・・・自分で言うのもあれじゃが、俺は大人しい性格の方じゃと思う。じゃけど、『怒り』という感情は突発性の激情型じゃ。
なにか相手から嫌な事をされたり、言われた時に我慢しようと思えば我慢できる。じゃけんど、何故か突然怒りのスイッチが入る事が時にある。それがアリーナでやったアレじゃ。
結局あの後、俺は早退した。
頭を冷やすと言うのもあるが、戻れば今度こそ織斑を殺してしまうと感じていたからじゃ。
「ねぇ、アレ」
「あッ、アレが例の逆切れ男?」
「目つき悪いわね」
あれから数日。案の定、アリーナでの一件は瞬く間に広まった。悪評千里を駆けるとは正にこの事。
「なんでも授業中に織斑くんを暗殺しようとしたんだって」
「うわー、怖ーい。おまけのくせに」
しかも噂に尾ひれがついてやがる。訂正するなら、『暗殺する』ではなく『暗殺されかけた』が正解じゃ。
ISを纏っていたとはいえ、ぶつかった時の衝撃は凄まじいもんじゃった。あれが生身でだと思うと身の毛がよだつ。
しかし、いつまでも朝飯時にこんなBGMを聞くほど被虐体質じゃねぇ。面倒じゃけど、そろそろ自室で自炊しようかのぉ。
「きよせ~ん、ここいい~?」
「あ?」
考え込む俺の隣に座りよるのは、ケモ耳が似合いそうなホンワカ系美少女『布仏 本音』さん。
学年の皆からは、その性格から『のほほんさん』の愛称で呼ばれよーる癒し系じゃ。
「あぁ、構んよ布仏さん」
「のほほんで良いって言ってるのに~」
「あんまり気安く呼んじまうと、俺と仲が良く見えちまうよ」
「ん~、其れの何がダメなの~? きよせんは優しくて良い人だよ~」
「・・・阿ッ破ッ破ッ破!」
加えて、俺のようなはみ出し者にも隔てなくいてくれる優しい子じゃ。こんなええ子が俺んせいで皆からハブられたら、なんかおえんじゃろう。
「なんで笑うの~?」
「布仏さんや。あんまり、そねぇな事言うもんじゃあねぇぞ。男はすぐに勘違いしちまう生き物だからのぉ。・・・俺じゃなけりゃあ惚れてたぜ」
「・・・ふ、ふ~ん」
阿破破破ッ、いっちょまえに照れるね。
世の中、布仏さんみたいな人ばっかりじゃったら、ええのになぁ。そーすりゃあ、IS登場からジェットコースター並みに進む少子化が食い止められるんじゃあないんかのぉ。
「そ、そ~いえば、きよせん。今日、セシリーはどうしたの~?」
「あぁ、セシリアさんはクラス対抗戦の準備じゃとさ。織斑の野郎が頼りねーけん、代わりに雑務をやるんじゃろうなぁ」
「セシリーらしいね~。でも、おりむーにも頑張ってもらわないとね~」
「あ? あぁ、デザートの無料パスだっけか?」
「うんうん、みんな狙ってるよ~!」
デザートパスね。
俺も甘味は好きだが、餓えてるって具合でもねぇしな。それに、あんまり甘い物ばっかり食ってると糖尿病になりそうじゃ。
「そ~いえば、きよせん。聞いた?」
「あ? あぁ、聞いちょるよ。噂に尾ひれがついて、今じゃあ俺は天下の極悪人になっとるみたいじゃのぉ」
「あれは、おりむーが悪かったと思うけどね~・・・って、違うよ~! そっちじゃな~い!」
「あ? じゃあ、なんだっての?」
「なんか~二組に転校生だって~」
『転校生』・・・ラノベらしい演出じゃのぉ。
まぁ、どーせあの鈍感屑系主人公サマ関係じゃろう。
「俺にゃあ、関係ない事じゃ。ごちそうさんっと。先行っとるで、布仏さん」
「あ。待ってよ、きよせ~ん!」
―――
「織斑くん、織斑くん! 今週のクラス対抗戦の情報収集成果ー!」
一組クラスの女子共が、他のクラスから手に入れた情報片手に織斑の野郎が座る席を囲む。
ホント、朝から元気なこった。じゃけど、あの子らーのおかげで野郎がこっちに来ないけん、安心じゃー。
「専用機持ちは他に四組がそうみたいだけど、まだ未完成で対抗戦までに完成するのは無理みたい」
「他のクラスは専用機持ちじゃないみたいだから結構楽勝かも?」
「いやでも、専用機持ってても俺素人だしなぁ・・・」
野郎は謙遜しているが、専用機と言うだけあって、俺が使っているような訓練機のスペックを軽く凌駕する機体性能じゃ。
