世界で初めて発見された男性IS適正者『織斑 一夏』。
彼にとって世界で二番目に発見された男性IS適正者『清瀬 春樹』は当初、同じ境遇化に置かれている”仲間”、あるいは”同志”だと思っていた。
しかし、春樹は一夏を自らの平穏を奪った者として憎み、周囲の者が見ても解るようにあからさまな形で嫌悪していた。
だが、そんな彼の気持ちが一夏にやっと通じたのは、シャルロットの男装の件が二人にバレた頃だ。
・・・こんなにも時間が掛かったのは、ひとえに一夏が持っている固有スキル『鈍感:A+』のせいだろう。
その日を境に彼は漸く春樹を『他人を思いやらない冷たい人間』レベルまで認識したのだが、春樹との確執は之に留まらなかった。
シャルロットの男装発覚後に行われた学年別トーナメントにおいて、春樹はペアリングの相手であるラウラと共に対戦者達をラフプレーでバッタバッタと薙ぎ倒していくではないか。
勿論の事、ルールの範囲内で行われたプレーなのだが・・・女子搭乗者に対して行われる春樹の乱暴行為を一夏は許容できなかった。
だから一夏は彼の行いを正す為、並々ならぬ気持ちでシャルロットと共にトーナメンを勝ち進んで行き、遂に春樹との対戦が決まったトーナメント準決勝へ辿り着いた。
・・・ところが、彼は試合途中に起こったVTシステムの暴走に飲み込まれた春樹に文字通りボコボコにされてしまう事となる。
加えて、VTS事件の影響によってヴォーダン・オージェの完全適応者となった春樹は、自分に出来た新たなコネを使いまくり、窮地に立っていたシャルロットを救ってしまった。
彼女に対し、『俺がお前を守ってやる』等と発言した一夏の面目丸潰れである。
だが、この時はまだ春樹に対してのコンプレックスを抱く事はなかった。
何故なら事件の時に彼はVTSによって暴走しており、しかも突然の事だったので不意を喰らってしまった為に自分は負けてしまったのだと何とも都合の良い解釈をしたのである。
だから『正々堂々と真正面から戦えば、勝機はある』と言う思いが、一夏の心の片隅に心なしかあった。
しかし、彼のそんな甘い考えとは反する様に春樹はVTS事件から日毎ドンドン力をつけるようになっていく。
日本政府が組織した機関から専用機を譲渡され、その機体に見合った以上の戦果や成果を打ち立てていったのだ。
臨海学校の最中に起こった『銀の福音事件』では、第一次討伐作戦で撃墜された一夏に変わって第二次討伐作戦を現場指揮し、重傷を負いながらも銀の福音並びにその搭乗者を無事に鹵獲する事に成功。
夏休みには、デュノア社を始めとするIS関連企業が開催したIS新機体発表会を襲撃したテロリストを撃退。
皆の知らないところで手柄と力を春樹は付けていた。
そして、その二人の力の差を歴然と明白にした試合が始まってすぐの二学期に行われる事となる。
この試合を取り計らったのはIS学園生徒会長の更識 楯無。
彼女は二人の行う試合に当初二つの目的を持っていた。
一つ目は、『どこか平和ボケした一夏に身の程を知ってもらう為』。
二つ目は、『学園長や各機関の関係者から一目置かれる春樹の実力を知る為』。
・・・だったのだが、試合は楯無の予想を遥か斜め上にいくものとなってしまった。
目も当てられぬ程の試合展開。
『二次移行した白式と自分が敗ける筈がない』と心のどこかで思っていた一夏のプライドは文字通りズタズタにされた。
だから彼は、試合後に楯無から提示された『特別授業』を受ける事を志願した。
もう二度と春樹に負けない為に。自らの”力を示す”為に。
そんな少々歪な思いを抱え込んでいる一夏は現在・・・・・
