”其れ”は大地を揺らす程の爆発と共に現れた。
「・・・・・・・・」
”其れ”は、金色に煌めく四つの眼を持っていた。
”其れ”は、鯨の尾鰭の形をしたクリスタルを胸に赤々と艶めかせていた。
”其れ”は、体表を雪の様な銀の鱗で指の先から垂れ下がった尻尾までも覆っていた。
そして”其れ”は、今日の空の様に蒼い六枚羽の翼を背中へ大きく広げていた。
「かっ・・・かっこいい・・・!!」
空中へ佇む”其れ”の姿に対し、今日の昼に開催されるヒーローショーを諦め、姉の活躍を見に来ていた幼子は精一杯の感嘆を述べる。
「おお・・・ッ!」
「ありがたや、ありがたやぁ・・・!!」
皆の注目を一身に浴びる”其れ”へ対し、孫娘の活躍を見る為に態々北九州から出て来た老夫婦は思わず手を合わせて拝んでしまう。
「な・・・なに、アレ・・・ッ?」
「まさかッ・・・新手か?!」
一方、突如として現れた正体不明の”其れ”に対し、鈴を始めとした者達は一気に警戒心を高める。
・・・無論、其れは管制塔にいる教師達も同じであった。
◆
「一体何ですか、あの機体は?!」
「機体解析急いでください!!」
「それよりも、教師部隊投入の為に入場ゲートを一刻も早くッ!!」
”其れ”の登場により、管制室は余計に大混乱の坩堝へと陥った。
唯でさえテロリストの一個小隊の襲撃を受けているのだから、尚余計である。
「皆ッ、何を慌てている?! 持ち場を維持しろ!!」
『『『ッ!』』』
この阿鼻叫喚の中で唯一人、学年主任である千冬が声を上げた。
其の声に今までパニック状態となっていた教員達が我に返る。
・・・しかし。
「くッ・・・!」
一方の彼女自身も焦っていたのである。
自分の目の前でテロリストが好き勝手暴れまわり、自身の生徒は勿論の事、弟である一夏が蹂躙されている。
此れをただ黙って指を咥えて見ている事しか出来なかった千冬は激しく苛立つ。
そんな中で現れた正体不明のISに再び彼女はギリリと歯を軋ませた。
「ッ、そんな・・・この機体は・・・!? お、織斑”先輩”!!」
そんな中、千冬に山田教諭が何時も通りの慌てた様子で声をかけた。
唯、今回は余りに慌て過ぎて敬称が変わるぐらいであったが。
「先生を付けろ、山田先生!! 一体どうした?!」
「すみません!! で、でも・・・でも、あの機体は―――――!!」
「!?」
山田教諭の口から放たれた正体不明機の識別番号に千冬は驚嘆の声を飲んだのであった。
◆
《――――ッ!!》
「あッ・・・!?」
白煙が晴れ、遂に全貌を現せた”其れ”に気を失っているセシリアへ接近していた一体のゴーレムⅡが急速反転し、甲高い機械音と共にブレードを構えて突撃攻撃を敢行する。
其のゴーレムⅡの姿に専用機持ち達は、”其れ”がテロリストの仲間ではないのかと疑問を浮かべた。
・・・だが、この刹那の後、皆の疑問符は驚きへと変貌する。
「・・・・・」
バギィイイッ!!
《ッッ!!?》
『『『な・・・!!?』』』
ドグォオオオ―――オオッン!!
