・・・俺ぁ、最近よー思い出す事がある。
其れは”三年前”の”あの日”の事じゃ。
三年前・・・あの日の俺はまだ中学に入ったばっかの”此方の世界”の俺じゃのうて、”前の世界”で地元企業に勤しむ社会人三年目の青二才。
目指しとった公務員にはなれんかったけど、慣れればまぁまぁ充実しとった日々じゃった。
・・・じゃけど、あの日・・・俺はいつもの様に十一時間勤務を終えて、母ちゃんがパート勤めをしょーるドラッグストアで酒を買うた。
もう殆ど覚えとりゃせんが、其の酒は新発売らしい変わった銘柄のウィスキーじゃった。
勿論、俺は其のウィスキーを買うて、家に帰って其れを飲んだ。
酒を飲んだんはエエんじゃけど・・・問題は其の酒に”呑まれて”しもうた事じゃ。
御蔭で俺は、このよー解らん世界にトリップしてしもうたという訳。ホント訳解らん。
そー言やぁ・・・あの頃は”異世界転生”やら”異世界転移”やら”異世界召喚”やらの作品が、よーメディアミックスされとったのぉ。
其れを思えば、これも一種の異世界転移?か、憑依?ものなんかな?
まぁ・・・異世界言うても『”異”なる』世界じゃのーて、『”異”常な』世界じゃけどな。
・・・俺は此れを思い出して、ある事をよー仮定する。
其れは、『あの日、あの時、あの酒を飲まなかったら?』と言うIfストーリーじゃ。
あの日を休肝日にしていれば、酒を飲まんかったら・・・たられば理論で考察し、退屈だけど平穏無事な生活が続いて行った人生を目を瞑って妄想する。
・・・じゃけど、結局は妄想じゃ。
目を開ければ、酷く嫌な事実が此れでもかと現実を突き指してくる。まるで心臓を抉る様に。
出来る事なら、この現実から逃げたい。
じゃけど・・・じゃけどじゃけど・・・じゃけどじゃけどじゃけど! 誰も彼も俺を逃がしてはくれん!!
あぁ、いっその事狂う事が出来たら・・・どれ程までに楽じゃろうか。
其れでも狂う事が出来んのならば、せめて・・・せめて酒が飲みたい。
あぁ・・・恋しや恋し、いと恋しい。
バーボン、焼酎、スコッチ、泡盛、ウィスキー、テキーラ、電気ブラン、老酒、日本酒、白酒、酎ハイ・・・酒の種類を上げればキリがないこの浮世で酒が飲めんとは・・・拷問以外のなにもんでもないでよ。
酒が呑めんのに、アル中なんが余計に苦しいわぁ。
あぁッ、糞! また吐き気と手が震えて来るわなッ! 薬飲まんとやっとられんわ!!
・・・・・ホント、生殺しとはこの事じゃ。ゾンビの様な気分じゃで、まったく!
あぁ、酒が飲みたい。
酒飲みで有名な李白の様に湖面へ映った月を取ろうとして溺死するんは勘弁じゃけど・・・あぁ、酒が飲みたい。浴びる様に飲みたい。と言うか、酒に浸かりたい。酒で満たされた25mプールを自由形で泳ぎまくりたい、ダイブしたい。
あぁッ、酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒酒・・・酒が呑みたい、飲みまくりたい!!!
「・・・・・せくん・・・よせ君・・・清瀬君ッ?」
「・・・阿ッ・・・あぁ、はい」
高良さんが「大丈夫かい?」と目の下に刻まれた酷いクマとこけた頬の俺の顔を心配そうにのぞき込んで来る。
俺は其れにいつものカラ元気で「はい、大丈夫です!」と答え、「なら、良かった」と高良さんが答える・・・筈じゃった。いつものようにならな。
「・・・本当に? 本当に大丈夫なのかい?」
「えッ・・・・・えぇ、まぁ・・・大丈夫ですけど」
此の所、酷いイベントに巻き込まれ過ぎて、傍から見ても俺は心身共にボロボロらしい。
・・・ホント俺って、そねーに顔色悪いんか?
