「るーらるらるー♪ あ、るーらるらるー♪」
ズダァ―――ン!
放課後、学園内の射撃場に響き渡る銃声と春樹の上機嫌な歌声。
そんな彼の左手には『M1873』通称ウィンチェスターライフルが握られ、右手には紙パックの野菜ジュース・・・に偽装した梅酒パック。足元には、やはりジュースに偽装された空の酒紙パックが転がる。
ズダァ―――ン!
「破ッ破―――ッ! 流石は清瀬選手、十八回目のジャックポッド! 俺はIS学園のエージェント・ウヰスキー・・・いや、金カムの土方 歳三か?・・・まぁ、どっちでもええか!!」
「阿ッ破ッ破ッ破ッ!」と彼は意気揚々とレバーアクションを映画のワンシーンのようにスピンコックした。
どうして、いつも不機嫌そうな彼がここまで上機嫌なのか。その理由は午後の授業に遡る。
午後の授業。それは学生にとっては教師から繰り出される睡眠呪文攻撃に他ならない。
しかし、幸いなことにこの日の午後を担当したのは山田教諭。千冬とは違い、ピリついた雰囲気で授業を受けなくていいとばかりに大半の生徒達は睡魔に完敗した。
この状況下に最初は涙目になりそうだった山田教諭。
だが、そんな折れそうな彼女を支えたのが春樹だった。彼はクラスメイトが睡魔に倒れる中、確りと彼女の授業を聞き、不明な点には質問をかえす等した。
教師としての自信が揺らいでいた山田教諭は、そんな真面目な春樹の姿に感銘し、授業後、彼を褒めた。
春樹としては不安に歪む山田教諭の表情を楽しんでいただけだったのだが、『褒められる』行為に喜んだ。
「フフ~ッン♪ 褒められた~! 嬉しいなったら、嬉しいな~!」
すごく単純だが、いつも周りから陰口ばかり言われている彼にとっては、山田教諭からの言葉は素直に嬉しかったのだ。
そんな午後の出来事を肴にほろ酔い気分の春樹は、ライフルに45口径の弾頭を装填する。
「なんだか上機嫌だな、清瀬」
「ん?・・・ッチ」
後ろからの投げかけられた言葉に笑顔で振り向く春樹。だが、一瞬にして彼の口角はダダ下がりになってしまった。
彼に呼び掛けたのは、一年生の生徒がしているリボンと色が違うものをしている金髪で豊満な胸と高身長なスタイルのいい上級生だ。
「・・・なんだ、ケーシーパイセンっすか」
「『ケイシー』だ、それに先輩に向かってなんだとはなんだ」
彼女の名は『ダリル・ケイシー』。
IS学園3年の生徒で、アメリカ代表候補生の専用機持ちだ。 春樹とは射撃場で顔を合わせる機会が頻繁にあり、政治関連事情からか彼女の方から彼に声をかけていた。
「いんえ・・・それで、今度は何すか? ISの模擬試合なら、何度も断ってるんすけど」
「いや、たまたま見かけたんでな」
「『たまたま』ねぇ・・・信用なんね」
ダリルに対して白けた眼を向けた後、再びライフルを目標に向けて構える春樹。
「ちょっと待て、清瀬。まだオレの事は信用できないか?」
「ッケ。一回か二回、それも殆ど無理矢理俺の射撃練習を手伝った人が何言ってんすか。恩着せがましいにも程があるってやつでさぁ」
「それは―――「あと、それにその恰好。どうにかならねぇんすか?」―――は?」
春樹の言ったのは、ダリルの服装についてだ。
彼女着ている制服はスカートが短く、下着が露出する程までにスリットが深く入ってる。しかも黒のガーターベルトを着用している始末。
「なんか映画とかに出る高級情婦みてぇな恰好っすよ。それじゃあ「私、ハニトラでぇーす」って、言ってるもんですぜ」
「別にいいだろ、この格好の事は―――「それにダメでしょ、こんな事しちゃあ」―――何がだ?!」
「恋人がいるのに、こんなとこで男引っ掻けてる事ですよ」
「ッ!? な、なんの話だよ・・・」
「えッ・・・」
春樹の言葉に少し動揺するダリル。しかし、そんなダリルの様子に何故か春樹が戸惑い、彼女の方へ振り向いた。
「・・・すんませぇん、ケイシー先輩。もしかして、隠してたんすか? あれで?」
「だから、なんのはな―――「サファイア先輩との事っすよ」―――・・・」
春樹の言葉に今度は無言になるダリル。
春樹の言った『サファイア先輩』とは、二年生でギリシャ代表候補生の『フォルテ・サファイア』の事だ。
彼女もまた、政治関連から春樹に接触していた人物の一人だ。
「・・・いつからだ?」
「・・・二人で俺に声をかけた時ぐらいからかなぁ」
「最初じゃねぇか!!」
「いやッ、アレに気づかねぇって方が無理ありますよ! 俺はあの馬夏とは違いますからね!! 海馬コーポレーションの略称名みたいな名字して、バレてないとでも思ってたんすか?!!
