IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第94話

 

 

 

「クソッ、一体何が目的なんだよ!」

 

「答える必要は・・・ない!」

 

「ッ!?」

 

忌々しそうに声を上げる一夏に対し、サイレントことMは淡々と主力兵装である『星を砕く者(スターブレイカー)』を展開。そして、一気に瞬時加速で距離を詰め込んで銃剣突撃を慣行した。

 

「「一夏(さん)ッ!」」

 

「貴様ぁッ!!」

 

一夏へ突き立てられる刃に激昂する箒だったが、二人の間に割り込む前に彼女の前へ鋼鉄の乙女が立ち塞がる。

 

「箒!」

 

「他人の心配をしている場合か? フンッ!」

 

「ぐぅうッ・・・このォオ!!」

 

一夏も負けじと雪片で応戦するが、Mはひらりと身を翻してご自慢のBT兵器を彼に差し向ける。ズギャン!とライフルビットから発射されたビームが一夏を襲い、確実に白式のSEを削った。

其れでも一夏は反撃を行おうと雪片を振るうが、絶妙のタイミングでシールドビットがMを防御する。

 

「サイレント・ゼフィルスッ!!」

「セシリア?!」

 

「!?」

 

ゴーレムⅡ達との乱戦の中、立ち塞がるゴーレムⅡの間を抜けてセシリアがMへと突撃する。

まさかその様な無茶な行動を予想していなかったのか、青いビットライフルから放たれた閃光はモルフォ蝶のような機体表面を削った。

 

「・・・貴様ッ」

 

機体に傷を付けられた事に憤ったMはスターブレイカーの銃剣でグサリッ!とセシリアの脇腹を突き刺し、更にライフルビットの乱射攻撃を加える。

 

「きゃぁああッ!!?」

 

「「セシリア!!」」

 

攻撃されたセシリアはアリーナ壁へと吹き飛ばされて激突。パラパラと壁の塵が彼女の頬を伝う。

 

「アンタ、よくもセシリアを!!」

 

激昂した鈴は双天牙月を振り上げる。

しかし、其の前にブレードを構えた改良型ゴーレムが立ち塞がって此れを防いだ。

 

「テメェエエッ!!」

 

「雑魚がさえずるな。貴様らの様な者が何人来ようが―――――」

ドグォオオッン!

 

この優位的状況にMが啖呵を切ろうとした矢先、彼女の周囲を爆炎が覆う。

 

「ど・・・どうだ・・・!」

 

爆炎の来た方向を見れば、其処にはMの先制攻撃で撃ち貫かれた三人が漸う膝をついて此方を見ているではないか。

彼女達はMの攻撃を受ける直前、異変に気付いた簪のシールドパッケージの御蔭でなんとか軽度の損傷で済み、反撃の機会を狙っていたのである。其の為、先程の攻撃はラウラの大型レールカノンによる攻撃であった。

 

「やった・・・のかな?」

 

「シャルロットさん・・・それ、フラグ」

 

簪の指摘に「あ・・・しまった」と慌てて口を手で覆ったシャルロットだが、もう遅い。

シュゥウウ・・・と白煙が晴れた後に現れたのは、ギョロリと無機質な赤い眼で三人を睨み付ける三体のゴーレムⅡが佇んでいるではないか。

 

「・・・・・貴様らぁッ・・・!」

 

「ほらぁッ、やっぱり・・・!」

 

「ごめんよー!」

 

見るからに怒気を含んだMの声に対し、シャルロットは申し訳なさそうな声で喉を震わせた。

 

「遠慮はいらんッ。かかれ、ゴーレムども!!」

 

『『『《!!》』』』

 

Mに命令されたゴーレムⅡは其の本領を発揮せんと甲高い機械音を上げ、一斉に襲い掛かっていった。

 

「皆ッ!」

 

「貴様の相手は私だと言っているだろうが!!」

 

「ぐふぇッ!!?」

 

ゴーレムⅡの攻撃に気を取られた一夏は、セシリアがMにされた様な刺突攻撃を受けた後にライフルビットによる攻撃で針の筵となる。

 

「一夏ァ!!」

 

「ぐぅ・・・ッ! 箒、俺の事はいい! 鈴、セシリアを―――――」

 

「おしゃべりが過ぎるぞ、織斑 一夏ぁッ!!」

 

ズギャァンッ!ザクゥッ!!と情け容赦のないMの攻撃が一夏の身体を痛め付けた。

しかし、其の攻撃のどれもが致命傷とはなっていない。ただ徐々に、されど確実にSEと体力だけを削っていく。

・・・此れはMの意図的なモノであった。

 

「何故・・・何故、貴様の様な弱者が・・・”あの人の隣”なんだッ?」

 

「な、なにを言って・・・ッ?」

 

「何故ッ、貴様なんぞがぁアア!!」

「がァア!!?」

 

感情を剥き出しにした様な攻撃がバキリッ!と白式の装甲板ごと一夏の身体を抉る。

だが、彼とて一方的にやられている訳ではない。

 

「う、うぉおおおおおーッ!!」

 

「ッ!?」

 

攻撃の合間を縫って白式の単一能力『零落白夜』を纏った雪片とエネルギー爪がMへと振り下ろされる。

一夏の振るった刃は確実に彼女への直撃ルートを辿る。・・・辿るのだが・・・

 

「無駄だ!」

 

「な!!?」

 

流石の一撃必殺技も当たらなければどうという事はない。

振るわれた刃と爪はMのシールドビットに阻まれ、彼女の元まで届くことはなかった。

 