「・・・・・・・・なんでこんな事になったんだッ?」
まるで寝物語に出て来る王子様の様な恰好の自分に眉をひそめていた。
◆◆◆
場所は第四アリーナの更衣室。
其処で一夏は何故か王子様役の衣装を身に纏っていた。
何故に彼がこの様な状況に陥っているのか。其れはやはり、一夏の特別授業を担当している楯無が関わっている事に他ならない。
今から数分前。喫茶店の休憩時間に入った一夏はいつものメンバーである箒や鈴に加え、自分がIS学園へ招待していた中学生時代の友人『五反田 弾』と彼の妹である『五反田 蘭』と共に文化祭を回っていた。しかし、突如として一夏の携帯へ楯無からの一報が入った。
どうかしたのかと彼女の言う通りに第四アリーナを訪れてみれば、楯無から自分が生徒会の出し物である舞台演劇『シンデレラ』の王子様をやるように通達されたのである。
あまりにも突然な事に一夏は当然辞退すると言ったのだが・・・楯無の偽りの涙に泣き落とされ、現在に至るのだった。
早い話が、一夏は楯無に嵌められたのである。
「織斑くん、ちゃんと衣装着たー?」
「わッ!? いきなり入って来ないで下さいよ、会長!」
了承も得ずに楯無が更衣室を開けると、其処には随分と不服そうな表情を晒す王子様がいるではないか。
一夏の容姿はかなり整っている為、まるで絵本の中から出て来たような姿だ。
「おー・・・これは実に良いわね。思った以上に王子様って感じで、お姉さんビックリ」
「からかわないで下さいよ。それに・・・会長にはお世話になってるって言っても、こんな格好なんて・・・」
「あら、王子様役は不服? だったら、今からでもシンデレラの役に変更する? 織斑くんならドレスを着てもピッタリよ」
「ウフフッ」と悪戯っぽい笑みを浮かべる楯無に「やりませんよッ!!」と顔を真っ赤にして叫ぶ一夏。
「はいはい、そんな怖い顔しないの。舞台の成功は織斑くん、君にかかってるんだからね」
「なんでそんな大役を俺なんかに・・・」
「ぶつくさ言わないの。はい、これが王子様にとって大事な大事な王冠よ」
「は、はい。あと、会長? 俺、この劇の脚本とか台本とか一度も見てないんですけど・・・?」
確かに一夏の言う通り、あれよあれよと言う間に舞台へ立つ事になった彼は、この劇に出演する為に必要な台詞を一言も知らずにいた。
『シンデレラ』のキーキャラである『王子』が、何も喋らずにただ突っ立ったままでいると言うのは考えにくい。
「大丈夫、大丈夫。基本的にこちらからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」
「えぇッ!? 大丈夫なんですか、それ?!」
「大丈夫よ、生徒会長の言うことは絶対なの。私を信じなさい!」
「は、はぁ・・・」
一体何処に大丈夫な要素があるのか理解できない一夏だったが、如何にも自信ありげな態度の楯無に仕方ないように頷くのだった。
ほとんど無理矢理に出演する事となった一夏がアリーナいっぱいに作られたセットの舞台袖に立ってみると、緞帳の外からガヤガヤと歓声が聞こえて来た。
どうやらアリーナの席は満席なようであり、今か今かと舞台の開演を待ち望んでいる様だ。
この外の歓声に一気に表情が強張る一夏だったが、そんな不安がる彼を余所にブザー音と共に幕が上がる。
≪むか~し、昔。ある所にシンデレラと言う娘が居りました≫
物語は楯無のアナウンスから始まった。
その普遍的な出だしに安心したのか、一夏は胸を撫でおろしてセットの舞踏会エリアへと向かう。
・・・しかし、あの更識 楯無が普通の舞台劇を行うだろうか?
