IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第66話

 

 

 

ベルギーの首都、ブリュッセルで開催された欧州IS新機体発表会。

その機体完成パーティーに主催者側の一社であるデュノア社から招待された春樹は・・・・・

 

「・・・飽きた」

 

集中力が切れてしまっていた。

何故に春樹がこんな状態になっているのか。其れはやはり、彼がこの様な催し物に慣れていない事が大きな要因に挙げられるだろう。

 

パーティー開始直後。シャルロットをエスコートしながら会場入りした彼を待っていたのは、多くの各国政府関係者や企業関係者達。

世界で二人しかいないIS男性適正者の片割れである彼との関係を持とうと、大半の人間は媚を売るような態度をとる。・・・しかし、世界最強のブリュンヒルデである織斑 千冬を姉に持つ一夏と違い、全くの一般人から出て来た彼を周囲は『成り上がり者』として軽く見ていた。

 

ドイツが今まで秘匿していた独自ナノマシン施術であるヴォーダン・オージェに世界で初めて完全適応したという事以外は、特に”表”立った功績のない春樹。

だが、”裏”ではとんでもない功績を打ち立て続けている事を知っている日本政府関係者やデュノア社関係者は彼を気遣ったのだが、彼等には変な所で精細な一面を持っている春樹がそんな周囲の目に傷ついていた・・・ように見えた。

 

「あ~・・・酒飲みてぇ~・・・」

 

ところが当の本人は、全然そんな周囲の目を気にしている訳もなく。会場の隅にある休憩用の椅子に腰かけながら彼はパーティーの参加者たちが飲んでいるシャンパンを凝視していた。

本当は、長谷川から顔を隠す様に促されて被ったフルフェイスマスクの為に飲酒どころか食事も出来ない事に対して苛立っていたのである。

 

折角初めて来た外国の、しかもビールで有名な此処ベルギーで酒が飲めないとは如何なモノかと各関係者との業務的な面通しを終えた春樹はさっさと会場の隅に身を潜めてしまう。

まだ会社の取引先との挨拶が残っていたシャルロットは彼に「知らない女の人には付いて行かない様に」と釘を刺し、長谷川の秘書である高良からは「あまり目立った事はしないように」と釘を刺された。

 

「ハァ~ッ・・・パーティーって、思ったよりも退屈なんじゃね」

 

黄昏る春樹だが、このパーティーが全て退屈な訳ではない。

今回出展されたデュノア社の新たな量産機の外見モデルとなった『第七世代型KMF:ランスロット』の版権もとへ許可取を行ったIS統合対策部広報主任の『幕内 和歩』と会い見える事が出来たし、VTS事件後に彼が提案した専用機開発計画が作り出した第三世代型量産機が今、会場の中央で喝采を浴びている。

思い付きではあるものの、自分の”想像”した機体が”創造”物となって現実世界に顕現した事に多少なりとも満足感はあった。

なので、あとの気掛かりな事と言えば―――――

 

〈そんな恰好は関心しないな。唯でさえ君は注目の的なのだ、もっと節度良く振る舞えないか?〉

 

―――自分の隣で佇んでいる幻覚からの小言が煩わしい事だけだった。

 

「別にエエじゃろうが、被っとるゼロマスクの御蔭で見てくれは多少はエエし・・・其れに、思ったよりも”無礼な豚”が多いけんな。気ィ張るんが面倒じゃ」

 

〈ククク・・・確かにそうだな〉

 

「「そうだな」じゃねぇわ。人の前で美味そうに飲んでんじゃねぇでよ!」

 

幻覚、ハンニバル・レクターは春樹の言葉に対してせせら笑うと、手元のシャンパンを呷る。

之に何故に宿主の自分が飲みたくても飲めず、その代わり自分の幻覚風情が高級な酒を呷れる事が出来るのかと余計に彼は拗ねた。

 

「大丈夫ですの? どこか御加減でも悪いんですの?」

 

「・・・阿?」

 

そんな傍から見ればぶつくさと独り言を呟いているこの仮面の変人に、声をかけて来た者が一人。

「こんな不審人物に声をかけて来るとは、どこの物好きじゃ?」と顔を上げれば、馴染みのある金髪ドリルが自分の前に佇んでいるではないか。

 