普通は楽に勝てるじゃろう。乗り手が野郎のような猪じゃなけりゃあな。
「その情報古いよ・・・!」
『『『!!』』』
キーキー喧しいクラスに聞いた事がない声色が聞こえて来た。皆その声に引かれて、声の主が立っている教室の入口を見やると・・・。
「久しぶりね、一夏!」
そこにおったのは、何処か勝ち誇った表情の一人の活発系ツインテ少女。
何故か、ダメバナの野郎があんぐりと呆けたような顔をしていやがる。まぁ、織斑を下の名前で呼んでいるあたり、大方野郎の知り合いか何かじゃろう。
「り、鈴!? 何でここに?!!」
「中国代表候補生、凰 鈴音。二組のクラス代表が、今日は宣戦布告に来たってわけ」
ほれ見ぃ、やっぱりそうじゃ。
しっかし・・・年下じゃろうか? えろー幼く見えるのぉ。しかも、ツインテか。ツインテはツンデレと相場が決まっとるけん、たぶんそうじゃろう。
「い、いつからこっち来てたんだ? 連絡してくれれば・・・」
「昨日の夕方よ」
「でも会うなら早い方がいいだろ? 昨日の内だったらゆっくり話せたのに」
「べ・・・別にいいじゃない、こうして今日会ったんだし。でも勘違いしないでよね! 一夏と話すために来た訳じゃないんだから!」
おおッ、出た『勘違いしないでよね!』。まさか、この典型的なツンデレ台詞を聞く日が来ようとは・・・真実は小説よりも奇なりじゃ。
じゃが・・・なんか、実際に聞いてみるとツンデレって面倒くさいな。ハッキリあねーな事言われたけん、なんか織斑が気落ちしとるのぉ。
・・・ザマぁみろ、なんか気分ええな。
「おい」
あ、暴君の登場じゃ。
「何よ―――って、ヒィッ!?」
「凰、さっさとクラスに戻れ。二度は言わんぞ」
「は、はいっ! 一夏ッ、また昼休みにね!!」
速ッ!?
あの感じからすると、彼女はあの先生の事知っとるんか。昔、余程恐ろしい目におうたんじゃろう。
「織斑、篠ノ之も席に着け」
「「は、はい!」」
正に鶴の一声で静まり返るクラス。
その後、予定通り授業が始まったんじゃが、篠ノ之さんが織斑先生の出席簿制裁を受けた。
なんでじゃろう? 余程、ショックだったんじゃろうか?
―――――――
授業終了後、昼休み。『トランザムッ!!』と言いそうな程のハイスピードで教室から脱出する春樹。
食堂で一人で食べる場所を確保する為だ。ノロノロやっていたら、セシリアに掴まってしまう。
セシリアに掴まれば、友好の為に一夏達と食事をする事になる。一夏はただ単にウザいだけだが、相手がセシリアでは断りづらい。
「あ?」
「え?」
春樹が一番乗りかと思われた食堂。その前に鎮座する券売機の前へ佇む少女が一人。今朝方、一組に乗り込んで来た転校生の鈴音だ。
「あんたは確か・・・」
「悪いがどいてくれんか? 早うせんと―――「待ってくれよ、清瀬!」―――・・・ハァッ~・・・マジで糞」
残念なことに春樹は一夏に追い付かれた。しかも傍らには箒と彼と同じく春樹を食事に誘おうとしたセシリア、あと何故か本音がいた。
「も~、お腹が減ってるっていっても、きよせん早すぎだよ~」
「そうですわ、春樹さん」
「さぁ、観念なさい」と春樹はセシリアから逃れられない言葉を受け取る。
この時、彼はこれを簡単に掃けることが出来た。だが、これ以上クラスの中で敵を作るのが不味いと悟った春樹は「あぁ・・・はい」と力なく返事をするのだった。
「で、いつ中国の代表候補生になったんだよ?」
「あんたこそ、ニュースで見たときはびっくりしたわよ」
「俺だって、まさかこんなところに入るとは思わなかったからな」
男女交互に坐した席順で昼食をとる一行。
そんな中で他愛もない話を進める一夏と鈴音の二人。一夏の横で箒が二人を睨んでいるが、お構いなし。
「おー、きょーてぇな。『真の英雄は眼で殺す』って言葉があるが、『乙女』の間違いじゃないんか」
「シッ。聞こえますわよ、春樹さん」
「・・・セシリー、なんか楽しんでな~い?」
