を見せた春樹だったが、その自然治癒の際に琥珀色に変色していた瞳は元の鳶色へ戻った。

原因は不明だが、琥珀に内蔵されていたAIC使用による副作用なのではないかと思われる。

 

「あぁ、別になんともないでよ。大体、今までヴォーダン・オージェが常時発動中みたいな感じじゃったけんな。俺としては元に戻って良かったでよ」

 

「そうか、私は少し残念だ。お揃いだったのでな」

 

「露骨に残念な顔すなよ。まぁ・・・琥珀ちゃんを纏ったら何でか知らんけど、両眼の色が変わるけんな」

 

春樹の言うように両眼の瞳の色は元に戻ったが、左手の甲のガンダールヴへ呼応するように武器使用時には彼の両眼は琥珀色に輝いたのだ。

「俺は、イノベイターへ覚醒した『刹那・F・セイエイ』か!?」と自分自身でツッコミを入れた事は未だ記憶に新しい。

 

「・・・春樹、私は待ち遠しいぞ」

 

「何がよ?」

 

「お前が十八歳になるのがだ」

 

ラウラから出た言葉に春樹は若干眉をひそめた。

事件後、春樹が病院のベッドから全回復した当日の夜。彼は検査入院として入院していたラウラから涙の逆プロポーズを受けた。

 

「お前の十八歳の誕生日当日、共に婚姻届へサインしよう。そして、二人でこれからの人生を一緒に―――「待て待てッ」―――春樹?」

 

灼眼の目からハイライトが徐々に失われかけた瞬間、春樹はラウラの膝から頭を上げて正面を向いた。

 

「その話じゃけど、もうちょい待ってくれ」

 

「何故だ? 私は今すぐにでも春樹と一緒になりたいのに・・・私の何がいけないんだ?」

 

「いや、君の何が気に喰わんとか言う話じゃのーてな。結婚とかいう、そー言う話はまだ早いじゃろう。もしかしたらこの先、俺よりも好きなヤツが出来るかも―――「ふざけるな!」―――ッ!?」

 

春樹の紡ぐ言葉が気に入らないのか、キッと彼を睨み据えたラウラは彼の両肩をめいいっぱいの力で掴む。

 

「春樹よりも好きな男など、この先できる筈などない! お前は私の思いを疑うのかッ?! そう言って、私を置いて何処かに行ってしまう気なのか?!! ふざけるなッ、フザケルナッ!!」

 

見開かれた灼眼の瞳がどんどん赤錆びた色になって行くのと同時に、彼女の表情は曇って行った。

 

「もし、そうならば・・・お前を殺して、私も―――「ラウラちゃんッ」―――あッ・・・」

 

軽くパニック状態になり始めたラウラを春樹は引き寄せ、優しく抱きしめた。

 

「ラウラちゃん、ラウラちゃん、ラウラちゃんよ~。少し落ち着け」

 

「春樹、私は・・・私は・・・ッ!!」

 

興奮する彼女の瞳に自分の瞳を合わせながら、ゆっくり深呼吸する様に促す。

 

「大丈夫、大丈夫。そーならんように俺も気を付けるけん。な?」

 

「・・・・・うん・・・解った・・・」

 

ラウラを落ち着かせた春樹は、取り敢えず一服しようと飲み物を買いに近くの自販機へ赴く。

無論、彼女の目が届く距離にある場所で。

 

これが春樹が悩む二つ目の事柄、「なんか最近、ラウラちゃんの様子がおかしいくない?」である。

 

「なんで、あねーになったんじゃろうか? なんか俺、ラウラちゃんのトラウマでも踏んじまったか?」

 

〈あぁ、明らかにそうだろう〉

 

ガチャリガチャリと自販機に硬貨を入れていっていると、彼の横へ何時の間にかある男が立っていた。

三つ目の悩み事の種であるその男を横目に、彼は「はぁ・・・”また”か」と溜息を漏らす。

 

男の名は『ハンニバル・レクター』。

春樹の追い込まれた精神が生み出した実像を持たない虚像の幻覚である。

その幻覚である彼が、精神世界を飛び出して遂に現実世界に現れたのだ。

 

〈彼女は、君と織斑 千冬の事を重ねて見ている節がある。そして、恐れている。織斑 千冬が自分を捨てたように、ハルキ・・・君からも何時か捨てられる日が来るのではないかと〉

 

「・・・そうじゃろうな。つー事は、あの先公のせいやんけ」

 

〈いや。全部が全部、そうだとは限らない〉

 

「阿? どういう事じゃ」

 

〈ハルキ、君がハッキリと彼女に対して拒絶の意を唱えないのも悪い〉

 

「・・・・・」

 

〈君はあの『織斑 一夏(無礼な豚)』とは違い、人の心が解らぬ人間ではない。彼女からの思いが迷惑なモノならば、ハッキリと言うべきだ。でなければ、このままズルズルと今の関係を続ける事になるぞ〉

 

「迷惑なもんかッ! つーか、とんでもねぇルビを野郎に振ったなッ?!」

 

ハンニバルの言葉に声を荒らげる春樹だったが、途端に声のトーンが下がる。

其れを察知したハンニバルは彼の傍まで近づき、すぐ隣に佇んだ。

 

〈君の心配も解る。もし彼女からの思いを受け止めれば、彼女の上司であるドイツ軍上層部が黙ってはいない。君の遺伝子情報を手に入れる為に彼女を道具として利用するだろう。『彼女と彼女の思いを道具にしたくない』・・・それが君の本音だ〉

 

「・・・ッ・・・」

 

グサリと本心を見透かされた事に春樹は口籠る。

 

〈そうならない為、君は長谷川に命令違反者へのDNAサンプリングを行うように進言したのだろう?〉

 

銀の福音事件終了後。

日本政府側は、γ作戦の指示を無視した主犯格であるラウラから血液や体組織のサンプル等を徴収していた。

その細胞サンプリングを長谷川に提案したのは、他でもない春樹だった。

 

〈君は一見、何も考えていないようだが・・・腹の奥底では”奪う”事だけを考えている。悪い子だ〉

 

「喧しいッ・・・とっとと消えろ!」

 

ギロリと春樹はハンニバルへ琥珀色に光る視線を突き刺す。

これにハンニバルは両掌を見せ、〈あまり飲み過ぎるな。それとリラックスさせるなら、紅茶がお勧めだ〉と言って消えた。

 

其れに対し、春樹は「・・・畜生め」と軽くボヤいて紅茶のボタンを押す。

そして、後ろポケットに入っていたスキットルを取り出し、中身のスコッチを一気に呷ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





編集の上、再投稿。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆







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