IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第92話

 

 

 

織斑 一夏は考える。

其れは、自分と同じ男性IS適正者である清瀬 春樹についてだ。

 

同じ境遇下に置かれながらも二人は光と影にくっきりと分かれていた。

一人は皆から賞賛絶賛の雨あられを浴び、一人は皆から侮蔑と軽蔑の視線を突き刺されていた。

勿論前者は一夏で、後者は春樹だ。

しかし、一見勝ち犬である筈の一夏は負け犬と揶揄される春樹へ大きな大きなコンプレックスを持っていた。

 

清瀬 春樹と言う男は粗暴で乱暴者、しかも郷里の言葉は酷く乱雑でべらんめぇ口調。

だから品行方正を謳っているIS学園生徒の多くから彼は敬遠されていた。

されど此の男、持っているIS技術は一級品。『ゴーレム事件』では最新鋭の第三世代型ISが手こずる様な機体を旧型第二世代訓練機でスクラップにし、『VTS事件』では暴走状態と云えども、複数の第三世代型IS機を軽々と無力化してしまう始末。

以下の事件が切っ掛けで与えられた専用機を纏ってからは向かう所に敵はなし。

身に降りかかる火の粉が飛んで来るものなら、其の元凶をメッタメタのボッコボコにする有様。

・・・斯く言う一夏も春樹にそんなズタボロにされた一人である。

二人の確執の始まりは話せば長くなるが、一夏が春樹に対して劣等感を抱き出したのはここ最近の事。

其れはIS学園生徒会長である更識 楯無を審判とした模擬試合を行ってからだ。

 

試合の直前、春樹に煽られて一夏は頭へ血が上っていた。けれど、彼なりの冷静な心境で試合に臨んでいた。

先のVTS事件では辛酸を舐めたが、今度はそうはいかないと強い思いがあった。

・・・だが、結果は悲惨なモノであった。

『福音事件』でセカンド・シフト(二次形態移行)し、強化された筈の白式を纏っていた一夏は、まるで赤子の手を捻るかのように春樹に蹂躙されてしまったのである。

もしこの時、楯無が二人の間に割って入らなければ、一夏は福音事件以上の外傷を受けたであろう。

確かに楯無が途中介入したことで、一夏は酷い怪我を負わずに済んだ。けれども、其の心はどうだろうか。

卑劣で卑怯者と軽蔑していた春樹を真正面から叩き潰す筈が、逆に叩き潰されてしまった。

 

「自分の方がヤツよりも早く専用機を渡されたのに・・・自分の専用機が二次形態移行で強くなった筈なのに・・・・・何故、あんな人を人とも思っていない人間に勝つ事が出来ないんだ?」と、一夏は四六時中考える様になった。

其れは食事中でも、入浴中でも、楯無との修行中でもふと考えずにはいられない事柄になった。

・・・だから今日の良き日に寝坊で遅刻したのも回り回って言えば、春樹が悪いのである。

 

「遅いぞッ! 何をやっているんだ、一夏!!」

 

「わ・・・悪い・・・」

 

レース開始直前、急いで控室へと飛んで来た一夏はぷりぷり怒りを露わにする箒へ申し訳なさそうに謝る。

 

「まぁまぁ箒さん。一夏さんが中々来なくて心配していたのも解りますが、そんなに声を荒らげないでくださいまし」

 

「べ、別に私は一夏の心配など!!」

 

「はいはい、解っていますわ。春樹さんの台詞を借りるならば、「ツンデレ乙」と言ったところでしょうか?」

 

「ッ!」

 

セシリアの軽口に「別に私はツンデレではない!!」とムキになる箒。しかしこの時、セシリアの口から出た名前に一夏はピクリと反応する。

 

「ん? どうしたの、一夏? あんた顔が怖いわよ」

 

「・・・別に何でもねぇよ」

 

彼の名を聞いただけで自然と目つきが鋭くなった事を悟られまいと一夏は不愛想にそう振る舞う。

そう言う彼に鈴は疑問符を浮かべながら「・・・あっそ、なら別にいいわ」と言葉を切った。

 

「やれやれ・・・やっと来たか、愚弟」

 

そんな彼らの背後から大きな溜息を吐いて現れ出でたるは世界最強と名高いブリュンヒルデ。

其の彼女に一夏は「あッ、千冬姉!」と声をかけ、「織斑先生と呼べ」と出席簿の粛清をスパァーッンと受ける。

 

「しかし・・・遅刻した事は兎も角、二人の内の一人だけでも出場する事には申し分ないな」

 

「え・・・それってどういう事だよ、千冬ね・・・織斑先生?」

 

千冬の言葉に疑問を持った一夏が声を上げると彼女の代わりに箒が答えを返す。「アイツは・・・清瀬はレースには出ない」と。

 

「・・・・・えッ・・・?」

 

「まったくヤツめ。怪我からはもう回復したというのに体調不良で棄権するとは軟弱な男め!」

 

「そう仰らないで箒さん。春樹さんだって本当は出たかった筈ですわ」

 

常日頃から多くの学園生徒と同じように春樹を毛嫌いしている箒は「ヤツは逃げた」だの「臆病風に吹かれた」だのと非難する。

其れを彼を良く知るセシリアは物腰柔らかにされどキッパリと否定し、フォローを入れた。

 

「・・・・・」

 

其の二人を余所に一夏は一人黙りこくった。そんな彼の姿に鈴は「一夏・・・?」と恐る恐る声をかける。

何故に恐る恐るなのか。其れは彼の表情が今まで見た事もないくらいに険しくなっていたからだ。

 

《レース出場者は、スタートラインまでお願いします》

 