≪・・・否ッ! それは最早名前では無い。幾多の舞踏会を駆け抜け、群がる敵を薙ぎ倒し、灰燼を纏う事さえ厭わぬ強者のお姫様達。彼女らを呼ぶに相応しい称号・・・・・それが『
「・・・・・は?」
―――――答えは”否”である。
≪今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された2つの軍事機密を狙い、舞踏会と云う名の死地に今・・・お姫様達が舞い踊るッ!!≫
「なんだそりゃッ!!?」
勢い良く捲し立てられる楯無のアナウンスに悲鳴のようなツッコミを入れる一夏。
だが、そんな彼の背後に電光石火の勢いで突撃する人影が一人。
「貰ったぁあああああッ!!」
「うおぉおッ!? り、鈴ッ!!?」
その人物とは、白地に美しい銀の装飾が施されたシンデレラ・ドレスに身を包んだ鈴だった。
そんな鈴の体当たり攻撃を間一髪で回避する事に成功した一夏は、彼女との距離をとる。
「その王冠を・・・その王冠を私に寄越しなさい、一夏!! はぁあああああッ!!」
「う、うわぁああッ!!?」
尚も鈴は空かさず飛び上がると再び一夏に強襲をかけるのだが、彼は寸での所で転がって回避する。
「織斑君、その王冠を私に!」
「いや、私に頂戴ッ!」
「なに言ってんの、私の方が先よ!!」
「なッ・・・なんなんだよ、この劇は一体?!!」
鈴の攻撃を何とかギリギリで躱し、後退した一夏に向かって周囲にいた女子生徒達がジリジリと距離を詰めて行く。
その光景はまるで、生者の肉を求めて襲い掛かるゾンビに追い詰められているかの様だ。
何故にこの様な事になっているのか。其れは楯無から予め女子生徒達だけに”ある事”が通達されていたからだ。
其のある事とは、『『王冠』をゲットした者は、織斑 一夏との同居の権利を進呈される』というモノだった。
『『『王冠・・・おいてけぇえッ!!』』』
この事案に幼馴染二人を含めた一夏を学園の王子様と崇める連中は獣の眼になり、彼の頭へ乗っかった王冠に舌なめずり。
「な・・・なんなんだよッ、なんなんだよ一体!? そんなに王冠が欲しけりゃ、くれて―――――あびゃッ!!?」
攻撃色一色の女子生徒達に慄いた一夏は被っていた王冠を放り投げようとしたのだが、頭から外そうとした瞬間、何故か手に強烈な電流が奔る。
≪王子にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます≫
再びアリーナへ響いた楯無のアナウンスに一夏はこう叫んだ。「そう言う事は先に言ってくれッ!!」と。
「ほぉ・・・これは中々に面白い事をしているな」
「面白い・・・のかな、これは?」
一夏の悲鳴と女子生徒達の唸り声が入り乱れる中。アリーナ内の中継が映っている一年一組教室へ、フォルテの射的屋さんでゲットしたお菓子で頬袋を膨らませたラウラと苦笑いを浮かべたシャルロットが戻って来た。
そんな興味深そうに舞台となっている第四アリーナで繰り広げられている状況を見つめる二人へ先に部屋へ来ていた簪が「あれ・・・春樹はどうしたの?」と問いかける。
「あぁ。春樹なら、どうやら食べ過ぎたらしい。トイレへ行って来ると言っていたぞ」
「あら、それは大丈夫なんですの?・・・って、彼には『大丈夫』と言う心配の言葉は不要でしたわね。春樹さんの事だから、すぐに平気な顔して帰ってきますわ」
ラウラの言葉に「ヤレヤレ」とセシリアが溜息を吐きながら首を横に振る。
『銀の福音事件』の時に医者から完全な再起不能と診断を受けながらも、たったの半日で全快してしまった彼の治癒力に呆れているかのようでもあった。
この彼女の言葉に福音討伐作戦へ参加した関係者各員が大きく頷く。
