ヨーロッパはベルギーが首都、ブリュッセル。
EUの主要機関本部が多く置かれ、『EUの首都』と言われているこの地において開催された『IS新機体発表会』。
その機体完成祝賀パーティーが、”ある”テロリストによって襲撃される事件が発生。
標的となったのは、パーティーに出展された三機の中でも一際話題となった第三世代型全身装甲IS『ランスロット・リヴァイヴ』。
第三世代型IS開発、通称『イグニッション・プラン』において、大手企業であるデュノア社が導き出した答えとも言える次世代量産機のプロトタイプである。
テロリストはパーティーが行われている会場へ光学迷彩に身を包んで潜入。あわや、機体を強奪される所であった。
しかし、其れを唯一人で食い止めた人物が会場内にいたのである。
その人物の名は―――――
◆
「―――『ギデオン・ザ・ゼロ』・・・また、えらくとんでもねぇ二つ名を貰ったな、我らが刃のクソガキ」
「いや、最後の糞餓鬼は余計でしょ!」
事件発生から三日後、ベルギー郊外にある病院の一室へ、今回テロリストからデュノア社の新機体強奪を阻止した英雄である春樹が入院していた。
傍らには、今回の襲撃事件をトップで報じる新聞を読む芹沢が居る。
「襲撃をかけて来たヤローを勝手に追撃。それで捕まえりゃあ良いのに、取り逃がして。それが悔しいからってヤケ酒喰らって。それを駆けつけて来たパパラッチに撮られるヌケサク野郎をクソガキって呼んで何が悪いんだ? あぁッん?」
「うッ・・・なにも悪うございやせん・・・芹沢さんの言う通りです・・・ッ」
顔右半分を包帯で覆った春樹をいびる芹沢。
何故に彼が春樹を責め立てているのか。それは事件発生から一時間後、パーティー会場から逃走したテロリストを追撃した筈の彼が、近辺にあったスーパーマーケットでヤケ酒を喰らっている姿を写真に撮られたからである。
本人の話によれば、あと一歩の所まで追い詰めたものの、隙を突かれて放たれた手榴弾の爆発により再度の逃亡を許してしまったとの事。
その悔しさからか、春樹は戦闘の影響で散らばっていた商品である酒類をところ構わず飲み漁ってしまったのである。
・・・因みに。
頭部を覆っていたマスクは、酒を飲むために口元部分を力づくで引き千切った。
「NH―00のダメージと、お前自身への被害が奇跡的に軽い火傷で済んだとは言え・・・なにテメェ、パパラッチされてんだよ。バカなのか? バカなんだな、このバカ!」
「ッ、そねーに馬鹿馬鹿言わんでもええじゃろうに! ゼロマスクの御蔭で素顔が撮られとらんのんじゃけん、大目に見て下さいや!」
「バカ野郎ッ、この写真の御蔭で各方面から色々言われてんだよ!! 『あの機体に乗っていた人物は誰だ?』とか、『周囲の被害を考えずに戦闘を行うとは何事か』とか色々さぁ!」
「エエがん! 別に民間人に直接被害が出とらんのんじゃけんよぉ!」
「いい訳あるか、バカ野郎!!」
説教を垂れる芹沢に逆切れする春樹。
二人の怒号を交えた口喧嘩は、騒ぎを聞きつけた看護師に止められるまで続けられた。
「ったく・・・・・それで?」
「・・・阿? なにがですか?」
「テロリストとの戦闘で何があったんだよ? 知り合ってそんなに経ってない俺でも、お前の様子がおかしい事ぐらいは解るぜ?」
「ッ・・・・・」
芹沢からの問いかけに対し、春樹は先程までの癇癪からは想像も出来ない程静かになった。
その包帯で隠されていない俯く左目からは、哀愁のようなものが見て取れる。
「ふんッ・・・まぁ、別にいいさ。だが、長谷川の旦那と壬生さん、あとついでに高良にもよく謝っとけよ。・・・いや、別にいいのか。あの人たちの事だから、今回の件でまた一悶着起こそうって算段してるに違いねぇ」
「阿破破ッ・・・そうかもしれんッスねぇ。・・・ねぇ、芹沢さん?」
「なんだよ」
「俺って・・・一体なんなんすかね?」
「・・・・・はぁ?」
突如として春樹から問いかけられた言葉に対し、一時は芹沢は顔をひしゃげたのだが、すぐに首を傾げながら言葉を返す。
「お前は・・・俺達の『希望』だよ」
「・・・阿ぁッ??」
芹沢からの返答に今度は春樹が「何言ってるんだ、お前は?」と表情を歪めたが、彼は更にこう続けて言葉を紡ぐ。