「調子が悪いのなら、僕から長谷川先生に託けて置くけれど?」
「いやいやいや大丈夫じゃっちゃ、高良さん。実を言うと今日は朝から調子がエエんですよ。ホント、キャノボに出んのが残念なくらいにイキイキしとるんですよ!」
「・・・・・本当に大丈夫なのかい?」
「俺ぁ、ホントにホントのホントに元気ですよ!! 心配性じゃなぁ、高良さんは!」
カラ元気でこの状況を乗り越えようとする俺を高良さんは相変わらず訝し気な表情で覗き込んで来る。
俺の事を心配してくれんのは、ありがたいけど・・・この人、偶に子猫ちゃんみたいな目で見てくるけん、扱いにくいでよ。
其れに今日は折角の―――――
◆◆◆◆◆
ポンッ、ポポンッ
雲一つない蒼空の天に花火が何発も打ち上げられる。
そう。今日は待ちに待ったキャノンボール・ファストの開催当日だ。
プログラムとしては、一年生の訓練機組のレースに始まり、一年生の専用機持ちのレースへ。其れから次に二年生のレースで、最後は三年生によるエキシビション・レースで締める内容だ。
「絶好の試合日和だな!」
「本当にそうだね」
大会参加者の控室では、優勝候補の一人でもあるラウラはこの晴天に大きく頷き、其れに隣にいるシャルロットが同意する。
お互いレースで競い合う仲だが、二人は仲良さそうに機体の最終メンテナンスチェックを行っていた。
「でも、あれだよね」
「ん? 何がだ?」
「春樹の事。レースに出られない事は残念だけど、あんな体調じゃあしょうがないよね」
「そうだな。しかし、春樹も徐々に回復へ向かっている。その証拠にこれだ」
そう言ってラウラはシャルロットにISスーツの首元を捲って見せる。すると其処には、赤い小さな花が白い絹肌へぽつぽつと咲いているではないか。
「今日は試合だというのに・・・昨夜は中々離してくれなかったな」と何処か照れ臭そうに笑みを溢す彼女へ、シャルロットは「・・・むぅ・・・」と頬を膨らませる。
「へ・・・へぇ、そうなんだ。た、確かにそうだよね。春樹ってば、今朝なんかボクの手首に噛みついて来たんだよッ。こっちは試合の準備で忙しいのに・・・ホント困ちゃったよ」
対するシャルロットも負けじと手首を見せるが、其処にはラウラと違って生々しい噛み跡がポツポツと点在している。
そうして二人は互いに互いの名誉の勲章?を自慢し合っては、火花を散らしていたのだが・・・・・
「「(・・・・・いいなぁ)」」
シャルロットはラウラの肌に付けられた春樹の優しいキスマークを羨み。一方のラウラはシャルロットの肌に付けられた情熱的なパイクマークを羨んだ。
彼女達と同じ控室を使っている練習機組達としては、「・・・惚気なら余所でやってちょうだいよ」や「なんであんなオマケ男がモテてんのよ」などと言った呟きが木霊するが、其れは同じく専用機持ち達の中にもいる。
「このキャノンボール・ファストで優勝すれば・・・私も一夏にき、キッスを・・・ッ」
「う・・・羨ましいなんて、思ってないんだからね!・・・・・で、でも・・・ッ」
ポニテとツインテの乙女は想い人との口づけを想像し、二人は顔を真っ赤に息を切らし始めていた。
「はいはい、皆さん其処までですわよ!」
「そろそろ・・・スタンバイしないと。・・・織斑先生に怒られるよ?」
『『『!』』』
そんな混沌とし始めた控室にセシリアの活発的な声と恐る恐るとした的確な簪の声が響き渡る。
其の声に気を取り戻した皆はせっせと機体チェックを終わらせようと手を動かしていった。
「そう言えば・・・春樹はボク達の事を見てくれるかな?」
「勿論、観戦するだろう。あいつは面倒臭がっていても、ちゃんと見ていてくれるからな。其れにシャルロット、今日はお前の父親が大会を見に来ると春樹が言っていたぞ」
「えッ!? そんな事、ボク聞いてないんだけど!! と言うか、なんでラウラがそんな事を知っているのかな?!!」
「あッ・・・これは確か秘密だったな。忘れろ、シャルロット」
「無理だよ!!」
大会開始のアナウンスが流れるまで、相変わらず控室は緊張感のあるわちゃわちゃした雰囲気が流れるのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