朝の行かんかった方が良かった全校集会が終わった後。この学校に居る大半のヤツらから、俺に対する印象を否が応でも突き付けられた。
あの会長が出した特別ルール『織斑 一夏&清瀬 春樹の各部対抗争奪戦』は、噂話に尾ひれに背ひれに胸びれが付いてしもうて・・・半日と時間が立たん内に『優勝した部は織斑をゲット。最下位の部には清瀬をプレゼント』と言う醜悪なモンへ変わってしもうた。
俺は罰ゲームに飲まされる苦汁かッ!?
・・・なんか、中学ん時に受けたイジメを思い出したわ。・・・・・うぇップ・・・喉の奥から醤油が込み上げて来そうじゃ。
そねーな嫌な記憶をスキットルん中のスコッチウィスキーで胃の中へ流し込みながら、俺は今日一日を鬱屈した気分で過ごさせてもろうた。
ホント、あの会長様には感謝してもし切れんで、ホントに。・・・こねーな嫌味でも、言うとかんと心が参ってしまうでよ。
・・・そんでも昔の状況と違って救われたんは、すぐ近くに俺の味方になってくれる人がいた言う事じゃろう。
セシリアさんや簪さんは自分の事のように憤慨してくれたし、ラウラちゃんとシャルロットはアル中の酒切れとは違う震え方をしょーる手を優しく握ってくれた。
「夫の弱さを支えるのが、妻としての私の当然の務めだからな!」
「ちょっとラウラ、なに言ってんのさ!!」
・・・ちぃとばっかし喧しかったけんど、ホントに心からありがたかった。
何か知らんが、いつもよりも酒が美味う感じたでよ。
・・・・・じゃけん―――――
「却下ッ、却下だ!! どうしてそうなるんだ!!?」
―――学園祭で出す一組の催し物で慌てふためく織斑の野郎を存分に嘲笑ってやろう、そうしよう。
「は、春樹さん・・・あなたって人は・・・」
「春樹・・・悪い顔。ヴィランみたい・・・」
阿破破破破破ッ! 実に酒が美味いのォ!!
◆◆◆◆◆
衝撃的な宣言が、よりにもよって生徒会長である楯無から告げられた日の放課後。
噂の人物達が在籍する一組では、学園祭に出店する催し物について熱い議論が行われていたのだが・・・・・
「ダメだ、ダメ! そんなの却下だッ!!」
一人、また一人とクラスメイト達が出す意見を一夏が悲鳴にも似た叫びと共に一刀両断していっていたのである。
何故に彼がこの様な状況に陥っているのか。其れは議論が始まった直後から出た数々の意見の為だ。
一部の例を挙げれば・・・
『織斑一夏のホストクラブ』
『織斑一夏とポッキーゲーム』
『織斑一夏と王様ゲーム』
『織斑一夏とツイスター』
―――――等々。
春樹とは違って、学園の王子様たる位置に居る彼を押しに推した意見ばかり。
流石に此れには一夏と言えども我慢ならなかったようで、更に次々とクラスメイト達から出されるどう譲歩しても学生らしいとは言えない内容の意見をバッサバッサと叩き切って行く。
・・・因みに。
この混沌たる状況に担任である千冬は呆れ果ててしまい、職員室へ帰投。
副担任である山田教諭も苦笑いを浮かべながら、皆を見守るばかりで役に立ちそうにない。
「なんでこんなコッ恥ずかしいものばかりなんだよ?! お前もさっきから笑ってないで何とか言えよッ!!」
皆の出す意見に苦悩する一夏の感情の矛先は、先程から和気眼もなくゲラゲラと奇妙な笑い声を響き渡らせる男に向けられる。
「阿破破破ッ、ククク・・・阿破ッ、阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!―――「清瀬ッ!!」―――阿破破破! いやぁ、悪ぃ悪ぃ。オメェがあんまりにもクラスメイトから好かれとる事が、実に実に・・・破破破ッ・・・愉快でのぉ。阿ッ破ッ破ッ破ッ!!」
「こ、このッ・・・!」
人目もはばからず腹を抱える彼に一夏はヒクヒクと口角を痙攣させる隣で、この時ばかりは春樹に良い印象を持っていないクラスメイト達も同調していった。
