「・・・はぁ・・・ッ」
生徒会室の会長席で更識 楯無は大きな溜息を一つ吐く。
其れは目の前へ大量に積まれた書類の山に辟易しているのもあったが、その他にも悩みの種が大きく二つあった。
一つ目は、最近自身が個人的に稽古をつけている『織斑 一夏』の事だ。
彼は世界初の男性IS適正者でありながら、世界最強の”
加えて、世界でも指折りのIS関連会社の一つである倉持技研から第三世代型のIS『白式』を専用機として与えられている。
以下の経歴と甘いルックスに高い家事スキルで、彼は学園内では王子様的な立ち位置で皆から慕われ親しまれている。
しかし、正直に言うと・・・彼はあまり優秀とは言えなかった。
幼い頃に剣道を嗜んでいたという事もあり、潜在的な能力はかなり高いと思われるのだが、「俺が皆を守ってやる!」と云う本人の正義感と十代にありがちな感情論で周りを振り回している節がある。
其の性格の御蔭で、VTS事件では暴走したIS機体に単独で立ち向かおうとした他、銀の福音事件では福音撃墜の数少ないチャンスを目前にミッションエリア内にいた密漁船の救助を優先してしまい、逆に撃墜されてしまうという失態を犯してしまった。
以下の事を鑑み、楯無は彼を鍛える為に稽古を打診。
最初はこの申し出に渋っていた一夏だったが、もう一つの”悩みの種”の御蔭で彼は楯無に師事するようになった。・・・なったのだが、稽古の成果はあまり順調とは言えない。
其れは時たま楯無が自身自慢のプロポーションで彼の純情をからかう事もあったが、一夏は『女性に手を上げない』と言うフェミニストであった為、稽古にあまり身が入らない。
・・・・・まぁ、一夏の事に関しては目をつぶれる箇所がある。問題はもう一つの悩みの種の方だ。
「も~っ本当になんなの、あの男ッ」
学園の長にしてロシア代表の楯無を酷く悩ませるのは、世界で二番目に発見された男性IS適正者である『清瀬 春樹』だ。
彼は言わずと知れたIS学園の問題児で、ドイツの秘術である
先に言った春樹の問題児たる所以は、一夏との確執が大きい。
加えて彼は学園の妖精と名高いドイツ代表候補性ラウラ・ボーデヴィッヒに対して学園の風紀を乱す破廉恥行為を人目もはばからず行っている。
しかも現在の春樹は生徒会に所属しており、彼ばかりか生徒会まで風評被害が及んでいた。
また彼独特の「阿破破破ッ!」という笑い声も評判の低迷に拍車をかけている。
元々春樹を半強制的に生徒会へ入会させた手前、楯無はそんな彼の悪行を止めんと様々な手を考えた。
時に飴を、時に鞭で春樹に迫る楯無。しかし、心を病んで依怙地になってしまっていた彼には成す術がない。
春樹が隠れて飲酒していた事や自慢の抜群プロポーションで彼に迫った事もあったが、「阿”ぁッ? じゃけん、何じゃあな」「破ッ、引っ込んどけメスガキ風情が」と取り合ってもくれなかった。
「も~! 本当に、本当に・・・何なのよ~~~!!」
「大丈夫ですか、会長?」
唸りを上げて机に突っ伏す彼女に虚が淹れたての紅茶を出す。
「うぇ~ん。清瀬君が虐めるよぉ、虚ちゃーん!」
「自業自得です」
「辛辣過ぎない!?」
嘘泣きをしながら紅茶を飲む楯無に虚が訝し気にこう言った。「・・・会長、もう彼にちょっかいを出すのは止したらどうです?」と。
之に彼女は「う~ん」と再び唸った後に「・・・それは出来ないわね」と呟いた。
「どうしてですか?」
「虚ちゃん。私は清瀬君に「あなたを守る」と面と向かっていったのよ」
「・・・・・」
「それで酷く彼を怒らせてしまったけど・・・更識家”当主”として自分の言った事は守りたいのよ。・・・わかってくれる?」
「えぇ、勿論です。・・・なので」
「・・・え?」
そう言いながら虚は制服の内ポケットから一つの封筒を彼女に差し出す。
其れを口端を引きつかせながら受け取ると楯無は封を切り、中身を見た後で「さて・・・もう本当にどうしようかしらッ?」とこれまた大きな溜息を吐くのだった。
封筒の中身にはつらつらと並べられた文章とある診断書が入っていたのだが・・・まぁ、要約するとこう書かれていた。『清瀬 春樹は今回のキャノンボール・ファストの参加を辞する』と。
◆◆◆
「・・・・・」
世界中各地に点在する
「入るわよ、M―――って・・・貴女また見てるの、”彼”を?」
そんなディスプレイと睨めっこをしている彼女の部屋に入って来たのは、組織の幹部でMの上司でもあるスコールだ。
「貴女が織斑 千冬以外の他人に興味を持つなんて・・・いや、それもそうね。彼のせいでオータムはあんな大怪我を負ったし、貴女は彼の件を引き摺ってこの前のアメリカでの任務も―――――・・・おっと」
何かを言いかけた所で、ギロリと彼女にMの「・・・黙れッ!」と視線が突き刺さる。
「貴女が彼女以外の人間に興味を持つことは私としても嬉しいけど・・・程々にしなさい。今度の任務は―――――」
「解っているッ・・・もういいから出て行け!」
思春期真っ盛りの娘を持った母親ように「ヤレヤレ」と両肩を浮かせたスコールは「早く寝なさいよ」と言って部屋から退出する。
「・・・・・ギデオン・・・貴様だけは私が・・・・・ッ!」
一人部屋に残されたMはディスプレイへ映った無機質な鉄仮面を被った人物を再び穴が開くような勢いで睨み付けた。傍から見れば、良くも悪くもまるで恋をしている乙女の様である。
「・・・危険ね」
そんなMの様子を危惧してか。スコールは策を張り巡らせた・・・其の時だった。
Prrrrr
「・・・えッ?」
普段なら鳴らない・・・いや、鳴ってはいけない筈の仕事用携帯が鳴り響く。しかも相手先不明の通信だ。
スコールはそんな電話に勿論警戒し、一旦は切ろうとしたのだが―――――
≪・・・切ろうとすんなよな≫
「な!?」
ハッキングされたのか、彼女の携帯は勝手に通話設定に移行されてしまったのである。
唖然とするスコールを余所に電話の向こう側から何とも弾んだ声が聞こえて来るではないか。
≪やっほーッ! ハロハロ~、なんとかタスクの誰かさん!!≫
「・・・ッ!」
其の一本の電話によって、学園側や企業側も巻き込んだ嵐が巻き起こる事をこの時誰も予想だにしていなかった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