「お前、知ってるか? うちの開発室のメンバーは、倉持やらの大手企業に不満を持っていた連中を長谷川の旦那が集めて来たんだぜ」
「え・・・あぁ、はい。壬生さんの方からなんとなく聞いています。確か、芹沢さんもでしたよね?」
「そうそう。俺はお前が『出来損ないの欠陥品を作った会社』だと酷評した倉持技研から”飼い殺し”の目に遭ってたんだよ」
「え?」
彼の口から出たとんでもないワードに興味を惹かれる春樹。
しかし、芹沢は其れを「・・・ま、この話は置いておいて・・・」と言葉を挟んで続けた。
話の内容としては、IS登場から台頭して来たIS関連企業間の争いに始まり。
その争いに敗れてあぶれた者達が、勝ち残って行った企業にどう飲み込まれ、どう鉄砲玉にされていったかを細々と恨みつらみを連ねて説明されていった。
その様な時代に突如として現れ出でた世界に二人しかいない男性IS適正者。
勿論、皆の注目の的となったのは、世界最強のブリュンヒルデの弟。
その弟は大手のIS企業よって奉り上げられ、あぶれた者達には『ISが動かせるだけの男』であった春樹があてがわれた。
最初は、誰も何も彼に期待などしてはいなかった。
・・・だが!
「お前はVTS事件で、連中の目をギョロリとひん剥かせやがった。オマケに掌返しで近寄って来た連中を酷評して足払いしやがった。あの時は、実に胸がすくようないい気分にさせてもらったぜ!」
「は、はぁ・・・」
「其処からお前は、俺達あぶれ者の反骨のシンボルだ。だから、お前は俺達の『希望』って訳。・・・だからと言って、NH―00をボロボロにしていいって訳じゃない! 解ってんのか、テメェ!!」
「ちょッ、なして突然キレる!? 途中までエエ話じゃったのに!」
「うおぉおおおおんッ! ざまぁ見ろ、『篝火』のヤツゥウウ!!」
何故か唐突に癇癪を起して春樹の胸倉を掴む芹沢。
混乱する彼をよそに芹沢は発狂する様に喚き、いつしか子供のように泣きじゃくり始めてしまう。
「失礼します。大丈夫かい、清瀬君―――――って!? なにやってるんですか、芹沢先輩!!」
もし高良がガラリッと病室を訪れなければ、春樹の着用着は芹沢の涙でぐっしょり濡れてしまっていただろう。
「大丈夫だったかい、清瀬君? あの人は前の職場で心をやられていてね。たまにああやって発狂してしまうんだ」
「ほぉん、それはそれは・・・改めて、あん人とは気が合いそうじゃ」
「は? まぁ、いい。君の今後の動きだが・・・今日の夜の便で日本へ帰国して貰うよ」
高良のこの言葉に「えぇッ!?」と春樹は表情を暗く歪めた。
何故なら、彼は人生初めての海外旅行をまだ存分に楽しめていないからである。
此処ベルギーでやった事と言えば、自分を成り上がり者と見る連中との顔合わせに御呼び出ないテロリストとの戦闘。・・・正直言って、胸糞が悪い。
良かった事と言えば、デュノア社社長のアルベールが持って来た本場の高級フランスワインとベルギー料理を昼食会で御馳走になった事だけだ。
「俺、まだベルギービール飲んでねぇんですけど!」
「君がいらん気を回さずにテロリストを追撃しなければ、飲めていたかもね」
「ぐぬぬ・・・己おのれオノレ、テロリストめ!! ”織斑の野郎”がぁああ!!」
「いや、織斑君は関係ないでしょ」
何故か怨嗟の声と共に春樹の口から出た言葉へ苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる高良。
これに「あッ・・・それもそうか」と彼は口を咄嗟に抑える。
・・・抑えた事で、次に紡がれた「・・・・・危ない危ない、これは”秘密”じゃった」という言葉は外に漏れる事は防がれた。
「ま、そんなしょぼくれた清瀬君にお客さんが見えているよ」
「お客さん? それは部屋の外で待っている体格のエエ、SPを連れた男の人ですかねぇ?」
「! どうして判ったんだい?」
「えぇ、なにぶんと・・・右目ん方が”また”之になっちまいましたからね」
そう言いながら春樹は右顔面に覆われていた包帯を外すと、其処から左眼の鳶色の瞳とは違った琥珀色の右瞳が露わになった。
