「フゥ~・・・」
その日、IS新機体発表会が行われている会場で、透き通るような銀髪を持った少女が疲労感のある吐息を漏らしていた。
彼女の名は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。
若輩ながらもIS部隊を率いるドイツ人将校だ。
されど、若輩ながらに一個部隊を率いる事が出来るのには理由がある。其れは彼女が遺伝子操作で生み出されたデザインベビーだからだ。
戦わせる為に生み出されたラウラは当初、生体兵器としては他に申し分のない”性能”を誇っていた。
だがその後、ドイツ軍上層部が自国独自に開発した生体ナノマシン施術『ヴォーダン・オージェ』に彼女は片目しか適応する事が出来なかった。
生み出されて初めて経験した挫折に打ちのめされたラウラ。加えて、上層部からは”欠陥品”の烙印を押され、あわや秘密裏に”処分”の対象になった。
しかし、そんな彼女を救う存在が突如として現れる。
彼女の名は『織斑 千冬』。世界最強のブリュンヒルデと名高いIS乗りだ。
彼女は連覇がかかったモンド・グロッソ大会中に誘拐された一夏を救助する際、協力を打診したドイツ軍に恩返しの名目で教導に来たのである。
その千冬に見込まれたラウラはメキメキと才能を開花させ、軍上層部に対する自身の評価を覆させる事に成功した。
千冬と過ごした日々は彼女にとって、とても心地良いものであった事だろう。
・・・だが、そんな日々にも終わりが来た。
千冬のドイツ軍への教導は”一年間だけ”といったリミットがあり、その期日が迫る中、ラウラは彼女にある事を問う。『何故、教官は其れほどまでに強いのか』・・・と。
すると千冬はこう答えた。『私には弟がいる』と。
そう答えた千冬の理由よりも、彼女の表情にラウラは驚いた。
まるで、想い人でも思うかのような慈愛に満ちた表情。決して自分には向けられた事のない顔があったのだ。
そんな千冬の表情を見たラウラは、未だ見ぬその弟に対して激しい嫉妬心を覚えた。
・・・嫉妬心と言っても、当時のラウラはその気持ちの名前も知らなかったが。
日本へ千冬が帰国した後、ラウラの心中に芽生えた嫉妬心は風船のようにドンドン膨らんでいき、何時しか其れは明確な”殺意”へ変貌していった。
・・・そんな頃だろう、『男性IS適正者』のニュースを彼女が耳にしたのは。
しかも、その男性適正者は千冬の弟だと言うではないか。
千冬の”弱さ”であるその弟から強い彼女を取り戻さんと、ラウラは軍上層部に嘆願し、IS学園へ転入した。
その転入初日。
ラウラは教室で自己紹介とは言えない自己紹介を終えると千冬の弟だと思われる男の前に立ち、彼の頬へ強烈なビンタを放った。
けれどもその男は千冬の弟である『織斑 一夏』ではなく、彼の後に発見された二番目のIS男性適正者『清瀬 春樹』だったのである。
そんな衝撃的な初対面をした直後。春樹は叩かれた事へ激情する事なく、穏やかに彼女へ挨拶を返した後・・・・・離れた席に座っていた一夏の顔面へこれまた強烈なヘッドバッドを叩き込んだのだ。
此れにはラウラのみならず他の生徒達も驚いたが、彼女がこの男に興味を惹かれる理由には十分すぎた。
春樹に興味を持ったラウラは幾度との会合を重ね。彼も自分と同じように一夏へ憎悪の感情を持っている事を理解した。
しかし、その時に春樹から自分とラウラの憎悪には違いがある事を言われ、彼女は彼に自分でも解らなかった胸の内を見透かされる事となる。
そんな事もありながらその後、ラウラは春樹の弱みであるアルコール依存症をネタに自分とタッグを組んで学年別トーナメントに出る様に恐喝した。
之に意外にもすんなり了承した春樹はラウラと同居生活を送りながら、特訓を開始。打倒一夏を目標にした。
・・・だが、彼女は春樹と過ごしている中で、彼の何とも言えない人柄によって徐々に人間らしい気持ちを知らず知らずの内に取り戻して行った。
そして、ラウラにとって転機となる日が訪れた。
学年別トーナメント準決勝第一試合。今まで憎悪を向けていた一夏との戦いが始まった。
最初は春樹との息の合ったコンビネーションとAICで痛烈な初撃を取り、一夏を追い込む事に成功したのだが・・・彼女の一瞬の隙をついた一夏の零落白夜によって、一気に形勢逆転を許してしまった。
