序盤である内から既に抜きつ抜かれつ、撃ちつ、避けつつのラストパートを思わせる様な火花飛び交う派手なバトルレースを繰り広げられるキャノンボール・ファスト一年生専用機部門。
其れはアリーナ中の観客を多いに沸かせるのと同時に興奮に包み込み熱狂させる。
・・・さぁさぁッ、そんな白熱するISバトルレースは二周目へと突入した。
二周目の現状態は先頭でラウラとシャルロットが火花を散らし、其の二人の間を何とか抜けようとチャンスを伺う簪が張り付く。
其の先頭集団の背後へバトルロワイアルレースにも関わらず、ツーマンセルでアクセルを吹かす一夏と箒。
其のまた後ろでは、コースラインを大きく外れた事を取り戻さんと鬼気迫る表情で鈴とセシリアが追い掛ける。
「・・・そろそろ仕掛ける」
第二コーナーを過ぎるかと言う所で、三番手に甘んじていた簪が動きを見せる。
自らの専用機『打鉄弐式』の最大兵装であるマルチロックオン・システム『山嵐』を展開させ、前方の二人へ狙いを定めた。
そして「・・・行け」と静かな声と共に八門ある内の二門のポッドからミサイルが勢い良く射出される。
「ッ、そうはいかんぞ! 合わせろ、シャルロット!」
「任せてッ!」
自分達に向かって来るミサイルをラウラはお得意のAICで空中停止させるや否や、シャルロットがアサルトカノンで此れを狙撃。
トップ争いをする競争相手と云えど、瞬時に行われた二人の連携は見事なものである。
「・・・・・かかった」
「「なッ!!?」」
・・・しかし、これが簪の狙いであった。
迎撃された事でチュドーンッ!と爆発するミサイルだったが、なんと其の爆発したミサイルからネトネトしたイカ墨の様な黒い煙が吹き出し、二人を覆ったのである。
「うわぁあッ?!!」
「小癪な真似をッ! さては春樹の入れ知恵だな!!」
「・・・当たり」
粘着性の煙幕に気を取られた二人に簪は間髪入れずに仕掛ける。
突然視界を遮られた事で動揺したシャルロットには連射型荷電粒子砲『春雷』が火を噴き、ラウラには煙幕に紛れて近づくと対装甲用超振動薙刀を勢い良く振り下ろした。
「だが・・・ここは私の距離だ!!」
「そう簡単にやられないよッ!」
「ッ・・・!」
だが、このラウラとシャルロットの両者とてむざむざやられる気はない。
ラウラは自らに振り下ろされた簪の薙刀を両腕手首に搭載されたプラズマ手刀で真剣白刃取りして動きを止めると、彼女の前から挟み撃ちする形で荷電粒子砲攻撃を防ぎ切ったシャルロットが
「負けない・・・!」
此の連携攻撃に負けじと簪は予め備えておいたシールドパッケージ『不動岩山』を展開し、二人の攻撃を何とか防ぎ切った。
「「「・・・ッ・・・!!」」」
電光石火の如く行われた攻撃の後、三人はレースだという事を忘れ、互いに睨みを利かせながら空中で止まる。
「すげぇ・・・ッ!」
「感心している場合か! 私達も突っ込むぞ!!」
観客の大歓声を代弁するかのように呟く一夏に活を入れる箒。
二人はそんな苛烈な火花を散らす先頭集団へ飛び込まんとブースターに再び火を焚きつけようとした・・・・・其の時だった。
「ッ・・・!? 三人とも危ねぇッ、避けろ!!」
『『『!』』』
異変に気付いた一夏が睨み合う三人へ警告を送るが、既に時遅し。
ズギャァアンッ!と突如として上空から飛来した機体がラウラ達目掛けてレーザービームを放つ。
「「「ッ!!?」」」
砂煙を撒き散らしながら放たれたレーザーに三竦みとなっていたラウラとシャルロットに簪は悲鳴を上げる間もなく撃ち貫かれた。
「・・・フッ・・・」
コースアウトして吹き飛ばされゆく三機には目もくれず、余裕たっぷりにコース上へと佇む突然の襲撃者はニヤリと口元を歪める。
「あれは・・・!!」
目の前へ降り立った機体に一夏の脳内にある記憶が蘇る。
其れは自分が酷い目にあった学園祭襲撃事件後、楯無からディスプレイを以てして自らに怪我を負わせた正体を教えられた。
其の時に見た鮮やかなモルフォ蝶のような機体が眼前で不敵な笑みを溢す其れであった。
其の機体の名は『サイレント・ゼフィルス』。春樹が二度も獲り逃した何かと因縁のある人物だ。
「やはり来たか、亡国企業! 来いッ、この私が成敗してやろう!! 行くぞ、一夏ッ!!」
「お、おうッ!」
現れた襲撃者に箒は鼻息荒く意気揚々と自らの専用機『紅椿』の主力武装である『雨月』と『空裂』を構える。