先のテロリストとの戦闘による手榴弾の爆発により、またしてもヴォーダン・オージェが常時発動状態へ変わってしまったのだ。
・・・因みに。何故に右目だけヴォーダン・オージェになっているのかは、戦闘時に手榴弾の爆発が右目近くで起こった為と思われている。
「左右で違う色の瞳・・・まるでアレクサンドロス大王のようだな、Mr.清瀬」
「よっす、社長!」
病室へ入って来たアルベールに親戚のおじさんと会うかのような軽い返事をかける春樹。
隣にいた高良が「ちょっと、清瀬くん!? 失礼でしょ!」と慌てるが、「いや、構わない」とアルベールが彼を抑えた。
そして、早足に春樹へ近づくと突然彼の手を自分の両手で掴んだのである。
「ありがとう、Mr.清瀬! 君の御蔭で私達が作り上げた機体を奪われずに済んだ。本当にありがとう!!」
「いやいや、別に俺は大した事は・・・って、痛い痛い痛い! 握力強いでよ、社長ッ!」
痛がる春樹を余所にぶんぶん握った手を揺らし続けるアルベール。
その目は若干潤んでいたのだが、すぐにいつもの威厳のある顔つきに変わった。
「ところでMr.清瀬。病み上がりの君につかぬ事を聞くのだが・・・君はシャルロットとはどういった関係なのだね?」
「・・・阿ッ?」
真剣な表情と眼差しで春樹の顔を覗くアルベール。その顔は大企業の社長と言う立場ではない、一人の父親としての顔であった。
この突拍子もない問いかけに一時フリーズしてしまう春樹。
助けを求めようと隣にいる筈の高良へ目線を送ったのだが、彼は空気を読んで部屋から退出しようとしている最中であった。
「(・・・頑張れ!)」
「(高良さん、コノヤロウ!)」
援軍が求められない孤軍状態でこの問いかけに挑む事となった春樹は、とりあえず牽制を投げ掛ける事にした。
「あの・・・質問を質問で返すようで恐縮なのですが。どうしてそのような事を?」
「うむ。清瀬氏、君はこれまで我が社・・・いや、会社のみならず私達家族の事までをも救って来てくれた。今回の襲撃で新機体を守ってくれた事も大変感謝している。だが、どうにも腑に落ちないんだ。何故、君がここまで我々に良くしてくれるのかが」
「あぁ、なるほど。俺にどういう下心があるのか聞きたい訳ですね。其れもシャルロット・・・お嬢さん絡みの事で」
「いや、そういう訳では―――「何もありませんよ」―――・・・何ッ?」
「社長がご心配されるような関係は、シャルロット嬢とはありません」
眉間に皺を寄せるアルベールに春樹はハッキリとそう答えた。
之にアルベールは「では、何故に我々を助ける様な事をした?」と問いかけると彼はこう答えた。「”お詫び”と”ついで”です」と。
「・・・どういう意味だ?」
「ご存知の通り、俺はVTS事件以前は粗悪なオマケでしかなかった。そんな時に現れたのが男装したお嬢さんでした。俺は自らの境遇に嘆き悲しみ打ち震える彼女を利用して自分の立場をなんとか好転させようかと思案しました・・・じゃが、結果的に俺はVTS事件のせいで以前いた立場から成り上がる事が出来ましたがね。そのお詫びもかねて、俺はお嬢さんを助けた。そして、これからの俺の立場を守る為、ついでに貴方方も助けたと言う訳です」
「・・・・・」
春樹からの「これが俺の答えです。ご満足いただけました?」と言った返答にアルベールは口をへの字に曲げて首を傾げた。
目の前にいるオッドアイの男は、要するに自分の身可愛さでシャルロットを利用しようと画策したのだ。許せるべき所業ではない。
だが・・・だが、アルベールは未だ腑に落ちてはいなかった。
彼の言い方は『如何にも自分は卑劣で浅はかな考えを巡らしていた男です』と言いたげな大根役者のような節があったのだ。
まるで偽りの仮面で自らの”本心”を隠す様な姿が其処にはあった。
「・・・Mr.清瀬、君は―――――」
―――と、アルベールが彼に疑問符を投げかけようとしたその時だった。
バンッと病室の扉が大きく開け放たれると同時に、ある人物がズカズカと春樹の前へと前へと近づいて行った。
その人物とは―――――
「・・・・・」
「・・・よぉ、君も来とったんか」
「シャルロット・・・ッ」
アルベールとは時間差でこの病院へ辿り着いた噂のシャルロットであり、彼女はどこか悲しそうな表情と怒ったかのような瞳を彼に向けた。
