IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第84話

 

 

 

謎の過激派組織『亡国企業(ファントム・タスク)』のIS学園襲撃から一週間後。

テロリスト二人を撃退し、事件を解決へと導いた影の英雄であろう春樹は、都内某所にある研究施設で―――――

 

「くぁ~ッ・・・」

 

―――猫のような大欠伸をしながらCTスキャンを受けていた。

 

・・・何故に彼がこの様な場に居るのか。簡単に要約すると、春樹の専用機である琥珀のメンテナンスと彼自身の健康診断の為だ。

今回の一件でまたも琥珀は大きな機体ダメージを負い、同じく春樹も身体に大ダメージを受けた。

琥珀の方は”いつもの事”と言えばいつもの事なのだが・・・問題は春樹の方である。

 

VTS事件以降、度々・殆ど・いつものように厄介事へ巻き込まれてはとんでもない大怪我を負って来た春樹。

だが、其の度に彼は常人では考えられない治癒能力でダメージから回復して来た。

そして、其の度に「身体を調べさせてくれ」との話が関係各所から舞い込んでくるではないか。

勿論、春樹はそんな話をのらりくらりと回避して来た・・・・・今までは。

 

「阿”~・・・次の検査なんじゃたっけ?」

 

春樹は何を思ったのか、今回はその要請をすんなりと受け入れたのである。

彼を良く知る人物達からすれば少しばかり不気味であり、春樹へ健康診断を勧めた内閣IS統合対策部副本部長の長谷川は、また何かしらの裏があるのではないかと変な勘繰りを巡らせる。

そんな事を知ってか知らずか、春樹は淡々と次々に検査を受けて行くのだった。

 

「阿~ぁ・・・なんか、疲れた」

 

大方の検査を終えた春樹は、次の検査が行われるまでボケーッと日向ぼっこをする。

待合室の窓から差し込む陽の明かりが、彼の琥珀色の瞳に反射し、まるで右眼から金色の炎が零れている様であった。

 

・・・しかし、いくら其の瞳が宝石のように輝けど輝けど、傍から見れば植物の様に光合成をする随分とやつれた少年が座っているばかりである。

其の少々薄気味悪い様子に周囲にいた職員達は若干引いていた。

だが、彼は朝早くから検査を受けていて御眠なのだ。しょうがあるまい。

 

実は事件後のこの一週間、春樹は一種の睡眠障害と摂食障害に悩まされていた。

上記の二つはVTS事件前に行なったラウラ指導のドイツ軍式新兵訓練においても発症したのだが、前回とは大きく違う点が一つあった。其の点とは・・・彼は現在”酒が飲めない”のである。

 

『飲めない』と言っても、彼の現在の身体年齢が未成年であるからと言う理由ではない。其れまでも平気で大酒を喰らって来た。

なれば飲めないとはどういう事か? 端的に言うと今の春樹は・・・酒を飲んでも”吐いてしまう”のである。

 

目覚めの一発とラウラから返されたスキットルを呷った瞬間。春樹はギャグマンガのワンシーンの様に中身を全部吐いてしまった。

”不味い”のだ。あれ程美味で仕方がなかった命の水(ウィスキー)が、まるでヘドロでも飲んでいるかのように不味かったのである。

 

之に彼は酷く驚き、質の悪い冗談だと思って今までスキットルを預かっていたラウラを叱り上げた。

いきなり怒鳴り散らされて戸惑うラウラを余所に春樹は自分が持ってる全ての酒を飲んだ。

けれど不味い、不味過ぎる。飲めたものではない。

 

この事が余程ショックだったのか。其れからというもの彼は小六に食事も睡眠も摂らなくなり、そのせいで急激に痩せてしまった。

検査後の結果欄には鬱病の初期症状と記入されるであろう。

 

「・・・清瀬 春樹君で間違いないかね?」

 

「・・・・・阿?」

 

そんな人生の楽しみを奪われた抜け殻のような男にある物好き・・・いや、次の検査の担当医が声をかけて来た。

 

「阿ぁ・・・・・ハンニバル・・・?」

 

「え・・・?」

 

一瞬、春樹は彼の顔があの忌々しい人喰い精神科医と被ったが、すぐに「あッ、すいません。ボーッとしとりました」と謝る。

 

「大丈夫かね? 今日はここで止めるかね?」

 

「い、いえ・・・大丈夫です。え、えーと・・・・・ッ?」

 

「ん? あぁ、自己紹介が遅れた。私は・・・そうだな、”今は”精神科医をやっている『芹沢 大助』だ。よろしく頼むよ」

 

「芹沢・・・?・・・・・あッ!」

 

「もしかして!」と声を張る彼に対し、どことなく”ある人物”に良く似た芹沢と名乗る医師は笑みを溢して頷く。

 

「あぁ。”弟”から君の話はよく聞いてるよ、我らが刃」

 