腕にも機体にも憶えのある彼女は自信満々だ。其れに釣られて一夏も『雪片弐型』の刃を向けた。
しかし・・・・・
「・・・・・」
刃を向けられているにも関わらず、サイレントゼフィルスはキョロキョロと誰かを探すように辺りを見回す。
そして、ただ一言・・・「”ヤツ”は何処だッ?」と問いかける。
「ヤツ? ヤツって誰よ?!」
「・・・ッ・・・」
後から一夏と箒に追い付いた鈴はサイレントの疑問符に疑問符で返し、セシリアはギリリッと歯噛みをする。
そんな四人を余所に「いないのならば仕方ない・・・」とサイレントはライフルビットを四方に展開した。
「あんた、実は算数出来ないでしょ? この数相手にやる気ッ?」
馬鹿にした様な表情を浮かべる鈴に「・・・あぁ、心配するな」とサイレントが手を挙げて振り下ろすと―――――
「こ・・・コイツらは!!」
サイレントの合図に天から降り立ったのは随分と見覚えのある計六つの機体。
其の六機は以前とは姿も形も、恐らく仕様も全く異なっていたものの、ある意味トラウマとなっている存在であった。
「さぁ行け、『ゴーレムⅡ』共! ”ヤツ”が出て来ないならば、引き摺り出すのみだ!!」
◆◆◆
「きゃ・・・きゃぁあああああッ!!?」
「た、助けてくれぇええッ!!」
突如として現れたテロリスト集団により、先程までキャノンボール・ファストの歓喜に湧き上がっていた一般観客席からは阿鼻叫喚の悲鳴が巻き起こり、一気にパニック状態へと陥ってしまった。
「えッ・・・何ッ、何なの? いったい何が起こってんの?!」
そんなパニック集団と化した観客と同じようにキャノンボール・ファストを観戦しに来ていた一夏の友人の妹である五反田 蘭もまた、困惑に晒されていた。
《緊急事態発生! 緊急事態発生!! 観客並びに来賓の皆様はスタッフの指示に従い、落ち着いて避難してください! 繰り返します、緊急事態発生―――》
「お兄もどっか行っちゃたし。わ、私も―――って、きゃあ!?」
何が起きているのか解らない困惑と不安の中、なんとか彼女も警告アナウンスに従って避難しようとしたのだが、後ろから走って来た別の観客に押されてしまう。
「おっと・・・大丈夫かしら、お嬢さん?」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
そんな転びそうになった彼女を支えたのは、サングラスに真っ赤なスーツで身を包んだ鮮やかな金髪を持った女性だった。
「全くあの子ったら張り切っちゃって・・・困ったものだわ」
「あ、あの・・・」
「あ、そうそう。向こうは危ないから、あっちの非常階段を使うといいわ」
「え・・・え?」
戸惑う蘭に金髪美女は「ほら、早く行って」と促す。
之に彼女は「あ、ありがとうございます」と言って頭を下げ、言われた方へと走って行った。
「さて・・・」
あとに残された金髪美女は、暴徒と化した避難客を余所にヒールを鳴らして悠然とアリーナが見渡せる位置へと移動する。
「私としては生で”彼”を見てみたかったのだけれど・・・目論見が外れたわね」
「あら、それは残念、なら、あの子共々さっさとお帰り願うわ」
腕を組んで呟く彼女へ答えるのは、閉じた扇子を顎に当てる楯無だ。
金髪美人は楯無に背中を取られた形となるが、彼女は別に気にもしないように「そう言えば・・・」と言葉を続ける。
「貴女の機体・・・名前は『
「・・・耳が早いわね、亡霊さん。いえ・・・『スコール・ミューゼル』と呼んだ方がいいかしら」
楯無の返答に「フフフッ」と肩を震わせてほくそ笑むと、スコールは振り返りながら自身のかけていたサングラスを胸ポケットへと差す。
楯無は笑顔を浮かべる彼女に意識を集中させ、ゆっくりと呼吸を整える。
「・・・一応聞いてもいいかしら? 貴女達の狙いは何?」
「冗談でも云う訳がないじゃない。IS学園の生徒会長とあろう人が、とんでもなくナンセンスな質問を投げかけるのね」
「そう。なら、無理矢理にでも話してもらおうかしらッ!」
そう言って楯無は自らの専用機を瞬間的に展開させ、蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を構えたのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