「ふむ、出番だ。ボーデヴィッヒ達はもう先に行っているぞ。力の限りを尽くして来い!!」

 

『『『はい!!』』』

「・・・はい」

 

千冬の激励に声を上げる三人に対し、何処かモヤモヤした面持ちでスタートラインへと一夏は赴くのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

《それでは・・・皆さん、お待たせいたしました。続きまして、一年生専用機部門のレースを開催致します!》

 

舞台となっているアリーナ会場へ大きなハウリングをする事もなく無事に響き渡る山田教諭のアナウンス。

其の号令を聞くや否や一夏を含めた七人の専用機持ち達がスラスターへ火を入れ、高機動用のハイパーセンサー・バイザーをスッと下げる。

そして、揃いも揃った皆の前へあるシグナルランプが三…二…一…のカウントダウンと共に点滅し出し―――――

 

《GO!!》

 

「スタートダッシュは貰いましてよッ!」

 

カウント零の合図と共に真っ先に飛び出したのは、高機動操縦の腕に多少なりとも腕のあるセシリアだ。

彼女はあっという間に第一コーナーを過ぎ去ると、一気にトップへ躍り出る。

 

「逃がさないわ、セシリア!! 先に行ってるわよ、一夏ッ!」

 

「お、おう!」

 

そうはさせまいと一夏と並走していた鈴がグーンッと加速し、彼女へ勝負を仕掛けに行く。

そして、展開した衝撃砲でセシリアへと狙いを澄ませる鈴だったが―――――

 

「させるとお思いでしてッ?」

 

「えッ!?」

 

―――そんな彼女に向けてライフルビットの咆哮がズギャァーン!と唸りを上げる。

此れを何とか寸での所で躱す鈴。其の反動で発射された衝撃砲の不可視の弾丸がレース場の地面を巻き上げた。

 

「ふふん、どんなもんですか!」

 

「フッ・・・油断とは頂けんな、セシリア」

 

「!?」

 

声と共に鈴の背後からスリップストリームで現れた黒い機体のラウラにセシリアは驚嘆しつつも彼女はライフルビットの銃口を向ける。

 

ズダンッ、ダン! バキィッ!!

「きゃああッ!!」

「うわッ、ちょっ―――――ッ、きゃぁああ!!?」

 

「あッ、危ねぇ!!?」

「おっと!!」

 

しかし、幾何かラウラのリボルバー・カノンの方が速かった。

ビットは実弾によって撃ち落とされ、更には回し蹴りが加えられた事でセシリアは後ろへ付いて飛んでいた鈴に激突。コースラインを大きく外れてアリーナの外壁へと激突してしまう。

 

「邪魔よ、セシリア! さっさと退いて!!」

 

「それはこっちの台詞でしてよ、鈴さん!!」

 

「あ・・・危なかったッ。もう少しで俺達も巻き込まれるところだったぜ」

 

「余所見をするな、一夏! 早く先頭集団に追いつくぞ!!」

 

めり込んだ壁で激しく言い合う二人を尻目に一夏と箒はトップ集団目掛けてスラスターの発破をかけるのだが―――――

 

「・・・お先に」

 

「それじゃあまたね、お二人さん」

 

―――其のすぐ隣を瞬時加速の猛スピードでオレンジと水色の二機が通り過ぎていく。

「あッ!? 待て、この!!」と喚く箒と共に「なら、俺も!!」と一夏も先頭集団へと喰らい付いていく。

 

 

 

 

 

 

「よしッ、良いぞ! 其処だシャルロット!!」

 

VIP観客席で、アルベールは目の前で繰り広げられるレース展開に熱狂していた。

其の勢いは凄まじく、椅子から立ち上がって叫び倒している始末。

そんな夫を恥ずかしそうにロゼンダは「ちょっと、あなた・・・!」と嗜める。

 

「少しは落ち、着いたら・・・どうです、社長・・・?」

 

「ハァ、ハァ・・・いや、すまない。年甲斐もなく興奮してしまってね。そういう君は随分と静かなのだね、Mr.清瀬? それに何だか喋り方が・・・」

 

「えッ・・・ぇえ、実を言うと俺も・・・大変興奮しているのです。其れで、この・・・喋、り方なんです。でも、俺だけがはしゃぐのも悪いと思って・・・」

 

「なら一緒に応援しようではないか!・・・あぁ、でも君はドイツのボーデヴィッヒ代表と・・・その・・・・・」

 

「ご、存じ、だと思いますが。其の、ドイツ代表候補性と・・・貴方、の愛娘さんは、ご親友なんですよ。一応、娘さんに許可も貰っとります。あぁ、でも・・・日本代、表候補生の俺が他国の候補生を応援してもエエ、んでしょうか?」

 

春樹はデュノア夫妻の隣に鎮座する長谷川に恐る恐る確認すると、彼は「あぁ、勿論だとも」と首を縦に振る。

其れならばとアルベールは春樹の肩を抱いて応援の声を上げた。

 

しかしこの時、春樹は周囲にバレない様にしていたのだが、先程飲んだ薬の飲み合わせが悪かったのか、彼はひきつけを起こしていた。

其の為、春樹は首と喉の筋肉が痙攣をおこし、軽い呼吸不全に陥っていた為にあのようなおかしな喋り方をしていたのである。

場の空気を崩さぬ様に彼は文字通り命を削って空気を読んでいた。

 

「ハァッ、はァ・・・かッは・・・ァはっあ・・・はぁッ・・・!!」

 

・・・・・だが、其れも時間の問題である。

脳に酸素が行き届かなければ、其の内呼吸困難となって意識を失う。

刻々とタイムリミットが迫る中、白熱するバトルレースは二周目へと突入していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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