「そうそうッ、清瀬くんの言う通り! 皆から好かれている織斑君だからこそ出来る出し物なんだよ!」
「この企画が通れば、集客率と収益でガッポガッポ! 実に美味すぎる儲け話ッ」
「其れに貴重な男子生徒を多くの生徒達から触れてもらう良い機会だし!」
「・・・だとさ。良かったのぉ、織斑クゥ~ン? 阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
「き・・・清瀬、お前ッ・・・・・あぁッ、もう!!」
ポッカリと開いたハロウィンカボチャの口のように嘲笑う春樹の表情と己が欲望に支配されてしまったクラスメイト達の猿叫に一夏は頭を抑えて掻き毟る。
「ふむ・・・ならば、メイド喫茶はどうだ?」
この収拾が着きそうにもない騒動の中、凛とした声が一つ。
声のする方を見れば、ラウラがさも良い事を言ったように佇んでいた。
「客受けは良いだろう。飲食店は経費の回収と云う利点もある。文化祭は招待券制と聞いたから、外部の客入りも十分期待出来ような」
「そりゃあエエ案じゃのォ」
「そうだ。折角だから、一夏には執事服で接客して貰うってのはどうかな?」
「執事服・・・」
「織斑くんが執事の恰好で・・・」
「バトラー織斑・・・ッ」
この時、一組クラスの女子生徒の脳内には執事服に身を包んだ一夏が「お帰りなさいませ、お嬢様」と笑顔を浮かべる姿が容易に想像できたという。
「ぶハッ!」
「あ、鼻血噴いたでよ」
「それって、最高じゃん!」
「決定ッ、決定よ! 一組の出し物は、織斑くんによるご奉仕喫茶よ!!」
「ボーデヴィッヒさんにデュノアさん、貴女達は最高よッ!!」
「フンスッ」
「えへへ、そうかなぁ?」
クラスメイト達から称賛の声を送られ、ラウラは満足そうに鼻を鳴らし、シャルロットは照れくさそうに頬を掻いた。
「なら、俺は裏方で厨房の皿洗いでもすらぁ」
「なッ!? ズルいぞ、清瀬! だったら、俺も裏方で―――『『『ダメ』』』―――あッ・・・はい・・・」
「阿破破破破破ッ」
全クラスメイト達からの並々ならぬ圧力に負け、渋々首を縦に振る一夏。
其の姿をクツクツと面白がって笑う春樹にセシリアがそっと耳打ちする。「あまり調子に乗っていると、痛い目に遭いますわよ」と。
彼は之に一時はギョッとした表情を晒したが、すぐに歯を見せながらニヤリと笑みを溢して一言。
「ご忠告痛み入るよ、セシリアさん。じゃが・・・ちったぁ楽しんでもエかろう?」
「・・・あまり良い趣味とは言えませんわね、Mr.”ギデオン”」
「阿破破破ッ、なにぶんと人より”歪んでいる”もんでな。・・・あぁッ、そうだ! なぁ、ラウラちゃんや。ちぃとばっかし俺にエエ名案が浮かんだんじゃけど・・・聞いてくれりゃあせんか?」
「んん、なんだ春樹?」
「いやな、実はな・・・ゴニョゴニョ・・・」
「ッ! それはなんと名案だ!!」
「じゃろう?」と、良からぬ事を考えついた春樹はニタニタと気持ちの悪い薄ら笑みを浮かべる。
この彼の表情に「うぇッ」と鈴は舌を出し、箒は怪訝に眉をひそめるたが、簪は「・・・さっきよりも・・・元気になって良かった」とベクトルの誤った言葉を呟いた。
「阿ッ破ッ破ッ破ッ! 楽しくなってきたのォ!!」
「うむッ。春樹が楽しそうで、私も嬉しいぞ!」
「ラウラさん・・・なにか違う気がしますわよ」
何だかんだ有りながら、無事に学園祭の出し物が決まった事で今日の議題は終了したのであった。
「うぅッ・・・なんか、納得いかない・・・!」
唯一人、大役を勝手に任された一夏だけがドンヨリ雰囲気で大きく肩を落としていた。
◆◆◆
それから一時間とせぬ内、授業中でもコソコソ隠れてスコッチウィスキーを引っかけている不良生徒は―――――
「ヒぇええ、逃ィげるんじゃァアア!!」
「待てぇッ! 待たんか、清瀬ェエエ!!」
憤怒の形相に駆られた千冬に現在進行形で追いかけられていた。