「あッ・・・そうこうしている内に織斑君がアリーナの外へ出て行った・・・」
「流石は更識会長、エンターテインメントを解っていますわね。これで舞台はアリーナから学園全体に移ったという事・・・・・面白くなってきましたわ!」
肉食獣から必死になって逃げる一夏の姿に教室にいる生徒達が鼻息を荒くする。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ッ! ま、巻いたかッ?」
一方、アリーナの獣たちから命かながら逃げ出す事に成功した一夏は学園の廊下で息を切らしていた。
しかし、猛獣たちの巣窟となったアリーナから逃げ出す事は出来ても、外では彼を待ち構えていたかのようにスナイパーとなった乙女達が待機。王冠を奪わんと狙撃を開始し、銃撃に怯んだ一夏を今度は強襲部隊と成り果てた生徒達が襲い掛かる。
「と・・・とにかく、何処かへ隠れないと・・・!!」
そんな悪夢たちから何とか逃げ切ったのだと一安心した一夏は、ほとぼりが冷めるまで何処かへ隠れていようと画策する。
・・・だが、其の彼の考えは蜂蜜のように甘かった。
疲れ切った絶好の獲物を逃す捕食者がいる訳がないのだから。
「・・・・・一夏」
「ッ!!?」
息を切らす彼の背後から聞こえて来たのは、随分と聞き馴染んだ自分の名前を呼ぶ幼馴染の声。
しかし・・・いつもと違っていたのは、その声がいやに低く静かな声色だった事だ。
「ほ・・・箒・・・ッ?」
「一夏、お前の状況は確認した」
しかも振り返ってみれば、其処には非戦闘時にも関わらず彼女は自身の専用機である紅椿を身に纏い、二振りある内の一振りの日本刀を構えていたのである。
「大丈夫だ・・・私の一撃ですぐに楽にさせてやる」
「ィいッ!!?」
そんな恰好の箒からの文言に一夏の背筋は凍てつき、表情は真っ青に変わる。
箒にしてみれば『一撃で王冠を奪う』という事を言った訳なのだが、一夏にしてみれば『今からお前を殺す』と宣言されているのと同じ事だった。
「ま、待ってくれ箒ッ! 話せばわかる!!」
「問答無用ッ!!」
青ざめた彼に向かって無情にも振り下ろされる会心の一撃。
勿論、加減はしているのだろうが・・・こんな一撃を喰らっては王冠は真っ二つにされ、頭蓋骨にはヒビが入ってしまうだろう。
「危ない!」
「え・・・?」
あわや此れまでと思った一夏だったが、気がつけば自身の身体は何者かによって引っ張られていた。
「さぁ、お早くこっちに」
「あ・・・あなたは・・・!」
箒の斬撃から救ってくれた人物に一夏は驚きつつも、二人は足早にその場を去る事にした。
後に残ったのは紅椿の斬撃によって舞い上がった粉塵と「どこへ行った、一夏!!?」と言う箒の雄叫びだけである。
◆◆◆
「ハァッ、ハァ・・・! あ・・・ありがとうございました、『巻紙』さん」
第三者の介入によって漸く追手から逃げおおせた一夏は酷く息を切らしながらも、自分を助けてくれた人物に礼を述べた。
彼を助けたのは、IS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当『巻紙 礼子』と名乗るロングヘアーの女性だ。
一夏がご奉仕喫茶の休憩時間中で文化祭を回っている時、彼女は彼と接触して名刺を渡していたのである。
「いえいえ。我が社の大事な専属になるかもしれないパイロットを助けるなんて、当然の事をしたまでです」
「あ、あのー・・・その話なんですが。今はこんな状況だし、また後でも・・・」
「まぁ、そんな事をおっしゃらずに。今後の事を邪魔の入らないところで話しませんか?」
先程の追手から助けられた恩を感じてか、一夏は「は、はぁ」となし崩しに頷くと「さぁ、此方へ」と彼女に誘導されるがままに人気のない更衣室へと入って行った。
