「えッ!? あ、貴女が”彼女”の・・・いや、銀の福音のパイロ―――――ッ、ゲフンゲフン!!」
目の前の人物が『銀の福音事件』で、自身と戦っていた機体の”中の人”だという事に驚嘆の声を上げる春樹だったが、急に彼は咳ばらいをした。
何故ならば、かの事件は極秘中の極秘案件となっている事件。こんな人だかりである場所で叫ぶわけにはいかないと思ったのだろう。
「大丈夫よ、清瀬くん。そんな気遣いしなくても、私達の代わりに千冬が目を引いてくれるから」
「阿?」とナターシャの言葉に疑問符を浮かべる春樹だったが、直ぐに其れを理解する事が出来た。
「み、みみ、皆見てッ!! 千冬様のメイド姿よ!!」
「流石は千冬様ァッ! 私達よりもメイド服を着こなしていらっしゃるッ!!」
「素敵ッ、素敵す―――ッブッはぁ!!」
見ればメイド服を着て現れた千冬に場の視線は釘付けとなっており、黄色い叫びと鼻血による鮮血が教室に飛び散っているではないか。
この状況下で「う、うわぁ・・・ッ」とドン引きの表情を隠せない春樹に対し、「や、やめろ、お前達ッ! というか其処ッ、勝手に写真を撮るな!!」と千冬はいつもは決して見せない焦燥感漂う表情を晒していた。
・・・その表情が余計に生徒達の滾りを煽らせるとは露知らず。
「うふふ、千冬は何処に行っても人気者ね」
「『人気者』の一言で片づけるには、些か騒がしすぎますけどね。阿破破ノ破」
そう溜息を漏らしながら薄紅色の頬で慌てる千冬へ「ざまぁ見ろ」と言わんばかりに春樹は口角を吊り上げたと思ったら、「それでファイルスさん・・・俺に一体何の御用でしょうか?」とナターシャへ視線を移す。
彼の眼には、未だ警戒の色が伺えた。
「あら・・・此方の正体を明かしても、まだ警戒するの?」
「貴女が俺に自分の正体を明かしてくれた事には感謝します。・・・ですが、其れが警戒を解く理由にはならない。特に貴女が福音パイロット・・・米国の軍人だと猶更」
そう言いながら春樹はパフェグラスに入っていたポッキー一本を手の取り、彼女から目を離さずにガジガジと噛み砕いて平らげる。
そんな警戒どころか敵視していると言っても良い彼に対して、ナターシャはクスリと朗らかな笑みを浮かべてアイスハーブティーへと口をつけた。
「・・・何が可笑しいんで?」
「ふふッ。ごめんなさい、気に障ったのなら謝るわ。でも・・・下手な探り合いは結構よ。今日、私はアナタにお礼を言いに来ただけだから」
「お礼?」
「そう、お礼よ。アナタが自分の身を挺して私を救ってくれた事に対するね。はい、あーん」
ナターシャはそう言って理由を述べると共に春樹の口元へとへポッキーを差し向ける。
『執事にご褒美セット』は客がスタッフへお菓子を食べさせる内容な為、彼は之を断る事が出来ず「・・・あーん」と心を無にしてポッキーを食べた。
「ふふふ。私をあんなにも強く抱きしめてくれた人が、私の手から食べ物を啄ばむ姿は感慨深いものね」
「むしゃむしゃ・・・ホントにお礼を言いに来ただけなんですか? 俺にゃあ、別の意図がある様に見えますがね」
「・・・流石は日本政府の虎の子。アナタがそう勘繰るのも無理はないわ。でも・・・正直言うとね、私はアナタに助けられた”実感がない”の」
「は?」
「どーいう事で?」と眉をひそめる春樹にナターシャは事情を説明し始める。
IS学園の臨海学校が行われた同日、彼女はハワイ沖でアメリカとイスラエルが共同開発した軍用機体『
その最中、突如として機体が暴走。搭乗者であるナターシャを乗せたまま銀の福音は米軍の監視区域から消失した。
「あの子・・・ゴスペルが暴走していた時、私は意識を失っていた。その間に覚えていた事はとても断片的で・・・私がアナタの御蔭で助かったという事を知ったのは、事件から三日経ったベッドの上でなの」
「えぇ? 米国には福音を墜としたんは、織斑の野郎じゃっていう話を通しとる筈なんですけど・・・」