そんな自分の娘にアルベールは声をかけようとしたのだが―――――
「・・・お父さん。春樹とボクの二人だけにしてくれない?」
―――と、お願いされてしまった。
今まで見た事もない娘の物憂げな表情にアルベールは何も言えなくなり、いそいそと静かに病室から退室した。
「ふむ・・・今日は客が多いのぉ。客が多い分には、お見舞いの品もたっぷり―――「春樹、さっきの話は本当なのかな?」―――・・・聞いとったんか?」
呆れたかのような春樹の問いかけにシャルロットはコクリと静かに頷くと、「あ~ぁ、この病院の防音には問題がありますなぁ」と彼は溜息を漏らした。
「あぁ、ホントじゃ。端的に言えば、俺はお前さんを利用しようとしたんじゃ」
「・・・それ、ウソだよね」
「阿?」
「だって、春樹にそんな器用な事・・・出来る筈がない・・・よね?」
「ッ、阿破破・・・阿破破破ッ!」
恐る恐る問いただすシャルロットに春樹はケラケラといつもの様に奇妙な笑い声をあげた。
「ッ、な・・・なにがそんなに可笑しいのかな?」
「破破破ッ・・・いや、すまんすまん。お前があまりにも俺に夢を見過ぎてるからな、ついな・・・阿ッ破ッ破ッ破!」
「夢? 夢ってなにさッ?」
ハロウィンカボチャのように嘲笑う彼が癇に障ったのか、シャルロットはムッとした顔で春樹に再度問いかける。
「エエか? 俺は下心があってお前さんと社長の中を取り持ったんじゃ。決して善意で助けた訳じゃない。まぁ・・・シャルロット、お前さんは俺に助けられた恩で俺に好意を向けとる訳じゃ」
「ッ、違う・・・違うよ! ボクはッ!」
「いや、違わん。それに俺が助けんくても、あの熱血漢の織斑の野郎がお前さんを実に理想的な出来もしないおべんちゃらで精神的に助けてくれたじゃろうな」
「ッ・・・春樹・・・最低だよ・・・!」
「おおッ、なんじゃあ今更気づいたんか? そうじゃ、俺は最低野郎じゃ。じゃけぇ、俺に恩なんか感じるな。シャルロット、お前は勝手に助かったんじゃ。俺が助けた訳じゃなく、勝手にお前自身で助かっただけじゃ」
「・・・ッ・・・」
春樹の剥き出しの刃物のような言い方に目を潤ませるシャルロット。
しかし、彼女はふとある事を思い出す。それは自分と似通った状況にありながら、自分とは違う着地点に降りた”彼女”の事を。
「なッ、なら・・・なら、ラウラの事はどうなのさ!」
「阿?」
「ラウラだってVTS事件の時、たまたま春樹が近くにいただけで・・・其れだって、春樹じゃなくて一夏がラウラを助けてたんじゃないかなッ? ラウラもただ恩があるから、春樹の事が好きなんじゃないかな?!」
最もなシャルロットの言い分に春樹は唖然とした表情を晒した後、「そうじゃのぉ・・・」と言いながら頭を掻いた。
「其れを言われると、ちぃとばっかしイタいのぉ」
「ッ!」
・・・皆に見せる奇妙な笑顔とは違う、随分としっとりとした朗らかな笑みと共に。
「・・・・・なんだよ・・・なんだよ、なんだよその笑顔!」
「シャ、シャルロット?」
「ボクの方がラウラよりも先に春樹の事が好きになったのに! なんだよ、ズルいよ!!」
まるで愛する人を思うかのような慈愛に満ちた春樹の表情にボロボロと涙を流し、顔を両手で覆うシャルロット。
「お、おい。シャルロット、ちぃと落ち着きんさいや」
「うるさい、ウルサイ、五月蠅いッ!! 春樹なんか・・・春樹なんか、こうしてやる!!」
「ッ!!?」
若干、パニックになっている彼女を抑えようと身を乗り出す春樹にシャルロットは自らの専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムを部分展開させ、彼の胸倉を掴むと―――――
◆◆◆
「フンス、フンスッ」
その日、ラウラ・ボーデヴィッヒは春樹の入院している病院をある情報ルートから漸く調べ上げ、その病院の廊下を鼻息荒く足早に急いでいた。
その手には、お見舞いの品である彼が飲みたがっていたベルギービールとベルギーチョコレートが。
「まったく、ここを調べ上げるのにも苦労した。流石は日本政府と言った所か。だが、私の春樹に対する思いの前では無力なモノだったな」