なんと”其れ”は、自らに近づいて来たゴーレムⅡを服に付いた塵埃でも掃うかの如く伽藍堂となった観客席へと叩き落としたのである。
此れに専用機持ち達は勿論の事、管制室にいる教員達も息を飲まずにはいられなかった。
「ッ・・・あ、あれ・・・!」
その時、簪が信じられないような物を見るような目で”其れ”を・・・正確には”其れ”が持っている物を指差す。
「あ・・・あれは!!?」
「そんなッ、ありえない・・・一体どうやって?!!」
其の手に握られていたのは、ISの心臓とも呼べるISコアであった。
なんと”其れ”はゴーレムⅡの絶対防御装置を潜り抜け、内部の心臓を一瞬で抉り取ったのである。
◆
「うわあああッ・・・すごい・・・すごい、すごいすごいッ!!」
「なんて・・・事でしょう・・・!!」
他のゴーレムⅡのメインカメラを通し、今回の黒幕の一人は大はしゃぎで目をらんらんと輝かせる。
其の隣では、彼女と同じ様に少女が感嘆を吐露した。
◆
「・・・・・」
コアを抉られ、プスプス煙を立ち上らせているゴーレムⅡを尻目に”其れ”はギョロリ・・・と金眼四ツ目の視線を会場内へ突き刺す。
其の鋭くも凍える様な視線にシャルロットは思わず「ッひ・・・!」と小さく悲鳴を上げ、すぐ隣にいる簪とラウラの手を握った。
「ッ・・・?」
けれど彼女はある違和感を覚えた。
「は・・・はは・・・はははッ・・・!」
「フフフッ・・・流石だな。それでこそ私の”夫”だ!」
何故ならば、右手で握った簪は小刻みに震えながら笑みを溢し、ラウラに至っては何処か得意げな表情で口角を緩ませているではないか。
「・・・え!? ちょっとラウラ、夫ってどういう意味かな?!!」
「ん? 何を言っているのだ、シャルロット? だってアレは―――――」
シャルロットのツッコミにラウラが返答をしようとしたのだが、其の前にアリーナ中へある人物の声が轟き響き渡った。
「ギィイデェエオォオオオオオッン!!」
戦場へ響き渡るサイレント・ゼフィルスを駆るMの絶叫。
無意識の内に口角を歪ませながら自分の前へ跪いた一夏の事など目もくれず、スターブレーカーとライフルビットの銃口を”其れ”に・・・・・いや、
「・・・阿”ぁあ”ア”ア”ァあああぁあ”ア”アぁあアアッッ!!!」
『『『―――――ッ!!!??』』』
そんな敵意剥き出しの彼女の声へ反応するかのように春樹は手元のコアをグシャリ!と握り潰しながら咆える。
其の咆哮は何とも恐ろし気なモノであり、幾らかの人間が鼓膜をやられて意識を渾沌させられた。
『『『《―――――ッ!!》』』』
「なッ!?」
「えッ、ちょっと?!」
春樹の存在に動いたのはMだけではない。
ラウラ達や箒達を相手取っていたゴーレムⅡ達が目標優先順位を変更し、先程撃墜された仲間の仇を取らんと得物を構える。
そして、ライフルやらマシンガンやらチェーンガンやらの引き金を機械的に絞ってズダダダッ!!と銃弾のシャワーを下から上へと掃射した。
「・・・・・」
だが、精確に機体の損傷部を狙って迫るゴーレムⅡ達の弾雨の前にしながら春樹は回避行動を取らない。
そんな彼の姿に「あッ、危ない!!」と避難客の一人が声を上げるも、もう遅い。
バババババババッ!!と云う猛烈な着弾音と白煙が春樹をすっぽりと覆ってしまう。
「き・・・清瀬ェ!!」
目の前で起こった出来事に鈴は思わず叫ぶ。
彼女は知っていた。あのゴーレムⅡ達は何らかの能力を使って、ISに備わっている操縦者を守る為の絶対防御を無効化しているのだと。
そんな攻撃を受けてしまえば、例えあの春樹でさえも只では済まないと顔を青くする。
「・・・・・終わったか?」
『『『《!!?》』』』
『『『なッ!!?』』』
しかし、バサリと青いエネルギー翼で白煙を払いのけて現れた春樹はピンピンしていた。それどころか、装甲に傷一つない無傷であったのだ。
其の姿へ驚嘆する皆を余所に彼は「なら・・・今度ぁ此方の番じゃな」と青い六枚羽を光らせ―――――
「くたばりんさい」
シュバババババッ!
―――短い言葉と共に狙い澄ませた刃状態の粒子をゴーレムⅡ達目掛けて発射した。
『『『《!!?》』』』
此れにすぐさま反応し、回避行動へ移行するゴーレムⅡ。
されど、其の内の三体のゴーレムⅡが導き出した回避率は残念ながら零%であった。
《―――・・・ッ―――》
《―――――・・・ッ・・・》
《・・・―――ッ―――――・・・ッ》
切先鋭いエネルギー刃は分厚い装甲をまるで障子紙の様に貫き、腕や足、内部の電気回路をグチャグチャに抉った。
オイルを垂れ流しながら倒れ伏した鋼鉄の乙女達は、息も絶え絶えに電子音を鳴らしながら周りへ助けを求めるように残った腕を伸ばす。・・・・・が。
「もう・・・眠れ」
シュパァアンッと投擲したMVS鉈でゴーレムⅡの頭部を三体纏めて跳ね飛ばした。
其の様はまるで大根の葉を包丁で切るように爽快であり、斬首されたゴーレムⅡ達は力なく地面へと突っ伏す。
「・・・フン・・・」
そんな切り飛ばされたゴーレムⅡの頭部パーツをサッカーボールの様に踏みつけるM。
彼女はそのまま其のパーツをグシャリと踏み砕く。
「ガルルルルルッ・・・!!」
其れと同時に春樹はゆっくりアリーナ場内へと降下し、基本兵装である両腕のレーザーブレードを全展開したのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