「く、くそぉおおおおお!!」

 

「黙れ!」

「がはぁッ!!」

 

慟哭のままに刃を振るう一夏。しかして其の攻撃は空を切るばかりで、其の合間を縫って再びMの射撃と斬撃が彼を襲う。

 

「一夏ァ!!」

 

「くッ・・・其処をどけぇッ!!」

 

否応なしに弄られる一夏を助けようと突出する箒と鈴。だが、其の前へ無慈悲に立ち塞がるは鉄の乙女達。

そんな彼女達を無理に突破しようとするのだが―――

 

「ッぐぅう!!?」

 

受け零したゴーレムⅡの攻撃が鈴の腹部へと直撃。

其の衝撃たるやあまりに凄まじきモノがあり、まるでIS操縦者を守る絶対防御システムが無効化されているようであった。

 

「鈴?! 貴様ァア!!」

 

隣で膝をついた鈴に対し、怒りの感情をこめて刀を振るう箒だったが、其れをゴーレムⅡは難なく払い除ける。

・・・けれど不思議な事で、箒の対するゴーレムⅡは皆の前へ立つモノと違って彼女に対する大きな反撃を行ってはいなかった。精々、”防ぎ易い”攻撃を行うだけである。

 

「・・・そろそろ終わりにしてやる」

 

「はぁッ・・・はァ・・・ハァ・・・ッ!」

 

そうこうしている内、膝をついて四つん這いで息を切らす一夏の頭蓋にスターブレイカーを突き付けるM。

 

息も絶え絶えに呼吸する一夏はこの時に何を思ったであろうか。

一番初めに思った事は「悔しい」という事だろう。あれだけ楯無や箒達と修行したにもかかわらず、目の前にいるテロリストに歯牙にもかけられていない事が悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

「お・・・俺が・・・ッ・・・」

 

「?」

 

「俺が・・・みんなを・・・・・俺が、皆を守るんだ・・・ッ!」

 

だが、彼の信念は未だ折れてはいなかった。

「それでも、それでも!」と一夏は雪片を握って立ち上がろうとする。

 

「ッ・・・ククク・・・フハハハハハ!」

 

「!」

 

其れを聞いてMは被ったバイザー越しでも解る程の笑い声を響かせた。

 

「守る? 貴様、今守ると言ったか?」

 

「な・・・なにがおかしんだよ・・・?!」

 

「貴様の様な弱者が何を守ると言うんだ、誰を守ると云うんだッ? 貴様の様な弱者には何も守れない!! 弱者は黙って強者に道を譲れッ!!」

 

「ぁ・・・ッ・・・」

 

半ば起き上がっていた頭をMに踏みつけられ、一夏は声にもならない溜息を洩らす。

 

「(ダメ、なのか・・・? 俺じゃあ、ダメ・・・なのか? 千冬姉の剣を受け継いで・・・白式を持っても・・・・・俺はダメなのか? 皆を守れないのかよ、俺じゃあ・・・?)」

 

頬を伝う涙は砂にまみれ、ジャリジャリと口の中が軋む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・其の時だった。

 

――――――――――・・・阿破破破」

 

「ッ!?」

 

彼の耳に聞こえて来たのは、あの耳障りな笑い声。

人を人とも思わぬ、血も涙もない卑怯卑劣の愚劣な輩の声。

 

「・・・・・せ・・・」

 

「?」

 

「・・・よせ・・・きよせ・・・清瀬ぇええ・・・!!」

 

ギョロリと閉じられていた一夏の目が見開かれる。

この大会を棄権したヤツが、あの男が、何処かで自分を見ている。何処かで自分を嘲笑っている。

彼の頭の中にはあの笑い声が、あの声が何度も何度もフラッシュバックした。

 

「ッ!」

 

「まずい」とMは何故だかそう感じた。ここで手を打っておかないと後々不味いと無意識に感じた。

其れならば早い方がいいと一夏に突き付けたスターブレイカーの引き金をゆっくり着実に引こうと”した”。

 

・・・何故に”した”と云う過去形なのか。

勿論、其れは邪魔が入ったからである。

 

ドゴォオオオオオオ―――ッオオン!!!

『『『!!!??』』』

 

突如として上がったとてつもない爆発音に皆の目が注がれる。

 

    「きゃぁあああ!!?」

 「何だ、何が起こった?!」

             「爆発ッ、爆発だ!!」

「やだ、やだッ! 怖いよー!!」

「今度は一体何だってんだッ!?」

「なんでこんな目に合わなくちゃならないんだよ?!!」

「うわぁあああああんッ!!」

 

この地響きする大爆発に何とか静まりかけていた群衆の悲鳴が再び大津波となってアリーナ中を駆け巡る。

恐怖、困惑、不安と言ったマイナスの感情が波一杯に溢れて木霊する。

 

「ずび、ぐす・・・ねぇ、まま。あれって、なぁに?」

 

「え・・・ッ?」

 

しかしそんな中・・・先程まで怖くて怖くて堪らずに泣きじゃくっていた幼子が、自分を抱いている母親に疑問符を投げかけた。

此の疑問符にパニックでヒステリックになっていた母親も我が子が指さす方を見て少しばかり我を取り戻す。

 

「な・・・なに、アレ?」

 

二人の目線の先にあったレース中継を映す超大型ディスプレイには、白煙の中に輝く金色の四つの光がボンヤリと浮かんでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

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