春樹は気づいていた。二人との初対面時からその後でも、ダリルがフォルテに情愛の瞳で接していた事を。
「はぁーん。まぁ、そうじゃろうな。ここ殆ど女子高だじゃし、百合ップルいても不思議じゃねぇもんな」的な感覚でいた春樹にはダリルの反応は衝撃だった。
「まさか・・・オレたちの秘密がこんな簡単に・・・ッ」
「いやいや、みんな気づいてると思いますよ。つーか・・・バレてないと思ってたのってケイシー先輩だけなんじゃあ・・・」
「な、なんでだよッ!?」
「えと、たまーに・・・サファイア先輩がケイシー先輩に愛でる感じの視線送ってたんで・・・・・はい」
「~~~~~ッ!!?」
身悶えるダリルに「しまった」と春樹はライフルと足元の酒パックを片付け始める。
そして、そのままそそくさと射撃場を後にするのだった。
―――――――
「おー危ねぇ、危ねぇ。まさか、射撃場で百合ップルの惚気を聞くとは思わんかった。真実はラノベよりも奇なりじゃのぉ」
ホントあのまんま射撃場におったら、えらいめにあっとるわ。
さて・・・酒の空も片付けたし、部屋に帰ってレンタル映画でも見るか。最近テレビが面白ぉねぇしな。
何見ようかのぉ・・・ジブリでも見ようかのォ?
・・・ん?
「うっ、うっ・・・!」
「鈴さん、泣かないでくださいまし」
・・・前方十m先、泣いている女子と介抱する女子を発見。二人とも俺の知り合いの率、実に高し!
俺B:意見具申、即時離脱を進言!
俺A:採用ッ!!
全俺:逃ィイげるんじゃァアアッ!!
ジャキッ
『・・・どこに行きますの、春樹さん?』
「おっふ・・・」
この場から離脱しようとした瞬間、背後に突きつけられる銃口。ブルーティアーズのライフルビットじゃ。
『ついてきてくれます・・・よね?』
「よ・・・よろこんでー」
き、気づかれていた・・・じゃとッ!?
あ・・・俺、この展開知っとる。もうこのまま有無も言わされずに連れて行かれる感じじゃ。
あぁッ・・・もうちょっと射撃場におりゃあ、えかったんかのぉ?
―――
「「お邪魔します」」
「・・・なしてッ!!?」
あの、セシリアさん? ここ俺の部屋なんじゃけど。
「へぇ~、意外と綺麗にしてるじゃない」とちゃうんじゃよ、凰さんや。
ここ俺の部屋なんじゃけど!! 聞いとるか、お二人さん!!?