何故にこの様な窮地とも言える状況に彼が陥っているのか。其れは先程行われた一組の学園祭出店議論において、メイド喫茶を発案したラウラにこの酔っ払いがある事を吹き込んだ為だ。
「いやな、実はな・・・この際、先生らぁもメイド服に身を包んで貰うってのはどうよ?」
・・・とんだ酔いどれである。
やはり酒に酔って気分が大きくなっていた為か。普段では到底言わないような大それたことを口滑らしてしまった。
本人としては多分冗談のつもりだったのだろうが、彼はラウラの純真さを若干甘く見積もっていたようだ。
当然の事ながら、この事案は千冬の耳に担ぎ上げられた一夏を通して入ってしまい、現在の状況に繋がっている。
「じゃけど、皆の話の輪から呆れて抜け出した織斑先生が悪いんじゃなかろうかッ? 山田先生なんて、ちょっと乗り気じゃったんですけど? 大丈夫じゃって織斑先生、エエ年こいてコスプレしとる人なんて、ごまんと居るんじゃけん! 似合うかもしれんでよ?」
「論点をすり替えるな、この問題児! 貴様には前々から色々と聞きたい事があったんだッ。この際、手っ取り早く説教も交えて”尋問”してやるッ!」
「尋問ッ!? 初期ラウラちゃんの尋問口調は、やっぱりアンタ譲りかよ!!」
喋りながら校内をフィールドとした追いかけっこを繰り広げる二人。
だがその後、流石にいつまでも追って来る千冬に嫌気がさした春樹は専用機である琥珀を校則に反しない程度に展開させ、左手の甲のガンダールヴを顕現させる。
そして、一気に身体能力をブーストさせ、三階の窓から外へ飛び出す。
「阿ーッ破ッ破ッ破ッ! あばよ、姐さん!!」
「清瀬ェエエッ!!」
其処から彼はいつかロンドンの街を席巻した『ばね足ジャック』のようにぴょんぴょん飛んで、千冬の追走から脱したのであった。
「ハァッ・・・ハァッ・・・どうじゃあ、こん畜生ッ!」
命かながら逃げおおせた春樹は、逆流する胃液とウィスキーに苦しみながら呼吸を整えて行く。
「大丈夫ですか、清瀬君?」
「阿ぁ、なんとか。あんのブリュンヒルデ、意外と早―――って、うわおッ!?」
ぜろぜろ息を切らしながら前を向けば、いつの間にか自分の隣に三つ編みと特徴的な丸眼鏡をかけたの人物が佇んでいる事に驚く春樹。
「吃驚させんでくだせぇよ、布仏先輩」
その人物はクラスメイトである本音の姉で、生徒会に属する『布仏 虚』であった。
彼女は驚く彼に「ごめんなさい、驚かせてしまったようね」と笑みを溢す。
「とんだ災難にあったようね」
「えぇ、全くですよ。可愛い可愛い自分の生徒の悪戯如きで、まるで俺をこれから絞め殺すような形相して追いかけて来るんですからね。あぁ、きょーとかった」
「ふふふ、其れは本当にご愁傷さま」
何気ない会話を交わす春樹と虚。
二人は簪と楯無が和解した時からの中で、面倒事を吹っ掛けて来る楯無と違ってかなり常識的な人間であり、妹である本音と同じように自分に対して優しくしてくれる彼女に春樹は好印象を持っていた。
その為、千冬との追いかけっこで喉が渇いた自分にお手製の紅茶を振る舞おうかと言う虚のお誘いに何の疑問も躊躇いもなく乗っかってしまう。
「清瀬ッ・・・なんでお前がここに?」
「・・・・・そりゃあコッチのセリフじゃ、ボケェ」
「フフフッ・・・よく来たわね、清瀬 春樹君」
だから彼は、案内された生徒会室で待ち伏せていた一夏と生徒会長席を陣取っている楯無に春樹は大きく舌打ちをした。
「あ~、きよせんだぁ~。お菓子食べる~?」
「・・・食べるでよ。簪さんもいるか?」
「うん・・・ありがとう、春樹」
もし此処に簪と本音がいなければ、いくら虚からの誘いであろうと部屋から出て行ったであろう。
彼は仕方なさそうに溜息を吐きながら、「そんで・・・俺に何の様じゃ、更識生徒会長閣下殿?」と口をへの字に曲げてソファへ腰かけるのだった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