「おーッ、セシリアさん。君も来とったんか」

 

「・・・申し訳ございませんが、私たち何処かでお会いになりました?」

 

セシリアからすれば、何とも怪しいこの人物にファーストネーム呼びの馴れ馴れしい返事を返されたのだから警戒して当然。

・・・・・警戒するくらいなら、最初から声をかけなければ良い話なのだが。

 

「(阿? あぁ、そうか。ゼロ仮面被っとったら、誰じゃあ解らんもんな〉俺じゃ、俺。終業式以来じゃのォ、セシリアさん」

 

「その声に、そのイモ臭い喋り方・・・まさか、春樹さんですのッ?」

 

「おう、そうじゃ・・・って、イモ臭いってなんじゃキサン!?」

 

「おっと、失礼。つい本音が出てしまいましたわ」

 

「ぬぁにぃいッ?!!」

 

「ホホホ」と笑う彼女に激昂し椅子から立ち上がる春樹へハンニバルが〈・・・からかわれているだけだ〉と指摘する。

之に彼は「それくらい解っとらぁ」と目で返した。

 

「まぁ、エエわ。イギリスの代表候補生じゃもんな、居って当然じゃあ言やぁ当然か」

 

「えぇ。それよりも、私は春樹さんがいらっしゃる事に驚きですわ。それに其の仮面は?」

 

「ん? あぁ、デュノア社社長から今日のパーティーに招待されてな。仮面は・・・顔バレせんように言うて、長谷川さんからな」

 

「そうでしたの。ですが・・・喋り方でバレバレですわよ」

 

セシリアの指摘に春樹は「阿破破破ッ、そりゃあ意味ねぇな!」とカラカラ笑い声をあげる。

周囲としては、次期イギリス代表と名高い彼女とデュノア社が直々に招いた謎の男の会合に興味の視線が注がれた。

 

「じゃがアレじゃなぁ。君が居る言う事ぁ・・・”あの娘”も居るんかのぉ?」

 

「え?」

 

「あ・・・悪ぃ、気にせんでくれ。慣れん場に居るけんな、ちぃとばっかし気をやられてな。無礼じゃった、すまない」

 

「・・・はぁ・・・まったく妬けてしまいますわね」

 

「阿?」

 

謝罪する彼にセシリアは「ヤレヤレ」と溜息を漏らしながら、ある場所を指差す。そして、ただ呆れたようにその方向へ行くように促した。

最初、春樹はポカンと呆れるだけだったが、すぐに彼女の行った意味を汲み取ると足早に歩いていく。

 

「そう言えば・・・・・シャルロットさんには悪い事をしてしまいましたわね」

 

そう自分へ呆れたような台詞を吐きながら、セシリアは持っていた炭酸水をチビリと飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「だが・・・やはり私は『ブリタニアサイド』よりは、『黒の騎士団サイド』が好ましいな」

 

セシリアさんに促されて彼女が指差した方向へ赴けば、其処には俺にキスを咬ましてくれた銀髪少女がそんな事を言いながら立っていた。

 

確かに、ランスロットはカッコええ。

円卓の騎士物語でもフランスはランスロット卿の領地じゃったけん、新機体にその名前を付けるんは自然じゃろう。

じゃけぇど・・・著作権料を払うんじゃったら、ブリタニアサイドじゃのぉて黒の騎士団サイドの機体にすりゃあエかったのに。あとヨーロッパでの新機体なんじゃけん、せめてEUサイドじゃろう。

 

「そうそう、特に俺は『藤堂さん』が搭乗しとった『斬月』が好きじゃ。『E.U.サイド』なら、『アキト』が搭乗しとった『アレクサンダ』じゃな」

 

「え・・・!?」

 

まさか自分の独り言に答えられると思ってなかったんか。銀髪美少女、ラウラちゃんは驚いてこっちへ振り返って来よった。

じゃけぇ俺は、ゼロのようなキザな台詞を吐こうとしたんじゃけども・・・

 

「やぁ、美しき銀髪の戦乙女。こねーな場所で逢い見えるたぁ、光栄じゃ」

 