「さて・・・鈴さん、どうして廊下で泣いていたのか説明して頂けます?」
あ・・・もう、ええわ。このまま凰さんの話聞く感じじゃわ。
阿破破破・・・・・はぁ~、茶でも淹れてやるか。
「実は・・・さ、その・・・一夏が約束のことを覚えてなかったのよ」
「・・・約束、というのは?」
「ありゃ。二人とも玄米茶の葉っぱしかないんじゃけど、ええか?」
「「いいですわ/いいわよ」」
薬缶で湯を沸かしながら、凰さんの話を聞く俺とセシリアさん。
話によると放課後に織斑の野郎と篠ノ之さんが使っていたアリーナへ割り込んだ凰さん。彼女はその後、織斑に近づき、野郎が篠ノ之さんと同室だと言う事を知って、二人の部屋に突撃したそうじゃ。
・・・アグレッシブじゃのぉ。じゃが寮監は織斑先生じゃけん、部屋割り変更を直談判するには勇気がいるぞ。
「それで約束のことを言ったら、一夏さんは約束を覚えていらっしゃらなかった・・・と、いう訳ですわね」
「えぇ・・・そういう事」
「ほ~ん・・・因みにじゃけど、凰さんや。その約束って、どういう内容なんじゃ? あと、お茶な」
「ありがとう。え、えと・・・笑わない?」
「笑いませんわ。ねぇ、春樹さん?」
「お・・・おう」
圧ッ、圧が尋常じゃないぜセシリアさん! 後に『ドドド』って見えるんじゃ!!
「・・・りょ、『料理が上達したら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』って・・・」
「・・・はぁ~ん、なるほどのぉ」
「・・・? どういう意味ですの?」
セシリアさんは、凰さんの言葉の意味が分からんと疑問符じゃ。
じゃけど、俺にゃあ分かったで凰さん。
「あぁ、セシリアさん。日本にはな、『Will you marry me?』と同じような『あなたの為に毎日、味噌汁を作ってあげる』って言うプロポーズの言葉があるんじゃ」
「『毎日、味噌汁を作ってあげる』・・・あぁッ! 鈴さんの『料理が上達したら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる』というのは―――――」
「そうよッ、そういう意味!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ凰さん。
どーどー、落ち着け。お茶が零れるでよ。
「あー・・・じゃけど、凰さん。それって、あの野郎がちゃんと意味理解してると思うんか?」
「え・・・ど、どういう意味よ?」
「いや、織斑と出会って数か月の俺が言うのもなんじゃが・・・だって、アレじゃで」
「ええ・・・あれですわね」
セシリアさんも同意してくれた。
そうだ。織斑の野郎は、有り得ん程の阿呆で鈍感だ。いくらあの名言を引用した言葉を吐こうが、あのダメバナが理解する頭を持っていない限りは無駄無駄無駄ァッ!
「・・・そうだった・・・ホント、私って・・・」
「あぁッ、鈴さん!?」
また泣き始める凰さん。
容姿も可愛い方で、泣いている様子も俺のストライクゾーンに入るぐらいにゾクリとさせてくれる。
こねぇな、ええ子を泣かせるなんて・・・ホント、マジでアイツの顔面にヘッドバッド決めてやりたい。
「う~ん、どうすればよろしいんでしょう。春樹さん?」
「・・・えッ、俺!?」
「他に誰が?」
キョトン顔で聞かれても困るんじゃが、セシリアさん・・・。
俺の恋愛経験は・・・絶対に役立たん。前の世界じゃあ、中学の時にキザな告り方して虐められたし、短大の時は玉砕したし・・・。箸にも棒にも掛からぬぜ?
「あ~と・・・そうじゃのぉ・・・まぁ、もうアレしかなかろう」
「アレ?」
「春樹さん・・・アレとはまさか!」
「あぁ・・・you、もう素直に好きって言っちゃいなよ」
「え・・・えぇええッ!?」
顔真っ赤にして慌てふためく凰さん。
だって、もうそれしかないじゃん。朴念仁に遠回しな事言ったて、ノーダメじゃん。
「む・・・無理無理無理ッ!」
「じゃけどさぁ」
「だ、大体ッ、一夏がアタシの言った事理解できてない事がダメなんじゃない! それなのにどーしてアタシがッ!!」
おぅッ、ツンデレメンドクせー!
お帰り頂こうか!!
「あ・・・ちょっと待てよ・・・」
「どうしたんですの、春樹さん?」
良い考えが浮かんだじゃが・・・・・七割がたの確率で失敗するな。
じゃが、やらんよりはマシ・・・か?
「なぁ、凰さん」
「ぐスッ・・・何よ・・・ッ?」
「君ッ、覚悟・・・できてる人?」
「へ?」
しゃーねぇのぉ・・・迷える乙女の為にお兄さん、人肌脱いじゃおうかね。
・・・・・・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。