その事がキッカケで、ラウラは自身の専用機シュヴァルツェア・レーゲンへ隠されていた条約禁止装置『VTS』に身体と機体を乗っ取られる事となる。
VTSに飲み込まれた後、ラウラはコールタールのような流動体の中に居た。其処は暗くて冷たい氷の中のような場所だった。
「もう・・・どうでもいい」と、このまま自我が失われるのをただ待っているその時だった。
どこからともなく何故か自分のタッグパートナーである春樹が、この空間に入り込んで来たのである。
それでも無関心な態度をとるラウラに対し、彼はただ黙って彼女の傍へ寄り添った。
そんな春樹の行為にラウラは「何故だ?」と疑問符を投げかける。その問いに対して彼は軽口も含めて答えて行った。
そして、彼は最後にこう締めくくった。「生きて行く理由が欲しいのなら・・・今だけは俺の為に生きてくれないか」と。
―――――事件後。ラウラは一夏に対する憎悪を忘れ、彼と和解。そして、自分を新たに生まれ変わらせてくれた春樹へのめり込んで行く事となった。
・・・実はこの事件の裏で、ラウラの専用機へVTSを仕込んだ軍上層部の連中が、彼女を秘匿的に”処分”しようと企んでいた。
しかし、春樹の掴んだ情報とラウラを慕っているドイツ軍関係者によって連中は逆に処分されてしまったのだった。
春樹曰く、「ざまぁ未晒せ、この糞野郎ッ」との事。
・・・話を元に戻す。
事件後、ラウラは元々持っていた純真さを武器に彼へアタックをかけていく。
一夏のような酷い鈍感さを持ち合わせていない春樹は、彼女の好意を快く思っていたのだが・・・なにぶんとラウラが軍属である為、彼女の気持ちをドイツ軍によって道具のように使われてしまうのではないかと春樹は躊躇った。
その為に二人はあと一歩の一線を超えられぬままズルズルと、友達以上恋人未満の曖昧な関係を続けていた。
しかし、そんな関係に終止符を打つような事件が起こる。臨海学校の最中に起こった軍用試験型IS銀の福音の暴走事件、『銀の福音事件』だ。
この事件は当初、臨海学校に来ていたIS学園でも選ばれた精鋭生徒達の間で秘密裏に事件終息へ挑んだのだが、見事に失敗。
之に事件の詳細状況を知っていた春樹は自分のバックである日本政府直属機関、IS統合対策部副本部長の長谷川へ情報をリーク。
急ごしらえ乍らも、日本政府のバックアップを受けて再編されたチームで事件を終息させた。
だが、銀の福音との激しい戦いによって再編チームのリーダーを任された春樹が瀕死の重傷を負ってしまう。
ラウラ自身も打撲などの軽傷を負ったが、彼の事が気掛かりで受けた傷以上に心が痛んだ。そして、いつか千冬が自分を置いて行った忌まわしい記憶と悲痛な気持ちが甦り、彼女の心を支配していった。
・・・されど、傷口へ辛子味噌を塗りたくられたように心を痛めているラウラを余所に春樹はたったの半日ぽっちで医者から絶望的だと言われた重傷を全治全快。奇跡とも言われる回復を見せた彼は、その日の内に職員の休憩所で水分補給をしているラウラと対面した。
そんな驚くべき自然治癒力を見せた彼に唖然とパニックによって湧き上がった衝動を抑えられなかったラウラは勢いのままに春樹へ飛びかかってキスを交わし、春樹へ逆プロポーズを申し込んだ。
その後、学園へ無事に帰還した二人だったが、以前よりも春樹に対するラウラのアタックは激しくなった。
殆ど四六時中彼女は彼の傍にベッタリで、のめり込んでいると言うよりは春樹に”依存”し始めていると言った方が正しいくらいだった。
そんなラウラの変化と未だ彼女の気持ちを軍が利用するのではないかと疑心暗鬼になった春樹は、超えた筈の一線から引き下がるように為りを潜めた。
この傍から見れば何ともヤキモキさせられる二人は、そのまま夏休みに突入し、離れ離れになった。
ドイツへ帰国後。VTS事件をキッカケに一新されたドイツ軍で、ラウラは軍の仕事に従事した。
今まで離れていた部隊との懇親や後進の育成に学園から出された夏休みの課題。やるべきことが多くて、折角手に入れた春樹の連絡先へ連絡をする暇もない。
「・・・春樹に会いたい・・・」