・・・と、最後らへんでつい訛ってしもうた。

そん時、隣に居ったミケルセンなハンニバルに〈ナンセンスだ〉いうて言われてしもうた。

しかも・・・

 

「ッ・・・誰だ、貴様ッ?」

 

「え、えー??」

 

被っとった仮面がフルフェイスじゃったからか。最初はラウラちゃんには俺が俺じゃあ言う事を気づいてもらえんかった。

 

「声が似ているから振り返って見たものの、この様な場所でコスプレに興じている人間がいるとは・・・やはり、仕事とはいえ来ない方が良かったか」

 

加えて、あからさまにゲンナリガッカリしているから溜まったもんじゃねぇ。

なので、この何とも言えない彼女のリアクションに堪えられなくなったメンタル貧弱な俺は普通にネタバレをする事にした。

 

「いや、ラウラちゃん。俺じゃ俺、追試テストの勉強を手伝ってもらった俺じゃ」

 

「追試テスト? ・・・ッ! いや、まさかそんな筈はない! アイツは貴様のようにコスプレに興じる趣味はないし、第一アイツは日本にいる筈だ! よって、お前はアイツではない!! ヤツの名を騙る偽物だッ!」

 

「俺だって、こんな変にクオリティの高いコスプレをしとーてしょーる訳じゃないわ! こんな仮面さえ被ってなけりゃあ、俺ぁ酒を樽ごと飲めるのにッ!!」

 

偽物かと疑われた事へ地味なショックを喰らわされた俺の心は思った以上に絹豆腐。

・・・絹豆腐と言やぁ、俺は生醤油をかけて冷やしたスコッチの肴で食べるのが好きじゃ。

 

「酒・・・? まさか、その言葉尻から感じ取れる並々ならぬアルコールへの執着意欲・・・・・本当に春樹なのか? 春樹ならば、私との同棲生活で飲んでいた代用アルコールを知っている筈だ!」

 

「あぁ、勿論知っとらァ。忘れも知れない味醂か料理酒のサイダー割りの味ッ、思い出すだけで侘しくて涙が出らぁ!」

 

我ながらアルコールに飢えていたとは言え、代用品としては不出来なモノを飲んどったなぁと今更ながらに思う。・・・つーか、俺は自分を自分と証明する為に何をこんなしょうもない事を叫んどるんじゃろうか。全くもってみっともない。

じゃが、不幸中の幸いか。俺の叫びは日本語じゃけん、周りの輩は理解できていないと思う。・・・・・・・・多分じゃけど。

 

「ッ・・・本当に、本当に春樹なのかッ?」

 

「あぁッ、そうじゃ。ホントのホントに俺じゃ。早々にこんな妙に高クオリティな仮面を脱ぎゃあエエんじゃろうが・・・なにぶんと長谷川さんらぁから―――「春樹!!」―――ぐフェッ!!?」

 

言い訳にもならん言い訳を述べる途中、『花京院』が『THE・WORLD』によって殴られた如くの衝撃が俺の腹部を奇襲する。

無論、この衝撃波はラウラちゃんがサイのように突っ込んで来た他にない。

 

「春樹、ハルキ、はるき!!」

 

「ぐべべべッ!」

 

ツンもクーもないデレデレの猫のように俺の上半身へ頭部を擦りつけて来るラウラちゃん。

「なんじゃあ、この可愛い生物は?」と彼女の愛らしさに語彙力が無くなりそうになるが、何とか耐えてラウラちゃんを身体から引きはがす。

 

「ちょッ、ちょっと待てラウラちゃん! 人が見とるんじゃけん、自重しようや」

 

何故ならば、彼女は未来あるIS次期ドイツ代表じゃ。

こんなポッ出の正体不明のヤポンスキーと噂にでもなれば、輝かしいラウラちゃんの経歴に傷がつく。

 

〈ならば、会いに行かなけれいいものを〉

 

慌て微睡む俺の横で、ハンニバルの野郎が冷静にツッコミを入れて来る。じゃけん、ぐうの音も出ないその言葉に俺ぁ「喧しいッ!」と目で返す。

 

「なんだッ、私がお前に引っ付く事に何の問題があると言うのだッ? 私はお前と会えてこんなにも嬉しいと言うのに、運命さえ感じると言うのに・・・!!」

 