「あの、巻紙さん。さっきも言ったように俺は―――――って、何してるんですか!?」
更衣室へ通された一夏は巻紙からの勧誘話に再びNOの返事をしようとしたのだが、振り返ってみれば彼女はプチプチと先程までしっかりと留められていたワイシャツの一番上のボタンを外していたのである。
其の巻紙の行動に思春期男子特有の邪な感情を抱いてしまった彼は思わず顔を背けた。
しかし・・・
「あぁッ、やっとこんな堅苦しい恰好から解放されるぜ」
「ま・・・巻紙さ―――――ぐフェッ!!?」
先程まで営業スマイルを浮かべていた彼女の表情が、一気に歪なものに変わる。
其の顔に一夏が疑問符を浮かべた瞬間、ドカッ!と彼の腹部に強烈な痛みが襲い掛かり、そのまま一夏は更衣室のロッカーに叩きつけられてしまう。
「ま、巻紙さん・・・アンタ、一体なにを・・・?!!」
「おいおい、さっきの蹴りでとっとと堕ちんどけば良かったのに・・・タフなガキだぜ。・・・まぁいい」
未だ巻紙の豹変と現状に困惑する一夏に対し、巻紙は着ていたスーツの下からバリバリと背中を引き裂いて八本の鋭利な爪を”展開”させる。
其の鋭利な爪は蜘蛛の脚によく似ており、先端は刃物の如く尖っていた。
「選べよ、織斑 一夏。テメェの専用機の白式を今すぐ寄越すか、ここでグチャグチャにミンチにされるかをよぉッ!!」
「ッ!!」
酷く邪悪な笑みと共に巻紙はナイフの様に鋭利な爪を一夏に突き刺そうと振り上げる。
一夏はこの攻撃に対して瞬時に白式を身に纏い、雪片で防御した。
「一体何なんだよ、お前?!!」
「ああん? 何も知らねーのか? 悪の組織の一人だっつーの!」
「ふざけんな!」
「ふざけてねえっつの、糞ガキがッ! 秘密結社『亡国機業』が一人、『オータム』様って言えばわかるかぁ?!!」
そう言いながら巻紙・・・改め、オータムは八本の鋭利な脚で貫かんとバラバラに突き出していく。
其の的確に急所を狙う刺突攻撃を一夏は楯無との特別授業を思い出しながら何とか回避する。
「ヒャ―――ッハッハッハッ、中々シブといじゃねぇか! 嬲り殺しするにはそう来なくっちゃなぁッ!!」
「ッ・・・く!!」
だが、オータムの攻撃の手は更に激しさを増す。
このままでは不味いと判断した一夏は相手の隙を突く為に天井上へと上昇し、刃を突き立てんと一気に急降下する。
「そこだァッ!!」
「ハンッ、あめぇんだよ!!」
しかし、オータムは其の会心の一撃を鼻で笑いながら容易に回避すると先程よりも更に苛烈な攻撃を一夏に仕掛けた。
そして何を思ったのか、彼女は歪な笑みを浮かべてある事を言い放つ。
「あー、そうそう。そう言えば、テメェと会うのはこれで二回目なんだぜ?」
「なにッ?!」
「なんだよ、覚えてねぇのか? 第二回モンド・グロッソでテメェを拉致したのは、オレたちの組織だ! 感動のご対面ってやつだなぁ、ヒャ―――ハッハッハッ!!」
「ッ!! お前ェエッ!!」
オータムの言葉は、一夏に自身の忌まわしい記憶を思い出させるには十分すぎるものだった。
「だったら、あの時の借りを返してやるぜッ!!」と彼女の言葉に火が付いた一夏は、瞬時加速を行って一気にオータムの懐へと飛び込む。
「ッケ、やっぱりガキだな。こんな安い言葉で引っかかるなんてよぉッ!」
「なッ!?」
そんな突貫する彼にオータムはマニピュレーターで精製した塊を投げつけると、其の塊は一夏の目の前で大きく破裂し、四方八方へ拘束網を展開。安易に彼女へ近づいた一夏を容易に絡め捕った。
「くッ、この!! クソォッ!!」
「ヒャハハハ! 予想したよりも歯応えが無くてガッカリだぜ、この糞ガキィッ」
「がァッ!!?」