今夜は軍の上層部と共に訪れたIS新機体発表会。大方の関係者と面通しを行った彼女は、おもむろに私用携帯電話を取り出す。
けれど、今の時間は十九時を回る頃。日本との時差は七時間ある為、彼方は真夜中だ。連絡されても迷惑になるだけと彼女は諦めた。
「あら、ラウラさんではありませんか?」
「ん? おぉ、セシリアではないか!」
そんな溜息を漏らすラウラの背後から、聞き馴染みのある声が聞こえて来た。
振り返ってみれば、其処には学園で新しく友人となったイギリス代表候補生のセシリアが居るではないか。
「ラウラさんもこのパーティーに招待されて?」
「あぁ、ドイツ軍の仕事の一環でな。しかし、VTS事件から軍が一新されたとは言え・・・この様な催し物は私には似合わんがな」
「そんな事ありませんわ。・・・ですが、流石に”軍服”での参加は頂けませんわね」
そう言ってセシリアは渋い顔をする。
何故ならば、彼女を含めた周囲の女性陣は煌びやかな装飾が施されたドレスを身に纏っているのに対し、ラウラはドイツ軍特有の厳つい軍服を着こんでいたからだ。
「何を言うか、此れは私の正装だぞ」
「けれど、それでは折角の可愛らしい容姿が台無しですわよ?」
「フンッ、別に私は媚を売りに来たわけではない。其れに着飾ったところで・・・・・アイツが居なくては意味がないだろう・・・」
「・・・ほほぉ~う?」
俯き加減で答えた彼女に何かを察したのか、セシリアはニヤニヤと表情を緩ませた。
「・・・なんだ、セシリア? その癇に障るような顔はッ」
「別に何でもありませんわ。あ~ぁ、私も素敵な殿方との出会いが欲しいですわ。何処か近くにいらっしゃらないかしら? 一人だけなら知っているのですが・・・」
「・・・・・春樹はやらんぞ」
「・・・別に春樹さんの事は一言も言っていませんわ、ラウラさん?」
「!?」
セシリアの言葉にハッとし、自分がカマをかけられた事に「ぐぬぬッ」と唸るラウラ。其の表情をセシリアは何とも楽しそうに「オホホホッ」と上品に笑った後、彼女のお付きの者であろう女性に呼ばれ、ラウラから離れて行った。・・・お上品な笑い声と共に。
「むぅ~・・・!」
何だか面白くないラウラは持っていた飲み物をグイッと一気に呷り、次の飲み物を受け取った後に会場の中央へと歩を進める。
会場の中央には、今回この新機体発表会へ出展された三機の機体が展示されていた。
「これが・・・」
ラウラはその中でも、今回特に注目されている機体の前で止まった。
其れは低迷から一気にV字回復を図ったデュノア社が、日本政府直属機関と共に製作した第三世代型量産機。機体名は―――――
「―――『ランスロット・リヴァイヴ』・・・か」
そのホワイトカラーをベースに所々をゴールドにペイントされた全身装甲型ISランスロット・リヴァイヴを見るなり、ラウラはある既視感を覚える。その既視感とは、「此れは『コードギアス』に登場した『ランスロット』ではないか?」と言うものだ。
正に彼女の言う通り、その姿は『第七世代型KMF:ランスロット』だった。・・・ただオリジナルと違う点は、背中のフロートユニットが飛翔滑走翼である点だ。
「う~む、見れば見る程にクオリティが高いな・・・細部まで詳細に作ってある」
春樹と傍に居た時、ラウラは彼と一緒になって『コードギアス』を始めとした多くの作品を見ていた。
「だが・・・やはり私は『ブリタニアサイド』よりは、『黒の騎士団サイド』が好ましいな」
「そうそう、特に俺は『藤堂さん』が搭乗しとった『斬月』が好きじゃ。『E.U.サイド』なら、『アキト』が搭乗しとった『アレクサンダ』じゃな」
何気ない感想にラウラの背後から聞き馴染んだ声が合の手を入れて来た。
「え・・・!?」と彼女はここに居る筈のない”彼”の声に驚き、振り返ってみると―――――
「やぁ、美しき銀髪の戦乙女。こねーな場所で逢い見えるたぁ、光栄じゃ」
―――其処には『コードギアス』の主人公『ルルーシュ・ランペルージ』が自身を『ゼロ』と偽る為につけているフルフェイスマスクを被った人物が佇んでいた。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