「ヤバい言葉を間違えた」と俺は思った。

ぶつくさ言いながら、ラウラちゃんの灼眼からハイライトが消えて行く。学園の寮でもこうなる事は時たまあった。

 

「ほ・・・ほら、ラウラちゃんも俺と同じように今は仕事中じゃろう? 業務の時には業務に集中せにゃあおえんじゃろうがな、な?」

 

「・・・・・」

 

〈ヤレヤレ〉

 

被っとる仮面のせいで表情も表へ出せない俺だが、この時の仮面の中の俺は苦虫を磨り潰した様な愛想笑いを浮かべていた事だろう。

それに今の時点で解っている事は、隣でハンニバルの野郎が呆れた表情をしている事とラウラちゃんがハイライトのない灼眼で俺の顔を覗き込んでいる事だけだ。

 

「・・・むぅ・・・確かにその通りだな。今は私も仕事中だ」

 

「じゃ、じゃろうが―――「それならば!」―――は、はい?」

 

「それならば、パーティーが終わった後、春樹の泊っている部屋にお邪魔しても良いだろうか? なぁッ、良いだろう?」

 

食い気味でそう問いかけるラウラちゃん。

俺もパーティーと言う名の仕事が終われば、こんな妙ちくりんな仮面を外して酒が飲める。

別段、断る理由が無い。それにこんな美少女に酒の酌をして貰うのもヤブサカじゃないですだ。

 

「おう、エエでよ」

 

「やった!」

 

ラウラちゃんは俺の返答に満足したのか、小さくガッツポーズを決める。

実に愛らしい。学園内で彼女のファンサークルが出来るのも頷ける。・・・そのサークルに俺は幾つかの脅迫状を送られとるが、取り合っとらん。

 

〈・・・ハルキ〉

 

そん時じゃ。俺の剥離性幻覚であるハンニバルが随分と渋い表情で語り掛けて来よったんは。

 

「(どうしたんじゃ、ハンニバル? 俺はそろそろ体内に備蓄されとったアルコールが切れて来た事で、左手が痺れて震えて来たんじゃけども)」

 

〈君のアルコール依存症はいつかは治療しなければならないが、今はその時ではない。敵が迫っている今は特にだ〉

 

「・・・・・は?」

 

俺は思わず変に上擦った声が出てしもうた。

ラウラちゃんも「突然どうした、春樹?」と疑問符を浮かべとる。・・・可愛え。

 

〈呆けるな。左後方二m付近だ〉

 

「阿?」

 

ハンニバルが言うた方をグルリと首を傾けて見てみるが、人どころか何もいない。

幻覚の言う事を一々相手にしていたら、限もなくのめり込んでしまうが、なにぶんと俺の見ている幻覚はあの『ハンニバルカニバル』だ。意味もなくこんな事を言う訳がない・・・・・と、信じたい。

 

「・・・琥珀ちゃん」

 

俺はスーツの懐へアル中で震える左手を入れ、琥珀ちゃんの武装を部分展開させる。

この部分展開で左手の甲のガンダールヴと両目のヴォーダン・オージェが顕現し、通常では見る事もでないモノが見えるようになるんじゃ。

 

「なッ・・・!!?」

 

するとどうじゃろうか。

その方向には、まるで『メタリカ』で自身の姿を風景にカモフラージュさせた『リゾット・ネエロ』のような輩が居った。

リーダーと違う点は、暗殺者にも拘らずあんな露出の多い服装ではのうて、頭からズッポリ被ったフード姿な点じゃろう。

 

〈ハルキ、”彼女”の狙いは―――――〉

 

「解っとる。降りかかる火の粉は振り払わんとなぁ・・・!」

 

俺はハンニバルの言葉を最後まで聞かぬまま、左手にリボルバーカノンを展開させる。敵の狙いであるランスロット・リヴァイヴを守る為にじゃ。

 

・・・じゃが、この時の俺はもうちぃと考えて行動するべきじゃった。

其の時の俺はなにぶんと体内アルコールが切れたせいで気が短くなっとった。

 

でなけりゃ俺は、”彼女”とあんなファーストコンタクトにしてワーストコンタクトを取らんかったろうに・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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