そう言って差し出した芹沢の手を「いつもお世話になっています!」と春樹はカラ元気を張り上げて握った。

 

「あの芹沢さんにお医者さんのお兄さんがいるとは・・・」

 

「はははっ、弟はあまり自分の事を話さないからな」

 

自分達の知っている共通の人物で話を弾ませながら、芹沢 大助こと芹沢医師は春樹を次の検査が行われるであろう部屋へと通す。

 

「あれ、我らが刃は?」

 

「どこ行ったんだ? もう検査も”終わった”って言うのに・・・芹沢さんになんて言おうか?」

 

・・・後から来た職員二人は首を捻っていたが。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あの・・・芹沢先生、これ何ですか?」

 

春樹を検査室へ通した芹沢医師は、早速頭へ様々な電極が付いたヘッドギアを彼にかぶせた。

 

「次の検査は、君の脳波をテストする。これはその為の装置だ。きつくはないかい?」

 

「い、いえ大丈夫です」

 

何だか拷問器具な検査機器と自分へ視線を送る多くの検査員にビビりつつも、春樹は深呼吸をして指示された席へと着く。

 

「さて、これから検査を始めるが・・・そう緊張しなくても良い。緊張緩和の為に紅茶を淹れたのだが、飲むかね? そう言えば弟から聞いたのだが、君は未成年にも関わらずアルコールを嗜むそうだね。ブランデーでも混ぜようか?」

 

「・・・・・いえ、遠慮しておきます」

 

「そうかね・・・なら、私だけ頂くとしよう」

 

機械のスイッチを入れる前に何故か芹沢医師は態々春樹の前でティーカップへ紅茶を淹れ、更にミルクを注いでティースプーンで掻き混ぜる。

カップに擦れるスプーンの音が実に小刻み良く快い。

 

「ふうむ。清瀬君、高校生活はどうかね? 楽しいかね?」

 

「・・・え?」

 

検査とは思えない問いかけに春樹は疑問符を浮かべつつも返答する。「えぇ、まぁ楽しいです」と。

 

「いや、それは嘘だ」

 

「・・・阿?」

 

そう芹沢は彼の放った言葉へ即座に否を唱えた。

その言葉に春樹は眉をひそめる。

 

「楽しむどころか、君は苦しんでいる。苦しんでいなければアルコール依存症にはならなかっただろうし、今現在を依存症の禁断症でその左手を震わせている訳がない」

 

「・・・何が言いたいんじゃ、芹沢先生ぇ?」

 

「清瀬君、君は今何が苦しい?」

 

「・・・・・」

 

芹沢の問いに怪訝な表情を晒しながら考え込んだ後、掠れる様な声で呟いた。「酒が飲めない事が苦しい」と。

 

「酒が飲めない?」

 

「あぁッ、不味いんじゃ。飲む酒飲む酒、全部が不味いんじゃ! まるで廃油でも飲んどるみたいに糞不味いんじゃ・・・ッ!! 酒が飲めんせいで手は震えたまんまじゃし、イライライライラしてしもうて周りに当たっちまう! 糞クソクソくそクソッ!!」

 

禁断症の為に震える両手で顔を覆いながらすすり泣く春樹。

其の内、「己、おのれオノレッ・・・! 全部アイツの、”アイツら”のせいじゃ!!」と白目を充血させて琥珀色の瞳を燃やした。

 

「落ち着け、清瀬君。其の味覚異常は君の脳が損傷したせいだ」

 

「脳の、損傷?」

 

「あぁ。AICだったかな? 其れが君の身体に合わず、使う度に脳へダメージが蓄積されていったようだ」

 

「・・・確かに」と春樹は今までのAIC使用時に味わった目玉が焼ける感覚を思い出し、納得してしまう。

 

「でも大丈夫。CTの結果だと回復傾向に向かっている事が解った。直に良くなる」

 

「直・・・? 直っていつじゃッ?! 明日か、明後日か、一週間後か、一年後か?!!」

 

『『『!?』』』

 

芹沢の言葉が気に入らなかったのか。突如として春樹は激昂し、彼へ掴みかかる勢いでガタンッと椅子を蹴っ飛ばして立ち上がった。

其の尋常ならざる様子に検査員達は焦るが、それを芹沢は目で制止する。

 

「俺はッ、俺ぁ今すぐにでも震えを止めたいんじゃ! 不安なのはもう嫌なんじゃ!!」

 

「・・・ならば、味覚が戻るまで別の何かで気分を紛らわせるしかないな」

 

「別の、何か?」

 

彼の言葉に春樹は疑問符を浮かべるが、未だギョロリと琥珀色の眼を燃やす。

 

「別の何かって・・・何じゃ?」

 

「さっきとは別の問いをしようか、清瀬君。君は今、何が楽しい?」

 

「楽しい? 楽しい事?」

 

「そう。君がこんな苦しい中でも、楽しめる様な事は?」

 