そうオータムは笑いながら、蜘蛛の巣の様な網から何とか抜け出そうと藻掻く一夏の頭部を踏みつける。
そして、鼻歌でも口ずさみながら何処からともなく取り出した装置を起動させた。
其の装置の大きさは四十㎝程度で、時間の経過と共に駆動音が大きくなり先端の四本のアームが開く。
「さて・・・お別れの挨拶は済んだかよ?」
「な、なんのだよッ?!」
「決まってんだろうがッ、テメェのISとだよ!!」
「ッ、がぁあアアアアアッッ!!?」
其の装置をオータムは一夏の胸に装着すると、装置から流れ出る電流が身体を駆け巡り、彼の口から絹を裂いたような悲痛な叫びを奏でさせた。
「・・・終わったな。よっと」
「ぐァ・・・ッ!!」
装置が停止するとオータムは一夏の拘束を解き、紙屑でも捨てるかのように其処等へ放り投げた。
「お、お前・・・この野郎ッ!!」
「あ? 当たらねぇよ、ISの”ない”テメェの攻撃なんてなぁ!!」
「がフッ!!」
放り投げられた一夏はすぐさま立ち上がると拳を振り抜いてオータムへ飛びかかって行ったのだが、彼女からの強烈な脚撃を腹部に喰らって更衣室のロッカーに叩きつけられてしまう。
そして、其処で一夏は漸く自分の”違和感”に気づくことになる。
「な、何が起こったんだッ・・・おい、白式! おい!!」
其の違和感とは、先程まで身に纏っていた筈の白式がなくなっていた事だった。
「ククク・・・おいおい僕ちゃん、お探し物はこれかな?」
「そ、それは!?」
慌てふためく彼を嘲笑うかのようにオータムは自分の手に握られているあるものを彼に見せつける。
其れが一体何なのか、一夏はすぐさま理解できた。
「そうだよ、テメェのISである白式のコアさ! さっきの装置は『
「返せ・・・返せよッ、俺の白式を!!」
「返す訳ねぇだろうがッ、このダボがッ!!」
「ぐハァッ!!」
奪われた白式を取り返そうと再びオータムへ飛びかかる一夏だったが、生身の人間がISを纏っている者に敵う筈もなく、早々に再度蹴り飛ばされる。
「ISを使えるだけの野郎が調子乗りやがって・・・テメェみてぇなトーシロがこのオータム様に敵う訳ねぇだろうがよぉ!!」
「がアッ、ぐフェ! ガッはッ!!」
一夏を蹴り飛ばしたオータムはそのまま彼に蹴りを連撃させ、グリグリと踏みつける。
この彼女からの攻撃に一夏は手も足も出せず、骨の軋む音と筋肉が千切れる生々しい音と共に血の混じった胃液を吐く。
「うわッ、汚ぇな。吐いてんじゃねぇよ、オレの『アラクネ』が汚れるだろうが!」
「ぐハぁッ! か・・・返せ・・・!」
「あ?」
「俺の・・・俺のISをッ・・・白式を返せ・・・!!」
「ッチ、シツけぇ野郎だ。あぁ、もういい。テメェは用済みだ」
「ッ・・・!」
「くたばれ」
興が逸れたオータムはアラクネの装甲脚の切先を一夏の心臓に狙い定める。
そして、一気にそれを振り下ろした・・・・・その時だった。
「―――――いや、オメェがくたばりんさいやッ」
「なッ―――――ぶゲェエッ!!?」
ズドンッ!!と言う発砲音と共に更衣室のドアが吹き飛び、一夏の心臓まで僅か数㎝と迫ったアラクネの装甲脚ごとオータムを更衣室の壁にめり込ませた。
「え・・・ッ!?」と最早本当に此れまでかと覚悟していた一夏が驚きの表情で吹き飛んだ扉の方へ視線を向ければ―――――
「ったくよぉ~。一時見失ってしもうた時ぁ、どねーしたもんじゃと思とったが・・・何とかギリチョンで間に合ったみたいじゃのォ」
―――――「阿破破ノ破!」と奇天烈な笑い声を上げる鉄仮面がリボルバーカノンを構えて居たのだった。
長くなったでよ。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