「”マサキ”が教えてくれたの。「貴女には真実を知っていて欲しい」ってね・・・慕われてるのね、清瀬くん」
「マ、サキ・・・? って・・・あぁッ、壬生さんの事か! 壬生さんと面識があるんですか、ファイルスさん?」
「えぇ。彼って・・・・・とってもチャーミングよね・・・」
IS統合対策部は開発者チームのリーダーである『壬生 柾木』の話になった途端、今までとは大きく違う表情を見せるナターシャに春樹は「・・・阿ぁッ、此れは??」と少々驚いた感情を胸の内に宿す。
「(おいおい・・・壬生さん、一体いつの間にこねーな美女を墜としたんじゃ。あの人、人の事を言えんでよ)阿破破破ッ」
「どうしたの?」
「いんえ。それなら調度良かったなって思いましてね」
「? それってどういう―――「おッ、清瀬少年!」―――ッ、え!」
聞き覚えのある声に春樹が振り返ってみれば、其処には学園祭の招待券を片手に此方へ手を振るスーツ姿の壬生が居た。
「な、なんで此処に彼がッ?」
「さぁ? 運命の悪戯・・・ってヤツじゃねぇですか?」
動揺するナターシャに内心「こねーな面白い展開になるとは・・・流石、俺。招待券を渡しといて正解じゃった」と謎のドヤ顔を見せる春樹。
そんな二人に壬生は参観日に来た父兄のような面持ちで近づいて来る。
「流石は我らが刃の通っているIS学園だ。一味も二味も違うな・・・って、なんだ君も来てたのか”ナターシャ”」
「ご・・・ごきげんよう。マ・・・マサ・・・・・ミブ・・・ッ」
「え!?」
ナターシャをファーストネームで呼ぶ壬生に対し、先程の大人の色気を漂わせていたナターシャが借りて来た猫のように大人しくなってしまう。
この彼女の様子に「さっきまで平気で壬生さんを下の名前で呼んどったのに」と春樹は呆けてしまったが、すぐに「阿破破ッ」と口角を吊り上げて立ち上がる。
「お帰りなさいませ、旦那様。ささ、どうぞ此方の席へ。太閤秀吉のように座席を温めておいたので」
「え? でも、我らが刃はナターシャと何か話してたんじゃないのか? あの事件から初めての御対面だろう? 俺は別の席に―――「アンタは此処の席以外座るんじゃねぇ」―――えッ??」
「ちょ、ちょっと清瀬くん!?」
あれよあれよと言う間に自分の座っていた席へ強制的に壬生を座らせた春樹は「それじゃあ御両人、ごゆっくり!!」とそそくさ厨房へ戻って行く。
「どうしたんだ、清瀬少年は? というか、ナターシャ。君もなんで急にサングラスをかけるんだ? 屋内だぞ」
「わ、私ッ・・・その、眩しい光に弱くて・・・」
「へー、そうなのか。確かに青い眼の人は黒目の人よりも光に弱いって言うしな。ナターシャの目は綺麗な青だから猶更か」
「き、綺麗って・・・ふ、ふふふッ・・・!」
自分の目を褒められて少女のようにほくそ笑むナターシャに壬生は「何か良い事でもあったのか?」とキョトンとする。
「ふむ。俺の与り知らぬところであねーなストロベリー案件が発生してるとはのぉ・・・・・セシリアさんや?」
「はいはい。なんでしょうか、春樹さん?」
「これより作戦コード亀を発令。『出歯亀作戦』を開始する!」
そんな二人を厨房の出入り口から観察していた春樹がセシリアに謎の作戦事項を開始する様に通達するのだったが、「その前に春樹さん?」とセシリアが彼に声をかけた。
「どうしたんじゃ、セシリアさんッ?」
「二人の間を進展させる前にご自身を顧みてはいかがでしょう?」
「阿?」
彼女の言うように振り返ってみれば、其処にはハイライト先輩がご退場なされた瞳を持ったラウラとシャルロットが佇んでいるではないか。
「春樹・・・あの女の人・・・・・誰?」
「早急な説明を要求するぞ!」
「えッ、どうしたんなん?!」
学園祭はまだ始まったばかり。
・・・・・しかし、禄でもない騒動が起きるのにそう時間は掛かりはしないだろう。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