何故かドヤ顔なラウラは、看護師から教えてもらった偽名で登録された春樹のいる病室へ向かうと、何故かその扉の前で黒服のSPを連れたデュノア社社長のアルベールと日本政府関係者の高良が気不味そうな表情で立っていたのである。
「・・・お二人とも、何をしているのですか?」
「ッ! 何故ここにドイツのボーデヴィッヒ代表がッ?」
「フッ、我々ドイツ軍の情報収集能力を見くびらないでいただきたい。それよりも其処を退いては貰えないだろうか。私は中の春樹に用があるのだ」
「あッ、ちょっと!!」
両者の有無も言わさず、ラウラは大きく病室の扉を大きく開け放つ。
そして、一人部屋のベットに横たわる想い人の名を呼ぼうと・・・・・したのだが。
「・・・カチュ・・・ンッ・・・チュ・・・んハぁ・・・ッ!」
「ん~~~~~ッッ!!!」
「・・・・・は・・・?」
病室の中では、オレンジブロンドの後ろ髪を纏めて留めた女が春樹に覆いかぶさり、何とも艶めかしい縋り付くように執拗なキスを交わしているではないか。
「クチュ・・・はぁ、ハァ・・・あぁ、ラウラ」
「ゲッホ、ごっほッ! ら、ラウラちゃん!!?」
「な・・・ななッ、な・・・何をしておるか、シャルロット! 其れは私の”男”だぞッ!!?」
「テンパり気味にとんでもない事言うんじゃないでよ、ラウラちゃん!!」
自分の想い人に粘着質なキスをするクラスメイト兼ルームメイトに顔を真っ赤にしながら当たるラウラ。
之に口に付いた春樹の唾液を舌でペロリと舐めとったシャルロットが艶やかな表情でこう答える。
「ボクだって春樹の事が好きだもん!!」
「何をぉおお!! だからと言って、私の目の届かぬところでキスをするな!!」
病院と言う静粛な場にも拘らず、やいやい口論を始める二人。
そんな中、「お、おい。二人ともッ」「ここは病院なので静かに・・・」と病室の外にいたアルベールと高良が二人を止めようとしたのだが・・・
「お父さんは引っ込んでてッ!」
「高良秘書官は邪魔しないでください!!」
「「あッ、はい・・・」」
・・・と、いそいそ病室の扉を閉めてしまった。
「おい―――ッ!! 俺を残して何を勝手に扉を閉めとる―――「春樹ッ!!」―――あッ、はい!!?」
「其処を退かぬか、シャルロット!」
「うわッ!?」
この喧騒の場から逃走を目論んだであろう彼を逃す筈がなく呼び止めるラウラ。
そして、春樹の身体へ乗っかったシャルロットを押しのけ、今度は彼女が強引に彼の唇を奪ったのである。
「チュく・・・ちゅパ・・・んンッ・・・チュ・・・!」
「ん―――――ッ!!?」
以前、二人が病院内でしたキスとは比べ物にならぬ程の濃厚なキス。
ラウラの可愛らしい赤い舌が春樹の歯茎を蹂躙し、ねっとりと彼の舌を容赦なく甚振った。
「ちゅぱッ・・・んん、よし! 上書き完了!!」
「じゃあ、今度はボクの番だね!」
「何を言うかッ。シャルロットは先程したばかりではないか!」
「えぇッ! ボクよりも、ラウラの方が多く春樹とキスしてるじゃないか!! そんなのズルいよッ!」
「エエ加減にせんか、キサンらッ!!」
自分の胸の上で口論する二人に痺れを切らした春樹がついに立ち上がって怒声を叫ぶ。
「二人とも、こかぁ病院じゃぞ!! それにシャルロットに至っては外に父親の社長が居るんじゃけんな、節度を持ちんさいや!!」
「・・・大丈夫だ。気にしないで・・・続けてくれ、Mr.清瀬・・・ッ」
「気にするわッ!! あとなんか言葉に覇気が籠っとらんでよ、社長!」
自分の娘の大胆な行動に動揺しているのか、声が震えるアルベール。
その声にハッとし、「あッ・・・あぁッ!!?」とシャルロットは我に返るがもう遅い。
そんな顔を真っ赤にして悶える彼女を余所にラウラが再び春樹の唇を奪おうと脂ぎった眼で彼を見つめて来たので、春樹は大慌てで立ち上がると窓の外へとダイブを敢行した。
・・・因みに。
彼のいた病室は地上三階にあった個室である。
もし春樹が地上スレスレで自らの専用機である琥珀を展開していなければ、入院期間はもう少し延びたであろう。
ヤキン、ツライ。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