「一夏・・・そろそろ、凰とどういう関係か説明してほしいのだが?」
遂に箒が業を煮やし、一夏に語り掛ける。
どうやら彼女は新たな恋のライバルが現れて気が気でないようだ。
「もしかして、一夏さんは凰さんと恋仲なのでしょうか?」
「えッ、ちょッ、セシリアさん!?」
「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ・・・!!」
「(・・・青春じゃのぉ)」
続けざまに、年相応に色恋沙汰に興味があるセシリアが質問すると鈴音は顔を真っ赤にして否定する。若干嬉しそうに。
その反応にセシリアと春樹はニヨニヨした。
「そうだぞ。何でそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」
しかし一夏にとっては、その出だしの意味がわからないようでそっけなく返す。その対応は鈴音にとっては面白くなく、ジロリと彼を睨む。
「・・・あの阿呆殴ってもいいっすか、セシリアさん?」
「ダメです。あれは一夏さんが悪いですが、ダメです」
「落ち着いて~、きよせ~ん!」
「幼馴染・・・?」
一夏の発言に同じく幼馴染枠の箒が反応を示す。見たところ、どうやら箒と鈴音はお互い初対面のようだ。
「あー・・・えっとだな。箒が引っ越していったのが小4の終わりだっただろ? 鈴が転校してきたのが小5の頭で、中国に戻ったのが中二の終わりだったから・・・会うのは一年ちょっとぐらいだな。で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通っていた剣術道場の娘」
「ふ~ん・・・あんたがそうなんだ」
鈴音は品定めするかのように箒を観察し、一瞬だけ彼女の一部分を凝視した。
これには春樹も気づいたが、彼女の名誉のために食事へ集中する事にしたのだった。
「な・・・なんだ?」
「・・・なんでもない。はじめまして、これからよろしくね。あと、鈴でいいわよ」
「ああ・・・こちらこそ。箒と呼んでくれ」
「おおッ、俺には見えるでセシリアさん。あの二人の間に見えない火花が散っているのを!」
「ええ、私にも見えます! 恋の火花が!!」
「・・・二人には何が見えてるの~?」
最初は乗り気ではなかった春樹だが、二人のやり取りにセシリア共々静かに騒いでいると、ふと鈴音が春樹の方へ視線を移す。
「ふ~ん」
「・・・あ?」
またしても品定めするかのように春樹を観察する鈴音。
一方の春樹も鈴音を見る。正確には彼女の眼を覗き込むように見る。
「噂って、当てになんないもんねぇ。皆、なんであんな事言ってたのかしら?」
「・・・因みに聞くが、どんな噂?」
「え、聞きたい?」
「・・・いや、ええわ。禄でもなさそう」
「まぁ、いいわ。さっきも言ったけど、私の事は鈴でいいわ。二人目の清瀬 春樹よね? 春樹って呼んでいい?」
「いやじゃ。じゃ、ごちそうさん」
「えッ・・・」
「あッ、おい清瀬!?」
春樹は即答し、さっさと席を後にする。
鈴音もまさか拒否されるとは思ってもみなかったようで、少々呆気に取られた。
「ちょっと、春樹さん?! すいません、凰さん。春樹さんは、初対面の方にはああいう感じなので」
「えッ、ええ・・・いいのよ別に(・・・あながち、噂通りかも)。・・・それで、えっと・・・」
「あぁ、申し遅れましたわ! 私はセシリア・オルコット。同じ代表候補生同士、セシリアとお呼びになって」
「私は布仏 本音だよ~、のほほんでいいからね~。よろしく~」
「よろしくねセシリアにのほほん。私も、鈴でいいわ」
「うん、リンリン」
「リンリン言うな!!」
「アハハハ」と巻き起こる笑い。
その笑い声を背に食器の返却口に歩を進める春樹。
「・・・ハァッ・・・なんか、また面倒事が起きそうじゃのォ・・・」
そう小さくため息を吐くと日課の射撃場へと歩んでいくのだった。
・・・・・・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。