「・・・あー・・・」

 

彼は顔を覆っていた両掌を見つめ乍らボーッとした後―――――

 

「・・・・・阿破破ッ」

 

―――あの奇妙奇天烈な笑い声と共に口角を吊り上げた。

 

「ッ・・・!」

 

其の表情を初めて見た芹沢は静かにギョッとする。

 

「(之は此れは・・・強烈だなッ、早太に聞いていた以上だ。それにこの少年は・・・!!)」

 

「あったよ、先生。楽しいことがあったよ」

 

春樹は今までの事を思い出す。其の拳で殴り飛ばして潰して来た敵の感触を思い出しす。

そして、こう思う。「あぁ、もっと”殴りたい”」と、「もっとあの感覚が欲しい」と。

 

「ありがとうございます、芹沢先生。光明が見えましたでよ」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

「阿破破破破破ッ! そうと決まれば、話は早い!」

 

「あッ、清瀬君!?」

 

先程までの鬱屈としていた表情から一転。鳶色と琥珀色の四白眼をランランとさせて立ち上がる春樹。

それから皆が止める間もなく彼は特有の不気味な笑い声を上げながら走り去っていくのだった。

 

「あぁ、しまった! ”刷り込み”をする前に!!」

 

「構うな、構うな」

 

焦燥感を漂わせる研究員達を抑えながら、芹沢は何処か楽しそうにほくそ笑む。

 

「今日の検査で十分な成果は得た。当分の間は様子見で良いだろう」

 

「ですが、”芹沢博士”。IS支持派党からの指示はよろしいのですか?」

 

「構うものか。男性IS適正者を親IS派閥に引き込む為とはいえ、齢十五の少年を”洗脳”しようなどと言った命令など私は聞けんね。そもそも彼に接触したのは、私の理論を確実なモノへと進める為だ」

 

「・・・それで。彼はどうでしたか、博士? 貴方のお眼鏡には適いましたか?」

 

「あぁ、彼は間違いなく・・・”優性人類”だ。まさか、副業でやっていた精神科医の資格がこんな所で役立つとは思ってもみなかったよ。はっはっは!」

 

部下の問いかけに芹沢は実に満足そうに笑うが、すぐ隣にいた別の部下は顔を青くして恐々と口を開いた。

 

「し・・・し、しかし博士! 彼女達からは前金を貰っているんですよ! 裏切ればどうなるか!!」

 

「ふうむ、”裏切る”・・・か。君は何を言っているんだ?」

 

「え・・・ッ?」

 

『『『クックックッ・・・』』』

 

くつくつと笑う芹沢に他の部下たちも笑みを溢しだす。

どうやら、恐々と身を震わせる彼はこの中では新人なようだ。

 

「我々は、”表返る”だけだ。そもそも彼女達は此方側に就く為の”手土産”。カモにする相手からカモられる彼女達の顔は見られないのは残念だが、しょうがあるまいて」

 

「あの・・・それでなんですが、博士? 彼は、清瀬君は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫、結果を見たところ彼のダメージは回復へ向かっている。まぁ、依存症患者が依存先を絶たれると他の物へ依存する傾向がある。例えば、ドラッグやギャンブルにセックスだ。弟の話だと彼は二人の女性に想われているらしい。例に挙げた依存先の先二つはないとしたら・・・・・清瀬君には世界的に進む少子化の為に励んでもらおう。はっはっは!!」

 

他人事の様にカラカラ笑っているとバンッ!と乱暴に部屋の扉が開け放たれた。

何事かと視線を向ければ、其処には彼の弟である芹沢 早太が青筋を立てて立っているではないか。

 

「おぉッ! 誰かと思えば、我が果報者の弟ではないか!! お前の御蔭で私は―――

「この糞兄貴!!」バキィッ!

―――ぶげぇッ!!?」

 

『『『ちょッ、博士!?』』』

 

芹沢技師が部屋へズカズカ入って来たと思ったら、思いっ切り芹沢博士の頬を殴打する。

 

「テメェ、清瀬の野郎に何の”ヤク”を盛りやがった?!! ハイになって部屋に入って来やがったもんだから滅茶苦茶だッ!!」

 

「ッ、はっはっはっはっは! そうか、そうか。其れは悪い事をしたな、早太!!」

 

「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ、兄貴!!」

 

ケラケラ笑って転げまわる芹沢博士に芹沢技師はこれまた命一杯の蹴りをドカリ!と入れた。

 

一方その頃・・・琥珀のメンテナンスを行っている研究室では、とんでもなくハイになった春樹が患者服のまま「この辺の美味しい和菓子屋さん誰か知らんか?! 黒兎ちゃんとの仲直りに持って行くけんな!!」と喚き散らし、工業用スパナとMVS鉈を振り回していたのだった。

 

そして・・・・・この日、この瞬間、春樹の中で大きく何かが狂った事も確かであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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